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審決分類 審判    K9
管理番号 1224818 
審判番号 無効2009-880013
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-09-15 
確定日 2010-10-04 
意匠に係る物品 プーリー 
事件の表示 上記当事者間の登録第1292128号「プーリー」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1292128号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由として、概略以下の主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証(枝番を含む)の書証を提出したものである。
(1)登録無効の理由の要点
登録第1292128号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、その出願前に公然知られた意匠である甲第1号証の1ないし3に記載された意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件登録意匠は、同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
甲第1号証の1は、本件登録意匠の出願前、2001年1月5日に日本イスエード株式会社が作成した図面、甲第1号証の2は、2001年3月20日に日本イスエード株式会社が作成した図面、甲第1号証の3は、甲第1号証の1、甲第1号証の2の図面で作成されたプーリーの写真、甲第2号証は、甲第1号証の2の図面で作成されたプーリーを2003年に取引先である日産自動車株式会社本牧工場に納入した納入受付リスト(コピー)であり、甲第1号証の1、甲第1号証の2の図面で作成されたプーリーが本件登録意匠の出願前に公然知られたものであることを、これら各号証により立証する。
甲第1号証の1と甲第1号証の2に表された図面のプーリーは、図面番号「1925-7S000」により同一のプーリーであることが認識できる。また、甲第2号証に記載されている納品商品は、商品番号「11925-7S000」の記載から、甲第1号証の1、甲第1号証の2に表された図面のプーリーであることが認識できる。
(3)本件登録意匠と先行意匠の比較
(A)両意匠の共通点
両意匠は、意匠に係る物品がいずれも「プーリー」であり、一致している。その形状については、以下の点が共通している。
a短円筒状の本体の外周に7条のポリV溝が形成されている。b本体の両開口端に、ポリV溝を形成するV山よりも高い耳部が形成されている。この耳部は、すっきりと鋭角的で肉薄となっている。c耳部の内側面には、いずれもV山と同じ高さの環状段部が形成されている。d一方の耳部の内周から中央のベアリング部の凹みへ繋がる繋ぎ部分は、耳部の内周から軸方向に延びて大きな曲面のベアリング部の凹側縁部に繋がる面を形成している。e耳部と繋ぎ部分は鈍角に繋がれている。
(B)両意匠の差異点
両意匠には、以下の差異点が認められる。f本件登録意匠は、繋ぎ部分は、耳部の内周から僅かに外側に膨出して軸方向に延びているのに対して、先行意匠では、繋ぎ部分は、耳部の内周から垂直に軸方向に延びている。g本件登録意匠では、耳部と繋ぎ部分の繋ぎ部位に輪郭線が表れていないのに対して、先行意匠では、耳部と繋ぎ部分の繋ぎ部位に輪郭線が表れている。
(C)両意匠の類否
両意匠の共通するa?eの構成態様は、両意匠の形態の基調を形成するものであり、両意匠は共通するa?eの構成態様の範囲で共通の美感を生ずる。一方、差異点f及びgの構成態様は、いずれも両意匠の形態の構成態様全体からみれば、僅かな部分に過ぎず、しかもその差異は看者をして容易に認識できるものでないことから、両意匠の差異点が類否判断に与える影響は微弱であり、差異点を総合しても両意匠の共通する構成態様から生ずる共通の美感を凌駕するものではない。
よって、本件登録意匠は、甲第1号証の1ないし3に記載された意匠に類似し、甲第1号証の1ないし3に記載された意匠が出願前に公然知られた意匠であることは、甲第2号証から明らかで、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により、意匠登録を受けることができないものである。
(4)弁駁の内容
甲第1号証の1、2及び甲第2号証の部品番号について、「11925-7S000」は、ベアリングが装着されたプーリー、「11927-7S000」は、ベアリングが装着されていないプーリーを示し、プーリー自体は同じものである。また、「CR」「D7」「D8」は、試作品を示す符号である。また、「V0」は、「11925-7S000」のプーリーの量産品の仕向地(北米)を示す符号である。
甲第1号証の3は、甲第1号証の1、2に記載された意匠の理解を容易にするものとして提出したものである。
甲第1号証の1、2に記載された日付について、甲第1号証の1の図面は、日本イスエード株式会社が日産自動車株式会社へ提出した図面であり、「01’01.05」は、日本イスエード株式会社が甲第1号証の図面を作成した日付、「02’01.07」は試作番号から量産番号へ変更した日付、手書きの「Jan.22’.01」は、図面の英文を作成した日付、手書きの「02’01.18」は、日産自動車株式会社が図面を出図した日付、「2002.01.23」は、日産自動車株式会社が図面をスキャナーで読み取りデータ化し、このデータ化した図面をプリントアウトした日付である。甲第1号証の2の図面は、製造用の図面であり、「01年3月20日」は、日本イスエード株式会社が図面を作成した日付、「02’01.07」は試作番号から量産番号へ変更した日付、「2002.06.19」は図面改訂・修正した日付、「02’09.25」は、図面改訂・修正(内径寸法見直し)した日付である。
甲第2号証の、2003年6月30日、同年7月1日、同年8月2日付けの記載から、甲第1号証の1、2の図面で作成されたプーリー(11925-7S000V0)が、実車取り付け用の量産品として日産自動車株式会社に納入され、しかも、2003年10月から北米で発売された「アルマーダ」の名前を冠した自動車のエンジンに取り付けられていることが明らかである(甲第4号証)。
甲第3号証は、日産自動車株式会社から日本イスエード株式会社に出された「市場回収品調査依頼書」である。「市場回収品調査依頼書」は、プーリー(11925-7S000V0)が取り付けられている市場に出ている自動車のディーラー等で車両の定期点検時に、部品交換として回収したプーリーについて、異常の有無を部品メーカーである日本イスエード株式会社に調査依頼する依頼書である。
甲第4号証は、インターネットのフリー百科事典「ウィキペディア」に出典されている「日産・アルマーダ」の掲載内容で、2003年北米でアルマーダを発売したこと、アルマーダの車両型式が「TA60」であること、エンジン型式が「VK56DE」であることが掲載されている。
よって、甲第1号証の1、2の図面で作成されたプーリーが本件登録意匠の出願前から「公然知られた意匠」となっていることは自明である。

第2 被請求人の答弁及び理由
(1)答弁の趣旨
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、との審決を求める。」と答弁し、概略以下のように主張をしたものである。
(2)答弁の理由
(a)甲第1号証の1?3について
1)甲第1号証の1の右端には、「SPECIAL INFORMATION Don’t disclose to the third party without consulting with NISSAN」と記載されている。当該図面は、日産自動車株式会社に相談することなく第三者に開示することはできないとされていたもので、日産自動車株式会社により秘密情報として管理されていたものであり、不特定の第三者において知り得る状態にあったものではない。かかる図面の内容に関して日産自動車株式会社は不特定の第三者には該当しない。甲第1号証の2には、秘密情報である旨の明示の記載はないものの、甲第1号証の2も同様な取り扱いを受けていたと考えるのが自然である。甲第1号証の3に至っては、実際に本件登録意匠の出願前に日産自動車株式会社に開示されたのかだけでなく、いつ製造されたのかさえ不明である。
2)甲第1号証の1の図面番号は「11925-7S000」と記載されているものの、甲第1号証の2の図面番号は「11927-7S000」であり、甲第2号証の部品番号は「11925-7S000CR」「11925-7S000D7」「11925-7S000D8」「11925-7S000V0」であり、互いに番号が相違している。
そもそも、甲第2号証の納入受付リストによっては、納入されたものがプーリーであるのか、また、誰が納入したのかさえ、明らかではない。
さらに、仮に甲第2号証の納入受付リストによって納入されたものがプーリーであるとしても、日産自動車株式会社は不特定人ではないから、日産自動車株式会社に納入しただけでは、「公然知られた」ことにはならない。
3)甲第1号証の1には、請求人が指摘する日付(01’01.05)以外に、「02’01.07」、「’02.1.18」、「Jan.22.’01」、「2002.01.23」が、甲第1号証の2にも請求人が指摘する日付(01年3月20日)以外に、「02’01.07」、「02’.6.20」、「02’.9.25」という日付が記載されており、請求人が指摘する以降の日付の記載は極めて不自然である。
甲第1号証の2に表されたプーリーには、ベアリングが入っておらず、日産自動車株式会社が甲第1号証の2に表されたプーリーを購入したとは考えられない。
甲第2号証に押印されている受付印が本当に日産自動車株式会社のものなのか、本当にその日に押印されたものなのか、全く不明である。
4)むすび
以上のとおり、甲第1号証の1?3に記載の意匠は、いずれも「公然知られた意匠」ではない。
また、請求人の主張及び証拠には不明な点が多々あり、信用性に欠ける。
よって、類否判断を俟つまでもなく、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当しない。
(3)弁駁後の答弁の内容
(本案前の答弁)
1)新たな根拠事実の追加
甲第3号証・甲第4号証及び日産自動車株式会社が北米で2003年10月からアルマーダという自動車を販売したことに関連する請求人の主張は、新たな無効理由を追加するものであり、審判請求書の要旨を変更するものであるから、意匠法第52条で準用する特許法第131条の2第1項に違反するというべきであり、特許法第133条第3項の規定により却下されるべきである。
(本案の答弁)
2)甲第3号証について
甲第3号証は、手書きの部分や印鑑の日付が不鮮明であり、手書きをした人物が誰なのか、いつ、何の目的でこの文書を作成したのか、全く明らかではない。また、甲第3号証には、生産日の欄があるとしても販売日は記載されていない。
3)甲第4号証について
甲第4号証には、「アルマーダ」のエンジンにどのようなプーリーが装着されていたのかについては、何ら記載されていないものである。
4)弁駁書における請求人の主張に対し
たとえ甲第1号証の1の図面が請求人によって作成されたものであったとしても、単にそれを日産自動車株式会社に開示したというだけでは「公然知られた意匠」ということはできないものである。
甲第1号証の2についても同様である。
日産自動車株式会社への納入という事実だけで「公然知られた意匠」に該当するといえるかという点については、仮に甲第2号証の納入受付リストによって納入されたものがプーリーであるとしても、日産自動車株式会社は不特定人ではないから、日産自動車株式会社に納入しただけでは「公然知られた」ことにはならないというべきである。

第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1292128号)は、物品の部分について意匠登録を受けたものであり、平成17年5月2日に意匠登録出願され、平成18年12月22日に意匠権の設定の登録がなされたものであり、意匠に係る物品を「プ-リー」とし、その形態は、願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのもので、意匠登録を受けようとする部分が実線で示されたものである(別紙第1参照)。

2.引用意匠
請求人は、本件登録意匠が出願前に公然知られた意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである旨主張し、甲第1号証の1ないし3、及び甲第2号証を提出した。
甲第1号証の1は、日本イスエード株式会社が作成したプーリーの図面であり、左上にプーリーの図面が示され(別紙第2参照)、右下の標記欄に、図面番号として「11925 7S000」と記載され、左上に「01’01.05」「02’1.07」及び手書きの「Jan.22.’01」、「02.1.18」の日付が認められ、欄外右下に、「2002.01.23 11:19:45」との日付が認められるものである。
甲第1号証の2は、日本イスエード株式会社が作成したプーリー本体の図面であり、標記欄に図番として「11927 7S000」とあり、「製図」として「01年03月20日」とあり、他に「02’01.07」、「02’.6.20」、「02’.9.25」という日付が記入されている。そして甲第1号証の2に示されているプーリーは、甲第1号証の1に示されているプーリーと、ベアリングを欠く点を除いて形状が一致するものである(別紙第3参照)。
そして、甲第2号証は、日産自動車株式会社本牧工場の受付印のある7葉の納入受付リスト(写し)であり、1葉目には「納入指示日2003年05月22日、発行日2003年05月21日、部品番号11925-7S000CR、納入数35」とあり、2葉目には、「納入指示日2003年05月28日、発行日2003年05月27日、部品番号11925-7S000D7、納入数15」、3葉目には、「納入指示日2003年05月29日、発行日2003年05月28日、部品番号11925-7S000D8、納入数130」4葉目には、「納入指示日2003年06月30日、発行日2003年06月27日、部品番号11925-7S000V0、納入数312」5葉目には、「納入指示日2003年07月01日、発行日2003年06月30日、部品番号11925-7S000V0、納入数48」6葉目には、「納入指示日2003年07月02日、発行日2003年07月01日、部品番号11925-7S000V0、納入数576」7葉目には、「納入指示日2003年08月02日、発行日2003年08月01日、NO.1 部品番号11925-7S000V0、納入数576、NO.2 部品番号11925-7S000V0、納入数120」とあるものである。
そして上記の甲第1号証の1及び2と甲第2号証の各葉を照らし合わせると、甲第2号証の各葉に示された部品番号を「11925-7S000CR」、「11925-7S000D7」、「11925-7S000D8」、「11925-7S000V0」とする納入製品は、いずれもその「11925-7S000」の記載から、甲第1号証の1の図面番号を「11925-7S000」とする図面、及びこれと実質的に同一のプーリーに関する、甲第1号証の2の図面番号を「11927-7S000」とする図面に基づき造られたプーリーであると優に認めることができるものであり、本件登録意匠の出願前である2003年5月から同年8月にかけて、甲第1号証の1、及び甲第1号証の2の図面に基づき造られた1800個近くのプーリーが、日産自動車株式会社本牧工場へ製品として納品され、取引されていたことを認めることができ、また、これらは当然に自動車のパーツとしてほぼ同時期に自動車に組み込まれて使用されていたと認められ、また、このプーリーが組み込まれた自動車が、ほぼ同時に多数販売されたと容易に推認できる。してみると、少なくとも本件登録意匠の出願時である平成17年(2005年)5月2日には、甲第1号証の1及び2の図面に示された形状のプーリーが、日本国内又は外国において公然知られるに至っていたことを認めることができるものである。
したがって、以下甲第1号証の1及び2の図面に示されたプーリーの本件登録意匠の対応する部分を「引用意匠」として、以下、比較検討する。

3.本件登録意匠と引用意匠の比較検討
両意匠は、意匠に係る物品がともに「プーリー」であることから、物品が共通し、その部分の形態には、主として以下の共通点と差異点が認められる。
すなわち、両意匠は、プーリーの外周面、及びベアリングが嵌入された正面側の態様に係るものであって、(ア)略短円筒形状の本体部の外周に7条のV形溝を形成し、これと相似形の6つのV形山部を設け、本体部の前後の開口端部に山部より高さのある鋭角的で肉薄の耳部を形成し、正面側において、耳部の内周と本体部正面中央に形成されたベアリング部の凹みの側縁部を繋げた点、(イ)繋ぎ部分は、耳部の内周を軸方向に延ばし、ベアリング部の凹側縁部に繋がる面を大きな凸曲面に形成している点、(ウ)耳部と繋ぎ部分は鈍角に繋がれている点、(エ)耳部の裏側に山部と同じ高さの小さい段部を形成している点、(オ)ベアリング部の凹側縁部は、三重の円環状をなしている点、が共通している。
一方、(あ)繋ぎ部分について、本件登録意匠は、耳部の内周から僅かに外側に膨出して軸方向に延びているのに対して、引用意匠は、膨出せずに軸方向に延びている点、(い)耳部の内周の鈍角について、本件登録意匠は、図面(正面図)上に輪郭線として示されていないのに対して、引用意匠は、輪郭線が示されている点、(う)円環状のベアリング部の周縁部について、引用意匠には、小さいかしめ部が等間隔に8個あり(甲第1号証の1)、ベアリング部の凹側縁部の上寄りに環状の溝部が形成されているのに対して、本件登録意匠には、このようなかしめ部及び溝部がない点、に差異が認められる。
そこで前記の共通点と差異点について、本件登録意匠が引用意匠に類似するか否かの判断に及ぼす影響について、以下に検討する。
前記共通点(ア)及び(イ)は、両意匠の形態全体の骨格を成すものであり、また、共通点(ウ)及び(エ)のとおり、両意匠は、プーリーの耳部や繋ぎ部の具体的態様が共通し、これらの共通点に係る態様が相乗して生じる視覚的な効果は、看者の注意を強く惹くものであるから、看者に共通の美感を起こさせるので、両意匠の類否を左右するものというべきである。
これに対し、差異は微弱であって、両意匠の共通する美感を変更するまでのものではない。
すなわち、(あ)繋ぎ部分について、本件登録意匠の膨出の態様はごくわずかなもので目立たず、耳部の高さより低い位置に留まっているので、引用意匠とさしたる違いはなく、しかも耳部の内周端部から僅かに外側に膨出して軸方向に延びている本件登録意匠と同様のものが、本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば、意匠登録第1195324号の意匠、意匠登録第833618号の意匠、等)、格別新規な態様ともいえず、その差異が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。次に、(い)耳部内周の輪郭線の有無について、本件登録意匠に係る「A-A線断面図」を照らし合わせれば、その差異は図面作成上の微差といった程度のもので、両意匠の類否判断に影響を及ぼすほどのものとはいえない。また、(う)かしめ部の有無及び溝部について、いずれもさほど目立たないうえに、かしめ部や溝部のない本件登録意匠のような態様のものは従来より普通に認められ、いずれも両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
以上のとおり、本件登録意匠の実線部分と引用意匠の本件相当部分は、意匠に係る物品が共通し、その形態においても、共通点が差異点を凌駕し、部分意匠として両意匠は類似するものである。

4.被請求人の主張について
(a)甲第1号証の1及び2について
1)被請求人は、引用意匠1である甲第1号証の1の右端には、「SPECIAL INFORMATION Don’t disclose to the third party without consulting with NISSAN」と記載されていて、当該図面は、日産自動車株式会社に相談することなく第三者に開示することはできないとされていたもので、日産自動車株式会社により秘密情報として管理されていたものであり、不特定の第三者において知り得る状態にあったものではないと主張している。しかしながら、仮に甲第1号証の1の図面が第三者に知り得る状態になかったとしても、甲第2号証の納入受付リストと照らし合わせれば、「11925-7S000CR」、「11925-7S000D7」、「11925-7S000D8」、「11925-7S000V0」との部品が多数、日産自動車株式会社本牧工場に納入されたことが明らかで、甲第1号証の1の図面に表された「11925-7S000」のプーリーが実際に製造され、製品として第三者である日産自動車株式会社に納入され、公然知られるに至っていたことが明らかである。
2)被請求人は、甲第1号証の1は「01’01.05」、「02’01.07」、「’02.1.18」、「Jan.22.’01」、「2002.01.23」が、甲第1号証の2は「2001年3月20日」、「02’01.07」、「02’.6.20」、「02’.9.25」という日付が記載されており、極めて不自然である旨主張するが、いずれも、甲第2号証の各葉に示された製品の納入日に対し相当前の日付であり、不合理はなく、また複数の日付が認められる点にも不自然な点はない。
3)次に、被請求人は甲第1号証の2に表されたプーリーには、ベアリングが入っておらず、かかるプーリーを日産自動車株式会社が購入しても、そのままでは使用することができない、と主張するが、製造用の図面としてベアリングのない状態が描かれているものであるという請求人の主張に特段不合理な点は見当たらない。
(b)甲第2号証について
1)被請求人は、甲第1号証の2の図面番号に「11925-7S000」と記載されているのに、甲第2号証の部品番号は「11925-7S000CR」、「11925-7S000D7」、「11925-7S000D8」、「11925-7S000V0」であり、互いに番号が相違しているため、甲第1号証の2に示されたプーリーと同一のプーリーが実際に日産自動車株式会社に納入されたのか不明であり、甲第2号証の納入受付リストによっては、納入されたものがプーリーであるのか、明らかではないと主張する。しかしながら、この種の部品番号において、末尾に識別のための何らかの文字、記号等が付加されることはごく一般的であり、甲第2号証の各葉の部品番号の末尾の文字にも、不自然な点はない。
そして、末尾を除けば、部品番号は同一であり、同一業者において部品番号が同じである以上、同一部品であるのが通常であり、これを覆すような特段の事情は認められない。

5.むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内において公然知られた引用意匠と類似し、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものであり、その登録を無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2010-08-06 
結審通知日 2010-08-10 
審決日 2010-08-24 
出願番号 意願2005-12992(D2005-12992) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (K9)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早川 治子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 樋田 敏恵
市村 節子
登録日 2006-12-22 
登録番号 意匠登録第1292128号(D1292128) 
代理人 木村 俊之 
代理人 大塚 明博 
代理人 鈴江 正二 

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