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審決分類 |
審判 D4 |
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管理番号 | 1233214 |
審判番号 | 無効2009-880015 |
総通号数 | 136 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2011-04-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-10-26 |
確定日 | 2011-02-14 |
意匠に係る物品 | 湯たんぽ |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1366320号「湯たんぽ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第1366320号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 請求人の申立及び理由 請求人は、結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由として、概略以下の主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証(枝番を含む)の書証を提出したものである。 (1)登録無効の理由の要点 登録第1366320号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、意匠登録が創作者でない者であって、その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対し、登録されたものであるから、意匠法第48条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、無効とすべきものである。 請求人は、平成20年11月19日に意願2008-29641号(甲第2号証)を出願したが、審査官は拒絶理由通知書(甲第3号証)に本件登録意匠を引用し、最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないため、意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないとした。しかし、被請求人の本件登録意匠の出願は、意匠登録出願ではないとみなされる、意匠法第9条第4項の規定に該当する。また、請求人は、意匠法第48条第2項ただし書きの規定に該当する利害関係人である。 (2)本件登録意匠を無効とすべき理由 1)本件登録意匠(甲第4号証の1及び甲第4号証の2)は、請求人たる三宅化学株式会社と本件登録意匠の意匠権者で被請求人たるワン カオシアン(王國祥)が董事長であり、「中華人民共和国広東省東莞市虎門鎮新聯村釣り益工業区C棟」に所在する請求人の下請け会社たる「東莞市虎門祥宏吹塑製品廠」(甲第5号証)との間の取引きにおいて、請求人会社からの技術提供、資金供与並びに資材調達等の、諸々の援助や経緯を知らずに登録された事実がある。意匠公報上の記載では、ワン カオシアンが創作者及び意匠権者とされているが、本件登録意匠に係る物品「湯たんぽ」の原型(甲第6号証)の創作者は請求人会社の代表者代表取締役社長の立川勝彦(甲第1号証)であり、この原型を改良する設計図(甲第7号証)作成を請求人が外注し、その作成費用を請求人会社が負担したものであり、当該設計図に基づいて下請け会社が成形したのが、本件登録意匠に係る物品「湯たんぽ」と外観が全く同一であり、単一色を施した「湯たんぽ」(甲第8号証の1乃至5)である。 しかしながら、この成型品では、湯を出し入れする注ぎ口が設けられていないため、請求人会社は更に技術的な改良を重ね、注ぎ口をブロー成形で本体と一体成形できるようにすると共に、インジェクション成形品のキャップを注ぎ口に嵌脱自在に取り付けた水漏れのしない完成品の「湯たんぽ」について意匠登録出願(甲第2号証)した。これらの経緯において請求人会社は、設計図作成費、製品成型用金型の制作費、金型の改造費、製造設備費、原材料費、等の諸々の経費の支払いを外国向け送金計算書(甲第9号証)のように被請求人に対し送金している。この間の諸経費のやり取りについては、当社の仲介人である八代氏と、被請求人が董事長である下請け会社との間におけるメール通信(甲第10号証)で明らかである。 請求人会社と被請求人が董事長を務める下請け会社とは、支払いと支払い内容を示す商取引データの抜粋(甲第11号証)のように正常な取引をし、以後、平成20年12月頃までは正常な取引関係が持続していたところ、請求人に無断で被請求人が冒認出願に係る意匠登録出願をした結果、不当にも本件意匠登録を受けた。その後当事者間にトラブルを生じ、現在は商取引を中止している。 したがって、本件登録意匠は、意匠の創作をした者でない者であって、その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない被請求人がした意匠登録出願であって、意匠法第48条第1項第3号の規定に該当する冒認出願に対し登録されたものであり、無効とすべきである。 2)甲第1号証は、請求人会社の代表取締役社長の立川勝彦の陳述書である。 甲第2号証は、請求人の意匠登録出願であり、利害関係人であることを証する。 甲第3号証は、請求人の意匠登録出願に先願の引用として本件登録意匠を記載した拒絶理由通知である。 甲第4号証は、本件登録意匠の意匠登録原簿謄本及び意匠公報である。 甲第5号証は、被請求人であるワン カオシアン(王國祥)が董事長である下請け会社の「東莞市虎門祥宏吹塑製品廠」を証するものである。 甲第6号証は、本件登録意匠に係る物品「湯たんぽ」の原型を請求人が創作したことを証するものである。 甲第7号証は、本件登録意匠に係る物品「湯たんぽ」の設計図を証するためのものである。 甲第8号証は、被請求人が代表者である下請け会社が成形した「湯たんぽ」を証するものである。 甲第9号証は、請求人会社が、設計図作成費、製品成型用金型の制作費、金型の改造費、製造設備費、原材料費、等の被請求人に対する諸々の支払いを証するためのものである。 甲第10号証は、請求人会社の仲介人である八代を通じ、被請求人の会社とのやりとりで、被請求人の会社が請求人会社の下請け会社であることを証するためのものである。 甲第11号証は、請求人会社と被請求人の会社とが、本件登録意匠の出願日である平成20年10月10日の前後において正常な商取引をしていたにも関わらず、被請求人が請求人に無断で冒認出願をした結果、本件意匠登録を受けた事実を証するためのものである。 (3)審尋に対する回答の内容 1)請求人は、1.設計図(甲第7号証)に示された意匠の形態を原型から改良して完成させたのは誰か、2.設計図を外注した依頼者は誰か、3.設計図の元となる請求人作成の図面、設計図作成日、作成者(外注先)等、そのほか、請求人の創作に係る意匠であるとの証拠を提出されたい、との平成22年4月16日付けの審尋に対し、請求人社員で中国駐在の八代と、請求人社員の竹元課長、牧野課長及び立川常務間に交わされたメール通信を証拠として回答し、証拠方法として甲第12号証から甲第19号証を提出した。 2)最初の原型である甲第6号証に係る「湯たんぽ」の意匠は、三宅化学株式会社の代表取締役社長の立川勝彦が発案創作したものである(甲第12号証)。 3)甲第6号証に係る「湯たんぽ」の原型意匠とは別に新規な意匠の形態を前記立川勝彦が件外タンゲ化学の「湯たんぽ」の形態を参考にして発案創作したのが、本件登録意匠に係る「湯たんぽ」と全く同一形態を備える第8号証である。因みにタンゲ化学の「湯たんぽ」の形態は、甲第7号証の設計図において左右に形成されている持手の一方を除去したものである。この発案創作した「湯たんぽ」の形態を具体化する設計図(甲第7号証)を、それまでの金型会社であった件外「梁さん」が仕事がきついとの理由で撤退したため、新たな金型作成会社に依頼し、また「梁さん」の会社で図面も作成していたのを新たな3D図作成会社に依頼すると八代から2008年5月20日付けで竹元課長、牧野課長及び立川常務に連絡があった(甲第17号証)。 新たな3D図作成会社のデザイナーである子杰朱から竹元課長へ2008年5月28日にメール通信(甲第18号証)された「湯たんぽ」の実物写真に基づき、2008年6月2日付の請求人社員八代から立川常務らへのメール通信(甲第19号証)で甲第7号証に係る設計図が完成したとの連絡が入った。 上記のとおり、本件登録意匠の創作者は、願書に記載されているワン カオシアンではなく、また同様に記載されているワン シェンホンも、意匠の創作者ではなく、且つ請求人は両者に対し、意匠登録を受ける権利を譲渡していない。因みにワン シェンホンは、ワン カオシアンの親戚で甲第5号証の会社の社長である。 4)請求人は、さらに回答を補足し、タンゲ化学製の湯たんぽを参考に検討したスケッチとタンゲ化学製の湯たんぽの資料である甲第20号証を提出した。 5)さらに請求人は、「現地設計会社のデザイナー子杰朱が2008年5月28日付の請求人会社の竹元課長宛てのメール通信(甲第18号証)において、本件登録意匠に係る物品「湯たんぽ」即ち被請求人の登録意匠に係る湯たんぽと同一の写真を基に、中国駐在社員の八代が会社宛て2008年6月2日付のメール通信即ち甲第19号証において3D図(最終修正図)につき詳細な寸法入りの甲第7号証の設計図と同じ設計図を送信してきたものである旨、回答書において主張している。 第2 被請求人の答弁及び理由 被請求人は、請求人の申立及び理由に対して、何も答弁をしていない。 第3 当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1366320号)は、平成20年10月10日に創作者をワン カオシアン及びワン シェンホン、出願人をワン カオシアンとして意匠登録出願され、平成21年7月3日に意匠権者をワン カオシアンとして意匠権の設定の登録がなされたものであり、意匠に係る物品を「湯たんぽ」とし、その形態は、願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。 すなわち、全体を扁平な略横長直方体状とした、通常中に保温材が注入されて使用されるもので、正面視四隅を隅丸状とし、側面視を略円弧状に正面側を内側としてわずかに湾曲させた長円形状とし、正面の左右に略縦長長方形状の孔部を設け、孔部外方の左右端部に細棒状に狭めた取手部を配し、正面及び背面の中央寄りに縦方向に帯状の凹凸部を設け、正面側の孔部の中央寄りに傾斜面による凹状面を設け、背面側の左寄りには略倒U字状の無模様部を設け、取手部の側面視形状を略隅丸I字形状としたものである。 2.請求人が主張する無効理由について (1)無効理由について 請求人は、本件登録意匠は、その意匠登録が意匠の創作をした者でない者であって、その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願に対してされたもので、意匠法第48条第1項第3号に該当するものとして、その登録を無効とすべきである旨主張するので、以下、検討する。 そして、請求人が意匠法第48条第2項ただし書きの利害関係人であると主張している点については、平成20年11月19日に請求人は、意願2008-29641号(甲第2号証)を出願したが、審査官は拒絶理由通知書(甲第3号証)に本件登録意匠を引用し、最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないため、意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないとしたものである。意願2008-29641号(甲第2号証)と本件登録意匠は、キャップ部の有無が異なるが、他の形状は同一である。本件登録意匠の存在により、請求人は意願2008-29641号の意匠について登録を受けられないのであるから、甲第3号証により、請求人が利害関係人であることを認めることができる。 (2)甲第7号証について(別紙第2参照) 請求人は、本件登録意匠が冒認出願であることを証するため、審判請求書において甲第1号証から甲第11号証の各証拠を提出しているが、本件登録意匠とほぼ同一の形状が表されているのは、甲第7号証であるので、甲第7号証の設計図は、いつ、誰によって作成されたのか、記載された意匠は、誰が創作したものであるのかについて検討すると、甲第7号証の設計図に記載された意匠は、結局、請求人会社の立川勝彦の創作になるものと判断できる。その理由は、以下のとおりである。 甲第7号の設計図には、本件登録意匠とほぼ同一の意匠が表されているものの、その作成時期は示されていないし、設計図の作成者名も、依頼者名も、記載されていない。しかしながら、審尋に対する回答と、同時に提出された甲第17号証により、甲第7号証の設計図は、2008年5月20日の時点ですでに作成済であったことが明らかである。 証拠によれば、請求人は、中国において湯たんぽの下請け製造を計画し、被請求人を下請け会社として実行に移していたが、2008年5月20日までに、金型会社として中国で下請けさせていた梁さんの会社が、仕事がきついとの理由で撤退したため、新たな金型会社に依頼すると共に、図面作成についても、これまでは前記金型会社が図面も作成していたのを、新たな3D図作成会社に依頼した(甲第17号証)。新たな3D図作成会社のデザイナーである子杰朱からは、2008年5月28日に、請求人会社、竹元課長宛のメール通信(甲第18号証)があり、湯たんぽのデザインが完成した旨連絡が入り、2008年6月2日に請求人社員である八代から請求人会社の立川常務、竹元課長、牧野真次宛てにメール通信(甲第19号証)があり、このメールには、甲第7号証の設計図とほぼ同一の内容の設計図(別紙第3参照、甲第19号証より)が添付されており、また、この設計図に基づいて作成された3D図が添付されている。この事実に照らせば、請求人は、新たに契約した3D図作成会社に、すでに出来上がっていた甲第7号証の設計図を示した上で、この設計図に基づく3D図の作成を依頼したものであることが分かる。よって、まず、甲第7号証の設計図の作成者は、2008年5月20日以前に契約していた以前の金型会社であり、作成時期も当然に、2008年5月20日以前ということになる。 また、この設計図の費用に関して、請求人は、「作成費用を当社が負担した(審判請求書第2頁29行)」と主張しているが、前記金型会社へ代金を支払った証拠を示してはいない。しかしながら、請求人から被請求人への支払いを示す甲第9号証には、金型代という名目で数回にわたり支払いがあったことが示されている。これに照らせば、前記金型会社は、被請求人をとおして図面代を含む金型代金を請求人から受け取っていることになる。よって、甲第7号証の設計図は、外注し、費用を支払っていた請求人から受け取っていることになる。 次に、設計図に表された意匠の発案創作者について検討すると、審判請求書と審尋に対する回答によれば、請求人は、請求人会社の立川勝彦であるとの主張であるが、証拠として提出されたのは、創作にあたってその原型となった複数の意匠を示すものであり、直接的に設計図にあらわされた意匠を表したものはない。しかしながら、原型とされる意匠には、左右端部に対称的に細棒状取っ手を配したものや、表面に水平リブが表されているものが示されていることから、それを基に創作したとの請求人の主張は理解でき、また、否定するに足る証拠もない。加えて、被請求人からの答弁がないことを勘案すれば、甲第7号証の設計図に表された意匠を創作したのは、請求人会社の立川勝彦と判断するのが妥当である。 すなわち、甲第7号証の設計図は、2008年5月20日以前に、請求人の依頼により、以前契約していた金型会社が、請求人会社の立川勝彦の発案創作した意匠を図面化したものであると認められる。 (3)冒認出願について 甲第7号証の設計図に記載された意匠は、上記のとおり、請求人会社の立川勝彦による創作と認められるものである。また、立川勝彦は、意匠登録を受ける権利を、本件登録意匠の創作者とされるワン カオシアンとワン シェンホンに譲渡した事実はない(平成22年5月1日付回答書第2頁第17行?18行)。 そして、甲第7号証の設計図は、以前依頼していた梁さんの金型会社が作ったものと認められるものであるが、請求人から被請求人をとおしてその金型会社へ、金型代の支払いがあることから、その金型会社は、被請求人とは、下請けに近い関係か、少なくとも協力会社ということが分かる。その金型会社と被請求人は、このような関係がある上に、その金型会社が作った金型を使って、被請求人は、試作品(甲第8号証)を作っていたのであるから、被請求人は、その基となる甲第7号証の設計図も知り得る立場にあったといえる。なお、被請求人による請求人の下請け製造は、梁さんの金型会社が仕事がきついとやめてしまったあとも、冒認出願が発覚し、請求人との関係がまずくなる、平成20年12月頃までは続いていたものである(審判請求書第3頁11行)。 請求人は、被請求人がこのような当時の立場を利用して、被請求人ワン カオシアン(董事長で会長)とその親戚のワン シェンホン(社長)の創作に係る意匠であるとして、本件登録意匠を出願し、登録を受けたものであると主張している。これに対し、被請求人からの反論はなく、この請求人の主張に反する証拠も存在しない。 そうすると、本件登録意匠の創作者は、被請求人であるワン カオシアンとワン シェンホンではなく、請求人会社の立川勝彦であり、当初の出願人である被請求人のワン カオシアンは、その意匠を創作した者ではない者であって、その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願について、意匠登録を受けたものといえるから、本件登録意匠は、冒認出願と認められ、意匠法第17条第4項の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものであり、無効理由を有するものである。 3.むすび 以上のとおりであって、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第3号の規定に該当するから、その登録を無効とされるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2010-09-17 |
結審通知日 | 2010-09-24 |
審決日 | 2010-10-06 |
出願番号 | 意願2008-26260(D2008-26260) |
審決分類 |
D
1
113・
15-
Z
(D4)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 加藤 真珠 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
北代 真一 樋田 敏恵 |
登録日 | 2009-07-03 |
登録番号 | 意匠登録第1366320号(D1366320) |
代理人 | 吉川 俊雄 |
代理人 | 築山 正由 |