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審決分類 審判    C1
管理番号 1241304 
審判番号 無効2010-880013
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-29 
確定日 2011-06-22 
意匠に係る物品 タイルカーペット 
事件の表示 上記当事者間の登録第1289529号「タイルカーペット」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,「意匠登録第1289529号意匠の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として,甲第1号証(以下,「甲1」と記し,その他の証拠も同様に表記する。)及び甲2(枝番を含む。)を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公然知られた甲1の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであり,同法第48条1項第1号により,無効とすべきである。

(1)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
甲1は,本件登録意匠の出願前,2003年(平成15年) 5月10日に頒布された「ドイツ意匠公報」第2301頁所載の「じゅうたん」の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH1501267号)である。

(2)本件登録意匠と先行意匠との対比
(ア)両意匠の共通点
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「タイルカーペット」とするものであり,先行意匠は,「じゅうたん」とするものであるところ,両者は住宅等建築物においてその底面部すなわち床として使用されるもので,需要者の使用実態において同一の物品である。
そして,形態について,基本的構成態様に関して,(b)平面視において,線模様が縦方向に一定ではない間隔に多数描かれている点,(c)平面視において描かれてなる線模様は波型である点,(d)平面視において,線模様は一定の形状に描かれておらず,一本ごとにその形状が異なっている点,で両者は共通する。

(イ)両意匠の差異点
本件登録意匠と先行意匠とは,次の点で微細な差異点が存在する。
基本的構成態様に関して,(a)平面視及び底面視において,本件登録意匠は略正方形であるが,先行意匠は横長の略長方形である点,具体的構成態様に関して,(e)平面視において,本件登録意匠の波型の線模様は,一本ごとに短い複数の曲線を集めてなるのに対し,先行意匠の線模様は上端から下端までつながった一本の線からなる点,(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠は線模様部分以外は一面が無地である点。

(ウ)両意匠の類否
i 本件登録意匠と先行意匠について比較検討するに,両意匠の基本的な構成態様は,略正方形状か略長方形状であるかという点を除き全く一致しており,かかる形状の点及び具体的な態様においてごくわずかな部分について差異点があるのみで,その余の大部分を共通にしているものである。
ii 次に,両意匠の差異点について検討する。
(i)基本的構成態様における(a)の形状の差異は,敷物の形状として共にありふれた形状であり,方形状の範囲なので,この点が類否判断に影響を与えることはない。
(ii)具体的構成態様における(f)の点について,本件登録意匠は図面に代えてモノクロ写真を添付して出願されたものであり,色彩は意匠を構成していない。したがって,本件登録意匠と先行意匠との差異は,平面視において,濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるか,無地であるかの点のみであるところ,本件登録意匠の当該態様は,敷物として特徴的な態様のものではなく,かかる差異点が類否判断に与えることはない。
(iii)具体的構成態様における(e)の点について検討する。
本件登録意匠の波形の線模様は,上端から下端までつながった一本の線からなる形状ではなく,一本ごとに短い複数の線分を集めてなっている。
しかし,本件登録意匠の波形の線模様は,微視的には上下方向の短い線分を,わずかに左右位置にずらしながら上下に順に並べることで波形を形成するという視覚的効果により,離隔的には直線状の短い線分が1つの波形の曲線に見えるというものである。
したがって,波形の線模様が短い線分を集めたものであるか一本の線であるかの相違は,床に敷いて使用するという敷物の分野における看者にとって,全体に線状の不規則な波形の線模様を縦に表したという点で共通するものであり,かかる線模様が微視的にどのような構成をとっているかは微差に過ぎない。
また,本件登録意匠と先行意匠とは,波形の幅や波の出現頻度において差異が見られるが,かかる点も,その弧の大きさや出現頻度等に一般的な波形と異なる特徴的な点はなく,全体に線状の不規則な波形の線模様を縦に表したという共通の印象を与えるにとどまるものであって,同じく類似の範囲を出ないものである。
(iv)以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠との差異点は,いずれも類似の範囲を出ない。

(エ)被請求人の訴訟における権利範囲主張と本件登録意匠の審査・審判経過における主張との関係
被請求人は,2010年(平成22年) 1月20日,請求人に対し,請求人の製品が本件登録意匠に類似する物であり,意匠権を侵害するとして,大阪地方裁判所に訴訟を提起し,現在,同裁判所に係属している(平成22年(ワ)第805号意匠権侵害差止等請求事件,以下「本件訴訟」という。)

被請求人は,本件登録意匠の出願の経過における拒絶理由通知書に対する平成17年5月16日付け意見書3頁22行目乃至27行目において,「カーペットの物品の分野では,カーペット表面の模様が最も看者の目に触れる部分であります。そのため,前述したような表面の模様における両意匠の差異点は,この種の意匠の最も重要な部分であるとともに,他の意匠との区別性を発揮する部分であるといえます。」と主張し,具体的構成態様(e)の点が要部であり,その差異が本件登録意匠と先行意匠との類否判断の重要な要素であると主張していた。

他方,本件訴訟においては,複数枚を組み合わせて使用するというタイルカーペットの使用形態を理由に,「形状,模様,色彩の一部をとりあげて要部とすべきようなものではなく,やはり全体的な印象・美感の共通性がより重要となる。」「従って,需用者・取引者が何処を着目するかとの観点から考えれば,本件登録意匠の一部をとりあげ要部とすることは困難である。」と主張している(甲2の6,3頁乃至4頁)。そして,かかる点から,本件登録意匠の要部は,「平面視において,縦縞パイルの織り込みによる密なる濃いグレーの織地上に,幅細の,さざ波状でフリーハンド状の略白色蛇行線紋様がその上部を埋め尽くすように不当間隔で現れるものであって,微視的にはパイルが縦方向に織り込まれた線分より成っており,巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波で且つフリーハンド状の蛇行線紋様」である,と主張しており(甲2の6,4頁め),本件登録意匠の出願の経過で述べていた意匠の構成とは明らかに異なる主張をしている。

また,被請求人は,本件登録意匠の意匠登録出願の拒絶査定不服審判における平成17年11月18日付け手続補正書5頁24行目乃至25行目において,「カーペットの物品の分野では,カーペット表面の模様が最も看者の目に触れる部分であり,看者をしてその細部まで注目されるものであります。」と主張し,前記した意見書引用部分に,「看者をしてその細部まで注目されるものであります。」という主張を新たに加えて主張していた。
ところが,本件訴訟においては,「床面に敷き詰めて使用されるというタイルカーペットの使用形態における看者の着目点に照らせば,需要者・取引者はその模様を立位或いは座位の目線から,ある程度距離をおいて離隔観察するもの」であると主張している(甲2の6,6頁目)。
かかる被請求人の権利主張によれば,結局のところ,被請求人の本件登録意匠についての権利主張は,タイルカーペットのような敷物の分野において「巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波で且つフリーハンド状の蛇行線紋様がある」意匠は全て本件登録意匠と類似するとの主張に等しい。

特に,本件訴訟で問題となっている請求人意匠は,看者に直線的な印象を与え,シャープですっきりした印象を与えているものであるが,かかる点について「被告は,被告意匠の略白色の縞模様について「直線の羅列」と表現するが,上下方向の短い線分を,わずかに左右にずらしながら上下に順に並べることによって巨視的には蛇行線紋様を形成していることは明らかである。」「線分がやや短いという差異点は微差にとどまる。」などと主張し,本件登録意匠と請求人意匠との差異が看者に与える美感の差異を論ずることなく,本件登録意匠に類似するものと主張している。

この点について,被請求人は,本件登録意匠の意匠登録出願時における拒絶査定不服審判における2005年(平成17年)11月18日付け手続補正書5頁12行目乃至17行目において,「本願意匠は,縦方向に描かれている各線模様が,上端から下端までつながった一本の線からなる形状ではなく,外側に膨らみを持つ複数の短い線が集まって連なってなる形状であることから,看者に複雑で込み入った印象を与えます。また,短い線は左右交互に描かれており,ある短い線の終点からわずかに離れた水平の点を始点として次の線が始まるという形状は,一本の波形の線と違う新たな美感を生じさせるものです。」と主張し,かかる美感の差異から,本件登録意匠と先行意匠とが類似しないと主張していた。

ところが,前記のとおり本件訴訟では,「巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波で且つフリーハンド状の蛇行線紋様がある」という点だけを強調し,本件登録意匠の「複雑で込み入った印象」という美感と,請求人の意匠の「直線的な印象を与え,シャープですっきりした印象を与えている」という美感との差異を類否判断の対象としていない。

したがって,本件訴訟における被請求人の主張は,単に,「巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波で且つフリーハンド状の蛇行線紋様」のあるカーペットタイルであれば,美感の差異にかかわらず本件登録意匠に類似すると言うに等しい。
また,被請求人は請求人の意匠を任意の倍率で拡大することで波形の形状等を操作し,これにより両者が類似する旨も主張している。
しかし,任意の倍率で意匠を拡大・縮小し,波形の出現頻度や形状,波形の線と線との間の距離などを任意に操作して2つの意匠の類否を論ずることは,50センチメートル角の枠内でデザインされるタイルカーペットの意匠の分野においては不当であるし,看者が取引上かかる操作をすることはない。
にもかかわらず,被請求人は,任意の倍率で意匠を操作し,50センチメートル角内における両意匠の波形の出現頻度や形状等の差異,ひいてはかかる差異がもたらす美感の差異を恣意的に無視して類否を論じている。
これは,50センチメートル角の枠内において存在する前記のような差異は全て本件登録意匠との類否判断に影響を及ぼさない旨主張しているに等しい。

以上のような,被請求人が訴訟において主張する本件登録意匠の権利内容からすれば,被請求人は,先行意匠と本件登録意匠とが類似の範囲を出ないことを自認している。
したがって,被請求人が自認するとおり,本件登録意匠と先行意匠とが類似であることは明らかである。

(オ)小括
以上のように,本件登録意匠は基本的構成態様において先行意匠と同一であり,また,具体的構成態様における差異も,微差に止まるものであって,類似の範囲を出ない。
また,被請求人の訴訟における本件登録意匠に関する権利主張内容も,先行意匠の権利範囲と同然の主張をするものであって,両者が類似であることを自認するものである。

(3)むすび
以上述べたとおり,先行意匠は本件登録意匠に類似する意匠と思料されることから,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

-- 請求人が提出した証拠 --
(1)甲1 特許庁意匠課公知資料番号第HH15012167号
(2)甲2の1 訴状
甲2の2 答弁書
甲2の3 原告準備書面(1)
甲2の4 被告準備書面(1)
甲2の5 原告準備書面(2)
甲2の6 原告準備書面(3)
甲2の7 原告準備書面(4)
甲2の8 被告準備書面(2)
甲2の9 被告準備書面(3)
甲2の10 原告準備書面(5)



第2.被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由を要点,以下のとおり主張した。

1.被請求人の反論の概要
(1)被請求人の反論1(本件登録意匠と先行意匠が非類似であること)
この先行意匠は,請求人が請求書で述べるとおり,審査段階における拒絶理由通知及び拒絶査定において引用された公知意匠である。拒絶査定不服審判請求を経て,2006年(平成18年) 9月12日付け審決によって,特許庁により本件登録意匠と先行意匠が非類似であると判断され,本件登録意匠は登録に至った。
本件登録意匠と先行意匠が非類似であることについては,すでに特許庁の判断が下されており,本件登録意匠と先行意匠が類似するという請求人の主張が失当であることは明白である。

(2)被請求人の反論2(別件侵害訴訟における主張について)
また,請求人の主張は,被請求人を原告,請求人を被告とする侵害訴訟(大阪地方裁判所平成22年(ワ)第805号意匠権侵害差止等請求事件,以下「別件侵害訴訟」という。)における被請求人の主張内容を援用している。
その骨子は,別件侵害訴訟において,被請求人が,請求人が実施するタイルカーペットの意匠(以下,「被告意匠」という。)が本件登録意匠と類似していると主張するのであれば,本件登録意匠と先行意匠も類似していると判断されるべきものであり,本件登録意匠は無効である,というものである。
しかし,以下に示すように,本件登録意匠と先行意匠を比較する場合と比べても,被告意匠が本件登録意匠と明らかに類似していることは明白である。
従って,本件登録意匠と先行意匠が非類似であるが,本件登録意匠と被告意匠が類似しているという判断は当然に成立する。被告意匠が先行意匠と極めて類似しているのであれば,請求人の主張も成り立ちうるかもしれないが,むしろ被告意匠と本件登録意匠が極めて類似している状況下では,およそ支持される主張ではない。請求人の主張は,被請求人の審査・審判段階の主張と別件侵害訴訟における主張を恣意的に解釈し,それを前提に構成するものであって,不当である。

2.本件登録意匠と先行意匠の類否
(1)本件登録意匠と先行意匠の対比
(i)共通点
本件登録意匠と先行意匠は,基本的構成態様のうち,(ア)平面視において,生地上に,幅細の,さざ波状でフリーハンド状の蛇行線紋様が不等間隔で現れる点,については共通する(先行意匠の裏面は不明なため,本書の対比の対象としない)。

(ii)差異点
しかし,本件登録意匠と先行意匠は,以下の点で差異がある。
[基本的構成態様]
ア 本件登録意匠は,生地が縦縞パイルの織り込みによる密なる濃いグレーの織地であり,蛇行線紋様が略白色であるのに対し,先行意匠は,生地が無地であり,蛇行線紋様が略黒色である点。
[具体的構成態様]
ウ 本件登録意匠は,蛇行線紋様が,微視的にはパイルが縦方向に織り込まれた短い線分より成っており,巨視的には不定形であり長手方向にラッダムに幅及び蛇行方向が変わるのに対し,先行意匠は,蛇行線紋様が,上端から下端までつながった一本の線より成っている点。
エ 本件登録意匠は,蛇行線紋様が,平面視縦方向に互いに近接し,次いで離間し,局所において接合して略X字ないし略Y字を形成するようになっているのに対し,先行意匠は,蛇行線紋様が,わずかに蛇行するものの,平面視縦方向にほぼー定の間隔を有している点。

(iii)類否判断
先行意匠の蛇行線紋様が単なる一本の線から成っているのに対し,本件登録意匠の蛇行線紋様は,短い線分を左右にずらしながら上下に順に並べることで構成されており,構成上明確な差異がある。
蛇行線紋様が短い線分の集まりから構成されている点は,まさに本件登録意匠の要部であり,これにより本件登録意匠は,先行意匠に比べて自然で且つ落ち着きのある深みに満ちた印象を与えている。また,本件登録意匠に係る物品はタイルカーペットであるが,一本の蛇行線を微視的には複数の線分に分解することで,タイルカーペットを複数組み合わせて用いる際の接合部分の違和感を減少させ,看者により自然な印象を与えるという効果をもたらすものである。

また,先行意匠の蛇行線紋様は,わずかに蛇行するものの,平面視縦方向にほぼー定の間隔を有しているのに対し,本件登録意匠の蛇行線紋様は,平面視縦方向に近接離間を繰り返しており,これが上記蛇行線紋様の構成の違い(単なる一本の線か,短い線分の集まりか)と相まって,先行意匠は単純な印象を与えるのに対し,本件登録意匠はより複雑な印象を与えている。
従って,本件登録意匠と先行意匠の構成態様の差異は明確で,かつ,差異点が意匠の要部に係る顕著なものである。

(2)小括
以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠の差異は顕著であり,両意匠は類似しないことは明白である。

3.請求人主張を前提とした本件登録意匠と先行意匠の類否について
(1)請求人の認める本件登録意匠と先行意匠の差異
請求人も,本件登録意匠と先行意匠は以下の点で差異があることを認めている(審判請求書4頁29行?5頁12行)。
[基本的構成態様]
(a)平面視及び底面視において,本件登録意匠は略正方形であるが,先行意匠は横長の略長方形である。
[具体的構成態様]
(e)平面視において,本件登録意匠の波型の線模様は,一本ごとに短い複数の曲線を集めてなるのに対し,先行意匠の線模様は上端から下端までつながった一本の線からなる。
(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠は線模様部分以外は一面が無地である。

(2)類否判断
上記差異のうちとりわけ(e)の構成態様に関わる差異,すなわち,先行意匠の蛇行線紋様が単なる一本の線からなるのに対し,本件登録意匠の蛇行線紋様が短い線分を集めてなる点は,上記の「本件登録意匠と先行意匠の類否」のとおり,まさに本件登録意匠の要部にかかる構成における差異であり,この点だけでも両意匠の差異は顕著というべきものである。
請求人は,別件侵害訴訟において,本件登録意匠と被告意匠の間の細かい差異を重要な差異であると強く主張していたにもかかわらず,本件登録意匠と被告意匠が類似していると判断されそうであると見て取ると,一転して,今度は本件登録意匠も被告意匠も先行意匠も全ての差異は微差にすぎないと主張して,無効審判に及んだものであり,このような定見のない極端な主張が成り立つべくもない。

(3)小括
以上のとおり,本件登録意匠と被告意匠の類否判断に関する請求人の主張は失当である。
なお,特許庁は,すでに,拒絶査定不服審判請求において,上記差異を主張した被請求人の主張を容れ,先行意匠と本件登録意匠は類似しないと判断されている。同一の先行意匠を理由とし,同一の差異を前提として展開する請求人の主張は,単に特許庁の前審判の判断を批判するものに過ぎない。

4.結語
以上のとおり,請求人の無効主張は,理由がないことはおよそ明らかである。


第3 請求人の弁駁の理由の要点
請求人は,被請求人の提出した2010年(平成22年)11月30日付け「審判事件答弁書」(以下,「答弁書」という。)に対して,2011年(平成23年) 1月26日付けで「無効審判弁駁書」を提出して,要旨以下のように主張した。

(1)「(答弁書の)7-1-4」について
大阪地方裁判所第26民事部が,2010年(平成22年)11月1日の弁論準備期日において損害額の審理に移行する旨の訴訟指揮を行ったのは事実であるが,侵害について意匠権侵害を認めたのか不正競争防止法違反を認めたのかについて一切明らかにしておらず,被請求人が主張するように,請求人の主張はいずれも主張がないなどとは心証を開示していない。
被請求人の主張は特許庁に対して事実を歪曲して主張するものであり,到底認められない。

(2)「(答弁書の)7-2」について
ア 被請求人が「7-2-1」において主張する本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別件侵害訴訟における被請求人の準備書面(2)(甲2の5)以降の主張と同一である。
しかし,本件登録意匠の審査過程において被請求人は,本件登録意匠について,かかる主張とは明らかに異なる,無効審判書請求の理由(3)ア記載のとおり主張して登録に至っている。
また,具体的構成態様エは,別件侵害訴訟において,請求人が本件登録意匠について,「波型の線模様の配置は,並列で枝分かれしない構成になっており,不特定の位置で,波線が近接することにより略X字状になっている」(甲2の4)と指摘するや,「より正確に表現するため「略Y字」を「略X字ないし略Y字」と修正する。」などとしたものである。しかも,被請求人は,別件侵害訴訟において検証が行われた際,本件登録意匠の模様が略Y字を形成している部分について請求人に問われても,これを指摘できなかった。

イ 「7-2-2」について,被請求人は,本件登録意匠の審査過程において先行意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を無効審判書請求の理由(3)イのとおり表現していた。
しかし,審判事件答弁書では,この表現と明らかに異なる表現を主張している。本件登録意匠と先行意匠とを対比するのであれば,あえて審査過程と異なる表現を使用する必要はない。
しかも,審査過程では主張していなかった,先行意匠の蛇行線紋様の色彩を「略黒色」として表現し,後記「7-2-3-2」においてあえて差異点であるとして指摘している。
なお,先行意匠においても本件登録意匠においても,色彩は意匠権の範囲外となっており,かかる点は本来両意匠の差異点とはならない。

ウ 「7-2-3」について
(i)「7-2-3-2」について
前記のとおり,被請求人が差異点として主張するア,ウ,エのうちアの点については,先行意匠においても本件登録意匠においても色彩は意匠権の範囲外である。かかる点は両意匠の差異点とはならない。
(ii)「7-2-3-3」について
被請求人は,「蛇行線紋様が短い線分の集まりから構成されている点は,まさに本件登録意匠の要部」であるという。
しかし,別件侵害訴訟においては,「形状,模様,色彩の一部をとりあげて要部とすべきようなものではなく,やはり全体的な印象・美感の共通性がより重要となる。」と主張し,本件登録意匠の要部は,「平面視において,縦縞パイルの織り込みによる密なる濃いグレーの織地上に,幅細の,さざ波状でフリーハンド状の略白色蛇行線紋様がその上部を埋め尽くすように不等間隔で現れるものであって,微視的にはパイルが縦方向に織り込まれた線分より成っており,巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波で且つフリーハンド状の蛇行線紋様」であると主張しているのであって,その主張は明らかに異なる。
これは,被請求人が,特許庁の審査においては意匠権の範囲を狭く解し,先行意匠との差異を強調して類似との判断を免れようとする一方,侵害訴訟においては権利範囲を広く解そうとしていることの証左である。
そして,被請求人が別件侵害訴訟において主張する被請求人の権利範囲を前提とすれば,本件登録意匠が先行意匠と類似であることは明らかである。

エ 「7-2-4」
以上より,本件登録意匠と先行意匠が類似していることは明らかである。

(3)「(答弁書の)7-3」について
被請求人は,「7-3-2」について,「7-3-1(e)」の点についての差異をもって要部にかかる構成における差異だと主張しているが,これが別件侵害訴訟における被請求人の主張と明らかに異なっていることは,前記のとおりである。
被請求人は,「請求人は,別件侵害訴訟において,本件登録意匠と被告意匠の間の細かい差異を重要な差異であると強く主張していたにもかかわらず,本件登録意匠と被告意匠とが類似していると判断されそうであると見て取ると,一転して,今度は本件登録意匠も被告意匠も先行意匠も全ての差異は微差にすぎないと主張して,無効審判に及んだ」などと主張している。
しかし,請求人が無効審判を請求したのは2010年(平成22年)9月29日であって,別件侵害訴訟における侵害論の結論は全く不遜明な段階であった。
また,請求人は,別件侵害訴訟において,被請求人が,「床面に敷き詰めて使用されるというタイルカーペットの使用形態における看者の着目点に照らせば,需要者・取引者はその模様を立位或いは座位の目線から,ある程度距離をおいて離隔観察するもの」として,請求人製品と本件登録意匠との顕著な差異を微差とする主張していることから,かかる被請求人自身の請求を踏まえて本件登録意匠が公知意匠に類似する旨主張しているのである。
したがって,請求人が一転したわけではなく,被請求人の主張が審査過程・別件侵害訴訟・本無効審判において二転三転しているだけである。
「7-3-3」についても,請求人は特許庁の前審判の判断を批判しているのではなく,被請求人が特許庁の前審判の判断の際とは異なる権利範囲主張をしている点をもって,判断の前提が異なることを指摘しているのである。

(4)「(答弁書の)7-4」について
ア 「7-4-2」について
被請求人は,無効審判書記載のとおり,拒絶査定不服審判請求における主張と矛盾する主張を別件訴訟で繰り返している。
特許庁は,拒絶査定不服審判請求における被請求人の主張を前提として本件登録意匠を登録したが,被請求人は,かかる主張を覆し,その権利範囲を広範に主張しているのであり,その内容は,無効審判請求書記載のとおり「巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波で且つフリーハンド状の蛇行線紋様がある」意匠は全て本件登録意匠と類似するとの主張に等しく,先行意匠とも類似することを自認する内容となっている。
被請求人は,「一度下された行政判断が,先行意匠でもない被告意匠の侵害の成否を巡る当事者の陳述によって覆ることなど通常考えがたい」旨主張するが,たとえ先行意匠とは別の意匠との比較における陳述であっても,被請求人の意匠に関する陳述である以上,被請求人が先行判断と矛盾する権利主張を行い,これが先行意匠と類似することを自認する内容であれば,それは,先行意匠の存在を理由とした無効審判手続のなかで考慮されるべき事項である。
また,前記のとおり,裁判所は,侵害について意匠権侵害を認めたのか不正競争防止法違反を認めたのかについて一切明らかにしておらず,被請求人の主張するように,請求人の主張を否定する旨の心証は開示していない。
被請求人の主張は特許庁に事実を歪曲して主張するものである。

イ 「7-4-3」について
被請求人は,別件侵害訴訟における被請求人の主張は,「本件登録意匠と先行意匠を対比するにあたって,蛇行線紋様が単純な一本の線から成るか,短い線分の集まりからなるかという差異には重要なものであるが,それより細かな構成上の差異(例えば,本件登録意匠も被告意匠も蛇行線紋様の近接部が略X字ないし略Y字であるが,被告意匠の方は略Y字状のものが多い等)は微差にすぎない,というものであり,二つの主張に何ら矛盾するところはない」と主張する。
しかし,被請求人は,請求人が別件侵害訴訟において,蛇行線紋様の間隔の広狭,波形の出現頻度,蛇行線紋様を構成する直線分の長さ,当該直線分か,左右交互に描かれており,ある直線の両端は,わずかに離れて配置された直線の一端と重なり合うように配置されている点など,多数の差異点から生ずる美感の差異をもって本件登録意匠と請求人製品とが非類似であることを主張している(甲2の2,2頁め。甲2の8,3頁め乃至4頁め)のに対して,これら全てを微差に過ぎないと主張しているのである。
つまり,被請求人は,本件登録意匠と先行意匠が有する「蛇行線紋様が単純な一本の線から成るか,短い線分の集まりからなるかという差異点」は看者に注目される重要な差異であるが,請求人意匠の「看者に直線的な印象を与え,シャープですっきりした印象」という美感と,本件登録意匠の「複雑で込み入った印象」との美感の違いをもたらしている差異点は,全て微差にすぎないと主張しているのである。
これは,審査過程において請求人が述べていた,カーペット表面の模様は「看者をして細部まで注目されるもの」であり,「表面の模様における両意匠の差異点は,この種の意匠の最も重要な部分であるとともに,他の意匠との区別性を発揮する部分であります」との主張と矛盾していることは明らかである。
被請求人は,請求人が「細部」の意味を恣意的に解釈している旨主張しているが,蛇行線紋様が単純な一本の線から成るか,短い線分の集まりからなるかという点だけが看者にとって重視される差異であり,その他は全て微差であるという主張こそが,本件登録意匠の権利範囲を都合よく主張するために,恣意的に「看者」の観察距離々注目点を操作しているものであることは明らかである。
そして,請求人意匠と本件登録意匠との差異を微差にしながら,先行意匠と本件登録意匠との間の「蛇行線紋様が単純な一本の線から成るか,短い線分の集まりからなるかという差異点」は重要な差異であるという被請求人の主張は,矛盾する観察方法による主張であって,本件登録意匠と先行意匠は類似しないが,本件登録意匠と被告意匠は類似するということが整合しないことは明らかである。
また,被請求人は,請求人が,被請求人の主張について「巨視的には不定形であり長手方向にランダムに幅及び蛇行方向が変わる,さざ波状で且つフリーハンド状の蛇行線紋様である」意匠は全て本件登録意匠と類似するとの主張に等しいと述べていることについて,「微視的にはパイルが縦方向に織り込まれた短い線分より成っている点でも両意匠が一致していることを繰り返し主張している」にもかかわらず「あえて,この点の被請求人の主張を捨象して」いると主張している。
しかし,請求人は,無効審判請求書記載のとおり,被請求人の別件訴訟における主張を前提にすれば,被請求人の主張は「微視的にはパイルが縦方向に織り込まれた短い線分より成っている点」は微差だと主張しているに等しいと主張しているのであって,かかる点をあえて捨象などしていない(請求人は,被請求人が捨象したと主張する点について,被請求人引用部分と同一の項(無効審判書7頁め)において,被請求人の主張を正確に引用している(甲第2号証の6,4頁め)。)。
被請求人の主張こそ,請求人の主張を部分的にとりあげて恣意的に解釈するものである。
また,前記のとおり,裁判所は,侵害論に移行する旨述べただけで心証を開示したわけではない。被請求人の主張するように,意匠権侵害の点について請求人の主張を採用したか否かは何ら明らかにされていない。

(5) 「7-5」について
以上のとおり被請求人の答弁には理由がないばかりか,特許庁に対し事実を歪曲して主張されたものである。

(6) 以上より,本件登録意匠について速やかな無効審判を求める。


第4 当審の判断

1.本件登録意匠
本件審判事件に係る意匠登録第1289529号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,意匠法第4条第2項の規定の適用の申請を伴って,2004年(平成16年)11月29日に意匠登録出願されたものであって,2005年(平成17年) 8月 9日付けで拒絶査定を受けた後,2005年(平成17年) 9月16日に拒絶査定不服審判を請求したところ,これは不服2005-17895として審理され,2006年(平成18年) 9月12日付けで原査定を取り消し,意匠登録すべきものとする旨の審決がなされ,2006年(平成18年)11月17日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,願書の記載及び願書に添付した写真に現されたものによれば,意匠に係る物品を「タイルカーペット」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を願書の記載及び願書に添付した写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

すなわち,その形態は,
(1)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側(平面図に表された側)の模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているものであり,
(2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(2-1)暗調子の地の上に,明調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであって,
(2-2)縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として29本前後であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,
(2-3)各縦条模様は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしているものである。


2.請求人が無効の理由として提出した先行意匠
請求人が本件登録意匠の無効理由として提出した先行意匠は,甲1の意匠(以下,「甲1意匠」という。)であって,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日前,2003年(平成15年) 5月10日に頒布された『ドイツ意匠公報』第2301頁所載の「じゅうたん」の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH1501267号。なお,当審の調査によれば,当該意匠は,「意匠登録番号:401 07 669の製品番号:M 0446-blanco」の意匠である。)であって,その形態は,同公報の図版に現されたとおりのものである。(別紙第2参照)

(なお,対比のため,本件登録意匠の図面における平面の縦縞模様の向きを,甲1意匠にもあてはめることとする。)
すなわち,その形態は,
(1)全体形状について,一部不明な点もあるが,図版上,平面視横長矩形状の区域(縦横比は約1:1.4)として表面側の模様が表されており,裏面側は表されていないものであり,
(2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(2-1)明調子の地の上に,暗調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであって,
(2-2)縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として32本であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,
(2-3)各縦条模様は,連続する細線が左右に蛇行しており,「フリーハンドで描かれた線」のようになっているものである。


3.本件登録意匠と甲1意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「タイルカーペット」であり,甲1意匠の意匠に係る物品は,「じゅうたん」である。タイルカーペットは,平面視正方形のタイル状のカーペットを床面に多数敷き詰めて使用するものであり,じゅうたんは,1枚の織物などによる床敷物であるが,両者は,床面に敷く敷物であるという点で共通する。

(2)形態
形態についての主な共通点と相違点は,以下のとおりである。

(共通点)
(A)表面側の模様の具体的構成態様は,地の上に,反対調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものである点,

(B)縦縞模様を構成する縦条模様は,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されている点。


(相違点)
(ア)全体形状について,本件登録意匠は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側(平面図に表された側)の模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているものであるのに対して,甲1意匠は,全体形状について,一部不明な点もあるが,図版上,平面視横長矩形状の区域(縦横比は約1:1.4)として表面側の模様が表されており,裏面側は表されていないものである点,

(イ)表面側の模様の具体的構成態様について,本件登録意匠は,暗調子の地の上に,明調子の縦条模様が配されているのに対して,甲1意匠は,明調子の地の上に,暗調子の縦条模様が配されている点,

(ウ)縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,本件登録意匠は,全体として29本前後であるのに対して,甲1意匠は,全体として32本である点,

(エ)各縦条模様の具体的構成態様について,本件登録意匠は,各縦条模様は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしているものであるのに対して,甲1意匠は,各縦条模様は,連続する細線が左右に蛇行しており,「フリーハンドで描かれた線」のようになっているものであり,かつ,本件登録意匠は,表面に繊維の起毛状態が態様として表れているのに対して,甲1意匠は,表面が平面的であり,そのような態様は表れていないものである点。


4.本件登録意匠と甲1意匠の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

(1)共通点の評価
共通点(A)及び同(B)は,両意匠を極めて概括的に捉えた場合の共通点に過ぎず,一方で相違点(ア)乃至(エ)を有しているのであるから,これらの共通点のみでは直ちに両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。また,これらの共通点としてあげた構成態様は,例を挙げるまでもなく,この種物品分野の先行意匠において,あまた見られる構成態様であって,これらの共通点が両意匠の類否判断に与える影響がさほど大きいものとすることはできない。

(2)相違点の評価
相違点(ア)について,本件登録意匠の構成態様は,タイルカーペットの構成態様としては,極ありふれたものであるから,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどない。また,甲1意匠について,裏面側の態様が不明であるとしても,じゅうたんという物品の特性を考えれば,表面側の模様の態様のみが表れていれば,対比が可能であり,この点も両意匠の類否判断に及ぼす影響は,ほとんどない。さらに,本件登録意匠が,平面視正方形状であるのに対して,甲1意匠は,平面視,縦横比は約1:1.4の横長矩形状である点も,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,わずかである。

相違点(イ)について,本件登録意匠は暗調子の地の上に明調子の模様,甲1意匠は明調子の地の上に暗調子の模様であるが,両者は単に明暗が逆転しただけに過ぎず,この種物品に限らず,広く繊維製品等の分野の意匠における創作実態を考慮すれば,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,極めて小さいというべきである。

相違点(ウ)の縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,本件登録意匠は,全体として29本前後であるのに対して,甲1意匠は,全体として32本である点は,数えてそれとわかる程度の相違であって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,微弱という他ない。

相違点(エ)については,両意匠の床敷物を含む繊維製品等の,いわゆる模様の構成態様が創作の主体となる意匠においては,両意匠の類否判断を決定付ける大きな相違というべきであり,前記共通点が両意匠を極めて概括的に捉えただけで,両意匠の類否判断を決定付けるほどのものではないのに対して,この相違点は,見る者に対して,本件登録意匠については,縦条模様が繊維の起毛状態として,縦方向に断続的に連なった略直線状の短い縦線によって表されているという,いってみれば,凹凸感を有した複雑な態様を有しているという印象を与え,甲1意匠については,縦条模様が平面的な表面に絵画的な表現として表されており,いってみれば,単純で平板な態様であるという印象を与えている,すなわち,この相違点は,見る者に対して,両意匠が別異のものであるとの印象を与えているという他ない。

(3)小括
以上を総合すれば,共通点(A)及び同(B)が,この種物品分野の意匠における評価としては,両意匠を極めて概括的に捉えた場合の共通点に過ぎず,また,相違点(ア)ないし(ウ)も,この種物品分野の意匠における評価としては,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他なく,これらによっては,両意匠の類否判断は,決定付けられているということはできない。
しかしながら,相違点(エ)は,両意匠の床敷物を含む繊維製品等の,いわゆる模様の構成態様が創作の主体となる意匠においては,極めて大きな相違であって,見る者に対して,両意匠が別異のものであると印象を与えており,両意匠の類否判断を決定付けているという他ない。
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態については,両意匠の共通点が類否判断に及ぼす影響が大きいものではないのに対し,相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいので,類似するということはできない。


5.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当せず,請求人の提出した証拠および主張によっては,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項に該当しないから,無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2011-04-22 
結審通知日 2011-04-26 
審決日 2011-05-12 
出願番号 意願2004-36237(D2004-36237) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (C1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川崎 芳孝斉藤 孝恵 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 杉山 太一
遠藤 行久
登録日 2006-11-17 
登録番号 意匠登録第1289529号(D1289529) 
代理人 速見 禎▲祥▼ 
代理人 松波 祥文 
代理人 岩坪 哲 
代理人 水谷 博之 
代理人 石井 雄介 
代理人 藏冨 恒彦 

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