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審決分類 審判    K9
管理番号 1241305 
審判番号 無効2010-880007
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-12 
確定日 2011-07-28 
意匠に係る物品 ショックアブソーバ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1381594号「ショックアブソーバ」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1381594号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.手続の経緯

本件意匠登録第1381594号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,2006年(平成18年)10月30日に意匠登録出願されたものであって,2009年(平成21年)4月30日付けで拒絶査定を受けたので,これを不服として,審判を請求したところ,これは拒絶査定不服審判事件2009-14753として審理され,2009年(平成21年)11月25日付けで,結論「原査定を取り消す。本願の意匠は,登録すべきものとする。」との審決がなされた後,2010年(平成22年)2月5日に意匠権の設定の登録がなされ,2010年(平成22年)3月8日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 平成22年 7月12日
・審判事件答弁書提出 平成22年 9月13日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成22年10月28日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成22年11月11日
・口頭審理 平成22年11月25日
・上申書(請求人)提出 平成22年11月29日
・上申書(被請求人)提出 平成22年12月10日


第2.請求人の申立及び請求の理由

1.本件意匠登録無効審判請求人(以下,「請求人」という。)は,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由を要旨以下のとおり主張し(平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書及び平成22年11月29日付け上申書の内容を含む。),その主張事実を立証するため,甲第1号証乃至甲第7号証(枝番含む。)及び参考意匠1乃至参考意匠4を提出した。

2.本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)無効理由の要点
本件登録意匠は,本件意匠の出願前に公然知られた意匠と同一又は類似する意匠である。また,本件登録意匠は,本件意匠の出願前に頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似する意匠である。したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号,同項第2号又は同項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

(2)本件意匠登録を無効とすべきである理由
(i)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
甲第2号証は,本件登録意匠の出願前,平成17年(2005年)7月に株式会社コガネイから発行されたカタログ「ショックアブソーバ/KSHJシリーズ」の写しである。また,甲第3号証は,本件登録意匠の出願前,2004年(平成16年)9月1日に日刊工業新聞社から発行された雑誌「機械設計」の写しである。さらに,甲第4号証は,本件登録意匠の出願前,2004年(平成16年)9月1日に日刊工業新聞社から発行された雑誌「機械技術」の写しである。
甲第2号証のカタログには,ショックアブソーバの先行意匠が記載されている。

甲第2号証の2は,甲第2号証と同一のカタログの写しであり,「先行意匠1」及び「先行意匠2」を特定するために新たに提出するものである。甲第2号証の2に「先行意匠1」と付して記載されるショックアブソーバの意匠を「先行意匠1」とする。また,甲第2号証の2に「先行意匠2」と付して記載されるショックアブソーバの意匠を「先行意匠2」とする。

また,甲第3号証の雑誌(67ページ)及び甲第4号証の雑誌(94ページ)には,甲第2号証の先行意匠と同一の先行意匠が記載されている。

この先行意匠の基本的構成態様は,外周にねじ山を備えたシリンダ本体と,このシリンダ本体から突出するロッドとによって構成されている。また,具体的構成態様として「シリンダ本体のねじ山が,シリンダ本体の前端を除くほぼ全長に渡って形成されている点」及び「シリンダ本体の後端部の両側面に,ねじ山の一部を切り欠いた平坦部が形成されている点」が挙げられる。さらに,具体的構成態様として「シリンダ本体の後端に切り欠きが形成されている点」が挙げられる。

なお,甲第3号証,甲第4号証に示すように,先行意匠に係るショックアブソーバは,株式会社コガネイによって遅くとも2004年(平成16年)9月迄に製造・販売が開始されている。(注:この点について,請求人は,平成22年11月29日付け上申書において,要旨以下のように上申した。「[2]平成22年7月12日提出の審判請求書に添付した甲第4号証の「機械技術」の第94ページの広告欄には,本来であれば「KSHJシリーズ」と記載すべきところ,発行所の錯誤により「KSJHシリーズ」と誤記されていた。審判請求人会社は「KSJHシリーズ」という商品を製造販売しておらず,これは誤記であることを上申する。」)

すなわち,甲第2号証乃至甲第4号証に記載された先行意匠は,本件登録意匠の出願前の2004年(平成16年)9月において公然知られた意匠となっている。
甲第6号証は,2006年(平成18年)3月に株式会社コガネイから発行されたカタログ「調質・補助・真空・フッ素樹脂製機器総合力タログVer.4」の写しである。この甲第6号証に「先行意匠3」と付して記載されるショックアブソーバの意匠を先行意匠3とする。
先行意匠1?3はナットの有無を除いて同一の意匠であることから,以下の説明においては,先行意匠1?3を纏めて単に「先行意匠」と記載し,「先行意匠」と本件登録意匠との類否判断を行うこととする。

(ii)本件登録意匠と先行意匠との比較
意匠に係る物品は,両意匠ともに「ショックアブソーバ」であり,同一の物品である。また,基本的構成態様については両意匠ともに同一であるが,具体的構成態様については若干の差異点が認められる。以下,具体的構成態様の共通点と差異点とについて説明する(甲第5号証参照)。
[共通点]
(イ) シリンダ本体のねじ山が,シリンダ本体の前端を除くほぼ全長に渡って形成されている点で共通する。
(ロ) シリンダ本体の後端部の両側面に,ねじ山の一部を切り欠いた平坦部が形成されている点で共通する。さらに,この平坦部の形状は,算盤珠の断面形状のような特殊な形状となっている点で共通する。

[差異点]
(イ) 先行意匠にはシリンダ本体の後端に切り欠きが形成されているが,本件登録意匠にはシリンダ本体の後端に切り欠きが形成されていない点で相違する。

「シリンダ本体後端」のように,意匠全体に占める割合が極めて小さい部位が要部と認められるためには,他の構成態様を凌駕する程に需要者の注意を強く惹きつける要因が必要である。しかしながら,「シリンダ本体後端」は,使用態様において最も目立つ部位でもなく,使用者によって操作される部位でもないことから,意匠の要部とは成り得ない部位である。
また,シリンダ本体後端に対して六角穴を形成することは,本件登録意匠の出願前から採用されている一般的な形状であり,需要者の目を奪うような革新的なデザインとは成り得ない。さらに,六角穴を備えたシリンダ本体後端は,出願前に既に公知形状であることからも考えると。「六角穴を備えたシリンダ本体後端」についても,意匠の要部とは成り得ないことが明らかである。

このように,「(六角穴を備えた)シリンダ本体後端」が意匠の要部と認められない以上,その他の基本的構成態様及び具体的態様が共通する本件登録意匠と先行意匠とは同一又は類似するものである。

なお,甲第2号証乃至甲第4号証に掲載されるショックアブソーバは,シリンダ本体に2つのナットを取り付けた状態で撮影されている。これらのナットは,ショックアブソーバを装置等に固定するためのナットであり,甲第5号証の斜視図部分に示すように,シリンダ本体から容易に取り外されるものである。

(3)むすび
本件登録意匠は,本件意匠の出願前に公然知られた意匠と同一又は類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第1号又は同項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。また,本件登録意匠は,本件意匠の出願前に頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第2号又は同項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。したがって,本件登録意匠は,同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。


3.請求人が提出した証拠等
(審判請求書に添付)
・甲第1号証:拒絶理由通知書,意見書,拒絶査定謄本,審判請求書の写し
・甲第2号証:株式会社コガネイから発行されたカタログの写し(カタログ名:ショックアブソーバ/KSHJシリーズ)
・甲第3号証:日刊工業新聞社から発行された雑誌の写し(雑誌名:機械設計 第48巻 第10号)
・甲第4号証:日刊工業新聞社から発行された雑誌の写し(雑誌名:機械技術 第52巻 第9号)
・甲第5号証:本件登録意匠と先行意匠との比較図

(口頭審理陳述要領書に添付)
・甲第2号証の2:株式会社コガネイから発行されたカタログの写し
・甲第6号証:株式会社コガネイから発行されたカタログの写し
・甲第7号証の1:SMC株式会社から発行されたカタログの写し
・甲第7号証の2:SMC株式会社製ショックアブソーバ(RB1412)の画像資料
・甲第7号証の3:SMC株式会社から発行された「本店移転のお知らせ」の写し
・参考資料1(:SMC株式会社のホームページ(URL: http://www.smcworld.com)において公開されているショックアブソーバ(RJシリーズ)のカタログ 『ショックアブソータ ソフトタイプ RJ Series』)
・参考資料2(:株式会社コガネイから発行されたカタログ『Best Pneumatics 2』の写し)
・参考資料3(:日本規格協会から発行された『JISハンドブック(ねじ1997)』)
・参考資料4(:不二ラテックス株式会社から発行されたカタログ『SOFT ABSORBER FUJI SEIKI 大型アブソーバー』(2002年4月現在))


第3.被請求人の答弁

1.被請求人は,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由として要旨以下のとおり主張し(平成22年11月11日付け口頭審理陳述要領書及び平成22年12月10日付け上申書の内容を含む。),その主張事実を立証するため,乙第1号意匠乃至乙第3号証並びに参考図及び参考資料1を提出した。

2.答弁の理由(審判事件答弁書における主張要旨)
(1)無効の主張に対する反論
請求人は,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた意匠,又はその出願前に頒布された刊行物に記載された意匠と,同一又は類似の意匠であるから,意匠法第3条第1項第1,2号又は3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,そのため,開法第48条第1項第1号に該当し,無効とされるべきである旨を主張する。
しかしながら,本件登録意匠は請求人が主張するような既知の意匠と同一又はそれに類似するものではない。

(2)本件登録意匠と甲第2号証所載の意匠との対比
(2-1) 甲第2号証のカタログには,本件登録意匠と同様に,意匠に係る物品を「ショックアブソーバ」とする意匠が掲載されている。該カタログに掲載のショックアブソーバに係る意匠(以下,甲2意匠という)の基本的な構成態様は,外周にねじ部を備えたシリンダ本体と,このシリンダ本体の先端から突出するロッドと,該シリンダ本体の後端の操作部とによって構成され,この点では本件登録意匠における基本的構成態様と共通している。
しかしながら,両意匠は,それらの具体的構成態様において明白に相違している。即ち,両意匠は,その具体的構成態様において,上記シリンダ本体の外周の前端部を除くほぼ全体にねじ部が形成され,上記シリンダ本体の後端の操作部においては,上記シリンダ本体のねじ部の両側面におけるねじ山の一部のみを切り欠いて平坦部を設けた点で共通性を有しているが,シリンダ本体の後端の操作部のその余の具体的構成態様においては明白に相違している。
(2-2) ここで,本件登録意匠の意匠に係る物品である「ショックアブソーバ」の機能及び使用態様について考察するに,本来,本件登録意匠の「ショックアブソーバ」や,それと基本的構成態様を同じくするショックアブソーバは,主として,直線的に移動する移動部材を備えた機器において,その移動部材を緩衝的に停止させるために,上記移動部材の停止位置において,上記シリンダ本体の一端から突出しているロッドを移動部材側に向けて,その機器の取付台部にシリンダ本体の外周のねじ部を螺挿して配設されるものである。その使用態様を,乙第1号証として提示する登録第1108528号意匠公報,並びに,乙第2号証として提示する株式会社コガネイの「駆動機器 Zスライダ」に関するホームページの要部コピー,及び,乙第3号証として提示するSMC株式会社の「メカジョイント式ロッドレスシリンダ MY2 Series」についてのカタログの要部コピーによって例示する。上記乙各号証においては,使用されているショックアブソーバを朱記の矢印によって示している。
これらの使用態様からわかるように,上記ショックアブソーバは,そのシリンダ本体のねじ部の相当範囲が機器の取付台部に螺挿され,シリンダ本体の一端から突出するロッドは移動部材側に向けて配置され,上記機器の取付台部に対する取り付けや位置調整に供する後端の操作部が,機器の外側に向いた位置に配設されることになる。
即ち,例えば,甲第2号証カタログの表紙のように,ショックアブソーバとしての商品の概要を需要者に訴えるための写真等の外観図は,商品の紹介であるために,外周にねじ部を備えたシリンダ本体とこのシリンダ本体の先端から突出するロッドなどが主たる要素として表現されるが,上述した乙第1?3号証におけるショックアブソーバの使用態様をも考慮すると,このショックアブソーバが機器に取り付けられた状態においては,シリンダ本体の後端の操作部が,最も見易くて目立つ位置に配設され,操作者が最も注目する部位になり,そのため,ショックアブソーバ自体の意匠としても,該シリンダ本体の後端の操作部が,観者の最も注目する特徴的部分になる。
しかも,上記各乙号証の記載からわかるように,移動部材を備えた機器においては,ショックアブソーバの後端の操作部の配設位置に近接して多くのねじ頭,ロッド端,穴,給排気ポート等が存在し,ショックアブソーバの後端操作部にはそれらと区別するための意匠性を付与する必要もあることから,このショックアブソーバの後端操作部は,当該ショックアブソーバの意匠の要部を構成する部位というべきである。
(2-3) 上述した観点から本件登録意匠と甲2意匠を対比すると,前述したように,本件登録意匠と甲2意匠は,シリンダ本体の外周のほぼ全体にねじ部が形成され,シリンダ本体の後端の操作部において,該シリンダ本体のねじ部の両側面におけるねじ山の一部のみを切り欠いて平坦部を形成した点で共通性を有しているが,本件登録意匠では,該シリンダ本体の後端面を,丸穴内に六角穴を有する部材を装入した形態としているのに対して,甲2意匠では,シリンダ本体の後端の周筒部の対向位置に一対の切り欠きが形成され,また後端の周筒部内においてシリンダ本体に小ねじが螺挿されている。
ただし,甲第2号証カタログの8ページ最下段の内部構造と主要部材質を示す図と同9ページの寸法図とでは,それらが同一構造のものであるか否かが不明であり,特に小ねじの頭部形態が明確に示されていない。
従って,甲2意匠のシリンダ本体の後端の操作部はその形態が不明確であり,本件登録意匠と詳細に対比することができない。しかしながら,甲第2号証力タログの9ページの寸法図において,上記切り欠きの寸法まで記入され,これは当該切り欠きにも重要性がある証であり,しかも,甲2意匠では少なくともシリンダ本体の後端周筒内に本件登録意匠と対比できる六角穴に対応するものが見当たらないことから,甲2意匠におけるシリンダ本体の後端の操作部の具体的な構成態様は,本件登録意匠のそれと対比する部分がなく,両意匠が大きく異なっていることは明らかである。そして,上記シリンダ本体の後端操作部の具体的な構成態様が,この種のショックアブソーバの意匠で観者が注目する部分であることは前述したとおりであり,上記相違点は,両意匠に異なる美感を与えるのに十分な相違点であって,それらの差違は微細なものではない。
従って,本件登録意匠と甲2意匠とは,具体的な構成態様において大きく異なり,結果的に両意匠は類似するものではない。

(3)結び
以上に詳述したように,本件登録意匠と請求人が先行意匠と主張する引用意匠とは構成態様が明らかに相違し,両者は非類似である。
従って,答弁の趣旨のとおり,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めるものである。


2.平成22年11月11日付け口頭審理陳述要領書における主張要旨
・請求人の口頭審理陳述要領書での主張に対するその他の反論
〔1〕請求人は,口頭審理陳述要領書の(3)-2.(4ページ)において,被請求人会社のホームページにおいて公開されているカタログ(参考資料1)を提示し,「シリンダ本体後端に装着される六角穴付きプラグは,シリンダ本体内に油を封入しておくためのプラグであり,操作用のプラグでないことが明らかである。」ことから,本件登録意匠において「シリンダ本体後端」が要部であるとの被請求人主張は失当である,と主張するが,上記プラグが操作用のプラグでないと,なぜ「シリンダ本体後端」が要部であるとの主張が失当であるのか理解できない。
〔2〕請求人は,口頭審理陳述要領書の(3)-3.(5ページ)において,乙第1及び2号証並びに参考資料2を確認すると,シリンダ本体の後端部だけが露出することはなく,シリンダ本体やロッドについても露出した状態になっていると主張するが,被請求人はシリンダ本体の後端部「だけ」が露出する旨を主張するものではない。


3.平成22年12月10日付け上申書における主張要旨
本件請求人が主張する無効理由,並びに同請求人が平成22年10月28日付けで提出した口頭審理陳述要領書における主張に対し,被請求人は以下のとおりの反論の追加を上申する。
〔1〕 本件登録意匠に係るショックアブソーバの具体的構成
〔1-1〕 本件登録意匠に係るショックアブソーバの内部構造の一例を,添付の参考図(請求人が提出した「参考資料1」の7ページの構造図に示されているものと同一:別紙第4参照。)を参照して説明すると,当該ショックアブソーバは,シリンダ本体1内に油を充填するピストン室1aを備え,該ピストン室1a内に,シリンダ本体1から突出しているピストンロッド2の内端に取り付けたピストン3を収容している。上記ピストンロッド2は,軸受4でシリンダ本体1に摺動自在に支持され,該ピストンロッド2にはピストン3と共にスプリングガイド5がロックリング6で取り付けられ,そのスプリングガイド5を介してピストンロッド2に作用する復帰ばね7の付勢力によって,該ピストンロッド2は前進端である初期位置(構造図の位置)側に押圧されている。
一方,ピストンロッド2の先端に緩衝停止させるべき移動部材が衝突して,該ロッド2がシリンダ本体1内に押し込まれると,ピストン3の外周におけるピストン室1aの内面との間に設けている油の流通間隙を経て,ピストン室1a内の油がピストン3の反対面側に流出し,その際の油の流動抵抗によりピストンロッド2に制動力を発生させて該ロッド2に作用する移動部材の機械的衝撃力が吸収され,該移動部材は最終的にシリンダ本体1の端部のストッパ8に当接する位置で停止する。
〔1-2〕 上記ショックアブソーバでは,ピストンロッド2に作用する移動部材の機械的衝撃力によりピストン室1a内の油が加圧されてピストン3の反対面側に流出するが,この油が,長期にわたるショックアブソーバの使用によりピストンロッド2と軸受4との間の隙間及びピストンロッド2とロッドパッキン12との間の隙間を経て僅かながら外部に流出するのを避けることができず,その流出が進行すると油中への空気の混入等によってショックアブソーバは性能が低下するに至る。
上記シリンダ本体1内のピストン室1aに充填した油の流動抵抗によりピストンロッド2に制動力を発生させるショックアブソーバでは,通常,上記シリンダ本体1の後端面側において,製造時におけるピストン室1aへの注油のための注油口を開口させ,注油後にその注油口をねじ等のプラグで封止するが,本件登録意匠に係るショックアブソーバにおいては,上述したピストン室1aからの油の流出による性能の低下を抑制するため,上記シリンダ本体1の後端面におけるピストン室1aの開口をプラグ10によって封止しているが,該開口を単純な注油口とするのではなく,以下に説明するように,シリンダ本体1内のアキュムレータ11との関連において与圧機能を発揮するように構成している。なお,図中,13はOリングを示している。
〔1-3〕 上記油の流動抵抗によりピストンロッドに制動力を発生させるようにしたショックアブソーバにおいて,シリンダ本体内にアキュムレータを設け,ピストンロッドに対する移動部材の衝突時に,ピストン3の反対側に流動し加圧される油の一部,すなわちピストンロッド体積分の油を収容する機構は,甲第2号証に示されているショックアブソーバを含めて従来から知られているものである。それらのショックアブソーバでは,シリンダ本体の後端面におけるピストン室の注油口を,製造時におけるピストン室への注油に必要な範囲の小径孔として開口させ,注油後にその注油口を小径のねじ等のプラグで封止している。
これに対して,本件登録意匠に係るショックアブソーバでは,シリンダ本体1内に設けたアキュムレータ11に,加圧により収縮する合成ゴムを収容しているが,該アキュムレータ11は,ピストン室1aからピストン3の背後に流入した加圧されている油を一時的に収容することのみを目的とするものではなく,シリンダ本体1の後端面に開口する大径の与圧孔10aを大径のプラグ10によって封止しながら,ピストン室1aに充填した油を加圧してアキュムレータ11内の合成ゴムを圧縮することにより,そこに初期圧縮による収容分容積の油を更に追加貯蔵し,前述したピストンロッド2と軸受4との間の隙間及びピストンロッド2とロッドパッキン12との間の隙間を経て外部に流出するのを避けられない油の収容量を増やすことにより,ショックアブソーバの性能の低下を抑止し,長寿命化を図るための寿命向上機構を付与している。
〔1-4〕 上記プラグ10の与圧機能について更に具体的に説明すると,上記プラグ10によりピストン室1aに加圧して追加的に充填する油量の増大分け,プラグ10に設けているシール部9の断面積とプラグ10のシール部9で与圧孔10aを封止してからの該プラグ10の押し込み長さの積によって与えられ,ここで該プラグ10の押し込み長さを増大させるのは,ショックアブソーバのシリンダ本体1を長大化することになるので望ましいことではなく,そのため,上記与圧孔10aのシール部9の径を増大させることになる。この場合に,上記与圧孔10aを封止するプラグ10は,そのシール部9の径が大きくなると同時にピストン室1a内の油の圧力に抗して螺挿するため,既知のショックアブソーバのように単純に注油口を封止する場合に比して,大きい力で螺挿する必要もある。そのため,プラグ10自体がシリンダ本体1のピストン室1aの内径に近づく程度に大径になり,しかも,ショックアブソーバの後端操作部は,先に被請求人が答弁書や口頭審理陳述要領書において主張しているように,ショックアブソーバの意匠の要部を構成する部位でもあることから,プラスあるいはマイナスのドライバーで螺挿するネジ頭をもったプラグでは操作性において劣るるだけでなく,意匠の要部としての外観として不適切であるため,上記与圧孔10aを閉じるプラグ10としては,その該端面に六角レンチで回転させる六角穴10bを設けたものを使用している。因みに,シリンダ本体1の外周のねじサイズがM10の製品では,プラグ10の締め込み時の与圧による油の増大量は28.5mm3にもなっている。
〔1-5〕 更に,外面に上記六角穴10bを備えたプラグ10は,上述したように,シリンダ本体1内のアキュムレータ11との関連において与圧機能を発揮するように構成し,その機構上,プラグ10自体がシリンダ本体1のピストン室1aの内径に近づく程度に大径になるため,従来から知られているショックアブソーバのシリンダ本体の後端面におけるピストン室の注油口を,ピストン室への注油に必要な範囲の小径孔として開口させて,その注油口を小径のねじ等のプラグで封止しているものとは,本質的に異質のものであり,特に,本件登録意匠においては,上記六角穴は,与圧機能を発揮可能にすると同時にその視認が容易にできる程度の大きさを持つものとして形成したものであり,この点で意匠の要部として特異な具体的構成態様を有するものである。

〔2〕既存の主たるショックアブソーバの各種形態
本件登録意匠に係るショックアブソーバと同様に,ピストンロッドに作用する移動部材の衝撃力に対し,ピストン室内の油の流動抵抗による制動力を発生させて,該ロッド2に作用する移動部材の機械的衝撃力を吸収できるようにしたタイプのショックアブソーバの主なものとしては,大別して,甲第2号証や甲第7号証の1に示されているような,単純にピストン室内に油を封じ込めるようにしたタイプ1,本件登録意匠や添付の参考資料1に示されているような与圧機能を付加したタイプ2,請求人が参考資料4として提出しているような調整式アブソーバで,アジャスターを外部に備え,内部に設けられている油の通路の絞りを調整することにより油の流動抵抗による制動力を調整可能にしたタイプ3,などを挙げることができる。
上記タイプ1の「ショックアブソーバ」は,一般に後端面の中央に油を内部に封止するためのねじの螺挿や鋼球の打ち込みを行ったもので,上記ねじや鋼球はコストを低減するために加工が容易な範囲内で小さく形成されるものである。一方,上記タイプ3は,内部機構との関連で外部にアジャスターを設けるため,上記タイプ1のものと意匠的に異なる種々の形態をとるのが通例である。本件登録意匠は,上記タイプ2に属するものでありながら,タイプ1に比較的近似した形態をとり,しかしながら,上記〔1-4〕及び〔1-5〕項で述べたように,タイプ1の場合に比して十分に大きい与圧孔10aを六角穴10bを有するプラグ10で閉じるようにした特殊なものである。

〔3〕本件登録意匠の形態
〔3-1〕 本件登録意匠に係るショックアブソーバの基本的な構成態様は,答弁書において明確にしたように,外周にねじ部を備えたシリンダ本体と,このシリンダ本体の先端から突出するロッドと,該シリンダ本体の後端の操作部とによって構成されるものである。
それらの具体的構成態様としては,上記シリンダ本体が,その外周の前端部の短円筒部分を除くほぼ全体にねじ部が形成された形態を有し,また,上記ロッドは,シリンダ本体の前端から外部に直線状に突出する断面円形の棒状の形態を有するものであり,これらのシリンダ本体及びロッドの形態は,本件登録意匠の出願時に公知であった各種ショックアブソーバの形態を参酌すると,機能的必然性に基づいて形成された形態ということもできる。
これに対し,上記シリンダ本体の後端の操作部の具体的構成態様は,上記シリンダ本体のねじ部の両側面におけるねじ山の一部のみを切り欠いて平坦部を設けると共に,シリンダ本体の後端面にシリンダ本体内のピストン室の内径に近づく程度に大径の与圧孔を開口させて,それに六角穴を有する大径のプラグを螺挿して,ピストン室に充填した油を加圧封止した形態を有し,結果的に,上記六角穴は,その視認が容易にできる程度の大きさを持つものとして形成している。
〔3-2〕 一方,このショックアブソーバの後端操作部は,上述したように大径にしているので,プラスあるいはマイナスのドライバーで螺挿するネジ頭をもったプラグでは操作性において劣るるだけでなく,先に被請求人が答弁書や口頭審理陳述要領書において主張しているように,ショックアブソーバの意匠の要部を構成する部位でもあることから,上記プラスあるいはマイナスのドライバーで螺挿するネジ頭では意匠の要部の外観としても不適切である。
そこで,本件登録意匠においては,シリンダ本体の後端の操作部において,上記シリンダ本体のねじ部の両側面におけるねじ山の一部を切り欠いて平坦部を設けると共に,シリンダ本体の後端面に大径の与圧孔を開口させて,それを大径のプラグで封止するに当たり,該操作部を後端面側からみると,上記シリンダ本体のねじ部の両側面におけるねじ山の一部を切り欠いて形成した平坦部の存在が,円筒状のシリンダ本体を六角形に近づけた形態を有し,これに対し,上記与圧孔に螺挿するプラグには六角レンチ用の六角穴を設けるのが,デザイン的なマッチングとして適切であり,意匠の要部に美感を与えることができるとの判断に基づき,上記後端操作部の具体的構成態様を採用したものである。

〔4〕請求人の口頭審理陳述要領書での主張に対する反論
〔4-1〕 請求人は,平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書において,甲第7号証の1として,被請求人会社のカタログの写しを提示し,ショックアブソーバのシリンダ本体の後端に設けた止めねじとして六角穴を備えたものは公知である旨を主張する。また,参考資料3において六角穴のあるねじが公知であり,参考資料4においてもショックアブソーバにおいてリアーアジャスターの操作孔が六角穴になっている旨を主張する。
〔4-2〕 しかしながら,上述したところからわかるように,甲第7号証の1の被請求人の発行に係るカタログに示されているショックアブソーバは,シリンダ本体の外周のねじが該シリンダ本体の中間部分のみに設けられ,前端部と後端部はねじが設けられていない円筒状であり,また,上記ねじの全長にわたってねじ山の対向側面が欠切された平坦部が形成されたものであるだけでなく,本件登録意匠の要部を構成するシリンダ本体の後端の操作部の上述した具体的構成態様とは明らかに相違するものである。
〔4-3〕 また,参考資料3及び参考資料4において,六角穴のあるねじやショックアブソーバの端部に六角穴が存在するものが知られていても,本件登録意匠のように,特定の形態を有するショックアブソーバにおいて,特定の位置に他の形態とのバランスをも考慮して六角穴が設けられた意匠の新規性を否定する理由にはなり得ないものである。


4.被請求人が提出した証拠等
(答弁書に添付)
・乙第1号証:登録第1108528号意匠公報
・乙第2号証:株式会社コガネイの「駆動機器 Zスライダ」に関するホームページの要部コピー
・乙第3号証:SMC株式会社の「メカジョイント式ロッドレスシリンダ MY2 Series」についてのカタログの要部コピー

(上申書に添付)
・参考図
・参考資料1



第4.口頭審理

当審は,本件審判について,2010年(平成22年)11月25日に口頭審理を行った。(平成22年11月26日付「第1回口頭審理調書」)

1.請求人は,請求の趣旨及び理由は,平成22年7月12日付け審判請求書及び 平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。

2.被請求人は,答弁の趣旨及び理由は,平成22年9月13日付け審判事件答弁書及び平成22年11月11日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し,請求人が甲第2号証として提出したカタログの原本を確認した。



第5.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠登録原簿及び出願書類の記載によれば,2006年(平成18年)10月30日の意匠登録出願に係り,2010年(平成22年) 2月 5日に設定の登録がなされた登録第1381594号の意匠であって,意匠に係る物品を「ショックアブソーバ」とし,その形態は,願書に添付した図面の記載のとおりとするものである。(別紙第1参照)

すなわち,その形態は,
基本的構成態様として,
全体は,外周面全体に「ねじ部」を形成した略細長円柱状の「シリンダ本体部」と,その片側の端部(図面上,正面左側の部分:以下,「先端部」という。)に突設状に形成した,長さが短い「ピストンロッド部」からなるものであり,

具体的構成態様として,
ピストンロッド部は,先端周縁部が面取りされた,径の細い丸棒状のものであり,
シリンダ本体部は,ピストンロッド部が設けられた先端部は,該部の周縁に細幅帯状で2段構成となっている「環状縁部」と,ピストンロッド部が貫通し該縁部に蓋状に嵌着された略薄盤状の「プラグ部」からなる「ピストンロッド基盤部」が形成され,
シリンダ本体部のもう一方の端部(図面上,正面右側の:以下,「後端部」という。)側の周辺には,ねじ山の平面部分と底面部分の一部,ねじ山の数として5乃至6,がそれぞれ正面視水平状に切り欠かれた一対の略平行面部である「平坦部」が形成され,
シリンダ本体部の後端部の端面部(図面上,右側面の部分:以下,「後端面部」という。)には,シリンダ本体部と同心円状に形成された,浅い「円形状孔部」,及び,その内側に六角形の孔部を有する「止めねじ部」が形成されている態様のものである。


2.甲第2号証の意匠(甲2意匠)
請求人が,甲第2号証によりその写しとして提出した刊行物,国内カタログ『ショックアブソーバ/KSHJシリーズ』は,本件登録意匠の出願前,平成17年(2005年)7月に株式会社コガネイから発行されたものであり(同カタログの奥付には「2004年6月1日 初版 2005年7月 3版」との記載がある。),それに記載された本件登録意匠の無効理由である先行意匠は,甲第2号証の2によって「先行意匠1」及び「先行意匠2」とされたものであり,六角ナットがないものである「先行意匠1」が,同カタログの第2ページの左下,「本体全ねじ化 本体を全てねじ化。取付範囲を最大限に使用できます。」というキャプションの下に記載されたショックアブソーバの意匠であり,また,そのシリンダ本体部の中央に六角ナットを2個取り付けた状態のものである「先行意匠2」が,同カタログの表紙,右列上から2番目に記載されたショックアブソーバの意匠及び同カタログの第1ページの上段中程に記載された製品番号を「M14 KSHJ14×12」(以下,この製品番号は,「KSHJ14」と略す。)とするショックアブソーバの意匠であり,先行意匠2は,同カタログにおいて,第7ページにその「仕様」が,また,第8ページの左下に「内部構造と主要部材質」として,略断面図状の図版が掲載されている。当審は,先行意匠2のシリンダ本体部の中央に取り付けられた2個の六角ナットが取り外し可能であることが,先行意匠1等から明らかであることから,先行意匠1,及び,先行意匠2の図版から2個の六角ナットを取り外したものによって表された意匠を,以下,「甲2意匠」とし,甲第2号証における上記の記載から,この甲2意匠を認定し,本件登録意匠と対比の上,本件登録意匠に無効理由が存在するか否かを判断することとする。(別紙第2参照)
なお,甲2意匠の本件登録意匠の出願前における公知性は,2004年(平成16年)9月1日を発行日とする甲第3号証の国内雑誌『機械設計 2004年9月号』の第67ページの「新製品ニュース」,「株式会社コガネイ KSHJシリーズ ショックアブソーバ」などの補助証拠により補強されていることを念のため付け加える。


3.本件登録意匠と甲2意匠の対比
本件登録意匠と甲2意匠は,意匠に係る物品がいずれも「ショックアブソーバ」であって,一致し,形態については,主として,以下のとおりの共通点及び相違点がある。

(なお,対比のため,本願意匠の図面における正面,平面等の向きを,甲2意匠にもあてはめることとする。)

(1)形態の共通点
基本的構成態様として,
(A)全体は,外周面全体にねじ部を形成した略細長円柱状のシリンダ本体部と,その先端部に突設状に形成した,長さが短いピストンロッド部からなるものである点,
具体的構成態様として,
(B)ピストンロッド部は,先端周縁部が面取りされた,径の細い丸棒状のものである点,
(C-1)シリンダ本体部は,ピストンロッド部が設けられた先端部は,該部の周縁に細幅帯状で2段構成となっている環状縁部とピストンロッド部が貫通し該縁部に蓋状に嵌着された略薄盤状のプラグ部からなるピストンロッド基盤部が形成されている点,
(C-2)シリンダ本体部の後端部側の周辺には,ねじ山の平面部分と底面部分の一部がそれぞれ正面視水平状に切り欠かれた一対の略平行面部である平坦部が形成されている点,
(D)シリンダ本体部の後端面部には,シリンダ本体部と同心円状に形成された,浅い円形状孔部,及び,その内側に止めねじ部が形成されている態様のものである点。(なお,甲2意匠の後端面部が直接的に表された図版がないが,甲第2号意匠の第8ページの左下に記載の「内部構造と主要部材質」における略断面図状の図版及びその説明によれば,甲2意匠の後端面に形成された孔部の内側には「(12) 小ねじ」と称する止めねじ部が形成されていることは明らかである。)

(2)形態の相違点
(ア)シリンダ本体部の後端部側の周辺のねじ山の切り欠きが,本件登録意匠は,ねじ山の数として5乃至6であるのに対して,甲2意匠は,ねじ山の数として3乃至4である点,
(イ)シリンダ本体部の後端部の態様について,甲2意匠には,後端部の正面と背面,すなわち,平坦部と略90°角度の異なる位置に略「コ」字状の切り欠き部がそれぞれ形成されているのに対して,本件登録意匠には,それがない点,
(ウ)シリンダ本体部の後端面部の態様について,本件登録意匠は,止めねじ部の形状が,六角穴付ボルトの頭部状であって,六角形の孔部を有したものであるのに対して,甲2意匠は,それが,緩やかな凸面状であり,その頂面にねじ状の孔部があるかどうかは不明である点。


4.本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
以上の一致点,共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態については,以下のとおりである。

(1)共通点の評価
前記の両意匠の共通点(A)乃至(D)は,両意匠の形態全体にわたる特徴をよく表すところであって,両意匠の基調を形成し,見る者に共通の印象を強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっている。とりわけ,基本的構成態様に係る共通点(A)及び具体的構成態様に係る共通点(C-2),すなわち,シリンダ本体部のほぼ全体をねじ化した上で,その操作性を維持するために,シリンダ本体部の後端部においてねじ山の一部を切り欠いて平坦部を形成した構成態様は,両意匠の前には見られなかった,両意匠のみに特徴的なものであり,この点のみをもって両意匠の類否判断を決定付けているとまでいい得るものである。

(2)相違点の評価
これに対して,具体的態様に係る相違点(ア)乃至(ウ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱にとどまるものであって,上記共通点が与える強い共通の印象を覆すほどのものではない。
すなわち,相違点(ア)のシリンダ本体部の後端部側の周辺のねじ山の切り欠きにおけるねじ山の数の相違は,その相違も小さい上に,いずれも適宜選択可能な範囲内にあるものであって,微差という他なく,また,意匠全体としてみた場合,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。
相違点(イ)の略「コ」字状の2つの切り欠き部の有無については,甲2意匠の態様は,操作性を高めるために,付加的に形成されたものであり,かつ,その態様も,この種物品分野の意匠においてはよく見られる態様であるから,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであり,この相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
相違点(ウ)のシリンダ本体部の後端面部の態様の相違について,この止めねじ部は,物品の使用の態様において,需要者(見る者)が殊更操作するものでもなく,ただ単に設計上の相違から来る構成部材の選択の相違から生じる純粋に機能的な問題であるという他ない上に,この種物品において,シリンダ本体部の後端面部に六角穴付ボルト状の止めねじ部を形成することがよく見られるものである(例えば,甲第7号証の1の第2118ページの下段に記載のショックアブソーバの意匠,参考意匠4の第7ページの上段に記載のソフトアブソーバーの意匠:別紙第3参照。)から,この相違点を両意匠の類否判断において,大きく評価することはできない。
また,相違点が関連して生じさせている視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の印象を覆して,両意匠の類否判断を左右するほどではない。

(3)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態においても,共通点が両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼしているものであるのに対して,相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱であって,かつ,相違点全体の印象も,前記共通点が見る者に与えている共通の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠は,引用意匠に類似する。


5.むすび

以上のとおりであって,本件登録意匠は,甲2意匠,すなわち,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,その意匠登録は,同法同条同項の規定に違反してされたものであるから,同法第48条第1項の規定により,その意匠登録を無効にすべきである。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2011-04-15 
結審通知日 2011-04-19 
審決日 2011-06-17 
出願番号 意願2006-29590(D2006-29590) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (K9)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邊 久美 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 斉藤 孝恵
遠藤 行久
登録日 2010-02-05 
登録番号 意匠登録第1381594号(D1381594) 
代理人 筒井 大和 
代理人 筒井 章子 
代理人 林 宏 
代理人 小塚 善高 
代理人 林 直生樹 

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