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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) B5
管理番号 1244656 
判定請求番号 判定2011-600016
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2011-11-25 
種別 判定 
判定請求日 2011-04-21 
確定日 2011-10-06 
意匠に係る物品 短靴 
事件の表示 上記当事者間の登録第1370671号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、登録第1370671号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠(以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1370671号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,添付資料1乃至10を提出した。
1.判定請求の必要性
本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)は,本件登録意匠の意匠権者であり,請求人は,イ号意匠のゴルフシューズ(以下,「本件製品」という。)を販売しているが,請求人は,被請求人から平成22年9月29日付けで,請求人が本件製品を製造する行為は,本件登録意匠の意匠権(以下,「本件意匠権」という。)を侵害する行為であると主張する「通知書」を受けた。請求人は,当該「通知書」における意匠権者の主張を検討し,本件意匠権を侵害するものではない旨,平成22年11月4日付けの「回答書」で回答した。その後請求人は,平成22年11月16日付けで,被請求人から,市場において混同が生じており,請求人が意匠の類否のみを展開するならば,法的手段をとらざるをえないとの「通知書(2)」を受けた。これに対し,請求人は,再度,本件製品は,本件意匠権を侵害するものではない旨,平成22年12月22日付けの「回答書」で回答した。その後,請求人と被請求人は,被請求人の申し出により,請求人の社内にて協議を行い,請求人は,平成23年1月31日付けで,本件製品は,本件意匠権を侵害するものではない旨,再度主張した上,和解案を提示した。その後,被請求人から,平成23年3月3日付けで,請求人が提示した和解案は到底受け入れることができるものではなく,被請求人が提示した和解案について誠意ある回答がない場合は,本件製品の販売行為が本件意匠権を侵害するものであるとして,大阪地方裁判所に訴訟提起するとの「通知書(3)」を受けた。そこで,請求人は,被請求人と協議を進めるに当たり,本件判定を求めた次第である。

2.請求人が提出した添付資料
(1)添付資料1「イ号意匠ならびに説明書」
(2)添付資料2「本件登録意匠の意匠公報」
(3)添付資料3「本件登録意匠の説明書」
(4)添付資料4「意匠登録1312708号の意匠公報」
(5)添付資料5「米国意匠特許US D576,383S公報」
(6)添付資料6「米国意匠特許US D576,381S公報」
(7)添付資料7「米国意匠特許US Des.418,667公報」
(8)添付資料8「欧州意匠 000622329-0012」
(9)添付資料9「ナイキ エア ズーム トータル90IIIHGの外観写真」
(10)添付資料10「本件登録意匠に係る商品であるゴルフ用シューズのカタログ」

第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
1.答弁の趣旨
被請求人は,「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は,登録第1370671号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する」,との判定を求めると答弁し,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。
2.請求の理由に対する答弁
(1)「本件登録意匠とイ号意匠との比較説明」について
判定請求書における差異点(a)のソール部の差異について,請求人は,ソールの模様が看者に活発な動きがあるイメージを与え,それにより意匠全体として重厚且つ攻撃的なイメージを与えると主張するが,その主張は,特徴的形態を有するアッパーから無理に目を反らせようとするものであり,ありふれたソールの形態を本件登録意匠の特徴であると意図的に印象づけようとする主観的論理にすぎない。
差異点(c)のアッパー部の踵部分の差異では,請求人は,アッパーの踵部分に斜めに形成された境界線(63,163)について,本件登録意匠ではその端部が若干屈曲しているのに対してイ号意匠では真直に延びていることから,当該境界線にて切り替えされた色の面積割合が異なると主張するが,根拠に乏しい。
差異点(e)のアッパー部のつま先部分の差異では,請求人は,縫い目ライン71,73と縫い目ライン171,173,175との形態の違いを述べているが,本件登録意匠もイ号意匠もともにアッパーのノーズ部分にキルティング加工を縦方向及び横方向に放射状に施したような縫い目模様を形成していると看取されるのが自然な観察である(乙3号証)。つまり,当該部分は,相違点ではない。
差異点(f)のアッパー部のフラップとべろ(舌片)の差異については,請求人は,「意匠に係る物品の説明」の欄の記載が本件登録意匠の要部を主張するものである,と主張するが,この欄の記載は,意匠に係る物品の理解を助けるためのものであって意匠の要部を記載するものではなく,もとより意匠法施行規則第6条に定める特徴記載書に記載されるべき内容でもない。したがって,請求人による当該主張は失当である。
(2)「イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとする理由の説明」について
たとえソールにある種のデザインが施されていたとしてもゴルフシューズその他の短靴では,ソールが意匠全体に与える影響は小さいものであり,通常は,アッパーが意匠全体に大きな影響を及ぼし,全体形態を支配する。したがって,本件登録意匠の要部は,アッパーに存する。
(3)被請求人の主張
1)本件登録意匠の要部について
請求人は,アッパーの外側と内側の形態が異なるアシンメトリーデザインは公知資料1?6(添付資料4?9)が示すように公知であるから,アッパーがイ号意匠と本件登録意匠との類否に大きな影響を与えないと主張する。この根底にあるのは,意匠法の第一義的目的は意匠の創作の保護にあるとし,対比される両意匠の創作の要部が一致し,物品の外観から生じる美的思想の同一性の範囲内にあると創作者の立場から認められれば,両意匠は類似するとの考え方(いわゆる創作説)に他ならない。このような考え方に立脚すれば,たしかに意匠の構成態様のなかでありふれた公知意匠等が含まれる場合,その部分に意匠の要部(すなわち創作の要部)があると言えないことになる。しかしながら,従来から公知意匠が存在する場合の登録意匠の要部の認定については,種々の説があり,過去において,公知の部分であっても意匠の要部になり得るとの判断が示された裁判例も少なくない。また,同法第24条第1項は,「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真,ひな形若しくは見本により現された意匠に基づいて定めなければならない」旨を規定し,しかも同条第2項は,「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う」ことを要請している。すなわち,意匠の要部は,意匠に係る物品が流通過程におかれたとき,当該物品の性質,用途,使用態様,観察態様等を考慮して取引者・需要者の立場から看者が最も注意を惹く部分として認定されるべきものであり(そこに創作者の立場からみた創作が存在するか否かは不問),対比される両意匠について要部に含まれる構成態様の差異が微差であって取引者・需要者が両意匠を似ていると感じることにより物品の混同が生じるおそれがあるならば,両意匠は類似すると結論づけられるべきである。
請求人は,アッパー部分に色の切り替えのデザインが施されている例が公知資料1?6(添付資料4?9)に記載されていると主張する。しかしながら,そのような色の切り替え態様が記載されているのは実質的に公知資料6のみであり,公知資料1?5に係る意匠は,本件登録意匠のアッパーがありふれているとする根拠に乏しいことは一目瞭然である。しかも,公知資料6(添付資料9)に記載された色の切り替えの態様は,本件登録意匠における色の切り替えとは左右逆ないし内外逆の態様である。すなわち,本件登録意匠では,アッパーが二色に分けて配色され,そのうちの一色が趾から踵に至る領域の内側部分並びに当該部分に連続して外側に向かって延びる趾及び中足部に対応する領域に配色されているのに対し,公知意匠6では,切り替えされた一色が趾から踵に至る領域の外側部分並びに当該部分に連続して内側に向かって延びる趾及び中足部に対応する領域に配色されている。したがって,本件登録意匠のアッパーのデザインが公知であると言えないばかりか,むしろ,このような色の切り替えの態様が左右逆ないし内外逆であることは,看者に与える印象が相当異なるものである。しかも,公知資料6では,シューレースホール(はとめ)部分が靴の外側にオフセットされており,このようにオフセットされたシューレースホール(はとめ)部分を境目として色が切り替えされている。したがって,このことと相まって,公知資料6に係る意匠は,本件登録意匠に対して意匠全体のイメージを異ならせている。要するに,前述のアッパーの色の切り替えは,本件登録意匠の要部(特徴点)であり,また,イ号意匠の要部でもある。そして,両意匠は,それを共通の要部として含んでいる。
2)ソールについて
請求人は,本件登録意匠の要部がソールに存在し,この点が差異点(a)として本件登録意匠とイ号意匠との類否に影響を与えていると主張する。しかしながら,ソールに形成されたパターンがソールの側面まで回り込んで模様を形成することはありふれていて(乙第1号証,乙第2号証),特に需要者の注意を喚起するものではない。したがって,請求人が差異点として主張するソールは,むしろ需要者が特に注意を惹かない共通点である。なお,請求人は,本件登録意匠に係るゴルフシューズのパンフレット(添付資料10)にソール面の機能的説明がなされていることから,本件登録意匠のソールに形成された渦状のパターンが当該意匠の要部であると主張する。しかし,ゴルフシューズでは,ソールの機能を謳っているものは珍しくなく,むしろ一般的であり,パンフレットに通常記載されるソールの機能説明があるからといって需要者が特に注意を惹かれるものでもない。前述のように,需要者はアッパーに比べてソールに注意を惹かれる割合が低いのが普通であるならば,ソールの機能ないしそれに内在する技術的思想がたとえ創作者の立場からして創作的であったとしても,本件登録意匠に係る物品が流通過程に置かれたときに,それがアッパーのデザインの魅力を越えて看者の注意を喚起するものではない。
3)イ号意匠の創作的要部について
前述の第1回目話し合い(和解交渉)の場において,「本件製品は,請求人会社製造に係るオリジナル製品ではなく第三者業者がデザインし製造した商品であって,当該第三者業者が請求人にプレゼンテーションしたものを請求人がそれをそのまま商品として採用し,使用許諾を受けている商標「KAPPA」を付して販売したものである」ことを,請求人自身が和解交渉で認めている。
要するに本件登録意匠及びイ号意匠は,共にアッパーの色を切り替え,すなわち,アッパーの配色のうちの一色が趾から踵に至る領域の内側部分並びに当該部分に連続して外側に向かって延びる趾及び中足部に対応する領域に配色されている形態を有し,これが共に要部であってかつ共通しており,それにより,取引者・需要者が似ていると感じることによって(乙第4号証)物品の混同が生じている。
(4)むすび
前述のように,イ号意匠と本件登録意匠とは意匠の要部であるアッパーにおいて共通しているから,両意匠は互いに類似していると考えるべきであり,そうとすれば,イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は,登録第1370671号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,答弁の趣旨のとおりの判定を求めるものである。

3.被請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証 一般的ソール形状「正しいシューズの選び方」
(http://www.geocities.jp/gkhyagi/5kaido/go-5shoes.htm)
(2)乙第2号証 意匠登録第1347560号公報の写し
(3)乙第3号証 本件製品及び本件登録意匠に係る製品の一般的陳列例の写真
(4)乙第4号証 通販業者のウェブサイトの写し
(http://www.rastagolf.com/280nk_KGMB2Z90/)

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(登録第1370671号意匠)は,新規性の喪失の例外の規定(意匠法第4条第2項)の適用を受けようとして,平成21年3月17日付けで意匠登録出願されたものに係り,平成21年9月4日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書の記載及び願書に添付された写真によれば,意匠に係る物品を「短靴」とし,その形態は願書の記載及び願書に添付された写真に現されたとおりのものである(【添付資料2】:別紙第1参照,本件登録意匠の説明書【添付資料3】:別紙第2参照)。
すなわち,本件登録意匠は,主にゴルフ用の,靴紐を有する短靴であって,その構成態様は,アッパー部は明調子部と暗調子部の明暗の2調子で構成され,明調子部がつま先部全体と内側のつま先部から踵部の下から約3分の2程度までを占め,暗調子部が踵部の上から約3分の1程度から明調子部分に挟まれた外側の側面部を占め,甲部前面の左右のフラップ部及び内側の舌片部は,一方の暗調子部のフラップが舌片部と一体的に形成され,その先端部が他方のフラップの下側に差し込まれ,一方のフラップ部及び舌片部に小型円形状のシューレースホールが二列に5個ずつ配され,他方のフラップ部にもシューレースホールが一列に5個設けられ,靴紐は,一方のフラップ部に設けられたシューレースホール,他方のフラップ部に設けられたシューレースホール及び舌片部に設けられたシューレースホールに挿通されているものであって,舌片部と一体的に形成された一方のフラップは,つま先側の甲部前面と一体になり,他方のフラップは,甲部側面と一体的になっており,つま先部にはつま先部の正面視円弧状の外形状に沿って4本の波紋状の円弧状ステッチをほぼ等間隔に配し,それに交差し,中央の左右に甲部に沿って縦方向につま先側が広がる略「ハ」字状のステッチを配し,左右の両側面部に略円形状のアルファベットを図案化したマークを設けており,その明暗調子は,明調子部と暗調子部において共に同様の中間調子であり,踵部に明調子部の補強片を設け,補強片に沿って踵部上方から明調子部側面部の土踏まず部に向かって緩やかな細い暗調子のライン模様を略凸円弧状に設け,反対側の明調子部の補強片の外形線も同様の略凸円弧状とし,アッパー部上方の履き口周縁部における凹円弧状のえぐりを深くし,ソール部は,底部において暗調子のベース部に中間調子の細い帯状の突起模様を踵部とつま先部で渦巻き状になるように設け,小型円形状の渦巻き形状の凸状部を有した突起部をつま先部側には左右に2個ずつ4個,踵部側には左右に2個並列して合計6個配し,ソール部側面部において暗調子のベース部が波状に設けられ,中間調子の細い帯状の突起模様の先端部が先細状に表れたものである。

2.イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書に添付されたイ号意匠及びその説明書(【添付資料1】:別紙第3参照)に示すとおりのものであり,被請求人もこれに基づき答弁をしている。
イ号意匠は,靴紐を有するゴルフシューズであって,その構成態様は,アッパー部は明調子部である白色部と暗調子部である青色部の2色で構成され,白色部がつま先部全体と内側のつま先部から踵部の下から約3分の2程度までを占め,青色部が踵部の上から約3分の1程度から白色部分に挟まれた外側の側面部を占め,内側に舌片部を設け,甲部前面の左右のフラップ部に靴紐用の小型円形状のシューレースホールを5個ずつ設け,そこに靴紐を通したものであって,つま先部にはつま先部の正面視円弧状の外形状に沿って略三日月型に囲む円弧状ステッッチを配し,そのステッチと交差するように甲部の中央に大小の略「U」字状のステッチを配するとともに,その外側で靴底周縁に甲側からつま先側に延びる,前述の略「U」字状のステッチとほぼ同様な略「U」字状のステッチを配しており,左右の両側面部において,男女が腰掛けたシルエット状のマークを設け,その色調は,左右の両側面を総合的に見ると,明調子部である白色部には暗調子である青色,暗調子部である青色部には明調子である白色とし,明調子のマークの色と明調子部の地色は同色で,暗調子のマークの色と暗調子部の地色は同色としたものであり,踵部に白色部の補強片を設け,補強片に沿って踵部上方から白色部側面部の土踏まず部に向かって緩やかな細い青色のライン模様を略凹円弧状に設け,反対側の白色部の補強片の外形線も同様の略凹円弧状とし,アッパー部上方の履き口周縁部における凹円弧状のえぐりを浅くし,ソール部は,底面部において濃灰色の地色に青色の扁平扇型状のすべり止め部と青色の略小型三角形状の突起部を配し,濃灰色の小型円形状に白色で大きめの略Y字状と濃灰色の小型矩形状及び微小な円形状の凸状部を有した突起部をつま先部側には5個,踵部側には左右に2個並列して合計7個配し,土踏まず部に楕円形状の枠部の内側に男女が腰掛けた白色のシルエット状のマークを設け,ソール部側面部においてアッパー部とソール部は緩やかなラインで仕切られ,ソール部の土踏まず部が薄く,ソール部の踵部がやや厚めに設けられたものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると,いずれも靴紐を有するゴルフ用の短靴に係るものであり,意匠に係る物品が一致し,形態については,主として以下の共通点と差異点が認められる。
(1)共通点
(A)アッパー部が明調子部と暗調子部の明暗の2調子で構成されている点,(B)アッパー部の明調子部がつま先部全体と内側のつま先部から踵部の下から約3分の2程度までを占め,暗調子部が踵部の上から約3分の1程度から明調子部分に挟まれた外側の側面部を占め,アッパー部の左右を非対称状としている点,(C)甲部前面の左右のフラップ部に靴紐用の小型円形状のシューレースホールを5個ずつ設け,そこに靴紐を通した点,(D)つま先部に交差するステッチを配した点,(E)側面部において,同形同大のマークを,明調子部にはそれより暗い調子で,暗調子部にはそれより明るい調子で設けた点,(F)踵部に明調子部の補強片を設け,補強片に沿って踵部上方から明調子部側面部の土踏まず部に向かって緩やかな細い暗調子のライン模様を設け,反対側の明調子部も同様のラインとした点,(G)ソール部の底面部に凸状部を有した小型円形状の突起部を配した点において主に共通する。
(2)差異点
(ア)アッパー部甲部前面の左右のフラップ部及び内側の舌片部について,本件登録意匠は,一方の暗調子部のフラップが舌片部と一体的に形成され,その先端部が他方のフラップの下側に差し込まれ,一方のフラップ部及び舌片部に小型円形状のシューレースホールが二列に配され,他方のフラップ部にもシューレースホールが一列に設けられ,靴紐は,一方のフラップ部に設けられたシューレースホール,他方のフラップ部に設けられたシューレースホール及び舌片部に設けられたシューレースホールに挿通され,舌片部と一体的に形成された一方のフラップは,つま先側の甲部前面と一体になり,他方のフラップは,甲部側面と一体的になっているのに対して,イ号意匠は,内側に舌片部を設け,甲部前面の左右のフラップ部に靴紐用の小型円形状のシューレースホールを設け,そこに靴紐を通している点,(イ)アッパー部を甲部側面側から見た場合,踵部の白色部の補強片の外形線とその上部片側に表された細い暗調子のライン模様について,本件登録意匠は,略凸円弧状であるのに対し,イ号意匠は,略凹円弧状である点,(ウ)つま先部を平面視した場合のステッチについて,本件登録意匠は,つま先部の正面視円弧状の外形状に沿って4本の波紋状の円弧状ステッチをほぼ等間隔に配し,それに交差し,中央の左右に甲に沿って縦方向につま先側が広がる略「ハ」字状にステッチを配しているのに対し,イ号意匠は,つま先部の正面視円弧状の外形状に沿って略三日月型に囲む円弧状ステッチを配し,そのステッチと交差するように中央に甲に沿って大小の略「U」字状のステッチを配し,さらにその左右の外側に甲側からつま先側に延びる,前述の略「U」字状のステッチとほぼ同様な略「U」字状のステッチを配している点,(エ)アッパー部の甲部両側面部のマークについて,本件登録意匠は,略円形状のアルファベットを図案化してマークを設けているのに対し,イ号意匠は,男女が腰掛けたシルエット状のマークを設けており,その調子も,左右の両側面部を総合的に見ると,本件登録意匠は,明調子部と暗調子部において共に同様の中間調子であるのに対して,イ号意匠は,明調子部である白色部には暗調子である青色,暗調子部である青色部には明調子である白色とし,明調子のマークの色と明調子部の地色は同色で,暗調子のマークの色と暗調子部の地色は同色としたものである点,(オ)アッパー部上方の履き口周縁部における凹円弧状のえぐりについて,本件登録意匠は,えぐりが深いのに対して,イ号意匠は,えぐりが浅い点,(カ)ソール部の側面部において,本件登録意匠は,暗調子のベース部が波状に設けられ,中間調子の細い帯状の突起模様の先端部が先細状に表れているのに対し,イ号意匠は,アッパー部とソール部は緩やかなラインで仕切られ,ソール部の土踏まず部が薄く,ソール部の踵部がやや厚めに設けられたものである点,(キ)ソール部の底面部について,本件登録意匠は,暗調子の地色に中間調子の細い帯状の突起模様を踵部とつま先部で渦巻き状になるように設け,凸状部を有した小型円形状の突起部をつま先部側には左右に2個ずつ4個,踵部側には左右に2個並列して合計6個配しているのに対して,イ号意匠は,濃灰色の地色に青色の扁平扇型状のすべり止め部と青色の略小型三角形状の突起部を配し,凸状部を有した小型円形状の突起部をつま先部側には5個,踵部側には左右に2個並列して合計7個配し,土踏まず部に楕円形状の枠部の内側に男女が腰掛けた白色のシルエット状のマークを設けている点,(ク)ソール部の底面部における凸状部を有した小型円形状の突起部の形状が,本件登録意匠は,凸状部が渦巻き形状であるのに対して,イ号意匠は,濃灰色の小型円形状に白色で大きめの略Y字状と濃灰色の小型矩形状及び微小な円形状の凸状部を有している点,(ケ)本件登録意匠は,色彩がないのに対して,イ号意匠は,明調子部に白色,暗調子部は青色の色彩が施されている点に主な差異がある。
(3)類否判断
そこで,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し,新規な態様や需要者の注意を最も惹き易い部分を考慮した上で,共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,検討する。
まず,共通点が類否判断に及ぼす影響について比較して検討する。
共通点(A)について,アッパー部が明調子部と暗調子部の明暗の2調子で構成されているものは,この種の短靴の分野において本件登録意匠の出願前に多数見受けられ,本件登録意匠の特徴とはいえず,両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえないし,共通点(B)についても,アッパー部の明調子部と暗調子部の占める割合が異なり,アッパー部の左右を非対称状としている態様も,【添付資料6】(別紙第4参照)や【添付資料8】(別紙第5参照)のように本件登録意匠の出願前より既に見受けられ,両意匠のみに共通する態様とはいえないのであるから共通点(A)及び同(B)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものというほかない。共通点(C)について,甲部前面側の左右に靴紐用の小型円形状のシューレースホールを5個ずつ設け,そこに靴紐を通すことは,この種の短靴の分野において本件登録意匠の出願前に多数見受けられ,特徴のないものといえ,両意匠のみに格別共通する構成態様とはいえない上に,差異点(ア)を考慮すれば,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて小さい。共通点(D)については,そもそも具体的態様が相違しているのであって,交差するステッチという概括的な共通点に過ぎないものである上に,本件登録意匠のつま先部に正面視円弧状の外形状に沿って4本の波紋状の円弧状ステッチをほぼ等間隔に配した態様について見ても,本件登録意匠の出願前より,普通に見受けられる態様(例えば,参考意匠1,特許庁意匠課公知資料番号HD17011818号の意匠,別紙第6参照)であって特徴のないものといえ,両意匠のみに共通する格別の態様ということはできないのであるから両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きくない。共通点(E)について,アッパー部の側面部において,明調子部には暗調子で,暗調子部には明調子でマークを設けた点については,アッパー部の側面部にマークを設けることは,この種の短靴の分野においては,従来より広く行われているところであり,また,色彩を目立たせるために,明暗のコントラストをつけるもので,明調子部に暗調子でマークを設けることも,暗調子部に明調子でマークを設けることも,いずれも普通に行われているところであり,それを組み合わせたまでであって,また,明暗の共通性は,マークの形状の差異点と比較すれば,単なる明暗の違いにおける細部の共通点といえ,その共通点が注意を惹く部分とはいえず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。共通点(F)について,踵部に明調子部の補強片を設け,補強片に沿って踵部上方から明調子部側面部の土踏まず部に向かって緩やかな細い暗調子のライン模様を設けることも,本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば,参考意匠2,特許庁意匠課公知資料番号HJ19022028号の意匠,別紙第7参照),左右対称状に反対側の踵部の補強片の外形線も同様の円弧状とすることも,この種の短靴においては,特徴のないありふれた態様としたまでであって,目立つものとはいえず,両意匠のみに共通する格別の態様とはいえないし,共通点(G)についても,ソール部の底面部に略小型円形状の凸状部を有した突起部を配したものが,この種の短靴の分野において,本件登録意匠の出願前から見受けられ(例えば,参考意匠3,意匠登録第1259070号の意匠,別紙第8参照),凸状部を有した突起部を配したというだけでは特徴とはなり得ないし,その配置や態様も異なり,両意匠に共通感を与えるものとはいえない。
そうすると,これらの共通点に係る態様は,概括的に捉えたに過ぎないもの,または,公知意匠を参酌すれば,両意匠のみに共通する特徴的な態様とはいえないものに過ぎず,両意匠の類否判断を決定付けるものとなりえない。
次に,差異点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
差異点(ア)については,一方の暗調子部のフラップが舌片部と一体的に形成され,その先端部が他方のフラップの下側に差し込まれ,一方のフラップ部及び舌片部に小型円形状のシューレースホールが二列に配され,他方のフラップ部にもシューレースホールが一列に設けられ,靴紐は,一方のフラップ部に設けられたシューレースホール,他方のフラップ部に設けられたシューレースホール及び舌片部に設けられたシューレースホールに挿通され,舌片部と一体的に形成された一方のフラップは,つま先側の甲部前面と一体になり,他方のフラップは,甲部側面と一体的になっている本件登録意匠の態様は,他に例を見ない,本件登録意匠独自の態様といえるものであるから,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は看過できない。差異点(イ)について,踵部の白色部の補強片の外形線とその上部片側に表された細い暗調子のライン模様が略凸円弧状であるものも,略凹円弧状であるものも,いずれの態様も本件登録意匠の出願前から見受けられるものではあるが,踵部のラインの違いは,斜め上方から側面部を観察した場合の印象が異なり,その差異は両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。差異点(ウ)について,ステッチの態様の差異は,つま先部の前方側上面という,通常の使用状態で視認する方向といえる上方からつま先部を見た場合に看者の注意を惹き易い,面積の大きな,目立つ部位における差異であり,両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。差異点(エ)について,差異点に係るマークの態様の違いは,異なる視覚効果を表すものであり,アッパー部の両側面部の中央という,この種の短靴において,最も看者の注意を惹き易い部位における差異であって,両意匠はその態様が全く異なるものであるから,別異の印象を与えるものであり,両意匠それぞれの特徴的な態様をなすものであって,両意匠の類否判断に影響を与えるものであると言わざるを得ない。差異点(オ)について,えぐりの深さの違い自体は意匠全体の中では小さいものであるが,この種の短靴の分野においては,当該部位の違いは,実際に履く場合において一番目の行くところであって,注意を惹く部位といえ,需要者にもその存在が認識されるものであり,その差異は両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。差異点(カ)については,ソール部の側面形状は,両意匠がゴルフというスポーツをするための靴であって,それがためにソール部の機能や性能は,注目されるものであって,それらを具現化したソール部形状の違いは,アッパー部の態様と相俟って両意匠の全体的な印象に影響を与えるもので,イ号意匠は,アッパー部とソール部は緩やかなラインで仕切られたものであり,一方,本件登録意匠は,暗調子のベース部が波状に設けられ,中間調子の細い帯状の突起模様の先端部が先細状に表れている独特のもので,両意匠の違いは明確で,類否判断に与える影響は無視することができない。差異点(キ)及び同(ク)については,ソール部の底面部の態様と凸状部を有した突起部の形状についての差異であるが,上記のアッパー部の差異点や差異点(カ)の差異点と相俟って,両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。差異点(ケ)の色彩の有無については,イ号意匠の態様はよく見られる態様に過ぎないので,この差異点が両意匠の類否判断に与える影響は,ほとんどない。
そうして,これらの共通点と差異点を総合すれば,共通点に係る態様が両意匠にのみ共通する特徴とはいえないものであるのに対して,差異点(ア)に係る本件登録意匠の独自で特徴的な態様は,イ号意匠には見られないものであって,また,両意匠の,目に付き易く,看者の注意を惹く差異が,差異点(イ)乃至同(エ)に顕著に表れているもので,差異点(オ)及び同(カ)に係る態様と相俟って,両意匠の類否判断に決定的な影響を及ぼすものとせざるを得ず,さらに他の差異点による態様も合わせれば,意匠全体として,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するものとはいえない。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態については,イ号意匠は本件登録意匠の独自で特徴的な態様を有さず,共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから,両意匠は,全体として美感が異なり,類似するということはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2011-09-27 
出願番号 意願2009-5997(D2009-5997) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (B5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神谷 由紀 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 橘 崇生
瓜本 忠夫
登録日 2009-09-04 
登録番号 意匠登録第1370671号(D1370671) 
代理人 松下 昌弘 
代理人 西木 信夫 
代理人 松田 朋浩 

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