• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 H7
管理番号 1251554 
審判番号 不服2011-14081
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-01 
確定日 2012-02-10 
意匠に係る物品 キーボード 
事件の表示 意願2010- 4780「キーボード」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 手続概要
・2009年9月8日及び同年9月9日 意匠法第4条第2項の適用を受けようとする公知事実であるウェブサイト(Microsoft.com)への公表日
・2009年(平成21年)11月2日 原審の拒絶の理由を構成する「引例意匠」が掲載された文献(『週間アスキー』2009年11月17日759号)を独立行政法人工業所有権情報・研修館が受け入れた日
・2009年11月12日 パリ条約による優先権の主張の根拠となる第1国であるアメリカ合衆国への出願日
・2010年(平成22年)9月16日 原審の拒絶理由通知書の起案日
・2010年(平成22年)12月14日 意見書提出日(資料1ないし資料7(枝番含む。)を提出。)
・2011年(平成23年)3月31日 拒絶査定起案日
・2011年(平成23年)7月1日 審判請求書提出日


第2 本願意匠
本願は,2009年11月12日のアメリカ合衆国への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴い,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとし,物品の部分について意匠登録を受けようとする2010年(平成22年)3月1日の意匠登録出願であって,その意匠は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「キーボード」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであって,「実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。各図において物品の表面部に表された細線は,いずれも物品の立体表面の形状を表す線である」としたものである(以下,本願について意匠登録を受けようとする部分の意匠を「本願意匠」という。)。(別紙第1参照)

すなわち,本願意匠は,
(A)基本的構成態様として,全体を,平面視下向きに緩やかに湾曲した,厚さの薄い略横長隅丸のケースの上面に多数のキーを配し,側面視ケースを上下に二分したもので,ケース上面が,四方周囲を細幅な縁状に取り囲み(細幅な縁状に表れるケース上面の部分を,以下「縁状部」という。),その内側に必要な多数のキーをほぼ密接させて配置したものであり,
(B)縁状部の具体的構成態様は,平面視,左右の各辺においてはやや細く,上下の各辺においてはやや広めであり,上側の縁状部には横方向に1条の切替え線が存在しており,側面視,縁状部上半部の突端側は,外側に向かって下向きの傾斜面を形成し,最外周部全周に極細幅の段差部が形成されており,
(C)キーの具体的構成態様として,
(C-1)キーの配列は,ケースと同様に平面視下側に緩やかに湾曲した状態で略横一列状に,縦方向6段に整列配置されているものであり,
(C-2)キートップに文字,数字,記号等の印刷・刻印はないが,一番手前の6段目の左から2番目のキートップには,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分以外の部分であることを示す破線で小円が描かれており,
(C-3)キーの各段には,10個ないし16個のキーが配置されており,詳細には,一番後方(以下,操作者から位置が遠い部位を「後方」といい,近い部位を「前方」という。)の1段目に,平面視横長矩形状で上下の幅が狭いキーが16個並んでいて,後方から前方に向かって2段目から6段目までには,平面視略正方形状のキーを主体として,その他,平面視略横長矩形状のキーやカーソルキー,非常に幅の広いスペースキーなどが配置され,その数は,順次2段目に15個,3段目に15個,4段目に14個,5段目に14個,6段目に10個のキーがそれぞれ配置され,全部で84個のキーによってキー全体が構成されているものである点,
(D)ケースの底面側は,後方に細幅帯状に高さの低い台部が形成されるものの,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分以外の部分である底面部分を除き,下ケースの四周の縁状部と細幅帯状部の四周を一体状に繋げた傾斜面としたものである。


第3 原査定における拒絶の理由及び引例意匠
1.拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は,本願意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の意匠(この拒絶の理由に引用した意匠を,その表示に従い,以下「引例意匠」という。))に類似するものと認められるので,本願意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることのできない意匠)に該当するとしたものであって,引例意匠は,意匠に係る物品が「キーボード」であり,その形態は,同文献の当該頁に掲載された写真版に現されたとおりのものである。(別紙第2参照)


独立行政法人工業所有権情報・研修館が2009年11月2日に受け入れた
アスキー・メディアワークス発行の雑誌『週刊アスキー』2009年11月17日759号
第71頁所載
キーボードの意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HA21006207号)

また,この拒絶の理由には,以下のとおりの付記等がなされていたものである。

「この意匠登録出願の意匠は,下記の引例意匠と比較すると,主に平面図右側にあらわれるエンターキー部の具体的形状において差異点を有します。しかし,以下の参考意匠1及び参考意匠2に見られるように,本願意匠における当該部分の態様は,本願出願前より既に見られる態様であって,本願のみがもつ特徴として評価することはできず,意匠全体から見た場合には,両意匠の基本的構成態様を凌駕する程の特徴を有するものではなく,部分的かつ微弱なものにすぎません。よって,両意匠を全体として比較した場合には,本願の意匠は下記の引例意匠に類似するものと認められます。」
「なお,もし下記の引例意匠が,その公開時において意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知の意匠に該当するに至った意匠である場合は,意匠法第4条第1項の規定を適用するための要件を満たす事実を明示すると共に,その事実を証明する書面等を提出することができます。」
参考意匠1
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2007年2月20日に受け入れた
株式会社 アスキー発行の雑誌『週刊アスキー』2007年3月6日627号 第67頁所載 キーボードの意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HA18035105号)
参考意匠2
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2008年3月21日に受け入れた
Trade Media Holdings Ltd.発行の”Global Sources Computer Products” 6号 第177頁所載 キーボードの意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HB20002752号)

2.引例意匠の形態
(a)基本的構成態様として,
(a-1)全体を,平面視下向きに緩やかに湾曲した,厚みの薄い略横長隅丸のケースの上面に多数のキーを配し,側面視ケースを上下に二分したもので,ケース上面が,キーボードの四方周囲を細幅な縁状に取り囲み,その内側に必要な多数のキーをほぼ密接させて配置したものであり,
(a-2)キーボード全体としては黒を基調として,キートップの文字,数字,記号等が,白又は青によってしるされており,縁状部の外周部の段差部が白で表されているものであって,
(b)縁状部の具体的構成態様は,平面視,左右の各辺においてはやや細く,上下の各辺においてはやや広めであり,上側の縁状部には横方向に1条の切替え線が存在しており,
(c)キーの具体的構成態様は,
(c-1)キーの配列は,ケースと同様に平面視下側に緩やかに湾曲した状態で略横一列状に,縦方向6段に整列配置されているものであり,
(c-2)キートップに日本語のひらがな等の文字,数字,記号等の印刷・刻印されていて,
(c-3)キーの各段には,13個ないし16個のキーが配置されており,詳細には,一番後方の1段目に,平面視横長矩形状で上下の幅が狭いファンクションキーなどが16個並んでいて,後方から前方に向かって2段目から6段目までには,平面視略正方形状のキーを主体として,その他,異形のエンターキーやカーソルキー,幅の広いスペースキーなどが配置され,その数は,順次,2段目に16個,3段目に14個(Delキーは,2段目とした。),4段目に14個(エンターキーは,3段目とした。),5段目に15個,6段目に13個のキーがそれぞれ配置され,全部で88個のキーによってキー全体が構成されているものである。


第4 請求人の主張概要
審判請求人(以下,「請求人」という。)は,甲第1号証ないし甲第10号証(枝番を含む。)を提出するとともに,請求の理由において,要旨以下のとおり,主張した。

1.本願意匠と引例意匠の関係
本願意匠は,新規性喪失の例外規定の適用申請を行って出願したものである。そして,本出願人が自社のウェブサイト内で,2009年9月8日と9月9日に公表したキーボードの画像を,証明書に添付して証拠として提出している(甲第3号証)。この甲第3号証から明らかなように,この公表されたキーボードの製品名は,「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」であることがわかる。そして本願意匠は,まさにこの「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」に係る意匠であることは,図面より明らかであると思われる。
一方,引例意匠は,甲第4号証から明らかなとおり,これも「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」であることがわかる(ただし型番は「CXD-00021」)。
以上のように,本願意匠と引例意匠は,キーの形状等に若干の違いがあるものの,同じ「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」であることがわかる。
以下には,なぜ「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」という同じ製品でありながら,キーの形状等に若干の違いが生じたのか,について説明する。

2.世界各国のキーボードのキー配列について
(1)まず,世界各国のキーボードのキー配列について概略を述べる。世界各国のキー配列は,大きく分けて,以下の3つの類型が挙げられる。すなわち,a)ANSI規格の101キーボード(主に米国用),b)ISO規格の102キーボード(主に多国語用),c)JIS規格の106キーボード(主に日本語用),の3つである(甲第5号証,甲第6号証)。これらはいずれも,各国の,または国際的な「規格」により定められたものを反映したものであり,各メーカーが自由にアレンジできるものではない。
(2)以上の前提の下で,本願意匠及び引例意匠を観察すると,本願意匠及び新規性喪失の例外適用の証明書に添付した意匠は,ANSI規格の米国用の101キーボードであり,引例意匠は,JIS規格の106キーボードであることがわかる。
そして,本願意匠と引例意匠の相違点に関しては,次のように言える。すなわち,引例意匠のキーの数とその配置に関しては,JIS規格により追加された「5キー」に起因するもので,これにより,スペースキー(スペースバー)の横方向の長さは必然的に短くなる。また,Enterキーの形状の相違については,それぞれ米国と日本のデファクトスタンダードに合致させるためのものである。
(3)以上のように,キーボードのキー配列に関しては,各国の,または国際的な規格により定められたものと,各国のデファクトスタンダードとが混在しており,その規格や標準といった制限の枠内で,各メーカーはデザイン創作活動を行っているのが現状である。

3.本出願人の製品に関する各国の差異について
本出願人の販売する製品「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」は,前述した規格や各国基準の関係で,各国(各地域)ごとに,キーボード上の印字を含め,微妙に異なるデザインで販売している。本出願に係る新規性喪失の例外規定適用の証明書に添付したキーボードは,基幹モデルの米国仕様であり,型番「CXD-00001」である(甲第8号証)。なお,前述したように,引例意匠は,「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」の型番「CXD-00021」に係る製品である(甲第4号証)。このことからも明らかなとおり,本出願に係る製品「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」は,各国(各地域)ごとの規格や基準に合わせて,「CXD-00001」から「CXD-00021」の型番が付されている。
以上のように,本出願人に係る製品「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」は,全体の基本的なデザインは同一であっても,その細部は,各国(各地域)ごとの規格や基準に合わせて微妙にアレンジしたうえで,世界各国に販売されていることがわかる。

4.新規性喪失の例外規定の適用について
(1)本規定の適用に関しては,意匠審査便覧42.44によると,相互に類似する意匠A,A’が同日または異日に公開された場合に,Aの意匠登録出願に当たっては,公開意匠A及びA’の両方を「証明する書面」に記載しなければならない,つまり,法第4条2項の規定の適用を受けようとする公開意匠の「全て」を「証明する書面」に記載しなければならない旨が述べられている。
しかしながら,これをそのまま硬直的に解釈すると,本願のようなケースでは,全て意匠法第3条第1項第3号の規定により拒絶されてしまい,実質的に保護を受けられなくなってしまうことになる。
(2)すなわち,キーボードという物品は,各国ごとの規格や基準に合致させるために,同一の製品ではあっても,細部(例えば,キーの数や形状や大きさ)は,その国ごと(言語圏ごと)に変更して販売しなければならない。例えば,日本で販売するならば,JIS規格で定められた「変換」「無変換」「カタカナ/ひらがな」等のキーを追加しなければならない。また,各国のデファクトスタンダードも当然無視することはできないので,例えば,ある特定のキーの配置や,Enterキーの形状等も,その国の「標準」に従わざるを得ないのが実情である。しかも,それらは,「規格」や「事実上の標準」からの要請に従うものであって,出願人の自由な創作活動よる変更ではない。
本願意匠と引例意匠の差異も,各国ごとの規格や基準に合致させるために行わざるを得なかった「変更」であって,これを,前記意匠審査便覧における,公開意匠A及びAに類似する意匠A’と同列に論じることは,妥当ではないと思われる。
(3)また,前記意匠審査便覧10.37によれば,意匠登録を受ける権利を有する者が,当該意匠を複数回に亘って公開した場合には,最先の公開について意匠法第4条第2項の適用を受けるものであれば,第2回目以降の公開によって新規性を喪失することはない旨,規定されている。
本願意匠に関していえば,「証明する書面」に添付したように,世界で最初に公開されたものは,2009年9月8日に自社のウェブサイトで公開した「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」の基幹モデル「CXD-00001」である。そして,それ以降の公開は,この2009年9月8日に公開されたものに基づいて,順次,各国で,その国の仕様のモデル(「CXD-00002」から「CXD-00021」のうちのいずれか)が公開されたにすぎない。それらは,全て「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」という同一の製品である。
よって,意匠審査便覧10.37で規定するように,複数回の公開であっても新規性を喪失しないのであれば,本願のケースでも,それに準じて同様に判断することが妥当であると思われる。
(4)さらに,甲第9号証から明らかなように,本出願に係るキーボードは,世界各国に向けて販売されている。なお本出願人が,全世界的に製品を販売している国際的企業であることは,説明を要しないことと思われる。このような,世界各国に製品を販売している国際的な企業において,しかも,各国ごとの規格に合致させるために,各国ごとに若干の変更を施して販売せざるを得ない「キーボード」という物品の出願に際して,公開意匠の「全て」を「証明する書面」に記載することは,事実上,不可能である。
本出願に係る製品「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」の型番が,「CXD-00001」から「CXD-00021」まで付されていることからも明らかなとおり,本製品は,各国ごとの規格や基準に合わせて,全世界的に販売されている。それを,本出願の際に,「CXD-00001」から「CXD-00021」のうちのどのモデルが,いつ,どこの国で,どのような態様で公知となったのか等を全て具に把握し,それらを全て「証明する書面」に記載しなければならないとの要求は,国際的企業の実態を無視し,また,各国の規格や基準に合わせて,若干の変更を施して販売せざるを得ない「キーボード」という物品の特殊性を全く考慮しないものと言わざるを得ない。
例えば,同じ「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」であっても,文字キーを一つ追加したISO規格の102キーボードが,本出願前に,イタリアで既に販売されていたかもしれないし,ブラジルのポルトガル語用キー配列のキーボードが,本出願前に,ブラジルのテレビCMで放送されていたかもしれない。それらの全てを,出願前に具に把握して,「証明する書面」に記載しなければ,本願意匠の保護は受けられないというのでは,あまりにも実情にそぐわない取扱いであり,出願人にとって酷に過ぎると思われる。 (5)特に,今回のケースでは,本願意匠も,引例意匠も,同じ「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」という同一の製品であることは明白となっており,相違する点は,規格や基準に基づくものであって,出願人の自由なデザイン創作活動によって創出されたバリエーションによるものではない,という特殊なケースであると思われる。そして,本願意匠に保護を与えても,第三者のデザイン創作活動を阻害するものではなく,また第三者に不測の不利益を与えるわけでもない。
よって,これまで申し述べたように,世界各国のキー配列の現状と,それに合致させるために取らざるを得ない各国ごとの仕様変更,また世界中で販売活動を行っている国際的大企業である出願人の実態,そして「規格」や「標準」により様々な制約がある「キーボード」という物品の特殊性といった諸般の事情を考慮して総合的に判断すれば,本願意匠は,新規性喪失の例外規定の適用により,保護されるべきと思われる。まして,本願意匠と引例意匠とは実質的には同一の製品であることが明白であるといった事情をも考慮すれば,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けられるべきであると思われる。


第5 当審の判断
1.意匠法第4条第2項に基づく新規性の喪失の例外の規定の適用についての判断
当審は,本願意匠について意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして,請求人(出願人)が提出した「意匠の新規性の喪失の例外の規定を受けるための証明書」に基づいて,引例意匠も,その意匠の新規性の喪失の例外の規定適用の対象となり,本願意匠の新規性の判断資料から除外されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。
(なお,原審において特に記載はされていないものの,本件において「引例意匠」とは,部分意匠である「本願意匠に相当する部分の意匠」をいうのであるが,以下の検討においては,証明書に記載された意匠と対比する都合上,引例意匠は,その図版に現された全体をいうものとする。)

(1)新規性の喪失の例外証明書に記載された意匠
本願について提出された新規性の喪失の例外証明書に記載された意匠は,2009年9月8日と同年9月9日の両日に請求人会社のウェブサイト上において公表された「キーボード」の意匠(2つの意匠は同一であるので,これらをまとめて,以下,「証明書記載意匠」という。)であって,その形態は,平成22年(2010年)3月15日付け提出の証明書に添付された「資料(a)」及び同「資料(b)」の図版に記載されたとおりのものである。(別紙第3参照)

(2)証明証記載意匠と引例意匠との関係
まず,証明書記載意匠と引例意匠は,前者のウェブサイトの記載を見るとその製品名は,「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」であり,後者の記載された文献の当該ページを見ると,「Bluetooth Mobile Keyboard 6000 CXD-00021 ●マイクロソフト ●http://www.microsoft.com/」との記載があり,製品名が同一又はそのラインナップであり,かつ,請求人会社(出願人会社)の商品であることが明らかである。

次に,証明書記載意匠が引例意匠と形態的に相違する点について,「第3 原査定における拒絶の理由及び引例意匠」において,認定した引用意匠の構成態様の項番にならって記載すると,以下のとおりである。(別紙第4参照)
相違点(c’-2) キーの具体的構成態様について,引例意匠は,キートップに日本語のひらがな等の文字,数字,記号等の印刷・刻印されているのに対して,証明書記載意匠は,キートップにアルファベット,数字,記号等の印刷・刻印されている点,
相違点(c’-3-1) キーの具体的構成態様について,引例意匠は,キーの各段に,13個ないし16個のキーが配置されており,1段目に16個,2段目に16個,3段目に14個,4段目に14個,5段目に15個,6段目に13個のキーがそれぞれ配置されおり,2段目から6段目までは,平面視略正方形状のキーを主体として,その他,異形のエンターキーやカーソルキー,幅の広いスペースキーなどが配置されているのに対して,証明書記載意匠は,キーの各段に,10個ないし16個のキーが配置されており,1段目に16個,2段目に15個,3段目に14個,4段目に14個,5段目に14個,6段目に10個のキーがそれぞれ配置されおり,2段目から6段目までは,平面視略正方形状のキーを主体として,その他,平面視略横長矩形状のキーやカーソルキー,非常に幅の広いスペースキーなどが配置されている点。
相違点(c’-3-2) 引例意匠は,全部で88個のキーによってキー全体が構成されているのに対して,証明書記載意匠は,全部で83個のキーによってキー全体が構成されている点。

ところで,コンピューターのハードウエア及びソフトウエアは,その用途及び機能については,世界共通であるが,その言語的な面に関しては,各国様々であるため,各種の表示機器や入出力機器において,インターフェースに関する各国の言語的な対応,すなわち,「ローカライズ」と呼ばれる作業が行われることは,コンピューター関連の物品分野における周知の手法であるといい得る(請求人会社がそのような商業活動を行っていることは,「Bluetooth Mobile Keyboard 6000」の製品紹介ウェブサイトを閲覧し,原語を英語から日本語に切り換えるとそれに伴って,日本語用キーボードの製品紹介画面に遷移することからもわかる。(別紙第5参照))。
そのようなローカライズが常態化した結果,各国または言語毎にその仕様が規格化(デジュール及びデファクト)されており,本願意匠の意匠に係る物品であるデータ入力用キーボードについても,英語圏では,101キーボードまたは104キーボードが,日本では,日本語用の106キーボードまたは109キーボード(以上,すべてにテンキーを含む。)が標準的な仕様として定着しており,これはJIS(日本工業規格)において規格化された「JIS配列」のキーボードが「JISキーボード」として普及・定着している。
英語用キーボードと日本語用キーボードの関係について見ると,個々にはいろいろな相違があるにせよ,基本的な点では,日本語用キーボードは,日本語用入力用のキー(「変換」,「無変換」,「カタカナ ひらがな ローマ字」,「半角/全角 漢字」など)が5つ追加されており,これに伴って,キーの数,キー配列及びキートップの文字等が異なっているという違いが存在する。

この観点から,証明書記載意匠と引例意匠の関係について検討すると,引例意匠の証明書記載意匠よりもキーの数が5つ多く,それらは日本語入力用のものであり,それに伴って,キー配列が変更されていることがわかる。これは,上記の相違点(c’-2),相違点(c’-3-1)及び相違点(c’-3-2)に相当し,請求人会社が,証明書記載意匠をベースに日本語用にローカライズして引例意匠とした結果として生じたものであり,コンピューター関連の物品分野において極めてよく行われている周知の手法を適用したものであって,この分野において製品開発を行い,意匠を創作するものであれば,一連の作業として当然に想定される範囲内のことを行ったといい得るものであるし,また,その結果として,証明書記載意匠と引例意匠の間に存在する形態上の相違点は,ローカライズすることの変更の他にそれを覆す特段の相違もないのであるから,引例意匠は,新規性の喪失の例外の規定の適用を受けようとする証明の範囲内において,証明書記載意匠と実質的に同一というべきものである。

(3)意匠法第4条第2項について
意匠法第4条第2項は,意匠登録を受ける権利を有する者(出願人)の行為に起因して公知となった意匠について,出願と同時にその旨を申請し,所定の期間内に前記の公知となった意匠についての証明書を提出すれば,その公知となった意匠は,当該出願意匠に関する意匠法第3条1項(新規性)及び第2項(創作容易性)の登録要件の判断について,意匠法第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至らなかったものとみなす,つまり当該出願意匠に対しては公知となった意匠とはしないというものであり,また,最先の事実について証明すれば,当該同一事実に基づいて派生的に公知となった場合の証明を要しないとの解釈運用がなされているものである。
後者は,製品発表会を複数開催した結果,当該意匠が複数回公知となった場合などを想定し,証明書を作成・提出する負担について,出願人の便宜を図ったものと解される。

(4)本願における新規性の喪失の例外の規定の適用について
請求人の主張及びその他の事実を総合するに,証明書記載意匠と引例意匠が請求人会社の同一製品に係り,引例意匠は,証明書記載意匠である英語用キーボードを日本語用キーボードにローカライズして派生的に製品化されたものと認められる。
そうであるとすれば,本願について,請求人(出願人)が自ら申請した新規性の喪失の例外証明書において,その事実が明示的に記載されてはいないが,コンピューター関連の物品分野における常識及び請求人会社の商業活動に照らして,証明書記載意匠に係るキーボードが製品化され,公表されれば,引例意匠に係るキーボードが製品化され,公表されることは当該証明書に記載された事実として証明された内容に含まれていると解釈することが適当であると考えられる。

(5)小括
したがって,引例意匠は,本願意匠の新規性の判断において,意匠法第3条第1項第2号に該当するには至らなかったものとみなされるのであるから,引例意匠をもって,本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するとすることはできない。


第5 むすび
以上のとおりであって,本願意匠は,原査定の引例意匠をもって,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するということはできないから,原審の拒絶の理由によって,本願意匠を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2012-01-25 
出願番号 意願2010-4780(D2010-4780) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (H7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂田 麻智 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 杉山 太一
樫本 光司
登録日 2012-02-24 
登録番号 意匠登録第1436667号(D1436667) 
代理人 谷 義一 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ