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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属する(申立成立) J7 |
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管理番号 | 1259682 |
判定請求番号 | 判定2011-600039 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2011-08-31 |
確定日 | 2012-07-04 |
意匠に係る物品 | 家庭用電気マッサージ器 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1404812号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号写真1乃至8に示す「家庭用マッサージ器」の意匠(イ号意匠)は,登録第1404812号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び理由 本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号図面で特定される家庭用マッサージ器(以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1404812号の登録意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の範囲に属する,との判定を求める」と申し立て,証拠方法として,甲第1号証(本件意匠公報),甲第2号証乃至甲第4号証(公知意匠 意匠公報),甲第5号証(イ号意匠の梱包箱の写真),甲第6号証(イ号意匠の取扱説明書のコピー),及び,甲第7号証(本件登録意匠の参考図1乃至6)の文書を提出し,その理由として概要以下のとおり主張した。 (以下,「甲第1号証」は,「甲1」と記し,その他の各号証及び乙各号証も同様とする。) 1.判定請求の必要性 請求人及び本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)は,業として家庭用マッサージ器を日本国内で販売している。従って,両者は,日本国内で競業関係にある。請求人は,イ号意匠が本件登録意匠の範囲に属すると確信しているが,客観的な第三者機関による評価を得るために,判定請求を必要とするものである。 2.本件登録意匠の手続の経緯 出願 平成22年 2月26日(意願2010-4591号) 登録査定 平成22年11月10日(起案日) 設定登録 平成22年12月 3日(登録第1404812号) 3.本件登録意匠の説明 イ)基本形態 本件登録意匠の意匠公報(以下,「本件意匠公報」という。)を甲1として添付する。本件意匠公報に表れる基本形態から明らかなように,本件登録意匠は,クッション形状を有したマッサージ器である。 従来,家庭用マッサージ器としては,甲2のような手持ち式のもの,甲3のような椅子型のもの,又は甲4のような足入れ式のものが知られているが,本件登録意匠のように,家庭用マッサージ器として,クッションの形状を採用したものはきわめて斬新なものと言える。 ロ)具体的形状 本件登録意匠の内容は,本件意匠公報に記載される通りのものであり,概ね,本件登録意匠の参考図1乃至6(以下,単に「参考図1乃至6」という。)を用いて説明すると,次の構成A乃至Bを特徴とするものである。 A)本件登録意匠は,参考図1及び2から明らかなように,四隅a乃至dが丸められた略正方形状であり,該四隅a乃至cから中心に向かってのびる緩やかな登り傾斜の4つの稜線部eを有し,全体として丸みを帯びたずんぐりとした四角錐状で構成されている。 B)本件登録意匠は,参考図3及び4から明らかなように,床面等に置かれるほぼ平らな底面fと,この底面fに連なり滑らかな円弧で膨出する両側部g,gと,この両側部から中央に向かって最高点の頂部hまで高さが漸増している。 C)本件登録意匠は,参考図5及び6から明らかなように,前記底面fの隣り合う隅部に寄せて,一対のボタンi,iが設けられており,このボタンiを外すことで,ボタンiと反対側の一辺で連結されている底面カバーjを外してマッサージ部kを露出させることができる。 4.イ号意匠の説明 イ)イ号意匠は,被請求人によって製造されており,「モーミン マッサージクッション」(MMC-01)なる商品名で,主としてAmazonや楽天市場といった著名なウエブサイトを通じて販売されている。イ号意匠の包装箱の写真及び取扱説明書のコピーを甲5及び甲6として提出する。 ロ)イ号意匠は,本件登録意匠と同一の物品にかかる家庭用マッサージ器であって,添付のイ号写真1乃至8に示される通り,次の構成A’乃至D’を有している。 A’)イ号意匠は,イ号写真1及び6から明らかなように,四隅が丸められた略正方形状であり,該四隅から中心に向かってのびる緩やかな登り傾斜の4つの稜線部を有し,全体として丸みを帯びたずんぐりとした四角錐状で構成されている。 B’)イ号意匠は,イ号写真2及び3から明らかなように,床面等に置かれるほぼ平らな底面と,この底面に連なり滑らかな円弧で膨出する両側部と,この両側部から中央に向かって最高点の頂部まで高さが漸増している。 c)イ号意匠は,イ号写真7及び8から明らかなように,前記底面の隣り合う隅部に寄せて,一対のボタンが設けられており,このボタンを外すことで,ボタンと反対側の一辺で連結された底面カバーを外してマッサージ部を露出させることができる。 d)イ号意匠は,イ号写真1及び8から明らかなように,前記稜線の長さの下半分に,該稜線に沿って起毛状の縁飾りが植設されている。 5.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,本件登録意匠の特徴A乃至Cは,イ号意匠の特徴a乃至cと実質的一致し,両意匠はこれらの構成で共通する。他方,イ号意匠では,前記特徴d,即ち,前記稜線の長さの下半分に,該稜線に沿って起毛状の縁飾りが植設されているのに対して,本件登録意匠では,かかる起毛状の縁飾りが設けられていない点で相違している。 しかしながら,本件登録意匠とイ号意匠とを全体観察した場合,ずんぐりとした四角錐形状という点で美感が共通し,そこに各隅部から頂点にのびる4つの稜線の形状や,底面のボタンの配置,カバーの構成などの具体的態様においても美感を共通にするものである。従って,上記相違点である起毛状の縁飾りの有無は,両意匠の全体の美感に大きな差異をもたらすものとまでは言えない。 従って,イ号意匠は,本件登録意匠の範囲に属するものである。 6.イ号意匠が本件登録意匠の範囲に属するとの説明 以上述べたように,イ号意匠は,本件登録意匠の新規な特徴A乃至Cの全てを充足するものであるから,本件登録意匠の範囲に属するものである。 7.むすび 以上の通り,イ号意匠は,本件登録意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 第2 答弁の趣旨及び理由 被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を「判定被請求人が販売しているイ号意匠は,本件登録意匠の範囲に属さない,との判定を求める」と申し立て,その理由を概要以下のとおり主張し,証拠方法として,乙1ないし4の文書を提出した。 1.本件登録意匠(登録意匠第404812号)の説明 本件登録意匠は,これに先行する登録意匠第1101090号(乙1),登録意匠第1162357号(乙2),登録意匠第1308230号(乙3),及び登録意匠第1370297号(乙4)などに現れた公知意匠を参酌すると,底上げ四角錐(ピラミット形状)の基本的(全体的)形態を有し,その具体的形態としては,(A)錐体高さの約3倍の長さを持つ緩い凹状弓形辺からなる四隅突出状四角形輪郭で,(B)錐体頂点から凹状弓形辺に接近するほど膨らんでおり,(C)凹状弓形辺から下方は錐体高さの約1/2の厚さを持つ底上げ部であり,(D)底上げ部の四隅突出状四角形底面の隣接する2隅に裏面カバーを掛け外すための一対のボタンが設けられて成る。しかしながら,請求人は,底面fから両側部g,gまでの底上げ部の認定を外している。 2.イ号意匠の説明 イ号意匠は,扁平半球形(饅頭形)の基本的(全体的)形態を有し,(a)高さの約3倍の長さを持つ緩い凸状弓形辺からなる四隅引き入れ状丸み四辺形輪郭で,(b)頂上部は平坦面となっており,(d)四隅引き入れ状丸み四辺形の底面の隣接する2隅に裏面カバーを掛け外すための一対のボタンが設けられ,(e)各隅部から頂点に向かう中途位置まで起毛状飾り部(パイピング)が設けられて成る。しかしながら,請求人は,「全体として丸みを帯びたずんぐりとした四角錐状」と述べ,あくまで「四角錐状」の認定に拘泥している。また,イ号意匠の饅頭状部では布地を縫い合わせしてあるため,その縫目を意識すれば視認定できるものの,せり上がった「稜線」として認められるのではない。そして,四隅引き入れ状丸み四辺形から下方には底上げ部を有していない。 3.本件登録意匠とイ号意匠との比較 本件登録意匠の全体的形態は尖ったピラミット形状であるのに対し,イ号意匠の全体的形態はありふれた饅頭形であってピラミット形状とは明らかに異質である。 本件登録意匠は,具体的形態の(A)において四隅突出状となっている点,(B)において凹状弓形辺から錐体頂点に至るほどに膨らみが減少して稜線が顕在化する点,(C)において底上げ部の厚さ分だけ高くなっている点からみて,補強的に,概ね高さ指向性のピラミット形状であるとの美感を看者に与える。 一方,イ号意匠は,具体的形態の(a)において四隅引き入れ状で隅部が不明瞭となっており,円に近い丸み四辺形輪郭である点,(b)頂上部は平坦面になっている点からみて,補強的に,安定指向性の饅頭形であるとの美感を看者に与える。そして,イ号意匠では,(e)起毛状飾り部(パイピング)がアクセントとして機能していることは明らかである。 なお,本件登録意匠の底面とイ号意匠の底面とを対比すれば,四隅突出状四角形と四隅引き入れ状丸み四辺形の輪郭形状の差異において,一対のボタンの共通性が認められるものの,元々,底面は見難い部分であって意匠の類否判断に大きなウエイトを占めるものではない。 4.類否判断 本件登録意匠は尖ったピラミッド形状であって底上げ部を備えていることから,高さ指向性のいわば男性的ないし精悍な印象であるのに対し,イ号意匠は安定的な饅頭形であって装飾美の起毛状飾り部を備えていることから,いわば丸みのある女性的ないし「かわいらしさ」の印象である故,一般需要者にとっては,その相反する印象の違いからして,時と所を異にしても誤認混同を招くことがなく,よって,両意匠は類似しないものである。 5.結語 以上の通り,イ号意匠は,本件登録意匠と非類似でありますので,答弁の趣旨の通り,判定を求めます。 第3 当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は,意匠法第4条第2項の規定(新規性の喪失の例外の規定)の適用を受けようとし,2010年(平成22年)2月26日に意匠登録出願され,2010年(平成22年)12月3日に意匠権の設定の登録がなされ,2011年(平成23年)1月11日に意匠公報が発行された意匠登録第1404812号の意匠であり,願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品は,「家庭用電気マッサージ器」であり,「意匠に係る物品の説明」の欄の記載によれば,「この物品は,扁平な略四角錐状の家庭用電気マッサージ器である。使用状態を示す参考図のように,底部側に振動子がやや突出する状態で配置されている。この振動子を使用者の腰部などに当てて使用される」ものであって,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」は,願書に添付した図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照) 2.イ号意匠 イ号意匠は,請求人が提出した「イ号図面」(イ号写真1乃至8)によって示されたものであって,意匠に係る物品が「家庭用マッサージ器」であり,その形態は,イ号写真1(イ号意匠の斜視図),イ号写真2(イ号意匠の正面図),イ号写真3(イ号意匠の背面図),イ号写真4(イ号意匠の右側面図),イ号写真5(イ号意匠の左側面図),イ号写真6(イ号意匠の平面図),イ号写真7(イ号意匠の底面図),及び,イ号写真8(イ号意匠の使用状態を示す斜視図)に現されたとおりのものである。(別紙第2参照) また,イ号意匠の梱包箱の写真(甲5:別紙第3参照),イ号意匠の取扱説明書のコピー(『モーミン マッサージクッション MMC-01 取扱説明書』)(甲6:別紙第4参照)も適宜参照することとする。 3.本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)本件登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「家庭用電気マッサージ器」であり,イ号意匠の意匠に係る物品は,「家庭用マッサージ器」であるが,各種記載を総合すれば,イ号意匠も電源を必要とするものであるから,両者は,一致する。 (2)本件登録意匠とイ号意匠の形態の対比 両意匠間には,主として,以下のとおりの共通点及び相違点がある。 (共通点) 基本的構成態様として, 共通点(A):全体が凸状の平面視略正方形状で,四辺の周縁部が略丸面状に膨出した態様のクッション状をなすものであって,横幅:奥行き:高さの比が,略1:1:0.5弱である点, 共通点(B):その全体構成は,平面側の凸状の「クッション部」と,底面側の右・左側面視扁平な略逆直角台形状で薄い略くさび形状の「底上げ部」が一体的に接合されて成るものである点, 具体的構成態様として, 共通点(C):底上げ部は,底面全面を被う,背面側の側周縁において横一直線状に固着され,反対側の正面側の底面左右両隅部において丸形状のボタンによるボタン留めされた略正方形状の底面カバーが設けられ,底面カバーのボタン留めを外すと底面の一部に振動子が突出するものである点, 共通点(D):左側面のクッション部と底上げ部の接合部の中央に電源コネクターが形成されたものである点。 (相違点) 相違点(a):クッション部の構成態様を詳細に見ると,本件登録意匠は,クッション部全体の形状が,やや尖った態様の頂点部付近は,略四角錐形状をなしており,平面視頂点部から各四隅に向かって直線的な「稜線」が表れているものであって,また,クッション部の平面視形状が,四方の周縁が極めて緩やかな凹弧状の四辺とやや角張った四隅によって構成されているのに対して,イ号意匠は,クッション部全体の形状が,略ドーム状で,頂点部は尖っていないが,四隅を対角上に結んだ平面視「X」字状の縫合線が形成されており,縫合線の各四隅付近には短い起毛状飾り部(パイピング)が形成されているものであって,また,平面視形状が,四方の周縁が極めて緩やかな凸弧状の四辺と緩やかな隅丸状の四隅によって構成されているものである点, 相違点(b):イ号意匠は,全体が起毛状で暗調子の素材で構成されているのに対して,本件登録意匠は,全体が明調子であるが,素材が不明である点, 相違点(c):底面の底上げ部の振動子が突出する部位の区域の形状が,本件登録意匠は,小さく底面視横長な略小判形状であるのに対して,イ号意匠は,底面視上側にボタン留め部が横長略三日月状に形成され,その下側の大きな区域で略横長矩形状である点。 4.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 以上の一致点,共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。 まず,両意匠は,意匠に係る物品が一致するだけでなく,さらに,本件登録意匠の意匠に係る物品の説明及び使用状態を示す参考斜視図,並びに,甲5,甲6などによれば,振動子を使用者の腰部などに当てて使用されるものであり,底面カバーを外すこともできるものであって,使用方法,使用状態等も酷似している。 そして,形態についての共通点及び相違点の評価は次のとおりである。 (1)共通点の評価 両意匠において共通するとした共通点(A)ないし(D)の構成態様全体,すなわち,基本的構成態様として,全体が凸状の平面視略正方形状で,四辺の周縁部が略丸面状に膨出した態様のクッション状をなすものであって,横幅:奥行き:高さの比が,略1:1:0.5弱であり,その全体は,平面側の凸状の「クッション部」と,底面側の右・左側面視扁平な略逆直角台形状で薄い略くさび形状の「底上げ部」が一体的に接合されて成るものであって,具体的構成態様として,底上げ部は,底面全面を被う,背面側の側周縁において横一直線状に固着され,反対側の正面側の底面左右両隅部において丸形状のボタンによるボタン留めされた略正方形状の底面カバーが設けられ,底面カバーのボタン留めを外すと底面の一部に振動子が突出するものであり,左側面のクッション部と底上げ部の接合部の中央に電源コネクターが形成されたものである点は,両意匠の形態全体に渡り,両意匠の基調を形成するものであって,かつ,この種物品分野における意匠の創作の実態を踏まえ,本件登録意匠の出願前のこの種物品分野の関連する先行公知意匠に照らすところ,本件登録意匠のみに見られる極めて特徴的な構成態様であり,イ号意匠がその共通性を有していることは,見る者に対して極めて強い共通の印象を与えているものであって,これらの共通点全体が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きく,両意匠の類否判断を決定付けているといい得るものである。 (2)相違点の評価 これに対して,相違点は,以下のとおり,微弱,あるいは,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいという他ないものであって,上記の共通点が見る者に与えている極めて強い共通の印象を,それぞれも,また,全体としても覆すほどのものではない。 相違点(a)のうち,本件登録意匠は,クッション部全体の形状が,やや尖った態様の頂点部付近は,略四角錐形状をなしており,平面視頂点部から各四隅に向かって直線的な「稜線」が表れているものであって,また,クッション部の平面視形状が,四方の周縁が極めて緩やかな凹弧状の四辺とやや角張った四隅によって構成されているのに対して,イ号意匠は,クッション部全体の形状が,略ドーム状で,頂点部は尖っていないが,四隅を対角上に結んだ平面視「X」字状の縫合線が形成されており,平面視形状が,四方の周縁が極めて緩やかな凸弧状の四辺と緩やかな隅丸状の四隅によって構成されているものである点については,クッション部全体の形状自体の相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,決して小さいということはできないものであるが,この種のクッションは,布地を縫製した袋状体の中にどの種の「クッション材」をどのように,どの程度,詰めるかによって,その形状は様々変化するものであることを考慮し,そして,前記共通点が両意匠に生じさせている共通の印象を前提としてみた場合,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいという他ないものである。むしろ,イ号意匠が,ありふれた態様といえども,平面視「X」字状に縫合線を形成している点は,本件登録意匠の頂点部付近の略四角錐形状を想起させるものともいい得るものであるから,この点を考慮すれば,相違点(a)は,微弱というべきものである。 また,イ号意匠の該縫合線の各四隅付近には短い起毛状飾り部(パイピング)が形成されているのに対して,本件登録意匠にはそのようなものがない点は,このような短い起毛状飾り部(パイピング)がこの種物品分野において極めてありふれた態様であり,また,前記の両意匠の共通性を前提として考えた場合,この短い起毛状飾り部(パイピング)の有無が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいという他ない。 また,相違点(b)のイ号意匠は,全体が起毛状で暗調子の素材で構成されているのに対して,本件登録意匠は,素材が特定されていない点は,前記の短い起毛状飾り部(パイピング)の有無による相違と同様に,この種物品分野において,イ号意匠のような暗調子の起毛状の素材を選択した態様のものは,例を挙げるまでもなく,極めてよく見られるものであって,イ号意匠の特徴とはいえないものであるから,この相違も両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいという他ない。 相違点(c)の底面の底上げ部の振動子が突出する部位の区域の形状の相違は,底面カバーを外した場合にのみ現れるものであるし,さらに,それぞれの態様は格別特徴的なものとはいえないありふれた態様であるから,相違点としては,あえて採り上げるほどのものでもない程度のものであって,微弱という他ない。 また,これらの相違点に係るイ号意匠の構成態様が相俟って表出する視覚効果を勘案しても,イ号意匠を全体的に特徴付ける構成態様を見出すことはできないものであって,前記共通点が与える共通の印象を覆して,両意匠の類否判断を左右するものではない。 (3)小括 したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,また,その使用方法,使用状態等も極めて酷似しているものあって,形態においても,共通点全体が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きく,両意匠の類否判断を決定付けているといい得るものであるのに対して,相違点は,いずれも,微弱,あるいは,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいという他ないものであって,それぞれも,また,相違点に係るイ号意匠の構成態様を全体として考慮してもイ号意匠を特徴付ける構成態様を見いだすとはできないのであるから,上記の共通点が見る者に与えている極めて強い共通の印象を覆すことはできず,意匠全体として見た場合,イ号意匠は,本件登録意匠に類似する。 5.むすび 以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2012-06-22 |
出願番号 | 意願2010-4591(D2010-4591) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
YA
(J7)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山田 繁和、平田 哲也 |
特許庁審判長 |
瓜本 忠夫 |
特許庁審判官 |
遠藤 行久 早川 治子 |
登録日 | 2010-12-03 |
登録番号 | 意匠登録第1404812号(D1404812) |
代理人 | 山田 稔 |
代理人 | 住友 慎太郎 |