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審決分類 審判    D7
審判    D7
管理番号 1264267 
審判番号 無効2011-880017
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-15 
確定日 2012-09-10 
意匠に係る物品 角度調節金具用回動金具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1424283号「角度調節金具用回動金具」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
平成22年12月20日 意匠登録出願
平成23年 9月 2日 設定の登録(意匠登録第1424283号)
平成23年12月15日 本件意匠登録無効審判請求(請求人)
平成24年 2月24日 審判事件答弁書(被請求人)
平成24年 5月28日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成24年 6月11日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 6月25日 口頭審理
(口頭審理において,審判長は,審理の終結を両当事者に通知した。)

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は,「登録第1424283号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,概略以下の主張をし,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第10号証を提出したものである。
(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,甲第1号証又は甲第2号証のものと類似し,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができない。あるいは,甲第1号証又は甲第2号証によって公知となった意匠に基づいて当業者が容易に創作できたものであり,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができない。
したがって,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(2)証拠方法
甲第 1号証:意匠登録第1399739号公報
甲第 2号証:特開2006-230720号公報
甲第 3号証:特開2009-107052号公報
甲第 4号証:特表2010-535637号公報
甲第 5号証:意匠登録第972840号公報
甲第 6号証:意匠登録第926727の類似1号公報
甲第 7号証:意匠登録第1389805号公報
甲第 8号証:特表2005-506234号公報
甲第 9号証:特開2004-97786号公報
甲第10号証:特表2000-500214号公報

(3)本件登録意匠について
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「角度調節金具用回動金具」である。
イ 本件登録意匠の「意匠の要部」は,次のとおりである。
(i)多数の細かなギア部が扇型に形成された2枚のギア板部を有する点,
(ii)正面図において,右寄りの円管部の軸心に対して,左上方斜方向に凸の円弧状(扇型)として,多数の細かなギア歯が配設されている点,
(iii)多数の細かなギア歯を有する2枚のギア板部は,相互に平行に配置され,かつ,薄い板材をもって形成されている点,
(iv)正面図において,円弧状(扇型)のギア部の両端に,ラジアル外方向へ突出する突隆部が形成されている点。
ウ 本件登録意匠の具体的な「細部形状」は,次のとおりである。
(v)円弧状(扇型)のギア部の端部と突隆部との間に,略U字形の小さな凹窪部が形成されている点,
(vi)ギア板部のギア歯は,(両端の山から山まで測った)中心角度が約97°の範囲に配設されている点,
(vii)各ギア部のギア歯の数は17個である点。

(4)甲第1号証(意匠登録第1399739号公報)について
甲第1号証は,本件登録意匠の出願日前の平成22年10月25日に発行された意匠公報である。
ア 意匠に係る物品
甲第1号証の意匠の意匠に係る物品は,「角度調整金具用揺動アーム」である。
イ 甲第1号証の「意匠の要部」は,次のとおりである。
(i)’多数の細かなギア部が扇型に形成された2枚のギア板部を有する点,
(ii)’正面図において,右寄りの円管部の軸心に対して,左上方斜方向に凸の円弧状(扇型)として,多数の細かなギア歯が配設されている点,
(iii)’多数の細かなギア歯を有する2枚のギア板部は,相互に平行に配置され,かつ,薄い板材をもって形成されている点,
(iv)’正面図において,円弧状(扇型)のギア部の両端に,ラジアル外方向へ突出する突隆部が形成されている点。
ウ 甲第1号証の具体的な「細部形状」は,次のとおりである。
(v)’円弧状(扇型)のギア部の端部と突隆部との間は,ラジアル外方向にゆくにしたがってギア部から離れる方向へ傾斜する短い勾配線が形成されている点,
(vi)’ギア板部のギア歯は,(ギア部の両端の山から山まで測った)中心角度が約104°の範囲に配設されている点,
(vii)’各ギア部のギア歯の数は22個である点。

(5)甲第2号証(特開2006-230720号公報)について
甲第2号証は,本件登録意匠の出願日前の平成18年9月7日に発行された特許公開公報である。
ア 意匠に係る物品
甲第2号証において,符号(2)で示された第2アームであって,意匠に係る物品は「角度調整金具用回動金具」である。
イ 甲第2号証において,図3ないし図5,図7ないし図14に図示されている第2アーム(2)(即ち,「角度調整金具用回動金具」)の「意匠の要部」及び具体的な「細部形状」は,前記の甲第1号証の「意匠の要部」及び具体的な「細部形状」と同一である。

(6)本件登録意匠と甲第1号証との対比(意匠法第3条第1項第3号)
ア 意匠に係る物品
甲第1号証は「角度調整金具用揺動アーム」と記載され,本件登録意匠では「角度調整金具用回動金具」と記載されている。しかし,各々の使用状態を示す参考図等を比較し,かつ,意匠に係る物品の説明の欄を比較検討すれば,両者は全く同一の物品である。
イ 形態
(ア)部分意匠としての物品の位置,大きさ,範囲
本件登録意匠及び甲第1号証意匠は,ともに,正面視において,円管部の左側に形成された各ギア板部の左上の位置に存在する。かつ,扇型ギア部の物品全体に占める大きさと,その占める範囲も,略同一である。
(イ)共通点及び差異点
a 共通点
(i)(i)’多数の細かなギア部が扇型に形成された2枚のギア板部を有する点,
(ii)(ii)’正面図において,右寄りの円管部の軸心に対して,左上方斜方向に凸の円弧状(扇型)として,多数の細かなギア歯が配設されている点,
(iii)(iii)’多数の細かなギア歯を有する2枚のギア板部は,相互に平行に配置され,かつ,薄い板材をもって形成されている点,
(iv)(iv)’正面図において,円弧状(扇型)のギア部の両端に,ラジアル外方向へ突出する突隆部が形成されている点。
b 差異点
(v)(v)’円弧状(扇型)のギア部の端部と突隆部との間に,本件登録意匠では,略U字形の小さな凹窪部が形成されているのに対して,甲第1号証の意匠では,ラジアル外方向にゆくにしたがってギア部から離れる方向へ傾斜する短い勾配線が形成されている点,
(vi)(vi)’ギア板部のギア歯は,(両端の山から山まで測った)中心角度が,本件登録意匠では約97°の範囲に配設されているのに対して,甲第1号証の意匠では約104°の範囲に配設されている点,
(vii)(vii)’各ギア部のギア歯の数は,本件登録意匠では,17個であるのに対して,甲第1号証の意匠では,22個である点。
c 共通点の評価
(a)本件登録意匠と甲第1号証の意匠の要部形状である,共通点(i)(i)’ないし(iv)(iv)’が全く共通している。
(b)甲第1号証の意匠は,薄い板材を2枚平行に配置して,各々に同じ細かな多数のギア歯を扇型に形成し,かつ,突隆部をギア部の(周方向の)端部に形成した点が,意匠上,全く斬新なデザインである。
(c)意匠の類否判断において,「斬新なものほど混同の範囲,すなわち,類似の幅が広い」という基準に従えば,本件登録意匠と甲第1号証の意匠の要部形状である,共通点(i)(i)’ないし(iv)(iv)’が,全く共通するという事実は,両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい。
d 差異点の評価
これに対し,前記差異点(vi)(vi)’,(vii)(vii)’は,いずれも一般需要者(看者)が詳細に現物を手に取って比較して初めて気が付く程度の微細な点であり,間接対比観察においては,看者の格別の注意を惹く差異とは言えない。
そして,差異点(v)(v)’に関し,前記したように,看者は,要部形状の共通点(i)(i)’ないし(iv)(iv)’に強く注目するのであり,部分意匠全体からすれば極めて小さな割合の差異にすぎないこと,及び甲第3号証?甲第8号証に列挙したように,この種の機械部品・機械要素では,「逃げ」「盗み」等としての“小さな凹窪部”は,全くありふれた形状であって,そのようなありふれた周知のモチーフが小さく付加されているにすぎないことから,特徴的な要部形状の共通点(i)(i)’ないし(iv)(iv)’が,当該差異点(v)(v)’を遙かに凌駕する。
したがって,差異点(v)(v)’ないし(vii)(vii)’が類否判断に与える影響は小さい。
ウ 小括
以上のとおり,両意匠の物品全体に対する位置,大きさ,範囲が略同一であること,及び「意匠の要部」が全く共通しており,その共通点が類否判断に与える影響は極めて大きいのに対し,「細部形状」における差異は微細な違いにすぎない。
故に,本件登録意匠は,甲第1号証のものと類似し,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当する。

(7)本件登録意匠と甲第2号証との対比(意匠法第3条第1項第3号)
ア 意匠に係る物品
甲第2号証において,符号(2)が付されたところの「第2アーム」と本件登録意匠とは全くの同一物品であり,単に,意匠に係る物品の名称の表現が異なるにすぎない。
イ 形態の共通点及び差異点
甲第1号証の登録意匠の意匠出願は,特願2010-17810号からの変更出願であり,かつ,この特願2010-17810号の元々の原出願が平成17年2月25日付の特願2005-50055号である。
甲第2号証は,上記特願2005-50055号の公開公報である。
故に,前項(6)において,請求人が主張した内容を,甲第2号証においても,そのまま主張する。
ウ 小括
すなわち,本件登録意匠は,この甲第2号証のものと類似し,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当する。

(8)本件登録意匠と甲第1号証(又は甲第2号証)との対比(意匠法第3条第2項)
ア 意匠に係る物品
甲第1号証の揺動アーム(又は甲第2号証の第2アーム)と本件登録意匠とは同一物品である点は,既に説明済みである。〔前項(6)ア参照〕
イ 形態の共通点及び差異点
(ア)共通点
a 本件登録意匠は,正面図において,円管部の左側に形成されたギア板部の左上の位置に,扇型ギア部が形成され,意匠に係る物品中の位置と大きさと範囲が,甲第1号証(又は甲第2号証)と共通している点,
b 多数の細かなギア部が扇型に形成されたギア板部を,2枚,薄板をもって,平行に配設した点,
c 円管部から見て,左上方斜方向に凸の円弧状(扇型)にギア歯を形成した点,
d (正面図において)円弧状のギア部の両端に突隆部が突設されている点。
(イ)差異点
a 円弧状(扇型)のギア部の端部と突隆部との間において,本件登録意匠には,略U字形の小さな凹窪部が形成されているのに対して,甲第1号証(又は甲第2号証)の意匠には,このような小さな凹窪部が存在しない点,
b 扇型ギア歯の中心角度が,本件登録意匠では約97°であるに対して,甲第1号証(又は甲第2号証)の意匠では約104°である点,
c ギア部のギア歯の数が,本件登録意匠は17個であるのに対して,甲第1号証(又は甲第2号証)の意匠は22個である点,
d 本件登録意匠は,突隆部が周方向に小さい寸法をもって突出している点。
創作容易性についての検討
(ア)差異点bの扇型ギア部の中心角度の相違については,約7%程度の微小な差であって,当業者が甲第1号証(又は甲第2号証)の意匠に基づいて極めて容易に創作できる。
(イ)差異点cのギア歯の数につき,本件登録意匠が17個とした点は,甲第1号証(又は甲第2号証)の意匠の22個から,何の創作努力なしで簡単に減少できる範囲である。
(ウ)差異点aの本件登録意匠の“小さな凹窪部”につき,甲第3号証ないし甲第8号証,及び甲第10号証に記載されているように,この種の機械部品(金具等)では,「逃げ」「盗み」等として,当該“小さな凹窪部”は全くありふれた形状(周知モチーフ)であって,この種の機械部品(金具等)を取扱う当業者にとって,何の創作努力なしにて簡単に付加可能である。
(エ)差異点dの,本件登録意匠の突隆部につき,甲第9号証の図3,図8,及び図9に示す突隆部4b及び4cが,本件登録意匠と同様の形状であって,公然知られた形状である。
したがって,本件登録意匠では,このような,周方向に小さい寸法の突隆部の形状を,何の創作努力もなしで取り入れている。
エ 小括
以上述べたように,本件登録意匠は,甲第1号証(又は甲第2号証)によって公然知られた形状に,甲第3号証ないし甲第10号証にて周知(公知)となった形状(モチーフ)を単に取り入れることにより,当業者ならば容易に創作することができた意匠であり,意匠法第3条第2項の規定に該当する。

(9)むすび
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号,又は,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

2.被請求人の主張
被請求人は,「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由として,概略以下のように主張し,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第25号証を提出した。
(1)主張の要旨
本件登録意匠の物品である「角度調整金具用回動金具」については,甲第1号証の意匠及び甲第2号証の意匠が公開される前から,乙第1号証ないし乙第24号証,及び甲第9号証に示すように多数の意匠が公開されている。
しかし,本件登録意匠は,前記の公知の意匠に変化を加え,ギア板におけるギア歯の両側端に,窪み部及び突隆部がこの順で配設され,一体としての新しい美感である対称性と調和を創作したものであると同時に,窪み部,突隆部自体の形状が,公知意匠に見られない独特のものであるので,本件登録意匠は,登録無効原因を有するものではない。

(2)証拠方法
乙第 1号証:実開昭57-194343号
乙第 2号証:実開昭58-21342号
乙第 3号証:実開昭60-128552号
乙第 4号証:実開平2-143049号
乙第 5号証:特開平3-45206号
乙第 6号証:実開平4-131345号
乙第 7号証:登録実用新案公報第3000379号
乙第 8号証:実開平6-77589号
乙第 9号証:特開平7-231819号
乙第10号証:特開平8-84629号
乙第11号証:登録実用新案公報第3045014号
乙第12号証:特開平9-299173号
乙第13号証:特開平10-14693号
乙第14号証:特開平10-28624号
乙第15号証:特開平11-37139号
乙第16号証:登録実用新案公報第3067180号
乙第17号証:特開2000-207926号
乙第18号証:特開2001-41306号
乙第19号証:特開2001-349351号
乙第20号証:特表2003-530172号
乙第21号証:特開2004-92876号
乙第22号証:特開2006-340797号
乙第23号証:特開2006-340798号
乙第24号証:特開2008-80049号
乙第25号証:会社案内(平成7年4月配布)

(3)本件登録意匠について
ア 本件登録意匠の「意匠の要部」は,次のとおりである。
(I)突隆部が新規な形状である点,
具体的には,当該突隆部は,そのギア歯側の頂部先端とギア歯側底部先端との関係で,突隆部の頂部先端部は,歯側に突出していて庇状の形状である。
この故に,突隆部の構成において,ギア歯側の頂部先端から底辺に至る突隆部の傾斜線は,その上端部がギア歯側に傾斜した角度を有していると共に,突隆部傾斜線は,その頂部からギア歯頂部の高さに至るまで,略直線を形成している。すなわち,左右の突隆部の傾斜面は,互いに向き合うハ字状をなす形状となっている。
(II)窪み部が,新規な形状である点,
具体的には,当該窪み部は,
i 突隆部側ギア歯の傾斜辺が,同傾斜角度でギア歯の歯底円を下方に超えて,更にギア歯の傾斜面の長さと略等しい長さで,かつ,同傾斜角度で伸び,全体として平滑な傾斜面を形成した後に,R状を形成し,
ii 次いで,略水平に,ギア歯のピッチ長さと略同長さで,歯側と反対方向に伸びて,R状を形成し,
iii 更に,上記iの斜面と平行に,かつ,ギア歯斜面下端点と同位置に至るまで伸びて,
iv 全体として,略U字状を形成している。
なお,上記iiiの位置を超えた延長線は,突隆部の傾斜面となる。
(III) ギア歯を中心にして,その左右に窪み部を,さらに,窪み部の外側に突隆部を配した点。
さらに,ギア歯を挟んで,突隆部及び窪み部の構成が,左右対称となっている点は,本件登録意匠の特徴的構成である。

(4)甲第1号証(意匠登録第1399739号)について
請求人主張のとおり,甲第1号証意匠には,(i)’ないし(vii)’の構成がある(「第2 当事者の主張,1.請求人の主張,(4)甲第1号証(意匠登録第1399739号公報)について」参照)が,これらの構成は,要部とはならない。

(5)甲第2号証(特開2006-230720号公報)について
請求人は,甲第2号証の符号(2)にて示された第2アームが,本件登録意匠の意匠に係る物品「角度調整金具用回動金具」と同一物品と主張するが,同一物品ではなく,同種物品である。

(6)本件登録意匠と甲第1号証,甲第2号証意匠との対比(意匠法第3条第1項第3号)
本件登録意匠の要部である「窪み部」の形状,突隆部の庇状の形状は,甲第1号証意匠,甲第2号証の形状に存在せず,また,本件登録意匠の要部がもたらす対称美,調和美は,甲第1号証意匠,甲第2号証の形状には存在しない。
よって,甲第1,2号証の構成部分とは,全く別異の構成を有し,要部を異にする本件登録意匠は,甲第1号証意匠,甲第2号証の形状に類似するものではない。

(7)本件登録意匠と甲第1号証,甲第2号証意匠との対比(意匠法第3条第2項)
角度調整金具のギア歯としての本件登録意匠の形状は,角度調整金具として,従来の突隆部の形状を配設すれば足りるところを,突隆部の形状を庇状になし,窪み部は不要であるにも拘わらず,これを配設し,更には,ギア歯と窪み部及び突隆部の配設位置を左右対称にしたものである。
上記の工夫創作は,看者に従来のギア歯には存在しなかったギア歯と窪みからなる凹凸のもたらす対称美,窪み部と突隆部からなる凹凸という対称美,さらに,ギア歯を中心にして,その左右に窪み部,突隆部をその順に配した対称性とその調和性が,ギア板に従来存在しない美感を惹起させるもので,本件登録意匠は,対称と調和からなる釣り合い美を表現しているのである。
本審判事件答弁書で列記した公知意匠を検討したとき,乙第9号証(突隆部なし,窪み部の構成なし),乙第14号証の図2(突隆部なし,窪み部の構成なし),乙第17号証(突隆部なし,窪み部の構成なし),乙第20号証(突隆部なし,窪み部の構成なし),乙第24号証(突隆部なし,窪み部の構成なし)などの形状は,左右対称と言えるかもしれないが,いずれも突隆部,窪み部の構成が存在せず,ギア歯,窪み部,庇状突隆部を対称的に配列した形状は存在せず,調和もまた見られない。
上記の次第であるから,本件登録意匠の対称性と調和性がもたらす形状という新規な形状を創作するのは,極めて困難な作業であり,創作は容易ではない。
また,本件登録意匠に対し,各甲号証のいずれも,本件登録意匠の特徴的構成を開示するものではないので,本件登録意匠は,甲第1号証意匠及び甲第2号証意匠に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものとは言えない。

(8)むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号,同2項の要件を満たすものである。

第3 口頭審理
本件審判について,当審は,平成24年6月25日に口頭審理を行い,当事者は,以下のとおり,陳述した。
(平成24年6月25日付第1回口頭審理調書)
1.請求人の陳述
(1)陳述の要領
請求人は,平成23年12月15日付審判請求書,及び平成24年5月28日付口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し,証拠方法として甲第11号証及び甲第12号を提出した。
(2)証拠方法
甲第11号証:平成23年(ワ)第9476号意匠権侵害差止請求事件
(大阪地方裁判所第26民事部)の判決書面抜粋(写)
甲第12号証:工業所有権逐条解説(第18版)編集特許庁抜粋(写)

2.被請求人の陳述
(1)陳述の要領
被請求人は,平成24年2月24日付審判事件答弁書,及び平成24年6月11日付口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し,証拠方法として,乙第26号証を提出した。
(2)証拠方法
乙第26号証:平成23年(ワ)第9476号意匠権侵害差止請求事件
(大阪地方裁判所第26民事部)の判決書面(写)

第4 当審の判断
本件登録意匠が,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するか否か,すなわち,本件登録意匠が,第1号証又は甲第2号証に示された意匠(以下,それぞれ「甲1意匠」,「甲2意匠」という。)に類似するか否か(以下,前記各意匠との類似性に基づく無効理由を,それぞれ「無効理由1」,「無効理由2」という。),また,本件登録意匠が,同法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本件登録意匠が,甲1意匠又は甲2意匠に基づいて当業者が容易に創作できたものであるか否か(以下,前記各意匠に基づく創作非容易性についての無効理由を,それぞれ「無効理由3」,「無効理由4」という。)について,以下検討する。
1.本件登録意匠及び甲1意匠,甲2意匠の形態等について
(1)本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1424283号)は,物品の部分について意匠登録を受けたものであり,意匠に係る物品を「角度調整金具用回動金具」とし,意匠に係る物品の説明によれば,座椅子等のリクライニングシートにおける背フレームの傾斜角度を調整するためのものであって,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのもので,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」(以下,この部分意匠として意匠登録を受けた部分を「本件実線部分」という。)としたものである。(別紙第1参照)
ア 「本件実線部分」の用途及び機能と位置,大きさ,範囲について
「本件実線部分」は,椅子等の背フレームの傾斜角度を調整するためのギア部分であって,正面視において,円管部の左側に形成された2枚の平行な薄い板材のギア板部の,それぞれ左斜め上方の同形同大の略細幅扇面形状の範囲である。
イ 「本件実線部分」の形態について
「本件実線部分」の形態は,正面視すると,平行な2枚の薄い板材のギア板部の,それぞれの外縁の中央大略部に,中心角が90度よりやや大きな角度の凸円弧状のギア歯部が設けられ,ギア歯部の上端及び下端には,それぞれ順次,略「U」字状の凹窪部,及び変形略矩形状の突出部が延設的に形成され,当該上下端の凹窪部及び突出部を含めて,全体が左右対称形状を呈している。
そして,子細に見ると,ギア歯部は,17個のやや小さな同形同大の略山型形状のギア歯からなり,上端の略「U」字状の凹窪部は,全体が左斜め上方に開口した略「U」字状をなし,更に,凹窪部の底部は,左方より順次,やや小さな径の円弧状部,傾斜辺部,そして,やや大きな円弧部からなる,左右非対称形状をなし,上端の突出部は,凹窪部に連接して,全体が,短靴を上下逆さにして,つま先部をギア歯方向に向けたときの側面視シルエットを想起させる変形略矩形状を呈している。また,ギア歯部の下端の略「U」字状の凹窪部,及び変形略矩形状の突出部の形態も,上端のそれら形態と同形同大の左右対称形状を呈している。

(2)甲1意匠
甲1意匠は,2010年(平成22年)10月25日に日本国特許庁が発行した意匠公報に記載された,意匠登録第1399739号の意匠であって,意匠に係る物品は「角度調整金具用揺動アーム」である。
そして,甲1意匠における「本件実線部分」に相当する部分は,意匠公報に記載された各図において,実線で表され,一点鎖線により囲まれた部分(以下,「甲1相当部分」という。)である。
ア 「甲1相当部分」の用途及び機能と位置,大きさ,範囲について
「甲1相当部分」の用途及び機能と位置,大きさ,範囲は,座椅子等の回動部の傾斜角度を調整するためのギア部分であって,正面視において,円管部の左側に形成された2枚の平行な薄い板材のギア板部の,それぞれ左斜め上方の同形同大の略細幅扇面形状の範囲である。
イ 「甲1相当部分」の形態について
「甲1相当部分」の形態は,正面視すると,平行な2枚の薄い板材のギア板部の,それぞれの外縁の中央大略部に,中心角が90度よりやや大きな角度の凸円弧状のギア歯部が設けられ,ギア歯部の上端及び下端には,崖状の突隆部が形成されているものであるが,全体は,左右対称形状ではないものである。
そして,子細に見ると,ギア歯部は,22個のやや小さな同形同大の略山型形状のギア歯からなり,上端の崖状の突隆部は,ギア歯部上端と連設して斜め右上を向く傾斜辺に続き,傾斜辺と鈍角をなす直線状部及びそれに連設する若干の円弧状部からなり,下端の崖状の突隆部は,ギア歯部下端に連設する若干の直線状部を介して,斜め左下を向く傾斜辺に続き,傾斜辺と鈍角をなす若干の直線状部からなっている。(別紙第2参照)

(3)甲2意匠
甲2意匠は,2006年(平成18年)9月7日に日本国特許庁が発行した公開特許公報に記載された,特開2006-230720号(発明の名称:角度調整金具)において,符号2が付された「第2アーム」の意匠である。
ところで,甲2意匠が記載された,特開2006-230720号(特願2005-50055号)は,その後,特願2010-17810号に出願変更され,更に,意願2010-2751号に出願変更されて,意匠登録第1399739号として設定の登録後,意匠公報が発行され,当該意匠公報が,本件審判事件において,甲第1号証として提出されたものである。
したがって,甲2意匠と甲1意匠は,実質的に,同一意匠であることから,甲2意匠の意匠に係る物品は,甲1意匠と同じく「角度調整金具用揺動アーム」であり,甲2意匠において「本件実線部分」に相当する部分は,「甲1相当部分」と同一の部分(以下,「甲2相当部分」という。)である。(別紙第3参照)
ア 「甲2相当部分」の用途及び機能と位置,大きさ,範囲について
「甲2相当部分」の用途及び機能と位置,大きさ,範囲は,いずれも「甲1相当部分」と一致している。(前記「(2)甲1意匠,ア「甲1相当部分」の用途及び機能と位置,大きさ,範囲について」参照)
イ 「甲2相当部分」の形態について
「甲2相当部分」の形態は,「甲1相当部分」と同一である。(前記「(2)甲1意匠,イ「甲1相当部分」の形態について」参照)

2.無効理由1(本件登録意匠と甲1意匠との類否)について
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「角度調節金具用回動金具」であるのに対して,甲1意匠の意匠に係る物品は「角度調整金具用揺動アーム」であって,表記は異なり,使用対象物品も多少相違するものの,両物品ともに,椅子等の回動部の傾斜角度を調整するための部品であって,意匠に係る物品は,ほぼ一致する。

(2)「本件実線部分」と「甲1相当部分」の用途及び機能と,位置,大きさ,範囲
両部分は,椅子等の回動部の傾斜角度を調整するためのギア部分であって,用途及び機能は一致し,また,正面視において,円管部の左側に形成された2枚の平行な薄い板材のギア板部の,それぞれ左斜め上方の同形同大の略細幅扇面形状の範囲であって,位置,大きさ,範囲は,ほぼ一致する。

(3)「本件実線部分」と「甲1相当部分」の形態の共通点及び相違点
ア 共通点
(ア)両部分は,正面視すると,平行な2枚の薄い板材のギア板部の,それぞれの外縁の中央大略部に,中心角が90度よりやや大きな角度の凸円弧状のギア歯部が設けられている点,
(イ)それぞれのギア歯部は,約20個のやや小さな同形同大の略山型形状のギア歯で構成されている点。
イ 相違点
(ア)それぞれのギア歯部の上端及び下端には,正面視すると,「本件実線部分」は,それぞれ順次,略「U」字状の凹窪部,及び変形略矩形状の突出部が延設的に形成され,当該上下端の凹窪部及び突出部を含めて,全体が左右対称形状を呈しているのに対して,「甲1相当部分」は,崖状の突隆部が形成され,全体が左右対称形状を呈していない点,
(イ)凸円弧状のそれぞれのギア歯部の中心角の角度につき,「本件実線部分」より「甲1相当部分」は,やや大きい点,
(ウ)それぞれのギア歯部の略山型形状のギア歯の数につき,「本件実線部分」は17個であるのに対して,「甲1相当部分」は22個である点。

(4)本件登録意匠と甲1意匠の類否判断
以上の「本件実線部分」と「甲1相当部分」の共通点及び相違点が,本件登録意匠と甲1意匠との類否判断に及ぼす影響を評価し,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。
ア 共通点の評価
共通点(ア)について,乙第5号証及び乙第21号証に示された意匠(それぞれ「参考意匠1」(別紙第4参照),「参考意匠2」(別紙第5参照)という。)によると,平行な2枚の薄い板材のギア板部の,それぞれの外縁の中央大略部に,中心角が90度よりやや大きな角度の凸円弧状のギア歯部が設けられている構成が認められる。
また,それぞれのギア歯部を凸円弧状とした点は,この種物品において,座椅子の背もたれ等を回動させるという機能上,必然的に採用せざるを得ない形態である。
そうすると,両部分が,平行な2枚の薄い板材のギア板部の,それぞれの外縁の中央大略部に,中心角が90度よりやや大きな角度の凸円弧状のギア歯部を設けた点は,甲1意匠の公開前から普通に見られる態様であることから,両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱である。
ところが,共通点(イ)について,両部分のそれぞれのギア歯部が,約20個のやや小さな同形同大の略山型形状のギア歯で構成されている態様は,証拠方法に示された,いずれの意匠にも見られない態様のものである。
しかし,例をあげるまでもなく,一般にギア歯の数は,当該物品の果たす機能によって適宜様々な数に決定されることを勘案すれば,約20個というギア歯の数は,格別特徴あるものとは言い難く,また,やや小さな同形同大の略山型形状というギア歯の形状も,格別特徴ある形状とは言えないことから,両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,一定程度に留まるものである。
イ 相違点の評価
これに対して,相違点に係る形態が,相乗して生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。
すなわち,相違点(ア)の,それぞれのギア歯部の上端及び下端に,「本件実線部分」が,それぞれ順次,略「U」字状の凹窪部,及び変形略矩形状の突出部を延設的に形成し,当該上下端の凹窪部及び突出部を含めて,全体を左右対称形状とした構成態様は,本件登録意匠の出願前には見られない特徴的な構成態様である。
そして,それぞれのギア歯部の上端及び下端の突出部,あるいは突隆部は,機能的にも椅子等の回動部の回動範囲を制限するという重要な機能を果たす部位であることから,看者の注意を強く惹く部位であり,また,両部分の全体の構成態様が単純であるが故に,当該部位の形態の相違は,両部分の印象を全く別異なものとするに十分であって,両意匠の類否の判断に大きな影響を及ぼすものである。

なお,請求人は,「本件実線部分」の略「U」字状の凹窪部は,部分意匠全体からすれば,極めて小さな割合の差異にすぎず,また,甲第3号証ないし甲第8号証,及び,甲第10号証に記載されているように,この種の機械部品・機械要素では,「逃げ」「盗み」等として,全くありふれた形状であって,そのようなありふれた周知のモチーフが小さく付加されているに過ぎないから,前記共通点が当該相違点を遙かに凌駕する旨主張する。
また,請求人は,甲第11号証に示した「ロ-2号意匠」等から,突隆部を延設して対称形とする等は,本件登録意匠の出願前から公知であったから,本件登録意匠は,甲1意匠に類似する旨主張する。
しかし,「本件実線部分」の略「U」字状の凹窪部は,前記のとおり,看者の注意を強く惹く部分であって,決して小さな部分とはいえず,その具体的な形態は,提出された各甲号証に示された意匠を含め,本件登録意匠の出願前には見られない形態であって,「本件実線部分」の略「U」字状の凹窪部は,ありふれた形状(周知モチーフ)とは言えないことから,「本件実線部分」について,ありふれた周知のモチーフが小さく付加されているに過ぎないとは到底言えない。
また,それぞれのギア歯部の上端及び下端に突隆部を延設して全体を左右対称形状とすることが,本件登録意匠の出願前から公然知られていたとしても,「本件実線部分」の一体的に形成された略「U」字状の凹窪部,及び変形略矩形状の突出部の具体的形態は,前記のとおり,本件登録意匠の出願前には見られない特徴ある態様のものであることから,いずれも前記判断を左右するまでには至らない。
したがって,請求人の前記の主張は,採用することができない。

次に,相違点(イ)の凸円弧状のそれそれのギア歯部の中心角の角度の相違,及び相違点(ウ)のそれぞれのギア歯部の略山型形状のギア歯の数の相違については,いずれも子細に観察して認識できる程度の僅かな相違であって,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱ではあるが,相違点(ア)と相まって,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものであるから,これらの相違点に係る形態が相乗して生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断を決定付けると言わざるを得ない。

(5)無効理由1のまとめ
そうすると,両意匠の意匠に係る物品は,ほぼ一致し,また,両部分の用途及び機能は一致し,位置,大きさ,範囲は,ほぼ一致するが,その形態において相違点が共通点を凌駕し,意匠全体として看者に異なる美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠と甲1意匠は,類似するものではない。

3.無効理由2(本件登録意匠と甲2意匠との類否)について
本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は,ほぼ一致し,また,「本件実線部分」と「甲2相当部分」の用途及び機能は一致し,位置,大きさ,範囲は,ほぼ一致するが,その形態において相違点が共通点を凌駕し,意匠全体として看者に異なる美感を起こさせるものである。
したがって,本件登録意匠と甲2意匠とは,類似するものではなく,その理由は,無効理由1で述べたとおりである。(「第4 当審の判断,2.無効理由1(本件登録意匠の甲1意匠との類否)について」参照)

4.無効理由1及び同2のまとめ
以上のとおりであって,本件登録意匠と,甲1意匠又は甲2意匠は類似するものではなく,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するとはいえない。

5.無効理由3(本件登録意匠の甲1意匠に基づく創作非容易性)について
本件登録意匠及び甲1意匠の形態等については,前記1.に述べたとおりである。(「第4 当審の判断,1.本件登録意匠及び甲1意匠,甲2意匠の形態等について」参照)
そこで,本件登録意匠が,甲1意匠に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものであるか否か,つまり,「本件実線部分」が「甲1相当部分」に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かについて,以下検討する。
(1)「本件実線部分」が,平行な2枚の薄い板材のギア板部の,それぞれの外縁の中央大略部に,中心角が90度よりやや大きな角度の凸円弧状のギア歯部を設け,ギア歯部は,約20個のやや小さな同形同大の略山型形状のギア歯で構成されている点については,「甲1相当部分」とほぼ一致する態様であることから,この点に関しては,「甲1相当部分」に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものと認められる。

(2)「本件実線部分」の凸円弧状のそれぞれのギア歯部の中心角の角度につき,「甲1相当部分」よりやや大きい点,及びギア歯部のギア歯の数につき,「本件実線部分」は,「甲1相当部分」の22個より少ない17個とした点については,いずれもその差は僅かであって,よく行われるところの多少の改変の範囲内に過ぎないものであるから、この点に関しては,「甲1相当部分」に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものと認められる。

(3)「本件実線部分」の凸円弧状のそれぞれのギア歯部の上端及び下端には,それぞれ順次,略「U」字状の凹窪部,及び変形略矩形状の突出部が延設的に形成され,当該上下端の凹窪部及び突出部を含めて,全体が左右対称形状を呈している点につき,全体を左右対称形状とすることは,甲第11号証に示された「ロ-2号意匠」に既に見られるところではあるが,凹窪部及び突出部の具体的な形状は,「甲1相当部分」の崖状の突隆部の形状とは明らかに異なり,また,「本件実線部分」に設けられた凹窪部及び突出部の両者が一体となった態様は,本件登録意匠の出願前には見られない特徴ある態様であることから,この点に関して,「甲1相当部分」に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたとは,到底言うことができない。

(4)無効理由3のまとめ
そうすると,前記(1)及び(2)の点に関しては,「甲1相当部分」に基づいて当業者であれば容易に創作することができたとしても,(3)の点に関しては,「本件実線部分」の要部に係るものであって,この部分について,「甲1相当部分」に基づいて当業者であれば容易に創作することができたとは言えない以上,本件登録意匠は,甲1意匠に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたということはできない。

なお,請求人は,「本件実線部分」の略「U」字状の凹窪部につき,甲第3号証ないし甲第8号証,及び甲第10号証に記載されているように,この種の機械部品(金具等)では,「逃げ」「盗み」等として,全くありふれた形状(周知モチーフ)であって,この種の機械部品(金具等)を取扱う当業者にとって,何の創作努力なしにて簡単に付加可能である旨主張する。
しかし,「本件実線部分」の略「U」字状の凹窪部の具体的な形状は,甲第3号証ないし甲第8号証,及び甲第10号証に示された意匠を含め,本件登録意匠の出願前には見られない形状であることから,「本件実線部分」の凹窪部の形状が,ありふれた形状(周知モチーフ)であるとはいえない。
また,請求人は,「本件実線部分」の突出部につき,甲第9号証の図3,図8,図9に示す突隆部4b,4cが同様の形状であって,公然知られた形状であって,何の創作努力もなしで取り入れている旨主張する。
しかし,甲第9号証の図3,図8,図9に示す突隆部4bの突出部の形状は,「本件実線部分」の突出部の形状と大きく異なり,また,4cの突出部の形状も,略直角台形状であって,「本件実線部分」の突出部の形状とは異なる。
そうすると,本件登録意匠の出願前に「本件実線部分」の突出部の形状と一致する形状が見られないことから,「本件実線部分」の突出部の形状が,公然知られた形状であるとはいえない。
したがって,請求人の前記の主張は,採用することができない。

6.無効理由4(本件登録意匠の甲2意匠に基づく創作非容易性)について
本件登録意匠,及び甲2意匠の形態等については,前記1.に述べたとおりである。(「第4 当審の判断,1.本件登録意匠及び甲1意匠,甲2意匠の形態等について」参照)
そこで,本件登録意匠が,甲2意匠に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものであるか否か,つまり,「本件実線部分」が「甲2相当部分」に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かについて,以下検討する。
「甲2相当部分」と「甲1相当部分」は,用途及び機能と位置,大きさ,範囲は一致し,また,両部分の形態も同一であることから,本件登録意匠が甲2意匠に基づいて,当業者であれば容易に創作することができたとはいえず,その理由は,無効理由3で述べたとおりである。(「第4 当審の判断,5.無効理由3(本件登録意匠の甲1意匠に基づく創作非容易性)について」参照)

7.無効理由3及び同4のまとめ
以上のとおり,本件登録意匠は,甲1意匠又は甲2意匠に基づいて,当業者が容易に創作することができた意匠とはいえず,意匠法第3条第2項の規定に該当するとはいえない。

8.小括
したがって,以上検討したところによれば,請求人が主張する無効理由1ないし4のいずれも成り立たない。

9.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,請求人の提出した証拠方法及び主張によっては,意匠法第3条第1項第3号又は同法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとして,同法第48条第1項第1号により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2012-07-31 
出願番号 意願2010-30418(D2010-30418) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (D7)
D 1 113・ 113- Y (D7)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱本 文子 
特許庁審判長 川崎 芳孝
特許庁審判官 遠藤 行久
瓜本 忠夫
登録日 2011-09-02 
登録番号 意匠登録第1424283号(D1424283) 
代理人 宮原 秀隆 
代理人 中谷 武嗣 
代理人 本渡 諒一 
代理人 清水 久義 
代理人 清水 義仁 
代理人 中本 紹 

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