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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) H1
管理番号 1264272 
判定請求番号 判定2011-600036
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2012-11-30 
種別 判定 
判定請求日 2011-08-12 
確定日 2012-09-21 
意匠に係る物品 電気接続器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1185322号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面並びにその説明書に示す「電気接続器」の意匠は,登録第1185322号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求人の請求の趣旨および理由
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号図面並びにその説明書に示す意匠」(以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1185322号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として概要以下のとおり主張し,証拠方法として,甲第1号証(登録意匠公報),甲第2号証(イ号図面並びに説明書),甲第4号証(意匠登録原簿謄本),甲第5号証ないし甲第14号証(先行周辺意匠),及び,甲第15号証・甲第16号証(通知書)の文書(写しを含む。),並びに,検甲第3号証(イ号物件の現物)の検証物を提出した。
(なお,以下,「甲第1号証」は,「甲1」と記し,その他の甲各号証,及び,乙各号証も同様とする。)

1.判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る登録第1185322号意匠「電気接続器」(甲1)の意匠権者である。本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)が現在製造販売しているイ号意匠(甲2)のブレーカー一体型タップ(イ号物件)は,本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので,請求人はその旨の通知書(甲15および甲16)を被請求人に送付した。
これに対し,被請求人は,「イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属さない」旨主張するので,特許庁による判定を求める。

2.本件登録意匠の手続の経緯
出 願 平成14年3月25日(意願2002-11319)
拒絶理由通知書 平成15年1月10日(発送日)
手続補正書 平成15年4月1日
登 録 平成15年8月1日(登録第1185322号)

3.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「電気接続器」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする(甲1参照)。
イ)基本的な構成態様は,全体が,基台に設ける複数のコンセントに並んで基台の端部に空室を突出形成し,その上面に透明の蓋体を設けている。
ロ)具体的な構成態様は,平面視で形状が横長長方形の基台上に,一端平面部を介して一列に等間隔に配された4つの3口コンセントと,コンセントに並んで基台上の他端部にブレーカーや電源スイッチを組み込む略台形に突出形成した空室および空室の上面に開閉可能に設ける透明の蓋体と,空室に並んで一端平面部と同一面となる他端平面部とを配分した形状を備えている。

4.イ号意匠の説明
イ号意匠は,ブレーカー一体型の電気接続器であり,その要旨を,つぎのとおりとする(甲2,検甲3参照)。
イ)基本的な構成態様は,全体が,基台に設ける複数のコンセントに並んで基台の端部に空室を突出形成し,その上面に透明の蓋体を設けている。
ロ)具体的な構成態様は,平面視で形状が横長長方形の基台上に,一端平面部を介して一列に等間隔に配された6つの3口コンセントと,コンセントに並んで基台上の他端部にブレーカーや電源スイッチを組み込む略台形に突出形成した空室および空室の上面に開閉可能に設ける透明の蓋体と,空室に並んで一端平面部と同一面となる他端平面部とを配分した形状を備えている。

5.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
イ)両意匠の共通点
a)両意匠は,意匠に係る物品が「電気接続器」で一致している。
b)基本的な構成態様において,基台にコンセントを複数設け,コンセントに並んで基台の端部に空室を突出形成し,その上面に透明の蓋体を設けている。
c)具体的な構成態様において,平面視で形状が横長長方形の基台上に,一端平面部を介して一列に等間隔で複数の3口コンセントを設け,コンセントに並んで基台上の他端部にブレーカーや電源スイッチを組み込む略台形の空室を突出形成し,空室の上面にブレーカーや電源スイッチを操作する際に開閉する透明の蓋体を設け,空室に並んで一端平面部と同一面となる他端平面部を有している。
ロ)両意匠の差異点
a)コンセントの数は,本件登録意匠が4つに対し,イ号意匠は6つであり,コンセント数の差異に伴って基台の長さは,イ号意匠の方が,本件登録意匠よりコンセント2つ分長い。
b)平面視で空室と蓋体を一体化させた形状を見ると,本件登録意匠は略円形状の山形であるのに対し,イ号意匠は頂部の半径を異にする緩やかな円弧状をなす山形である。
c)イ号意匠は,正面視で基台の両端側部に吊下具を突設するが,本件登録意匠にはない。
d)イ号意匠は,底面視で基台の両端部および中央部に磁石を有するが,本件登録意匠にはない。

6.イ号意匠が,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
イ)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
公知資料1 登録意匠第233767号公報(甲5)
公知資料2 登録意匠第328732号公報(甲6)
公知資料3 登録意匠第864773号公報(甲7)
公知資料4 登録意匠第1047017号公報(甲8)
公知資料5 登録意匠第1156011号公報(甲9)
公知資料6 実用新案登録第3004702号公報(甲10)
公知資料7 登録意匠第1157795号公報(甲11)
公知資料8 登録意匠第1158139号公報(甲12)
公知資料9 登録意匠第1371803号公報(甲13)
公知資料10 登録意匠第1372073号公報(甲14)
ロ)本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠の創作の要点について述べると,この種物品における意匠上の創作の主たる対象は,基台の構成態様にあることは明らかであり,本件登録意匠については,他には全く見られない横長長方形の基台上端部に突出形成される空室であり,この空室が本件登録意匠全体の基調を表出している。
ハ)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点および差異点を比較検討するに,
i)両意匠の共通点は,基本的な構成態様に係るものであり,本件登録意匠の要部である基台上の端部に突出形成された空室の形状の態様が共通しており,特に,空室の上面に透明の蓋体を設けた態様が共通しており,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
ii)両意匠の差異点a)については,単に,コンセント数が異なるとともに基台の長さも異なるものであり,この種物品にあっては形態が機能的必然性のみに基づいて変わるものであって,公知資料7?10からも公知意匠であって,かつ,ありふれた形態であり,意匠的特徴としては考慮されず,類否判断に影響を及ぼすものではない。差異点b)については,両意匠とも空室は上部が平坦な山形であり,蓋体の円弧形状に差異があっても微差に過ぎず,山形に突出形成する形態と認識されるので,類否判断に与える影響は少ない。差異点c)およびd)については,本件登録意匠の要部ではないことから,この点においても特段顕著な相違とはいえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
iii)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まっても両意匠の類否判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

6.むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。


第2.被請求人の答弁の趣旨および理由
被請求人は,答弁書を提出し,「イ号図面並びにその説明書に示す意匠は,登録第1185322号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める。」と申し立て,その理由を概要以下のとおり主張し,証拠方法として,乙1(被請求人の製品図面(写)),乙2(被請求人の納入仕様書(写)),乙3(被請求人の納入仕様書(写)),乙4(被請求人の注文書(写)),及び,乙5ないし乙10の文書(写しを含む。)を提出した。

1.請求人主張への反論
(1)請求人は,判定請求書記載の「イ号意匠が,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明」において,「他には全く見られない横長長方形の基台上端部に突出形成される空室であり,この空室が本件登録意匠全体の基調を表出している」旨主張し,「空室」の形状が「本件登録意匠の要部」である旨認定している。しかしながら,請求人が主張する形状については,本件登録意匠出願前に存在する公知意匠に現れるものであり,「基台上端部に突出形成される空室」の形状はさほど斬新なものではない。換言すると,当該形状は,ブレーカー付OAタップの形状としてはありふれているものであり,当該形態自体のみでは両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものでもない。

(2)また請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の類否について,「本件登録意匠の要部である基台上の端部に突出形成された空室の形状の態様が共通しており,特に,空室の上面に透明な蓋体を設けた態様が共通しており,両意匠の類否の判断に大きな影響を与える」旨主張する。しかしながら,請求人は登録意匠の範囲の認定に誤りがある。ここで,意匠法では「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現された意匠に基づいて定めなければならない」(意匠法第24条第1項)と記載されているところ,本件登録意匠の願書の記載及び添附図面からは「空室の上面に透明な蓋体」の具体的な意匠を把握することはできない。「その意匠に係る物品の全部又は一部が透明であるときは,その旨を願書に記載しなければならない」(意匠法第6条第7項),具体的には願書の「意匠の説明」の欄に記載しなければならないところ,本件登録意匠の「意匠の説明」の欄には「透明な蓋体」の記載はなく,図面からも当該蓋体が透明であることを把握することもできない。確かに本件登録意匠の願書の「意匠に係る物品の説明」の欄には,「透明プラスチックからなる蓋体」と記載されているが,「意匠に係る物品の説明」の欄は,その物品の使用の目的,使用の状態等の物品の理解を助けることができるような説明を記載するところであり,この欄の記載をもって本件登録意匠の構成中で「透明な蓋体」があると断定することは妥当ではない。

(3)請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様と具体的構成態様とに分けて記載しているが,そもそも判定請求書記載の「本件登録意匠とイ号意匠との比較説明」における本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点の認定自体が詳細に特定されていない。請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の類否につき,請求人が主張する「本件登録意匠の要部」を含む基本的構成態様が共通していることのみをもって本件登録意匠の範囲に属すると主張しているが,これは請求人の誤りを前提にして両意匠の類否を判断するものである。

(4)本件登録意匠とイ号意匠とは様々な点で顕著な差異を有するところ,請求人は全て微差であって類否判断に与える影響は少ない旨主張するが,これは創作者としての立場から検討するものと思料する。ところで,意匠法では「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」(第24条第2項)と規定されている。この点,請求人は,本件登録意匠とイ号意匠との類否判断において,創作者の立場から検討しているが,需要者の立場からの検討は全くない。

(5)以上のことから,請求人の主張は明らかに本件登録意匠の範囲の認定に誤りがあり,需要者から見た美感について言及はなく,誤った前提で類否判断されているため失当という他ない。そこで,被請求人は,以下のとおり,本件登録意匠の説明,イ号意匠の説明,両意匠の対比(共通点及び差異点),両意匠の類否判断について主張する。

2.本件登録意匠について
本件登録意匠は,意匠に係る物品が「電気接続器」であり,その形態における基本的構成態様及び具体的構成態様は以下のとおりである。
(1)基本的構成態様
本件登録意匠は,全体が横長の直方体の筐体であり,その上面において一方の端部からプラグ差込用の差込口を横一列,等間隔に設け,他方の端部が半球状に膨出するドーム部が形成されているものである。
(2)具体的構成態様
本件登録意匠は,その具体的構成態様において,
(A)全体が横長の直方体の筐体であり,平面視につき,縦幅と横幅の比は略1:6であり,四隅が丸い横長長方形を形成する。
(B)また筐体について,正面視及び側面視につき,底辺から上辺へ3層に形成され,その底辺から上辺への各層幅の比は略2:1:1であり,最上段の層は四方が傾斜する略台形状に形成される。そのため,平面視においては,四隅が丸い長方形の中に更に長方形が存在するよう表れる。また底辺は略平坦な形状である。
(C)プラグ差込用の差込口は,平面視につき,横一列,等間隔で接地極差込口が4口配置され,1口の差込口の形状は3つの穴が開いており,左右対称のプラグ受けの下中央の位置に接地極用の差込口が配置されている。
(D)ドーム部については,正面視につき,筐体の上面に膨出形成されている。具体的には,正面視につき左端平面部を介して半球状に膨出しドーム部を形成し,当該左端平面と同一面となる右端平面部とに配分され,その配分比は略5:2:1である。当該ドーム部の上端には開閉可能な蓋(カバー)部が設けられており,半球状ドーム部のうち上部略4分の1が蓋(カバー)部である。また当該ドーム部は,平面視においては,上下二辺が内側へ大きく湾曲することにより変形した台形状の形状として形成され,蓋(カバー)の左部分には蓋を開閉するための右半円状に大きく刳り抜いた部分がある。

3.イ号意匠について
イ号意匠は,意匠に係る物品が「ブレーカー付きのOAタップ」であり,その形態における基本的構成態様及び具体的構成態様は以下のとおりである。
(1)基本的構成態様
イ号意匠は,全体が横長の直方体の筐体であり,その上面において一方の端部からプラグ差込用の差込口を横一列,等間隔に設け,他方の端部が山形状に突出するドーム部が形成されているものである。
(2)具体的構成態様
イ号意匠は,その具体的構成態様において,
(a)全体が横長の直方体の筐体であり,平面視につき,縦幅と横幅の比は略1:10であり,四隅が丸い横長長方形を形成する。
(b)また筐体について,正面視及び側面視につき,底辺から上辺へ3層に形成され,その底辺から上辺への各層幅の比は略1:5:5であるが,最下層の幅は極めて狭い形状であるため,一見すると1:1の2層形状と把握できる。厳密に捉えれば最上段の層は四方が傾斜する略台形状ではあるが,その幅は極めて狭く,傾斜も緩やかであるため一見すると台形状とは認識されない。そのため,平面視においては,四隅が丸い長方形の中に更に長方形が存在するようには表れない。また底辺は平坦ではなく内側へ凹んでいる。
(c)プラグ差込用の差込口は,平面視につき,横一列,等間隔で接地極差込口が6口配置され,1口の差込口の形状は3つの穴が開いており,左右対称のプラグ受けの上中央の位置に接地極用の差込口が配置されている。
(d)ドーム部については,正面視につき,筐体の上面に突出形成されている。具体的には,正面視につき左端平面部を介して山形状に突出しドーム部を形成し,当該左端平面部と同一面となる右端平面部とに配分され,その配分比は略7:2:1である。当該ドーム部の上端には開閉可能な蓋(カバー)部が設けられており,半球状ドーム部のうち上部略2分の1が蓋(カバー)部であり,当該蓋(カバー)は透明である。また当該ドーム部は,平面視においては,上下二辺が内側へ小さく湾曲することにより変形した台形状の形状として形成され,蓋(カバー)の左部分には蓋を開閉するための左半円状に小さく刳り抜いた部分がある。
(e)平面視において,筐体の左端にはパイロットランプが形成される。
(f)平面視及び左右側面視において,中心に穴を穿設した吊下げフックが付けられている。
(g)底面視において,筐体の左右両端及び中央に等間隔でマグネット(磁石)が備え付けてある。

4.本件登録意匠とイ号意匠の対比について
(1)共通点
本件登録意匠の意匠に係る物品は「電気接続器」であり,イ号意匠の意匠に係る物品は「ブレーカー付OAタップ」であることから,その用途,機能は略共通している。両意匠の基本的構成態様のうち,全体が横長の直方体の筐体である点,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成される点は共通する。また具体的な構成態様のうち,平面視において四隅が丸い横長長方形を形成する点,プラグ差込用の差込口は,平面視につき,横一列,等間隔で接地極差込口が配置され,1口の差込口の形状は3つの穴が開いている点,ドーム部の上端には開閉可能な蓋(カバー)部が設けられている点は共通する。

(2)差異点
本件登録意匠とイ号意匠とは,以下の具体的な構成態様につき顕著な差異を有するものである。
(A-a)本件登録意匠の横長直方体の筐体は,平面視につき,縦幅と横幅の比は略1:6であるのに対し,イ号意匠の平面視における筐体の縦幅と横幅の比は略1:10であり,全体の横幅が顕著に相違する。
(B-b)正面視及び側面視につき,本件登録意匠は底辺から上辺へ3層に形成され,その底辺から上辺への各層幅の比は略2:1:1であり,最上段の層は四方が傾斜する略台形状に形成されるため,平面視においては,四隅が丸い長方形の中に更に長方形が存在するよう表れる。これに対し,イ号意匠は底辺から上辺へ3層に形成され,その底辺から上辺への各層幅の比は略1:5:5であるが,最下層の幅は極めて狭く一見すると1:1の2層と把握できる。イ号意匠の最上段の層は四方が傾斜する略台形状ではあるがその幅は極めて狭く,傾斜も緩やかであるため,台形状の形態とは認識されず,平面視においても,四隅が丸い長方形の中に更に長方形が存在するようには表れない点が顕著に相違する。またイ号意匠の底辺の凹み部分が存在するが,本件登録意匠の底辺は平坦である点も顕著に相違する。
(C-c)平面視において,本件登録意匠のプラグ差込用の差込口は接地極差込口が4口配置されているのに対し,イ号意匠の差込口は接地極差込口が6口配置されている点,また本件登録意匠の差込口の形状及び位置につき,左右対称のプラグ受けの下中央の位置に接地極用の差込口が配置されているのに対し,イ号意匠のプラグ差込用の差込口は,左右対称のプラグ受けの上中央の位置に接地極用の差込口が配置されている点が顕著に相違する。
(D-d)正面視につき,本件登録意匠のドーム部は左端平面部を介して半球状に膨出しドーム部を形成し,当該左端平面と同一面となる右端平面部とに配分され,その配分比は略5:2:1である。当該ドーム部の上端に存在する開閉可能な蓋(カバー)部については,半球状ドーム部のうち上部略4分の1を占める。また平面視において,本件登録意匠のドーム部は上下二辺が内側へ大きく湾曲することにより変形した台形状の形状として形成され,蓋(カバー)の左部分には蓋を開閉するための右半円状に大きく刳り抜いた部分がある。これに対し,イ号意匠のドーム部については正面視につき左端平面部を介して山形状に突出しドーム部を形成し,当該左端平面部と同一面となる右端平面部とに配分され,その配分比は略7:2:1である。当該ドーム部の上端には開閉可能な蓋(カバー)部は半球状ドーム部のうち上部略2分の1が蓋(カバー)部であり,当該蓋(カバー)は透明である。また当該ドーム部は,平面視においては,上下二辺が内側へ小さく湾曲することにより変形した台形状の形状として形成され,蓋(カバー)の左部分には蓋を開閉するための左半円状に小さく刳り抜いた部分がある点が顕著に相違する。
(その他)イ号意匠は,平面視において,筐体の左端にはパイロットランプが形成されるのに対し,本件登録意匠にはパイロットランプは存在しない。イ号意匠は,平面視及び左右側面視において,中心に穴を穿設した吊下げフックが付けられているのに対し,本件登録意匠には吊下げフックは存在しない。イ号意匠は,底面視において,筐体の左右両端及び中央に等間隔でマグネット(磁石)が備え付けてあるのに対し,本件登録意匠にはマグネット(磁石)は存在しない。

5.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断について
被請求人は,本件登録意匠の出願前公知意匠を参酌し,本件登録意匠とイ号意匠の上記共通点及び差異点を総合して,その類否を検討する。
(1)本件登録意匠出願前の公知意匠
(ア)乙1
乙1は,被請求人の製品図面の写しである。この図面に記載されている物品は「ブレーカー付OAタップ」(図番:T5104)であり,1997年(平成9年)に製図・承認されたものである。乙1に示すとおり,この図面から把握される意匠の形態は,その基本的構成態様において,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成されるものである。なおブレーカー付OAタップにおいては,ブレーカーを設置する位置が機能必然上膨らむことになる。

(イ)乙2ないし乙4
乙2ないし乙4は,乙1に示される製品と同様の製品の納入仕様書又は注文書の写しである。これにより,上記基本的構成態様の製品が被請求人の実施に係るものであり,遅くとも平成11年10月には被請求人の製品は取引先へ出荷されたことを示す。乙1ないし乙4に鑑みれば,OAタップについて全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成されるという基本的構成態様は本件意匠登録出願前から既に公知であり,ありふれた形態である。したがってドーム部の形状についていえばより具体的に観察し類否を検討すべきである。

(ウ)乙5ないし乙7
乙5ないし乙7は,OAタップの製品カタログ又は製品パンフレットの抜粋写しである。乙5は,エレコム株式会社発行の製品カタログ(抜粋)の写しであり,その掲載内容は2001年(平成13年)12月現在のものである。乙5に示すとおり,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成された基本的構成態様の製品が存在する(品番:「T-R05」,「T-R06」,「T-R04」,「T-R03」,「T-R02」,「T-R01」)。
乙6は,株式会社オーディオテクニカ発行の製品パンフレット(抜粋)の写しであり,その掲載内容は1996年(平成8年)4月現在のものである。乙6に示すとおり,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成される基本的構成態様の製品が存在する。
乙7は,松下電工株式会社発行の製品カタログ(抜粋)の写しであり,その掲載内容は平成12年(2000年)6月現在のものである。乙7に示すとおり,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成される基本的構成態様の製品が存在する(商品名:一発連動パソコンタップ)。またタップ上に透明の保護カバーを設けた製品も存在する(商品名:保護カバー付テーブルタップ)。これらにより,上記基本的構成態様は本件意匠登録出願前から既に公知であり,ありふれた形態である。基本的な構成態様が共通する製品が多数存在することに鑑みれば,基本的構成態様の共通性は類否判断に与える影響は小さい。

(2)類否判断
(2-1)共通点の検討
本件登録意匠とイ号意匠とは,その基本的構成態様において,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成される点は共通する。しかしながら,上述の乙1ないし乙7に示すとおり,このような基本的構成態様については,本件登録意匠の出願前には既に公然知られた意匠の形態であり,この種の物品の意匠における形態としてはありふれたものであることから類否判断に及ぼす影響は小さいものである。したがって,本件登録意匠とイ号意匠の類否は具体的構成態様の検討が不可欠である。
また本件登録意匠とイ号意匠の具体的構成態様の共通点のうち,平面視において四隅が丸い横長長方形を形成する点,平面視においてプラグ差込用の差込口として横一列,等間隔で接地極差込口が配置され,1口の差込口の形状は3つの穴が開いている点は,この種の物品が備えるべき機能的形状(甲1ないし甲7)であり,類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
次に本件登録意匠とイ号意匠の有するドーム部上端の蓋(カバー)については,確かにドーム部上端には開閉可能な蓋(カバー)部が設けられている点は共通するが,甲7に示すとおり,本件登録意匠の出願前に既にタップ本体の上に透明カバーを設けた製品が存在しており,タップ上に透明カバーを設ける構成自体は既に公知である。したがって,より具体的な意匠の形状を対比して検討すべきである。

(2-2)差異点の検討
本件登録意匠とイ号意匠とは,具体的な構成態様につき顕著な差異を有するものである。当該差異点がこの種の物品の需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるか検討する。
(A-a)本体筐体部分の長さの違いは,長細い又は短太い印象を需要者に与えるものである。この種の物品は手にとって使用するため,その大きさ,長さの違いは後述する差込口の数と相侯って類否判断に大きな影響を与える。
(B-b)筐体上面における四方が傾斜する略台形状に形成される形状や筐体底辺の形状の相違は,類否判断に大きな影響を与える。上面の傾斜が大きければ大きいほどその面積が広くなり,表面上特徴的なデザインとして現れ,すっきり感やシャープ感といった印象を需要者に与える。また底辺の形状はその製品の安定性が良いといった印象を需要者に与える。
(C-c)プラグ差込用の差込口の相違は,類否判断に大きな影響を与える。この種物品における差込口の数は,接続して使用する機器の数,種類,電力容量,価格等に大きく関係するものであり,需要者にとっては最大の関心事である。また,本件登録意匠とイ号意匠の接地極付差込口の向きは上下逆向きに現れるが,この差込ロの向きは,プラグを差し込む際に右利き左利きによって差し込み易さに関係するものであって,需要者の関心は高い。このように実際の使用状況を考慮してデザインされるべき形状については,類否判断には大きな影響を与える。
(D-d)本体筐体部分に膨出又は突出されたドーム部の形状の相違は,類否判断に大きな影響を与える。本件登録意匠のドーム部は,半球状に膨らみ全体として丸い印象を与えるのに対し,イ号意匠のドーム部は山形状に突き出し全体として富士山形に尖った印象を与える。このことはドーム部上部に設けられた蓋(カバー)の形状の違いにより際立つものである。イ号意匠の蓋(カバー)は透明であり蓋の面積も大きいためブレーカーの状態を平面視は勿論,正面視でもどの角度からも見ることができる印象を与える。これに対し本件登録意匠の蓋(カバー)は透明ではなく,ブレーカーをいれた場合にはその状態を確認することはできない。仮に透明な蓋(カバー)であったとしても,蓋の面積や形状に大きな差異があり,平面視ではブレーカーの状態を見ることができるが,正面視では見えにくく,両意匠の形状は需要者には全く異なる印象を与えるものである。また蓋(カバー)を開閉するため刳り抜いた部分の形状は,蓋の開けやすさにつながるため,デザイン的な特徴もある。
(その他)本体部分のパイロットランプの有無,吊下げフックの有無,マグネットの有無についても使用状態により需要者に印象を与える部分である。

(2-3)小括
結局,本件登録意匠とイ号意匠の共通する基本的な構成態様については,市場において特段斬新な形状ではなく,同様の形状が既に多数存在することから,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断はより具体的な構成態様を考慮して決すべきである。この種の物品の需要者にとっては,自己の使用目的,使用方法により,物品に表れた意匠の各要素全体を注意深く観察し意匠を把握すると考えるのが極めて自然であり,現実の取引状況にも合致するものである。そうすると,本件登録意匠とイ号意匠の差異点はいずれも類否判断に大きな影響を与えるものである。基本的な構成態様が共通していても具体的構成態様が顕著に異なるため,本件登録意匠とイ号意匠は市場において混同される可能性も全く生じない。
したがって,両意匠の差異点は,共通点を凌駕していることは明らかであり,イ号意匠は本件登録意匠の権利範囲には属しない。

6.併存登録例からの検討
乙8及び乙9は,本件登録意匠と併存して登録されている登録意匠の意匠公報の写しである。乙8は,意匠に係る物品は「電気接続器」であり,意匠図面においては,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成される形態が記載されている。乙9は,意匠に係る物品は「電流計付きコンセント」であり,意匠図面においては,全体が横長の直方体の筐体であって,一方の端部からプラグ差込用の差込口が横一列,等間隔に設けられ,他方の端部にドーム部が形成される基本的な形態が記載されている。なお乙8に記載された意匠の実施品と推察される製品パンフレット(抜粋)写しを乙10として提出する。
本件登録意匠と上記両登録意匠とは,意匠に係る物品の用途,機能が共通しており,形態の基本的構成態様についても共通する。請求人が主張するように,本件登録意匠のドーム部や蓋部の形状が全く斬新であれば,その基本的構成態様を共通にするこれら意匠は登録されるはずはない。にもかかわらず,本件登録意匠と上記両登録意匠はそれぞれ併存して登録されている。これは,意匠の基本的構成態様が共通していても,例えばドーム部の形状の相違や筐体の長さの相違,プラグ用差込口の個数等の具体的構成態様を比較検討し総合的に評価判断した結果,互いに非類似と判断されたものと推察する。そうとすれば,翻って本件登録意匠とイ号意匠の類否判断についても,基本的構成態様の共通性をもって類似すると判断するのは極めて妥当性に欠けるものであり,具体的構成態様の差異点について検討すべきである。

7.むすび
以上述べてきたとおり,イ号意匠と本件登録意匠とは意匠の差異点において,顕著な差異を有するものであり,両意匠は互いに類似しないことは明らかである。したがって,イ号図面並びにその説明書に示す意匠は,登録第1185322号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないので,請求人の主張は失当である。
よって,答弁の趣旨記載のとおりの判定を速やかに求める。

8.被請求人が提出した証拠
(1)乙1 被請求人の製品図面(写)
(2)乙2 被請求人の納入仕様書(写)
(3)乙3 被請求人の納入仕様書(写)
(4)乙4 被請求人の注文書(写)
(5)乙5 エレコム株式会社発行「エレコム総合カタログ」(写)
(6)乙6 株式会社オーディオテクニカ「カタログ」(写)
(7)乙7 松下電工株式会社発行「電設資材・総合カタログ」(写)
(8)乙8 意匠登録第1239672号意匠公報
(9)乙9 意匠登録第1293430号意匠公報
(10)乙10 インターフェイス工業株式会社発行「カタログ」(写)


第3.当審の職権証拠調べ通知
当審は,職権による証拠調べの結果として,参考意匠1及び同2を提示した。


第4.請求人の弁駁の趣旨および理由
請求人は,2012年(平成24年)6月20日付けで判定請求弁駁書を提出し,弁駁の趣旨を「通知された公知意匠は参酌すべき参考資料に値しない。また,答弁の理由は成り立たない。」とし,その理由を要旨以下のとおり主張した。

1.通知書における参考意匠1および参考意匠2に対する意見
請求人は,登録第1185322号意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,参考意匠1,2の意匠と同一または類似する意匠ではなく,これら公知意匠は参酌すべき参考資料に値しない,と思料するので,意見を述べる。
i)本件登録意匠と参考意匠1,2との比較
本件登録意匠は,その形態の要旨を次のとおりとする。
イ)基本的な構成態様は,全体が,基台に設ける複数のコンセントとこのコンセントに並んで空室を突出形成し,その上面に透明の蓋体を設けている。
ロ)具体的な構成態様は,平面視で形状が横長長方形の基台上に,一端平面部を介して一列に等間隔に配された4つの3口コンセントと,コンセントに並んで基台上他端部方向に,ブレーカーや電源スイッチを組み込む略台形に突出形成した空室および空室の上面に開閉可能に設ける透明の蓋体と,空室に並んで一端平面部と同一面となる他端平面部とを配合した形状を備えている。

これに対し,参考意匠1は,本件登録意匠に対し,構成態様に次の差異点がある。
a. 基台に設ける複数のコンセントに並んで,基台の端末に電源スイッチを組み込んで突出形成された空室を有すが,空室の上面に透明の蓋体を設けていない。
b. 空室は立方体状であって台形状ではなく,空室が突出形成される位置が端末部であり,異なる。すなわち,空室に並んで一端平面部と同一面となる平面部を有しておらず,空室が基台の他端に位置する。
c. 基台の一端とコンセントの間には平面部がない。

一方,参考意匠2は,本件登録意匠に対し,構成態様に次の差異点がある。
d. 基台に設ける複数のコンセントに並んで,基台の端部に電源スイッチを組み込んだ略台形に突出形成された空室を有しているが,空室の上面に透明の蓋体を設けていない。
e. 略台形に形成された空室の上面は狭く,上面上のスイッチつまみ突出孔は,基台の長手方向ではなく,基台の長手方向に対して直角の方向にあけられている。
f. 空室が突出形成される位置が異なる。すなわち,空室に並んで一端の平面部と同一面となる他端平面部が長く,空室は基台の他端末と離れた位置にある。
g. 基台の一端とコンセントの間には平面部がない。
ii)結論
以上のように,本件登録意匠と参考意匠1,2とは,基台に設ける複数のコンセントに並んで基台に空室を突出形成している共通点はあるが,基本的な構成態様および具体的な構成態様において顕著な差異点がある。本件登録意匠と参考意匠1,2とを全体的に考察すると,上述の差異点(a?g)は看者において上記共通点を凌駕するものであり,両意匠は同一または類似する意匠ではないと思料する。
したがって,参考意匠1,2は,先行する公知意匠として,参酌すべき参考資料に値しない。

2.答弁書に対する弁駁
(1)答弁の理由への弁駁
(i) 被請求人は,「本件登録意匠は,基本的な構成態様が特段斬新な形状ではないので,イ号意匠の類否判断は具体的な構成形態を考慮して決すべきであり,基本的な構成要件が共通していても具体的な構成態様が顕著に異なるため,本件登録意匠とイ号意匠は市場において混同される可能性は全く生じない。」と理由付ける。しかし,本件登録意匠は基本的な構成態様に斬新さを備え,本件意匠とイ号意匠とは,基本的な構成態様に加えて具体的な構成態様において顕著な差異点はなく,看者において両意匠の美感が共通しており,具体的な構成態様のみをもって,両意匠が市場において混同される可能性は全く生じない,とする答弁の理由は,理由として成り立たない。
(ii) 被請求人は,乙1ないし乙4を公知意匠として挙げているが,これら全ては大和電器(株)の内部資料であって,公知意匠の証拠として成り立たないものである。
(iii) 被請求人は,乙5ないし乙7を公知意匠として挙げているが,本件登録意匠に対して,基台の端末に電源スイッチを組み込んで突出形成された空室の上面に透明の蓋体を設けていない。また,空室の形状が異なり,空室の突出形成する位置が異なる。したがって,本件登録意匠のように,基台に突出形成された台形状の空室,さらには空室の上面に透明の蓋体を設ける基本的な構成態様は,乙5ないし乙7の公知意匠の構成態様とは異なり,また,ありふれた構成態様でもない。本件登録意匠の上記構成態様は,要部として類否判断に与える影響は大きい。
(iv) 被請求人は,乙8および乙9は,本件登録意匠と併存する登録意匠として挙げているが,基台の端部に電源スイッチを組み込んで突出形成された空室の上面に透明の蓋体を設けていない点で本件登録意匠と差異がある。さらに,乙8の空室の上面は基台の長手方向に弧状を有するが短辺方向の幅が短い形状を成す部材を配し,基台には複数の取付穴が設けてあり,また,乙9の台形状の空室の上面にはスイッチの突出部を有し,台形斜面にはデータ通信用モジューラジャック挿入口を形成していて,いずれも空室上面の形状が本件登録意匠と異なるなど,本件登録意匠とは,具体的な構成態様においても差異がある。このような差異が認められた結果,乙8および乙9は登録されたものと推察される。この乙8および乙9の存在は,本件登録意匠とイ号意匠との類否判断には全く関係しないものと判断する。
(v) 被請求人は,本件登録意匠とイ号意匠とは基本的な構成要素は共通する,と認定し,イ号意匠は,特に,本件登録意匠の要部となる空室の上面に開閉可能な蓋が設けられる点についても共通する,と認定している。その上で,具体的な構成態様の差異点として,基台長さの差異,空室の台形状の差異,プラグ差込用の差込口の差異など,いくつかの差異に言及しているが,いずれも微差であって特段顕著な差異とはいえず,類否判断に与える影響は微弱である。
(vi) 以上の判断,認定をもとに,本件登録意匠とイ号意匠とを比較すると,両意匠の差異点は,いずれも類否判断に与える影響は微弱なものであって,これらの差異が,空室に透明な蓋体を有する共通点をはじめとする多くの共通点の有する美感を凌駕しているとは到底いえない。
したがって,両意匠は同一または類似する意匠である。
(vii) 上述したように,類否判断は,両意匠の基本的な構成態様および具体的な構成態様の共通点,差異点を比較検討してなされるものであり,具体的な構成態様の特段顕著な差異ではない差異のみをもって本件登録意匠とイ号意匠が市場において混同される可能性は全く生じない,として類否判断をする被請求人の答弁の理由は,理由として成り立たない。


第5.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1185322号の意匠)は,2002年(平成14年)3月25日に意匠登録出願されたものであって,願書及び願書添付の図面の記載によれば,意匠に係る物品を「電気接続器」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を,願書の記載及び願書に添付された図面に記載された(意匠に係る物品の説明「本意匠は参考図に示すように,一端部に突出形成した空室1内にブレーカー3や電源スイッチ等を組み込み,前記ブレーカー3や電源スイッチを操作する際には透明プラスチックからなる蓋体2を開閉して操作するものである。」,意匠の説明「背面図は正面図と対称にあらわれる。」)とおりとしたものであって,「意願2002-11319」として審査に付された後,2003年(平成15年)8月1日に意匠権の設定の登録がなされたものである。
(なお,対比の便宜のため,以下,本件登録意匠の図面の向きを,イ号意匠にも当てはめることとする。)

すなわち,
(1)基本的構成態様について,
(1-1)全体形状を,横に細長い略直方体形状の筐体である「基台部」を基に,その右側端部寄りに厚い略半円板状の「有蓋膨出部」を形成したものであり,
(1-2)全体構成を,有蓋膨出部の左側の平面部に,複数個の差し込み口からなる「差し込み口部」を形成し,有蓋膨出部の右側の平面部を「余白部」とし,有蓋膨出部の内側に「スイッチ部」を形成したものであり,

(2)具体的構成態様について,
(2-1)種々の比率等について,
(2-1-1)全体の寸法の比率は,「全体(基台部)の長さ(正面視横方向):全体(底面から蓋体の頂点まで)の高さ:全体(基台部)の幅(左・右側面視横方向)」の比が,「約5:1:1」であり,
(2-1-2)有蓋膨出部の高さの比率について,「蓋体の高さ:有蓋膨出部の頂面部までの高さ(基台部の平面部より上側):基台部の高さ(厚み)」の比が,「約0.4:1:1」であり,
(2-1-3)同じく有蓋膨出部の全体における位置関係等について,正面視横方向の長さの比率を見ると,「有蓋膨出部の右側の余白部の長さ:有蓋膨出部の下辺部の最大長:有蓋膨出部の左側の差し込み口部の長さ」の比が,「約1:2.3:5」であり,
(2-2)基台部は,
(2-2-1)その全体が,平面視横長隅丸矩形状で,平面部及び余白部の四周辺部が細幅に角面取りされており,
(2-2-2)差し込み口部には,同形同大の抜け止め・3P型の差し込み口が4個等間隔に配置され,基台部の右側面には,電源コードを挿通する小円孔部が形成され,左側面にはアース端子部が形成されており,
(2-3)有蓋膨出部は,
(2-3-1)その全体が,正面視略半円板状を,左・右側面視やや上窄まりの略台形状をなし,
(2-3-2)また,有蓋膨出部は,水平な面で分割されたようになって上側の「膨出部蓋体」と下側の「膨出部台部」で構成されており,
(2-3-3)膨出部台部の平面視上下両辺部は,上記(2-2-1)で示す基台部の平面部及び余白部の周辺部の角面取りと連続する態様で角面取りされており,
(2-3-4)膨出部蓋体は,透明プラスチックからなり,その内側が外側から視認できるものであって,
(2-3-5)膨出部台部の頂面部は,水平な略平坦面で平面視略横長矩形状をなし,該部に形成されたスイッチ部は,本体長手方向の向きに配置された「スイッチ・レバー」とその周辺の「余白部」からなり,
(2-3-6)膨出部蓋体は,膨出部台部の頂面部の右側中央に形成された「ヒンジ部」を軸として回動し,同頂面部の左側中央に形成された「係止部」において係止するものであり,
(2-3-7)膨出部蓋体の具体的形状は,正面視緩やかな凸円弧状をなし,左・右側面視略「ハ」字状をなしており,また,平面視上下の稜線が略双曲線状を呈しており,
(2-3-8)膨出部蓋体及び膨出部台部の具体的構成態様は,膨出部蓋体の平面視左右両側端部が略逆「コ」字状または略「コ」字状の「突出片」をなし,ヒンジ部においては,膨出部台部の頂面部の右側中央に切り欠かれた略逆「コ」字状の凹部に前記膨出部蓋体の右側の略「コ」字状の突出片が嵌合して係止軸で係止され,係止部においては,膨出部台部の頂面部の左側中央に切り欠かれた略「コ」字状の凹部に前記膨出部蓋体の左側の略逆「コ」字状の突出片が嵌合するものであり,膨出部台部の頂面部の左側中央の略「コ」字状の凹部に一部がかかるかたちで略月形状に切り欠かれた凹陥部が形成され,膨出部蓋体の略逆「コ」字状の突出片が略相似形状の略小月形状に切り欠かれて,両者が「指かけ部」を形成しているものである。


2.本件登録意匠とイ号意匠の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「電気接続器」であり,イ号意匠の意匠に係る物品は「ブレーカー付OAタップ」であって,両意匠の意匠に係る物品は,共通する。

形態については,以下のとおり,主な共通点,相違点がある。

(1)共通点
(A)基本的構成態様について,
(A-1)全体形状を,横に細長い略直方体形状の筐体である基台部を基に,その右側端部寄りに厚い略半円板状の有蓋膨出部を形成したものである点,
(A-2)全体構成を,有蓋膨出部の左側の平面部に,複数個の差し込み口からなる差し込み口部を形成し,有蓋膨出部の右側の平面部を余白部とし,有蓋膨出部の内側にスイッチ部を形成したものである点。

(B)具体的構成態様について,
(B-1)基台部は,
(B-1-1)その全体が,平面視横長矩形状である点,
(B-1-2)差し込み口部には,同形同大の抜け止め・3P型の差し込み口が等間隔に配置され,基台部の右側面には,電源コードを挿通する小円孔部が形成され,左側面にはアース端子部が形成されている点,
(B-2)有蓋膨出部は,
(B-2-1)その全体が,左・右側面視やや上窄まりの略台形状をなしている点,
(B-2-2)また,有蓋膨出部は,水平な面で分割されたようになって上側の膨出部蓋体と下側の膨出部台部で構成されている点,
(B-2-3)膨出部蓋体は,透明プラスチックからなり,その内側が外側から視認できるものである点,
(B-2-4)膨出部台部の頂面部は,水平な略平坦面で平面視略横長矩形状をなし,該部に形成されたスイッチ部は,本体長手方向の向きに配置されたスイッチ・レバーとその周辺の余白部からなる点,
(B-2-5)膨出部蓋体は,膨出部台部の頂面部の右側中央に形成されたヒンジ部を軸として回動し,同頂面部の左側中央に形成された係止部において係止するものである点,
(B-2-6)膨出部蓋体の具体的形状は,左・右側面視略「ハ」字状をなしており,また,平面視上下の稜線が略双曲線状を呈している点,
(B-2-7)膨出部蓋体及び膨出部台部の具体的構成態様は,膨出部蓋体の平面視右側端部が略「コ」字状の突出片をなし,ヒンジ部においては,膨出部台部の頂面部の右側中央に切り欠かれた略逆「コ」字状の凹部に前記膨出部蓋体の右側の略「コ」字状の突出片が嵌合して係止軸で係止され,係止部においては,略月形状に切り欠かれた凹陥部が形成されて,指かけ部を形成している点。

(2)相違点
(ア)具体的構成態様における,種々の比率等について,
(ア-1)全体の寸法の比率について,「全体(基台部)の長さ(正面視横方向):全体(底面から蓋体の頂点まで)の高さ:全体(基台部)の幅(左・右側面視横方向)」の比が,本願意匠は,「約5:1:1」であるのに対して,引用意匠は,「約8.8:1.4:1」である点,
(ア-2)有蓋膨出部の高さの比率が,本願意匠は,「蓋体の高さ:有蓋膨出部の頂面部までの高さ(基台部の平面部より上側):基台部の高さ(厚み)」の比が,本願意匠は,「約0.4:1:1」であるのに対して,引用意匠は,「約0.6:0.5:1」である点,
(ア-3)同じく有蓋膨出部の全体における位置関係等に関して,正面視横方向の長さの比率について,「有蓋膨出部の右側の余白部の長さ:有蓋膨出部の下辺部の最大長:有蓋膨出部の左側の差し込み口部の長さ」の比が,本願意匠は,「約1:2.3:5」であるのに対して,引用意匠は,「約1:1.9:5.9」である点,

(イ)基台部は,
(イ-1)その全体が,本件登録意匠は,平面視形状が,隅丸にされており,平面部及び余白部の四周辺部が細幅状に角面取りされているのに対して,イ号意匠は,平面視形状が単なる矩形状であり,平面部及び余白部の四周辺部は,角面取りはされていない点,
(イ-2)差し込み口部における差し込み口の数が,本件登録意匠は,4個であるのに対して,イ号意匠は,6個である点,

(ウ)有蓋膨出部は,
(ウ-1)その全体が,本件登録意匠は,正面視略半円板状をなしているのに対して,イ号意匠は,正面視頭頂面が緩やかな凸円弧状をなし,左右の傾斜面が略「ハ」字状をなしている点,
(ウ-2)本件登録意匠は,膨出部台部の平面視上下両辺部が,上記(イ-1)で示す基台部の平面部及び余白部の周辺部の角面取りと連続する態様で角面取りされているのに対して,イ号意匠は,上記(イ-1)と同様に角面取りはされていない点,
(ウ-3)膨出部台部の頂面部について,本件登録意匠は,平坦面で平面視横長矩形状をなしているのに対して,イ号意匠は,頂面部の全周にわたり極細幅に段差部が形成され,また,平面視で左右が緩やかな凸円弧状をなし,上下が直線をなす略横長矩形状である点,
(ウ-4)膨出部蓋体の具体的形状について,本件登録意匠が,正面視緩やかな凸円弧状をなしているのに対して,イ号意匠は,正面視頭頂面のみが緩やかな凸円弧状をなし,左右の傾斜面が略「ハ」字状をなしている点,
(ウ-5)膨出部蓋体及び膨出部台部の具体的構成態様について,本件登録意匠は,膨出部蓋体の平面視左側端部が略逆「コ」字状の突出片をなしており,係止部において,膨出部台部の頂面部の左側中央に切り欠かれた略「コ」字状の凹部に前記膨出部蓋体の左側の略逆「コ」字状の突出片が嵌合するものであり,膨出部台部の頂面部の左側中央の略「コ」字状の凹部に一部がかかるかたちで略月形状に切り欠かれた凹陥部が形成されているのに対して,イ号意匠は,膨出部蓋体の平面視左側端は,緩やかな凸円弧状をなし,その上下両端部寄りに2つの係止用の「爪部」が形成されており,膨出部台部の頂面部の左側中央に略「コ」字状の凹部はなく,該部に略月形状の凹部である指かけ部が形成され,その上下に爪部が係止する横長溝状部が同形・上下対称形に形成されているものである点,

(エ)その他,イ号意匠は,基台部の平面部の左端に表示ランプが形成され,基台部の左右両端部に,中心に小円孔を穿設した取付用の吊り下げ片部が形成され,また,底面の左右及び中央の3箇所に取付用のマグネット部が形成されているのに対して,本件登録意匠には,それらがない点。


3.参酌すべき先行公知意匠
本件登録意匠及びイ号意匠の類否判断にあたり,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願前に公知となった意匠で,参酌すべきものは,以下のとおりである。

(1)乙1及び乙2に記載された意匠(別紙第4参照)
乙1は,「被請求人の製品図面の写しである。この図面に記載されている物品は「ブレーカー付OAタップ」(図番:T5104)であり,1997年(平成9年)に製図・承認されたものであ」り,乙2は,「乙1に示される製品と同様の製品の納入仕様書又は注文書の写しである。これにより,上記基本的構成態様の製品が被請求人の実施に係るものであり,遅くとも平成11年10月には被請求人の製品は取引先へ出荷されたことを示す」とするものであって,この乙1及び乙2に示される意匠と実質的に同一の「ブレーカー付OAタップ」が,実際に製品化され,市場において販売されていることが確認されたので,乙1及び乙2は単なる社内資料とはいえず,乙1及び乙2に記載された意匠(2つとも実質的に同一の意匠であるので,以下,これらをまとめて「乙1・乙2記載意匠」という。)は,先行公知意匠として参酌すべきものである。
乙1・乙2記載意匠は,意匠に係る物品が「ブレーカー付OAタップ」であり,その形態は,基本的構成態様について,全体形状を,横に細長い略直方体形状の筐体である基台部を基に,その片側端部に略ドーム状の膨出部を形成したものであり,全体構成を,膨出部を除く平面部に,複数個の差し込み口からなる差し込み口部を形成し,膨出部の頂面部にスイッチ部を形成したものであって,具体的構成態様について,基台部は,平面視横長矩形状であり,差し込み口部には,同形同大の抜け止め・3P型の差し込み口が3個2セットで計6個規則的に配置され,略ドーム状の膨出部には,平面視横長隅丸矩形状の凹陥部が無蓋にて形成され,該凹陥部内にブレーカー用のスイッチ部が埋没したように形成されているものである。

(2)参考意匠1(別紙第5参照)
参考意匠1は,米国特許商標庁が1989年10月31日に発行した米国意匠特許第304,324号「MULTI-OUTLET CENTER」(意匠に係る物品「電気接続器」(スイッチ付きテーブルタップ))の意匠であり,その形態は,基本的構成態様について,全体形状を,横に細長い略直方体形状の筐体である基台部を基に,その片側端部に膨出部を形成したものであり,全体構成を,膨出部を除く平面部に,複数個の差し込み口からなる差し込み口部を形成し,膨出部の頂面部にスイッチ部を形成したものであって,具体的構成態様について,基台部について,その具体的態様は,平面視横長矩形状であり,その具体的態様は,差し込み口部には,同形同大の差し込み口が6個規則的に配置され,膨出部は平面視横長隅丸矩形状であって,その平面部側を除く3つの側面は,基台部の側面と面一に構成されており,膨出部の頂面部には,シーソー型のスイッチ部が横長に配置され,その左側に平面視小円形状の表示ランプが形成されているものである。

(3)参考意匠2(別紙第6参照)
参考意匠2は,1990年11月8日にアメリカ合衆国で発行され,特許庁総合情報館が1990年(平成2年)12月26日に受け入れた外国カタログ『RECOTONAUDIO』(RecotonCorporation社発行)の第13頁に掲載された製品番号「C1951ACD」の意匠に係る物品「サージプロテクター付きコンセント」の意匠(特許庁意匠課公知資料番号 HD04019238)であり,その形態は,基本的構成態様について,全体形状を,横に細長い略直方体形状の筐体である基台部を基に,その片側端部寄りに略台形柱状の膨出部を形成したものであり,全体構成を,膨出部の片側の平面部に,複数個の差し込み口からなる差し込み口部を形成し,その反対側を余白部とし,膨出部の頂面部にスイッチ部を形成したものであって,具体的構成態様について,基台部について,その具体的態様は,平面視横長矩形状であり,その具体的態様は,差し込み口部には,同形同大の3P型の差し込み口が6個規則的に配置され,膨出部は,平面視略縦長矩形状であって,その正・背面側の面は,基台部の面と面一に構成されており,膨出部の頂面部には,シーソー型のスイッチ部が縦長に配置されているものである。


4.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合し,また,この種物品分野の先行公知意匠において見られる創作の実態を参酌して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態については,以下のとおりである。

(1)共通点の評価
まず,先行公知意匠に照らすところ,基本的構成態様に係る共通点(A-1)及び同(A-2)のみでは,参考意匠2に見られるところであるが,具体的構成態様に係る共通点(B-2)と合わさった構成態様は,本件登録意匠にのみ特徴的なものであり,とりわけ,共通点(B-2-2),同(B-2-3),同(B-2-5),同(B-2-6),及び,同(B-2-7)に示される具体的構成態様は,本件登録意匠にのみ見られる極めて特徴的なものであって,この点が本件登録意匠と共通するイ号意匠は,上記の相違点があるとしても,見る者に極めて強い共通の印象を与えるものである。また,共通点(B-2-4)に示される具体的構成態様は,乙1・乙2記載意匠(ただし,部分的態様のみ。),参考意匠1に見られるところであるが,これと共通点(B-2-2)と合わさった構成態様は,本件登録意匠にのみ特徴的であって,上記の判断に影響を与えるものではない。
したがって,上記の共通点は,両意匠の基調を形成し,共通の印象を強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっている。

(2)相違点の評価
これに対して,具体的な態様に係る相違点(ア)ないし(エ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱にとどまるものであって,上記共通点が与える強い共通の印象を覆すほどのものではない。

すなわち,相違点(ア-1)ないし(ア-3)は,いずれも極ありふれた態様ないし格別の創作の意図をもった違いとはいいがたいものであって,見る者がすぐにそれと気付くとは思えない相違であり,とりわけ,相違点(ア-1)は,相違点(イ-2)の差し込み口の数の違いに伴って必然的に生じたに過ぎない相違であり,また,この種物品分野においては当然のこととして行われている程度のことであって,これらの比率等の相違は,意匠全体としてみた場合,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。

相違点(イ-1)及び同(ウ-2)の基台部の平面部及び余白部の四周辺部及び膨出部台部の平面視上下両辺部が連続する態様で角面取りされているか否かは,比較的見る者の目に付きやすい部位に係る相違であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるが,角面取り自体は,極ありふれた手法であるし,前記の共通点が存在することを前提として考えれば,意匠全体としてみた場合,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響を大きいということはできない。また,相違点(イ-1)の平面視形状が隅丸か否かは,いずれも極ありふれた態様であって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
相違点(イ-2)の差し込み口部における差し込み口の数の相違は,上記のとおりであって,個数の変更は,この種物品分野に限らず,極一般的なよく知られた手法であって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。

相違点(ウ)に係る相違は,以下のとおりであって,前記先行公知意匠に照らすところの本件登録意匠に係る特徴的なものに係る具体的構成態様の共通性を前提とした場合,いずれも特徴的なものに係る共通点が存在する中での相違であり,かつ,全体から見て,細部というべき部位に係る相違であるから,以下のとおり,いずれも共通の印象に埋没してしまう程度のものであり,両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。
すなわち,相違点(ウ-1)は,共通点(A-1),同(B-2-1),同(B-2-2),同(B-2-3),及び,同(B-2-6)の共通性を前提とした場合,とりわけ,共通点(B-2-1)から見れば,見る角度によっては,見る者に共通する印象が与えられるものであって,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的というべきである。
相違点(ウ-3)は,比較的目に付きやすい部位に係る相違ではあるが,両意匠のいずれの態様もありふれた態様である上に,共通点(B-2-2),同(B-2-3),及び,同(B-2-4)の共通性を前提とした場合,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
相違点(ウ-4)は,膨出部蓋体は,有蓋膨出部を構成する一部であるともいい得るから,この相違点は,上記相違点(ウ-1)と同様に考えられ,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的というべきである。
相違点(ウ-5)は,上記の共通点の評価で検討したところであって,先行公知意匠に照らし,本件登録意匠にのみ特徴的な構成態様に係る共通性を有することを前提とした中において,細部に係る相違が複数見られるというべきものであり,しかも,イ号意匠の態様が特徴的であるといえず,極ありふれたものに過ぎないのであるから,共通点によって,本件登録意匠とイ号意匠が生じている共通の美感を異ならせるものとはいうことができないのであって,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を大きいということはできない。

相違点(エ)に掲げた相違は,いずれの態様もこの種物品分野においては極ありふれた態様であって,これらの相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,ほとんどない。

また,相違点が相乗して生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える強い共通の印象は,これを凌駕して,両意匠の類否判断を決定付けている。


なお,被請求人は,その答弁書において,本件登録意匠について,「本件登録意匠の願書の記載及び添附図面からは「空室の上面に透明な蓋体」の具体的な意匠を把握することはできない。「その意匠に係る物品の全部又は一部が透明であるときは,その旨を願書に記載しなければならない」(意匠法第6条第7項),具体的には願書の「意匠の説明」の欄に記載しなければならないところ,本件登録意匠の「意匠の説明」の欄には「透明な蓋体」の記載はなく,図面からも当該蓋体が透明であることを把握することもできない。確かに本件登録意匠の願書の「意匠に係る物品の説明」の欄には,「透明プラスチックからなる蓋体」と記載されているが,「意匠に係る物品の説明」の欄は,その物品の使用の目的,使用の状態等の物品の理解を助けることができるような説明を記載するところであり,この欄の記載をもって本件登録意匠の構成中で「透明な蓋体」があると断定することは妥当ではない。」と主張するが,意匠登録出願の願書の様式は,意匠法施行規則第2条第1項に基づき様式第2に定められており,その備考41には「意匠法第6条(中略)第7項に規定する場合は,「【意匠の説明】」の欄にそれぞれの規定により記載すべき事項をそれぞれ記載する。」とするところではあるが,最も適切な欄に記載されていないことをもって,直ちに当該記載の意味がなくなるわけではなく,実質的に願書の記載の一部であれば,当該記載は当然に意匠を構成,特定するものとなるのであって,本件登録意匠においては,当該蓋体が透明であると見るのが適切であって,本件登録意匠の認定は上記のとおりであり,この点に係る被請求人の主張は採用することができない。


(3)小括
したがって,本件登録意匠とイ号意匠に係る共通点が両意匠の基調を形成し,共通の印象を見る者に強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっているのに対して,両意匠の相違点が類否判断に及ぼす影響はいずれも大きいとはいえず,あるいは,微弱なものと判断せざるを得ず,そして両意匠の相違点が相乗して生じる視覚的効果を考慮しても,両意匠の共通点が見る者に与える強い共通感を覆すほどのものではないのであるから,両意匠の類否判断においては,共通点が意匠全体の基調を決定付けるに十分で,類否判断に支配的な影響を及ぼし,相違点がこれを凌駕するには至らず,イ号意匠は,本件登録意匠に,意匠全体として類似する。


5.むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する範囲に属する。

よって,結論のとおり判定する。

別掲
判定日 2012-09-12 
出願番号 意願2002-11319(D2002-11319) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (H1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川崎 芳孝 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 橘 崇生
斉藤 孝恵
登録日 2003-08-01 
登録番号 意匠登録第1185322号(D1185322) 
代理人 押久保 政彦 
代理人 佐藤 隆久 

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