• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 B1
管理番号 1268313 
審判番号 不服2012-6896
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-16 
確定日 2012-12-17 
意匠に係る物品 ブラジャー 
事件の表示 意願2011- 2913「ブラジャー」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする,平成23(2011)年2月10日の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書添付の図面によれば,意匠に係る物品を「ブラジャー」とし,その形態を願書及び願書添付の図面に記載されたとおりとしたものであって,「実線で表した部分が,部分意匠として登録を受けようとする部分である。実線で表した部分の内側に表された破線部(「縫着部及び各部名称を示すA-A,B-B部分参考拡大図」において「縫製線」と示して破線で表した部分)は,意匠登録を受けようとする部分以外の部分である。」としたものである(以下,本願について,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分意匠」という。)(別紙第1参照)。

2.原査定における拒絶の理由
本願意匠に対する原査定の拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

本願意匠は,出願前に公然知られた下記の公知意匠のパット部分の形状に対して,パットの上辺を円弧状とした程度にすぎず,ブラジャーにおいては,パットの上辺を円弧状でとすることは例示するまでもなくごく普通であり,本願意匠は,出願前の公然知られた形状に基づき,当業者において容易に創作をすることができた意匠に該当します。

公知意匠(別紙第2参照)
特許庁発行の公開実用新案公報記載
実開昭63-89907号のブラジャーのパット部分の意匠

3.請求人の主張の要旨
(1)実開昭63-89907に示されたブラジャーのパット部分について
まず,両意匠は,下辺部が縫着されており,上辺部が開口している点で共通している。一方で,本願意匠は上辺部及び下辺部について,内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜としているのに対し(前記B及びC),実開昭63-89907の意匠は,上辺部がほぼフラットであり(資料1中のc2),下辺部は内側と外側がほぼ対称な弧状である(資料1中のa2)点で相違している。なお,実開昭63-89907の第1図に表れている意匠はやや左斜め方向から描かれているように見受けられる。そのことを前提とすると,上記の通り,実開昭63-89907の意匠の下辺部は内側と外側がほぼ対称な弧状であると考えられる。
また,本願意匠は,その立体形状が,バストトップを覆ように最上端が位置する上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,再び下辺部に至るまで緩やかに薄くなる態様であるが(前記D),これに対し,実開昭63-89907の意匠は上辺部から下辺部に至るまで一定の厚みであり,下辺部の縫着部分付近が薄くなる態様であり(資料1中のf2),相違している。
(2)本願意匠が容易に創作することができたものではないことについて
本願意匠の構成は,「下辺部がブラジャー本体に縫着され,上辺部は開口しているパッド部において,下辺部は,正面視で内側を急な弧状の傾斜とし中央から外側を内側よりもやや緩やかな弧状の傾斜とし,上辺部は,正面視で内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜として上方に大きく膨出させて着用者のバストトップを覆う位置まで形成しており,その厚みの立体形状については,バストトップを覆うように最上端が位置している上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,再び下辺部に至るまで緩やかに薄くなる態様としたもの」である。そして,この構成全体が従来には存在しなかった本願意匠特有の構成であり,特に上辺部が上方に大きく膨出することで,カップ部との縫着部の両端を結ぶ線と上辺部の頂点までの距離(資料1中のh)が,下辺部の頂点までの距離(資料1中のh´)よりも長くなっている点は顕著な特徴点として外観上目立って表れている。すなわち,ボリュームの小さなバストを大きく見えるように造型するという創作目的の下,上辺部に急な弧状の傾斜部を形成してバストトップを覆う位置まで大きく膨出させるとともに,厚みを平板状とせず,上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,再び下辺部に至るまで緩やかに薄くなる態様として着用者のバストのボリュームアップを効果的に実現し,さらに,下辺部を縫着する一方で上辺部を開口することで,パッド部とカップ部の間にさらに別のパッドを入れて使用できるようにして,着用者のニーズに応じてバストのさらなるボリュームアップが可能となるよう,創意工夫されて創作された意匠である。このように,本願意匠は着想の点において従来意匠から飛躍した独創性を有しており,その結果,外観上,従来にない構成を示して特異の意匠効果を発揮しているものである。
拒絶理由通知において引用された実開昭63-89907の意匠は,確かに下辺部を縫着し上辺部を開口しているが,上辺部や下辺部や厚みの態様が大きく異なっており,これのみで本願意匠の上記の創作を容易足らしめるものではない。そして,原査定において提示された意匠に基づいては,本願意匠を構成する各要素(上辺部,下辺部,厚み,カップに占める範囲)が特徴的ではないということはできないため,実開昭63-89907の意匠に加えて,原査定で提示された複数の意匠を考慮しても,本願意匠の創作を容易とするような着想を与えるものではないのである。
そもそも,ブラジャーのパッド部の意匠は,上辺部,下辺部,厚み,カップにおける占める範囲等の構成要素からなり,それぞれの構成要素において様々な形態を採ることができる。このように,意匠の各要素において様々な形態を選択する余地がある中から,その意匠特有の創作目的や発想に基づいて形成された意匠は,創作容易とは言えない。このことは,意匠法第3条第2項の適用を覆した裁判例(知財高裁・平成19年6月13日判決,平成19年(行ケ)10078号,資料8)においても判示されている。この裁判例においては,「本願意匠のうち個々の構成態様が,ありふれているものであっても,・・・その全体の印象として,特有のまとまり感のある,本願意匠の特徴を選択することは,当業者が容易に創作し得たとはいえない」としており,また,様々な意匠を選択する余地がある場合には創作容易とはいえない旨を判示している。この判断基準は,まさに本願意匠にも当てはまるものである。すなわち,ブラジャーのパッド部においては,上辺部の正面視の態様,下辺部の正面視の態様,厚みの態様,上辺部の態様や厚みの態様にも影響を与えるカップに占める範囲について,取り得る形態が様々あり,その組み合わせから創出される全体としての形態には極めて多くのバリエーションが存在する。そのような状況の中,本願意匠は「下辺部がブラジャー本体に縫着され,上辺部は開口しているパッド部において,下辺部は,正面視で内側を急な弧状の傾斜とし中央から外側を内側よりもやや緩やかな弧状の傾斜とし,上辺部は,正面視で内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜として上方に大きく膨出させて着用者のバストトップを覆う位置まで形成しており,その厚みの立体形状については,バストトップを覆うように最上端が位置している上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,再び下辺部に至るまで緩やかに薄くなる態様としたもの」という本願意匠に特有のまとまり感のある特徴的な形態を備えており,当業者にとっては容易に創作できたものではない。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易に意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠
本願意匠は,意匠に係る物品を「ブラジャー」とし,本願部分意匠は,左右一対のカップ部の内側に設けられた背面視右側のパッド部分であり,下辺部がブラジャー本体に縫着され,上辺部は開口し,さらに別のパッドを入れて使用できるもので,その形状は,背面視して上半部は放物線状で下半部は円弧状の薄いクッション状の部分であって,下辺部は背面視左側を急な弧状の傾斜とし,中央から右側を左側よりもやや緩やかな弧状の傾斜とし,上辺部は,背面視左側を急な弧状の傾斜とし,中央から右側を緩やかな弧状の傾斜として上方に大きく膨出させて着用者のバストトップを覆う位置まで形成し,上辺部の円弧状の一番高い部分と下辺部の円弧状の一番低い部分がそれぞれ中央よりも左寄りの位置とし,その厚みは,断面図によれば全体が略凸レンズ状で,上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,下辺部に至るまで緩やかに薄くなる態様のものである。
(2)本願部分意匠と拒絶の理由通知及び原査定に示された各意匠のパッド部に表された構成態様の関連性
(a)本願部分意匠と拒絶理由通知に引用された公知意匠について
公知意匠のパッド部には,下辺部がブラジャー本体に縫着され,上辺部は開口したパッド部が表されているが,上辺部は上部に膨出しておらず,高さがカップ部の半分程度の高さまでで,パッド部の背面視形状が異なり,断面も本願部分意匠のように中央部を厚く設けてはいない。
(b)原査定において示された一般的なパッド部として表された構成態様について
1)実開平3-25507号に示されたパッドの意匠との比較
本願部分意匠はバストトップを覆うように最上端が位置する上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,下辺部に至るまで緩やかに薄くなる立体形状となっているのに対し,実開平3-25507号に示されたパッドの意匠は,バストトップよりも下の位置から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,再び下辺部に至るまで緩やかに薄くなる立体形状となっており,両意匠はその大きさが異なっている。
2)特開平8-158111号に示されたパッドの意匠との比較
特開平8-158111号に示されたパッドの意匠はカップ側の断面形状はカップに沿って緩やかな弧状となっているが,着用者の肌側は大きく膨出して盛り上がった弧状となっており,本願部分意匠とはその立体形状が大きく異なっている。
3)特開2010-138523号に示されたパッドの意匠との比較
特開2010-138523号のに示されたパッドの意匠は,上辺部から下辺部までをほぼ一定の厚みとした椀型パッドであるのに対し,本願部分意匠は,上辺部や下辺部よりも中央部に大きく厚みを持たせ,着用者のバストをボリュームアップさせるという目的や効果を備えたもので,その創作の目的や着眼点が大きく相違する。また,本願部分意匠の上辺部は,内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜とし,上方に大きく膨出させた形状であるのに対し,特開2010-138523号に示されたパッドの意匠の上辺部は極めてなだらかな弧状線であって,外側の方が内側よりもわずかに曲がり方が大きくなっている態様であり,両意匠の上辺部の形状は極めて相違している。
4)特開2004-169208号に示されたパッドの意匠との比較
本願部分意匠の上辺部は,内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜とし,上方に大きく膨出させて着用者のバストトップを覆う位置まで形成しているのに対し,特開2004-169208号の【図4】のパッド挿入部は,ほぼ均等に左右に亘って緩やかな弧状を形成し,ちょうどバストトップの位置まで形成しており,バストトップを覆う位置までは形成されていない点で相違している。また,特開2004-169208号の【図7】(B)に表れたパッドは,その上辺部は,内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜としている。しかしながら,このパッドはバストトップの位置まで形成された前記パッド挿入部に挿入して使用するものであるため,上方への膨出の程度が小さく,本願部分意匠のようにバストの下部からバストトップを覆うように大きく上方に膨出した弧状とはなっておらず,カップに占める範囲も本願部分意匠に比べて極めて小さいものであり,本願部分意匠とはその形状が異なっている。さらに,特開2004-169208号の【図8】(B)に表れたパッドは,その上辺部は,内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜としており,上方にも大きく膨出した弧状となっているが,このパッドもバストトップの位置まで形成された前記パッド挿入部に挿入して使用するものであるため,カップに占める範囲が本願部分意匠に比べて極めて小さいものである。
5)特開2010-111955号に示されたパッドの意匠との比較
特開2010-111955号の【図6】に表れたパッド挿入部の上辺部の構成は,内側からほぼ均一な緩やかな弧状で端部に至り,端部において折れ曲がったラインを表しており,また上方にはあまり膨出せずなだらかな弧状となっており,本願部分意匠とは上辺部の湾曲の度合いにおいて相違している。次に,特開2010-111955号の【図1】に表れたパッドは,内側を急な弧状の傾斜とし,中央から外側を緩やかな弧状の傾斜としているが,上方への膨出の程度が小さく,本願部分意匠のようにバストの下部からバストトップを覆うように大きく上方に膨出した弧状とはなっておらず,カップに占める範囲も本願部分意匠に比べて極めて小さいものであり,本願部分意匠とはその形状が異なっている。
6)実用新案登録番号第3028524号に示されたパッドの意匠との比較
実用新案登録番号第3028524号のパッド(芯生地)及びパッド挿入部の上辺部は,内側から中央やや外側の位置まで緩やかに均一にカーブし,折れ曲がり部を形成して,内側から中央やや外側の部位とは逆の弧状の辺を形成している。また,この芯生地はカップのほぼ全体を覆っている。したがって,本願部分意匠とはその上辺部の態様が大きく相違しており,また,カップに占める範囲も大きく相違しており,実用新案登録番号第3028524号に示されたパッドの意匠をもって,本願部分意匠の上辺部の湾曲度合いやカップ部に占めるパッドの範囲が特徴的なものとは認められないとすることはできない。
したがって,いずれもパッド部の背面視形状や断面形状が本願部分意匠とは異なる。
(3)創作容易性の判断
まず,この種のブラジャーの分野においては,下辺部がブラジャー本体に縫着され,上辺部が開口されたパッド部を設けることは,拒絶理由通知に引用された公知意匠に見られるように,本願出願前より既に行われていることである。
また,開口されたパッド部に別のパッドを挿入できるようにすることも,原査定において一般的なパッド部として示された意匠にも見られるように,本願の出願前から普通に行われているところである。
しかしながら,本願部分意匠の,上辺部を背面視左側を急な弧状の傾斜とし,中央から右側を緩やかな弧状の傾斜として上方に大きく膨出させて着用者のバストトップを覆う位置まで形成し,上辺部の円弧状の一番高い部分と下辺部の円弧状の一番低い部分がそれぞれ中央よりも左寄りの位置とし,その厚みを略凸レンズ状に上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,下辺部に至るまで緩やかに薄くしたパッド部の形状は,先行する意匠には見当たらないし,導き出すこともできないのであるから,本願部分意匠に係る具体的な態様がこれらの意匠から容易に創出し得るものということはできない。
そうすると,本願部分意匠において,上辺部を上方に大きく膨出させて着用者のバストトップを覆う位置まで形成し,上辺部の一番高い部分と下辺部の一番低い部分がそれぞれ中央よりも左寄りの位置とし,その厚みを略凸レンズ状に上辺部から緩やかに膨らみ,中央部で最も厚くなり,下辺部に至るまで緩やかに薄くした形状は,本願部分意匠の独特の態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたとはいえず,したがって,本願意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠に該当しない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,同法同条同項により拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2012-11-29 
出願番号 意願2011-2913(D2011-2913) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (B1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 市村 節子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 早川 治子
樫本 光司
登録日 2013-01-11 
登録番号 意匠登録第1461386号(D1461386) 
代理人 野間 悠 
代理人 塚原 憲一 
代理人 長谷川 芳樹 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ