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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 B1
管理番号 1271056 
審判番号 不服2012-17616
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-10 
確定日 2013-03-04 
意匠に係る物品 シャツ 
事件の表示 意願2011- 14191「シャツ」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,本意匠を意願2009-26369号(意匠登録第1426117号)とする,平成23年(2011年)6月22日の関連意匠の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品が「シャツ」であり,その形態は,願書及び願書添付の図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。

2.原査定における拒絶の理由
本願に対する原査定の拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

2つの上衣の裾同士を繋げて一体化することは,下記の公知意匠にみられるとおり,出願前に公然知られており,本願意匠は,ごく普通の半袖ティーシャツと,ごく普通のランニングシャツの裾同士を繋げて一体化してシャツの形状として表したまでのものであり,本願意匠は,出願前の公然知られた形状に基づき,当業者が容易に創作できた意匠に該当する。
なお,本願意匠は,使用態様として,2つに裁断して分離して着用する態様の他に,折り重ねて着用する状態での六面図が示されているが,この状態に現れる形状についても,ごく普通にみられる半袖ティーシャツと,ごく普通にみられるランニングシャツが普通に重ねられて現れる範囲のものであり,この状態を考慮に入れても,本願意匠については,上記のとおりである。

公知意匠
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2003-221768
【図3】及び【図4】に示された各上衣
(別紙第2参照)

3.請求人の主張の要旨
(1)本願意匠が独自の創作を実現していることについて
本願意匠は,特徴的構成によって,一つの衣類でありながら重ね着をしているように見せることを可能としたものである。また,本願意匠は,折り重ねて着用した際に,首周り部や袖刳り部において,内シャツ部が外シャツ部の縁部周囲に露出するため,使用に際して,内シャツ部と外シャツ部の2つのシャツ部による部材の変化を訴え,また,内シャツ部と外シャツ部のそれぞれに模様や色彩を付すことによって,それらの模様や色彩の組合せやコントラストによる独自の美感を表現することを可能としている。
本願意匠は,上記の特徴を実現するため,その内シャツ部と外シャツ部について,首周り部及び袖刳り部の構成に工夫を実現している。すなわち,本願意匠の首周り部においては,外シャツ部は内シャツ部よりも大きく刳れる構成として,また,互いの肩掛け部の幅について,内シャツ部の両端部が外シャツ部の縁部から僅かに外側に表れる関係としている。さらに,袖刳り部についても,外シャツ部切り口部と内シャツ部の袖部付け根部を,共に直線状部を大きく取って下部において急激に円弧状を描く構成として揃えることによって,外シャツ部の縁部から内シャツ部が僅かに表れる構成を実現したものである。また,外シャツ部と内シャツ部のそれぞれの肩掛け部についても,折り返した際にランニングシャツ部の肩掛け部がティーシャツ部の肩掛け部の内側に収まるようにそれぞれの位置を配して,それによって,折り返して重ねた際に外シャツ部の肩掛け部の両側に内シャツ部が表れる工夫を表している。
そして,本願意匠は上記目的に基づいた創作の結果,肩掛け部を中心として,首周り部,袖刳り部において,外観上表れるシャツが「内→外→内」と部材が切り替わる,変化に富んだ従来にない意匠効果を備えた2層構造のシャツを創出しており,本願意匠の構成は独自の特徴的創作として外観上訴求している。
(2)本願意匠が従来意匠から容易に導かれないことについて
上述した通り,本願意匠は,公知意匠を単に上下に備えたものではなく,首周り部及び袖刳り部において2層構成を強調する美的外観を呈するための造形を実現したものである。そのため,本願意匠の創作に際しては,内シャツ部と外シャツ部の首周り部及び襟刳り部の形状や位置を相互に調整している。
すなわち,本願意匠は2層構造による外観上の意匠効果のため,内シャツ部と外シャツ部のデザインを計算の上で構成したものであり,その創作思想は従来意匠には存在しない。
(3)原審の認定・判断について
原審においては,『衣服の分野においては,視覚効果も含めて様々の観点から,衿ぐりの深さや横幅,袖ぐりの深さや肩先位置等が適宜設定されてきたところであり,本願意匠についても,内シャツ部,外シャツ部とも,その衿ぐり,袖ぐりは従来からティーシャツ,ランニングとしてごく普通にみられる範囲のものである。』と示し,本願意匠について「ごく普通の半袖ティーシャツ」と「ごく普通のランニングシャツ」を基礎として容易に想到したものと認定している。
しかし,上述した通り,本願意匠は,独特の視覚的効果を表すために,内シャツ部と外シャツ部の互いの形状と配置に特別の配慮を行った上で実現した創作であり,「ごく普通の半袖ティーシャツ」と「ごく普通のランニングシャツ」を単に用いるだけで想到した意匠ではない。すなわち,本願意匠は,外観上表れるシャツが「内→外→内」と部材が切り替わる,変化に富んだ特異な意匠効果を実現したものであるが,この新規美感の実現には従来見られる「配慮」を超えた創作的工夫が存在したと言わざるを得ない。
しかるに,本願意匠がその視覚効果を実現するに際しての創作的工夫(配慮)について,拒絶査定では,単に『その配慮は,当業者がこの種のシャツにおいて従来から行ってきた範囲のものと判断せざるを得ない。』を記すのみであって,本願意匠の創作手法が従来に存在したこと,あるいは容易に想到することについて明確な説明がなされていない。よって,原査定は,本願意匠の創作非容易性を否定するに十分な立証がなされたものとはいえず,不当であるといえる。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠
本願意匠は,意匠に係る物品を「シャツ」とし,その形態は,胴部が長く延びた半袖のティーシャツ(以下,「ティーシャツ部」という。)の裾側に,前後の向きを合わせて上下逆さまにランニングシャツ(以下,「ランニングシャツ部」という。)を一体的に繋げて形成したものであって,中間部分で折り返してティーシャツ部の上にランニングシャツ部を重ね着した態様で着用することができるものであり,具体的には,ランニングシャツ部の肩掛け部の幅をティーシャツ部の肩掛け部の幅よりも狭く形成し,ランニングシャツ部の袖口部を,ティーシャツ部の袖部付け根部よりも長く下方に落ち込むように,より内側に入り込むように形成し,ランニングシャツ部の首周り部をティーシャツ部よりも縦方向に深く抉り,首周り部,袖刳り部について,外側になるランニングシャツ部の切り口を内側になるティーシャツ部の切り口より一回り大きくなるように形成することで,着用時にティーシャツ部の一部が外観上露出する構成とし,また,胴部を任意の位置で裁断分離してそれぞれ着用することができるようにしたものである。
(2)原審が引用した公知意匠
原審が引用した【図3】の公知意匠は,2種類の長袖上衣の裾同士を繋げて一体化したもので,上下が異なる生地で,ちょうど2分の1の長さで上下が区切られ,襟や身頃の打ち合わせ部には,花の装飾が施されており,使用時には装飾のある長袖上衣が装飾のない長袖上衣の外側となるものである。また,【図4】の公知意匠も,長袖上衣とランニングシャツの裾同士を繋げて一体化したもので,上下が異なる生地で,ちょうど2分の1の長さで上下が区切られ,襟や袖口には装飾が施され,使用時には長袖上衣がランニングシャツの外側となるものである。
(3)創作容易性の判断
まず,この種の衣類の分野においては,2つの上衣の裾同士を繋げて一体的に形成することは,原審が引用した【図3】及び【図4】の公知意匠に見られるように,本願出願前より既に行われていることである。そして,本願意匠のティーシャツ部及びランニングシャツ部の形状は,それぞれの部位を個別に観察する範囲では,いわゆるティーシャツ,ランニングシャツと称される典型的な形状ともいえるものである。しかしながら自らの身体に身に付ける衣類のような物品においては,需要者はそのひとつひとつの襟ぐりや袖ぐりにも注目して購入時に形状を判断しているといえるものであり,本願意匠のシャツは,単に,胴部が長く延びた半袖のティーシャツ部の裾側に,ランニングシャツ部を一体的に繋げて形成しただけのようにも見えるが,その具体的な形状は,使用時においてティーシャツ部の上にランニングシャツ部を重ね着した態様で着用することを創作の基礎とするものであり,原審で引用した公知意匠の【図3】及び【図4】の公知意匠には,本願意匠の特徴である半袖のティーシャツ部の裾側に,ランニングシャツ部を一体的に繋げ,使用時に両方を折り重ねてティーシャツ部の上にランニングシャツ部を重ね着した態様で着用すること,すなわち,2つの上衣を一体化したシャツにおいて,半袖のシャツの上に袖のないシャツを重ね着する手法は見当たらないし,その具体的な形状も他の半袖ティーシャツやランニングシャツから直接導き出すことはできない。
特に,首周り部,袖刳り部について,外側になるランニングシャツ部の切り口を内側になるティーシャツ部の切り口より一回り大きくなるように形成することで,着用時にティーシャツ部の一部が外観上露出する構成とした本願意匠の具体的な形状は,本願意匠の独自の特徴といえるものである。
さらに,本願意匠が胴部を任意の位置で裁断分離してそれぞれ着用することができるものとした点,すなわち,ティーシャツ部とランニングシャツ部の区切り線が存在しない点も,原審で引用した公知意匠とは異なり,本願意匠の独自の特徴を形成したものであるといえ,上記いずれの点についても,引用の公知意匠に示された手法及びありふれた衣服形状から本願意匠の具体的形状を導き出せたということはできない。
よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,原査定の拒絶の理由によっては,本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2013-02-19 
出願番号 意願2011-14191(D2011-14191) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (B1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 市村 節子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 川崎 芳孝
伊藤 宏幸
登録日 2013-03-22 
登録番号 意匠登録第1467802号(D1467802) 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 野間 悠 
代理人 塚原 憲一 

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