ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 B1 |
---|---|
管理番号 | 1291584 |
審判番号 | 不服2014-1218 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-23 |
確定日 | 2014-09-05 |
意匠に係る物品 | シャツ |
事件の表示 | 意願2012- 21297「シャツ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 本願意匠 本願は,平成24年(2012年)9月4日の意匠登録出願であり,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「シャツ」とし,形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照) 第2 原審の拒絶の理由 原審における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には以下のとおりである。 「本願意匠は,下記の公知意匠に対して,ネックラインをごく普通のVネックとし,生地をメッシュ様のものとして表した程度にすぎず,生地をメッシュ様のものとすること,あるいは織目や編目のやや粗い生地とすることも衣類の分野では一般的であることから,本願意匠は,当業者において容易に創作をすることができる意匠に該当します。 【公知資料】(別紙第2参照。) 特許庁発行の意匠公報記載 意匠登録第1294802号の意匠」 第3 請求人の主張の要点 これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。 本願意匠に属する,この種シャツの襟ぐりや袖ぐり等の開口端部周縁は,生地の解れを防ぐために折り返して縫製する等といった処理がされているが,特に,メッシュ生地の場合,開口端部周縁を処理せずとも生地が解れないシャツを編み上げることがこれまではできず,端部を切断すると孔部によって切断面に凹凸が生じるため,前記処理を行わなければ生地が必ず解れるというのが,この種意匠の属する分野では一般認識となっていた。 しかし,本願意匠の創作者は,メッシュ生地であっても開口端部周縁が処理されていない切れっ放し状からなるシャツを実現可能とし,需要者(購入者)が一見して,通気性や速乾性,防臭性等に優れていて着心地に配慮がなされており,Yシャツ等の上衣を着用した際に,首周りのボタンを開けた状態でもシャツが見えず,上衣にシャツのラインが浮かび上がらないデザインで,夏場に着用するには最適なシャツであると印象付け,かつ,首周り等を縫製せずとも糸がほつれないメッシュ地からなるシャツを提供することをコンセプトとしてデザイン創作したものであり,本願意匠の創作性は高く評価されるべきものである。 加えて,この種意匠の属する分野では,メッシュ生地の場合,開口端部周縁を処理せずとも生地が解れないシャツを編み上げることがこれまではできず,端部を切断すると孔部によって切断面に凹凸が生じるため,前記処理を行わなければ生地が必ず解れるという一般認識にある以上,公知意匠を知った当業者が,本願意匠のようなメッシュ生地で開口端部周縁が処理されていない切れっ放し状からなるシャツにするとの創作には到底及ばず,本願意匠の創作性が否定されるものでないことに疑う余地はない。 また,審査官は,本願意匠のネックラインが「ごく普通」であり,本願意匠の生地が「ごく一般的なメッシュ様の生地」であると認定したが,ネックラインのV字形状には種々の角度やライン形状があるだけでなく,メッシュパターンにも種々の態様や配置がある以上,何の例示もなく前記のように認定するのは,主観に基づく認定でしかなく,何の例示もない状況で,意匠の独立した構成要素同士を置き換えて構成することはそもそもできないため,本願意匠とほぼ同一になることはあり得ず,本願意匠が当業者にとってありふれた手法により置き換えした意匠であるとする事実もない以上,本願意匠の創作性が否定されるものではない。 したがって,本願意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたものとは言えず,意匠法第3条第2項の規定に該当しない。 第4 当審の判断 1 本願意匠 本願意匠の意匠に係る物品は「シャツ」であり,全体をメッシュ地とし,首回り,袖口及び裾の端部を縫製加工及び端部ほつれ止め編み加工しない裁断生地端にすることによって,着用した際の涼感を高めたものである。 本願意匠の形態は, (A)ネックラインが略V字状で,肩幅と身幅及び裾幅がほぼ同幅の,半袖Tシャツ形状を基本とし, (B)肩から袖にかけての態様は,襟から肩先,袖口まで斜め下方向に向かって,ほぼ直線状に連続しており, (C)袖下から袖口にかけて,前後の身ごろからほぼ直角につながることで,袖上部と袖下部とが平行ではなく,袖口が窄まった形状であり, (D)襟幅と襟長との長さ比をほぼ同じとし, (E)全体に目の細かいメッシュ地を採用し,襟,袖口,裾の各開口部を切りっ放し状としたものである。 2 引用意匠 原審において,本願意匠の形態について,本願出願前に公知であるとした基礎となる引用意匠は,本願に係る物品「アンダーシャツ」であり,極薄くかつその裁断箇所がほつれない生地を縫製加工した3分袖のアンダーシャツであって,首刳部,袖口部及び裾部は,縫製その他一切加工が施されず,生地が裁断されただけの切りっぱなし状態であることによって,着用時に身体とこれらの部分との境界に全く段差を生じない美しいシルエットを形成するものである。 引用意匠の形態は, (ア)ネックラインが略U字状で,肩幅と身幅及び裾幅がほぼ同幅の,半袖Tシャツ形状を基本とし, (イ)肩から袖にかけての態様は,襟から肩先まで,やや斜め下方向に,肩先から袖口まではそれよりも急傾斜で斜め下方向に連続しており, (ウ)袖下から袖口にかけては,袖上ラインとほぼ平行に袖下から斜め下方向につながり,袖幅がどの部位でもほぼ同じであって, (エ)襟幅と襟長との長さ比を,約1:0.85とし, (オ)襟,袖口,裾の各開口部を切りっ放し状としたものである。 3 本願意匠の創作容易性について 請求人の主張を踏まえ,本願意匠の意匠法第3条第2項の妥当性,意匠の創作容易性について,本願意匠の形態について,それらの基礎となる構成,具体的態様などが本願出願前に公知・周知であったか,それらの構成要素を,ほとんどそのままか,あるいは,当該分野においてよく見られるところの多少の改変を加えた程度で,周知の創作手法である単なる組合せ,構成要素の全部又は一部の単なる置換えなどがされたに過ぎないものであるか否かを検討する。 まず,本願意匠の(A)ないし(E)からなる外形状と引用意匠の(ア)ないし(オ)からなる外形状を比較すると,襟,袖口,裾の各開口部を切りっ放し状としたものである点と,肩幅と身幅及び裾幅がほぼ同幅の,半袖Tシャツ形状を基本としている点については,両意匠に共通した態様であり,本願意匠は容易に創作することができたといえる。 次に,引用意匠にはなく,本願意匠に見られる形状が,本願意匠に係る物品の属する分野においてよく見られる,置換えと,それに多少の改変を加えた程度の形状であるか否かについて,検討する。 襟のネックラインについては,本願意匠が略V字状であるのに対し,引用意匠は略U字状であるため,襟の形状について相違があるものの,略V字状の襟については,様々なV字状の襟が存在しているから,請求人が主張するように,本願意匠のような略V字状襟の例示無しに,置換えて構成することが容易であるとは言えないが,本願意匠のような襟幅と襟長との長さ比がほぼ同じものが本願出願前より知られているから,当業者が本願意匠を容易に創作することができたといえる。 そして,生地がメッシュ生地であるか否かについて両意匠は相違するが,確かに,本願意匠は,願書に添付されたA-B部拡大図やC-D部拡大図によればメッシュ地であることがわかるが,メッシュ地のパターンの具体的な態様については,これらの図を見ても明確ではないので,両意匠に明確な相違があるとまではいえず,創作性は認められない。また,メッシュ生地を採用することについては,この種物品が属する分野では,着心地や想定する着用場面,機能性等の目的により,素材を選択することが例を示すまでも無く通常に行われていることから,メッシュ生地を採用することに創作性は認められない。 しかしながら,本願意匠は襟から袖口まで,斜め下方向にほぼ直線状に連続しており,脇から袖下が身ごろに対してほぼ直角につながっているため,袖口にいくにつれて窄まっているうえ,袖口の上部分が鋭角になるようカットされたシャープな形状となっているのに対し,引用意匠は襟から袖口まで斜め下方向に連続しているものの,肩口を境に傾斜の度合いが相違し,直線状ではないうえ,袖幅がほぼ同じであることから,襟から袖口までのライン,袖の形状,特に袖口の形状について両意匠は相違している。 本願意匠は,薄い布を縫製したYシャツやブラウスなどの下に着用し,肌着やアンダーシャツとも称される類の物品であるが,この種物品分野において,いわゆるTシャツ状のシャツは一般的な形状であるため,袖や襟の形状等,より細部の形状の創作に着目すると,本願意匠のような襟から袖口までのラインが斜め下方向に向かってほぼ直線状であって,袖口が窄まる形態は本願意匠独自の態様であり, 当業者の知識を有する者が,公知の意匠を置換えて構成することが容易であったとは言えない。 第5 むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審決日 | 2014-08-26 |
出願番号 | 意願2012-21297(D2012-21297) |
審決分類 |
D
1
8・
113-
WY
(B1)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 市村 節子 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
小林 裕和 綿貫 浩一 |
登録日 | 2014-09-26 |
登録番号 | 意匠登録第1509952号(D1509952) |
代理人 | 藤本 昇 |
代理人 | 野村 慎一 |