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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 D4
管理番号 1293645 
審判番号 不服2013-25450
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-25 
確定日 2014-10-14 
意匠に係る物品 扇風機用羽根 
事件の表示 意願2012- 31039「扇風機用羽根」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,平成24年(2012年)12月20日の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「扇風機用羽根」とし,その形態を願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠

本願に対する原査定の拒絶の理由は,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

この意匠登録出願の意匠に係る物品が属する送風機器の羽根の物品分野において,羽根の表面に複数のディンプルを設け(例えば,公知意匠2乃至4),整然と配することは(例えば,公知意匠2及び4),本願出願前より極普通に見られるものであって,当該分野においてありふれた態様である。
そうすると,この意匠登録出願の意匠は,本願出願前より公然知られたものと認められる扇風機用羽根の意匠(公知意匠1)の形状を殆どそのまま用い,単に,ありふれた手法で羽根の表面に複数のディンプルを整然と配した扇風機用羽根とした程度に過ぎないので,当業者であれば,容易に創作できたものと認められる。

公知資料1(別紙第2参照)
特許庁普及支援謀が2007年8月30日に受け入れた
大韓民国意匠商標公報 2007年6月12日07-19号
扇風機用羽根(登録番号30-0452063)の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HH19427603号)

公知資料2(別紙第3参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
平成3年特許出願公開第294699号
第1図,第5図に表された送風機羽根車の意匠

公知資料3(別紙第4参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
平成5年特許出願公開第332294号
図1乃至図3で表された空気調和機用の送風装置に用いられる軸流ファンの意匠

公知資料4(別紙第5参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2001-032797
図1の冷却ファンの羽根の意匠

第3 請求人の主張の要旨

1.本願意匠の説明
本願意匠は,扇風機用羽根の圧力面にディンプルを配置している。なお,圧力面とは空気圧がかかる面であり,大気圧より圧力が大きいため,正圧面とも言う。一方,圧力面(正圧面)の反対側の面は,低圧面(負圧面)と言う。
本願意匠は,羽根の圧力面に,1枚の羽根から見て大径のディンプルを近接して配置している。また,各羽根が接続する中心部(ハブ部)から見て同心円上に同一サイズのディンプルを配列している。
扇風機用羽根の表面にディンプルを配置すると,ディンプル部分における光の反射方向が他の部分と異なり,光の当たり方によりディンプル部分が輝いて見えるという視覚的効果がある。そこで,かかる視覚的効果を高めるために,本願意匠では,1枚の羽根から見て大径で同一サイズのディンプルを同心円上に近接して配置するとともに,ディンプルを羽根の圧力面,すなわち扇風機の風を受ける需要者側の面に配置している。

2.公知意匠と本願意匠との対比
(1)公知意匠1
公知意匠1は,5枚羽根を有する扇風機用羽根の意匠である。

(2)公知意匠2
公知意匠2は,送風機用羽根の意匠であり,第1図(a)に示すように,羽根bの低圧面(負圧面)に複数のディンプルが設けられ,モータで矢印の方向に回転させることにより送風作用が生じ,空気は,羽根の前縁cより侵入し,後縁dから流出する(公知資料2:特開平3-294699号公報第2頁右上欄第5行?第14行)。
第5図(a)には,ディンプルを格子状に配列した態様が記載され,第5図(b)には,ディンプルをチドリ状に配列した態様が記載されている(同公報第2頁右下欄第7行?第12行。なお,公報に第4図とあるのは,第5図の誤りである。)。
また,第1図と第5図に示されているディンプルは,1枚の羽根から見て小径であり,ディンプル同士が離間して配置している。
したがって,扇風機用羽根の意匠(公知意匠1)の形状を殆どそのまま用い,公知意匠2に記載されているように,羽根の表面に複数のディンプルを整然と配置した結果得られる意匠は,羽根の低圧面(負圧面)に格子状又はチドリ状にディンプルを配置し,小径のディンプル同士が互いに離間して配置する意匠となる。
これに対して,本願意匠は,羽根の圧力面(正圧面)に同心円上にディンプルを配置し,大径のディンプル同士が互いに近接して配列しているため,公知意匠1と公知意匠2とから得られる意匠とは相違するものである。

(3)公知意匠3
公知意匠3は,空気調和機用の送風装置として多用されている軸流ファンの意匠であり,【図1】に示すように,各羽根2の低圧面(負圧面)2aに多数のディンプル3が形成されている(公知資料3:特開平5-332294号公報[0015]?[0017],実施例の説明)。
また,図1に示されているディンプル3は,1枚の羽根2から見て小径であり,ディンプル同士が密集して配置している。
さらに,この実施例の場合,羽根2の曲率半径が半径方向の外側に向かうにつれて大きくなるため,ディンプル3の穴径も半径方向の外側に向うにつれて大きくなっていると記載されている(同公報[0023])。
したがって,扇風機用羽根の意匠(公知意匠1)の形状を殆どそのまま用い,公知意匠3に記載されているように,羽根の表面に複数のディンプルを配置した結果得られる意匠は,羽根の低圧面(負圧面)に小径のディンプルを密集して配置し,ディンプルの穴径が外側に向かうにつれて大きくなる意匠である。
これに対して,本願意匠は,羽根の圧力面(正圧面)に同心円上に同一径のディンプルを配置し,大径のディンプル同士が互いに近接して配列しているため,公知意匠1と公知意匠3とから得られる意匠とは相違するものである。

(4)公知意匠4
公知意匠4は,モータ等の回転電機用の冷却ファンの意匠であり,【図1】に示すように羽根22の低圧面(負圧面)22aにシート23が張り付けられ,シート23の表面に多数のディンプル24が形成されている(公知資料4:特開2001-32797号公報[0001],[0003],[0017])。
【図1】(a)には,ディンプル24をチドリ状に整然と配列した態様が記載されている。また,これらのディンプルは,1枚の羽根から見て小径であり,ディンプル同士が離間して配置している。
したがって,扇風機用羽根の意匠(公知意匠1)の形状を殆どそのまま用い,公知意匠4に記載されているように,羽根の表面に複数のディンプルを整然と配置した結果得られる意匠は,羽根の低圧面(負圧面)にチドリ状にディンプルを配置し,小径のディンプル同士が互いに離間して配置する意匠である。
これに対して,本願意匠は,羽根の圧力面(正圧面)に同心円上にディンプルを配置し,大径のディンプル同士が互いに近接して配列しているため,公知意匠1と公知意匠4とから得られる意匠とは相違するものである。

3.本願意匠が,公知意匠1?4に基づき容易に創作することができたかについて
本願意匠は,公知意匠1に公知意匠2?4を適用した結果得られる意匠と異なり,本願意匠は,羽根の圧力面(正圧面)にディンプルを同心円上に配置し,大径のディンプル同士が互いに近接して配列し,かかる構成態様により需要者の視覚を通じて美感を与えるものである。
この種扇風機用羽根の意匠において,羽根にディンプルを形成するとしても,どのサイズのディンプルを,どこに,どのように配置するかという点については,造形上,多様な工夫の余地があるところであって,ディンプルの態様を具体的に決定し,ディンプル同士をどのように関連付け,構成し,それらの結合により羽根全体の形態をどのように具体化するかの選択は多様である。本願意匠は,そのような創作の過程を経て,一連の創意工夫の結果,羽根全体として一定のまとまりを形成することにより完成したものである。したがって,本願意匠は,公知意匠1?4に基づき容易に創作できたものではない。
また,羽根の表面に形成したディンプル部分は,他の部分と光の反射方向が異なり,光の当たり方によりディンプル部分が輝いて見えるため,需要者の目を引くという視覚的効果がある。そこで,本願意匠では,大径で同一サイズのディンプルを同心円上に近接して配置するとともに,ディンプルを羽根の圧力面(需要者側の面)に配置することにより,需要者の目を引くという視覚的効果を高めている。
したがって,本願意匠は,公知意匠1に公知意匠2?4を適用した結果得られる意匠と比較して,需要者の目を引くディンプルについての形態(サイズと配置)が相違するため,本願意匠には着想の新しさ又は独創性がある。

4.むすび
以上のとおり,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当するものではなく,登録要件を満たすため,本願意匠は登録すべきものとするとの査定を求める。

第4 当審の判断

請求人の主張を踏まえ,本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,すなわち,本願意匠は,本願出願前より公然知られたものと認められる扇風機用羽根の意匠(公知意匠1)の形状を殆どそのまま用い,単に,ありふれた手法で羽根の表面に複数のディンプルを整然と配して扇風機用羽根とした程度に過ぎないものか否かについて,以下検討する。

1.本願意匠
本願意匠の意匠に係る物品は「扇風機用羽根」であり,本願意匠の形態は,次のとおりである。
(1)全体は,背面側が開口した略円筒形状のハブ部(以下,「ハブ部」という。)の外側面部に,先端に向かってその幅が広がる略細長扇形状の羽根部(以下,「羽根部」という。)を5つ,等間隔になるよう放射線状に配設した構成としたものであって,
(2)ハブ部の態様は,背面に向かって漸次径の大きくなる略円錐台形状とし,その側面部に配設された5つの羽根部の背面側側面部分に,羽根部の傾斜に合わせた曲面状の斜辺をもつ略直角三角形状の切り欠き部を形成し,ハブ部の正面側を断面視略皿状に凹ませ,凹みの中央部に,外側の大径円筒形の背面側先端部を内側に折返して内側に小径円筒形を設けた略二重円筒形状の筒部を立設し,この小径円筒形を挿入される回転軸を支える軸受け部とし,筒部の大径円筒形外側面とハブ部側面の内側面の間に板状のリブを5つ,等間隔になるよう背面から見て放射線状に形成したものであり,
(3)羽根部の態様は,軸受け部中心部分から羽根部先端部までの長さと軸受け部中心部分からハブ部外周部分の長さの比を約7:2とし,羽根部正面側表面部分に,断面視略円弧状で正面視円形状の大きめのディンプルを,軸受け部中心部から8重の同心円状の位置に密集させて配設した,透明な素材からなるものである。

2.本願意匠の創作容易性の判断

この種物品分野において,羽根部の背面側表面部分に円形状ディンプルを軸受け部中心部から同心円状の位置に配設することは,本願出願前に既に見られる態様であるから,特段の創作力なく当業者が容易に創作することができたといえる。

しかしながら,本願意匠における(2)のハブ部の態様,特にハブ部外側面における切り欠き部の態様は,公知意匠1には見られない本願意匠独自のものであり,(3)の羽根部の態様の大きめのディンプルを等間隔に密に形成した態様も,公知意匠2ないし4にはない本願意匠固有のものであって,これらの態様は当業者であれば加えるであろう程度にすぎない変形によるものとは言えず,また,その意匠の属する分野において常套的な変更によるものとも言えず,本願意匠の形態を創作するにあたり,新たな創作が加わっているものであると認められることから,本願意匠は,公知意匠1ないし4の公然知られた形態に基づいて当業者が容易に創作することができたとは言うことはできない。

第5 むすび

以上のとおりであるから,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないので,本願については,原審の拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2014-09-11 
出願番号 意願2012-31039(D2012-31039) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (D4)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 斉藤 孝恵
江塚 尚弘
登録日 2014-11-07 
登録番号 意匠登録第1513334号(D1513334) 
代理人 川瀬 裕之 

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