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審決分類 審判    D3
管理番号 1298272 
審判番号 無効2013-880016
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-08-29 
確定日 2015-02-16 
意匠に係る物品 発光装置支持用ポール 
事件の表示 上記当事者間の登録第1425561号「発光装置支持用ポール」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1425561号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件登録意匠,すなわち,本件意匠登録第1425561号の意匠(別紙第1参照)は,平成22年(2010年)9月24日に出願(意願2010-22815。以下「本願」という。)された,関連意匠の意匠登録出願(本意匠は意匠登録第1400306号。)であって,審査を経て平成23年(2011年)9月16日に意匠権の設定の登録がなされ,同年10月17日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求(審判請求書提出) 平成25年8月29日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成26年11月11日
・口頭審理 平成26年12月 9日


第2 当事者が提出した証拠
1 請求人が提出した証拠
(1)平成25年8月29日付け「審判請求書」に添付
甲第1号証 意匠登録第1425561号の意匠登録原簿写し
甲第2号証 意匠登録第1425561号公報の写し
甲第3号証 神奈川県ホームページから 工事番号「神交規81」の工事
についての<入札 公告 兼 入札説明書>のダウンロー
ドの写し
甲第4号証 本件登録意匠の出願前に設置された場所における「発光装置
支持用ポール」の写真の写し
甲第5号証 株式会社村上製作所に「品名 鋼管柱年度表示銘板/神奈川
県警 年度シール08」を注文した際の注文書(兼 納品
書)の写し
甲第6号証 hess AG Form + Licht社が発行した照
明具の取扱い説明書の写し
甲第7号証 hess AG Form + Licht社が発行したカ
タログの写し
甲第8号証 タキゲン製造株式会社が発行したドア錠のカタログの写し
甲第9号証 日東工業株式会社が発行した日東キャビネットのカタログの
写し
甲第10号証 株式会社ホシモトが発行したハンドル・蝶番・金具のカタ
ログの写し
甲第11号証 株式会社タカチ電機工業が発行したアルミダイキャスト製
スイッチボックスのカタログの写し
甲第12号証 株式会社パトライトが発行したコンパクト型電子音報知器
のカタログの写し
証拠説明書 甲第5号証の(1)及び甲第5号証の(2)の説明
(2)平成26年11月11日付け「口頭審理陳述要領書」に添付
甲第13号証 入札資料のダウンロード画面の写し
甲第14号証 屋外での実施事例の写し
甲第15号証 神奈川県警察本部への承認申請書の写し
甲第16号証 平成20年度 神交規54の入札資料の写し


第3 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,請求の趣旨を「
1.登録第1425561号意匠の登録を無効とする
2.審判費用は被請求人の負担とする との審決を求める。」
と申し立て,その理由を,要点以下のとおり主張し(平成26年11月11日付け「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,前章「第2」に掲げた証拠を提出した。

1 意匠登録無効の理由の要点
(1)登録第1425561号意匠(以下,「本件登録意匠」と称する。)は,出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(甲第3号証),出願前に日本国内において公然知られた意匠(甲第4号証),出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠(甲第6号証及び甲第7号証)に類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は意匠法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。
(2)本件登録意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然知られた意匠である甲第3号証,甲第4号証,甲第6号証ないし甲第12号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたので,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は意匠法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

2 本件登録意匠
本件登録意匠は,甲第2号証である意匠登録第1425561号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を「発光装置支持用ポール」とし,その形態は,基本的構成態様が,ポールと,該ポールに突設された立ち上がり部材と,該立ち上がり部材に取り付けられた縦長形状の蓋部材と,該蓋部材に取り付けられたボルトからなる形状になっているものである。
本件登録意匠の具体的構成態様は以下のとおりである。
(a)ポールは,円筒形状に構成され,開口部が形成されている。
(b)開口部は,縦長形状に形成されると共に,その四角形状の各角部が丸みを帯びた形状とされている。
(c)開口部の開口縁の縦長方向の端部中央位置には,長方形板状部材が互いに対向する方向に縦長の状態で突設されている。
(d)それぞれの長方形板状部材の先端側の中央位置には,円形状の穴が貫設されている。
(e)立ち上がり部材は,その開口部の開口縁に沿って垂直状に突設された構成とされている。
(f)蓋部材は,開口部よりも若干大き目とされ,その外周縁に鍔部が垂直状に突設されると共に,その幅方向の距離がポールの直径より小さい構成とされている。
(g)蓋部材の半円弧形状の端部の略中央には,外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている。
(h)窪みは,その底面の中央に円形状の穴部が貫設されている。
(i)蓋部材の窪みに設けられた穴部と,長方形板状部材に設けられた穴部にボルトが挿通された状態で螺着されている。
(j)ボルトのヘッドは,窪み深さと略同高さとされている。

3 甲第3号証
甲第3号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2008年(平成20年)10月14日に「神奈川県知事 松沢成文」が,工事番号「神交規81」の工事について条件付き一般競争入札を神奈川県のホームページに掲載したページをダウンロードしたものである。
甲第3号証第6頁の「競争参加資格確認申請期限及び通知日」の欄の第1行目?第2行目に「申請期限 平成20年10月20日(17時15分)まで『かながわ電子入札共同システム』により申請してください。」と記載されている。
また,甲第3号証第6頁の「設計図書(現場説明書を含む)の取得方法等」の欄の第1行目?第4行目に「設計図書は別冊工事図を除き『入札説明書』とともに入札公告画面に添付してあります。
ダウンロード期限 平成20年10月20日まで
※期限を過ぎるとダウンロードできなくなりますのでご注意ください。」と記載されている。
また,甲第3号証第6頁の「工事名」の欄には,「交通信号機改良等工事改良11」と記載されている。
この「交通信号機改良等工事 改良11」は,甲第3号証第33頁の「交通信号機改良等工事 改良11 仕様書 平成20年10月 神奈川県警察本部」において工事の詳細が記載されている。
ここで,甲第3号証第39頁の交通信号機改良等工事 改良11 仕様書における「第3章 工事仕様 3-1概要」には,「本工事は,別添付表,付図及び別冊工事図に示す機器及び工事用機材の据付(取付),専用柱による建柱及び配管配線等の工事を行うものとし,」と記載されている。
そして,「第3章 工事仕様 3-1概要」における付図については,甲第3号証第51頁から同第54頁に記載されている。
この甲第3号証第51頁から同第54頁のうち,甲第3号証の第53頁には「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」が記載されている。
したがって,甲第3号証の第53頁の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」に記載された発光装置支持用ポールが,本件登録意匠の出願前に公示されたことは明らかである。
ここで,甲第3号証の第53頁の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」に記載された意匠は,基本的構成態様が,ポールと,該ポールに突設された立ち上がり部材と,該立ち上がり部材に取り付けられた縦長形状の蓋部材と,該蓋部材に取り付けられたボルトとからなる。
また,甲第3号証の第53頁の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
(イ)ポールは,円筒形状に構成され,開口部が形成されている。
(ロ)開口部は,縦長形状に形成されると共に,その縦長方向の端部が半円弧形状とされている。
(ハ)立ち上がり部材は,開口部の開口縁に沿って垂直状に突設された構成とされている。
(ニ)立ち上がり部材の上端縁の縦長方向の端部中央位置には,板状部材が互いに対向する方向に縦長の状態で突設されている。
(ホ)それぞれの板状部材の先端側には,円形状の穴が貫設されている。
(へ)蓋部材は,開口部よりも若干大き目とされ,その外周縁に鍔部が垂直状に突設されると共に,その幅方向の距離がポールの直径より小さい構成とされている。
(ト)蓋部材の半円弧形状の端部の略中央には,円形の穴部が形成されている。
(チ)蓋部材の穴部と板状部材の穴にボルトが螺着されている。

4 甲第4号証
甲第4号証は,本件登録意匠の出願前に設置された「発光装置支持用ポール」の写真である。
以下,設置場所の住所及び施工年を示す。
(1)長津田交差点(2008年施工)
住所:神奈川県横浜市緑区長津田町2993-1
(2)京急川崎駅前交差点(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市川崎区駅前本町16-1付近
(3)砂子交差点(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市川崎区砂子2丁目4-13付近
(4)市役所前東交差点(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市川崎区宮本町6-11付近
(5)川崎駅前東交差点(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市川崎区駅前本町7-7-4付近
(6)川崎駅前北交差点(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市川崎区駅前本町11-1付近
(7)相生町1丁目交差点(2008年施工)
住所 神奈川県横浜市中区相生町1丁目17-1付近
(8)南部沿線道路1378(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市高津区末長1378付近
(9)中消防署前(2008年施工)
住所 神奈川県横浜市中区山吹町2-2付近
(10)伊勢佐木町3丁目(2008年施工)
住所 神奈川県横浜市中区長者町6丁目106付近
(11)新百合ヶ丘駅付近(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市麻生区万福寺1丁目15-15付近
(12)新百合ヶ丘駅入ロ(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市麻生区万福寺3丁目1-2付近
(13)新百合ヶ丘駅付近(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市麻生区万福寺4丁目2-1付近
(14)新百合ヶ丘駅入ロ(2008年施工)
住所 神奈川県川崎市麻生区万福寺1丁目12-21付近
(15)宮崎駅前通り読売新聞宮崎支店前(1997年施工)
住所 宮崎県宮崎市広島1丁目18-7付近
(16)宮崎駅前通り北九州予備校前(1996年施工)
(17)宮崎駅前通り中央郵便局前(1997年施工)
住所 宮崎県宮崎市高千穂通1丁目1-3-4付近
(18)宮崎駅前通り山形屋新館横(1997年施工)
住所 宮崎県宮崎市橘通東3丁目5-20付近
甲第4号証の(1)?(14)の写真のポールの上部には,「08」と表示された鋼管柱用年度表示銘板が取り付けられている。

5 甲第6号証
甲第6号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2007年にhess AGForm + Licht社が発行した照明具の取扱い説明書である。
甲第6号証の第24頁の6.1には,発光装置支持用ポールが記載されている。
このことから,本件登録意匠の出願前に,甲第6号証の第24頁の6.1に記載された「発光装置支持用ポール」が公知の事実であることが明らかである。
また,甲第6号証の第24頁の6.1に記載された意匠は,基本的構成態様が,ポールと,該ポールに開口された開口部と,該開口部に取り付けられた縦長形状の蓋部材と,該蓋部材に取り付けられた開閉用のダイヤル部とからなる。
更に,甲第6号証の第24頁の6.1に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
(イ)ポールは,円筒形状に構成されている。
(ロ)開口部は,ポールの外周面に縦長形状に開口されている。
(ハ)蓋部材は,開口部に嵌合可能な略同形状とされている。
(ニ)蓋部材の上下端の略中央には,爪部が突設形成されている。
(ホ)蓋部材の上部中央には外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている。
(へ)窪みには,略三角形状のダイヤル部が設けられている。

6 甲第7号証
甲第7号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2007年にhess AG Form + Licht社が発行したカタログである。
甲第7号証の第3頁の下段の写真には,発光装置支持用ポールが記載されている。
このことから,本件登録意匠の出願前に,甲第7号証に記載された「発光装置支持用ポール」が公知の事実であることが明らかである。
また,甲第7号証の第3頁の下段の写真の意匠は,円筒形状に構成されたポールと,該ポールに取り付けられた縦長形状の蓋部材とからなる。

7 甲第8号証?甲第12号証
甲第8号証は,2007年4月にタキゲン製造株式会社が発行したドア錠のカタログである。このカタログの赤線で囲った部分の記載には,本体カバーに設けられた窪み内にネジが取り付けられた状態が表示されている。
甲第9号証は,2005年に日東工業株式会社が発行した日東キャビネットのカタログである。このカタログの赤線で囲った部分の記載には,窪み内にネジが取り付けられた状態が表示されている。
甲第10号証は,2007年に株式会社ホシモトが発行したハンドル・蝶番・金具のカタログである。このカタログに記載された全回転取手及び半回転取手には,窪みにネジ穴が設けられた状態が表示されている。
甲第11号証は,2008年に株式会社タカチ電機工業が発行したアルミダイキャスト製スイッチボックスのカタログである。このカタログの赤線で囲った部分の記載には,窪み内にネジが取り付けられた状態が表示されている。
甲第12号証は,2006年に株式会社パトライトが発行したコンパクト型電子音報知器のカタログである。このカタログに記載されたコンパクト型電子音報知器には,窪みにネジ穴が設けられた状態が表示されている。
甲第8号証?甲第12号証については,本件登録意匠の出願前に発行されたカタログであることは周知の事実である。

8 本件登録意匠と公知意匠との対比
本件登録意匠に係る物品は「発光装置支持用ポール」であり,甲第3号証及び甲第4号証,甲第6号証及び甲第7号証に記載の意匠に係る物品は「発光装置支持用ポール」であり,どちらも発光装置支持用ポールであることから,用途及び機能が同一であって同一物品であると言える。
(1)本件登録意匠と公知意匠(甲第3号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第3号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 両意匠の共通点
(A)基本的構成態様につき,
正面から見た場合には,円筒形状のポールに,両者とも蓋部材が縦長形状に形成されると共に,ボルトの取り付け箇所も殆んど変わらないために外観的形状では略同一形状である。
(B)各部の具体的構成態様につき,
(イ)開口部は,両者とも縦長形状に形成される点において略同一である。
(ロ)開口部の縦長方向の端部中央位置には,長方形板状部材が互いに対向する方向に縦長の状態で突設され,円形状の穴が貫設されている点において略同一である。
(ハ)立ち上がり部材は,両者とも開口部の開口縁に沿って垂直状に突設された構成とされている点において略同一である。
(ニ)蓋部材は,開口部よりも若干大き目とされ,その外周縁には鍔部が垂直状に突設されると共に,その幅方向の距離がポールの直径より小さい構成とされている点において略同一である。
イ 両意匠の差異点
(イ)本件登録意匠は,縦長形状の蓋部材の各角部が丸みを帯びた形状であるのに対して,甲第3号証では,縦長形状の蓋部材の縦長方向の端部が半円弧状である点で両意匠は相違する。
(ロ)本件登録意匠は,蓋部材の上下側の略中央には,外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている点で両意匠は相違する。
本件登録意匠と甲第3号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,信号灯,あるいは照明灯を支持するための支持用ポールであり,この支持用ポールの下部に設けられる開口部(点検口)に,蓋部材がボルトによって取り付けられることから,両意匠の正面からの形態が意匠の要部を構成するものである。
本件登録意匠の【X部分拡大正面図】と,甲第3号証の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」の設計図中の正面図に示されているように,正面から見た場合には,両意匠は蓋部材が縦長形状に形成され,かつボルトの取り付け箇所も殆んど変わらない形状になっている点が共通している。しかし,本件登録意匠では蓋部材の各角部が丸みを帯びた形状とされているのに対して,甲第3号証では,蓋部材の縦長方向の端部が円弧形状に形成されている点において異なるが,両意匠とも角部が無い点において共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,本件登録意匠の【参考図】と,甲第3号証の「内部通線式鋼管柱開口部参考構造図」の設計図中の正面図に示されているように,開口部は,両意匠とも縦長形状に形成されている点が共通している。そして,本件登録意匠の【参考図】及び【内部構造を省略したA-A断面図】と,甲第3号証の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」の設計図中の側面断面図に示されるように,開口部の縦長方向の端部中央位置には,長方形板状部材が互いに対向する方向に縦長の状態で突設され,円形状の穴が貫設されている点が共通している。
このことから,内部構造の具体的構成態様においても,両意匠は共通するものである。
また,本件登録意匠の【参考図】及び【内部構造を省略したA一A断面図】と,甲第3号証の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」の設計図中の側面断面図に示されるように,立ち上がり部材は,両意匠とも開口部の開口縁に沿って垂直状に突設された点も共通している。更に,両意匠とも蓋部材の外周縁に鍔部が垂直状に突設された点も共通している。
このことから,両意匠は側面から見た場合には,ポールの縦長方向に沿って開口部の開口縁に沿って立ち上がり部材が垂直状に突設され,この立ち上がり部材を覆うように外周縁に鍔部が垂直状に突設された蓋部材がボルトで取り付けられた形状となっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
一方,両意匠の差異点である,蓋部材の上下端部側の略中央には,外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている点では,蓋部材を正面から見た場合には,ボルトによる凹凸が出難いために窪みによる意匠的な違いの影響は殆んどない。また,側面から見た場合には,ボルトによる凹凸が出るが,蓋部材の大きさに対してボルトの占める割合が非常に小さいために,全体的な形状からの影響は殆んどない。このように,両意匠の差異点である窪みの有無が特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
したがって,本件登録意匠と甲第3号証の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」に開示される意匠とは,類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
(2)本件登録意匠と公知意匠(甲第4号証の(1))の形態の対比
本件登録意匠と甲第4号証の(1)の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 両意匠の共通点
(A)基本的構成態様につき,
正面から見た場合には,円筒形状のポールに,両者とも蓋部材が縦長形状に形成されると共に,ボルトの取り付け箇所も殆んど変わらないために,外観的形状では略同一形状である。
(B)各部の具体的構成態様につき,
(イ)蓋部材は,両者とも縦長形状に形成される点において略同一形状である。
(ロ)蓋部材の外周縁に鍔部が垂直状に突設される点において略同一形状である。
(ハ)立ち上がり部材は,ポールの外周縁に垂直状に突設されている点において略同一形状である。
イ 両意匠の差異点
(イ)本件登録意匠は,蓋部材の半円弧形状の端部の略中央には,外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている点で両意匠は相違する。
本件登録意匠と甲第4号証の(1)記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,信号灯,あるいは照明灯を支持するための支持用ポールであり,この支持用ポールの下部に設けられる開口部(点検口)に,蓋部材がボルトによって取り付けられることから,両意匠の正面からの形態が意匠の要部を構成するものである。
このことから,両意匠は側面,あるいは斜め方向から見た場合には,ポールの縦長方向に沿って開口部の開口縁に沿って立ち上がり部材が垂直状に突設され,この立ち上がり部材を覆うように外周縁に鍔部が垂直状に突設された蓋部材がボルトで取り付けられた形状となっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える具体的構成態様が共通するものである。
一方,両意匠の差異点である,蓋部材の縦長方向の端部の略中央には,外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている点では,蓋部材を正面から見た場合には,ボルトによる凹凸が出難いために窪みによる意匠的な違いの影響は殆んどない。また,側面から見た場合には,ボルトによる凹凸が全体的な形状からの影響は殆んどない。このように,両意匠の差異点である窪みの有無が特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
したがって,本件登録意匠と甲第4号証(1)に開示される意匠とは,類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
(3)本件登録意匠と公知意匠(甲第6号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第6号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 両意匠の共通点
(A)基本的構成態様につき,
正面から見た場合には,円筒形状のポールに,両者とも蓋部材が縦長形状に形成される点において共通している。
(B)各部の具体的構成態様につき,
(イ)蓋部材の各角部が丸みを帯びた縦長形状である点において共通している。
(ロ)開口部は,両者とも縦長形状に形成されている点において共通している。
(ハ)蓋部材の上部中央には外周縁が円形状,かつ底面が平面状とされた窪みが形成されている点において共通している。
イ 両意匠の差異点
(イ)本件登録意匠は,蓋部材の外周縁に鍔部が垂直状に突設されているのに対して,蓋部材の外周縁に鍔部が形成されていない点において両意匠は相違する。
(ロ)本件登録意匠は,開口部に立ち上がり部材が垂直状に突設されているのに対して,開口部に立ち上がり部材を形成しない点において両意匠は相違する。
(ハ)本件登録意匠は,蓋部材の上下部に窪みが形成されるのに対して,蓋部材の上部のみに窪みが形成される点において両意匠は相違する。
本件登録意匠と甲第6号証に記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,信号灯,あるいは照明灯を支持するための支持用ポールであり,この支持用ポールの下部に設けられる開口部(点検ロ)に,蓋部材がボルトによって取り付けられることから,両意匠の正面からの形態が意匠の要部を構成するものである。
また,本件登録意匠の【X部分拡大正面図】と,甲第6号証に示される蓋部材を正面から見た場合には,両意匠は蓋部材が縦長形状に形成されると共に,縦長方向の端部の角部が丸みを帯びた形状とされる点,及び蓋部材の窪みが形成された点が共通している。しかし,本件登録意匠では,窪みが蓋部材の上下側の2箇所であるのに対して,甲第6号証の蓋部材の窪みが上側の1箇所である点において異なるが,蓋部材の大きさに対して窪みの占める割合は非常に小さいために,意匠的な違いの影響は殆んどないものと思われ,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
したがって,本件登録意匠と甲第6号証の意匠とは,類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
(4)本件登録意匠と公知意匠(甲第7号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第7号証の公知意匠の形態については,以下の共通点が認められる。
両意匠の共通点
正面から見た場合には,円筒形状のポールに,両者とも蓋部材が縦長形状に形成される点において共通している。
本件登録意匠と甲第7号証に記載の意匠の共通点を検討すると,両意匠は,信号灯,あるいは照明灯を支持するための支持用ポールであり,この支持用ポールの下部に設けられる開口部(点検口)に,蓋部材がボルトによって取り付けられることから,両意匠の正面からの形態が意匠の要部を構成するものである。
また,本件登録意匠の【X部分拡大正面図】と,甲第7号証に示される蓋部材を正面から見た場合には,両意匠は蓋部材が縦長形状に形成されると共に,縦長方向の端部の角部が丸みを帯びた形状とされる点,及び蓋部材の窪みが形成された点が共通している。
したがって,本件登録意匠と甲第7号証の意匠とは,類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
(5)本件登録意匠と公知意匠(甲第3号証,甲第4号証の(1),甲第8号証ないし甲第12号証)の形態の対比
甲第8号証に係る物品は「ドア錠」であり,甲第9号証に係る物品は「キャビネット」であり,甲第10号証に係る物品は「ハンドル・蝶番」であり,甲第11号証に係る物品は「スイッチボックス」であり,甲第12号証に係る物品は「コンパクト型電子音報知器」であり,これらの甲第8号証?甲第12号証では,開口部を塞ぐ部材のネジが取り付けられる箇所に窪みが形成された意匠の一例を示すものである。
甲第8号証?甲第12号証で示されるように,本件登録意匠の出願前から,開口部を塞ぐ部材のネジが取り付けられる箇所に窪みを形成することは,甲第8号証?甲第12号証で示す他の部材で適用されているのが現状である。
このように,ネジを取り付ける箇所に,窪みを形成し,この窪みの底面にネジ穴を設けてネジを取り付けることは,本件登録意匠の出願前からの周知の設計的事項である。
したがって,甲第3号証及甲第4号証の(1)に示される蓋部材のネジが取り付けられる箇所に,甲第8号証?甲第12号証に示されるネジが取り付けられる箇所に窪みを形成することは当業者が容易に意匠を創作することができるものであり,本件登録意匠の蓋部材のネジが取り付けられる箇所に窪みを形成することは容易に創作することができるものであり,登録意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。

9 結び
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は意匠法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。


第4 被請求人の答弁及び理由の要点
特許庁より,被請求人に審判請求書を送付し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,被請求人からの応答はなかった。


第5 口頭審理
当審は,本件審判について,平成26年(2014年)12月9日に口頭審理を行った。(平成26年12月9日付け「第1回口頭審理調書」)

1 第1回口頭審理調書
(1)請求人
請求の趣旨及び理由は,審判請求書及び平成26年11月11日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。
審判請求書と上記口頭審理陳述要領書との間で齟齬がある記載について,削除又は訂正を行う。
(2)被請求人
請求人の陳述した削除及び訂正を認める。
甲第1号証ないし甲第16号証の成立を認める。
(3)審判長は,本件の審理を終結する旨を告げた。


第6 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は,物品の部分について意匠登録を受けたものであって,本願の願書の記載によれば,意匠に係る物品を「発光装置支持用ポール」とし,形態を,願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり,意匠に係る物品の説明を「本願意匠に係る物品は,照明灯や信号機において,照明用や信号用の発光装置を支持する発光装置支持用ポールである。」とし,意匠の説明を「実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(当審注:以下「本件部分」という。)である。一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」としたものである。(別紙第1参照)
(1)本件部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件部分は,縦長状の発光装置支持用ポールの一部であって,蓋部を有する前方突出部が設けられたものである。
(2)本件部分の形態
基本的構成態様として,以下の点が認められる。
ア 基本的構成態様について
全体が,略円柱状のポールであって,正面から見て,前方突出部は略縦長トラック形状であり,その前面に薄い縦長板状の蓋部が配されたものである。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
イ 前方突出部の形状について
正面から見て,上下が水平,左右が垂直,角部が略1/4円弧状の側壁によって形成されて内部が空洞になっており,平面及び側面から見て,側壁がポールに対して前方方向に僅かに突出している。
ウ 蓋部の形状について
正面から見て,上下が水平,左右が垂直,角部が略1/4円弧状に表されており,平面及び側面から見て,前方突出部の幅よりも一回り大きく表されている。
エ 蓋部の位置について
正面から見て,蓋部の横幅は,ポールの幅とほぼ同じである。
オ ボルト及び接合部の態様について
蓋部の上端寄り及び下端寄りに,円形の凹みが形成されて,その凹みに円形ボルトが挿通され,同ボルトの前端面が蓋部の前面と面一致状に表されており,同ボルトのねじ部が前方突出部側壁内周の上端及び下端に設けられた正面視略縦長長方形板状の受け具により支持されている。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件意匠登録の無効事由は,本件登録意匠が,意匠登録出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,甲第3号証に表された意匠に類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するので,同条同項の規定により,意匠登録を受けることができないものであるから,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由1」という。),同様に,本件登録意匠が,意匠登録出願前に公然知られた,甲第4号証の(1)に表された意匠に類似する意匠であるため無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由2」という。),甲第6号証に表された意匠に類似する意匠であるため無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由3」という。),及び甲第7号証に表された意匠に類似する意匠であるため無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由4」という。),並びに本件登録意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然知られた意匠である甲第3号証,甲第4号証,甲第6号証ないし甲第12号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたので,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件意匠登録は意匠法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由5」という。)である。

3 無効理由1の判断
本件登録意匠が,甲第3号証に表された意匠,具体的には,甲第3号証第53頁の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」に記載された意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲第3号証について
成立に争いのない甲第3号証(別紙第2参照)は,本件登録意匠の出願前,平成20年(2008年)10月14日に「神奈川県知事 松沢成文」が,工事番号「神交規81」の工事について条件付き一般競争入札を行ったときの「入札公告兼入札説明書」であって,神奈川県ホームページからダウンロードされたものである。甲第3号証第6頁に「工事別発注概要書」が記載され,工事番号「神交規81」,工事名「交通信号機改良等工事 改良11」についての設計図書がダウンロード可能であることが記されており,入札担当部署が「神奈川県警察本部総務部会計課調度第二係」とされている。
甲第3号証第33頁?第55頁には,その設計図書である「交通信号機改良等工事 改良11 仕様書」が掲載されており,同仕様書は,甲第3号証第33頁の記載により,平成20年10月に神奈川県警察本部により作成されたものであると認められる。同仕様書の一部に,「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」が掲載されており(甲第3号証第53頁),同図には,内部通線式鋼管柱の意匠が表されている。
(2)甲第3号証に表された意匠
甲第3号証に表された意匠は,具体的には,甲第3号証第53頁の「内部通線式鋼管柱開口部 参考構造図」に記載された意匠(意匠に係る物品は「内部通線式鋼管柱」。以下「甲3意匠」という。)であって,甲3意匠の本件部分に相当する部分(以下「甲3部分」という。)について類否判断の対象としたものである。
ア 甲3部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
甲3部分は,縦長状の発光装置支持用ポールの一部であって,蓋部を有する前方突出部が設けられたものである。
イ 甲3部分の形態
基本的構成態様として,以下の点が認められる。
なお,本件部分の向きに合わせて,甲3部分の向きを認定する。
(ア)基本的構成態様について
全体が,略円柱状のポールであって,正面から見て,前方突出部は略縦長トラック形状であり,その前面に薄い縦長板状の蓋部が配されたものである。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(イ)前方突出部の形状について
正面から見て,上下が略半円弧状で左右が垂直の側壁によって形成されて内部が空洞になっており,平面及び側面から見て,側壁がポールに対して前方方向に少し突出している。
(ウ)蓋部の形状について
正面から見て,上下が略半円弧状で左右が垂直に表されており,平面及び側面から見て,前方突出部の幅よりも一回り大きく表されている。
(エ)蓋部の位置について
正面から見て,蓋部の横幅は,ポールの幅よりも小さく表されている。
(オ)ボルト及び接合部の態様について
蓋部の上端寄り及び下端寄りに,小ボルトが挿通され,同ボルトの頭部が蓋部前面から突出しており,同ボルトのねじ部が前方突出部側壁内周の上端及び下端に設けられた正面視略半円形板状の受け具により支持されている。
(3)本件登録意匠と甲3意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「発光装置支持用ポール」であり,甲3意匠の意匠に係る物品は「内部通線式鋼管柱」であって,共に内部に配線を施すものであるから,本件登録意匠と甲3意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件部分と甲3部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件部分は,縦長状の発光装置支持用ポールの一部であって,蓋部を有する前方突出部が設けられたものであり,甲3部分も同様であるから,本件部分と甲3部分(以下「両部分」という。)の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
ウ 両部分の形態
両部分の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)共通点
両部分には,基本的構成態様として,以下の共通点が認められる。
(A)基本的構成態様について
両部分は,全体が,略円柱状のポールであって,正面から見て,前方突出部は略縦長トラック形状であり,その前面に薄い縦長板状の蓋部が配されたものである。
また,具体的態様として,以下の共通点が認められる。
(B)前方突出部の形状について
正面から見て,左右が垂直の側壁によって形成されて内部が空洞になっており,平面及び側面から見て,側壁がポールに対して前方方向に突出している。
(C)蓋部の形状について
正面から見て,左右が垂直に表されており,平面及び側面から見て,前方突出部の幅よりも一回り大きく表されている。
(D)ボルト及び接合部の態様について
蓋部の上端寄り及び下端寄りに,ボルトが挿通され,同ボルトのねじ部が前方突出部側壁内周の上端及び下端に設けられた受け具により支持されている。
(イ)差異点
一方,両部分には,具体的態様として,以下の差異点が認められる。
(a)前方突出部及び蓋部の形状について
正面から見て,本件部分の前方突出部側壁及び蓋部の上下が水平,角部が略1/4円弧状であるのに対して,甲3部分では,上下が略半円弧状である。
(b)突出の程度について
本件部分では,平面及び側面から見た側壁の突出が僅かであるのに対して,甲3部分では本件部分に比べて突出の程度が大きい。
(c)蓋部の横幅の差について
本件部分では,正面から見て蓋部の横幅がポールの幅とほぼ同じであるのに対して,甲3部分では本件部分に比べて蓋部の横幅が小さくなっている。
(d)ボルト及び接合部の形態について
本件部分では,ボルトの周囲の蓋部に円形の凹みが形成されて,ボルトの前端面が蓋部の前面と面一致状に表されているのに対して,甲3意匠ではそのような凹みはなく,ボルトの頭部が蓋部前面から突出している。また,本件部分の受け具が正面視略縦長長方形板状であるのに対して,甲3意匠のそれは正面視略半円形板状である。
(4)本件登録意匠と甲3意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
前記認定したとおり,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
ウ 形態の共通点の評価
発光装置支持用ポールの通常の使用状態,すなわち,屋外の道路脇に設置された状態において,看者が発光装置支持用ポールを観察するに当たっては,蓋部付きのその発光装置支持用ポールの全体を眺めることとなり,前方突出部と蓋部の形状について特に観察することとなる。
そうすると,両部分の共通点(A)ないし(C)で指摘した,基本的構成態様についての共通点や,前方突出部の形状及び蓋部の形状についての共通点は,発光装置支持用ポールの全体形状に係る共通点であるとともに,看者が特に観察する部位についての共通点であって,これらの共通点は,看者に対して視覚を通じてまとまった一つの美感を与えていることから,看者の注意を惹くというべきであり,両部分の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
エ 形態の差異点の評価
これに対して,前記認定した差異点(a)ないし(d)が両部分の類否判断に及ぼす影響は,以下のとおり評価され,上記共通点が看者に与える美感を覆すほどのものではない。
まず,差異点(a)の前方突出部及び蓋部の形状についての差異は,本件部分の角部の形状が略1/4円弧状であることから,上下が,水平部分と合わさって略半長円形状に看取し得るものになっており,上下が略半円弧状である甲3部分と比較した際に,この差異が両部分の視覚的印象を大きく異にする程のものであるとはいい難いので,差異点(a)が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に,差異点(b)の突出の程度についての差異は,本件部分と甲3部分の程度の差が僅かなものであって,看者が平面及び側面から見た側壁の部位のみに着目した場合はともかく,両部分を全体として比較した際には,それ程目立つ差であるとはいい難く,共に前方方向に突出している両部分の共通点に包摂される差異であるともいうべきであるから,差異点(b)が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また,差異点(c)の蓋部の横幅の差についても,本件部分と甲3部分の差は僅かなものであり,看者が両部分を正視して仔細に観察した場合はともかく,両部分を全体として比較した際にはそれ程目立たないことから,差異点(c)が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そして,差異点(d)のうち,ボルトの周囲の蓋部に円形の凹みが形成されてボルトの前端面が蓋部の前面と面一致状に表されているか否かの差異については,ボルトが施される面に凹みを形成してボルトの前端面をその面と面一致状にすることが,発光装置支持用ポールに限らずごく普通に行われる常套手段であるというべきであるから,看者は,本件部分のボルト周囲の凹みに対して特別に注目するとはいえない。また,本件部分の受け具が正面視略縦長長方形板状であるのに対して,甲3意匠の受け具が正面視半円形板状である差異についても,発光装置支持用ポールの通常の使用状態においては看者はその受け具を観察する機会がないことから,受け具の具体的形状に対して看者が殊更に注意を払うということはできない,したがって,差異点(d)が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(5)小括
そうすると,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲も共通しており,両部分の形態においても,共通点は,両部分の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対して,差異点は,いずれも両部分の類否判断に及ぼす影響が小さく,これらが相まって生じる視覚的効果を考慮しても,共通点が看者に与える美感を覆して,両部分を別異のものと印象付けるほどのものとはいえないから,本件登録意匠は,甲3意匠に類似するものと認められる。
したがって,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,同条同項の規定により,意匠登録を受けることができないものであって,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とされるべきであると,請求人が主張する無効理由(無効理由1)については,理由がある。


第7 むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,同項柱書の規定に違背して登録されたものであるから,その登録は,その余の点について審理するまでもなく,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2015-01-07 
出願番号 意願2010-22815(D2010-22815) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (D3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 繁和 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 綿貫 浩一
小林 裕和
登録日 2011-09-16 
登録番号 意匠登録第1425561号(D1425561) 
代理人 鮫島 武信 
代理人 遠藤 聡子 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 森田 靖之 

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