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審決分類 |
審判 B3 審判 B3 |
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管理番号 | 1306436 |
審判番号 | 無効2014-880013 |
総通号数 | 191 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2015-11-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-08-05 |
確定日 | 2015-09-24 |
意匠に係る物品 | ネックレス |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1453594号「ネックレス」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 請求人の申立及び理由 請求人は,平成26年8月5日付けの審判請求において,「登録第1453594号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1ないし8号証の書証を提出した。 1.意匠登録無効の理由の要点 (理由1) 本件登録意匠(登録第1453594号意匠)は,その出願日前に公知となっていた意匠(甲第1号証,甲第2号証)と同一または類似の意匠であるから,意匠法第3条第1項第1号または第3号に該当し,意匠法第48条第1項により無効とされるべきものである。 (理由2) 本件登録意匠は,その出願前に公知となっていた意匠(甲第5?8号証)に基づいて,いわゆる当業者が容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により登録を受けられない意匠に該当し,同法第48条第1項により無効とされるべきものである。 2.本件登録意匠を無効とすべき理由 (1)本件登録意匠の要旨 本件登録意匠は,意匠登録公報(別紙1)に示される通り,ネックレスの鎖を除いた部分(以下,「ペンダントトップ」と総称する)の部分意匠である。本件登録意匠は,i)ハート形状をモチーフとした真珠のペンダントトップ部分と,ii)縦長の舟形状の台座部分にダイヤモンドが縦に2個固着された支持部分とが接着固定されている。 支持部分の縦方向の長さ(以下,「高さ」という)と,真珠のペンダントトップ部分の高さは同等である。支持部分の幅は,真珠のペンダントトップ部分の幅の1/3程度となっている。支持部分は,ペンダントトップ部分のハート形の窪んだ箇所に接着されている。 ペンダントトップ部分は,ハート形であるため,全体に丸く柔らかな印象を与えるのに対し,支持部分は,舟形状であるため,どちらかと言えば,やや尖った印象を与えている。また,ペンダントトップ部分は,真珠の光沢により柔らかく落ち着いた印象を与えるのに対し,支持部分は,ダイヤモンドの強い輝きにより,鋭く明瞭な印象を与えている。 従って,ペンダントトップ部分と,支持部分は,全体として調和した意匠を構成するというよりは,むしろ,それぞれが同程度に要部をなしているといえ,それぞれが他方の美観を損ねることなく,個性の強い美観を与えているものと言える。 (2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明 (2-1)(理由1)について (ア)甲第1号証は,本件登録意匠の出願日2012年2月14日よりも前の2012年1月11日に,撮影したネックレスの写真である。この写真には,ハート形の真珠のペンダントトップ部分に,縦長の舟形状の支持部分か取り付けられた意匠が表されている。また,支持部分の高さは,ペンダントトップ部分とほぼ同等であり,支持部分の幅はペンダントトップ部分の幅の約1/3程度となっている。 (イ)甲第2号証は,甲第1号証の写真が2012年1月11日に撮影されたことを示す証明書である。甲第1号証に表された意匠に係る真珠ネックレスが,2012年1月11日には製造,販売されていたこと,即ち同日には公知となっていたことが示されている。 (ウ)甲第3号証は,陳述書である。これによれば,株式会社IRIS・PARURE(補強証拠として甲第4号証が存在する)は,宝石等の加工,デザイン,販売をしている会社であるから,本件登録意匠に係るネックレスのいわゆる当業者にあたることがわかる。そして,甲第3号証によれば,甲第1号証に表されたネックレスが,同社の取締役によってデザインされたことが分かり,しかも,そのデザイン自体,取引業者が有していた標準的な空枠を取り付けただけという容易な方法でなされたものであることが分かる。さらに,甲第1号証に表されたネックレスは,実際に売却されたことも記されている。甲第3号証に記された以上の事情,即ち甲第1号証に表されたネックレスがデザインされた背景事情,その後の売却に至るまでの詳細かつ具体的な経緯によれば,同ネックレスが「2012年1月11日」には公知になっていたことを表す事実(甲第1号証の写真に記録された日付,甲第2号証の証明書の信用性)は信用性が認められるべきものである。 (2-2)(理由2)について (ア)甲第5号証は,2011年8月18日時点におけるhttp://image.myroom.jp/r/ct-mistral/m/h-50500/084.htmlなるURLで表されるWebページの内容を示すWebアーカイブである。甲第5号証の上中央には,一般パールペンダントとして真珠のネックレスの写真が表されている。同ネックレスの拡大図を甲第5号証の2ページ目に付した。同写真のペンダントトップは,球状の真珠に縦長状の支持部分が取り付けられており,支持部分の高さと真珠の直径とがほぼ同等となっていることが分かる。従って,2011年8月18日の時点で,真珠に,ほぼ同等の高さを有する支持部分を取り付けることは比較的多く行われていたことが分かる。 (イ)甲第6号証の1ページ目は,2011年2月3日時点におけるhttp://www.amaminokagayaki.com/なるURLで表されるWebページの内容を示すWebアーカイブである。甲第6号証の上方には,「マベパールジュエリー」として,ハート形の真珠の写真が表されている。甲第6号証の2ページ目は,上述の「マペパールジュエリー」をクリックして表示されるWebページであり,2011年2月4日時点におけるhttp://www.amaminokagayaki.com/page/3なるURLで表されるWebページの内容を示すWebアーカイブである。ここには,「マペパールの特長」が記載されており,「形は円形を中心に,ドロップ形,ハート形など,様々な形の真珠をつくることができます。」と記載されている。このことから,2011年2月3日ないし同年同月4日の時点で,すでにハート形の真珠は公知となっていることが分かる。また,甲第6号証の1ページ目の上方において「マペパールジュエリー」に示されたハート形の真珠,および南洋真珠ジュエリーに示された金色の真珠には,それぞれ真珠の縦方向の高さと同程度の支持部分が取り付けられていることが分かる。従って,2011年2月3日の時点で,真珠に,ほぼ同等の高さを有する支持部分を取り付けることは比較的多く行われていたことが分かる。 (ウ)甲第7号証は,2011年10月9日時点におけるhttp://www.wsp.ne.jp/fs/pearls/13/akoya-pen-107/なるURLで表されるWebページの内容を示すWebアーカイブである。甲第7号証には,花珠なる商品名で真珠のネックレスの写真が表されている。同写真のペンダントトップは,球状の真珠に縦長のくさび形状の支持部分が取り付けられており,支持部分の高さと真珠の直径とがほぼ同等となっている。従って,2011年10月9日の時点で,真珠に,ほぼ同等の高さを有する支持部分を取り付けることは比較的多く行われていたことが分かる。 (エ)甲第8号証は,2011年11月28日時点におけるhttp://www.wsp.ne.jp/fs/pearls/13/akoya-pen-168/なるURLで表されるWebページの内容を示すWebアーカイブである。甲第8号証には,真珠のネックレスの写真が表されている。同写真のペンダントトップは,球状の真珠に縦長の舟形状のダイヤモンドを施した支持部分が取り付けられており,支持部分の高さと真珠の直径とがほぼ同等となっている。従って,2011年11月28日の時点で,真珠に,ほぼ同等の高さを有する支持部分を取り付けることは比較的多く行われていたことが分かる。 (3)本件登録意匠を無効とすべき理由1 本件登録意匠と,甲第1号証の写真に表されたネックレスの意匠(以下,「先行意匠1」という)とを比較する。両者は,いずれもペンダントトップを有するネックレスに係る意匠であり,物品は同一である。 本件登録意匠と先行意匠1とは,ハート形の真珠からなるペンダントトップ部分のハート形の窪んだ箇所に,縦長の舟形状の支持部分を接着固定している点で共通する。また,支持部分には,ダイヤモンドが縦に2個固着されている点でも共通する。支持部分の縦方向の長さ(以下,「高さ」という)と,真珠のペンダントトップ部分の高さは同等であり,支持部分の幅は,真珠のペンダントトップ部分の幅の1/3程度となっている点でも共通する。 従って,本件登録意匠は先行意匠1と同一の意匠である。本件登録意匠と先行意匠1との間に何らかの相違点が存在するとしても,それは微差に過ぎず,両者の美観を異なるものにするほど影響の大きい相違ではないから,少なくとも本件登録意匠は先行意匠1と類似の意匠であると言える。 甲第1号証?甲第3号証に示した通り,先行意匠1は,本件登録意匠の出願日である2012年2月14日よりも前の2012年1月11日に公知となっている。従って,本件登録意匠は,先行意匠1に基づき,本件登録意匠の出願前の公知意匠と同一の意匠(意匠法第3条第1項第1号)または類似する意匠(同項第3号)に該当することとなる。 よって,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。 (4)本件登録意匠を無効とすべき理由2 本件登録意匠の出願日以前に,ハート形の真珠は公知であった(甲第6号証)。 また,本件登録意匠の出願日以前に,真珠のペンダントトップ部分に支持部分を取り付けたペンダントトップは多数公知となっており(甲第5?8号証),特に,支持部分の高さと,真珠のペンダントトップ部分の高さが同等であるものも多数存在した(甲第5?8号証)。 さらに,支持部分の形状として,本件登録意匠と同じ,縦長の舟形状のものも知られていた(甲第8号証)。 そして,真珠のネックレスの産業分野では,真珠業者が養殖した真珠に,別の取引業者が有する「空枠」と呼ばれる支持部分を適宜,選択して取り付けることにより新たなネックレスをデザインする手法がとられていた(甲第3号証)。 以上より,甲第8号証に表された支持部分に,ハート形の真珠を取り付けることは,いわゆる当業者にとって容易になし得ることである。また,甲第5号証?甲第8号証に表されている通り,支持部分の高さとペンダントトップ部分の高さをほぼ同等にすることも容易になし得ることである。甲第8号証に表された支持部分にはダイヤモンドが3個あしらわれているが,ダイヤモンドの数を変えて本件登録意匠の支持部分とすることには何の創作性もない。 さらに,本件登録意匠は,「(1)本件登録意匠の要旨」で述べた通り,ペンダントトップ部分と,支持部分は,全体として調和した意匠を構成するというよりは,むしろ,それぞれが同程度に要部をなしているといえ,それぞれが他方の美観を損ねることなく,個性の強い美観を与えているものに過ぎない。つまり,本件登録意匠は,公知のハート形の真珠と,支持部分との寄せ集めに過ぎず,両者を取り付けることによって新たな美観を創出するものでもない。 以上より,本件登録意匠は,その出願前に公知であった意匠に基づき,いわゆる当業者が容易に創作し得た意匠に該当し,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができない意匠に相当する。 よって,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。 (5)むすび 以上で説明した通り,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号もしくは第3号,または同条第2項に違反して登録されたものと言えるから,意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。 3.証拠方法 (1)甲第1号証:写真(写し・原本は返却) (2)甲第2号証:証明書(写し・原本は返却) (3)甲第3号証:陳述書(写し・原本は返却) (4)甲第4号証:株式会社IRIS・PARUREの証明書(写し・原本は返却) (5)甲第5号証:WEBアーカイブ(写し・原本は返却) 本件登録意匠の出願前の2011年(平成23年)8月18日に,真珠のペンダントトップ部分とほぼ同サイズの縦長状の支持部分を有するネックレスが公知であったことを立証する。 (6)甲第6号証:WEBアーカイブ(写し・原本は返却) 本件登録意匠の出願前の2011年(平成23年)2月3日に,ハート形の真珠を用いたネックレス,及びペンダント部分とほぼ同サイズの支持部分を有するネックレスが公知であったことを立証する。 (7)甲第7号証:WEBアーカイブ(写し・原本は返却) 本件登録意匠の出願前の2011年(平成23年)10月9日に,真珠のペンダントトップ部分とほぼ同サイズでダイヤをあしらった支持部分を有するネックレスが公知であったことを立証する。 (8)甲第8号証:WEBアーカイブ(写し・原本は返却) 本件登録意匠の出願前の2011年(平成23年)11月28日に,真珠のペンダントトップ部分とほぼ同サイズでダイヤをあしらった縦長状の支持部分を有するネックレスが公知であったことを立証する。 第2 被請求人の答弁及び理由 1.答弁の趣旨 被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,「本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」旨の答弁をした。 2.答弁の理由 (1)本件登録意匠の特徴 本件意匠登録第1453594号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,その願書に記載のとおり,ネックレスの部分意匠であって,その形状,模様若しくは色彩またはこれらの結合(以下「形態」という。)は願書の記載及び願書に添付の写真に現されたとおりである。 すなわち,基本的構成態様として,ハートの形状をモチーフとした真珠のペンダントトップ部分と,縦長状の台座部分(空枠)にダイヤモンドが固着されて形成されたペンダントトップ部分の支持部分とが上下方向に接合された態様である。 一方,具体的構成態様として,ペンダントトップ部分の正面を表す拡大図に現されているように,支持部分の正面側には,縦長の楕円形で,上下両端の先端をとがらせたマーキスカットされた1個のダイヤモンドが空枠に固着されている。空枠の左右方向の長さ(幅)とダイヤモンドの幅とは,ペンダントトップ部分の正面を表す拡大図や,ペンダントトップ部分の平面を表す拡大図に現されているように,ほぼ同じである。 また,空枠の上側には,ペンダントトップ部分の右側側面図を表す拡大図やペンダントトップ部分の左側側面図を表す拡大図に現されているように,ネックレスのチェーンが通される孔が設けられている。この孔の径は,空枠からチェーンを脱着できないようにするために,チェーンの留め金具の外径よりも小さく形成されている。 さらに,空枠の側面視形状は,ペンダントトップ部分の右側側面図を表す拡大図やペンダントトップ部分の左側側面図を表す拡大図に現されているように,矩形である。 さらにまた,ペンダントトップ部分と支持部分とは,支持部分を構成する空枠に一体に設けられた針をペンダントトップ部分の頂部(ハートの形状の凹部の底面部分)に直に刺して,ペンダントトップ部分と空枠の接触部分を接着剤で接着して接合されている。 これら具体的構成態様は,ハートの形状のアコヤ真珠のペンダントトップ部分との美観の調和を考慮して,本件登録意匠の創作者が,独自に鋳造(キャスト)から製作した空枠の形態に基づくものである。 (2)意匠登録無効の理由1について 請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に公知の甲第1?2号証に記載された意匠と同一の意匠または類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第1号または同項第3号の意匠に該当する,と主張している。 しかし,甲第1?2号証には,物品の一方向からの不明瞭な画像が表示されているに過ぎず,同物品の形態を甲第1?2号証からは把握することができない。すなわち,甲第1?2号証には,本件登録意匠と同一の意匠または類似する意匠は表示されていない。 したがって,本件登録意匠は,甲第1?2号証に記載された意匠と同一の意匠ではなく,また,甲第1?2号証に記載された意匠とは類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第1号または同項第3号の意匠には該当せず,無効理由を有さない。すなわち,本件登録意匠は,理由1によっては,同法第48条第1項第1号に該当しない。 なお,請求人は,甲第3号証において,甲第1?2号証に記載された物品が本件意匠登録出願前に完成して販売されており,その後も継続して製造・販売されている,と主張する。仮に,請求人の主張のとおりであるならば,本件意匠登録出願前に完成して現在も製造・販売されている物品の現物,あるいは,本件登録意匠と対比可能な程度に明瞭な多方向から撮影された同物品の形態を把握可能な写真,さらには,本件意匠登録出願前の同物品の製造・販売の事実を示す物件の提出が可能なはずである。 (3)意匠登録無効の理由2について 請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に公知の甲第5?第8号証に記載された意匠から,いわゆる当業者が容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の意匠に該当する,と主張する。ここで,請求人は,甲第5?第8号証により,本件意匠登録出願前に真珠のペンダントトップ部分と支持部分の高さが同等であるものは公知であったこと,甲第6号証により,本件意匠登録出願前にハート型の真珠が公知であったこと,甲第8号証により,本件意匠登録出願前に支持部分の形状として本件登録意匠と同じものは公知であったこと,を主張した上で,本件登録意匠は公知のハート型の真珠と支持部分とを寄せ集めたに過ぎない,と主張する。 しかし,本件登録意匠は,その願書に添付の写真のペンダントトップ部分の正面を表す拡大図やペンダントトップ部分の背面を表す拡大図などに現されているとおり,ペンダントトップ部分と支持部分の高さは同等ではない。すなわち,本件登録意匠が掲載されている意匠公報の紙面上,本件登録意匠のペンダントトップ部分の高さは約40mmであるのに対して,支持部分の高さは約28mmとペンダントトップ部分の70%程度でしかなく,これらの高さは決して同等ではない。 また,請求人がハート型の真珠が記載されていると主張する甲第6号証には,甲第6号証にも記載のとおり半円形の真珠(正面側か球面で,背面側か平面の貝殻の張り合わせ)のマベパールが記載されているのであって,本件登録意匠のペンダントトップ部分の真珠とは形状が異なる。 さらに,請求人が本件登録意匠と同じ形状の支持部分が記載されていると主張する甲第8号証には,前述の特徴ある形状の支持部分は記載されていない。 このように,本件登録意匠のペンダントトップ部分と支持部分の形態は,甲第5?第8号証のいずれにも全く存在しない形態であるから,たとえ甲第5?第8号証に記載された意匠を寄せ集めたとしても,本件登録意匠の形態を導き出すことはできない。 したがって,本件登録意匠は,甲第5?第8号証に記載された意匠から,いわゆる当業者が容易に創作することができたものではなく,意匠法第3条第2項の意匠には該当せず,無効理由を有さない。すなわち,本件登録意匠は,理由2によっては,同法第48条第1項第1号に該当しない。 (4)むすび 以上の次第につき,答弁の趣旨どおりの審決を求める。 第3 請求人の弁駁 1.弁駁の理由 被請求人の主張に対し,請求人は,次の通り反論する。なお,以下の反論において指摘する引用箇所は,特記なき限り無効審判事件答弁書の該当箇所を意味する。 (1)「意匠登録無効の理由1について」(答弁書第3頁(2)) 被請求人は,甲第1号証および甲第2号証の写真の撮影日について争っていないから,同写真は,2012年1月11日に撮影されたものと認定されるべきである。 被請求人は,「甲第1?2号証には,物品の一方向からの不明瞭な画像が表示されているに過ぎず,同物品の形態を甲第1?2号証からは把握することができない」(答弁書第3頁(2)第2段落)と主張する。しかし,ネックレスは着用した状態の外観,即ち正面から見た状態の形態が美観において重要である。甲第1?2号証は,ネックレスの正面からの形態を表しており,ハート型のペンダントトップ部分も,舟形状の支持部分も認識することができ,支持部分にダイヤモンドが取り付けられていることも認識することができる。これらは本件登録意匠と同一または類似する形態である。従って,甲第1?2号証は,本件登録意匠と同一または類似する意匠を表していると言える。 なお,被請求人は,「仮に,請求人の主張のとおりであるならば,本件意匠登録出願前に完成して現在も製造・販売されている物品の現物」等の提出が可能であると述べるが(答弁書第4頁1段落),被請求人の言う現物を提出しても,本件意匠登録出願前に同物品が存在していたことの証拠にはならないのであるから,被請求人の上記主張は意味不明である。 また,被請求人は「本件意匠登録出願前の同物品の製造・販売の事実を示す物件の提出が可能なはずである」とも述べるが,請求人はかかる物件として甲第1?3号証を提出しているのであって,被請求人の同主張も意味不明である。 (2)「意匠登録無効の理由2について」(答弁書第4頁(3)) 被請求人は,「本件登録意匠のペンダントトップ部分の高さは約40mmである」と述べる(答弁書第4頁(3)2段落)。これは,甲第9号証に示す通り,舟形の支持部分の高さが28mmとなっており,ペンダントトップ部分の最大高さは39mmとなっていることを意味していると思われる。しかし,ペンダントトップ部分の中央部分の高さは35mmであり,拡大図においてすら支持部分とわずか7mmしか異ならない。そして,拡大図ですら,支持部分とペンダントトップのいずれか一方が他方に比べて明らかに大きいという印象を与えるものではなく,両者は,ほぼ同じ大きさという印象を与える。実際の物品は,拡大図よりもずっと小さいものであるから,支持部分およびペンダントトップ部分について,厳密に計測した高さの相違は,ほとんど影響を与えず,両者は同じ大きさという印象を与えると言える。 被請求人は,甲第6号証に記載されているのが半円形の真珠であると述べるが(答弁書第4頁最終行),ペンダントトップ部分は,正面から見た状態の形状が意匠としての形態に最も影響を与えるのであり,断面形状が形態に与える影響は小さい。甲第6号証にハート型の真珠が掲載されていることは明らかであり,これが本件意匠のペンダントトップ部分と同一または類似であることは明らかである。 被請求人は,甲第8号証に「前述の特徴ある形状の支持部分は記載されていない」と述べる(5頁第2段落)。被請求人の述べる特徴とは,1)「縦長状の台座部分(空枠)にダイヤモンドが固着されて形成されたペンダントトップ部分」(答弁書第2頁7(1)2段落),2)「支持部分の正面側には,縦長の楕円形で,上下両端の先端をとがらせたマーキスカットされた1個のダイヤモンドが空枠に固着」(答弁書同頁3段落),3)「空枠の上側には,・・・ネックレスのチェーンが通される孔」(答弁書第5頁4段落),4)「空枠の側面視形状は,・・・矩形」(答弁書同頁5段落)という点を意味しているものと推察される。 1)の主張につき,被請求人は,舟形という表現を避け,「空枠は縦長状」と述べるが,その表現はともかくとして,甲第8号証に掲載された支持部分の形状は本件意匠の空枠の形状と同一または類似の形状であることは明らかである。 2)の主張につき,被請求人は,「マーキスカットされた1個のダイヤモンド」と述べるが,このようなことは,願書の意匠の説明欄に記載されておらず,また出願時の意匠写真からも認識することはできない。意匠写真からは,2個のダイヤモンドが固着されているように見ることもできる。一方,甲第8号証の空枠にはダイヤモンドが縦に3個埋め込まれており,少なくとも空枠にダイヤモンドを埋め込む点では本件意匠と共通している。ダイヤモンドの個数を変えることは当業者が容易になし得ることであるから,仮に本件意匠のダイヤモンドがマーキスカットされた1個のダイヤモンドであるとしても,本件意匠の空枠部分は,甲第8号証と同一または類似,さらには甲第8号証に基づき容易に創作し得たものであると言える。 3)の主張については,甲第8号証も上側にチェーンが通っているから共通である。 4)の主張については,ネックレスは正面から見た形態が重要であるから,甲第8号証に側面視が表れされていないからといって,側面視が矩形であることを根拠に,本件意匠の空枠が甲第8号証と非類似であるとは言えないし,甲第8号証に基づいて側面視を矩形にすることは容易になし得るものと言える。 以上より,本件意匠のペンダントトップ部分および支持部分は,本件意匠の出願前に公知の意匠と同一若しくは類似,または当業者が容易に創作し得た意匠であるといえ,支持部分をペンダントトップ部分の中央に固定することも当業者が容易になし得ることであるから,本件意匠は,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができない。 2.証拠方法 甲第9号証:(証拠の標題) 意匠登録第1453594号公報抜粋(写し) (立証趣旨) ペンダントトップ部分および支持部分の寸法 第4 口頭審理 本件審判について,当審は,平成27年7月15日に口頭審理を行った。(平成27年7月15日付口頭審理調書)(口頭審理において,審判長は,両者に対して審理を終結する旨を告知した。) 請求人は,平成27年5月1日付けで証人尋問申出書を提出した。 1.請求人 口頭審理陳述要領書において,請求人は以下のとおり主張した。 1-1証拠および無効理由の取り下げについて (1)甲第1?4号証を取り下げる。また,平成27年5月1日付けの証人尋問申出書を取り下げる。(口頭審理において,証人尋問の申出は取り下げられ,証人尋問は行われなかった。) (2)審判請求書の請求の理由,(3)意匠登録無効の理由の要点に記載した理由1(甲第1号証,甲第2号証に基づく意匠法第3条第1項第1号または第3号による無効理由)を取り下げる。 1-2被請求人の口頭審理陳述要領書(平成27年6月15日付)について 被請求人は,「空枠の側面視形状が矩形ではなく,特に空枠の正面側の表面の形状が曲面の場合,縦型の空枠の表面に複数のダイヤモンドを固着させないと,空枠のほぼ全面にダイヤモンドの表面が現れる形態とはならない。このように本件空枠の側面視形状は,本件登録意匠の形態上の特徴,すなわち,本件登録意匠にかかわる物品であるネックレスの正面から見た形態を決定するものである。」(同要領書4頁4?5段落)と述べる。 上記主張は,「側面視形状が矩形ではなく・・・形態とはならない」の部分の当否はともかくとして,被請求人の結論として,正面から見た形態が本件登録意匠の形態上の特徴であることを認めているものである。 2.被請求人 口頭審理陳述要領書において,被請求人は以下のとおり主張した。 (1)意匠登録無効の理由1に関して 請求人は,平成27年4月13日付の審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)において,「甲第1?2号証は,ネックレスの正面からの形態を表しており,ハート型のペンダントトップ部分も,舟形状の支持部分も認識することができ,支持部分にダイヤモンドが取り付けられていることも認識することができる。」と主張する。 しかし,平成26年11月6日付の審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)で被請求人が主張したとおり,甲第1?2号証には物品の一方向からの不明瞭な画像が表示されているに過ぎず,甲第1?2号証には本件登録意匠と対比可能な意匠は現れていない。 また,請求人は,弁駁書において,「・・・被請求人の言う現物を提出しても,本件意匠登録出願前に同物品が存在していたことの証拠にならないのであるから,披請求人の上記主張は意味不明である。また,披請求人は『本件意匠登録出願前の同物品の製造・販売の事実を示す物件の提出が可能なはずである』とも述べるが,請求人はかかる物件として甲第1?3号証を提出しているのであって,被請求人の同主張も意味不明である。」と主張する。 その一方で,請求人は,甲第2号証をもって,甲第1号証は,製造・販売していた真珠ネックレスを写真撮影したものであり,甲第3号証をもって,甲第1?2号証は撮影者が代表取締役の株式会社IRIS・PARURE(以下「IRIS社」という。)が製造・販売している真珠ペンダントであり,この真珠ペンダントはIRIS社が製造した真珠に,IRIS社と取引のある業者が持っていた標準的な空枠から一つを選んで取り付けたものであり,現在も製造・販売している,と主張する。仮に,請求人のこの主張のとおりであるならば,請求人は,本件意匠登録出願前に甲第1号証で撮影されているIRIS社の商品(物品)に係る意匠が公知であったことを示す客観的な証拠として,「IRIS社が製造・販売している物品の現物」を「本件登録意匠と類似することを示す客観的な証拠」として提出することができ,また,「同物品で使用されている空枠・空枠に埋め込まれたダイヤモンド・空枠に挿通されたチェーンやチェーンの留め金具の型名や仕入の実績を示す伝票類など」を「同物品が本件意匠登録出願前に製造・販売されていたことを示す客観的な証拠」として提出することができるはずである。 しかるに,請求人は,前述のとおり,本件登録意匠と対比すべき意匠が特定できない甲第1?3号証のみを理由1の証拠としている。しかも,請求人は,そもそも撮影した画像データである甲第1号証について,証明書(甲第2号証)と陳述書(甲第3号証)のみを提出するにとどまり,同画像データ(電子データ)の撮影日や撮影後に画像データが編集されていないことを証明する第三者の証明書など,甲第1号証の証拠能力を明らかにする事実を示していない。 以上のとおり,請求人の前述の主張はいずれも当を得ないものである。 (2)意匠登録無効の理由2に関して 本件登録意匠は,答弁書の「理由」の「(1)本件登録意匠の特徴」に記載のとおり,ハートの形状のアコヤ真珠のペンダントトップ部分との美観の調和を考慮して,本件登録意匠の創作者が独自に鋳造(キャスト)から製作した空枠(以下「本件空枠」という。)の形態に基づくものである。すなわち,本件空枠の側面視形状は,矩形である。本件空枠の側面視形状が矩形であるため,本件空枠の正面側に固着された正面視縦長の1個のダイヤモンドの表面全体がネックレスの正面側に現れる。つまり,本件登録意匠は,請求人が弁駁書において,「ネックレスは着用した状態の外観,即ち正面から見た状態の形態が美観において重要である。」と主張するネックレスの正面であって本件空枠の正面のほぼ全面に縦長の1個のダイヤモンドの表面全体が現れる形態である。 ここで,空枠の側面視形状が矩形ではなく,特に空枠の正面側の表面の形状が曲面の場合,ダイヤモンドの背面側は平面または背面側に凸であるから,空枠の正面のぼぼ全面に縦長の1個のダイヤモンドを固着させることはできず,縦長の1個のダイヤモンドの表面全体がネックレスの正面側に現れる形態とはならない。換言すれば,空枠の正面側の表面の形状が曲面の場合,縦長の空枠の表面に複数のダイヤモンドを固着させないと,空枠のほぼ全面にダイヤモンドの表面が現れる形態とはならない。 このように,本件空枠の側面視形状は,本件登録意匠の形態上の特徴,すなわち,本件登録意匠に係る物品であるネックレスの正面から見た形態を決定するものである。 一方,理由2の証拠として請求人が主張する甲第5?8号証のいずれにも,側面視形状が矩形の空枠は示されていない。 ここで,請求人は,弁駁書において,「ネックレスは正面から見た形態が重要であるから,甲8号証に側面視が表されていないからといって,側面視が矩形であることを根拠に,本件意匠の空枠が甲8号証と非類似であるとは言えないし,甲8号証に基づいて側面視を矩形にすることは容易になし得るものと言える。」と主張する。 しかし前述のとおり,本件空枠の側面視形状は,本件登録意匠の形態上の特徴を決定するものである。また,甲第8号証には,本件登録意匠のようなハートの形状とは異なる球状の真珠に,ドーナツ状のいわゆる丸カンを取り付け,この丸カンに正面視縦長で舟形の形状をした空枠の下端側が連結されたものである。ドーナツ状の丸カンに連結される舟形の形状をした空枠の側面視は,空枠の下端側で丸カンが前後方向(正面と背面を結ぶ方向)に移動しないように,上端側から下端側に向けてV字状であると推認される。すなわち,甲第8号証のネックレスにおいて,側面視が矩形の空枠を用いることは,丸カンで連結された甲第8号証のネックレスにおいて採用し得ない。 前述の請求人の主張は,これらの点を看過してなされたものであり,失当である。 3.口頭審理調書 (1)請求人 請求の趣旨及び理由は,審判請求書及び請求人平成27年4月13日付け弁駁書並びに平成27年6月30日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。 (2)被請求人 答弁の趣旨及び理由は,平成26年11月6日付け答弁書,及び平成27年6月15日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。 請求人の無効理由1及び証拠の甲第1ないし4号証の取下げを認めない。 (3)審判長 本件の審理を終結する。 第5 当審の判断 当審は,本件登録意匠が本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である甲第1号証及び甲第2号証に記載された意匠と同一又は類似(無効理由1)しない意匠であり,意匠法第3条第1項第1号及び意匠法第3条第1項第3号には該当しないと判断する。 また,本件登録意匠が甲第5号証ないし甲第8号証に基づいて容易に創作することができたもの(無効理由2)ともいえないので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項に違反して意匠登録を受けたものということはできないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1.本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1453594号の意匠)は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして平成24年2月14日に意匠登録出願され,平成24年9月21日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「ネックレス」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたとおりのものであって,「図面代用写真において,赤色に塗りつぶした部分以外が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。(以下,本件登録意匠について,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本件部分意匠」という。)その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたとおりのものである。(別紙第1参照) 平成24年2月17日付けの(意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして提出された)「意匠の新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」によれば,リードエグジビションジャパン株式会社主催により,平成24年1月11日?14日の期間中,東京国際展示場の「第23回国際宝飾展」において,本件部分意匠と同一と推認される意匠が株式会社浅間真珠によって展示されていたことが示されている。 すなわち,本件部分意匠は,ネックレスの装飾部であるペンダントヘッド部分であり,下方の真珠部(以下,「真珠部」という。)と上方の支持部(以下,「支持部」という。)とから構成されるものである。 その形態は,正面視ハート形状の真珠部の上部に,チェーンを通すための正面視縦長舟形の支持部を設けた構成で,側面視すると真珠部の中央が大きく前後方向に膨出した略楕円形状で,真珠部の厚みを支持部の厚みより厚く形成したものである。 真珠部は,正面視,丸みを帯びたハート形状で,真珠部の縦横比は概ね1:1でわずかに横長である。 支持部は,正面視が縦長舟形で側面視が縦長長方形状の枠状で,正面視中央に縦長舟形のいわゆるマーキスカットを施された1個のダイヤモンドがはめ込まれ,その上下を小型のかぎ爪状部分(以下,「爪部」という。)で挟み込み,側面視中央に縦長小判形状の貫通孔が設けられているものである。 支持部は,正面視の最大横幅と高さの比が約1:2.5であり,全体の高さに対する支持部の高さ比が約1:0.4で,平面視した形状が縦長の略剣菱形状で,正面視の最大横幅は真珠部の最大横幅の約1/4であり,真珠部の正面視上方中央の窪んだ部分に支持部の舟形状の下端部が接着されているものである。 2.無効理由1について (1)甲第1号証(別紙第2参照)及び甲第2号証の意匠(以下,「引用意匠1」という。) 引用意匠1の意匠は,本件登録意匠の出願日である平成24年(2012年)2月14日より前の平成24年(2012年)1月11日に,撮影されたというネックレスの写真である。この写真には,ハート形状の真珠部と縦長の舟形の支持部を有するペンダントヘッド部分の頂部にチェーンが通されたものが,現れている。2012.01.11 16:04と左側下方に日付及び時刻と推認される表示が印刷されている。写真においてペンダントトップ部分の全体の真珠部の高さと支持部分の高さは,ほぼ同等程度であり,支持部分の最大横幅は真珠部の横幅の約1/4程度となっている。 甲第2号証は,甲第1号証の写真が2012年(平成24年)1月11日に撮影されたことを示す証明書として署名捺印が施されたものである。請求人は,甲第1号証に現された意匠に係る真珠ネックレスが,2012年(平成24年)1月11日には製造,販売されていたこと,即ち同日には公知となっていたことが示されている旨主張している。 口頭審理の審理事項通知においても,合議体から請求人に対して,甲第1号証及び甲第2号証について,本件登録意匠の出願前に既に公知となっていたとされる意匠を現した写真がいつ,どこで撮影されたものなのか,すなわち,その意匠がいつ,どこで公然知られたものであるのか,また,公然知られた場所が催事場や展示場等であるならば,催事や展示等の期間や主催者,誰が出展したのかについて,客観的な証拠を提示して明確にするよう示唆し,さらに,甲第1号証及び甲第2号証について,鮮明で側面なども見える大きな写真を提出するよう示唆した。 しかしながら,請求人からは,証人尋問をする旨の証人尋問申請書及び尋問事項書の提出がなされたのみであって,公開した者や場所についての主張立証は何もなされず,また,口頭審理において,証人尋問の申出は取り下げられ,公開した者や場所の立証については,結局,なされていないままである。 そして,請求人の口頭審理陳述要領書において,請求人は無効理由1について取り下げ,証拠の甲第1号証から甲第4号証を取り下げる旨,主張されたが,被請求人からの同意は得られなかった。 本件登録意匠は,意匠法第4条第2項の適用申請がなされて意匠登録出願がされたものであり,上述した展示期間中の2012年(平成24年)1月11日に公知となっていたとしても,それは不自然なことではないと考えられる。 さらに,引用意匠1である甲第1号証及び甲第2号証の意匠は,ペンダントヘッド部分が写真において全体の高さが本件登録意匠の拡大図の約1/2程度と小さく,不鮮明な正面のみの写真である。引用意匠1の意匠には側面図がなく,特に支持部の側面形状が不明であり,また,真珠部の厚みも不明であり,その形状が明確なものとはいえず,本件部分意匠であるペンダントヘッド部分が公然知られていることの証拠としては,不十分なものである。したがって,本件部分意匠は,引用意匠1の本件部分意匠に相当する引用意匠部分と同一又は類似するものであるとはいえず,無効理由1である意匠法第3条1項1号及び意匠法第3条1項3号には該当しないものであるというほかない。 (2)小括 したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた甲第1号証及び甲第2号証(無効理由1)に記載された引用意匠1の引用意匠部分と同一とはいえず,また類似するものともいえない意匠であり,意匠法第3条1項1号及び意匠法第3条第1項第3号には該当せず,無効理由を有さないものであって,本件登録意匠は,無効理由1によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。 3.無効理由2について 請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公知となっていた甲第5号証から甲第8号証に基づいて容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項に該当することにより意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。 (1)甲第5号証の意匠(以下,「引用意匠2」という。)(別紙第3参照) 引用意匠2は,インターネットアーカイブによって,2011年(平成23年)8月18日に公開されていたことが示されている。真珠部と縦長の支持部とがほぼ同サイズのペンダントヘッド部分が本件登録意匠の出願前に公知であったことが示されている。真珠部は球状で,支持部は細い逆しずく形状である。真珠部と縦長の支持部はほぼ縦の長さが同じであるが真珠部の方がわずかに長い。 本件登録意匠と引用意匠2とは,(ア)真珠部の形状,(イ)支持部の形状,に主な差異が認められる。 (2)甲第6号証の意匠(以下,「引用意匠3」という。)(別紙第4参照) 引用意匠3は,インターネットアーカイブによって,2011年(平成23年)2月3日に公開されていたことが示されている。真珠部と縦長の支持部を有するペンダントヘッド部分が本件登録意匠の出願前に公知であったことが示されている。真珠部はハート形状で,支持部は縦長状ではあるが,途中で途切れて現されており,長さが明確ではない。 本件登録意匠と引用意匠3とは,(ア)真珠部の形状(本件登録意匠では全体に丸みを帯びているのに,引用意匠3では半円状で裏側が平坦状で,ハート自体の形状も一致していない。)(イ)支持部の形状(引用意匠3では,全体が明確ではない。),に主な差異が認められる。 (3)甲第7号証の意匠(以下,「引用意匠4」という。)(別紙第5参照) 引用意匠4は,インターネットアーカイブによって,2011年(平成23年)10月9日に公開されていたことが示されている。真珠部と縦長の支持部とがほぼ同サイズでダイヤモンドをはめ込んだペンダントヘッド部分が本件登録意匠の出願前に公知であったことが示されている。真珠部は球状で,支持部とは台座を有する環状の接続部で接続され,支持部は細い略逆三角形状である。真珠部と縦長の支持部はほぼ縦の長さが同じであるが真珠部の方がわずかに長い。支持部には正面中央に円形状のダイヤモンドがはめ込まれている。 本件登録意匠と引用意匠4とは,(ア)真珠部の形状,(イ)支持部の形状及び正面の態様,(ウ)環状接続部の有無,に主な差異が認められる。 (4)甲第8号証の意匠(以下,「引用意匠5」という。)(別紙第6参照) 引用意匠5は,インターネットアーカイブによって,2011年(平成23年)11月28日に公開されていたことが示されている。真珠部と縦長の支持部とがほぼ同サイズでダイヤモンドをはめ込んだペンダントヘッド部分が,本件登録意匠の出願前に公知であったことが示されている。真珠部は球状で,支持部とは台座を有する環状の接続部で接続され,支持部は舟形状である。真珠部と縦長の支持部はほぼ縦の長さが同じであるが支持部の方がわずかに長い。支持部には正面に3個の円形状のダイヤモンドが縦一列にはめ込まれている。 本件登録意匠と引用意匠5とは,(ア)真珠部の形状,(イ)支持部の正面の態様,(ウ)環状接続部の有無,に主な差異が認められる。 請求人は,引用意匠3のハート形状の真珠に引用意匠5の縦長の舟形状の支持部を取り付けることは,当業者にとって容易になし得ることであると主張する。また,引用意匠5のダイヤモンドの数を変えることに何の創作性もないと主張し,本件登録意匠は,公知のハート形状の真珠と,舟形状の支持部との寄せ集めに過ぎず,両者を取り付けることによって新たな美感を創出するものでもないと主張する。 確かに,真珠部をハート形状にすることについては,この種の物品分野において,本件登録意匠の出願前から,この種のネックレスなどの身体装飾品の分野では,既に見られるものであり,また,正面形状が縦長の舟形状の支持部や支持部にダイヤモンドをはめ込むことも,既に過去から普通に行われている態様であるといえるものである。それらの一つ一つについては,それらを本件登録意匠のものと同様のものとする点に格別の創作を要するものとはいえないものである。 しかしながら,本件登録意匠と引用意匠3の真珠部とは,その側面の厚みや正面視の丸みなどの具体的な態様が異なり,また,本件登録意匠と引用意匠5の支持部とは,ダイヤモンドの形状や数,側面の態様が異なり,さらに引用意匠5には真珠部と支持部とが環状接続部によって接続されており,引用意匠3の真珠部に引用意匠5の支持部を取り付けたとしても,本件登録意匠の態様を導き出すことはできない。本件登録意匠のペンダントヘッド部分とするためには,まず,引用意匠3の真珠部を厚みのある側面視が略楕円形状のものとし,ハート形状の丸みも左右に広い丸みのあるものとしなければならず,その上,引用意匠5の支持部から環状接続部をはずし,正面の3個のダイヤモンドをはずし,正面の上下に爪部を設けて舟形状のマーキスカットされたダイヤモンドをはめ込み,ハート形状の真珠部の上方中央の窪み部分に直接支持部を接続しなければならず,まず,引用意匠3の形状を変更し,引用意匠5の態様を様々な部位において変更してから,さらに引用意匠5の環状接続部をはずして組み合わせることとなり,本件登録意匠の本件意匠部分は,引用意匠3の真珠部に引用意匠5の支持部を組み合わせ,単に取り付けたまでのものとは到底言うことができず,本件部分意匠の態様を容易に導き出すことはできないものである。 そうすると,本件部分意匠は,真珠部の具体的な態様や支持部の正面及び側面の具体的態様により,本件部分意匠独自の態様を持つものといえるものであるから,このような本件部分意匠を有する本件登録意匠は,引用意匠2ないし引用意匠5に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことはできない。 (5)小括 したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,公知の引用意匠2ないし引用意匠5に基づいて容易に創作することができたものとは認められず,意匠法第3条第2項の規定には該当せず,無効理由を有さないものであって,本件登録意匠は,無効理由2によっても,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。 第6 むすび 以上のとおりであって,本件登録意匠は,無効理由1によっては,意匠法第3条第1項1号及び意匠法第3条第1項3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。 また,請求人の主張する無効理由2によっては,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず,意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2015-08-10 |
出願番号 | 意願2012-3036(D2012-3036) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Y
(B3)
D 1 113・ 121- Y (B3) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 前畑 さおり |
特許庁審判長 |
小林 裕和 |
特許庁審判官 |
江塚 尚弘 斉藤 孝恵 |
登録日 | 2012-09-21 |
登録番号 | 意匠登録第1453594号(D1453594) |
代理人 | 西村 啓一 |
代理人 | 加藤 光宏 |