ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 判定 属さない(申立成立) J7 |
---|---|
管理番号 | 1315717 |
判定請求番号 | 判定2014-600022 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2014-05-29 |
確定日 | 2016-06-24 |
意匠に係る物品 | マッサージ具 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1436400号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠の図面、見本及びその説明により示された「マッサージ具」の意匠は,登録第1436400号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 判定請求人の請求趣旨及び請求理由 1.請求主旨 イ号意匠は,登録第1436400号の登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める。 2.請求理由 (1)判定の必要性 本件判定被請求人は,別紙第1(判定請求書添付)の意匠公報に示すとおり,登録第1436400号登録意匠(以下,本件登録意匠という。)に係る意匠権者である(甲第1号証)。 本件判定請求人は,自己が製造・販売している別紙第2(判定請求書添付)のイ号物件目録および別紙第3(判定請求書添付)のイ号図面に掲げる「ローラ付きカッサプレート」(以下,イ号意匠という。)に対し,被請求人から,本件登録意匠にかかる意匠権を侵害する旨の警告書が郵送されてきた(甲第2号証の1)。 これに対し,本件判定請求人は非侵害である旨を回答し(甲第2号証の2),その後,請求人および被請求人による協議の結果,特許庁の判定結果を尊重して紛争を解決することで合意した。 上記のような事情により,請求人は,特許庁による厳正中立的な立場からの判定により,イ号意匠が,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,ことを明確にしたいので,判定を求めるものである。 (2)本件登録意匠の手続の経緯(甲第1号証参照) 出願日 平成23年8月11日 出願番号 意願2011-18406号 登録日 平成24年2月17日 登録番号 第1436400号 意匠に係る物品 マッサージ具 出願の種類 部分意匠 (3)本件登録意匠の説明 本件登録意匠は,別紙第1の意匠公報に示すとおり,意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,部分意匠として登録されたものであり,その形態は,器具本体と複数個の円柱状ローラとからなり,器具本体が横長四角形状であって,正面視で,上下対辺(長辺)の比が下辺8:上辺9,左右の対辺(短辺)の比が左辺3.5:右辺4.5であり,各辺はその中央部が最も凹んだ緩やかな凹状曲線を描き,また,複数個の円柱状口-ラ(コロ)は器具本体の下辺に等間隔に配置され,さらに四角形状の各角部が丸みを帯びた突状とされ,そのうち上辺の右角部が他の角部の曲率半径よりも4倍程度の大きな曲率半径で緩やかなR形状を描いた外観形状となっており,さらに,左右の側面図に示すとおり,器具本体は上辺部がローラの直径よりもやや小幅で,上辺側から下辺側に向かって徐々に薄く形成されているところが特徴的である。なお,器具本体の各辺の上下左右の名称は正面図の各辺の位置に基づいて定めている。 (4)イ号意匠の説明 一方,イ号意匠は,イ号物件目録およびイ号図面に示すとおり,意匠に係る物品が「ローラ付きマッサージ具」であり,商品名「ローラ付きカッサプレート」として製造・販売しており,その形態が,器具本体と複数個の円柱状ローラとからなり,器具本体が白色,またローラが薄青色であり,さらに,器具本体が略台形形状であり,正面視で,上下対辺(長辺)の比が下辺12:上辺8,左右の対辺(短辺)の比が左辺7:右辺6であり,上下各辺の中央部が最も凹んだ緩やかな凹状曲線を描き,下辺に複数個(5個)の円柱状ローラ(コロ)が等間隔で配置され,器具本体の4つの角部が丸みを帯びた突状とされ,正面視で右辺が外側に凸状に湾曲しているのに対し,左辺は,凹状に凹み,かつ下辺が上辺よりも極端に長いため,その左下の角部が極端に左側に突出した形状になっており,さらに,左右の側面図に示すとおり,器具本体は上辺部がローラの直径よりもやや小幅な厚みであるが,上辺側から下辺側にかけて同じ厚みに形成されている。なお,器具本体の各辺の上下左右の名称は正面図の各辺の位置に基づいて定めている。 (5)両意匠の対比 本件登録意匠に係る物品は「マッサージ具」である一方,イ号意匠に係る物品は,「ローラ付きカッサプレート」であるが,手に持って器具本体の外郭でマッサージ(指圧)を行うようにして使用することを考えれば,両意匠に係る物品はその用途および機能が同一であり,両意匠の物品が共通するものである。 一方,両意匠の形態については,以下の共通点と差異点がある。 [共通点] (A)器具本体が横長四角形状であって,下辺に沿って複数個の円柱状ローラが配置されている点, (B)器具本体の各角部が丸みを帯びた突状とされている点, (C)上下の対辺および左辺がその中央部で最も凹んだ凹状曲線を描いている点, で共通する。 [差異点] 一方,各部の具体的態様において,概ね,以下の形態上の差異がある。 (ア)下辺の長さについて,本件登録意匠が,正面視で,上辺が下辺よりも9:8の比で長いのに対し,イ号意匠は,正面視で上辺が下辺に対して8:12の比であり,下辺が上辺の1.5倍程度長くなっている点, (イ)左辺の形状について,本件登録意匠が,左辺の凹状曲線が緩やかな曲線であるのに対し,イ号意匠では,深く括れた凹状曲線となっている点, (ウ)上辺の形状について,本件登録意匠では上辺が右側から左側にかけて下り傾斜とされ,かつ凹状曲線が緩やかな曲線を描くのに対し,イ号意匠では上辺がほぼ水平で,かつ凹状曲線の中央部が深く括れている点, (エ)上辺の右角部の形状について,本件登録意匠では,他の角部の曲率半径よりも4倍程度の大きな曲率半径で緩やかなR形状を描いているのに対して,イ号意匠では,その他の角度の曲率半径に対して2倍程度の曲率半径に過ぎない点, (オ)右辺の形状について,本件登録意匠では,右辺がその中央部で最も凹んだ緩やかな凹状曲線を描いているのに対し,イ号意匠では,右辺が凸状の湾曲形状となっている点, (力)器具本体の厚みは,本件登録意匠では,上辺側から下辺側にかけて徐々に薄くしているのに対し,イ号意匠では,上辺側から下辺側にかけて同じ厚みに形成されている点, (キ)ローラについて,本件登録意匠では,周面が平滑な4個ローラが配置されているのに対し,イ号意匠では,周面に複数の突部が突出され,かつ5個のローラが配置されている点, (ク)ローラと器具本体との着色について,本件登録意匠では,器具本体およびローラが共に無着色であるのに対し,イ号意匠では,器具本体が白色,ローラが薄青色とされ,両者間にコントラストが着いている点。 (6)参考意匠 本件意匠の要部を認定するため次の参考意匠を挙げる。 6-1)意匠登録第1436399号(参考意匠1:甲第3号証) 参考意匠1は,本件登録意匠と同日に出願された部分意匠であって,本件登録意匠と非類似の独立した意匠として登録されたものである。参考意匠1は,その意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,その形態は,横長略四角形状の器具本体の下辺に3個の円柱状ローラ(コロ)が等間隔に配置され,正面視において,上下対辺(長辺)の比が下辺10:上辺8であり上辺が下辺に対して短く形成され,また,左右の対辺(短辺)はその長さがほぼ同じであるが,下辺側がハの字に開いた形状をなし,右辺を除いて三辺はその中央部が最も凹んだ緩やかな凹状曲線を描き,右辺はこれら三辺とは反対に外側に凸状に湾曲し,さらに,下辺両側の角部は丸みを帯びたR形状とされているのに対し,上辺の左側角部は丸みを帯びたへの字形状とされ,上辺の右側角部が下辺の角部の曲率半径よりも相当大きな曲率半径で緩やかなR形状を描いた外観形状となっている。 6-2)意匠登録第1454227号(参考意匠2:甲第4号証) 参考意匠2は,本件登録意匠よりも後に出願された部分意匠であって,本件登録意匠と非類似の独立した意匠として登録されたものである。参考意匠2は,その意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,その形態は,縦長略四角形状の器具本体の下辺に2個の円柱状ローラ(コロ)が並列配置され,正面視において,下辺を除く他の三辺はその中央部が最も凹んだ凹状曲線を描いている。 6-3)意匠登録第1470569号(参考意匠3:甲第5号証) 参考意匠3は,本件登録意匠よりも後に出願され,本件登録意匠と非類似の独立した意匠として登録されたものである。参考意匠3は,その意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,その形態は,扁平な横長なすび形状の器具本体の下辺に3個のローラ(複数枚の羽根付きローラ)が並列配置され,なすび形状の先端につぼ押し用のボール部が突出された態様となっている。 (7)先行公知意匠 さらに,本件意匠の要部を認定するため次の先行公知意匠を挙げる。 7-1)意匠登録第1215132号(先行意匠1:甲第6号証) 先行意匠1は,その意匠に係る物品を「指圧器」とし,その形態は,略三角形状の器具本体の下辺の凹部に2個のローラ(コロ)が並列配置された態様となっている。 7-2)意匠登録第1301906号(先行意匠2 :甲第7号証) 先行意匠2は,その意匠に係る物品を「按摩器」とし,その形態は,略横長四角形状の器具本体の下辺を緩やかな凸曲線状に形成し,その下辺に複数個のローラ(コロ)が間隔をおいて配置された態様となっている。 7-3)意匠登録第806690号の類似1(先行意匠3:甲第8号証) 先行意匠3は,その意匠に係る物品を「マッサージ器」とし,その形態は,略横長四角形状の器具本体の下辺に複数個(3個)のローラが間隔をおいて配置された態様となっている。 7-4)意匠登録第845698号(先行意匠4:甲第9号証) 先行意匠4は,その意匠に係る物品を「マッサージ器」とし,その形態は,半円弧状で両端支持部が球状の器具本体において,両端支持部間に複数のローラを回転自在に配置した態様となっている。 7-5)意匠登録第1347243号(先行意匠5:甲第10号証) 先行意匠5は,その意匠に係る物品を「美顔用マッサージ具」とし,その形態は,四隅の角部が丸みを帯びた略四角形状とされ,右辺側は外側に突出する円弧状とされ,左辺では中央部が窪んだ略Y字形の凹状曲線となっている。 (8)両意匠の類否判断 8-1)類否判断手法 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。したがって,その判断に当たっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意を惹き付ける部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。 本件の場合,この種マッサージ器具は,器具本体を手につかんで身体をマッサージするもので,古来から中国で行われてきた「刮▲さ▼(「病垂」の中に「沙」)療法」(かっさりょうほう)に使用する物品である。「刮」はけずる,「▲さ▼」は動けなくて滞っている血液を指す。かっさプレートという専用板を使用して皮膚の経絡などを擦って刺激し,毛細血管に圧を加えて血液の毒を肌表面に押し出し,経絡の流れを良くする。したがって,器具本体の外観形状(各辺の形状)はローラの存在と共に看者の最も注意を惹く部分であり,これらの部材のわずかな形状の差異は看者に別異の意匠として認識されるものである。 8-2)意匠の共通点・差異点の評価 そこで,両意匠の共通点および差異点が両意匠の類否判断に与える影響を評価してみると,共通点である,(A)器具本体の下辺に複数個のローラを配列する点,(B)器具本体の隅丸角部,(C)凹状曲線の辺は,先行公知意匠に見られるように,ごく普通に用いられるものであるので,類否判断に及ぼす影響力が小さいものである。 一方,器具本体の外郭である,(ア)下辺,(イ)左辺,(ウ)上辺,(工)右角部,(オ)右辺,(カ)器具本体の厚みの形状の差異は,全体観察においても一層際立つ差異として認識されるものである。 特に, (ア)下辺について,本件登録意匠では,器具本体が,下辺よりも上辺の方が長く形成されているので,下辺側が上辺よりも細くなった四角形状であり,不安定な印象が与えるのに対し,イ号意匠では,器具本体の下辺が上辺の1.5倍程度長く形成された台形形状であり,器具本体は下辺の長い安定した台形形状と認識され,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。特に,下辺はローラを配置する部位であることから看者の注意を惹く部位であり,両意匠の相違が類否判断に与える影響は非常に大きいものと思料する。 (イ)左辺の相違について,本件登録意匠では,下辺が上辺よりも短いため下辺側に向かって細くなるように傾斜し,かつその傾斜線は緩やかな凹状曲線状となっているのに対し,イ号意匠では,下辺が上辺よりも1. 5倍程度極端に長く,かつ上辺の左角部の突部から凹状曲線が大きく抉れて下辺の左下角部と連続するため,左辺はあたかも親指と人差し指を直角近くまで開いた形状を想起させる。特に,この左辺はローラを配列した下辺に隣接するので,看者の注意を惹く部位として類否判断に与える影響は非常に大きいものと思料する。 (オ)右辺の相違についても,本件登録意匠は緩やかな凹状曲線状であるのに対し,イ号意匠が外側に突出する凸曲線状であり,その凹凸の差異はローラを配列した下辺に隣接する部位であることから看者の注意を惹きやすい部位として,その輪郭形状の相違が類否判断に与える影響は大きいと言える。 (ウ)上辺の相違について,本件登録意匠では,右から左に下り傾斜し,かつ緩やかな凹状曲線であるのに対して,イ号意匠では,左右で水平であり,凹状曲線も本件登録意匠よりも曲率の大きい曲線となっている。これらの相違は上辺が器具本体の輪郭を形成することから類否判断に一定以上の影響力を与えるものといえる。 (エ)右角部の輪郭の相違についても,本件登録意匠が曲率半径の大きな凸形状であるのに対し,イ号意匠では,さほど大きなR形状ではないが,器具本体の輪郭を形成するものであるため,両意匠の相違は類否判断に一定の影響を与えるものと思料する。 (カ)器具本体の厚みについては,マッサージ具として器具本体を手で持って操作するため,器具本体の厚みの相違は,操作する手の触覚で感知すると共に,手の触覚を通じて感知した厚みの相違を視覚的にも確認することができることから,本件登録意匠とイ号意匠との厚みの相違は,類否判断に一定の影響を与えるものと思料する。 (キ)ローラについては,本件登録意匠では,周面が平滑な4個口-ラが配置されているのに対し,イ号意匠では,周面に沿って複数の突部が突出され,かつ5個のローラが下辺に沿って間隔をおいて配置されており,ローラ自体の形状,ローラ個数の相違が見受けられる。 (ク)ローラおよび器具本体の着色について,本件登録意匠では,全体に無着色であるのに対し,イ号意匠では,器具本体が白色,ローラが薄青色で着色されている点で差異があり,その差異は上記(キ)の相違と相侯って,類否判断に一定の影響を与えるものと思料する。 すなわち,両意匠のローラの個数,ローラ形状の相違,さらには着色の有無は,ローラが器具本体の下辺に沿って設けられていることから,器具本体の輪郭の一部を構成し,器具本体の輪郭を構成する他の部分と共に看者の注意を強く惹く部分として,類否判断に一定以上の影響を与えるものといえる。 なお,先行意匠において,器具本体の一辺にローラを配置する態様は存在するものの,円柱状のローラを間隔をおいて配列した態様はなく,本件登録意匠におけるローラの配置や形状が類否判断に与える影響がそれなりにあることは否定しないがヽ本件登録意匠に係る物品「マッサージ具」において,その意匠に係る物品の説明でも記載されているとおり,「本物品は,手で持って,本物品のコロや縁(へり),突起等のうちいずれかを選択して身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりするものである。」としている。したがって,意匠を全体観察してみると,ローラのみならず,器具本体の輪郭を構成する上辺,下辺,左辺,右辺,さらにはこれらの角部の態様の相違が類否判断に及ぼす影響は,非常に大きいといえる。 8-3)本件登録意匠,参考意匠,イ号意匠の位置づけ 参考までに,本件登録意匠と共に同日出願された参考意匠1においても,器具本体の一辺に本件登録意匠と同様なローラを配列した態様となっているが,他の辺の外観形状に差異があるため,本件登録意匠と独立した意匠として登録を受けている。 本件登録意匠,参考意匠1,およびイ号意匠を概略対比してみると,器具本体の外観形状の相違から,三者の意匠は,それぞれ独立の意匠として,並存し得るものと思料する。 また,後日の出願である参考意匠2においても,本件登録意匠と同様なローラを配置した態様であるが,同様に独立の意匠として登録を受けている。 したがって,本物品における類否判断においては,ローラの形状や個数のみならず,器具本体の輪郭を構成する上下の辺および左右の辺の形状の相違並びに角部の形状の相違を含めた全体観察により両意匠の類否を決すべきであるといえる。 要約すると,イ号意匠は,正面視において,左側に極端に突出する下辺側の突状が大きく目立ち,また,右側の凸状の湾曲形状,さらには,ローラの表面に形成された複数の突部の存在が,本件登録意匠と大きく相違し,両意匠は別異の意匠として認識されるものである。 よって,イ号意匠は本件登録意匠と非類似である。 (9)むすび 以上のとおり,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,とする請求の趣旨のとおりの判定を求めるものである。 3.証拠方法 (1)本件登録意匠に係る意匠登録原簿謄本を甲第1号証として提出する。 甲第1号証:意匠登録第1436400号の意匠登録原簿謄本 (2)判定の必要性を立証するために甲第2号証の1ないし2を提出する。 甲第2号証の1:請求人宛警告書 甲第2号証の2:被請求人宛の回答書 なお,同警告書・回答書の黒塗り部分は,本件判定請求の対象と異な る製品についての記載であるため非開示としたものである。 (3)「ローラー付きのかっさプレート」の登録例を示す。 ア)同日出願の独立の意匠としての登録例(参考意匠1)を甲第3号証に 示す。 甲第3号証:意匠登録第1436399号公報(参考意匠1) イ)後日の出願に係る登録例(参考意匠2,参考意匠3)を甲第4,5号 証に示す。 甲第4号証:意匠登録第1454227号公報(参考意匠2) 甲第5号証:意匠登録第1470569号公報(参考意匠3) (4)先行公知意匠として甲第6号証から甲第10号証を提出する。 ア)甲第6号証から甲第9号証はローラ付きマッサージ具の先行公知意匠 (先行意匠1?先行意匠4)を示す。 甲第6号証:意匠登録第1215132号公報(先行意匠1) 甲第7号証:意匠登録第1301906号公報(先行意匠2) 甲第8号証:意匠登録第806690号の類似1公報(先行意匠3) 甲第9号証:意匠登録第845698号公報(先行意匠4) イ)カッサプレートの先行公知意匠(先行意匠5)を甲第10号証に示す 。 甲第10号証:意匠登録第1347243号公報(先行意匠5) 第2 被請求人の答弁 1.答弁の趣旨 イ号物件目録及びイ号図面に示す意匠は,意匠登録第1436400号及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。 2.答弁の理由 本件判定請求に関して,以下のとおり答弁する。 (1)はじめに 被請求人は,平成25年10月21日付けの「イ号物品は,本件登録意匠の範囲に属する」旨の警告書(甲第2号証の1)を請求人に送付した。これに対し,請求人から,平成25年11月6日付けの「イ号商品は,本件登録意匠と非類似である。」旨の回答書(甲第2号証の2)が送付されてきた。その後,請求人及び被請求人による協議の結果,特許庁の判定結果を尊重して紛争を解決することで合意したため,請求人が本件判定請求を請求するに至っている。 (2)本件登録意匠とイ号意匠の要旨 1)本件登録意匠の要旨 本件登録意匠は,意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,その形態は以下のとおり特定される。 なお,判定請求書と同様に意匠公報の正面図に基づいて,各部の名称等の上下左右方向を定めている。 (i)基本的構成態様 (A)略台形形状の板状の本体と,本体の下辺に沿って等間隔に形成された四角形状の複数の凹部に,それぞれ円柱状ローラーが配置されているマッサージ具である。 (B)本体の各角部はそれぞれ異なる形状に丸みを帯びた突状である。 (C)本体の各辺はそれぞれ曲線からなり,各曲線の形状が異なっている。 (ii)具体的構成態様 (D)本体の上辺と下辺と左辺とは各辺の略中央が最も凹んだ凹状曲線である。 (E)本体の右辺は,下方側に僅かに凹んだ箇所がある凸状曲線である。 (F)本体の左上の角部が長く突出している。 (G)ローラーの周面は平滑な面である。 (H)ローラーの数は4個である。 2)イ号意匠の要旨 イ号意匠は,意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,その形態は以下のとおり特定される。 (i)基本的構成態様 (a)略台形形状の板状の本体と,本体の下辺に沿って等間隔に形成された四角形状の複数の凹部に,それぞれ円柱状ローラーが配置されているマッサージ具である。 (b)本体の各角部はそれぞれ異なる形状に丸みを帯びた突状である。 (c)本体の各辺はそれぞれ曲線からなり,各曲線の形状が異なっている。 (ii)具体的構成態様 (d)本体の上辺と下辺と左辺とは各辺の略中央が最も凹んだ凹状曲線である。 (e)本体の右辺は,凸状曲線である。 (f)本体の左下の角部が長く突出している。 (g)ローラーの周面には,複数の半円形状の突起が突設されている。 (h)ローラーの数は5個である。 (3)本件登録意匠とイ号意匠との対比 1)物品について 本件登録意匠及びイ号意匠は,ともに刮さ(かっさ)マッサージに使用される「マッサージ具」であり,両意匠の意匠に係る物品は共通する。 2)形態について (i)両意匠の共通点 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,両意匠は以下の共通点が認められる。 (ア)略台形形状の板状の本体と,本体の下辺に沿って等間隔に形成された四角形状の複数の凹部に,それぞれ円柱状ローラーが配置されているマッサージ具である点。 (イ)本体の各角部はそれぞれ異なる形状に丸みを帯びた突状である点。 (ウ)本体の各辺はそれぞれ曲線からなり,各曲線の形状が異なっている点。 (エ)本体の上辺と下辺と左辺とは各辺の略中央が最も凹んだ凹状曲線である点。 (ii)両意匠の差異点 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,両意匠は以下の差異点が認められる。 (オ)本件登録意匠の具体的構成態様(E)の,本体の右辺は,下方側に僅かに凹んだ箇所がある凸状曲線であるのに対して,イ号意匠の具体的構成態様(e)の,本体の右辺は,凸状曲線である点。 (力)本件登録意匠の具体的構成態様(F)の,本体の左上の角部が 長く突出しているのに対して,イ号意匠の具体的構成態様(f)の,本体の左下の角部が長く突出している点。 (キ)本件登録意匠の具体的構成態様(G)の,ローラーの周面は平滑な面であるのに対して,イ号意匠の具体的構成態様(g)の,ローラーの周面には,複数の半円形状の突起が突設されている点。 (ク)本件登録意匠の具体的構成態様(H)の,ローラーの数が4個であるのに対して,イ号意匠の具体的構成態様(h)の,ローラーの数が5個である点。 3. 先行意匠の摘示 本件登録意匠に係る物品と共通する刮さ(かっさ)マッサージに使用される「マッサージ具」の意匠について,株式会社マガジンハウスが2009年6月25日に発行した「れんげで5分!かっさマッサージ」の17頁に掲載されている種々の公知意匠が存在し,本願登録意匠の出願前から公然知られている(乙第2号証)。 4. 両意匠の類否判断 (1)類否判断について 本件登録意匠とイ号意匠における共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に与える影響を評価し検討するが,意匠の類否は,物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価に基づいて行われる。意匠には,視覚観察を行う場合に観察されやすい部分,観察されにくい部分が存在する。共通点及び差異点における形態が観察されやすい部分の形態であれば,注意を惹きやすいといえる。 観察されやすい部分は,意匠に係る物品の用途(使用目的,使用状態等)及び機能,その大きさ等に基づいて,意匠に係る物品が選択・購入される際に見えやすい部分か否か,需要者(取引者を含む)が関心を持って観察する部位かを認定することにより抽出する(意匠審査基準 第2部 意匠登録の要件 第2章 2 2.1.3.1.2 (4)(C))。 よって,意匠に係る物品の用途,機能を適切に理解したうえで類否判断する必要がある。本件登録意匠及びイ号意匠に係るマッサージ具は,主として,古来から中国で行われてきた「刮さ(かっさ)療法」をアレンジした「刮さマッサージ」というマッサージを行う際に使用されるものである。 この刮さマッサージの一般的な方法は,まず,皮膚を傷つけないようにオイルやクリーム等の滑剤を皮膚に塗布し,次に,マッサージ具(刮さ板)の尖った部分で,デトックスのポイントを開く(開く工程),次に,マッサージ具(刮さ板)の尖った部分でマッサージ部位の凝りをほぐして毒素が流れやすくし(ほぐす工程),最後に,マッサージ具の辺(縁)でほぐした部分を流して身体に溜まった老廃物を流す(流す工程)という工程順のマッサージを繰り返し行うものである(乙第1号証)。 本件登録意匠とイ号意匠とは,上述したような刮さマッサージに使用されるマッサージ具(刮さ板)であることを認識したうえで,各共通点及び差異点における形態が,先行意匠と対比した場合に,注意を惹きやすい形態か否か評価して類否判断する必要がある。 (2)共通点の評価 本件登録意匠及びイ号意匠は,その形態について,上記2(3)2)(i)の共通点が認められ,以下のとおり,これらが類否判断に与える影響は非常に大きい。 共通点(ア)から共通点(ウ)は,意匠の骨格的形態であり,意匠の基本的態様が全て共通している。これらの態様は,先行意匠に存在しない斬新な形態であると共に,機能的な面でも需要者等が最も注意を惹くところである。 共通点(ア)の,本体が略台形形状の板状であるマッサージ具,及び,本体にローラーが配されているマッサージ具は,従来の刮さマッサージ用のマッサージ具には見られない新規な形態であって,非常に創作性が高く,過去の物とは異なっているという強い印象を与える。また,本体にローラーが配されていることで,上述したように,刮さマッサージは,刮さ痕が出ないように調整しながら皮膚をこする必要があるところ,このローラーが存在することにより皮膚に負担をかけずにこすることができるので,需要者等に刮さマッサージが安心かつ容易に行うことができる印象を与える。 よって,このローラーの存在は強く需要者の注意を引くところである。 なお,請求人は,「器具本体の下辺に複数個のローラを配列する点……は,先行公知意匠に見られるように,ごく普通に用いられるものであるので,類否判断に及ぼす影響力が小さいものである。」と主張するが(判定請求書9頁20行目?23行目),請求人が示した先行意匠のうち,刮さマッサージに用いることが可能なマッサージ具は甲第10号証の「美顔用マッサージ具」のみであり,当該美顔用マッサージ具には,ローラーは存在せず,その他の先行意匠のマッサージ具には,ローラーは存在するものの刮さマッサージに使用されるものではない。 さらに,「先行意匠において,器具本体のー辺にローラを配置する態様は存在するものの,円柱状のローラを間隔を置いて配列した態様はなく・・・・」と,請求人が主張するとおり(判定請求書10頁下から3行目?1行目),ローラー自体の形状については,刮さマッサージ用のマッサージ具に限らず,種々のマッサージに使用されるマッサージ具においても特徴的な形態であり,需要者等の注意を引くものである。 共通点(イ),共通点(ウ)及び共通点(エ)は,共通点(ア)と相侯って,従来にない歪な形状となり,需要者等に非常に不安定な印象を与える。 さらに,上述した先行意匠は,乙第2号証の17頁に記載のとおり「フェイシヤル用,ボディー用等,用途によって使いやすい形状になっていた」ところ,本件登録意匠は,歪な形状であるがゆえに,各角部の異なる形状は,需要者等に,頭,顔,腕,脚等全身のマッサージしたい各部位に応じた角部を使用して「開く工程」及び「ほぐす工程」に使用できるという印象を与えると共に,各辺の異なる形状の曲線も,同様に,全身のマッサージしたい各部位に応じた曲線部を使用し,「流す工程」に使用できるという印象を与える。つまり,本件登録意匠は,一つのマッサージ具によって全身の刮さマッサージを行うことができるので,用途又は部位によって複数のマッサージ具を使い分ける必要がなく,需要者等に簡易かつ利便性に優れる印象を与えるものである。 したがって,両意匠にみられる歪な略台形形状の板体のー辺に沿ってローラーが配置されている態様は,本件登録意匠の出願前にみられない独自の特徴的な形態であり,両意匠の類否判断に与える影響は非常に大きい。 (3)差異点の評価 ?方,差異点については,この種のマッサージ具の分野において,普通に見られる範囲の僅かな相違に過ぎず,需要者等の注意を惹くものではない。 差異点(オ)の右辺の形状については,本件登録意匠の右辺の下方に僅かに凹んだ箇所が存在する点で異なるが,先行意匠にも見られるように,刮さマッサージ用のマッサージ具における各辺の形状としては種々の曲線形状が存在しており,この種の分野においてはありふれた形態であることから,この差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。 差異点(カ)については,長く突出した角部が,左上の角部に位置するか,左下の角部に位置するかの違いに過ぎない。この長く突出した角部は,刮さマッサージにおける「開く工程」及び「ほぐす工程」のマッサージを行う際に使用される部分であり,先行意匠にも当然みられる形状である。需要者等は,「開く工程」及び「ほぐす工程」に使用する突出した角部の存在が認識できればよく,当該角部が左上に位置しようが,左下に位置しようが,マッサージをする際の使用感につながる視覚的な印象が異なることはなく,需要者等に,両意匠が別異であると認識させるものではない。 差異点(キ)については,一般的なマッサージ具において,ローラーの周面に複数の突起を突出させることは常套的なことであり,各別特徴があると認められず,類否判断に及ぼす影響は僅かに過ぎない。 差異点(ク)については,ローラーの個数の相違は些細な相違に過ぎず,類否判断に影響を及ぼすものではない。 また,請求人は,「器具本体の外郭である,(ア)下辺,(イ)左辺,(ウ)上辺,(エ)右角部,(オ)右辺,(カ)器具本体の厚みの形状の差異は,全体観察においても一層際立つ差異として認識されるものである。」と主張すると共に,本件登録意匠とイ号意匠との上辺と下辺の比率,各辺の凹状曲線の曲率,右角部の曲率半径等についての差異点を細かく特定し,これらの相違点が類否判断に一定の影響を与えると主張する(判定請求書9頁24行目?10頁17行目)。 しかしながら,これらの微細な差異によって,イ号意匠の板体の外形が,本件登録意匠の特徴である歪な略台形形状の本体の外形と僅かに異なる形状となっても,両意匠の本体の形状がともに歪な略台形形状という点には変わりない。 したがって,両意匠を全体として観察したときに,歪な略台形形状という共通点が与える印象が,本体の外形の僅かな差異の印象を圧倒的に凌駕し,需要者に与える印象は殆ど異ならない。 また,請求人は,「本件登録意匠とイ号意匠との厚みの相違は,類否判断に一定の影響を与えるものと思料する。」と主張する(判定請求書10頁18行目?22行目)。しかしながら,本件登録意匠とイ号意匠との厚みの相違は,両者を並べて初めて気づく程度の僅かな差異に過ぎず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて小さい。 また,請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の着色の差異が類否判断に一定の影響を与えるものと思料する。」と主張する(判定請求書10頁27行目?30行目)。 しかしながら,従来から同種商品に使用される色彩は種々存在し,イ号意匠に使用されている色彩はありふれた色彩であり類否判断に及ぼす影響は極めて小さい。 さらに,請求人は,「本件登録意匠と共に同日出願された参考意匠1においても,器具本体の一辺に本件登録意匠と同様なローラー配列した態様となっているが,他の辺の外観形状に差異があるため,本件登録意匠と独立した意匠として登録を受けている。」と主張する(判定請求書11頁9行目?12行目)。 しかしながら,本件登録意匠の本体は,略台形形状の板体であるのに対して,参考意匠1の本体は,略三角形状の板体であり,本体の外形が大きく異なるものであるため,本件登録意匠と参考意匠1はそれぞれ独立した意匠として登録を受けたものである。このような,本体の外形が大きく異なる意匠が互いに独立して登録になった事例を根拠にして,本件のように,外形に僅かな差異はあるものの,共に略台形形状の本体からなるイ号意匠と本件登録意匠とが非類似であるとする請求人の主張は明らかに失当である。 (4)小括 両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても差異点が,先行意匠にみられるありふれた形態であるのに対して,共通点が先行意匠にみられない新規かつ特徴的な形態であると共に,両意匠の骨格的な態様をなしている。 したがって,共通点が両意匠に及ぼす影響は差異点のそれを凌駕しており,意匠全体としてみた場合,イ号意匠は本件登録意匠に類似する。 3.むすび 以上のとおり,イ号物件目録及びイ号図面に示す意匠は,意匠登録第1436400号及びこれに類似する意匠の範囲に属する。 よって,本件判定請求答弁書の趣旨に記載のとおりの判定を求める。 4.証拠方法 (1)乙第1号証:「気・血・水の流れを変えてきれいになる!かっさマッ サージ」著書 島田淑子 KKベストセラーズ2008年5月24日 初版第1刷発行 (2)乙第2号証:「「れんげ」5分!かっさマッサージ」 著書 島田淑 子 株式会社マガジンハウス 2009年6月25日第1刷発行 第4 当審の判断 1.意匠登録第1436400号意匠の認定 本件の意匠登録第1436400号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,平成23年(2011年)8月11日に意匠登録出願され,平成24年(2012年)2月17日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書及び願書に添付した図面によれば,物品の部分について意匠登録を受けようとするものであって,意匠に係る物品を「マッサージ具」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであって,「実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」(以下,本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本件登録意匠部分」という。)とするもの(別紙第1参照,甲第1号証)であり,具体的には以下のとおりのものと認められる。 (1)意匠に係る物品について 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「マッサージ具」であって,その使用方法は,手で持って,本物品のローラー(コロ)や縁(ヘリ),突起等のうちいずれかを選択して身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりするものである。 (2)本件登録意匠部分の用途及び機能,並びに位置,範囲及び大きさについて 本件登録意匠部分は,板状のマッサージ具本体の中央部分を除く一定幅の外周縁部分及びその外周縁部の一部に設けられたローラー部の部分(ローラー部を設けた辺の外周縁部分の幅は他の部分よりも幅広である。)であって,マッサージ具本体を手で持って,当該外周縁部分及びローラー部の部分を身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりして用いるものである。 (3)本件登録意匠部分の形態について 本件登録意匠は,願書添付図面において,ローラー部を下方水平に位置させ,右上角が大きく円弧状に張り出し,左上角がつの(角)状に張り出して表れる面を,正面として表している。 ア.基本的構成態様 板状本体とその板状の一辺にローラー部を設けた構成のものであって,板状本体の正面視外周形状は,概略横長四角形状であって,その角部に大小の凸弧状の丸みを付け,その角部を結ぶ各辺を緩やかな凹弧状に形成したものであり,その概略横長四角形状の下辺に複数個の円柱状ローラーが設けられている イ.各部の具体的態様 本体の外周形状は,右上角部を極めて大きな円の約1/3円弧状とし,その他の角部を小さな円弧状としたものであって,右上の大円弧状角部から下方に小さな凹弧状をもって逆S字状に右下角部の小円弧状角部につながるものとし,右上の大円弧状角部から左上の小円弧状角部に向けてやや左下がり傾斜のごく緩やかな凹弧状が連続し,左上の小円弧状角部は,右斜め下方に凹弧状に抉れるように左下の小円弧状角部につながり,左上の小円弧状角部は,左下の小円弧状角部よりも左方に突出して,つの(角)状を呈するものであり,左下と右下の下辺両端の角部の間は緩やかな凹弧状でつながる,外周形状のものである。 そして,本体板状の正面の構成比は,正面視で,上下対辺(長辺)の比が上辺9:下辺8,左右の対辺(短辺)の比が左辺3.5:右辺4.5であり,各辺はその略中央部分が最も凹んだ緩やかな凹状曲線を描き,各角部の丸みの大きさは,右上角部が他の角部の曲率半径よりも4倍程度の大きな曲率半径で緩やかな円弧状を描き,全体として,右上角部の大きな円弧状によって右肩上がりで,左上の小円弧状角部が左方水平に突出していることによってやや左に傾いて見える外周形状のものである。 本体板状の外周縁部分の厚みは,上方が下方よりも僅かに厚いもので,厚み方向に全て半円弧状の丸みがついている。 また,本体板状の緩やかな凹弧状の下辺に略四角形状の切り欠きを設け,該切り欠き部に本体板状の板厚より径の大きい4個の短小円柱状のローラーを下辺に沿って,下辺の向きを軸として等間隔に配置している。 2.イ号意匠の認定 イ号意匠は,請求人が提出したイ号物件(見本。以下「イ号見本」という。(見本撮影画像(別紙第2)参照)及びイ号図面(別紙第3参照)に基づいて以下認定する。 (1)意匠に係る物品について イ号意匠の意匠に係る物品については,請求人は請求書において「ローラ付きマッサージ具」(商品名「ローラ付きカッサプレート」)とし,被請求人は答弁書において,「マッサージ具」としているが,両当事者も述べているとおり,古来から中国で行われてきた「刮さ(かっさ)療法」という一種のマッサージに使用する器具であって,本物品を手で持って,そのローラー(コロ)や縁(ヘリ),突起等のうちいずれかを選択して身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりするものであるので,当審においては,「マッサージ具」と認定する。 (2)イ号意匠の本件登録意匠部分に相当する部分(イ号意匠部分)の用途及び機能,並びに位置,範囲及び大きさについて イ号意匠部分は,本件登録意匠部分に相当する,板状のマッサージ具本体の中央部分を除く一定幅の外周縁部分及びその外周縁部の一部に設けられたローラー部の部分(ローラー部を設けた辺の外周縁部分の幅は他の部分よりも幅広である。)であって,マッサージ具本体を手で持って,当該外周縁部分及びローラー部の部分を身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりして用いるものである。 (3)イ号部分の形態について 形態を現す(表す)ものとして,イ号見本及びイ号図面が提出されているので,イ号図面に基づき,またイ号見本を参考(注)にして認定する。 本件登録意匠と同様に,ローラー部を下方水平に位置させ,右辺側が大きく張り出し,左上角がつの(角)状に張り出して表れる面を,正面として以下認定する。 (注:特許庁への判定請求の手続において,イ号意匠が実施されている場合には,本来は,意匠登録出願の際の図面代用写真の作成要領に従い,写真を別紙として添付することとなっている。図面代用見本による提出は予定していない。(平成27年10月 特許庁審判部「特許庁の判定制度について」第28頁<意匠の場合>エ.イ号意匠の説明) ア.基本的な構成態様について 板状本体とその板状の一辺にローラー部を設けた構成のものであって,板状本体の正面視外周形状は,概略横長四角形状であって,その角部に小さな凸弧状の丸みを付け,その角部を結ぶ各辺を緩やかな凹弧状あるいは凸弧状に形成したものであり,その概略横長四角形状の下辺に複数個の円柱状ローラーが設けられている イ.各部の具体的な態様について 本体の外周形状は,右上の小円弧状角部から右下の小円弧状角部にかけて,斜め右下に向け大きく緩やかな1つの凸弧状が張り出すものとし,右上の小円弧状角部から左上の小円弧状角部に向けてほぼ水平方向のごく緩やかな凹弧状が連続し,左上の小円弧状角部は,その下方右側に凹弧状に小さく抉れるようにして,左上円弧状角部はつの(角)状を呈するものとし,その凹弧状の括れは左斜め下方に大きく延出して左下の角部につながり,到略U字状に大きく突出したもの(この角部を,以下「左下到略U字状角部」という。)となり,左下と右下の下辺両端の角部の間は緩やかな凹弧状でつながる,外周形状のものである。 そして,本体板状の正面の構成比は,正面視で,上下対辺(長辺)の比が上辺8:下辺12,左右の対辺(短辺)の比が左辺7:右辺6であり,上下各辺の中央部分が最も凹んだ緩やかな凹状曲線を,左辺はやや上寄りで最も凹んだ左下に長く伸びる曲線を描き,右辺はやや下方部分が最も右側に突出した,やや左に傾いた緩やかで大きな1つの凸弧状を描き,全体として,右辺側は凹凸がなく,左辺側は凹凸が大きく上下角部が突出した外周形状のものである。 本体板状の外周縁部分の厚みは,ほぼ同厚(意匠登録を受けようとする部分以外の部分である中央部は凹んでやや薄い。)であって,厚み方向に全て丸みがついており,下辺部分は半円弧状の丸みが,他の部分は半紡錘状のやや尖った丸みがついている。 また,本体板状の緩やかな凹弧状の下辺に略四角形状の切り欠きを設け,該切り欠き部に本体板状の板厚より径の大きい5個の短小円柱状のローラーを下辺に沿って,下辺の向きを軸として等間隔に配置している。短小円柱状の各ローラーの周面中央には略半球状の小突起が6個等間隔に設けられている。 3.本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の対比 (1)意匠に係る物品について 本件登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品は共に「マッサージ具」であって,手で持って,そのローラーや縁(ヘリ),突起等のうちいずれかを選択して身体のほぐしたい箇所に適宜当ててマッサージするものであるから,意匠に係る物品は一致する。 (2)両部分の用途及び機能,並びに位置,範囲及び大きさ 両部分は,共に,板状のマッサージ具本体の中央部分を除く外周縁部分及び外周縁部の一部に設けられたローラー部の部分であって,手で持って,当該部分を身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりして用いるものであるから,その用途及び機能,並びに位置,範囲及び大きさは共通する。 (3)本件登録意匠部分とイ号意匠部分(以下「両部分」という。)の形態について [共通点] 基本的構成態様において (ア)板状本体とその板状の一辺にローラー部を設けた構成のものである。 (イ)板状本体を,角部に丸みを付け,そのうち左上角部及び左右両下角部を小さな円弧状とし,上辺,下辺及び左辺を凹弧状に形成した概略横長四角形状板状のものとしている。 (ウ)本体板状の下辺部分に,円柱形状のローラーを複数個並べて設けている。 具体的態様において (エ)板体の全外周縁部分に,厚さ方向に丸みを付けている。 (オ)ローラー部は,本体板状の下辺に略四角形状の切り欠きを設け,該切り欠き部に本体板状の板厚より径の大きい,小さく短い円柱状のローラーを下辺の凹弧状に沿って,下辺の向きを軸として等間隔に配置している。 [相違点] 具体的構成態様において 本体の形状につき, (あ)4つの角部の態様において,本件登録意匠部分は,右上角部を極めて大きな円弧状とし,その他の角部は小さな円弧状としているのに対して,引用意匠部分の角部は全て小円弧状である。 (い)右辺部分において,本件登録意匠部分は,上下の角部の間を小さな凹弧状でつないで大小の凹凸のある逆S字状の態様としているのに対して,イ号意匠部分は,上下の角部の間を1つの大きな凸弧状でつないだ態様のものとしている。 (う)左辺部分において,本件登録意匠部分は,左上の角部を右上の角部より低い位置の左水平方向に突き出したものとし,その下方に延びる左下の角部をあまり突出しないものとしているのに対して,イ号意匠部分は,左上の角部を右辺と同高さの斜め上向きとし,その斜め左下に延びる左下の角部を左上角部よりも大きく,到略U字状に延出したものとしている。 そして,これら(あ)?(う)の相違と両部分の本体板状の構成比の相違によって, (え)本体板状全体の形状としては,本件登録意匠部分は,上辺が下辺よりやや長いもので,右辺側が左辺側より高さがあって,右上角部の大きな凸円弧状によって右肩上がりで,左上の小円弧状角部が左方水平に突出していることによってやや左に傾いて見える外周形状のものであるのに対して,イ号意匠部分は,下辺が上辺よりもかなり長いもので,右辺側と左辺側が同高さで上辺が略水平状で,右側が1つの大きな凸円弧状であって凹凸がなく,左側は凹凸が大きく上下角部が突出しており,とりわけ左下角部が到略U字状に大きく突出した外周形状のものである。 (お)外周縁部の厚みと丸みの付け方については,本件登録意匠は,上部が下部より僅かに厚く,丸みは全て半円形状のであるのに対して,イ号意匠部分は,外周部の厚さはすべてほぼ等厚で,丸みは,下辺は半円形状であるが,その他の辺はやや先の尖った紡錘形状である。 ローラー部につき (か)本件登録意匠部分は4個であるのに対して,イ号意匠部分は5個である。 (き)本件登録意匠部分は,ローラーの周側面は平滑であるのに対して,イ号意匠部分は,ローラーの周側面中央に6個の半球状の凸部が並べて設けられている。 (く)ローラー部の彩色について,本件登録意匠部分は,色彩も色調(明暗調子)も請求しないものとして登録されたものであって,本体部とローラー部とはともに同じ,差のないものであるのに対して,イ号意匠部分(イ号見本に基づく彩色。イ号図面には表されていない。)はローラー部を薄青緑色とし,本体部を白色としている。 4.両意匠の類否判断 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品は共に「マッサージ具」であって,手で持って,そのローラーや縁(ヘリ),突起等のうちいずれかを選択して身体のほぐしたい箇所に適宜当ててマッサージするものであるから,意匠に係る物品は共通する。 (2)両部分の用途及び機能並びに位置,範囲及び大きさ 両部分は,共に,概略平板状のマッサージ具本体の中央部分を除く外周縁部分及び外周縁部の一部に設けられたローラー部の部分であって,手で持って,当該部分を身体のほぐしたい箇所に適宜当ててリンパを流すために滑らせたり,指圧したりして用いるものであるから,その用途及び機能,並びに位置,範囲及び大きさは共通する。 (3)両部分の形態 [共通点の評価] 基本的構成態様における共通点(ア)については,両部分の全体構成の概括的な共通性であって,それのみで両部分の類否判断を左右するものではなく,(イ)の,本体部の角部に丸みを付け,そのうち右上角部を除く,左上及び左右両下の角部を小さな円弧状とし,右辺を除く,上辺,下辺及び左辺を凹弧状に形成した概略横長四角形状板状のものとしていることについては,そもそも外周形状に丸みを付けたり,凹凸で突起状を形成したりすること,また,具体的態様における共通点(エ)のように,外周縁部分に厚さ方向に丸みを付けることも,かっさマッサージ用の器具としての物品の用途及び機能からもごく普通に見られる態様であり,かつ,角部と辺の全部ではなく一部が共通する程度のことであるから,未だ概括的な共通性であり,これらの共通点のみをもって両部分の類否判断において大きな影響を及ぼすものとはいえない。 また,共通点(ウ)及び(オ)の本体板状の下辺部分に,円柱形状のローラーを複数個並べて設け,その具体的態様を,本体板状の凹弧状の下辺に略四角形状の切り欠きを設け,該切り欠き部に本体板状の板厚より径の大きい,小さく短い円柱状のローラーを下辺の凹弧状に沿って,下辺の向きを軸として等間隔に配置する態様とすることについても,マッサージ具の分野の意匠において,器具本体の一辺部分にローラーを設けたものは,従前(甲6号証意匠,甲3号証意匠,甲7号証意匠,甲8号証意匠)に見られるところであり,そのうち甲6号証の意匠,甲3号証の意匠については,プレート(本体板状部)の一辺にローラー部を設けたものである。また,プレートの一辺にローラー部を設ける具体的態様において共通しているとしても,プレートの外周形状の相違によって,別異の意匠と判断された例(甲3号証意匠)もあるように,両意匠部分に見られるローラー部の具体的態様の共通性があるとして,その共通性のみをもって単純に両部分全体の類否を判断することは適当でなく,両意匠に係る物品が,かっさマッサージ用の器具である場合などは,プレート(本体板状部)は単なるローラー部の持ち手の役割を果たす部分ではなく,かっさマッサージをする際にその本体板状部の外周形状の凹凸や突起,辺の部分等を使ってマッサージを施すのであって,本体板状部の外周形状は施術を受ける者の身体に直接当たる重要な部分の形状であるから,外周形状の相違を過小評価することはできない。 したがって,ローラー部の共通性は,両部分の類否判断に一定の影響を及ぼすものの,両部分全体の類否判断を決定づけるまでには至らないといわざるを得ない。 以上のとおり,上記の両部分の共通点はいずれも類否判断に一定程度の影響を及ぼすものとはいえるものの,大きな影響を及ぼすもとまではいえず,それらを総合してみた場合にも,両部分の類似判断を決定づけるまでには至らないものといえる。 [相違点の評価] 一方,相違点については,本体板状の具体的構成態様において,その角部や各辺等の態様の相違(あ)?(う)と両部分の本体板状の構成比の相違によって,(え)本体板状全体の形状としては,本件登録意匠部分は,上辺が下辺よりやや長いもので,右辺側が左辺側より高さがあって,右上角部の大きな凸円弧状によって右肩上がりで,左上の小円弧状角部が左方水平に突出していることによってやや左に傾いて見える外周形状のものであるのに対して,イ号意匠部分は,下辺が上辺よりもかなり長いもので,右辺側と左辺側が同高さで上辺が略水平状で,右側が1つの大きな凸円弧状であって凹凸がなく,左側は凹凸が大きく上下角部が突出しており,とりわけ左下角部が到略U字状に大きく突出した外周形状のものであって,その相違は大きなのものといえるから,共通点の評価においても述べたとおり,両意匠の意匠に係る物品はかっさマッサージ用のマッサージ具であり,施術の際にはその外周形状を駆使するものであって,その外周形状の凹凸や突起,辺の長さ等はマッサージを施す直接人の身体に当てる重要な部分の形状であるから,これらの外周形状の相違は,両部分の類否判断に大きな影響を及ぼすとものといえる。 ローラー部の相違(き)の,イ号意匠部分のローラーの周側面中央に半球状の6個の凸部が並べて設けられている態様については若干目に付くものともいえるが,同様の態様が本件登録意匠の出願前にも見受けられる(参考意匠:意匠登録第1067158号 電気あんま器用ヘッドの意匠)ものであることから,その相違が両部分の類否判断及ぼす影響をさほど大きいものとはえいない。 また,ローラーが4個か5個かの個数の相違は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではなく,またローラー部の彩色の相違についても,その相違は単に異なる色彩を選択しただけであって,彩色によって特徴ある模様を構成するには至っていないから,両部分の類否判断にほとんど影響を及ぼさない。 そうすると,ローラー部の態様の相違については,それらが類否判断にそれほど影響を及ぼすとはいえないものの,板状本体部の外周形状の相違は大きなものであって,それらの相違が両部分の類否判断に支配的な影響を及ぼしているといえるから,相違点を総合すると,両部分の類否判断に大きな影響を及ぼしているといえる。 上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品については共通し,両部分の用途及び機能並びに位置,範囲及び大きさは共通するものの,その形態においては,共通点は両部分の類否判断を決するものとまではいえず,一方,相違点は,両部分全体に亘る構成態様において両部分の類否判断に大きく影響を及ぼすものと認められ,相違点が相俟って生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕するものであって,両部分に異なる美感を起こさせるものである。 したがって,両意匠は意匠全体として類似しないものと認められる。 なお,被請求人は,両部分の具体的な態様の共通点として, (ア)略台形形状の板状の本体と,本体の下辺に沿って等間隔に形成された四角形状の複数の凹部に,それぞれ円柱状のローラーが配置されているマッサージ具である点 (イ)本体の各角部はそれぞれ異なる形状に丸みを帯びた突状である点 (ウ)本体の各辺はそれぞれ曲線からなり,各曲線の形状が異なっている点 (エ)本体の上辺と下辺と左辺とは各辺の略中央が最も凹んだ凹状曲線である点を掲げ,それらをもって,両意匠が類似すると主張するが,これらの共通点は,(ア)については,基本的構成態様の概括的な共通性であり,(イ)ないし(エ)についても,その記載ぶり(各角部,各辺部が異なっている,辺の略中央が最も凹んだことが共通するとしている。)にも表れているように,いずれも抽象的であって,これらの要素に基づいて具体的な形状を描くことができないレベルの共通性に留まるものといわざるを得ず,被請求人のこの主張を採用することはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
|
判定日 | 2016-06-16 |
出願番号 | 意願2011-18406(D2011-18406) |
審決分類 |
D
1
2・
-
ZA
(J7)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 内藤 弘樹、平田 哲也 |
特許庁審判長 |
小林 裕和 |
特許庁審判官 |
渡邉 久美 本多 誠一 |
登録日 | 2012-02-17 |
登録番号 | 意匠登録第1436400号(D1436400) |
代理人 | 辻本 希世士 |
代理人 | 金澤 美奈子 |
代理人 | 大島 泰甫 |
代理人 | 辻本 一義 |
代理人 | 小羽根 孝康 |
代理人 | 藤原 清隆 |
代理人 | 稗苗 秀三 |