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審決分類 審判    J3
管理番号 1317046 
審判番号 無効2015-880007
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-07-15 
確定日 2016-07-01 
意匠に係る物品 カメラ用レンズ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1514997号「カメラ用レンズ」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1514997号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,平成25年(2013年)12月27日に意匠登録出願(意願2013-30842)されたものであって,審査を経て平成26年(2014年)12月5日に意匠権の設定の登録がなされ,平成27年(2015年)1月13日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 平成27年 7月15日
・審判事件答弁書提出 平成27年10月23日
・審判事件弁駁書提出 平成28年 1月27日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成28年 3月15日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成28年 3月29日
・口頭審理 平成28年 4月12日


第2 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,請求の趣旨を
「登録第1514997号意匠の登録を無効とする,
審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由を,要点以下のとおり主張した(「審判事件弁駁書」及び「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)。

1 意匠登録無効の要点
(1)公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠(意匠法第5条第1号)
意匠登録第1514997号の意匠(意匠公報を甲第1号証の1(本審決の別紙第1参照。以下,同様に,「別紙」は本審決の別紙を指す。)として,符号付き図面を甲第1号証の2(別紙第2参照)として添付する。以下,「本件登録意匠」という。)は,相手方が,請求人から,米国において,請求人が開発して広く販売し,著名な商品となっている斬新なコンセプト,形状の新製品であるレンズスタイルカメラのデザインを模倣した製品として警告を受けているところ,今後,当該模倣品を不正に輸入し,日本市場においても販売するための準備として,物品名を巧みに操作して意匠登録を得て,関税法による税関による輸入差し止めを回避しようとして,出願,登録したものと推測できるものであって,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠であり,意匠法第5条第1号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきものである。
(2)他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠(意匠法第5条第2号)
本件登録意匠は,後述するとおり,著名な標章(立体的形状)に該当する「他人の業務に係る物品」である請求人製品とまぎらわしい標章(立体的形状)からなり,需要者に出所の混同を生じさせるおそれがある意匠であり,意匠法第5条第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきものである。
(3)新規性欠如(意匠法第3条第1項第3号)
本件登録意匠は,本件登録意匠の出願の出願日前に日本国内及び外国において公然知られた意匠(甲第63号証。別紙第3参照。)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきものである。
(4)創作容易性(意匠法第3条第2項)
本件登録意匠は,本件登録意匠の出願の出願日前に,カメラ及びレンズの意匠の属する分野において通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,日本国内及び外国において公然知られた形状(甲第63号証?甲第65号証等。以下,これらの形状を有する請求人の販売するレンズスタイルカメラを「請求人製品1」(甲第63号証。別紙第3参照。)と,また,それに取付けるアダプターを「請求人製品2」(甲第64号証。別紙第4参照。)と,さらに,請求人製品1のデジタルカメラに請求人製品2のアダプターを取付けた状態を「請求人製品3」(甲第65号証。別紙第5参照。)という。)に基づいて,容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきものである。

2 本件意匠登録の背景
(1)請求人製品の開発
請求人は,遅くとも2013年7月24日頃までには,外観や使い方が従来のデジタルカメラとは一線を画すデジタルカメラを開発した。その製品コンセプトは,デジタルカメラに搭載されていることが当然とされていた液晶モニターを省くという斬新な着想により,一見ただの交換式レンズのような外観を有する「レンズスタイルカメラ」(請求人製品1)である。その意匠は,通常のデジタルカメラが備える箱型の筐体も,液晶モニターをも備えず,使用時以外は,一定の径の円筒形状であり,いわば交換レンズだけのカメラといった外観であり,斬新かつ独創的で,需要者等の注目を惹きつける,極めて創作性が高いデザインとなった。
被写体の像は,今日では多くの者が所有するスマートフォンと無線通信機能を持たせることにより,スマートフォンの液晶画面を被写体確認用のモニターとして利用する。撮影の際には,一方の手でこれを持ち,他方の手にスマートフォンを持って液晶モニターを確認しながら撮影することが可能となり,今まで難しかったアングルでの撮影も簡単に撮影することができるものである。
また,請求人は,このレンズスタイルカメラをスマートフォンに取付けるためのアダプターも合わせて開発し(請求人製品2),アダプターを用いてスマートフォンと一体として使用することも可能とした。
本件製品は,ユーザーのライフスタイルを大きく変えるようなものであって,それまでのデジタルカメラという製品の常識であった液晶モニターをそぎ落とし,ユーザーが画像解像度の高い写真撮影をしたいと思ったときにだけスマートフォンに本件製品を装着させることで,あたかも瞬間的にそこに高性能カメラが現れ,また,スマートフォンを液晶モニターとして手元において見ながら,レンズスタイルカメラだけを自由に移動して,様々な角度から高画質な写真撮影をすることを可能とした,というように新たなライフスタイルを生み出した,魅力あふれる製品となっている。
(2)請求人による意匠登録出願
請求人は,請求人製品1及び2の開発後,これらの意匠について意匠登 録出願を行い,その後,意匠登録されるに至った。具体的には,一方は, 意匠に係る物品を「デジタルカメラ」とした出願(意願2013-16889)であり,平成25年7月24日に出願され,その後,平成26年4月4日に意匠登録第1496324号として登録されるに至った(以下,この意匠を「請求人登録意匠1」という。)。また,他方は,意匠に係る物品を「デジタルカメラ用アダプター」とした出願(意願2013-16891)であり,請求人登録意匠1と同日付けの平成25年7月24日に出願し,その後,平成26年5月23日付で意匠登録第1500744号として登録されるに至った(以下,この意匠を「請求人登録意匠2」という。)。
(3)請求人製品の製造販売
ア 販売の開始
請求人は,請求人登録意匠1及び2の出願後,欧州と日本での販売に先立ってそれぞれ,欧州(ドイツ・ベルリン)では平成25年9月4日に,また,日本においては平成25年9月12日に,請求人製品1及び2の発売についてプレスリリースし,その際に請求人製品1及び2を示し,当該形態を公表した(甲第4号証(別紙第6参照)及び甲第5号証(別紙第7参照))。引き続き,請求人は,請求人製品1であるデジタルカメラ(レンズスタイルカメラ)の販売を平成25年9月末日ごろから欧州を始めとする各国において(甲第6号証(別紙第8参照)),また,平成25年10月25日ごろより日本にて開始し(甲第5号証),以来,現在に至るまで販売を続けている。上記デジタルカメラの包装箱の中には,請求人製品2であるデジタルカメラ用アダプター(甲第5号証)がセット品として同梱されている。
イ 宣伝広告
請求人は,請求人製品の発売開始発表時に,情報関係者,業界関係者等を集めて請求人会社代表者による大々的なプレゼンテーションを行い,広く報道され,以後,世界各国において,営業努力を重ねており,またグッドデザイン賞の金賞やreddotデザイン賞におけるbest of best,さらにはiFデザインアワードなどの主要なデザイン賞における重賞受賞やその他の受賞を受けて,国内における認知度は非常に高いものとなっている。
ウ 周知性・著名性の獲得
以上の結果,このような画期的な製品に対し,発売前の製品発表当時から,高い関心が寄せられ,数多くの報道や雑誌の特集がなされている。
例えば,甲第30号証(別紙第9参照)では,「ソニーがデジカメで新機軸 スマホに装着して使用」との題で請求人製品が大きく採り上げられ,「手軽な写真撮影は,もはやスマートフォンで事足りる。デジカメ市場を侵食してきたスマホと競合するのではなく,逆にスマホの周辺機器として生かすことで,新たな市場をどのように作り上げるか。今回の製品は,その解の一つだろう」と記載され,請求人製品が新たな市場を作るきっかけとなる斬新な製品であることが示されている。
(4)被請求人による意匠出願
請求人が請求人製品を発表した平成25年(2013年)9月には少なくともその製品の形状の概要を知ることができるようになり,また,同年9月には,製品の販売が開始され,請求人製品1及び2の意匠全体の形状や内部構造の詳細を知ることが可能となったところ,その後である平成25年12月27日に,本件登録意匠について意匠登録出願がなされた(以下「本件意匠出願」という。)。
(5)後発製品の販売開始
ア 本件意匠登録に先立つ2014年(平成26年)1月ころ(当審注:本件登録意匠の出願は平成25年であるので,仮に本件登録意匠の出願に「先立つ」の意味ならば,事実に反する。),米国カリフォルニアに本社を置く●●●●●● Ltd. (以下「α社」という。)が,米国において,請求人製品1及び2の形状に非常によく似たコンセプト,形状のレンズ型デジタルカメラ(甲第59号証。以下「後発製品」という。)の発売を開始する旨発表した。請求人は,これが,請求人製品をコンセプト,形状において全く模倣したものであったことから,平成26年(2014年)3月12日,α社に対して,警告状を送付した。
イ 請求人(当審注:「被請求人」の誤記と認められる。)とα社との関係
後発製品は,中国においてOEM生産されている旨の情報を得て調査したところ,被請求人信泰光學(深セン)有限公司が,後発製品を製造していることが判明した。すなわち,被請求人信泰光學(深セン)有限公司は,上記α社に対し,後発製品を製造し,OEM供給していたものである。
(6)本件登録意匠の登録
本件登録意匠の出願は,平成26年12月5日,意匠権者を「信泰光學(深セン)有限公司」(以下「信泰光學」という。)及び「亞洲光學股▲ふん▼有限公司」,意匠に係る物品を「カメラ用レンズ」,意匠を本件登録意匠の意匠公報の図面(甲第1号証の1(別紙第1参照))に示された形態の意匠,として登録された。
上記のとおり,被請求人信泰光學は,本件登録意匠を実施した後発製品を製造していたのに,本件意匠出願においては,意匠に係る物品を,請求人登録意匠1と同様に「デジタルカメラ」とすることなく,敢えて実施している後発製品に係る物品と異なる「カメラ用レンズ」としておき,本件登録意匠について意匠登録を得たものである。
(7)小括
本件登録意匠の出願人は,請求人製品の画期的かつ周知となっている形状を知りながら,これと混同を生ずる程度に類似する後発製品を製造するに当たって,請求人製品の意匠の基本構成を利用しながら,意匠に係る物品名については,本来,実施されるべき後発製品の意匠から予測される機能からしてあり得ない物品名に変更し,請求人製品が「デジタルカメラ」という物品名で意匠登録出願をしている場合に先後願判断から逃れるべく極めて技巧的な意匠登録出願をすることによって,特許庁の実質的な審査を潜脱して取得したともいうべき意匠登録をしているものであり,その意図は,このような意匠登録をすることによって,後発製品を輸入する際,請求人登録意匠に係る意匠権侵害又不正競争防止法(2条1項1号)違反に基づく関税法による輸人差止(関税法69条の11)を避けるためという,本来,意匠法が予定している権利行使とはかけ離れた目的に濫用するものとしか考えられない(意匠権侵害訴訟及び不正競争行為差止め請求訴訟において,被請求人意匠の登録は考慮されないから,被請求人の防御にとって意味を有しない。)。
したがって,本件意匠登録は,公序良俗に反し,かつ,周知の請求人製品の意匠と混同を生じさせるものであって,更には,公知の意匠との関係で新規性を欠如し,創作が容易なものでもあり,これらいずれの理由によっても,意匠の登録性が否定されるべきものである。

3 本件意匠登録の無効原因
(1)無効事由1:公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠(意匠法第5条第1号)
ア 意匠法第5条第1号の趣旨
意匠法第5条第1号では,意匠登録を受けることができない意匠として,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠」が規定されている。以下に述べるとおり,本件登録意匠は,正義観念に反し,また,社会の公の制度に反するものであるので,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠」として,意匠法48条1項1号により無効とされるべきである。
イ 被請求人の本件登録意匠が公の秩序に反すること
前記のとおり,α社が米国において販売を開始した。請求人は後発製品が発売されて間もなくα社に対して警告状を送達し,製品差し止めの申し入れをしている。
すなわち,近年,デジタル一眼レフカメラにより,本格的な撮影を行う消費者が増加する一方で,デジタル一眼レフカメラは,大きさや形状の点で,携帯するのに不便であるというデメリットがあった。請求人は多くの人々が常に携帯しているスマートフォンと,持ち運びに便利なコンパクトな円筒形のレンズ形状のカメラを組み合わせることによって,気軽に高画質な画像の撮影を可能としたのである。このような画期的な製品に対し,上記のとおり,発売当時から,高い関心が寄せられていた。
このような中,2014年(平成26年)5月ころ,α社から,米国において,後発製品が発売された。後発製品は,消費者からも,請求人製品と酷似する同種製品であると評価されている。そして,前記のとおり,被請求人信泰光學は,α社のOEMメーカーとして,後発製品を供給している。
被請求人は,請求人製品の発売後,平成25年12月27日に本件登録意匠の意匠登録出願を行った。本件登録意匠は,後発製品の意匠とほぼ同じである。本件登録意匠の図面における背面図については,「スマートフォン等と装着するための構造が示されている」と説明されている。しかしながら,単なるカメラ用レンズであれば,このように,背面がレンズ状ではなく,スマートフォンに装着するための構造に設計することは,機能的に不可能である(背面がこのような構造であるとすると,レンズとしての機能が果たせないはずである。)。
したがって,被請求人は,いわゆる「レンズ」ではなく,レンズのような形状をした円筒型の「デジタルカメラ」に関する意匠を出願するに当たり,審査において,請求人製品ないし請求人の登録意匠との類似性を審査官に指摘されることを避けるために,あえて意匠に係る物品を「デジタルカメラ」ではなく,「カメラ用レンズ」として出願したものと合理的に推測することができる。
そして,このような出願の目的は,前記のとおり,このような意匠登録をすることによって,後発製品を輸入する際,請求人登録意匠に係る意匠権侵害又不正競争防止法(2条1項1号)違反に基づく関税法による輸入差止(関税法69条の11)を避けるためという,本来,意匠法が予定している権利行使とはかけ離れた目的に濫用するものとしか考えられない。
このように,本件登録意匠の意匠登録出願は,正義観念に反し,社会的相当性を欠き,また,このような脱法的な意匠登録を認めることは,「意匠の保護及び利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与する」という意匠法の目的,及び意匠法の秩序に反するものであり,到底容認しえないものと考える。
したがって,本件登録意匠は,意匠法第5条第1号の「公の秩序・・・を害するおそれがある意匠」に該当し,意匠法第48条第1項第1号により無効にされるべきものである。
(2)無効事由2:他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠(意匠法第5条第2号)
第5条第2号の趣旨,要件
(ア)意匠における出所表示機能
「意匠は,外観から商品と結合して捉えられるものである以上,それが優れて独創的であったり,非常にユニークである場合などには,取引社会において商品の出所表示機能を果たす場合があり得る。」とされ,その場合には,「意匠をもって,副次的にも,自他商品の個別・識別化に向け,需要者の購買意欲を惹起する広告的役割を果たさせることになる」から,「意匠は,他人の商品に付加される商標と同様,他人の業務に係る物品と,出所の混同を生じさせるおそれがあ」り,「このような意匠の登録を許すなら,取引秩序を不当に害することになりかねない。」
そこで,第5条第2号は,このような「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」の登録を公益的見地から拒絶し,公正な競業秩序を維持することを目的としたものであり,その意味において,商標法第4条第1項第15号の規定と趣旨において一致し,不正競争法的性質を有する規定であるということができる。」といわれている(満田重昭・松尾和子編「注解 意匠法」190頁)。
(イ)混同のおそれの要素としての周知・著名性
第5条第2号は,他人の商標等(商品形態を含む)が「著名」であることは,特に要件としていないが,「規定の趣旨から見て,商標法の第4条1項15号の適用につき事実上認められているように相当広く知られていることを要求しているというべきである」としている説もある(前掲注解192頁)。
しかしながら,審査基準も,「他人の著名な標章やこれとまぎらわしい標章を表した意匠は,その物品がそれらの人又は団体の業務に関して作られ,又は販売されるものと混同されるおそれが多く,その意匠は他人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるものと認められるので,意匠登録を受けることができない。」(平成14年1月公表の意匠審査基準41.1.3)として,「著名」であることを,混同の生ずる場合の典型的な例のひとつとして挙げているものであり,第5条第2号が「著名性」を要件としているものと解しているわけではない。
この審査基準は,「混同のおそれがあるか否かは,デザイン間の近似性,物品の競合関係の強弱,表示の周知著名度の強弱によって強く影響される。したがって,周知著名性が強く,競合関係も強い場合にはデザイン間に一般的近似性がなくても混同の危険は生じ得る。」(加藤恒久「意匠法要説」232頁)という見解と,基本的に同一の理解に立つものと思われる。
この諸要素を総合的に勘案して混同のおそれを判断する方法こそ,最も法の規定の文言にも合致し,制度趣旨にも沿うものであって,妥当なものと考える。
(ウ)混同を生ずるおそれ
第5条第2号の「混同を生ずるおそれ」については,「『混同』とは,他人に物品と出願された意匠を具現した物品とが並列的に対比したとき相互に誤認されることをいうのではなく,物品の出所について誤認混同することをいう」(前掲注解192頁)とされている。
また,「混同を生ずるおそれ」と規定されているため,混同が生じた事実が存在しなくとも,そのおそれがあれば,本号が適用される(同旨 前記注解192頁)。
さらに,この「混同」とは,「本号が不正競争法的性質を有するところから,『混同』は,AとBとを取り違える狭義の混同に限らず,物品の出所について相互に関連性があると想定する広義の混同で足りると解すべきである。」といわれている(前記注解192頁)。
イ 請求人製品について
(ア)請求人製品の出所表示機能
上記「2 本件意匠登録の背景」記載のとおり,請求人製品は,スマートフォンと組み合わせて使える全く新しい製品であり,2013年(平成25年)9月に発売された。請求人製品は,従来のカメラと異なり,カメラのディスプレイ部分をそぎ落とし,一眼レフカメラ用交換レンズのような円筒形ボディを採用し,手持ちのスマートフォンと併せて,高画質カメラや高倍率ズームカメラのような本格的な撮影を実現できるという全く新しい画期的な製品である。当然のことであるが,このような製品は,請求人製品の発売前には,存在しなかった。
近年,デジタル一眼レフカメラにより,本格的な撮影を行う消費者が 増加する一方で,デジタル一眼レフカメラは,大きさや形状の点で,携帯するのに不便であるというデメリットがあった。請求人は,多くの人々が常に携帯しているスマートフォンと,持ち運びに便利なコンパクトな円筒形のレンズ形状のカメラを組み合わせることによって,気軽に高画質な画像の撮影を可能としたのである。
前記のとおり,このような画期的な製品に対し,発売前の製品発表当時から,高い関心が寄せられ,数多くの報道や雑誌の特集がなされている。
すなわち,請求人製品の意匠は,上記第5条第2号の趣旨において「取引社会において商品の出所表示機能を果たす場合」として例示されている,「優れて独創的であったり,非常にユニークである場合」に該当するものであり,したがって,請求人製品の意匠は,出所表示機能を有するものということができる。
他方,本件登録意匠は,同一又は少なくとも類似の物品についての類似する意匠であるから(類似性については,後述する。),請求人製品のみならず,これを同一又は類似する物品に実施すれば,請求人製品と同様に非常に独創的でユニークな形状のものとなり,本件登録意匠が出所表示機能を持つに至るであろうことは,疑いない。
よって,請求人製品の意匠は,「出所表示機能」を有するものであり,第5条第2号により保護されるべき実質的な利益があるというべきである。
(イ)混同のおそれの要素としての請求人製品の形状の周知・著名性
前記のとおり,「混同のおそれがあるか否かは,デザイン間の近似性, 物品の競合関係の強弱,表示の周知著名度の強弱によって強く影響される」ものであると解されている。
そこで,本件について,各要素について判断する。
a デザイン間の近似性
請求人製品と本件登録意匠との各デザイン間に強い近似性が存在す ることは,無効事由3について後述するところから明らかである。
すなわち,本件登録意匠は,請求人製品と同様に,カメラのディスプレイ部分がなく,一眼レフカメラ用交換レンズのような円筒形であり,背面にはスマートフォンに接続する形状のアダプターが付されているなど,請求人製品の斬新な特徴を全て模倣したといっても過言ではなく,請求人製品と酷似する。
b 物品の競合関係の強弱
請求人製品と本件登録意匠に係る製品(後発製品)は,機能,用途,需要者,市場において,全く同一であることはいうまでもない。
c 表示の周知著名度の強弱
商品表示としての請求人製品の形態が,本件登録意匠の出願時には,すでに需要者において著名,周知となっていたことは,前述のとおりである。
以上のaないしcによれば,本件登録意匠は,周知又は著名な請求人製品と出所の誤認混同を生ずる可能性が高いことが明らかである。
ウ 小括
よって,本件登録意匠は,「他人の業務に係る物品」である請求人製品と混同を生ずるおそれがある意匠であり,意匠法第5条第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきものである。
(3)無効事由3:新規性欠如(意匠法第3条第1項第3号)
本件登録意匠は,前記のとおり,欧州においては,本件意匠出願の出願日である平成25年12月27日以前である平成25年9月4日に,新たなデジタルカメラとしてプレスリリースされ,9月末日ごろには販売を開始され,また,日本においては,平成25年9月12日にプレスリリースされ,10月25日ごろには,販売が開始されたことにより,公然と知られた請求人製品1の形状に類似するから,新規性を有するものではなく,意匠法第3条第1項第3号に基づく無効事由を有する。
以下,その理由を述べる。
ア 物品の類似性
(ア)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「カメラ用レンズ」としている。一方,請求人製品1(甲第63号証。別紙第3参照。)は,「デジタルカメラ」として販売された(甲第5号証。別紙第7参照。)。しかし,本件登録意匠の意匠に係る物品と請求人製品1とは,用途及び機能が同一であるから,両物品は実質的に同一物品であり,また,仮に,両物品が実質的に同一物品でなかったとしても,両物品は少なくとも類似物品である。
まず,本件登録意匠は,意匠に係る物品を「カメラ用レンズ」として登録されている。これは,文字面上の違いはあるが,「経済産業省令で定める意 匠法施行規則別表第一(下欄)」に表された「物品の区分」に記載の「カメラレンズ」に対応する。「カメラ用レンズ」は,被写体等によって反射された光等をカメラ本体に到達させる光路が存在していなければならないから,必然的に,レンズのカメラ本体側の面の中央部には,光をカメラ本体へと通過させるレンズの面(複数枚のレンズを有する場合は後玉の面)が表れていなければならない。
本件登録意匠の意匠公報の背面図には,背面の中央部にレンズは表れておらず,ほぼ平坦な円形面で閉じられた構造とされている。このことから,本件登録意匠は,光がカメラ本体へととおり抜ける構造とはされていないことが分かる。したがって,これをカメラ本体に取付けても,或いは,本件登録意匠の意匠公報の〔意匠に係る物品〕に説明されているように,コンパクトデジタルカメラやスマートフォンに装着しても,本件の「カメラ用レンズ」をとおりぬけた光が,コンパクトデジタルカメラやスマートフォンに到達して撮像されるものではないことは明白である。このことから,本件登録意匠の意匠に係る物品は,実際には,「カメラ用レンズ」(写真レンズ)として機能せず,「カメラ用レンズ」として用いることは不可能であり,本件登録意匠に係る物品は「カメラ用レンズ」ではないといえる。
本件登録意匠に係る物品が,実際には何であるのかについて説明すると,本件登録意匠に係る物品をスマートフォンの背面に装着して使用するとされており,請求人製品1(甲第63号証。別紙第3参照。)及び請求人製品2(甲第64号証。別紙第4参照。)の使用の態様(甲第5号証。別紙第7参照。)と全く同じである。ここで請求人製品1及び請求人製品2について説明すると,請求人製品1は,通常のデジタルカメラのように正面側にレンズを備え,その筒形筐体の内部に撮像素子をもち,その周面にあるシャッターボタン(甲第63号証に符号12’で示す。)を押して撮像するデジタルカメラである。請求人製品1は撮影する像を確認するための液晶画面を備えておらず,請求人製品2であるアダプター(甲第64号証)を請求人製品1の背面に取付け,アダプターに備えられた上下一対のアームで,スマートフォンの背面に装着して使用する(甲第5号証)。本件登録意匠に係る物品も,甲第74号証に示すように,スマートフォンの背面に装着して使用するのであり,その用途及び機能は請求人製品1及び請求人製品2と全く同一であって,本件登録意匠に係る物品は,実際には「デジタルカメラ」である。
以上のとおり,本件登録意匠の意匠公報(甲第1号証の1。別紙第1参照。)の【意匠に係る物品の説明】の欄には,「本物品は,コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して用いられるカメラ用レンズである。」と記載されているが,本件登録意匠に係る物品は,上記のとおり,「デジタルカメラ」であり,これを「コンパクトデジタルカメラ」に装着することは,同コンパクトデジタルカメラの液晶モニターのみを利用する場合を想定しているものと考えられるが,一般的には想定困難である。ただし,請求人製品もこのようなコンパクトデジタルカメラに装着して使用することも不可能ではない。よって,本件登録意匠に係る物品と請求人製品1とは実質的に同一物品である。
(イ)一方,見方を変えると,デジタルカメラは,レンズを有していることで 撮像できるものであるから,本件登録意匠に係る物品である「カメラ用レンズ」は,デジタルカメラに備えられた「レンズ」としての機能を持ち,さらに,デジタルカメラとしての撮像機能をあわせもつものであるとの見方もできる。すなわち,本件登録意匠に係る物品は,レンズの機能とデジタルカメラの機能という複数の機能をもつカメラ用レンズであるから,両物品は少なくとも類似物品であるということもできる。
イ 形態の類似性
本件登録意匠と請求人製品1の意匠とは,形態(形状)が類似するものである。前述のとおり,両製品は,概括的構成態様として,レンズ型(円筒形)で背面にアタッチメントを備え,スマートフォンに取り付けてあたかも高性能デジカメのように見せることができるという基本的コンセプトにおいて同一のものであり,これを具体的に述べると,以下のように類似したものである。なお,本件登録意匠の各構成態様を甲第1号証の2(別紙第2参照)において符合で示し,請求人製品1の意匠の各構成態様を甲第63号証(別紙第3参照)において符合で示す。
(ア)本件登録意匠と請求人製品1の意匠の構成態様の比較説明
a 両意匠の共通点及び差異点
(a)両意匠は,基本的構成態様(アとア’)?(カとカ’)において共通する。すなわち,両意匠は,
(アとア’)全体形状が,正面2,2’から背面4,4’にわたって直径がほぼ一定の円筒形であり,
(イとイ’)正面2,2’がほぼ平坦な円形面で閉じられており,
(ウとウ’)背面4,4’がほぼ平坦な円形面で閉じられており,
(エとエ’)正面2,2’の円形面の外縁に,環状部6,6’を有し,
(オとオ’)正面中央に,横長のレンズ窓8,8’を有し,
(カとカ’)側面視において,長手方向に延びる凹凸10,10’が,周面の正面側領域の全周にわたって帯状に表れている,点で共通する。
また,両意匠は,具体的構成態様(キとキ’)において共通する。すなわち,両意匠は,
(キとキ’)左側面(当審注:「右側面」の誤記と認められる。)の高さ方向中央に,丸形状の操作ボタン12,12’と矩形状の操作ボタン14,14’が設けられている,点で共通する。
(b)一方,両意匠は,具体的構成態様(クとク’)?(セ)に関して,差異点がある。すなわち,両意匠は,
(クとク’)本件登録意匠においては,背面中央に上下対称に延びる略矩形状の一対のアーム16をもつ装着機構18を有し,その左右両側は左右対称の略半円形面20とされているのに対して,請求人製品1の意匠においては,背面の外周縁部の左右両側にデジタルカメラ用アダプターを取り付けるための細い円弧状突起16’が設けられており(差異点1),
(ケ)本件登録意匠においては,上面及び底面の背面側に,装着機構18の略矩形状のアーム16の上面16A及び底面16Bがそれぞれ表れているのに対して,請求人製品1の意匠においてはそのようなアームの上面及び底面が表れておらず(差異点2),
(コとコ’)正面中央のレンズ窓8,8’の形状に関し,本件登録意匠においては,レンズ窓8が,略矩形状であるのに対して,請求人製品1の意匠においては,レンズ窓8’が,左右両縁部が弧状とされた略矩形状であり(差異点3),
(サとサ’)側面視において,周面に形成された凹凸10,10’が形成された領域に関し,本件登録意匠においては,凹凸10が,長手方向の全長に対して約30%の領域に表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,凹凸10’が,長手方向の全長に対して約8%の領域に表れており(差異点4),
(シとシ’)上面の形態に関し,本件登録意匠においては,上面に,小円形部22と,その周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部24が表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,上面に,矩形部22’が表れており(差異点5),
(ス)本件登録意匠においては,背面の中央側の,装着機構18の一対のアーム16の端部16Cは,矩形状であるのに対して,請求人製品1の意匠においては,アームが設けられておらず(差異点6),
(セ)本件登録意匠においては,背面において,装着機構18の左右両側の略半円形面20上に,左右対称の弧状細帯部26が表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,そのような弧状細帯部が表れていない点(差異点7),で差異がある。
b 本件登録意匠と請求人製品1の意匠との類否
(a)両意匠の共通点について,以下に対比する。
両意匠は,基本的構成態様(アとア’)?(カとカ’)において共通する。具体的には,基本的構成態様(アとア’),(イとイ’)及び(ウとウ’),すなわち,全体形状が,正面2,2’から背面4,4’にわたって直径がほぼ一定の円筒形である点,正面2,2’がほぼ平坦な円形面で閉じられている点,及び背面4,4’がほぼ平坦な円形面で閉じられている点は,これらがあいまって意匠全体の基本的な骨格を成し,両意匠全体の円筒形の基調を決定付け,両意匠の共通感を決定付けており,さらに,両意匠に共通する具体的構成態様(キとキ’)も加わって,更に両意匠間の共通感を高めている。
ところで,本件登録意匠は意匠に係る物品を「カメラ用レンズ」として登録されたが,実際には,デジタルカメラであり,請求品製品1とその点で実質的に同一であることは,既に説明したとおりである。デジタルカメラは,通常,撮像するための液晶画面を備えているが,両意匠は,デジタルカメラにおいて必須ともいえる液晶画面を備えない構成態様とされており,全体が上記のような正面も背面もほぼ平坦な円形面で閉ざされた,直径がほぼ一定の円筒形とされている。このような構成態様は,両意匠に共通する非常に特徴的な部分であるといえる。よって,これらの構成態様における共通点が両意匠の類否判断に与える影響は非常に大きいといえる。
(b)次に,両意匠の差異点について以下に対比する。
本件登録意匠と請求人製品1の意匠とは,差異点1に関し,本件登録意匠においては,全体が平坦な背面において,その中央に,上下対称に延びる略矩形状の一対のアーム16をもつ装着機構18と,その左右両側に左右対称の略半円形面20が表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,背面の外周縁部の左右両側に,デジタルカメラ用アダプターを取り付けるための細い円弧状突起16’が設けられている点で差異があり,また,差異点6に関し,本件登録意匠においては,背面の中央側の,装着機構18の一対のアーム16の端部16Cは,矩形状であるのに対して,請求人製品1の意匠においては,アームが設けられていない点,さらに,差異点2に関し,本件登録意匠においては,上面及び底面の背面側に,装着機構18の略矩形状のアーム16の上面16A及び底面16Bがそれぞれ表れているのに対して,請求人製品1の意匠においてはそのようなアームの上面及び底面が表れていない点で,両意匠には差異がある。しかしながら,この差異点1,2及び6は,全体形状が上記のように,前面及び背面がほぼ平坦な円形面で閉じられている円筒形であるという,両意匠に共通する非常に特徴的な基本的構成態様に比べれば,それほど看者の注意を惹く部分ではない。
また,差異点3に関し,本件登録意匠においては,正面中央のレンズ窓8が,略矩形状であるのに対して,請求人製品1の意匠においては,レンズ窓8’が,左右両縁部が弧状とされた略矩形状である点で,両意匠には差異がある。しかしながら,カメラのレンズ部の正面に略矩形のレンズ窓が表れている意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前,かつ,請求人製品1の意匠の公知となった日以前に多数存在し,レンズの正面に略矩形のレンズ窓を有する意匠は,上記時点において周知であったといえる。また,同様に,左右両縁部が弧状とされた略矩形状のレンズ窓が表れている意匠も,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前,かつ,請求人製品1の意匠の公知となった日以前に多数存在し,左右両縁部が弧状とされた略矩形状のレンズ窓は,上記時点において周知であったといえる。したがって,両意匠の差異点3は,需要者の注意を惹くものでは全くなく,意匠の類否判断に与える影響は小さいといえる。
さらに,差異点4に関し,本件登録意匠においては,側面視において,周面に光軸方向に向かって形成された多数の細い溝(以下,「凹凸」という。)10が,長手方向の全長に対して約30%の幅の領域に表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,凹凸10’が,長手方向の全長に対して約8%の幅の領域に表れている点で,両意匠には差異がある。しかし,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前,かつ,請求人製品1の意匠の公知となった日以前に存在する公知意匠(甲第82号証ないし甲第87号証)を見ると,凹凸がレンズ部の長手方向の様々な位置にあり,また,全長に対して様々な幅の領域に表れている。このことから,カメラのレンズ部において,周面に表れる凹凸の幅や位置の差異は,需要者の注意を惹くものではないといえる。したがって,この差異点が意匠の類否判断に与える影響は小さい。
さらに,差異点5に関し,本件登録意匠においては,上面に,小円形部22と,その周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部24が表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,上面に,矩形部22’が表れている点で,両意匠には差異がある。しかしながら,例えば,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前に発行された意匠登録第1442753号(甲第88号証。別紙第10参照。)には,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部が表れており,したがって,このような具体的構成態様は公知である。また,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前,かつ,請求人製品1の意匠の公知となった日以前に発行された意匠登録第144083345号(甲第89号証。別紙第11参照。),意匠登録第1440861号(甲第90号証。別紙第12参照。)には,上面に小円形部が表れており,意匠登録第1000755号(甲第91号証),意匠登録第1043568号(甲第92号証),及び意匠登録第1293872号(甲第93号証)には上面に矩形部が表れている。つまり,上面に小円形部や矩形部の形状部が形成されることはいずれも,周知であったといえる。よって,上面に施された形状の差異は,需要者の注意を惹くものではなく,この差異点が意匠の類否判断に与える影響は小さい。
さらに,差異点7に関し,本件登録意匠においては,背面において,装着機構18の左右両側の略半円形面20上に,左右対称の弧状細帯部26が表れているのに対して,請求人製品1の意匠においては,そのような弧状細帯部が表れていない点で両意匠には差異がある。しかしながら,本件登録意匠に表れる弧状細帯部は,幅の狭い帯状であり,かつ背面と殆ど同レベル程度ともいえる極薄のものであり,需要者の注意を惹くものではない。しかも,このような弧状細帯部は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日の何年も前に販売が開始された電子製品(甲第94号証(当審注:抜粋を別紙第13に示す。)及び甲第95号証(別紙第14参照))に表れており,公知の構成態様であった。よって,この具体的構成態様の差異点は需要者の注意を惹くものではなく,この差異点が意匠全体の類否判断に及ぼす影響は微弱であるといえる。
(c)全体観察
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に観察すると,両意匠は,特に基本的構成態様(アとア’)?(カとカ’)が共通しており,また具体的構成態様(キとキ’)も基本的構成態様とあいまって,両意匠を特徴づけているのに対して,両意匠の具体的構成態様に関する差異点1?7はいずれも類否判断に与える影響が小さい。そのため,両意匠の全体を対比すると,特徴的な構成態様に関する共通点が,差異点を大きく凌駕しているということができ,意匠全体から感得される美感も本件登録意匠と請求人製品1の意匠とで共通しているといえる。
したがって,本件登録意匠は請求人製品1の意匠に類似しているといえる。
ウ 小括
よって,本件登録意匠は,請求人製品1の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(4)無効事由4:創作容易性(意匠法第3条第2項)
ア 冒頭で説明したとおり,請求人製品1(甲第63号証。別紙第3参照。)の意匠や,請求人製品3(甲第65号証。別紙第5参照。)の意匠は,正に,当業者の立場からみて,創作性が高く,また,着想に新しさないし独創性がある意匠である。すなわち,請求人製品1や,請求人製品3の意匠は,スマートフォン等の液晶画面を,被写体の像の確認のためのモニター画面として利用するという斬新な着想に基づき,デジタルカメラにおいて撮像の際に必須である液晶画面を省く意匠とし,上記のように,全体の基本的形態を,液晶画面を備えず,基本的に前面と背面が略平坦な円形面で閉じられた,直径が略一定の円筒形状のコンパクトな形状の意匠とした。このようにして創作された意匠は,デジタルカメラの意匠として創作性が極めて高く,独創性のあるものである。
一方,本件登録意匠は,そのような創作性が極めて高くて独創性のある請求人製品3の意匠の特徴をほぼそのまま踏襲したものであり,これらの意匠の差異点は,少なくとも日本国内において公然知られた形状から選択した態様を請求人製品1または請求人製品2の意匠に適用し,又は上記の公知の形状に基づき,当業者にとってありふれた手法等によってなされた若干の変更にすぎず,ここには着想の新しさないし独創性を見出すことはできない。
よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の目的とされている,創作性の高い意匠の保護に値するものであるということは到底できないから,意匠法第3条第2項に基づく無効事由を有するものと考える。
イ 本件登録意匠と請求人製品3の構成態様の対比
以下において,本件登録意匠と,請求人製品3の構成態様との対比を行うこととする。なお,本件登録意匠の各構成態様を甲第1号証の2(別紙第2参照)において符合で示し,請求人製品3の意匠の各構成態様を甲第65号証(別紙第5参照)において符合で示す。
(ア)本件登録意匠と請求人製品3の意匠との比較説明
a 両意匠の共通点及び差異点
(a)両意匠は,基本的構成態様(アとア”)?(カとカ”)において共通する。すなわち,両意匠は,
(アとア”)全体形状が,正面2,2”から背面4,4”にわたって直径がほぼ一定の円筒形であり,
(イとイ”)正面2,2”がほぼ平坦な円形面で閉じられており,
(ウとウ”)背面4,4”がほぼ平坦な円形面で閉じられており,
(エとエ”)正面2,2”の円形面の外縁に,環状部6,6”を有し,
(オとオ”)正面中央に,横長のレンズ窓8,8”を有し,
(カとカ”)側面視において,長手方向に延びる凹凸10,10”が,周面の正面側領域の全周にわたって帯状に表れている,点で共通する。
また,両意匠は,具体的構成態様(キとキ”)?(ケとケ”)において共通する。すなわち,両意匠は,
(キとキ”)左側面(当審注:「右側面」の誤記と認められる。)の高さ方向中央に,丸形状の操作ボタン12,12”と矩形状の操作ボタン14,14”が設けられており,
(クとク”)背面中央に,上下対称に延びる略矩形状の一対のアーム16,16”をもつ装着機構18,18”を有し,その左右両側は,左右対称の略半円形面20,20”とされており,
(ケとケ”)上面及び底面の背面側に,装着機構18,18”の略矩形状のアーム16,16”の上面16A,16A”及び底面16B,16B”がそれぞれ表れている,点で共通する。
(b)一方,両意匠は,具体的構成態様(コとコ”)?(セ)に関して,差異点がある。すなわち,両意匠は,
(コとコ”)正面中央のレンズ窓8,8”の形状に関し,本件登録意匠においては,レンズ窓8が,略矩形状であるのに対して,請求人製品3の意匠においては,レンズ窓8”が,左右両縁部が弧状とされた略矩形状であり(差異点1),
(サとサ”)側面視において,周面に形成された凹凸10,10”が形成された領域に関し,本件登録意匠においては,凹凸10が,長手方向の全長に対して約30%の領域に表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,凹凸10”が,長手方向の全長に対して約8%の領域に表れており(差異点2),
(シとシ”)上面の形態に関し,本件登録意匠においては,上面に,小円形部22と,その周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部24が表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,上面に,矩形部22”が表れており(差異点3),
(スとス”)背面の中央側の,装着機構18,18”の一対のアーム16,16”の端部16C,16C”の形状に関し,本件登録意匠においては,アーム16の端部16Cは,矩形状であるのに対して,請求人製品3の意匠においては,アーム16”の端部16C”は,円弧状であり(差異点4),
(セ)本件登録意匠においては,背面において,装着機構18の左右両側の略半円形面20上に,左右対称の弧状細帯部26が表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,そのような弧状細帯部が表れていない点(差異点5),で差異がある。
(イ)本件登録意匠と請求人製品3の意匠との共通点及び差異点の考察
a 両意匠の共通点について以下に説明する。
両意匠は,基本的構成態様(アとア”)?(カとカ”),すなわち,全体形状が,正面2,2”から背面4,4”にわたって直径がほぼ一定の円筒形である点,正面2,2”及び背面4,4”がほぼ平坦な円形面で閉じられている点が共通している。これらはあいまって,両意匠の基本的な骨格を成し,両意匠全体の円筒形の基調を決定付け,両意匠の共通感を決定付けており,それに加えて,両意匠は,具体的構成態様(キとキ”)?(ケとケ”),すなわち,左側面の高さ方向中央に,丸形状の操作ボタン12,12”と矩形状の操作ボタン14,14”が設けられており,また,背面中央に,上下対称に延びる略矩形状の一対のアーム16,16”をもつ装着機構18,18”を有し,その左右両側は,左右対称の略半円形面20,20”とされており,さらに,上面及び底面の背面側に,装着機構18,18”の略矩形状のアーム16,16”の上面16A,16A”及び底面16B,16B”がそれぞれ表れている,点で互いに共通している。
b 一方,本件登録意匠と請求人製品3の意匠との間には,下記の差異点があるものの,それらの差異点には,意匠の着想の新しさや独創性は全くない。
以下,これについて,各差異点について説明する。
差異点1に関し,本件登録意匠においては,正面中央のレンズ窓8が,略矩形状であるのに対して,請求人製品3の意匠においては,レンズ窓8”が,左右両縁部が弧状とされた略矩形状である点で,両意匠には差異がある。しかしながら,カメラのレンズ部の正面に略矩形のレンズ窓が表れている意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前に多数存在する。したがって,請求人製品3の意匠の左右両縁部が弧状とされた略矩形状のレンズ窓に代えて,公知の略矩形のレンズ窓にすることは,本件意匠出願当時,広く知られた手法での形状の改変,又はありふれた手法による置き換えであって,これに格別の創作を要したものではないといえる。
また,差異点2に関し,本件登録意匠においては,側面視において,周面に形成された凹凸10が,長手方向の全長に対して約30%の幅の領域に表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,凹凸10”が,長手方向の全長に対して約8%の幅の領域に表れている点で,両意匠には差異がある。しかし,カメラのレンズ部の外周に,様々な幅の凹凸が表れる意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前に多数存在しており,凹凸を長手方向全長に対して様々な幅に形成することは,当業者が適宜行い得ることである。特に,凹凸の形成領域を長手方向全長に対して約30%とすることは,意匠登録第1293312号(甲第85号証。別紙第15参照。)にも表れており,本件登録意匠において,上記領域を30%とすることは,当業者が適宜行い得る変更の範囲内ということができ,これに格別の創作を要したものではないといえる。
さらに,差異点3に関し,本件登録意匠においては,上面に,小円形部22と,その周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部24が表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,上面に,矩形部22”が表れている点で,両意匠には差異がある。しかしながら,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部が表れている構成態様は,例えば,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前に発行された意匠登録第1442753号(甲第86号証。当審注:甲第88号証の誤記と認められる。別紙第10参照。)にも見られるところであるから,請求人製品3の意匠において,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部を表すことは,これに格別の創作を要したものではないといえる。
さらに,差異点4に関し,本件登録意匠においては,背面の中央側の,装着機構18の一対のアーム16の端部16Cは,矩形状であるのに対して,請求人製品3の意匠においては,アーム16”の端部16C”は弧状である点で,両意匠には差異がある。しかし,装着機構のアームにおける先端の角部の若干の形状の変更は,当業者にとって一般的な手法を用いて適宜なし得る変更である点であり,本件意匠出願の出願日前に公然と知られていた,例えば,甲第96号証(別紙第16参照)及び甲第97号証(当審注:抜粋を別紙第17に示す。)に表れた意匠のアームの先端形状を見ても分かる。したがって,請求人製品3の意匠において,装着機構のアームの先端角部の形状を矩形状にすることは,当業者が適宜行い得る改変であり,これに格別の創作を要したものではないといえる。
さらに,差異点5に関し,本件登録意匠においては,背面において,装着機構18の左右両側の略半円形面20上に,左右対称の弧状細帯部26が表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,そのような弧状細帯部が表れていないという点で,両意匠には差異がある。しかしながら,本件登録意匠に表れる弧状細帯部は,本件登録意匠に係る物品「カメラ用レンズ」をスマートフォン等に装着する際に,スマートフォンの表面あるいはカメラ用レンズの背面を保護するために設けられた緩衝保護部品である。ここで,電子機器同士を互いに取り付けるに当たっては,互いの接触面を傷つけないように,その接触面に保護部品を設けることは,カメラやレンズの意匠の属する分野に限らず,電子機器や日常品等の属する他の分野においても,極めて一般的に行う手法である。また,その形状をいかなるものとするかは,当業者が適宜行い得る程度のことであるが,例えば,甲第94号証(別紙第13参照)及び甲第95号証(別紙第14参照)に表れている電子機器の背面の左右両側に弧状細帯部が表れており,請求人製品3の意匠において背面に弧状細帯部を設けることは,これに格別の創作を要したものではないといえる。
以上のとおり,本件登録意匠は,請求人製品3の意匠の形状を,少なくとも日本国内において公然知られた形状(例えば,甲第76?78,80?87,94?97号証(当審注:甲第88号証が含まれておらず,誤記と認められる。)に示された形状)から選択した態様を請求人製品3の意匠に適用し,又は上記の公知の形状に基づき,請求人製品3の意匠を,当業者にとってありふれた手法を用いて若干変更等したにすぎないから,請求人製品3の意匠に基づき,当業者が容易に創作することができたものである。
ウ 小括
よって,本件登録意匠は,請求人製品1の意匠の形状,及び請求人製品2の意匠の形状に基づいて,また,公知の形状等に表れるようなありふれた手法による変更によって,当業者が,容易に本件登録意匠を創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(5)結語
よって,請求人は,請求の趣旨記載の審決を求めるものである。
(6)証拠
以下の甲号証は,全て写しである。
甲第1号証の1 意匠登録第1514997号公報
甲第1号証の2 意匠登録第1514997号公報の符号入り図面
甲第2号証 意匠登録第1496324号公報
甲第3号証 意匠登録第1500744号公報
甲第4号証 engadget 日本版(2013年(平成25年)9月4日掲載記事/「速報:ソニーIFA2013プレカンファレンス。Xperia Z1やレンズカメラ,VAIOタブレットPC発表」(URL http://Japanese.engadget.com/2013/09/04/ifa-2013/)
甲第5号証 SONY(2013年(平成25年)9月12日)掲載プレスリリース/「『レンズスタイルカメラ』を発売」(URL http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/201309/13-0912/)
甲第6号証 REUTERS ロイター(2013年(平成25年)9月12日)掲載記事/「ソニー,レンズ型カメラを日本で10月から発売」(URL http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPTYE98B06U20130912)
甲第7号証 縣氏陳述書
甲第8号証 GOOD DESIGN AWARD「2014年度グッドデザイン金賞」のページ(URL http://www.g-mark.org/award/describe/41083)
甲第9号証の1 Red Dot Award:Product Design(2014年)掲載ページ「reddot award 2014best of the best」(URL http://red-dot.de/pd/online-exhibition/work/?lang=en&code=21-03856-2014&y=2014&c=165&a=0)
甲第9号証の2 甲第9号証の1の部分翻訳
甲第10号証の1 iF online exhibition 「iFDesign Award 2014,DSX-QX10/QX100」のページ(URL http://exhibition.ifdesign.de/entrydetails_en.html?beitrag_id=127665)
甲第10号証の2 甲第10号証の1の部分翻訳
甲第11号証 共同通信ニュース(2013年(平成25年)9月4日)掲載記事/「ソニーが新型スマホ,独で発表-カメラ機能強化,米韓勢に対抗」
甲第12号証 産経新聞(2013年(平成25年)9月5日)掲載記事/「ソニーが新型 スマホにレンズ装着」
甲第13号証 熊本日日新聞(2013年(平成25年)9月5日)掲載記事/「ソニー カメラ強化の新スマホ」
甲第14号証 四国新聞(2013年(平成25年)9月5日)掲載記事/「ソニーが新型スマホ カメラ機能強化」
甲第15号証 中国新聞(2013年(平成25年)9月5日)掲載記事/「ソニー新型はカメラを強化」
甲第16号証 信濃毎日新聞(2013年(平成25年)9月5日)掲載記事/「ソニーが新型スマホ エクスペリアのカメラ機能強化」
甲第17号証 共同通信ニュース(2013年(平成25年)9月5日)掲載記事/「ソニー,ウェアラブル端末に意欲?平井社長インタビュー」
甲第18号証 四国新聞(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「『身に着ける端末』に意欲 ソニー社長『まねできない商品出す』」
甲第19号証 フジサンケイビジネスアイ(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「ソニー スマホも機能強化 他社製OKレンズ型カメラ」
甲第20号証 日経産業新聞(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「カメラ業界に波紋呼ぶ,ソニー,概念変えるスマホ装着型,コンパクト型市場狙う。」
甲第21号証 西日本新聞(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「次は『身に着ける端末』 腕時計型,メガネ型 スマホ後へ続々『利用者離せなくなる』 平井ソニー社長 市場拡大に意欲」
甲第22号証 静岡新聞(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「ソニー,新型スマホ カメラ強化 海外勢に対抗」
甲第23号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「スマホに装着できるレンズ型カメラ アプリで操作」
甲第24号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「単体から生態系へ,変わるスマホの競争軸 独見本市で火ぶた」
甲第25号証 愛媛新聞(2013年(平成25年)9月6日)掲載記事/「ソニー平井一夫社長 次代はウェアラブル端末 サムスン電子と『厳しい競争』」
甲第26号証 フジサンケイビジネスアイ(2013年(平成25年)9月13日朝刊)掲載記事/「ソニー レンズ型カメラ 来月25日に発売」
甲第27号証 朝日新聞(2013年(平成25年)9月13日朝刊)掲載記事/「ソニー スマホに装着するカメラ」
甲第28号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)9月13日)掲載記事/「ソニーのレンズ型デジカメ,国内では2万5000円から」
甲第29号証 日経産業新聞(2013年(平成25年)9月13日)掲載記事/「スマホ,一眼感覚で ソニーがレンズ型カメラ」
甲第30号証 日経エレクトロニクス(2013年(平成25年)9月16日号)掲載記事/「NE Reports ソニーがデジカメで新機軸 スマホに装着して使用 シャッターやズームもアプリから制御」
甲第31号証 日本証券新聞(2013年(平成25年)9月17日)掲載記事/「竹中三佳の 株Catch one’s eye(Part16)=レンズスタイルカメラ」
甲第32号証 週刊東洋経済 2013年9月21日号(2013年(平成25年)9月17日発行)掲載記事/「高級機『エクスペリアZ1』を投入 ソニーの救世主は『周辺機器』」
甲第33号証 北海道建設新聞(2013年(平成25年)9月18日)掲載記事/「≪製品カート≫ ソニーがレンズスタイルカメラを10月25日に発売へ」
甲第34号証 静岡新聞(2013年(平成25年)9月19日)掲載記事/「商品ニューフェース スマホに装着するカメラ」
甲第35号証 日経産業新聞(2013年(平成25年)9月20日)掲載記事/「IT系新製品へのツイート レンズ型カメラ話題に」
甲第36号証 日経パソコン(2013年(平成25年)9月23日号)掲載記事/「ドイツの家電見本市「IFA 2013」で新製品の展示相次ぐ 4K対応製品が続々,レンズ型デジカメも登場」
甲第37号証 日経ビジネス(2013年(平成25年)9月23日号)掲載記事/「世界鳥瞰 斬新か自己満足か ソニー新製品の行方」
甲第38号証 フジサンケイビジネスアイ(2013年(平成25年)9月24日朝刊)掲載記事/「スマホが市場浸食 生存競争に拍車 デジカメ 危急存亡の秋 コンデジ主体の下位メーカーは撤退も」
甲第39号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)9月25日)掲載記事/「ソニー,スマホの低価格化に備える秘策」
甲第40号証 Mac Fan 2013年11月号(2013年(平成25年)9月28日発行)掲載記事/「日々是検証 Road Test」
甲第41号証 日経エレクトロニクス(2013年(平成25年)9月30日号)掲載記事/「解説 誰でも作れる4Kテレビ スマホや白物も競争激化 欧州最大の家電展示会『IFA 2013』から」
甲第42号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)10月1日)掲載記事/「CEATEC,注目は次世代スマホや高解像度タブレット」
甲第43号証 日本経済新聞夕刊(2013年(平成25年)10月1日)掲載記事/「ドコモが眼鏡型機器 見本市『シーテック』開幕 テレビ,『4K』競う」
甲第44号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)10月2日)掲載記事/「スマホ撮影 デジカメ感覚 ソニー」
甲第45号証 日経産業新聞(2013年(平成25年)10月10日)掲載記事/「注目の一品 スマホにレンズ装着」
甲第46号証 日経ビジネスアソシエ 2013年(平成25年)11月号(2013年10月10日発行)掲載記事/「今月のスグレモノ 画期的な試みをしたデジタルカメラ2製品」
甲第47号証 日経パソコン(2013年(平成25年)10月14日号)掲載記事/「注目の新製品 New Products 大型撮像素子と明るいレンズで高級機並みの画質 スマホと一緒に使うレンズ型デジカメ」
甲第48号証 日経パソコン(2013年(平成25年)10月14日号)掲載記事/「ニュース&トレンド News&Trend」
甲第49号証 日経MJ(流通新聞)(2013年(平成25年)10月14日)掲載記事/「フォーカス 家電マーケット デジタル家電 動き始めた高価格帯製品 高級ノートPC好調/高額デジカメ拡大」
甲第50号証 日経TRENDY 2013年12月号(2013年(平成25年)11月2日発行)掲載記事/「古瀬幸弘の実験工房 スマートフォンで使う新しいカメラ ソニー・DSC-QX100・QX10」
甲第51号証 日経WOMAN 2013年12月号(2013年(平成25年)11月7日発行)掲載記事/「いま買うべき&2014年注目のデジタルツール&家電」
甲第52号証 サンデー毎日 2013年(平成25年)11月10日版掲載記事/「北村 森の 一生逸品 レンズ型カメラはクセモノだった」
甲第53号証 フジサンケイビジネスアイ(2013年(平成25年)11月12日朝刊)掲載記事/「現場の風 『スマホと共存するカメラ』で新風」
甲第54号証 日経TRENDY 2014年1月号(2013年12月4日発行)掲載記事/「一芸カメラ 5万円以下で買って遊べる『特化型カメラ』 『全天球』の世界観が,写真の概念を覆す」
甲第55号証 日本経済新聞電子版セクション(2013年(平成25年)12月5日)掲載記事/「スマホと組み合わせて使う高画質のレンズ型デジカメ?ソニー『サイバーショット DSC-QX100』」
甲第56号証 日経パソコン(2013年(平成25年)12月9日号)掲載記事/「特集3 製品トレンドと選び方をチェック! 最新デジタルカメラ 購入ガイド」
甲第57号証 日経消費インサイト 2013年12月号(2013年12月10日発行)掲載記事/「新製品認知度 3000人 クイックサーチ <10月発売分>」
甲第58号証 日経産業新聞(2013年(平成25年)12月10日)掲載記事/「年末商戦 売れ筋家電 量販店予測 本社調査」
甲第59号証 中村合同特許法律事務所の細川氏撮影による後発製品の写真
甲第60号証の1 α社に対する警告状
甲第60号証の2 甲第60号証の1の翻訳文
甲第61号証の1 MIITによる無線機器の認証リスト
甲第61号証の2 甲第6 1号証の1の部分翻訳
甲第62号証 すまほん!!(2014年(平成26年)1月15日掲載記事/
甲第63号証 中村合同特許法律事務所の細川氏作成の請求人製品1の符号入り写真
甲第64号証 中村合同特許法律事務所の細川氏撮影による請求人製品2の写真
甲第65号証 中村合同特許法律事務所の細川氏作成の請求人製品3の符号入り写真
甲第66号証 カメラの実際知識 第5版 東洋経済新報社発行 辻内順平編著 第1,13頁
甲第67号証 日本意匠分類 分類定義カード J3-2911「カメラレンズ」
甲第68号証 日本意匠分類 分類定義カード J3-22「フィルム記録式カメラ」,J3-22 A「一眼レフ型」
甲第69号証 特許庁 特許情報プラットフォーム 検索結果
甲第70号証 特許庁 特許情報プラットフォーム 検索結果一覧
甲第71号証 意匠登録第1492209号公報
甲第72号証 意匠登録第1509262号公報
甲第73号証 意匠登録第1309228号公報
甲第74号証の1 PCMag(2014年(平成26年)7月22日)掲載ページ
甲第74号証の2 甲第74号証の1の部分翻訳
甲第75号証 東京公判平成9年2月26日・平成8年(行ケ)第66号
甲第76号証 意匠登録第1480835号公報
甲第77号証 意匠登録第1478465号公報
甲第78号証 意匠登録第1466667号公報
甲第79号証 意匠登録第1480847号公報
甲第80号証 意匠登録第1473893号公報
甲第81号証 意匠登録第1392626号公報
甲第82号証 意匠登録第1079387号公報
甲第83号証 意匠登録第1429760号公報
甲第84号証 意匠登録第1293871号公報
甲第85号証 意匠登録第1293312号公報
甲第86号証 意匠登録第1293872号公報
甲第87号証 意匠登録第1117876号公報
甲第88号証 意匠登録第1442753号公報
甲第89号証 意匠登録第1440845号公報
甲第90号証 意匠登録第1440861号公報
甲第91号証 意匠登録第1000755号公報
甲第92号証 意匠登録第1043568号公報
甲第93号証 意匠登録第1293872号公報
甲第94号証の1 Wikipedia,the free encyclopedia 掲載ページ「PSP Go」(URL http://en.wikipedia.org/wiki/PSP_Go)
甲第94号証の2 甲第94号証の1の部分翻訳
甲第95号証 AKIBA PC Hotline!(2009年9月12日号)「マイクロソフト Wireless Mobile Mouse 4000の概要」(http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20090912/image/mwmm4k3.html)
甲第96号証 juggly.cn(2013年(平成25年)11月22日)掲載ページ「Sony Mobileが『スマートイメージングスタンド IPT-DS10M』の販売を開始」(URL http://juggly.cn/archives/100400.html)
甲第97号証 Amazon.co.jp 掲載ページ「槌屋ヤック ホルダー ワンタッチTELホルダー エアコン PZ-576」(http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A4%E3%83%83%E3%82%AF-YAC-%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%81TEL%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC-%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%82%B3%E3%83%B3-PZ-576/dp/B006WT4PQS)

4 「審判事件弁駁書」における主張
(1)無効事由1(意匠法第5条第1号)について
ア 被請求人は,答弁書において,「『カメラ用レンズ』において背面がレンズ状であることが必須の構成であるかの如く請求人は主張するが,当該主張はフィルム式の銀塩カメラに固執した偏見に基づくものである。例えばイメージセンサ等の撮像素子を用いたデジタルカメラの『カメラ用レンズ』の背面は必ずしもレンズ状でなくて構わない。」と主張し,具体例として乙第1号証(別紙第18参照)?乙第3号証(別紙第20参照)を挙げるが,誤りである。
乙第1号証?乙第3号証の登録意匠は,レンズの背面は確かにレンズが露出する形態ではないが,いずれも,シャッターボタン,電源ボタンなど,撮影者が写真撮影のために操作する部材は,すべてカメラボディにあり,登録意匠の対象となっているレンズ側には全く存在しない。すなわち,乙第1号証?乙第3号証のレンズは,あくまでレンズであり,これだけでは撮影が行えず,単体ではカメラとして機能し得ない構造となっている。したがって,これら乙第1号証?乙第3号証の意匠に係る物品は,「カメラ」単独として機能することはなく,カメラボディに取り付けられて使用されるアクセサリー品としての「カメラ用レンズ」にすぎない。
本件登録意匠には,シャッターボタンが存在し,本件登録意匠の構成のみで撮影が可能であり,単体でカメラの基本的機能を有するものであり,乙第1号証?乙第3号証のように,撮影のために別途カメラ本体の構成を必要としないものである。したがって,本件登録意匠に係る物品は,乙第1号証?乙第3号証の意匠に係る物品とは本質的に異なるものであり,請求人製品と同様のレンズ型の「カメラ」であって,これを敢えて「レンズ」として意匠登録出願した被請求人の出願目的が,審判請求書に記載したとおり,本件登録意匠の意匠登録出願が意匠法の目的,及び意匠法が前提としている公の秩序に反するものであることを基礎づけるものである。
イ また,被請求人は,答弁書において,「一般にカメラと称される製品はファインダー(覗き窓や液晶画面等)を具備するところ,本件登録意匠はファインダーを具備しないレンズであることから,カメラではなく『カメラ用レンズ』の意匠として出願することに何ら問題はない」と主張する。
しかしながら,そもそも,一般的に「カメラ」とは,「針穴・レンズ・レンズ反射鏡などの光学系を用いて,被写体の映像を暗箱内のすりガラス・紙・感光材料・撮像素子などの面上に結ばせる装置」とされている(甲第99号証「広辞苑第六版」)。すなわち,覗き窓や液晶画面はカメラとしての本質的な構成とされておらず,撮影のための補助的な機能を持つにすぎない。
本件登録意匠は,レンズとともに撮影用のシャッターを具備し,被写体の映像を内部の撮像素子の面上に結ばせるものであることは,その意匠及び物品の説明により明らかであり,それ自体で映像を撮影する機能を有するものであるから,単なる「レンズ」ではなく「カメラ」であることは明らかである。
また,請求人製品1は,デジタルカメラである(甲第4号証(別紙第6参照)?甲第6号証(別紙第8参照))が,ファインダーや液晶モニター等を有していない。
(2)無効事由2(他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠?意匠法第5条第2号)について
ア 被請求人は,審判請求書においても引用している「他人の著名な標章やこれとまぎらわしい標章を表した意匠」が意匠登録を受けることができないとした意匠審査基準を挙げながら,それ以上に具体的根拠を挙げることなく,「請求人製品を『著名標章』と同一視することはできない。」として,意匠法第5条第2号該当性を否定する(答弁書)が,誤りである。
まず,意匠法第5条第2号は,その規定上,意匠登録を受けることができない要件として,他人の商標等(商品形態を含む)が「著名」であることを挙げているものではない。上記の審査基準も,他人の「著名」な標章やこれとまぎらわしい標章を表した意匠を,混同の生ずる場合の典型的な例のひとつとして挙げているものであり,「著名」性を要件とする旨を述べたものではなく,また,「著名」がどの程度広く知られていることをいうのかについて,明らかにするものでもない。審判請求書においても引用した「意匠法要説」にあるように「混同のおそれがあるか否かは,デザイン間の近似性,物品の競合関係の強弱,表示の周知著名度の強弱によって影響される」と,他の要素との関係で総合的に考慮されるべき要素というべきである。
そして,本件のように,デザイン間の近似性,物品の競合関係も大きく,しかも請求人製品の商品形態が世界的に広く知られているという場合には,審査基準にいう「著名」性をも満たすものであるが,厳密に「著名」の意義を確定し,請求人製品がこれに該当するか否かを他の要素から切り離して独立に吟味することに意味はない。
審判請求書で述べたとおり,請求人製品は,スマートフォンと組み合わせて使える全く新しい製品で,従来のカメラと異なり,カメラのディスプレイ部分をそぎ落とし,一眼レフカメラ用交換レンズのような円筒形ボディを採用し,手持ちのスマートフォンと併せて,高画質カメラや高倍率ズームカメラのような本格的な撮影を実現できるという極めて画期的な製品である。その上,甲第11号証?58号証に例示されるとおり,請求人製品には発売前の製品発表当時から,高い関心が寄せられ,数多くの報道や雑誌の特集がなされた。
したがって,請求人製品は,非常に広く知られた特徴的な製品であり,これと酷似した本件登録意匠が登録された場合,請求人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるものと認められることは明らかである。
イ また,被請求人は,「本件登録意匠が請求人製品の意匠に類似しない」(答弁書)と主張するが,請求人が審判請求書で述べ,また,本弁駁書でも後述するとおり,本件登録意匠が請求人製品の意匠に類似していることは明らかである。
ウ よって,被請求人の主張はいずれも誤りであり,本件登録意匠は,「他人の業務に係る物品」である請求人製品と混同を生ずるおそれがある意匠であり,意匠法第5条第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,意匠法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。
(3)無効事由3(意匠法第3条第1項)について
ア 物品の類似性について
本件登録意匠に係る物品と請求人製品1とはいずれもカメラであり,両意匠に係る物品は実質的に同一である。
また,仮に物品名をあくまでも形式的にとらえ,両物品が同一とはいえないという被請求人の主張を仮に前提としたとしても,カメラ機能を主とするのか,あるいはレンズ機能を主とするかという形式的な違いにすぎず,少なくとも類似物品であることは否定のしようがない
イ 形態の類似性について
(ア)答弁書において,被請求人は,本件登録意匠の特徴点として下記の2点を挙げている。
a 被請求人が主張する「特徴1」について
被請求人は,本件登録意匠が有する特徴1として,「平面図において,最上部領域は細長い帯状であるが,下向きに円弧形の半島領域を突出すると共に,この円弧形半島領域内で,方形,円形,半円形等の各種幾何形状を利用して複雑な視覚変化を形成する」態様を挙げ,一方,請求人が提出した「甲第88?93号証には半円形,円形や矩形の形状が漠然と無機的に開示されているにすぎず,本件登録意匠の平面図に記載されるような方形,円形,半円形等の幾何形状相互の有機的なつながりは何ら示されていない」と主張する。
まず,被請求人が主張する「方形,円形,半円形等の幾何形状相互の有機的なつながり」とは何を意味するのか必ずしも明らかではないが,被請求人は,なぜ,方形,円形,半円形等の部分に「幾何形状相互の有機的なつながり」があるとしているのか,その理由を全く述べておらず,また,そのような主張の根拠となる証拠も提出していない。したがって,被請求人の上記主張は理由が明らかでなく,また根拠のない主張である。
被請求人が述べる「幾何形状相互の有機的なつながり」は,方形,円形,半円形等の部分に意匠的なまとまりがあるという趣旨かもしれない。仮に,それがそのような意味であるとする。しかし,円形部分(符号22)は電源ボタンであり,方形部分は取付機構の矩形のアーム(符号16)の端部の本体への枢着部の上面(符号16A)であり,また,半円形(符号24)は上記円形の操作ボタンを取り囲み,上記円形操作ボタンが本体から突出せず,かつ押し下げ可能とする凹部であり,これらの部分の形伏は,それぞれが独立した機能に由来するものであって,それらは個別には後述するとおりありふれた形状であって,また,これらの形状の相互間に意匠的なまとまりがあるとは到底評価できない。
また,例えば,甲第88号証(別紙第10参照)?甲第90号証(別紙第12参照)に表れているように,カメラ用レンズの意匠において,外周の様々な位置に円形のボタンを配置することは広く知られている。また,例えば,甲第88号証に示すカメラ用レンズの意匠には,円形部のボタンとその周りに半円形と矩形を組み合せた形状部が表れており,また,本件登録意匠の出願の出願日前に公知である甲第65号証(別紙第5参照)に示す請求人製品3の意匠にも,円形部のボタン(甲第65号証の符号12”)とその周りに半円形と矩形を組み合せた形状部が表れている。このように,この形状も本願出願前より広く知られたものである。
したがって,本件登録意匠のこれらの態様は,特段需要者の注意を惹くものではなく,被請求人が「特徴1」として挙げている態様が,類否判断に及ぼす影響は小さい。
b 被請求人が主張する「特徴2」について
本件登録意匠が有する特徴2として「背面図には,本願意匠に係るカメラ用レンズをスマートフォン等と装着するための構造が示されており,中央部上下にわたって設けられている装着機構を介してスマートフォン等に装着することができる」態様を挙げ,「本件登録意匠の背面図には独特のデザインが施されており,需要者は製品サンプルを手に取って背面を容易に弁別できるのであるから,類否判断において特徴2は大いに考慮されるべきである。」と主張する。しかし,上記特徴2として述べている態様は,全体形状が,前面及び背面がほぼ平坦な円形面で閉じられている円筒形であるという,両意匠に共通する非常に特徴的な基本的構成態様に比べれば,それほど看者の注意を惹くことはない。
また,本件登録意匠の背面の左右両側に表れる左右対称の弧状細帯部2 6に関し,被請求人は,「甲第94号証(別紙第13参照)及び甲第95号証(別紙第14参照)に開示された電子製品はいずれも円筒形状のものではなく,製品全体における弧状細帯部の位置関係は特徴2と相違するから,単にこの弧状細帯部自体の形状が公知であることのみをもって,本件登録意匠と請求人製品1の類否判断において特徴2を無視すべきではない。」と主張する。しかし,甲第94号証及び甲第95号証は,電子機器の背面にその円弧状外形輪郭に沿って両側にそれぞれ配置された弧状細帯部を示しており,その形状のみならず,その位置も本件登録意匠と共通している。よって本件登録意匠の背面に表れる弧状細帯部は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日よりも前に公知の構成態様であったといえる。よって,上記弧状細帯部は,上記両意匠に共通する非常に特徴的な基本的構成態様に比べれば,それほど需要者の注意を惹く部分ではない。
c まとめ
以上のとおり,被請求人が特徴1及び2として述べている点が類否判断に及ぼす影響は,いずれも,両意匠に共通する基本的構成態様(アとア’),(イとイ’)及び(ウとウ’)によって生み出される両意匠全体の極めて強い共通感に比べれば,比較にならないほど小さい。したがって,被請求人が主張するこれらの差異点は,両意匠の上記共通感を超えて,需要者に対して異なる美感を起こさせるものではない。結局,両意匠は類似するといえる。
ウ まとめ
以上のように,本件登録意匠と請求人製品1の意匠は,物品が実質的に同一であり,仮に実質的に同一でないとしても類似であり,かつ形態が類似するから,両意匠は類似するものである。
(4)無効事由4(意匠法第3条第2項)について
被請求人は,「本件登録意匠に係るカメラ用レンズは,意匠公報(甲第1号証の1。別紙第1参照。)の『意匠に係る物品の説明』欄にも記載される通り,下記のような特徴1及び2を有するものである。このような特徴を有する本件登録意匠の形態は,請求人製品1,3の意匠の形状に基づいて,またありふれた手法による変更によっても容易に創作できるものではない。」と主張する。
ア 被請求人が主張する「特徴1」について
被請求人は,本件登録意匠が有する特徴1として,「平面図において,最上部領域は細長い帯状であるが,下向きに円弧形の半島領域を突出すると共に,この円弧形半島領域内で,方形,円形,半円形等の各種幾何形状を利用して複雑な視覚変化を形成する。」という態様を挙げ,一方,請求人が提出した「甲第88号証(別紙第10参照)には,本件登録意匠の平面図に記載されるような方形,円形,半円形等の幾何形状相互の有機的なつながりは何ら示されていない」と主張する。
まず,被請求人が主張する「方形,円形,半円形等の幾何形状相互の有機的なつながり」とは何を意味するのか必ずしも明らかではないが,被請求人は,なぜ,方形,円形,半円形等の部分に「幾何形状相互の有機的なつながり」があるとしているのか,その理由を全く述べておらず,また,そのような主張の根拠となる証拠も提出していない。したがって,被請求人の上記主張は理由が明らかでなく,また根拠のない主張である。
被請求人が述べる「幾何形状相互の有機的なつながり」は,方形,円形,半円形等の部分に意匠的なまとまりがあるという趣旨かもしれない。仮に,それがそのような意味であるとしても,円形部分(符号22)は電源ボタンであり,方形部分は取付機構の矩形のアーム(符号16)の端部の本体への枢着部の上面(符号16A)であり,また,半円形(符号24)は上記円形の操作ボタンを取り囲み,上記円形操作ボタンが本体から突出せず,かつ押し下げ可能とする凹部であり,これらの部分の形状は,それぞれが独立した機能に由来するものであって,これらの形状の間に意匠的なまとまりがあるとは到底評価できない。
ところで,前記3(4)イ(ア)a(a)の(ケとケ”)で説明したように,請求人製品3のアーム16”の上面16A”も矩形に表れる点で,本件登録意匠のアーム16の矩形の上面16Aと共通するから,上記矩形部についての態様は両意匠間の差異点ではない。
一方,例えば,甲第88号証(別紙第10参照)?甲第90号証(別紙第12参照)に表れているように,カメラ用レンズの意匠において,外周に円形のボタンを配置することは広く知られている。また,例えば,甲第88号証に示すカメラ用レンズの意匠には,円形部のボタンとその周りに半円形と矩形を組み合せた形状部が表れており,甲第65号証(別紙第5参照)に示す請求人製品3の意匠にも,円形部のボタン(甲第65号証の符号12”)とその周りに半円形と矩形を組み合せた形状部が表れている。このように,この形状も本願出願前より広く知られたものである。さらに,このようなボタンを物品の様々な位置に配置することは周知である。
したがって,本件登録意匠は,請求人製品3の意匠において,周知の形状である円形部のボタンとその周りに半円形と矩形を組み合せた形状部を,ありふれた手法により,その上面のアーム16”の矩形の上面16A”の前方に隣接して配置したにすぎない意匠であり,格別の創作を要したものではないといえる。
イ 被請求人が主張する「特徴2」について
被請求人は,本件登録意匠は,「背面図には,本願意匠に係るカメラ用レンズをスマートフォン等と装着するための構造が示されており,中央部上下にわたって設けられている装着機構を介してスマートフォン等に装着することができる。」という「特徴2」を有すると主張する。
この背面に装着機構を有する構成態様は,請求人製品3も同様な態様の装着機構18”を有し,前記3(4)イ(ア)a(a)の(クとク”)で説明したように,ほぼ矩形状の一対のアーム16,16”が表れている点で,両意匠は共通する。
被請求人は,「甲第96号証(別紙第16参照)や甲第97号証(別紙第17参照)に開示されたアームの先端形状と甲第94号証や甲第95号証に開示された弧状細帯部は本件登録意匠と非類似の電子機器上に設けられたものであるため,当該電子機器から当業者がこれらの形状のみを切り離して組み合わせることで容易に本件登録意匠を創作することができたとする請求人の主張は行き過ぎである。」と主張する。
しかしながら,「意匠法3条2項は,物品の同一または類似という制限をはずし,社会的に知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とする」(最二小判昭49年3月19日民集28巻2号308頁)のである。したがって,本件登録意匠に係る物品と非類似の電子機器の意匠を根拠にすることに何ら誤りはないし,また,本件登録意匠に係る物品も請求人製品3も電気的に作動する一種の電子機器であるから,意匠法第3条第2項創作容易性の観点で同一分野に属する。
ところで,前記3(4)イ(イ)bで述べたように,例えば,甲第96号証及び甲第97号証に表れているように,アームの先端形状については弧状のものや矩形のもの等,様々な形状のものが公に知られており,アームの先端形状をどのような形状にするかの改変は,この分野の当業者にとってありふれた手法であり,当業者が適宜行いうる改変である。
してみれば,本件登録意匠のアームの先端部の形状は,請求人製品3においてスマートフォン等に装着することができる装着機構18”のアーム16”の端部16C”の弧状の先端形状を,当業者にとってありふれた手法によって矩形状に改変したにすぎない。
また,背面に設けられた弧状細帯部に関し,甲第94号証(別紙第13参照)及び甲第95号証(別紙第14参照)には,面の緩衝保護部品として弧状細帯部が表れており,面にこのような形状部を表すことは,公に知られている。したがって,請求人製品3の意匠において,その製品の使用上,スマートフォン等の他の物品と接触する場合がある背面に,緩衝保護部品として甲第94号証及び甲第95号証に示されるような弧状細帯部を,甲第94号証及び甲第95号証に示されているのと同一の配置,すなわち,円弧形の外形形状に沿うように対向して一対設ける態様とすることは,当業者にとってありふれた手法であるといえる。
また,被請求人は,「仮にこれらの形状を,物品上の位置関係等を無視して無理やり組み合わせるとしても,アームと弧状細帯部をどのような位置関係をもって配置するかという点において創作を行う余地がある。本件登録意匠においては,装着機構とその両側の弧状部分の結合によって作出される円形の印象が円形背面においても維持されており,当業者が適宜行い得る改変を越えて格別の創作がなされたものである。」と主張する。
しかしながら,アームの位置は両意匠において共通しているが,弧状細帯部の位置については,アームの配置と無関係に,公に知られた甲第94号証及び甲第95号証に示されるような電子製品本体に対する弧状細帯部の位置と同じ位置に配置する。結果として,自ずとアームと弧状細帯部との位置関係は定まるのであるから,それらの位置関係の配置に格別の創作は要しない。
ウ まとめ
以上のように,本件登録意匠が特徴1及び特徴2として述べられている態様を有していても,これらの態様は,本件登録意匠と請求人製品3とで共通する態様であるか,または差異のある態様については,請求人製品3に当業者にとってありふれた手法による改変等を加えることによって,本件登録意匠は容易に創作できたものである。
なお,被請求人は,答弁書において「上記記載中,『請求人製品2』は誤記であり,正しくは『請求人製品3』であろうと文脈上,推測される。」と述べている。しかしながら,請求人は,本件登録意匠は,請求人製品1の意匠に請求人製品2を取り付けた請求人製品3に,当業者にとってありふれた手法を用いて変更等したに過ぎないと主張しているのであり,上記の審判請求書中の記載は誤記ではない。
(5)請求人の証拠方法に対する疑義について
被請求人は,63?65号証は,作成日が不明の資料であると主張する(答弁書)が,前記「3(6)証拠」の項において記載したとおり,第63?65号証は,請求人の代理人方事務所の写真撮影担当者が,請求人製品1?3の形状を分かりやすく明瞭に示すために,本件審判請求に当たって撮影した写真であり,写真の撮影時が何時のものであるのかは,証拠価値に全く影響を与えるものではない。
本件無効審判で新規性または創作非容易性を否定する根拠としているのは,請求人製品1?3の写真に表れた,実際の請求人製品1?3である。これらの請求人製品1?3は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日(2013年12月27日)よりも前の,2013年9月末日ころには,欧州にて販売を開始し公知となっているが,その事実は,甲第4?6号証で立証されている。
(6)証拠
以下の甲号証は,全て写しである。
甲第98号証の1 取扱説明書
甲第98号証の2 甲第98号証の1の部分翻訳
甲第99号証 広辞苑第六版第588頁
甲第100号証の1 米国において申請したトレードドレスの申請書類
甲第100号証の2 甲第100号証の1の部分翻訳

4 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)無効理由1(意匠法第5条第1号)について
ア 被請求人の平成28年3月15日付口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)における主張に対する反論
(ア)後発製品について
後発製品が,請求人製品の外観形状を模倣したレンズスタイルカメラであることは,甲第59号証と甲第63号証とを対比すれば明らかである。
また,後発製品は,アタッチメントによってスマートフォンに装着して交換レンズ付きのカメラのように撮影することができるという画期的な機能を有すること,そのアタッチメントの独特なカメラへの装備,スマートフォンへの懸架方法において,請求人製品のそれと酷似していることも,上記の後発製品による請求人製品の模倣を裏付けるものである。
さらに,本件登録意匠が後発製品の外観形状をそのまま意匠として登録出願したものであることは,本件登録意匠を示す甲第1号証の各図と後発製品の外観形状を示す甲第59号証の写真とを対照すれば,判然としている。
以上の事実は,本件登録意匠の出願の目的が,後発製品を輸入する際,請求人登録意匠に係る意匠権侵害又不正競争防止法(2条1項1号)違反に基づく関税法による輸入差止(関税法69条の11)を避けるためという,本来,意匠法が予定している権利行使とはかけ離れた目的に出たものであることを如実に示すものである。
(イ)本件登録意匠と請求人製品の外観上の類似性について
被請求人は,「甲第63号証等に示されるデザインが本件登録意匠と外観上類似しないことに鑑みれば,本登録意匠は他社のデザインを模倣したものでない」と主張するが,前記のとおり,レンズスタイルのカメラである両者の外観上の特徴は全く同一であることは繰り返すまでもなく,そのデザインの模倣は明らかである。
(2)無効理由2(意匠法第5条第2号)について
ア 被請求人の口頭審理陳述要領書における反論に対する再反論
(ア)被請求人の主張
被請求人は,「本件登録意匠は請求人製品1?3と外観上類似しない。例えば,本件登録意匠に係る背面図の中央部上下にわたって設けられている装着機構はレンズ本体と一体化しているのに対し,請求人製品ではレンズと分離したアタッチメント側に装着機構が設けられている。このような装着機構のデザインの違いだけでも,消費者が混同により被請求人の販売製品を請求人製品と取り違えて購入することはあり得ない。」と主張する。
しかしながら,被請求人の上記主張も,以下に述べるとおり,請求人の 主張に対する反論となり得るものではない。
(イ)請求人の反論
すなわち,本件登録意匠と請求人製品の外観形状が極めて類似しており
,混同を生ずるおそれがあり,殊に請求人製品の形状の斬新性及び周知性に鑑みれば,カメラ背部の多少の形状の相違が上記類似性,混同を生ずるおそれに影響を与えるものとは到底認められない。
しかも,請求人製品は,スマートフォン装着用アダプターと組み合わせて販売されており,このアダプターを請求人製品に装着した場合には,装着機構は実質的にレンズスタイルカメラと一体化してしまい,被請求人の上記反論が全く成立しないこととなる。
なお,本登録意匠の背面の外観形状と請求人製品のそれとが多少異なる点については,これがありふれた変更であり,両者の対比において重要なものとはなり得ない。
(3)無効理由3(意匠法第3条第1項第3号)について
ア 被請求人陳述要領書における被請求人の主張に対する反論
(ア)被請求人は,「両意匠を対比して類否判断するに当たって特徴1及び2を考慮しない点も恣意的である。」と主張する。
しかし,請求人は,類否判断において,これらの点を考慮していないわけではない。請求人の主張の「被請求人が特徴1及び2として述べている点が・・・比較にならないほど小さい。」(前記4(3)イ(ア)c)という記載からも明らかなように,請求人は,両意匠の類否判断において,被請求人が本件登録意匠の特徴であるとしている特徴1及び2を考慮したが,これらを考慮に入れても両意匠は類似するものであると主張しているのである。 したがって,被請求人の「特徴1及び2を考慮していない」とする主張は事実と異なるから失当である。
(イ)両意匠を全体として観察すると,正面も背面もほぼ平坦な円形面で閉ざされた,直径がほぼ一定の円筒形とされた,非常に特徴的な基本的構成態様があいまって意匠全体の基本的な骨格を形成しており,この共通性に加えて,両意匠に共通する基本的構成態様や具体的構成態様が,更に両意匠間の共通感を高めている。このため,これらの特徴的な構成態様に関する共通点が,差異点を大きく凌駕しているということができる。
そして,意匠全体から感得される美感も本件登録意匠と請求人製品1の意匠とで共通している。
したがって,本件登録意匠は,請求人製品1の意匠と類似している。
(4)無効理由4(意匠法第3条第2項)について
ア 被請求人陳述要領書における被請求人の主張に対する反論
(ア)被請求人が主張する「最上部領域」に関する点は,請求人は,前記4(4)アにおいて既に主張した。
「中上部領域」の態様については,請求人はこれまで言及していないが,請求人製品3においても,本件登録意匠と同様に円柱形の本体周面を有しており,両意匠のこの領域の形態は両意匠において共通するから,本件登録意匠に関し,この領域の形状に特段の創作性は見いだせない。
また,「中下部領域」の態様は,本件登録意匠においては凹凸10,また,請求人製品3においては凹凸10”に関する点であるが,これらの凹凸の幅の差異は,当業者が適宜行い得る変更の範囲内であり,これに格別の創作を要したものではないことは,前記3(4)イ(イ)bにおいて,既に述べた通りである。
さらに,「最下部領域」の態様(周面の正面側の極幅の狭い帯状領域)は,デジタルカメラまたはカメラ用レンズの分野において一般的な形状であり,請求人製品3の意匠において,周面の正面側に極幅の狭い帯状領域を設けることは,当業者が適宜行いうる改変であり,これに格別の創作を要したものではない。
(イ)また,被請求人は,「このような4つの分かれた領域の視覚効果により,本件登録意匠は全体としてまとまった軽快な外観を示す。これに対し請求人製品は鈍重な外観を示す。」と主張する。
しかしながら,4つの分かれた領域の視覚効果による本件登録意匠の全体としてのまとまりについては,これらがまとまりのある視覚効果を奏するとは到底考えられない。これらの各領域内に配置された,アーム16の上面16A(矩形部分),操作ボタン22(小円形部),凹凸10(帯状のズームリング)等の部分の形状は,それぞれの機能を考慮した形状とされており,これらは特に互いに形態的なまとまりのある視覚効果を奏しているとは到底考えられない。また,これらの配置は,使用者の操作性の観点,機能上関連する内部機構との位置関係,周辺部分との物理的位置関係等を考慮して決まるのであり,その結果としてこれらの領域の形状に意匠的なまとまりが生まれているとは到底考えられない。
以上のように,被請求人陳述要領書において被請求人が主張する差異点を考慮しても,請求人製品3は,創作性が高く,着想に新しさないし独創性がある意匠である一方,本件登録意匠と請求人製品3との差異点には,意匠の着想の新しさや独創性は全くなく,本件意匠出願当時広く知られた手法での形状の改変,ありふれた手法による置き換え,当業者が適宜行い得る変更等にすぎず,これに格別の創作を要したものではない。
したがって,本件登録意匠は,請求人製品3(請求人製品1に請求人製品2を取り付けた状態のもの)の形状に基づいて,当業者が容易に創作することができたものであるといえる。


第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,審判事件答弁書を提出し,答弁の趣旨を
「本件審判の請求は成り立たない,
審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由を,要点以下のとおり主張した(「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)。

1 答弁の理由
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠(意匠登録第1514997号)は,平成27年1月13日に発行された意匠公報(甲第1号証の1。別紙第1参照。)に記載されたとおりのカメラ用レンズである。
(2)無効事由1(意匠法第5条第1号)
請求人は,審判請求書において「単なるカメラ用レンズであれば,このように,背面がレンズ状ではなく,スマ-トフォンに装着するための構造に設計することは,機能的に不可能である(背面がこのような構造であるとすると,レンズとしての機能が果たせないはずである。)したがって,被請求人は,いわゆる『レンズ』ではなく,レンズのような形状をした円筒型の『デジタルカメラ』に関する意匠を出願するに当たり,審査において請求人製品ないし請求人の登録意匠との類似性を審査官に指摘されることを避けるために,あえて意匠にかかる物品を『デジタルカメラ』ではなく,『カメラ用レンズ』として出願したものと合理的に推測することができる。」と述べた上で,本件登録意匠が「公の秩序・・・を害するおそれがある意匠」に該当し,無効とされるべきものであると結論付けている。
しかしながら,このような請求人の主張は失当である。一般にカメラと称される製品はファインダー(覗き窓や液晶画面等)を具備するところ,本件登録意匠はファインダーを具備しないレンズであることから,カメラではなく「カメラ用レンズ」の意匠として出願することに何ら問題はない。また「カメラ用レンズ」において背面がレンズ状であることが必須の構成であるかの如く請求人は主張するが,当該主張はフィルム式の銀塩カメラに固執した偏見に基づくものである。例えばイメージセンサ等の撮像素子を用いたデジタルカメラの「カメラ用レンズ」の背面は必ずしもレンズ状でなくて構わない。具体例として,背面がレンズ状でないカメラ用レンズの登録意匠を乙第1号証(意匠登録第1274349号。別紙第18参照。),乙第2号証(意匠登録第1395375号。別紙第19参照。)及び乙第3号証(意匠登録第1096531号。別紙第20参照。)に例示する。
以上のような社会的事情を乙第4号証(意匠審査基準)のp68(41.1.1?41.1.2)に照らして考慮するに,本件意匠は,公の秩序を害するおそれがある意匠(日本若しくは外国の元首の像又は国旗を表した意匠,わが国の皇室の菊花紋章や外国の王室の紋章(類似するものを含む。)等を表した意匠,及び,善良の風俗を害するおそれがある意匠(健全な心身を有する人の道徳観を不当に刺激し,しゅう恥,嫌悪の念を起こさせる意匠)のいずれにも該当し得ない。したがって,本件登録意匠は無効事由1を有するものではない。
(3)無効事由2(意匠法第5条第2号)
請求人は,審判請求書において「本件登録意匠は,同一又は少なくとも類似の物品についての類似する意匠であるから(類似性については後述する),請求人製品のみならず,これを同一又は類似する物品に実施すれば,請求人製品と同様に非常に独創的でユニークな形状のものとなり,本件意匠が出所表示機能を持つに至ることは,疑いない。」と述べた上で,本件登録意匠が「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」に該当し,無効とされるべきものであると結論付けている。
しかしながら,このような請求人の主張は失当である。乙第4号証(意匠審査基準)のp68(41.1.3)に記載される通り「他人の著名な標章やこれとまぎらわしい標章を表した意匠」については意匠法第5条第2号の適用があるものの,請求人製品を「著名標章」と同一視することはできない。
以上のとおり,本件登録意匠は無効事由2を有するものではない。
(4)無効事由3(意匠法第3条第1項第3号)
請求人は,審判請求書において「本件登録意匠は,請求人製品1の意匠と類似するものである」と述べた上で,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものに該当し,無効とされるべきものであると結論付けている。
しかしながら,このような請求人の主張は失当である。本件登録意匠に係るカメラ用レンズは,意匠公報(甲第1号証の1。別紙第1参照。)の「意匠に係る物品の説明」欄にも記載される通り,下記のような特徴1及び2を有するものであって,その形態は請求人製品1の形態と類似しない。
特徴1:平面図において,最上部領域は細長い帯状であるが,下向きに円弧
形の半島領域を突出すると共に,この円弧形半島領域内で,方形
,円形,半円形等の各種幾何形状を利用して複雑な視覚変化を形
成する。
特徴2:背面図には,本願意匠に係るカメラ用レンズをスマートフォン等と
装着するための構造が示されており,中央部上下にわたって設け
られている装着機構を介してスマートフォン等に装着することが
できる。

ア 特徴1について
請求人は審判請求書で差異点5を抽出した上で,「差異点5に関し,・・・(甲第88号証。別紙第10参照。)には,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部が表れており,したがって,このような具体的構成態様は公知である。・・・甲第89号証(別紙第11参照)・・・甲第90号証(別紙第12参照)・・・には,上面に小円形部が表れており,・・・甲第91号証・・・甲第92号証・・・甲第93号証・・・には上面に矩形部が表れている。つまり,上面に小円形部や矩形部の形状が形成されることはいずれも,周知であったといえる。よって,上面に施された形状の差異は,需要者の注意を惹くものではなく,この差異点が意匠の類否判断に与える影響は小さい。」と結論付けている。
しかしながら,甲第88?93号証には半円形,円形や矩形の形状が漠然と無機的に開示されているに過ぎず,本件登録意匠の平面図に記載されるような方形,円形,半円形等の幾何形状相互の有機的なつながりは何ら示されていないばかりでなく,円弧形の半島領域についてはいずれの証拠方法にも開示されていない。
イ 特徴2について
請求人は審判請求書で差異点6及び7を抽出した上で,「この差異点1,2及び6は,全体形状が上記のように,前面及び背面がほぼ平坦な円形面で閉じられている円筒形であるという,両意匠に共通する非常に特徴的な基本的構成態様に比べれば,それほど看者の注意を惹く部分ではない。」と決め付け,「差異点7に関し・・・本件登録意匠に表れる弧状細帯部は,幅の狭い帯状であり,かつ背面と殆ど同レベル程度ともいえる極薄のものであり,需要者の注意を惹くものではない。しかも,このような弧状細帯部は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日の何年も前に販売が開始された電子製品(甲第94号証(別紙第13参照)及び甲第95号証(別紙第14参照))に表れており,公知の構成態様であった。よって,この具体的構成態様の差異点は需要者の注意を惹くものではなく,この差異点が意匠全体の類否判断に及ぼす影響は微弱であるといえる。」と結論付けている。
しかしながら,本件登録意匠の背面図には独特のデザインが施されており,需要者は製品サンプルを手に取って背面を容易に弁別できるのであるから,類否判断において特徴2は大いに考慮されるべきである。なお,甲第94号証及び甲第95号証に開示された電子製品はいずれも円筒形状のものではなく,製品全体における弧状細帯部の位置関係は特徴2と相違するから,単にこの弧状細帯部自体の形状が公知であることのみをもって,本件登録意匠と請求人製品1の類否判断において特徴2を無視すべきではない。
(5)無効事由4(意匠法第3条第2項)
請求人は,審判請求書において「本件登録意匠は,請求人製品1の意匠の形状,及び請求人製品2の意匠の形状に基づいて,また,公知の形状等に表れるようなありふれた手法による変更によって,当業者が,容易に本件登録意匠を創作することができたものである」と述べた上で,本件登録意匠が意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものに該当し,無効とされるべきものであると結論付けている。ちなみに上記記載中「請求人製品2」は誤記であり,正しくは「請求人製品3」であろうと文脈上,推測される。
しかしながら,このような請求人の主張は失当である。本件登録意匠に係るカメラ用レンズは,意匠公報(甲第1号証の1。別紙第1参照。)の「意匠に係る物品の説明」欄にも記載される通り,下記のような特徴1及び2を有するものである。このような特徴を有する本件登録意匠の形態は,請求人製品1,3の意匠の形状に基づいて,また,ありふれた手法による変更によっても容易に創作できるものではない。
特徴1:平面図において,最上部領域は細長い帯状であるが,下向きに円弧
形の半島領域を突出すると共に,この円弧形半島領域内で,方形
,円形。半円形等の各種幾何形状を利用して複雑な視覚変化を形
成する。
特徴2:背面図には,本願意匠に係るカメラ用レンズをスマートフォン等と
装着するための構造が示されており,中央部上下にわたって設け
られている装着機構を介してスマートフォン等に装着することが
できる。

ア 特徴1について
請求人は審判請求書で差異点3を抽出した上で,「差異点3に関し,・・・上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部が表れている構成態様は,例えば,・・・(甲第88号証)にも見られるところであるから,請求人製品3の意匠において,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部を表すことは,これに格別の創作を要したものではないといえる。」と結論付けている。
しかしながら,甲第88号証(別紙第10参照)には,本件登録意匠の平面図に記載されるような方形,円形,半円形等の幾何形状相互の有機的なつながりは何ら示されていないばかりでなく,円弧形の半島領域については何ら開示されていない。
イ 特徴2について
請求人は審判請求書で差異点4及び5を抽出した上で,「差異点4に関し,・・・装着機構のアームにおける先端の角部の若干の形状の変更は,当業者にとって一般的な手法を用いて適宜なし得る変更である点であり,・・・甲第96号証(別紙第16参照)及び甲第97号証(別紙第17参照)に表れた意匠のア-ムの先端形状を見ても分かる。したがって,請求人製品3の意匠において,装着機構のア-ムの先端角部の形状を矩形状にすることは,当業者が適宜行い得る改変であり,これに格別の創作を要したものではない。」と決め付け,「差異点5に関し,・・・電子機器同士を互いに取り付けるに当たっては,互いの接触面を傷つけないように,その接触面に保護部品を設けることは,カメラやレンズの意匠の属する分野に限らず,電子機器や日常品等の属する他の分野においても,極めて一般的に行う手法である。また,その形状をいかなるものとするかは,当業者が適宜行い得る程度のことであるが,例えば,甲第94号証(別紙第13参照)及び甲第95号証(別紙第14参照)に表れている電子機器の背面の左右両側に弧状細帯部が表れており,請求人製品3の意匠において背面に弧状細帯部を設けることは,これに格別の創作を要したものではないといえる。」と結論付けている。
しかしながら,甲第96号証や甲第97号証に開示されたア-ムの先端形状と甲第94号証や甲第95号証に開示された弧状細帯部は本件登録意匠と非類似の電子機器上に設けられたものであるため,当該電子機器から当業者がこれらの形状のみを切り離して組み合わせることで容易に本件登録意匠を創作することができたとする請求人の主張は行き過ぎである。仮にこれらの形状を,物品上の位置関係等を無視して無理やり組み合わせるとしても,ア-ムと弧状細帯部をどのような位置関係をもって配置するかという点において創作を行う余地がある。本件登録意匠においては,装着機構とその両側の弧状部分の結合によって作出される円形の印象が円形背面においても維持されており,当業者が適宜行い得る改変を越えて格別の創作がなされたものである。
(6)請求人の証拠方法に対する疑義
請求人が提出した証拠方法の一部に,作成日が不明の資料(甲第59,63?65号証)が含まれているが,これらの資料に証拠力が認められるべきではない。出願日以降に作成された資料を特段の必要性なく請求人が提出することは,先願主義を前提とした無効事由の審理を攬乱する恐れがあるからである。
(7)結論
以上のとおり,本件意匠登録は請求人の主張する無効事由1?4のいずれにも該当しないから,本件意匠登録は無効とすべきものではない。
(8)証拠
以下の乙号証は,全て写しである。
乙第1号証 意匠登録第1274349号公報
乙第2号証 意匠登録第1395375号公報
乙第3号証 意匠登録第1096531号公報
乙第4号証 意匠審査基準 表紙及びp68?70
乙第5号証 請求人製品の外箱包装
乙第6号証 被請求人の販売製品の外箱包装例

2 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)無効事由1(意匠法第5条第1号)
請求人は,弁駁書において,「被請求人は・・・審査において,請求人製品ないし請求人の登録意匠(請求人登録意匠1及び請求人登録意匠2)との類似性を審査官に指摘されることを避けるために,あえて意匠にかかる物品を『デジタルカメラ』ではなく,『カメラ用レンズ』として出願したものと推測することができる。」と述べた上で,本件登録意匠が「公の秩序・・・を害するおそれがある意匠」に該当し,無効とされるべきものであると結論付けている。
しかしながら,このような請求人の主張は失当である。甲第63号証等に示されるデザインが本件登録意匠と外観上類似しないことに鑑みれば,本件登録意匠は他者のデザインを模倣したものでないことが明白である。
(2)無効事由2(意匠法第5条第2号)
本件登録意匠は請求人製品1?3と外観上類似しない。例えば,本件登録意匠に係る背面図の中央部上下にわたって設けられている装着機構はレンズ本体と一体化しているのに対し,請求人製品ではレンズと分離したアタッチメント側に装着機構が設けられている。このような装着機構のデザインの違いだけでも,消費者が混同により被請求人の販売製品を請求人製品と取り違えて購入することはあり得ない。
(3)無効事由3(意匠法第3条第1項第3号)
請求人は,弁駁書において,「被請求人が特徴1及び2として述べている点が類否判断に及ぼす影響は,いずれも,両意匠に共通する基本的構成態様(アとア’),(イとイ’)及び(ウとウ’)によって生み出される両意匠全体の極めて強い共通感に比べれば,比較にならないほど小さい。したがって,被請求人が主張するこれらの差異点は,両意匠の上記共通感を超えて,需要者に対して異なる美感を起こさせるものではない。結局,両意匠は類似するといえる。」と主張するが,両意匠を対比して類否判断するにあたって特徴1及び2を考慮しない点も恣意的である。
(4)無効事由4(意匠法第3条第2項)
請求人は,弁駁書において,「本件登録意匠が特徴1及び特徴2として述べられている態様を有していても,これらの態様は,本件登録意匠と請求人製品3とで共通する態様であるか,または差異のある態様については,請求人製品3に当業者にとってありふれた手法による改変等を加えることによって,本件登録意匠は容易に創作できたものである。」と主張する。
しかしながら,既に被請求人が答弁書で主張した通り,本件登録意匠と請求人製品3との間には,ありふれた手法による改変等を越える外観上の差異が存在する。
本件登録意匠においては,伝統的に円筒形状を有するレンズに対して多くの円形要素や曲線要素が組み合わされており,レンズ側面が4つの領域に分けられる。最上部領域は細長い帯状であるが,下向きに円弧形の半島領域を突出すると共に,この円弧形半島領域内で,方形,円形,半円形等の各種幾何形状を利用して複雑な視覚変化を形成する。中上部領域が最も幅が広く,かつ,形状は,最上部領域の形状に適合する。中下部領域は,主に密集した平行線により構成され,占める幅は中上部領域に次ぐ。最下部領域は,疎らな平行線により構成され,かつ,平行線の方向は,中下部領域の平行線の方向と垂直関係をなす。このような4つの分かれた領域の視覚効果により,本件登録意匠は全体としてまとまった軽快な外観を示す。これに対し請求人製品は鈍重な外観を示す。


第4 口頭審理
当審は,本件審判について,平成28年(2016年)4月12日に口頭審理を行い,審判長は,同日付けで審理を終結した。(平成28年4月12日付け「第1回口頭審理調書」)


第5 当審の判断
1 本件登録意匠
(1)本件登録意匠について
本件登録意匠の意匠に係る物品は「カメラ用レンズ」であり,本件登録意匠の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」ともいう。)は,その意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりであり,願書の「意匠に係る物品の説明」には,「本物品は,コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して用いられるカメラ用レンズである。本願意匠に係るカメラ用レンズは,ほぼ円筒形状で,筒本体側面上の造型が4個の領域に分かれている。平面図において,最上部領域は細長い帯状であるが,下向きに円弧形の半島領域を突出すると共に,この円弧形半島領域内で,方形,円形,半円形等の各種幾何形状を利用して複雑な視覚変化を形成する。中上部領域が最も幅が広く,且つ,形状は,最上部領域の形状に適合する。中下部領域は,主に密集した平行線により構成され,占める幅は中上部領域に次ぐ。最下部領域は,疎らな平行線により構成され,且つ,平行線の方向は,中下部領域の平行線の方向と垂直関係をなす。背面図には,本願意匠に係るカメラ用レンズをスマートフォン等と装着するための構造が示されており,中央部上下にわたって設けられている装着機構を介してスマートフォン等に装着することができる。」と記載されている(甲第1号証の1。別紙第1参照。)。
(2)本件登録意匠の使用目的,使用方法及び使用状態について
上記の願書の「意匠に係る物品の説明」の記載により,本件登録意匠はコンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して,カメラ用レンズとして使用されるものであり,本件登録意匠の背面の中央部上下に設けられた機構によって装着することができると解される。
一方,装着時の状態を示す図(例えば,装着時に当該機構がどのように変化するかを具体的に示した図。)や,意匠の理解を助けるための使用の状態を示した参考図(例えば,コンパクトデジタルカメラやスマートフォンのどの位置にどのように装着されるのかを具体的に示した使用状態参考図。)は,本件登録意匠の意匠登録出願の願書に添付した図面にはないので,本件登録意匠がコンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に具体的にどのように装着されるものであるか,その際に本件登録意匠の形状がどのように変化するかについては,特に表されていない。
そうすると,本件登録意匠は,コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して,カメラ用レンズとして撮影に用いるという使用目的を有し,装着する方法(使用方法)として,背面の中央部上下に設けられた機構が用いられることが認められるにとどまり,実際の本件登録意匠の使用状態,特に,本件登録意匠がコンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に具体的にどのように装着されるものであるかについては,本件登録意匠の意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面の記載の限りでは具体的に認定することができない。
なお,本件登録意匠は,カメラ用の「レンズ」であるとされているが,背面側にレンズが露出していないので,正面のレンズ部から入力された光像が内部の光学的及び電子的機構によって電子信号に変換され,その電子信号が併用されるスマートフォン等に転送されて,スマートフォン等の液晶画面上に画像が生成することにより,最終的に撮影という使用目的が達成されると推認することができる。
(3)本件登録意匠の形態について
本件登録意匠の形態は,以下のとおりである。なお,請求人が提出した,甲第1号証の2(別紙第2参照)に表された符号を適宜援用する。
ア 全体の構成
全体が,略倒円柱形状であって,前後の径の大きさはほぼ一定であり,正面中央にレンズ部(符合8)が設けられている(レンズ部のある方向を前方向とする)。
イ 正面の構成態様
正面から見て,内側にレンズ部を有する円形状部が中央に配され,その外側に,外縁に沿って略ドーナツ状の外枠部(符合6)が配されている。円形状部と外枠部の間には,複数の円形境界線が表された境界部がある。
イ-1 円形状部,境界部及び外枠部の構成比率
円形状部は全体の径の約5/9である。境界部の幅は,円形状部の径の約1/6,外枠部の幅は,円形状部の径の約1/4である。すなわち,円形状部の径:境界部の幅:外枠部の幅の比は,約12:2:3である。
イ-2 レンズ部の形状と配置
レンズ部は,縦横比が約7:8の略横長長方形状であり,上辺と下辺が弧状に若干膨らみ,左右の辺が弧状に若干凹んでおり,角は丸く表されている。また,円形状部の外縁との間に少し余地部を設けて配されており,角が円形状部の外縁に接していない。
ウ 背面の構成態様
背面から見て,左右に略半円形状部が対称状に配されて,その間に,上下にアーム部(符合16)が向き合うように配されて,これら4つの部分が面一致状に表されている。
ウ-1 各略半円形状部には,背面外周に沿って弧状に表された帯状部(符合26)がごく僅かに突出して表されており,左右の帯状部が対称状に配されている。
ウ-2 上側のアーム部と下側のアーム部は上下対称状に表され,それぞれの中央側の端部(符合16C)が略倒コ字状に表されている。
エ 平面の構成態様
下端寄りに,全縦幅の約30%の縦幅を有する凹凸溝状部(符合10”。当審注:符合10の誤記と認められる。)が配されて,周方向に連続している。凹凸溝状部上端から最上端まで(以下「後半部」という。)の縦幅は,凹凸溝状部の縦幅の約2倍であり,凹凸溝状部下端から最下端まで(以下「前端部」という。)の縦幅は,凹凸溝状部の縦幅の約1/2である。
エ-1 後半部の態様
後半部のほぼ中央に円形状のボタン(符合22)があり,その円形状ボタンを僅かに凹んだ略U字面状区画部(符合24)が取り囲み,同区画部の上に,同区画部の横幅よりも大きい横幅を有する略横長長方形状部が接している。その略横長長方形状部内には,背面視上側アーム部の上端部(符合16A)が略倒コ字状に表されている。そして,略U字面状区画部と略横長長方形状部を取り囲むように,略U字状面分割線が形成されており,その左右が大きく弧状に屈曲して周方向に延伸して,上端線に平行するように連続している(以下,この上端線に平行して連続する面分割線を「延伸分割線」という。)。
エ-2 前端部の態様
前端部には,凹凸溝状部寄りに1条の凹溝が周方向に配されており,正面との境界がテーパー面状に形成されて,前端部の最下端には,中央に向かうにつれてごく僅かに膨出する正面視外枠部の平面形状が表されている。
オ 右側面の構成態様
後半部のほぼ中央に円形ボタン(符合12)があり,円形ボタンの左隣には,略横長矩形状のスライドボタン(符合14)を中央に設けた略角丸縦長長方形状のボタン部が配されている。そして,それらのボタンは,円形ボタンの径の約2倍の横幅を有する略角丸横長長方形区画で囲まれている。
また,同区画は,凹凸溝状部(符合10)と延伸分割線の間にあり,同区画の左端が凹凸溝状部に接し,右端が延伸分割線に接している。延伸分割線から右端まで(以下「後端余地部」という。)の長さは凹凸溝状部の横幅の約1/2であり,左から右に並ぶ,前端部,凹凸溝状部,同区画及び後端余地部の横幅比は,約1:2:3:1である。
カ 左側面の構成態様
後端余地部のほぼ中央に,略釣鐘状の小さな区画部と,それとは上下対称状の略逆釣鐘状の小さな区画部が,縦に並んで配されている。
キ 底面の構成態様
凹凸溝状部(符合10)の中央直下に円形状部があり,その円形状部を略縦長長円形状区画部が取り囲み,同区画部の上端が,凹凸溝状部の下端中央を略半円弧状に切り欠くように表されている。その円形状部の中心位置と上下方向同位置で,同区画部の左右に,区画部に外接するように,小さな略倒釣鐘状部が形成されている。そして,同区画部の右方には,外周が縦長長方形状で,略角錐台状に僅かに突出した部分(以下「略角錐台状部」という。)が形成されており,その上側略3/5は凹凸溝状部を切り欠くように形成されている。
また,同区画部の下方には,略横長長方形状の大きな区画部(以下「下方区画部」という。)が形成されており,下方区画部の下端は,延伸分割線と接している。下方区画部の右端は,略角錐台状部の右端と同位置にあり,下方区画部の上端右寄りが略角錐台状部の下端に接している。
さらに,後端余地部の中央には,下面大区画部の横幅の約1/2の略横長長方形状部が形成されており,その略横長長方形状部内には,背面視下側アーム部の下端部(符合16B)が略倒コ字状に表されている。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は,以下の4つである。
(1)本件登録意匠が,相手方が,請求人から,米国において,請求人が開発して広く販売し,著名な商品となっている斬新なコンセプト,形状の新製品であるレンズスタイルカメラのデザインを模倣した製品として警告を受けているところ,今後,当該模倣品を不正に輸入し,日本市場においても販売するための準備として,物品名を巧みに操作して意匠登録を得て,関税法による税関による輸入差し止めを回避しようとして,出願,登録したものと推測できるものであって,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠であり,意匠法第5条第1号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由1」という。)。
(2)本件登録意匠は,著名な標章(立体的形状)に該当する「他人の業務に係る物品」である請求人製品とまぎらわしい標章(立体的形状)からなり,需要者に出所の混同を生じさせるおそれがある意匠であり,意匠法第5条第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由2」という。)。
(3)本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた意匠(甲第63号証の意匠(以下「甲63意匠」という。別紙第3参照。)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するので,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由3」という。)。
(4)本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が日本国内及び外国において公然知られた形状(甲63意匠に表された形状,甲第64号証の意匠(以下「甲64意匠」という。別紙第4参照。)に表された形状,及び甲第65号証の意匠(以下「甲65意匠」という。別紙第5参照。)に表された形状)に基づいて容易に創作をすることができたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由4」という。)。

当審では,無効理由1及び無効理由2について判断をする前に,無効理由3及び無効理由4について判断をする。

3 無効理由3についての判断
本件登録意匠が,甲63意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲63意匠について
甲63意匠は,甲第63号証(別紙第3参照)に現された意匠であり,平面図及び背面図に表された意匠には,「DSC-QX100」の文字がプリントされている。
一方,請求人が提出した,甲第4号証(別紙第6参照)ないし甲第6号証(別紙第8参照)に現された意匠にも,「QX-100」又は「DSC-QX100」の文字がプリントされており,甲第4号証は平成25年(2013年)9月4日にインターネット上に掲載された記事であり,甲第5号証は同年同月12日にインターネット上に掲載されたプレスリリースであり,甲第6号証も同年同月同日にインターネット上に掲載された記事であるから,いずれも本件登録意匠の意匠登録出願の出願前にインターネット上に掲載された記事又はプレスリリースである。そして,甲第6号証には,「DSC-QX100」の製品(請求人のいう請求人製品1)が同年同月16日から欧州で発売されることが記載されており,甲第5号証には,同製品が同年10月25日に日本で発売されることが記載されている。
そうすると,「DSC-QX100」の製品は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において発売されたものであり,「DSC-QX100」の文字がプリントされた甲63意匠は「DSC-QX100」の製品の意匠(請求人製品1の意匠)と同一であると推認できること,及び他にこの推認を妨げる事実はないことから,甲63意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日(平成25年(2013年)12月27日)よりも前に日本国内及び外国において公然知られた意匠であるということができる。
被請求人は,答弁書において,甲第63号証の資料の作成日が不明であって,この資料に証拠力が認められるべきではない旨主張するが,上述のとおり,甲63意匠は「DSC-QX100」の製品の意匠(請求人製品1の意匠)と同一であると推認できることから,甲第63号証の資料に作成日の日付の記載がないことをもって,甲63意匠が本件登録意匠の意匠登録出願の出願日よりも前に日本国内又は外国において公然知られた意匠ではないということはできない。したがって,被請求人のこの主張を採用することはできない。
(2)甲63意匠の意匠に係る物品
甲63意匠(請求人製品1の意匠)の意匠に係る物品は,前記「第2 2(1)請求人製品の開発」によれば,「レンズスタイルカメラ」であり,甲第4号証及び甲第5号証にはその記載があるので,レンズ型の「カメラ」であると認めることができる。実際に,甲第6号証には「レンズ型カメラ」と記載されている。
なお,請求人は,前記「第2 3(3)ア(ア)」においては,「請求人製品1は,「デジタルカメラ」として販売された(甲第5号証)。」と述べているが,「デジタルカメラ」の記載は甲第5号証にはない。(甲第5号証第2頁には「デジタルスチルカメラ」の記載はある。)
また,請求人は,前記「第2 2 本件登録意匠の背景」において,後発製品(α社が2014年1月頃に米国において発売を開始する旨発表した「レンズ型デジタルカメラ」の製品)について述べているが,α社の製品の意匠は本件登録意匠と同一ではなく,本件登録意匠の出願後に発表されているので無効理由3を構成しないから,後発製品に関する請求人の主張は,無効理由3の主張として採用することはできない。
さらに,請求人は,前記「第2 2 本件登録意匠の背景」において,
請求人自身が請求人製品1の意匠について,本件登録意匠の出願前に意匠登録出願(意願2013-16889)をし,本件登録意匠の出願後に登録された経緯について言及するが,この意匠登録出願に係る意匠は請求人製品1と同一ではなく,無効理由3を構成しないから,この意匠登録出願に関する請求人の主張も,無効理由3の主張として採用することはできない。
(3)甲63意匠の使用目的,使用方法及び使用状態について
甲第63号証の記載においては,甲63意匠の使用目的,使用方法又は使用状態を示す特段の記載はない。ただし,各図の表題に「アタッチメントを外した」との記載があるので,甲63意匠には,甲63意匠とは別のアタッチメントが取り付けられると推認される。
甲第5号証第2頁の記載によれば,請求人製品1は,「レンズ,CMOSイメージセンサー,イメージプロセッサのカメラ構成要素をはじめ,ズームレバーやシャッターボタン,電源ボタン,メモリーカードスロット,バッテリーなどを,『レンズ型ボディ』にすべて搭載して」おり,「スマートフォンに装着してWi-Fi接続することで,スマートフォンの画面をモニターとして映像を確認しながら,写真や動画を撮影」することができ,「スマートフォンと離して,手持ちで自由な角度に構えながらの撮影も可能」であると説明されている。
また,甲第4号証第5頁?第6頁の記載によれば,請求人製品1がアタッチメントを介してスマートフォンに外付けできる様子が現されており,具体的には,請求人製品1の背面にアタッチメントを取り付け,そのアタッチメントをスマートフォンの背面略中央に取り付ける様子が現されており,アタッチメント上部の突出した略L字状部及びアタッチメント下部の略水平状部がスマートフォンの上端と下端に結合すると推認される。
そして,甲第5号証第4頁及び第7頁の記載によれば,請求人製品1がアタッチメントを介してスマートフォンに装着できる様子が現されており,具体的には,請求人製品1の背面にアタッチメントを取り付け,そのアタッチメントをスマートフォンの背面右寄り又は背面略中央に装着する様子が現されており,甲第5号証第4頁の記載によれば,アタッチメント上部の突出した略L字状部がスマートフォンの上端に結合している。
なお,甲第6号証の記載によれば,請求人製品1がスマートフォンに外付けできる様子が現されてはいるものの,中間のアタッチメントの有無については確認できない。
そうすると,甲63意匠は,スマートフォンに装着して,又はスマートフォンから離して,スマートフォンの画面をモニターとして映像を確認しながら撮影するカメラとして用いるという使用目的を有し,装着する方法(使用方法)として,甲63意匠とは別のアタッチメントが必要になることが認められ,甲63意匠の使用状態としては,アタッチメントを介して,スマートフォンの背面右寄り又は背面略中央に装着され,アタッチメント上部の突出した略L字状部及びアタッチメント下部の略水平状部がスマートフォンの上端と下端に結合すると認定することができる。
(4)甲63意匠の形態について
甲63意匠の形態は,以下のとおりである。なお,請求人が提出した,甲第63号証(別紙第3参照)に表された符号を適宜援用する。
ア 全体の構成
全体が,略倒円柱形状であって,前後の径の大きさはほぼ一定であり,正面中央にレンズ部(符合8’)が設けられている(レンズ部のある方向を前方向とする)。
イ 正面の構成態様
正面から見て,内側にレンズ部を有する円形状部が中央に配され,その外側に,外縁に沿って略ドーナツ状の外枠部(符合6’)が配されている。円形状部と外枠部の間には,複数の円形境界線が表された境界部がある。
イ-1 円形状部,境界部及び外枠部の構成比率
円形状部は全体の径の約8/11である。境界部の幅は,円形状部の径の約1/16,外枠部の幅は,円形状部の径の約1/8である。すなわち,円形状部の径:境界部の幅:外枠部の幅の比は,約8:0.5:1である。
イ-2 レンズ部の形状と配置
レンズ部は,略樽形状であって,上辺と下辺が水平状であり,左右の辺が弧状に膨らんでおり,上辺と下辺の外側に配された略弓形状部と合わせて円形状を呈している。また,レンズ部の径は,円形状部の径の約5/9であり,レンズ部の周囲には,円形状部の径の約2/9の幅を有する環状余地部が形成されている。
ウ 背面の構成態様
背面から見て,左端寄りの上下方向中央やや下に,縦長でやや弧状の突起部(符合16’)が設けられており,右端寄りの上下方向中央やや上にも,同様の突起部(符合16’)が設けられている。また,背面は,上端寄りの凸弧状面分割線と突起部の内側の左右の垂直状面分割線によって,略倒樽形状に大きく区画されている(以下,この区画を「略倒樽形状区画」という。)。
ウ-1 突起部には,外側にフランジ状に張り出した係止片が形成されており,その張り出しの程度(幅)は,突起部の上側約1/3の範囲と下側約1/3の範囲において大きくなっている。
ウ-2 略倒樽形状区画内の上寄りに,略角丸横長長方形状の区画部が表されて,その内側には製造会社や製品番号などが記されている。そして,略倒樽形状区画内の下寄りには,略弓形状のごく浅い凹み部が形成されている。
エ 平面の構成態様
下端付近に,全縦幅の約9%の縦幅を有する凹凸溝状部(符合10’)が配されて,周方向に連続している。また,上端付近には,僅かに径が小さい部分(以下「縮径部」という。)が形成されて周方向に連続しており,縮径部の縦幅は凹凸溝状部の縦幅とほぼ同じである。凹凸溝状部と縮径部を除いた中央の部分はほぼ平滑であり,上から約4:9に内分する位置に,面分割線が周方向に表されている(以下,当該面分割線から縮径部下端までを「後方平滑部」といい,当該面分割線から凹凸溝状部上端までを「前方平滑部」という。)。
エ-1 前方平滑部の態様
前方平滑部の上端付近で左右方向中央に,横長矩形状に区画された電源ボタン(符合22’)があり,その横幅は全幅の約1/6である。電源ボタンは,周囲の前方平滑部や後方平滑部と面一致状に表されている。また,電源ボタンの左下と右下に,略横長長円形状の小孔が形成されている。
オ 右側面の構成態様
前方平滑部のほぼ中央に円形ボタン(符合12’)があり,円形ボタンの周囲は僅かに凹んでいる。円形ボタンの左隣には,略正方形状のスライドボタン(符合14’)を中央に設けた略縦長長方形状のボタン部が配されている。そして,それらのボタンは,円形ボタンの径の約8/3倍の横幅を有する略倒U字面状区画で囲まれている。同区画の右端は半円状であり,円形ボタンの右半部に沿って同心円状に表されている。
また,同区画は前方平滑部の中にあり,同区画の横幅は前方平滑部の横幅の約8/11であって,同区画の左右には余地部が残されている。
カ 左側面の構成態様
後方平滑部のほぼ中央に,横長矩形状の表示部が,周囲と面一致状に設けられている。
キ 底面の構成態様
前方平滑部と後方平滑部を跨ぐように,大きな略縦長トラック形状の区画部が左右方向中央に形成されており,同区画部内の下端寄りに設けられた円形状部(ネジ穴部と推認される。)の上端の位置が,前方平滑部と後方平滑部の間の面分割線の位置と一致している。また,その円形状部の中心位置と上下方向同位置で,上記略縦長トラック形状区画部の左右に,区画部に外接するように,小さな略倒釣鐘状部が形成されている。
(5)本件登録意匠と甲63意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「カメラ用レンズ」であり,甲63意匠の意匠に係る物品は「レンズスタイルカメラ」である。
イ 使用目的,使用方法及び使用状態
本件登録意匠の使用目的は,コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して,カメラ用レンズとして撮影に用いることであり,使用方法として,背面の中央部上下に設けられた機構が用いられることが認められるが,使用状態(コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に具体的にどのように装着されるか)は不明である。
これに対して,甲63意匠の使用目的は,スマートフォンに装着して,又はスマートフォンから離して,スマートフォンの画面をモニターとして映像を確認しながら撮影するカメラとして用いることであり,使用方法として,スマートフォンに装着して使用する場合には甲63意匠とは別のアタッチメントが必要になることが認められ,使用状態として,アタッチメントを介して,甲63意匠がスマートフォンの背面右寄り又は背面略中央に装着され,アタッチメント上部の突出した略L字状部及びアタッチメント下部の略水平状部がスマートフォンの上端と下端に結合すると認定することができる。
そうすると,本件登録意匠と甲63意匠(以下「両意匠」という。)は,撮影するという使用目的が共通し,スマートフォンに装着して撮影する点でも使用目的が共通するものの,本件登録意匠がコンパクトデジタルカメラ等のレンズとして用いられる点,及び甲63意匠がスマートフォンから離して使用され得る点で,使用の目的は異なっている。
また,両意匠をスマートフォンに装着して使用する場合の方法は,本件登録意匠では背面の機構が用いられるのに対して,甲63意匠では別のアタッチメントが必要になる点で異なっている。
さらに,両意匠の使用状態は,甲63意匠ではアタッチメントを介してスマートフォンの背面右寄り又は背面略中央に装着されるのに対して,本件登録意匠では具体的な使用状態が不明である点で異なっている。
ウ 形態
(ア)共通点
両意匠の形態の共通点は,以下のとおりである。
(A)全体の構成
全体が,略倒円柱形状であって,前後の径の大きさはほぼ一定であり,正面中央にレンズ部(8と8’)が設けられている。
(B)正面の構成態様
正面から見て,内側にレンズ部を有する円形状部が中央に配され,その外側に,外縁に沿って略ドーナツ状の外枠部(6と6’)が配されている。円形状部と外枠部の間には,複数の円形境界線が表された境界部がある。
(C)平面の構成態様
下方に,全縦幅の30%以下の縦幅を有する凹凸溝状部(10と10’)が配されて,周方向に連続している。また,左右方向中央でやや後方寄りにボタン(22と22’)がある。
(D)右側面の構成態様
上下方向中央に円形ボタン(12と12’)があり,円形ボタンの左隣には,スライドボタン(14と14’)を中央に設けた略縦長長方形状のボタン部が配されている。そして,それらのボタンは,円形ボタンの径よりも大きい横長状区画で囲まれている。
(E)底面の構成態様
左右方向中央に円形状部があり,その円形状部の中心位置と上下方向同位置で,円形状部を取り囲む区画部の左右に,区画部に外接するように,小さな略倒釣鐘状部が形成されている。
(イ)差異点
一方,両意匠の形態の差異点は,以下のとおりである。
(a)正面の円形状部,境界部及び外枠部の構成比率の差異について
本件登録意匠では,正面の円形状部の径:境界部の幅:外枠部の幅の比が,約12:2:3であるのに対して,甲63意匠では,その比が約8:0.5:1である。
(b)レンズ部の形状と配置の差異について
本件登録意匠のレンズ部(8)は,縦横比が約7:8の略横長長方形状であり,上辺と下辺が弧状に若干膨らみ,左右の辺が弧状に若干凹んでおり,角は丸く表されているのに対して,甲63意匠のレンズ部(8’)は,略樽形状であって,上辺と下辺が水平状であり,左右の辺が弧状に膨らんでおり,上辺と下辺の外側に配された略弓形状部と合わせて円形状を呈している。
また,本件登録意匠のレンズ部は,円形状部の外縁との間に少し余地部を設けて配されて角が円形状部の外縁に接していないが,甲63意匠のレンズ部の径は円形状部の径よりも小さい(約5/9)ので,甲63意匠のレンズ部の周囲には円形状部の径の約2/9の幅を有する環状余地部が形成されている。
(c)背面の形状の差異について
本件登録意匠では,左右に略半円形状部が対称状に配されて,その間に,上下にアーム部(16)が向き合うように配されて,各略半円形状部には背面外周に沿って弧状に表された帯状部(26)がごく僅かに突出して表されて,上下のアーム部の中央側の端部(16C)が略倒コ字状に表されている。
これに対して,甲63意匠では,左端寄り及び右端寄りに縦長でやや弧状の突起部(16’)が設けられており,上端寄りの凸弧状面分割線と係止片の内側の左右の垂直状面分割線によって,略倒樽形状区画が形成されている。
(d)平面の形状の差異について
本件登録意匠の凹凸溝状部(10)は下端寄りに配されており,その縦幅は全縦幅の約30%であり,後半部の縦幅は,凹凸溝状部の縦幅の約2倍であり,前端部の縦幅は,凹凸溝状部の縦幅の約1/2である。
これに対して,甲63意匠の凹凸溝状部(10’)は下端付近に配されており,その縦幅は全縦幅の約9%であり,上端付近には,縦幅が凹凸溝状部の縦幅とほぼ同じである縮径部が形成されて,中央の平滑部は面分割線によって上から約4:9に内分されている。
(d-1)ボタンとその周囲の形状の差異
本件登録意匠のボタン(22)は円形状であって,僅かに凹んだ略U字面状区画部(24)がそれを取り囲み,同区画部の上には,同区画部の横幅よりも大きい横幅を有する略横長長方形状部が接しており,その略横長長方形状部内にアーム部の上端部(16A)が略倒コ字状に表されている。
これに対して,甲63意匠のボタン(22’)は横長矩形状に区画されており,周囲の前方平滑部や後方平滑部と面一致状に表されている。
(d-2)略U字状面分割線の有無の差異
本件登録意匠では,上記の略U字面状区画部と略横長長方形状部を取り囲むように,略U字状面分割線が形成されており,その左右が大きく弧状に屈曲して,周方向の延伸分割線に連続しているが,甲63意匠にはそのような略U字状面分割線及び延伸分割線はない
(d-3)前端部の形状の差異
本件登録意匠の前端部には,凹凸溝状部寄りに1条の凹溝が周方向に配されており,正面との境界がテーパー面状に形成されて,前端部の最下端には,中央に向かうにつれてごく僅かに膨出する正面視外枠部の平面形状が表されているが,甲63意匠のその部位には,上述した凹凸溝状部が表れている。
(e)右側面の形状の差異について
本件登録意匠の円形ボタン(12)は,後方寄り,すなわち後半部のほぼ中央にあり,スライドボタン(14)の形状は略横長矩形状であって,略縦長長方形状のボタン部は角丸に表されている。そして,それらのボタンを囲む横長状区画の形状は略角丸長方形状であり,円形ボタンの径の約2倍の横幅を有している。
これに対して,甲63意匠の円形ボタン(12’)は,やや前方寄り,すなわち前方平滑部のほぼ中央にあり,スライドボタン(14’)の形状は略正方形状であって,略縦長長方形状のボタン部は角丸ではない。そして,それらのボタンを囲む横長状区画の形状は略倒U字面状であり,円形ボタンの径の約8/3倍の横幅を有している。
(e-1)横長状区画の構成に関する差異
本件登録意匠の略角丸長方形状区画は凹凸溝状部(10)と延伸分割線の間にあり,前端部,凹凸溝状部,同区画及び後端余地部の横幅比が約1:2:3:1となっているが,甲63意匠の略U字面状区画は前方平滑部の中にあり,同区画の横幅は前方平滑部の横幅の約8/11であって,同区画の左右には余地部が残されている。
(f)左側面の形状の差異について
本件登録意匠の後端余地部のほぼ中央には,略釣鐘状の小さな区画部と,それとは上下対称状の略逆釣鐘状の小さな区画部が縦に並んで配されているが,甲63意匠の後方平滑部のほぼ中央には,横長矩形状の表示部が周囲と面一致状に設けられている。
(g)底面の形状の差異について
本件登録意匠の円形状部は,底面のほぼ中央,すなわち凹凸溝状部(10)の中央直下にあり,その円形状部を取り囲む区画部は略縦長長円形状であって,同区画部の上端が凹凸溝状部の下端中央を略半円弧状に切り欠くように表されているが,甲63意匠の円形状部は,底面の後方寄り,すなわち上端の位置が前方平滑部と後方平滑部の間の面分割線の位置に一致するように配されており,その円形状部を取り囲む区画部は大きな略縦長トラック形状であって,前方平滑部と後方平滑部を跨ぐように表されている。区画部の左右に形成された略倒釣鐘状部も,本件登録意匠では底面のほぼ中央に位置しているが,甲63意匠では底面の後方寄りに位置している。
(g-1)略角錐台状部,下方区画部及び略横長長方形状部の有無の差異
本件登録意匠の底面には,略縦長長円形状区画部の右方に,僅かに突出した略角錐台状部が形成されており,同区画部の下方には,下方区画部が形成されている。また,後端余地部の中央には略横長長方形状部が形成されており,その略横長長方形状部内には,背面視下側アーム部の下端部(16B)が略倒コ字状に表されている。
これに対して,甲63意匠の底面には,そのような略角錐台状部,下方区画部及び略横長長方形状部は形成されていない。
(6)本件登録意匠と甲63意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記認定したとおり,本件登録意匠の意匠に係る物品は「カメラ用レンズ」であり,甲63意匠の意匠に係る物品はレンズ型の「カメラ」であるところ,両意匠の意匠に係る物品が共通するか否かは,両意匠の意匠に係る物品の用途及び機能に共通性があるか否かによって判断されるべきであり,その判断に当たっては,両意匠の使用目的などを踏まえて,両意匠の意匠に係る物品の用途及び機能を検討する必要がある。そこで,これについて次項で検討する。
イ 意匠に係る物品の用途及び機能
前記認定したとおり,両意匠の使用目的は,本件登録意匠がコンパクトデジタルカメラ等のレンズとして用いられる点,及び甲63意匠がスマートフォンから離して使用され得る点で異なるものの,スマートフォンに装着して,最終的に被写体を撮影するという点では共通している。そして,この最終の目的を達成するために,両意匠はスマートフォンを併用しなければならず,すなわち,両意匠が有している機能だけでは最終の目的を達成することができないのでスマートフォンの機能を援用しなければならず,この点で,両意匠の用途及び機能は共通するということができる。具体的には,以下のとおりである。
本件登録意匠は,カメラ用の「レンズ」であるとされているが,背面側にレンズが露出していないので,正面のレンズ部から入力された光像が内部の光学的及び電子的機構によって電子信号に変換され,その電子信号が併用されるスマートフォン等に転送されて,スマートフォン等の液晶画面上に画像が生成することにより,最終的に撮影という使用目的が達成されると推認することができる。そうすると,本件登録意匠は,単に「レンズ」の機能を有するにはとどまらず,少なくとも撮影のための一部の機能を有するものであり,また,本件登録意匠だけでは撮影の目的を達成できず,スマートフォン等の機能を援用することで撮影を完遂させるものであるということができる。
また,甲63意匠も,レンズ型の「カメラ」であるので,撮影という最終の使用目的を有するところ,甲63意匠には覗き窓(ファインダー)や液晶画面がないので,併用されるスマートフォンの液晶画面を通じて被写体を確認することになる。そうすると,甲63意匠は,撮影のために必要な機能を全て有するものではなく,スマートフォンの機能を援用することで撮影を完遂させるものであるということができる。
そうすると,両意匠は,撮影という最終の使用目的を有するという点で共通しており,また,機能の点についても,単に「レンズ」の機能を有するにはとどまらず,かつ撮影のために必要な機能を全て有してはいないという点で共通し,さらに,スマートフォンの機能を援用するという用途も共通している。
したがって,両意匠の意匠に係る物品の用途(使用目的を含む。)及び機能には共通性が認められるから,両意匠の意匠に係る物品は共通するということができる。
なお,請求人は,審判請求書において「本件登録意匠に係る物品も,甲第74号証に示すように,スマートフォンの背面に装着して使用するのであり,その用途及び機能は請求人製品1及び請求人製品2と全く同一であって,本件登録意匠に係る物品は,実際には『デジタルカメラ』である。」と主張するが,甲第74号証に現された意匠は本件登録意匠と同一ではなく,無効理由3を構成しないから,甲第74号証に現された意匠に基づく請求人の主張を採用することはできない。
また,請求人は,弁駁書において「本件登録意匠には,シャッターボタンが存在し,本件登録意匠の構成のみで撮影が可能であり,単体でカメラの基本的機能を有するものであり,」「撮影のために別途カメラ本体の構成を必要としないものである。」と主張するが,本件登録意匠には覗き窓や液晶画面がないので,通常は本件登録意匠をコンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して,それらの機器にある液晶画面を活用すると推認されるので,本件登録意匠が撮影のために別途カメラ本体の構成を必要としないとの請求人の主張を首肯することはできない。上述したとおり,本件登録意匠は,覗き窓や液晶画面がないという点で,単体では撮影機能を完全に果たさないということができる。
そして,請求人も弁駁書で認めているとおり,甲63意匠にも覗き窓や液晶画面がないので,甲63意匠も単体では完全な撮影機能を有さず,スマートフォンと併用することとなるから,上述のとおり,両意匠の用途及び機能は共通し,両意匠の意匠に係る物品は共通する。
ウ 形態
(ア)「カメラ用レンズ」の形態の類否判断
「カメラ用レンズ」(又は「レンズスタイルカメラ」)は,その全体が使用者の手に触れるものであるから,使用者(看者)は全体の形態について観察することとなる。通常は前後方向を水平方向に固定して撮影する場合が多いから,使用者は「カメラ用レンズ」の平面形状や側面形状を特に観察することとなる。一方,背面側を他物品に取り付ける際には背面形状を特に観察し,また,レンズ下面を三脚に固定する際には底面形状も観察することとなる。そして,使用者はもちろん,被写体となる看者も正面形状を観察することはいうまでもない。そうすると,看者は,全方向から見た「カメラ用レンズ」の各部の形態について詳細に観察するということができる。したがって,「カメラ用レンズ」の形態の類否判断においては,全体の形態や各部の形態を評価し,かつそれらを総合して形態を評価する。
(イ)形態の共通点の評価
まず,本件登録意匠と甲63意匠の形態の共通点(A)ないし共通点(C)で指摘した,全体を略倒円柱形状として前後の径の大きさをほぼ一定とし,正面中央にレンズ部を設けてその外側に略ドーナツ状の外枠部を配して,全縦幅の30%以下の縦幅を有する凹凸溝状部を配した態様は,「カメラ用レンズ」の物品分野の意匠において本願の出願前に普通に見受けられることから(例えば,特許庁意匠課公知資料番号第HB19011162号の意匠(別紙第21参照)及び同第HA22009798号の意匠(別紙第22参照)。),看者の注意を特段惹くものとはいえないので,共通点(A)ないし共通点(C)における上記態様が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に,共通点(B)及び共通点(C)で指摘した,正面の構成態様について円形状部と外枠部の間に複数の円形境界線が表された境界部がある点や,平面の構成態様について左右方向中央でやや後方寄りに矩形状部やボタンがある点は,「カメラ用レンズ」の物品分野の意匠において本願の出願前に普通に見受けられることから(例えば,請求人が提出した甲第85号証の意匠(別紙第15参照),甲第88号証の意匠(別紙第10参照)及び甲第89号証(別紙第11参照)。),看者の注意を特段惹くものとはいえないので,共通点(B)及び共通点(C)における上記態様も両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そして,共通点(D)で指摘した,右側面の上下方向中央に円形ボタンがあり,その左隣に略縦長長方形状ボタン部が配されている点は,円形ボタンと略縦長長方形状ボタン部の存在自体は共通点ではあるものの,前述したとおり,それらを囲む横長状区画の形状や位置が両意匠では異なっているから,その差異点と比較衡量すべきである。
加えて,共通点(E)で指摘した底面の左右方向中央に円形状部がある点も,両意匠の底面全体の態様を踏まえて検討すべきであり,底面の態様には差異点も見られるから,その差異点と比較衡量すべきであり,また,円形状部を取り囲む区画部の左右に形成された略倒釣鐘状部は,小さなものであるから意匠全体として両意匠を比較した際には目立つものではないので,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(ウ)形態の差異点の評価
一方,本件登録意匠と甲63意匠の形態の差異点については,以下のとおり評価され,差異点を総合すると,上記共通点の影響を圧して,本件登録意匠と甲63意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
a 平面の形状の差異について
差異点(d-2)で指摘したように,本件登録意匠の平面には略U字状面分割線が形成されて,その左右が大きく弧状に屈曲して延伸分割線に連続しているが,甲63意匠にそのような略U字状面分割線及び延伸分割線がない点は,差異点(d-1)で指摘した,円形状ボタン(22)を僅かに凹んだ略U字面状区画部(24)が取り囲んで,同区画部の上に大きい横幅でアーム部上端部(16A)を含む略横長長方形状部が接している本件登録意匠の特徴とあいまって,看者が一見して気が付く差異であるというべきであり,通常の使用時において平面が特に目立つ部位であることを踏まえると,本件登録意匠の平面の形状は,略U字状面分割線や略U字面状区画部のない甲63意匠の平面の形状に比べて,看者に異なる美感を与えているということができる。
そして,凹凸溝状部が全縦幅の約30%であるか(10),約9%であるか(10’)の差異が,「カメラ用レンズ」の物品分野の意匠においてどちらの比率もありふれたものであるから看者がその差異に注目しないとしても,また,本件登録意匠の前端部に形成された1条の凹溝も「カメラ用レンズ」の物品分野の意匠においてありふれたものであって看者が特に注目しないとしても,これらの事実が上記の異なる美感に何ら影響することはないので,差異点(d)は,総じて両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということができる。
請求人は,この差異点(d)に関して,審判請求書において「例えば,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前に発行された意匠登録第1442753号(甲第88号証。別紙第10参照。)には,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部が表れており,したがって,このような具体的構成態様は公知である。」「よって,上面に施された形状の差異は,需要者の注意を惹くものではなく,この差異点が意匠の類否判断に与える影響は小さい。」と主張する。
しかし,甲第88号証の意匠に表されている「半円形と矩形を組み合わせた形状部」は,本件登録意匠の略U字面状区画部(24)のように凹んではおらず,本件登録意匠に見られる同区画部の上に接する略横長長方形状部や,それらを取り囲む略U字状面分割線は形成されていないので,円形状ボタン(22),略U字面状区画部(24),略横長長方形状部及び略U字状面分割線から成る本件登録意匠の特徴的な平面形状が「公知である」という請求人の指摘を首肯することはできない。
そして,この特徴的な平面形状について,請求人は弁駁書において「円形部分(符号22)は電源ボタンであり,方形部分は取付機構の矩形のアーム(符号16)の端部の本体への枢着部の上面(符号16A)であり,また,半円形(符号24)は上記円形の操作ボタンを取り囲み,上記円形操作ボタンが本体から突出せず,かつ押し下げ可能とする凹部であり,これらの部分の形伏は,それぞれが独立した機能に由来するものであって,」「これらの形状の相互間に意匠的なまとまりがあるとは到底評価できない。」と主張する。
しかし,本件登録意匠に見られる略U字状面分割線は,その内部にある略U字面状区画部(24)と,同じ略U字状である点で呼応しており,また,同区画部の上に略横長長方形状部が接して階段状に積み上がり,その段差の広がった態様は,略U字状面分割線の左右が大きく弧状に屈曲した態様と呼応しているので,円形状ボタン(22),略U字面状区画部(24),略横長長方形状部及び略U字状面分割線から成る本件登録意匠の平面形状が,看者に対して一つのまとまった美感を与えているというべきであるから,請求人の主張を採用することはできない。
b 背面の形状の差異について
差異点(c)で指摘した,左右に略半円形状部が対称状に配されて,その間に上下にアーム部(16)が向き合うように配された本件登録意匠の背面の形状は,左端寄り及び右端寄りに縦長でやや弧状の突起部(16’)が設けられた甲63意匠の背面の形状とは全く異なるものであり,看者が一見して気が付く差異であるから,スマートフォン等への取り付けのために背面の形状に看者が注目することを踏まえると,背面の形状の差異点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいというほかない。
請求人は,審判請求書において「デジタルカメラは,通常,撮像するための液晶画面を備えているが,両意匠は,デジタルカメラにおいて必須ともいえる液晶画面を備えない構成態様とされており,全体が上記のような正面も背面もほぼ平坦な円形面で閉ざされた,直径がほぼ一定の円筒形とされている。このような構成態様は,両意匠に共通する非常に特徴的な部分であるといえる。よって,これらの構成態様における共通点が両意匠の類否判断に与える影響は非常に大きいといえる。」と主張した上で,この差異点(c)に関して,「全体形状が上記のように,前面及び背面がほぼ平坦な円形面で閉じられている円筒形であるという,両意匠に共通する非常に特徴的な基本的構成態様に比べれば,それほど看者の注意を惹く部分ではない。」と主張する。
しかし,両意匠が,共に単体では撮影機能を完全に果たさないことは上述したとおりであって,両意匠がスマートフォン等の他物品と併用される点は,例えば「カメラレンズ」が「カメラ(本体)」と併用されることと同様に考えられるところ,一般的にカメラレンズが略倒円柱形状であって,カメラ(本体)が薄い直方体状であることは周知の事実であるから,スマートフォンに取り付けられるという機能的な新しさはともかく,スマートフォンに取り付けられる両意匠の基本形状が略倒円柱形状であるという共通点を殊更に強調する請求人の主張を首肯することはできない。そして,看者はスマートフォンにどのように取り付けられるかについて注意を払うというべきであるから,アーム部(16)を有する本件登録意匠の背面の形状に対して看者は特に注意を払うこととなるので,背面の形状の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。したがって,請求人の主張を採用することはできない。
c 正面の形状の差異について
差異点(a)で指摘した,正面の円形状部の径:境界部の幅:外枠部の幅の比が約12:2:3であるか(本件登録意匠),約8:0.5:1であるか(甲63意匠)の差異は,本件登録意匠の円形状部の正面全体に占める割合が,甲63意匠のそれに比べて小さい印象を看者に与えることとなり,この印象は,甲63意匠のレンズ部の周囲に見られる環状余地部が本件登録意匠にはないこと(差異点(b))とあいまって,両意匠の正面形状を観察する看者が抱く視覚的印象に変化を加えているというべきである。そうすると,たとえ両意匠のレンズ部の形状(略横長長方形状8と略樽形状8’)がどちらもありふれた形状であって,レンズ部の形状の差異に看者が注意を払わないとしても,上記の比の差異及び環状余地部の有無の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいとはいえない。
d 右側面の形状の差異について
差異点(e)で指摘した,スライドボタンの形状が略横長矩形状(14)であるか略正方形状(14’)であるかの差異,及び円形ボタンと略縦長長方形状ボタンを囲む横長状区画の形状が略角丸長方形状であるか略倒U字面状であるかの差異は,いずれも局所的な部位の差異であって,かつ形状の差も別異の美感を呈するほどではないので,看者に異なる視覚的印象を与えるものではないといえる。
しかし,本件登録意匠の略角丸長方形状区画は,凹凸溝状部(10)と延伸分割線の間に嵌るように配されており,前端部,凹凸溝状部,同区画及び後端余地部の横幅比が約1:2:3:1となるように左から右に密に並んでおり,この構成態様は,凹凸溝状部(10’)が前端付近に配されて,略U字面状区画の左右に余地部が残されている甲63意匠の構成態様とは明からに異なるものであって,両意匠の右側面を観察する看者が抱く視覚的印象に
変化を与えているというべきである。そして,前記(イ)で指摘した共通点(D),すなわち右側面の上下方向中央に円形ボタンがあり,その左隣に略縦長長方形状ボタン部が配された共通点は,この視覚的印象を覆すほどの特徴を有するとはいい難い。そうすると,略角丸長方形状区画又は略U字面状区画の位置の差異は,凹凸溝状部(10と10’)の位置の差異とあいまって,共通点(D)を凌駕し,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということができる。
e 底面の形状の差異について
差異点(g)で指摘した,円形状部が底面のほぼ中央にあるか(本件登録意匠),底面の後方寄りにあるか(甲63意匠)の差異は,円形状部が底面の左右方向中央にある共通点(E)を凌駕するほどではないものの,一方で,円形状部を取り囲む区画部が略縦長長円形状であるか(本件登録意匠),大きな略縦長トラック形状であるか(甲63意匠)の差異は,略角錐台状部,下方区画部及び略横長長方形状部の有無の差異点(g-1)とあいまって,両意匠の底面を観察する看者に異なる美感を与えているということができ,差異点(g)は,総じて共通点(E)を凌駕し,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということができる。
f 左側面の形状の差異について
他方,左側面の形状の差異点(f),すなわち,後端余地部のほぼ中央に小さな略釣鐘状区画部と略逆釣鐘状区画部が縦に並んで配されているか(本件登録意匠),甲63意匠の後方平滑部のほぼ中央に横長矩形状の表示部が設けられているか(甲63意匠)の差異は,本件登録意匠の区画部と甲63意匠の表示部のどちらも意匠全体に占める面積が小さいものであって,それほど目立たないことから看者が注目するものではないので,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
g そうすると,差異点(c),差異点(d)及び差異点(g)は,総じて両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであり,また,正面の円形状部の径:境界部の幅:外枠部の幅の比の差異(差異点(a)),環状余地部の有無の差異(差異点(b)),及び右側面の略角丸長方形状区画又は略U字面状区画の位置の差異(差異点(c))も両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであり,その余の差異点の影響が小さいものであるとしても,両意匠の差異点を総合して両意匠を意匠全体として観察すると,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕し,差異点は両意匠を別異のものと印象付けるものであるということができる。
エ 総合評価
以上のとおり,本件登録意匠と甲63意匠は,意匠に係る物品の用途及び機能に共通性が認められるから意匠に係る物品は共通するが,形態においては,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕し,差異点は両意匠を別異のものと印象付けるものであるから,本件登録意匠は,甲63意匠に類似するということはできない。
(7)小括
本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲63意匠に類似する意匠ではない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由3には,理由がない。

4 無効理由4についての判断
本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に当業者が日本国内及び外国において公然知られた甲65意匠の形状に基づいて容易に創作をすることができたものであるか否かについて検討する。
なお,請求人による無効理由4の全趣旨を踏まえて,甲63意匠に甲64意匠を取り付けた甲65意匠の形状に基づいて検討する。(請求人は,弁駁書において「請求人は,本件登録意匠は,請求人製品1の意匠に請求人製品2を取り付けた請求人製品3に,当業者にとってありふれた手法を用いて変更等したに過ぎないと主張している」と主張し,口頭審理陳述要領書において「本件登録意匠は,請求人製品3(請求人製品1に請求人製品2を取り付けた状態のもの)の形状に基づいて,当業者が容易に創作することができたものである」と主張した。)
(1)甲65意匠について
甲65意匠は,甲第65号証(別紙第5参照)に現された意匠であり,平面図に表された意匠には,「DSC-QX100」の文字がプリントされている。
一方,請求人が提出した,甲第4号証(別紙第6参照)ないし甲第6号証(別紙第8参照)に現された意匠にも,「QX-100」又は「DSC-QX100」の文字がプリントされており,甲第4号証は平成25年(2013年)9月4日にインターネット上に掲載された記事であり,甲第5号証は同年同月12日にインターネット上に掲載されたプレスリリースであり,甲第6号証も同年同月同日にインターネット上に掲載された記事であるから,いずれも本件登録意匠の意匠登録出願の出願前にインターネット上に掲載された記事又はプレスリリースである。そして,甲第6号証には,「DSC-QX100」の製品(請求人のいう請求人製品3)が同年同月16日から欧州で発売されることが記載されており,甲第5号証には,同製品が同年10月25日に日本で発売されることが記載されている。
そうすると,「DSC-QX100」の製品は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において発売されたものであり,「DSC-QX100」の文字がプリントされた甲65意匠は「DSC-QX100」の製品の意匠(請求人製品3の意匠)と同一であると推認できること,及び他にこの推認を妨げる事実はないことから,甲65意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日(平成25年(2013年)12月27日)よりも前に日本国内及び外国において公然知られた意匠であるということができる。
被請求人は,答弁書において,甲第65号証の資料の作成日が不明であって,この資料に証拠力が認められるべきではない旨主張するが,上述のとおり,甲65意匠は「DSC-QX100」の製品の意匠(請求人製品3の意匠)と同一であると推認できることから,甲第65号証の資料に作成日の日付の記載がないことをもって,甲65意匠が本件登録意匠の意匠登録出願の出願日よりも前に日本国内又は外国において公然知られた意匠ではないということはできない。したがって,被請求人のこの主張を採用することはできない。
(2)甲65意匠の意匠に係る物品
甲65意匠(請求人製品3の意匠)の意匠に係る物品は,前記「第2 2(1)請求人製品の開発」によれば,「レンズスタイルカメラ」であり,甲第4号証及び甲第5号証にはその記載があるので,レンズ型の「カメラ」であると認めることができる。実際に,甲第6号証には「レンズ型カメラ」と記載されている。
(3)甲65意匠の使用目的,使用方法及び使用状態について
甲第65号証の記載においては,甲65意匠の使用目的,使用方法又は使用状態を示す特段の記載はない。
甲第5号証第2頁の記載によれば,請求人製品3は,「レンズ,CMOSイメージセンサー,イメージプロセッサのカメラ構成要素をはじめ,ズームレバーやシャッターボタン,電源ボタン,メモリーカードスロット,バッテリーなどを,『レンズ型ボディ』にすべて搭載して」おり,「スマートフォンに装着してWi-Fi接続することで,スマートフォンの画面をモニターとして映像を確認しながら,写真や動画を撮影」することができ,「スマートフォンと離して,手持ちで自由な角度に構えながらの撮影も可能」であると説明されている。
また,甲第4号証第5頁?第6頁の記載によれば,請求人製品3がスマートフォンに外付けできる様子が現されており,具体的には,請求人製品3をスマートフォンの背面略中央に取り付ける様子が現されており,背面上部の突出した略L字状部及び背面下部の略水平状部がスマートフォンの上端と下端に結合すると推認される。しかし,甲第4号証の記載においては背面の具体的な形状は不明であり,どのようにスマートフォンに結合するかの具体的な態様は不明である。
そして,甲第5号証第4頁及び第7頁の記載によれば,請求人製品3がスマートフォンに装着できる様子が現されており,具体的には,請求人製品3をスマートフォンの背面右寄り又は背面略中央に装着する様子が現されており,甲第5号証第4頁の記載によれば,背面上部の突出した略L字状部がスマートフォンの上端に結合している。しかし,甲第5号証の記載においては背面の具体的な形状は不明であり,どのようにスマートフォンに結合するかの具体的な態様は不明である。
なお,甲第6号証の記載によれば,請求人製品3がスマートフォンに外付けできる様子が現されてはいるものの,結合の具体的態様については確認できない。
そうすると,甲65意匠は,スマートフォンに装着して,又はスマートフォンから離して,スマートフォンの画面をモニターとして映像を確認しながら撮影するカメラとして用いるという使用目的を有し,甲65意匠の使用状態としては,スマートフォンの背面右寄り又は背面略中央に装着され,背面上部の突出した略L字状部及び背面下部の略水平状部がスマートフォンの上端と下端に結合すると認定することができる。
(4)甲65意匠の形態について
甲65意匠の形態は,以下のとおりである。なお,請求人が提出した,甲第65号証(別紙第5参照)に表された符号を適宜援用する。
ア 全体の構成
全体が,略倒円柱形状であって,前後の径の大きさはほぼ一定であり,正面中央にレンズ部(符合8”)が設けられている(レンズ部のある方向を前方向とする)。
イ 正面の構成態様
正面から見て,内側にレンズ部を有する円形状部が中央に配され,その外側に,外縁に沿って略ドーナツ状の外枠部(符合6”)が配されている。円形状部と外枠部の間には,複数の円形境界線が表された境界部がある。
イ-1 円形状部,境界部及び外枠部の構成比率
円形状部は全体の径の約8/11である。境界部の幅は,円形状部の径の約1/16,外枠部の幅は,円形状部の径の約1/8である。すなわち,円形状部の径:境界部の幅:外枠部の幅の比は,約8:0.5:1である。
イ-2 レンズ部の形状と配置
レンズ部は,略樽形状であって,上辺と下辺が水平状であり,左右の辺が弧状に膨らんでおり,上辺と下辺の外側に配された略弓形状部と合わせて円形状を呈している。また,レンズ部の径は,円形状部の径の約5/9であり,レンズ部の周囲には,円形状部の径の約2/9の幅を有する環状余地部が形成されている。
ウ 背面の構成態様
背面から見て,左右に略半円形状部(20”)が対称状に配されて,その間に,上下にアーム部(符合16”)が向き合うように配されて,これら4つの部分が面一致状に表されている。
ウ-1 上側のアーム部と下側のアーム部は上下対称状に表され,それぞれの中央側の端部(符合16C”)が略弧状に表されている。
エ 平面の構成態様
下端付近に,全縦幅の約7%の縦幅を有する凹凸溝状部(符合10”)が配されて,周方向に連続している。上部には,アタッチメントが取り付けられており,その縦幅は凹凸溝状部の縦幅の約2倍である。また,アタッチメントの直下には,僅かに径が小さい部分(以下「縮径部」という。)が形成されて周方向に連続しており,縮径部の縦幅は凹凸溝状部の縦幅とほぼ同じである。凹凸溝状部,アタッチメント及び縮径部を除いた中央の部分はほぼ平滑であり,上から約4:9に内分する位置に,面分割線が周方向に表されている(以下,当該面分割線から縮径部下端までを「後方平滑部」といい,当該面分割線から凹凸溝状部上端までを「前方平滑部」という。)。
エ-1 前方平滑部の態様
前方平滑部の上端付近で左右方向中央に,横長矩形状に区画された電源ボタン(符合22”)があり,その横幅は全幅の約1/6である。電源ボタンは,周囲の前方平滑部や後方平滑部と面一致状に表されている。また,電源ボタンの左下と右下に,略横長長円形状の小孔が形成されている。
オ 右側面の構成態様
前方平滑部のほぼ中央に円形ボタン(符合12”)があり,円形ボタンの周囲は僅かに凹んでいる。円形ボタンの左隣には,略正方形状のスライドボタン(符合14”)を中央に設けた略縦長長方形状のボタン部が配されている。そして,それらのボタンは,円形ボタンの径の約8/3倍の横幅を有する略倒U字面状区画で囲まれている。同区画の右端は半円状であり,円形ボタンの右半部に沿って同心円状に表されている。
また,同区画は前方平滑部の中にあり,同区画の横幅は前方平滑部の横幅の約8/11であって,同区画の左右には余地部が残されている。
カ 左側面の構成態様
後方平滑部のほぼ中央に,横長矩形状の表示部が,周囲と面一致状に設けられている。
キ 底面の構成態様
前方平滑部と後方平滑部を跨ぐように,大きな略縦長トラック形状の区画部が左右方向中央に形成されており,同区画部内の下端寄りに設けられた円形状部(ネジ穴部と推認される。)の上端の位置が,前方平滑部と後方平滑部の間の面分割線の位置と一致している。また,その円形状部の中心位置と上下方向同位置で,上記略縦長トラック形状区画部の左右に,区画部に外接するように,小さな略倒釣鐘状部が形成されている。
(5)創作非容易性の判断
「カメラ用レンズ」又は「レンズスタイルカメラ」の意匠の物品分野において,
「ア 全体の構成
全体が,略倒円柱形状であって,前後の径の大きさはほぼ一定であり,正面中央にレンズ部が設けられている。
イ 正面の構成態様
正面から見て,内側にレンズ部を有する円形状部が中央に配され,その外側に,外縁に沿って略ドーナツ状の外枠部が配されている。円形状部と外枠部の間には,複数の円形境界線が表された境界部がある。
ウ 平面の構成態様
下方に,全縦幅の30%以下の縦幅を有する凹凸溝状部が配されて,周方向に連続している。また,左右方向中央でやや後方寄りにボタンがある。
エ 右側面の構成態様
上下方向中央に円形ボタンがあり,円形ボタンの左隣には,スライドボタンを中央に設けた略縦長長方形状のボタン部が配されている。そして,それらのボタンは,円形ボタンの径よりも大きい横長状区画で囲まれている。
オ 底面の構成態様
左右方向中央に円形状部があり,その円形状部の中心位置と上下方向同位置で,円形状部を取り囲む区画部の左右に,区画部に外接するように,小さな略倒釣鐘状部が形成されている。
カ 背面の構成態様
背面から見て,左右に略半円形状部が対称状に配されて,その間に,上下にアーム部が向き合うように上下対称状に配されて,これら4つの部分が面一致状に表されている。」
の構成態様を有する意匠は,甲65意匠の形態に見られるように,本件登録意匠の意匠登録出願の出願前に公然知られているといえる。
しかし,甲65意匠の平面形状,特に,凹凸溝状部,アタッチメント及び縮径部を除いた中央の部分を後方平滑部と前方平滑部に内分して,その前方平滑部の上端付近で左右方向中央に,横長矩形状に区画された電源ボタンを設けた形状は,本件登録意匠の平面形状とは全く異なるものであり,円形状ボタン(22),略U字面状区画部(24),略横長長方形状部及び略U字状面分割線から成る本件登録意匠特有の形状は甲63意匠には表されていない。
そうすると,本件登録意匠の平面形状については,甲63意匠の構成態様から導き出されるとはいい難いので,甲63意匠に基づいて,当業者が容易に本件登録意匠の創作をすることができたということはできない。
請求人は,審判請求書において,「本件登録意匠においては,上面に,小円形部22と,その周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部24が表れているのに対して,請求人製品3の意匠においては,上面に,矩形部22”が表れている点で,両意匠には差異がある。しかしながら,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部が表れている構成態様は,例えば,本件登録意匠の意匠登録出願の出願日前に発行された意匠登録第1442753号(甲第88号証。別紙第10参照。)にも見られるところであるから,請求人製品3の意匠において,上面に小円形部とその周りに半円形と矩形を組み合わせた形状部を表すことは,これに格別の創作を要したものではないといえる。」と主張する。
しかし,甲第88号証の意匠においては,小円形部がやや前方寄りに位置しており,本件登録意匠に見られる略横長長方形状部及び略U字状面分割線が表されていないので,甲65意匠の上面の一部を甲第88号証の意匠に表された形状に置き換えるか又はその形状に基づいて変更を加えるとしても,円形状ボタン(22),略U字面状区画部(24),略横長長方形状部及び略U字状面分割線から成る本件登録意匠特有の形状に想到するとはいい難いので,請求人の主張を採用することはできない。
また,請求人は,審判請求書において,「請求人製品3の意匠は,スマートフォン等の液晶画面を,被写体の像の確認のためのモニター画面として利用するという斬新な着想に基づき,デジタルカメラにおいて撮像の際に必須である液晶画面を省く意匠とし,上記のように,全体の基本的形態を,液晶画面を備えず,基本的に前面と背面が略平坦な円形面で閉じられた,直径が略一定の円筒形状のコンパクトな形状の意匠とした。このようにして創作された意匠は,デジタルカメラの意匠として創作性が極めて高く,独創性のあるものである。」と主張する。
しかし,「スマートフォン等の液晶画面を,?利用するという斬新な着想」は,甲65意匠の機能上の着想であり,「液晶画面を備えず,基本的に前面と背面が略平坦な円形面で閉じられた,直径が略一定の円筒形状のコンパクトな形状」自体は,本件登録意匠の出願前に,「カメラ用レンズ」の意匠の物品分野においては広く知られた形状であるから,略倒円柱形状の「カメラレンズ」が薄い直方体状である「カメラ(本体)」と併用されることは周知の事実であることを踏まえると,スマートフォンを利用するという機能上の新しさはともかく,薄い直方体状であるコンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着して用いられるカメラ用レンズの形状を,本件登録意匠の基本形状である略倒円柱形状にすることは,当業者が容易に想到することができたといわざるを得ない。したがって,請求人の主張を採用することはできない。
(6)小括
以上のとおり,本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に当業者が日本国内及び外国において公然知られた甲65意匠の形状に基づいて容易に創作をすることができたということはできない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由4には,理由がない。

5 無効理由1についての判断
本件登録意匠が,意匠法第5条第1号に掲げる「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠」であるか否かについて検討する。
(1)意匠法第5条の規定の趣旨について
「意匠審査基準(特許庁 平成23年8月1日一部修正版)」(別紙第23参照。なお,別紙第23は,平成28年3月11日一部修正版である。)によれば,意匠法第5条の規定の趣旨として,
「公の秩序や風俗を維持すること,あるいは産業発展を阻害する要因を排除することは,公益上の理由から重要なことであって,これに反する性質のものを法律で保護すべきではない。新規性及び創作非容易性を有し,かつ工業上利用することができる意匠に該当する意匠である等の意匠登録の要件を満たすものであっても,意匠登録の査定の時点において,以下のいずれかに該当する場合は,意匠登録を受けることができない。」(41.1)と説明されており,公の秩序を害するおそれがある意匠について,
「日本若しくは外国の元首の像又は国旗を表した意匠,わが国の皇室の菊花紋章や外国の王室の紋章(類似するものを含む。)等を表した意匠は,国や皇室又は王室に対する尊厳を害するおそれが多く,公の秩序を害するおそれがあるものと認められるので,このような意匠は,意匠登録を受けることができない。ただし,模様として表された運動会風景中の万国旗等のように公の秩序を害するおそれがないと認められる場合は含まれない。」(41.1.1)と説明され,善良の風俗を害するおそれがある意匠については,
「健全な心身を有する人の道徳観を不当に刺激し,しゅう恥,嫌悪の念を起
こさせる意匠,例えば,わいせつ物を表した意匠等は,善良の風俗を害する
おそれがあるものと認められるので,意匠登録を受けることができない。」(41.1.2)と説明されている。
これらを踏まえて,以下,検討する。
(2)請求人の主張
請求人は,審判請求書において,「2014年(平成26年)5月ころ,α社から,米国において,後発製品が発売された。」「被請求人信泰光學は,α社のOEMメーカーとして,後発製品を供給している。」と指摘し,「被請求人は,請求人製品の発売後,平成25年12月27日に本件登録意匠の意匠登録出願を行った。本件登録意匠は,後発製品の意匠とほぼ同じである。」「被請求人は,いわゆる『レンズ』ではなく,レンズのような形状をした円筒型の『デジタルカメラ』に関する意匠を出願するに当たり,審査において,請求人製品ないし請求人の登録意匠との類似性を審査官に指摘されることを避けるために,あえて意匠に係る物品を『デジタルカメラ』ではなく,『カメラ用レンズ』として出願したものと合理的に推測することができる。」と述べ,「このような意匠登録をすることによって,後発製品を輸入する際,請求人登録意匠に係る意匠権侵害又不正競争防止法(2条1項1号)違反に基づく関税法による輸入差止(関税法69条の11)を避けるためという,本来,意匠法が予定している権利行使とはかけ離れた目的に濫用するものとしか考えられない。」として,「本件登録意匠の意匠登録出願は,正義観念に反し,社会的相当性を欠き,また,このような脱法的な意匠登録を認めることは,『意匠の保護及び利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与する』という意匠法の目的,及び意匠法の秩序に反するものであり,到底容認しえないものと考える。」「したがって,本件登録意匠は,意匠法第5条第1号の『公の秩序・・・を害するおそれがある意匠』に該当」すると主張している。
また,請求人は,口頭審理陳述要領書において,後発製品の写真である「甲第59号証」を拠り所として,「後発製品が,請求人製品の外観形状を模倣したレンズスタイルカメラであることは,甲第59号証と甲第63号証とを対比すれば明らかである。また,後発製品は,アタッチメントによってスマートフォンに装着して交換レンズ付きのカメラのように撮影することができるという画期的な機能を有すること,そのアタッチメントの独特なカメラへの装備,スマートフォンへの懸架方法において,請求人製品のそれと酷似していることも,上記の後発製品による請求人製品の模倣を裏付けるものである。さらに,本件登録意匠が後発製品の外観形状をそのまま意匠として登録出願したものであることは,本件登録意匠を示す甲第1号証の各図と後発製品の外観形状を示す甲第59号証の写真とを対照すれば,判然としている。」と主張している。
(3)請求人の主張に対する判断
請求人は,前記「第2 2 本件登録意匠の背景」において,2014年1月頃にα社が米国において後発製品(「レンズ型デジタルカメラ」の製品)の発売を開始する旨を発表したと述べ,同年5月頃に発売された後発製品の写真を甲第59号証として示して,後発製品が請求人製品の外観形状を模倣しており,本件登録意匠が後発製品の外観形状についてそのまま意匠登録出願をしたと指摘している。
しかし,後発製品は本件登録意匠の出願日(平成25年(2013年)12月27日)よりも後に発表されたものであり,後発製品は本件登録意匠と同一ではないので無効理由1を構成しないから,後発製品(甲第59号証)と請求人製品を対比することは適当ではない。
また,仮に後発製品が「レンズ型デジタルカメラ」であるとしても,本件登録意匠が「レンズ型デジタルカメラ」であることの根拠にはならない。なぜならば,後発製品は本件登録意匠と同一ではないので無効理由1を構成せず,本件登録意匠は,前記1(2)で認定したとおり,コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着するという使用目的を有し,装着する方法(使用方法)として,背面の中央部上下に設けられた機構が用いられることが認められるにとどまり,実際の本件登録意匠の使用状態を具体的に認定することができないので,後発製品の意匠と同一であるとは認められないからである。
さらに,請求人の主張「後発製品は,?画期的な機能を有すること,そのアタッチメントの独特なカメラへの装備,スマートフォンへの懸架方法において,請求人製品のそれと酷似していることも,上記の後発製品による請求人製品の模倣を裏付ける」は,後発製品に係る機能や使用状態が請求人製品に係るそれと酷似するとの主張であって,本件登録意匠の使用目的や使用方法を前提にした主張ではないから,請求人の主張を本件登録意匠に意匠法第5条第1号に基づく不登録理由が存在することの根拠として採用することはできない。
なお,後発製品が「請求人製品の模倣」であるか否かの問題は,不正競争行為差止等請求事件などにより決せられるべきであり,本件登録意匠に意匠法第5条第1号に基づく不登録理由が存在するか否かの問題とは別物である。すなわち,後発製品を輸入する際に請求人登録意匠に係る意匠権侵害が避けられるか又は不正競争防止法違反に基づく関税法による輸入差止を避けられるかの問題は,後発製品と請求人登録意匠との関係で検討されるべきである。
加えて,請求人は,「被請求人は,?円筒型の『デジタルカメラ』に関する意匠を出願するに当たり,審査において,?請求人の登録意匠との類似性を審査官に指摘されることを避けるために,あえて意匠に係る物品を『デジタルカメラ』ではなく,『カメラ用レンズ』として出願したものと合理的に推測することができる。」と指摘するが,前記「第2 2(2)」で請求人が示したとおり,請求人登録意匠1の登録日は平成26年4月4日であり,請求人登録意匠2の登録日は同年5月23日であって,これらの登録意匠が掲載された意匠公報の発行日は更に後であるから,被請求人が本件登録意匠の出願時にこれらの出願の事実及び内容について知る由はないので,当該指摘を首肯することはできない。
そうすると,本件登録意匠の登録について,「意匠登録をすることによって,後発製品を輸入する際,請求人登録意匠に係る意匠権侵害又不正競争防止法(2条1項1号)違反に基づく関税法による輸入差止(関税法69条の11)を避ける」との請求人の主張を首肯することはできず,「脱法的な意匠登録を認めることは,?意匠法の目的,及び意匠法の秩序に反するものであり,」「本件登録意匠は,意匠法第5条第1号の『公の秩序・・・を害するおそれがある意匠』に該当」するとの請求人の主張を採用することはできない。
また,上記(1)の意匠法第5条の規定の趣旨に照らして,本件登録意匠が,公の秩序を害するおそれがある意匠であるとも,善良の風俗を害するおそれがある意匠であるともいい難い。
(4)小括
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第5条第1号に掲げる「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠」であるとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由1には,理由がない。

6 無効理由2についての判断
本件登録意匠が,意匠法第5条第2号に掲げる「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」であるか否かについて検討する。
(1)他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠について
「意匠審査基準(特許庁 平成23年8月1日一部修正版)」(別紙第23参照。なお,別紙第23は,平成28年3月11日一部修正版である。)によれば,意匠法第5条第2号の「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」について,
「他人の著名な標章やこれとまぎらわしい標章を表した意匠は,その物品がそれらの人又は団体の業務に関して作られ,又は販売されるものと混同されるおそれが多く,その意匠は他人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるものと認められるので,意匠登録を受けることができない。」(41.1.3)と説明されている。これを踏まえて,以下,検討する。
(2)請求人の主張
請求人は,審判請求書において,上記の「審査基準は,『混同のおそれがあるか否かは,デザイン間の近似性,物品の競合関係の強弱,表示の周知著名度の強弱によって強く影響される。したがって,周知著名性が強く,競合関係も強い場合にはデザイン間に一般的近似性がなくても混同の危険は生じ得る。』(加藤恒久「意匠法要説」232頁)という見解と,基本的に同一の理解に立つものと思われる。」と述べ,
「a デザイン間の近似性
請求人製品と本件登録意匠との各デザイン間に強い近似性が存在す ることは,無効事由3について後述するところから明らかである。
すなわち,本件登録意匠は,請求人製品と同様に,カメラのディスプレイ部分がなく,一眼レフカメラ用交換レンズのような円筒形であり,背面にはスマートフォンに接続する形状のアダプターが付されているなど,請求人製品の斬新な特徴を全て模倣したといっても過言ではなく,請求人製品と酷似する。
b 物品の競合関係の強弱
請求人製品と本件登録意匠に係る製品(後発製品)は,機能,用途,需要者,市場において,全く同一であることはいうまでもない。
c 表示の周知著名度の強弱
商品表示としての請求人製品の形態が,本件登録意匠の出願時には,すでに需要者において著名,周知となっていたことは,前述のとおりである。
以上のaないしcによれば,本件登録意匠は,周知又は著名な請求人製品と出所の誤認混同を生ずる可能性が高いことが明らかである。」と主張している。
また,請求人は,弁駁書において,「請求人製品は,スマートフォンと組み合わせて使える全く新しい製品で,従来のカメラと異なり,カメラのディスプレイ部分をそぎ落とし,一眼レフカメラ用交換レンズのような円筒形ボディを採用し,手持ちのスマートフォンと併せて,高画質カメラや高倍率ズームカメラのような本格的な撮影を実現できるという極めて画期的な製品である。その上,甲第11号証?58号証に例示されるとおり,請求人製品には発売前の製品発表当時から,高い関心が寄せられ,数多くの報道や雑誌の特集がなされた。したがって,請求人製品は,非常に広く知られた特徴的な製品であり,これと酷似した本件登録意匠が登録された場合,請求人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるものと認められることは明らかである。」と主張した。
(3)請求人の主張に対する判断
請求人は,「請求人製品と本件登録意匠との各デザイン間に強い近似性が存在することは,無効事由3について後述するところから明らかである。」と主張するが,前記「3 無効理由3についての判断」のとおり,本件登録意匠は甲63意匠に類似する意匠ではない。なお,本件登録意匠と甲65意匠を比較しても,本件登録意匠の平面形状に見られる,円形状ボタン(22),略U字面状区画部(24),略横長長方形状部及び略U字状面分割線は甲65意匠にはないので,本件登録意匠が甲65意匠に酷似するということはできない。
また,請求人は,請求人製品と後発製品が,機能,用途,需要者,市場において全く同一であると指摘するが,後発製品は本件登録意匠の出願日(平成25年(2013年)12月27日)よりも後に発表されたものであり,後発製品は本件登録意匠と同一ではないので無効理由2を構成しないから,前記5(3)と同様に,後発製品と請求人製品を対比することは適当ではない。
さらに,請求人は,「商品表示としての請求人製品の形態が,本件登録意匠の出願時には,すでに需要者において著名,周知となっていた」と述べ,「請求人製品は,スマートフォンと組み合わせて使える全く新しい製品」であり,「手持ちのスマートフォンと併せて,高画質カメラや高倍率ズームカメラのような本格的な撮影を実現できるという極めて画期的な製品」であって,「請求人製品は,非常に広く知られた特徴的な製品であり,これと酷似した本件登録意匠が登録された場合,請求人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるものと認められることは明らかである。」と主張する。
しかしながら,需要者が注目しているのは,請求人製品がスマートフォンと組み合わされることの新しさであり,スマートフォンとの競合ではなく共存であるというアイディアであって(甲第30号証。別紙第9参照。),スマートフォンとの組合せ方(使用状態)を含めた,新製品のコンセプトであるということができる。
一方,本件登録意匠は,前記1(2)で認定したとおり,コンパクトデジタルカメラやスマートフォン等に装着するという使用目的を有し,装着する方法(使用方法)として,背面の中央部上下に設けられた機構が用いられることが認められるにとどまり,実際の本件登録意匠の使用状態を具体的に認定することができないものであって,上記のような請求人製品のコンセプトと同等のものではない。
そして,本件登録意匠の形態は,前記1(3)で認定したとおり,平面の構成態様として,略U字面状区画部(24)とそれを取り囲む略U字状面分割線という複雑かつ特徴的な態様を有しており,この特徴的な態様が,看者に対して一つのまとまった美感を与えており,かつ当業者が容易に創作をすることができないことは,前記3及び前記4で説示したとおりである。
したがって,本件登録意匠は,請求人製品のコンセプトとは異なっており,形態について特徴的な態様を有するものであるから,本件登録意匠が請求人製品と酷似するとの請求人の主張を採用することはできない。
そうすると,請求人の主張をいずれも採用することはできず,また,上記(1)の意匠法第5条第2号の説明に照らしても,本件登録意匠が,請求人の業務に関して作られ,又は販売されるものと混同されるおそれが多いとはいい難いので,本件登録意匠が他人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるものということはできない。
(4)小括
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第5条第2号に掲げる「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」であるとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由2には,理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由4には理由がなく,これらの無効理由によっては,本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-05-24 
出願番号 意願2013-30842(D2013-30842) 
審決分類 D 1 113・ 24- Y (J3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原川 宙神谷 由紀 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
正田 毅
登録日 2014-12-05 
登録番号 意匠登録第1514997号(D1514997) 
代理人 細田 浩一 
代理人 細田 浩一 
代理人 鈴木 博子 
代理人 富岡 英次 
代理人 井野 砂里 
代理人 小和田 敦子 
代理人 伴 俊光 
代理人 伴 俊光 

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