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審決分類 |
審判 査定不服 2項容易に創作 取り消して登録 B1 |
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管理番号 | 1319239 |
審判番号 | 不服2016-5509 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-04-14 |
確定日 | 2016-09-06 |
意匠に係る物品 | ズボン |
事件の表示 | 意願2014- 27019「ズボン」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
1.本願意匠 本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする,平成26年(2014年)12月3日の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「ズボン」とし,その形態を願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたもので,「黄色で着色した部分以外の部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)(別紙第1参照) 2.原査定における拒絶の理由及び引用意匠 原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。 この意匠登録出願の意匠は,ズボンに係るもので,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分は,ズボン上端周縁と腰ベルトから成り,その形態は,前ズボン中央開口部の一方端部に釦二個を縦に配し,その開口部左右を,横長長方形状の面ファスナー,その外側をギャザー部とし,後ズボンの両側寄りに,ベルト通しを配し,後中央に,両端内側を面ファスナーとした横長帯状の腰ベルトの中央を取付け,その両端の面ファスナーと前ズボンの面ファスナーとが係止し得る構成態様としたものである。 ところで,この種物品分野に於いては,前ズボン中央に開口用の釦を配し,その左右を,横長長方形状の面ファスナーとすること(例えば,意匠1),その外側をギャザー部とすること(例えば,意匠2),腰ベルトを後ズボン中央に取付けること(例えば,前掲意匠2),腰ベルトの両端内側を面ファスナーとし前ズボンの面ファスナーと係止可能とすること(例えば,前掲意匠1及び2,意匠3),何れも,本願出願前より極く普通に行われているところである。 そうすると,本願出願前に公然知られた意匠に基づいて,極く一般的に行われている手法により変更し表したに過ぎない本願の意匠は,当業者であれば,容易に創作することができたものである。 意匠1(別紙第2参照) 独立行政法人工業所有権情報・研修館が2010年2月15日に受け入れた株式会社 山と溪谷社発行の雑誌「山と溪谷」2010年3月1日899号 第47頁所載のズボンの意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HA22001292号) 意匠2(別紙第3参照) 特許庁発行の登録実用新案公報記載 実用新案登録第3030834号 意匠3(別紙第4参照) 特許庁発行の公開特許公報記載 特開2007-092258 [図1]乃至[図3]で表された意匠 3.請求人の主張の要旨 (1)意見書を受けて審査官は,本件拒絶査定において「本願意匠は,先の拒絶理由通知書に示したとおり,本願出願前に公然知られた意匠に基づいて,極く一般的に行われている手法により変更したに過ぎないものであ」ると認定している。しかしながら,「本願出願前に公然知られた意匠に基づいて,極く一般的に行われている手法により変更したに過ぎないものであ」るとの認定は,意味内容がきわめて漠然としており,審判請求人においてその意味内容を理解することができないものである。 意匠法3条2項に規定する創作非容易性の判断は,審査官の主観に左右され易く恣意的になりがちであることから,審査の客観性・公平性を担保するため,同規定に係る意匠審査基準には創作非容易性が認められないとされる代表的な事例が明示されている。その一例として,「寄せ集め意匠」が示されており,「複数の意匠を組み合わせて一の意匠を構成することをいう。複数の公然知られた意匠を当業者にとってありふれた手法により寄せ集めたに過ぎない意匠。」と定義されている(同基準23.5.2)。前記「本願出願前に公然知られた意匠に基づいて,極く一般的に行われている手法により変更したに過ぎないもの」は,「寄せ集め意匠」の定義には当てはまらないものである。 そうすると,前記「本願出願前に公然知られた意匠に基づいて,極く一般的に行われている手法により変更したに過ぎないもの」というのは,審査官が本願意匠を拒絶するために独自に作り出した恣意的な判断基準に過ぎないというべきである。 (2)本願の意匠は,「ズボン」に係るもので,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分は,「ズボン上端周縁と腰ベルトから成り,その形態は,前ズボン中央開口部の一方端部に釦二個を縦に配し,その開口部左右を,横長長方形状の面ファスナー,その外側をギャザー部とし,後ズボンの両側寄りに,ベルト通しを配し,後中央に,両端内側を面ファスナーとした横長帯状の腰ベルトの中央部を取付け,前記ベルト通しを挿通させたベルトの両端内側に面ファスナーを配し,当該面ファスナーと前記前ズボンの開口部左右に設けられた横長長方形状の面ファスナーとが係止し得る構成態様としたもの」である。 これに対し,主引例ともいうべき意匠1は,本願の部分意匠に対応する部分として,ズボン上端周縁と腰ベルトから成り,その形態が,前ズボン中央に開口用の釦を配し,その左右を「横長形状」の面ファスナーとする構成と,腰ベルトの両端内側を面ファスナーとし前ズボンの面ファスナーと係止可能とする構成が開示されていることまではわかるが,それ以外の構成は開示されていないものである(特許庁意匠課公知資料番号第HA22001292号参照)。 また,意匠2には,ズボン上端周縁と腰ベルトから成り,その形態が,前ズボン中央に開口用の釦を配し,前ズボン両側にギャザー部を配し,後ズボン中央に取り付けた腰ベルトの両端内側を面ファスナーとして相互に係止可能とする構成が開示されていることまではわかるが,それ以外の構成は開示されていないものである。 また,意匠3には,ズボン上端周縁と腰ベルトから成り,その形態が,前ズボン中央に開口用の釦を配し,後ズボン中央に取り付けた腰ベルトの両端内側を面ファスナーとして相互に係止可能とする構成が開示されていることまではわかるが,それ以外の構成は開示されていないものである。 さらに,審査官は拒絶査定において,「後ズボン両側寄りにベルト通しを配した構成のもの」が,本願の出願前より当業者に広く知られていたことは,例えば,意匠公報発行から十数年が経過している意匠登録第1109652号意匠,意匠登録第1188373号意匠にも,2013.07.22大韓民国特許庁発行の大韓民国意匠商標公報所載ズボン(登録番号30-0702317)の意匠[参考HH25422559]等にも,後ズボン両側寄りにベルト通しを配した構成のものが観られることからも明らかであると認定している。しかしながら,これらの各引例はいずれも,本願意匠が「後ズボンの両側寄りに,ベルト通しを配し,後中央に,両端内側を面ファスナーとした横長帯状の腰ベルトの中央部を取付け,前記ベルト通しを挿通させたベルトの両端内側に面ファスナーを配し,当該面ファスナーと前記前ズボンの開口部左右に設けられた横長長方形状の面ファスナーとが係止し得る構成態様」を備えることが,当業者にとってありふれた手法といえることの根拠となるものではない。もっとも,これらの各引例については本件拒絶査定前に本願出願人に具体的に通知されておらず,本願出願人に反論の機会が与えられていなかったものであるから,本件拒絶査定で新たに引用例として用いることは明らかに違法な手続であるというべきである。 (3)ところで,拒絶査定の末尾には,「なお,面ファスナーの『横長長方形』に認定誤りがある旨については,出願前より該部を『面ファスナー』とすることが出願前より行われていたことを明らかにする例として意匠1を示したのであり,横長長方形を呈する面ファスナーは,例示意匠3のNO7にも観られるように周知の形状のものであって,その点について例示したものではありません。」と記載されている。 しかしながら,例示意匠3のNO7に観られる「横長長方形を呈する面ファスナー」は,ベルト両端の内側に設けられた面ファスナーであって,前ズボン中央に設けられた開口用の釦の左右に設けられた横長長方形状の面ファスナーではないから,そもそも周知の形状の参考例としても失当である。 (4)以上の通り,本願意匠は意匠法第3条第2項の規定に該当しないものである。 4.当審の判断 本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。 (1)本願意匠 本願意匠は,意匠に係る物品を「ズボン」とし,本願部分をズボン本体上端周縁のウエストの帯状部分(以下,「帯状部」という。)とベルト部としたもので,その形態は,帯状部の前方側のズボンの中央開口部(以下,「開口部」という。)の一方の端部に円形状ボタン2個を縦に配し,開口部の左右に横長長方形状の面ファスナーを配し,その外側をギャザー部とし,帯状部の後方側の左右両側寄りに,縦長紐状のベルト通しを配し,両端内側を面ファスナーとした横長帯状のベルト部の中央部を,ズボンの帯状部後方側中央に取付け,ベルト通しに挿通させ,両端の面ファスナーとズボンの帯状部前方側の開口部左右に設けられた横長長方形状の面ファスナーとが係止し得る態様としたものである。 (2)原査定の拒絶の理由の引用意匠 (ア)意匠1 意匠1は,意匠に係る物品を「ズボン」とし,ズボン本体上端周縁のウエストの帯状部とベルト部としたもので,その形態は,帯状部の前方側のズボンの中央開口部の一方の端部に円形状ボタン2個を縦に配し,開口部の左右に先端が弧状で横長帯状の面ファスナーを配し,ベルト部の両端内側に面ファスナーを配し,当該面ファスナーとズボンの帯状部前方側の開口部左右に設けられた先端が弧状で横長帯状の面ファスナーとが係止し得る態様としたものである。 (イ)意匠2 意匠2は,考案の名称をスポーツウェアとするズボン本体上端周縁のウエストの帯状部とベルト部としたもので,その形態は,帯状部の前方側のズボンの中央開口部の一方の端部に円形状のホック2個を縦に配し,開口部の左右寄りをギャザー部とし,ベルト部の外側を面ファスナーとし,一方の端部内側に円形状の面ファスナーを配し,横長帯状のベルト部の中央部をズボンの帯状部後方側中央に取付け,ベルト部の一方の端部内側の円形状の面ファスナーとベルト部の外側の面ファスナーとが,ズボンの帯状部前方側で係止し得る態様としたものである。 (ウ)意匠3 意匠3は,発明の名称を身体装着具とするスパッツの本体上端周縁のウエストの帯状部とベルト部としたもので,その形態は,帯状部の前方側を面ファスナーとし,帯状部の後方側を輪状にして横長帯状のベルト通しとし,ベルト部をベルト通しに挿通させ,ベルト通しの左右に突出するように設け,ベルト部の内側両端部の横長長方形状の面ファスナーとスパッツの帯状部前方側の面ファスナーとが帯状部前方側の中央やや左右寄りで係止し得る態様としたものである。 (3)創作容易性の判断 まず,本願意匠が属するズボンの物品分野においては,ズボン本体上端周縁のウエストの帯状部とベルト部に面ファスナーを設けることは,意匠1ないし意匠3に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。 また,帯状部の前方側のズボンの中央開口部の一方の端部に円形状ボタン2個を縦に配した態様も,意匠1に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。そして,ベルト部の面ファスナーを意匠3に見られるように,横長長方形状とすることは,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。 しかしながら,意匠1のズボンは,その背面側の態様が現されておらず不明であり,また,帯状部とベルト部の面ファスナーは,開口部付近で中央に向かって弧状となっていて,その態様は,本願部分の横長長方形状の態様とは異なるものである。 また,意匠2のズボンは,横長帯状のベルト部の中央部を,ズボンの帯状部後方側中央に取付け,ベルト部の一方の端部内側の円形状の面ファスナーと外側の面ファスナーとが,ズボンの帯状部前方側で係止し得る態様としたもので,その態様は,ベルト部両端の面ファスナーとズボンの帯状部前方側の開口部左右に設けられた横長長方形状の面ファスナーとが係止し得る態様とした本願部分の態様とは異なるものである。 そして,意匠3は,スパッツの帯状部前方側に設けられた帯状の面ファスナーとベルト部の左右の横長長方形状の面ファスナーが係止し得る態様となっているが,ベルト部が固定されず背面側の袋状部を挿通して左右から出ていて,本願部分の態様とは異なるものである。 ズボンのウエストの帯状部とベルト部に面ファスナーを設けることは,従来より広く知られた態様といえるものであるが,本願部分の態様は,帯状部の後方側の左右両側寄りに,縦長紐状のベルト通しを配し,両端内側を面ファスナーとした横長帯状のベルト部の中央部を,ズボンの帯状部後方側中央に取付け,ベルト通しを挿通させ,ズボンの帯状部前方側の面ファスナーと係止し得るとした態様が特徴的で,他には同様の態様が見られないものであるから,意匠1ないし意匠3のそれぞれの態様を組み合わせたとしても本願部分の態様が容易に創出し得るものということはできない。 そうすると,帯状部の前方側の中央開口部の一方の端部に円形状ボタン2個を縦に配し,開口部の左右に横長長方形状の面ファスナーを配し,その外側をギャザー部とし,帯状部の後方側の左右両側寄りに,縦長紐状のベルト通しを配し,両端内側を面ファスナーとした横長帯状のベルト部の中央部を,ズボンの帯状部後方側中央に取付け,ベルト通しを挿通させ,両端の面ファスナーとズボンの帯状部前方側の開口部左右に設けられた横長長方形状の面ファスナーとが係止し得るものとした態様は,本願部分の独特の態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことができないものである。 よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,意匠1ないし意匠3に見られる,日本国内において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。 5.むすび したがって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2016-08-24 |
出願番号 | 意願2014-27019(D2014-27019) |
審決分類 |
D
1
8・
121-
WY
(B1)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木本 直美 |
特許庁審判長 |
本多 誠一 |
特許庁審判官 |
斉藤 孝恵 須藤 竜也 |
登録日 | 2016-09-30 |
登録番号 | 意匠登録第1561829号(D1561829) |
代理人 | 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所 |