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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 H7
管理番号 1323559 
審判番号 不服2016-14715
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-30 
確定日 2017-01-10 
意匠に係る物品 キーボード 
事件の表示 意願2015- 20151「キーボード」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,2015年(平成27年)6月9日の米国への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとし,物品の部分について意匠登録を受けようとする平成27年(2015年)9月10日の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「キーボード」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであって,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。各図の表面に描かれた細線は,いずれも立体表面の形状を表す線である。」としたものである(以下,本願について意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)。(別紙第1参照)


第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠

原査定における拒絶の理由は,本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることのできない意匠)としたものであって,拒絶の理由に引用した意匠(以下,「引用意匠」という。)は,本願出願前,特許庁意匠課が2010年7月16日に受け入れた,サンワサプライ株式会社のホームページに掲載された「キーボード入力機」の意匠における本願意匠に相当する部分の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HJ22025003号)であって,その形態は,同公報の図面に記載されたとおりのものである(以下,本願部分に相当する部分を「引用部分」といい,本願部分と合わせて「両意匠部分」という。)。(別紙第2参照)


第3 請求人の主な主張の要点

これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。

1.本願意匠が登録されるべき理由
1-1.本願意匠と引用意匠の対比
意見書にて述べたとおり,審査官は,拒絶理由通知書において,共通点として,以下2点を挙げた。
(1)全体形状が略長方形で薄い板状のキーボードであって,その裏面上端側に,断面形状の接地側が隅丸の略四角形に形成したキーボード支持部を長手方向に延設したものである点,
(2)キー相互の間隔が略同一であり,キーボード端部とキーとの間隔も,キー相互の間隔と略同一にしている点
また,相違点として,以下3点を挙げた。
(ア)本願意匠に係る部分は右側から4列までのキーの上側にそれぞれ略横長四角形のキーが設けられているが,引用意匠に係る部分には当該キーの代わりに複数のランプが設けられている点,
(イ)本願意匠に係る部分は右から4列目から5列目のキーの間隔が他のキー相互の間隔と同じであるが,引用意匠に係る部分では当該間隔がそれよりも若干広く形成されている点,
(ウ)本願に係る部分は引用意匠に係る部分に比べて,キーボードの厚みが若干薄い点

しかしながら,本願意匠は,願書の意匠の説明において記載したとおり,実線で特定された部分について意匠登録を受けようとするものであり,平面側に表れるキー及びその配置構成は,意匠登録を受けようとする部分には相当しない。

以上より,共通点(2),相違点(ア)及び(イ)は,物品の用途機能又は登録を受けようとする部分の位置・大きさ・範囲との関係においてのみ認定されるべきものであって,本願意匠と引用意匠との形態の共通点,相違点とは認定し得ないものであると考える。
この点,共通点(2),相違点(ア)及び(イ)は,明らかに本願意匠と引用意匠との形態の共通点,相違点をいうものであり,認定し得ない事項である。
そこで,本願意匠と引用意匠との形態の対比に当たっては,共通点(2),相違点(ア)及び(イ)は除外し,共通点(1)及び相違点(ウ)のみとして解して以下に説明する。

本願意匠と引用意匠との相違点として,実質的に(ウ)を挙げているが,この相違点以外にも,本願意匠と引用意匠とには,相違点が存在する。

すなわち,相違点(ウ)に加え,本願意匠は,側面視において一層の筐体から形成されるのに対して,引用意匠は,側面視において二層の筐体から形成されているという相違が存在する。

1-2.類否判断
本願意匠と引用意匠には,上述した拒絶理由通知においては認定されていない本願意匠の筐体全体は一層の横長長方形状で形成されているという相違点が存在する。
引用意匠のキーボードにおけるキー又は本願意匠において破線で例示されるキーは,薄型一層構造で構成されているが,本願意匠は,筐体が一層構造にて形成されており,キーの形状と,筐体全体の形状とを符合させることで,キーと薄型で形成される全体の筐体との一体性を醸し出すデザインコンセプトとしている。
この点,審査官は,拒絶査定において「しかしながら,本願意匠はキーの形状を意匠の構成要素として含むものではないから,キーの形状と全体形状とを付合させるというデザインコンセプトの有無についての主張は,参酌することはできません。」と指摘するが,これは意見書の主張を誤解している。

キー形状が薄型一層構造で構成されていることは,上記のとおり,ごく一般的なことであって,薄型一層でない例を見ることはない。
したがって,本願意匠において,筐体を一層で形成したこと自体をもって,仮にキーが本願意匠において特定されていなかったとしても,一般的な形状のキー形状を採用すれば,さらにいえば,キーを配置する以上,キー形状と筐体との一体性は生じ得るものである。
以上より,審査官が「キーの形状と全体形状とを付合させるというデザインコンセプトの有無についての主張は,参酌することはでき」ない,とすることは,キーボードという物品によって特定される一般的な形状を無視した認定であり,妥当ではない。
言い換えれば,薄型のキーボードである限り,筐体を薄型一層で形成すれば,それはすなわちキーの形状と全体形状とを付合させることになるのであって,審査官が「参酌できない」とするのであれば,そうはならない例を示すべきである。

これに対して,引用意匠は,筐体全体が二層であって,本願意匠のようなキーと筐体とが符合するようなデザインコンセプトは存在しない。
このように本願意匠は,相違点(ウ)の相違に留まらず,上述した一層で形成されるか二層で形成されるかといった相違において,キーと薄型で形成される全体の筐体との一体性を醸し出すという美感を奏するものであり,このような美感は,引用意匠に存在しないことから,本願意匠と引用意匠とは全体の美感を大きく異にするものである。
以上より,本願意匠と引用意匠との構成上の相違点は,大きな美感の差として表れるものであり,この相違点は共通点を凌駕し得るものである。
まず,審査官は,「極端な段差を有するものではなく」と指摘されておりますが,この場合の「極端」とは何をもって極端というのか不明である。
極端かどうかは,相対的な評価になるといえるが,本願意匠のように,構成要素が筐体と支持部との少ない点数において,そのうちの一つであり,また,物品全体及ぶ筐体の変更は,相対的に全体のデザインへ与える影響は大きいといえる。
この点からいえば,段差が設けられたこと自体,それが視認可能な程度に十分に存在すれば,相違点として全体の美感に与える影響は大きく,それが「極端」に存在する必要は全くない。
本願意匠と引用意匠において,仮に支持部における相違であればその形状の相違の美感への影響は小さいと判断され得るが,全体にわたる筐体の相違である限りは,美感への影響は大きいと言わざるを得ない。

一方で,審査官は,「引用意匠のキーボードは,筐体の上側の層の縦横長さが下側の層よりも一回り大きく形成されており,使用時の状態で,下側の層が上側の層に隠れて視認されにくいものです。」とも認定されている。
しかし,本願意匠のような薄型のキーボードについては,他のキーボードと同様に捉え,単に使用時のみを捉えて評価することは妥当ではない。
すなわち,近年の薄型のキーボードは,引用意匠を表した文献に「使わないときは立てて収納でき,机の上を広々と使える省スペース設計です。」と記載されるとおり,定常的に設置されたものではなく,省スペースやポータビリティを考慮して創作されており,単に使用時のみならず,収納時や搬送時も想定する必要がある。
そうすると,一律に側面における形状の相違だから視認されにくいというような事実はなく,立てて収納されていれば当然に正面よりもむしろ側面が着目され,搬送時であってもキーボードを平面的に保持して運ぶというよりも,立てた状態で運ぶことが容易に考え得ることですから,殊更使用時の視認性のみを論じて美感に与える影響が小さい理由とすることは妥当ではない。

以上より,本願意匠と引用意匠との構成上の相違点は,本願意匠と引用意匠との共通点を考慮しても,大きな美感の差として表れるものであり,この相違点は共通点を凌駕し得るものである。


第4 当審の判断

本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,引用意匠に類似するものであるか否かについて,請求人の主張を踏まえて,以下,検討する。
なお,本願意匠は,意匠の説明において,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としているが,願書に添付した図面によると,キーボード本体上面において,キーボード枠体内側に配置された全てのキーを破線で表しており,キーボードのキーについては意匠登録を受けようとしない,つまり,そのキーボードのそれぞれのキーの大きさ及び形状のいずれも特定しないものであることから,キーボード上面は平らな面に多数のキーを配置していることは認定できるものの,意匠登録を受けようとするキーボード上面のキーとキーの間隔や縁の幅や大きさ及び形状は,特定しないものと認定することが妥当であり,本願意匠は本願部分のキーボード本体上面のキーとキーの間隔や縁の幅や大きさ及び形状にとらわれることなく,本願部分の形態が引用意匠に類似するものであるか否かを検討し,判断する。

1.両意匠の対比
(1)両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は,コンピューターに文字等を入力するための入力機器である「キーボード」であり,意匠に係る物品は,一致する。

(2)両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本願部分は,全体を厚みの薄い横長略長方形の板状とする,底面にキーボード支持部を設けたキーボードの枠体部分であって,いずれもキーボード本体上面におけるキーボード枠体内側に配置された全てのキーと,底面視で上辺縁に設けられた左右に長い凸条と下辺側に設けられたキーボード支持部の両端の2つの小さな楕円形状の接地部を除く範囲としたものであり,引用部分は本願部分に相当する部分であることから,両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。

(3)両意匠部分の形態
両意匠部分の形態については,主として,以下の通りの共通点及び差異点がある。
(3-1)共通点
両意匠部分は,基本的構成態様として,全体は,厚みの薄い横長略長方形の板状としたもの(以下,「本体部」という。)であって,キーボードに角度をつけるための裏面上辺側に側面視で略長方形状の支持部を左右方向に設けている点において共通する。
また,両意匠部分は,具体的構成態様として,キーボードの本体部上面の周囲に,周縁部を設けている点において共通する。

(3-2)相違点
具体的構成態様として,
(A)本願部分の本体部は,側面視において段差がなく,1枚の板状として厚みが薄い態様としているのに対して,引用部分の本体部は,側面視において段差を有し,2枚の板を重ねているように想起させ,やや厚みのある態様としている点,
(B)本願部分の本体部上面の周縁部は,幅が狭くランプを伴うインジケーターはないが,引用部分の本体部上面の周縁部には,右上隅にキーがない平らな略横長長方形状の領域を設け,3つの小さな横長長方形のランプを伴うインジケーターを配置している点,
において相違する。

2.両意匠の類否判断
(1)両意匠の意匠に係る物品,部分意匠としての用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲の評価
両意匠は,意匠に係る物品が一致し,両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲は共通するが,両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲は,この種のキーボードの分野において,本願出願前からありふれたものであって,両意匠のみの特徴とは認められず,両意匠部分の類否判断を決定づけるまでには至らないものである。

(2)両意匠部分の形態についての共通点の評価
基本的構成態様に係る共通点については,意匠全体としてみた場合には,この種のキーボードの分野においては,厚みの薄い横長略長方形の板状とし,キーボードに角度をつけるための裏面上辺側に側面視で略長方形状の支持部を左右方向に設けている共通点は,ありふれた態様といえるもので,格別目立つ態様とはいえず,具体的構成態様に係るキーボードの本体部上面の周囲に周縁部を設けている点についても,ありふれた態様であって,これらの点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まるものである。

(3)両意匠部分の形態についての相違点の評価
一方,相違点(A)の本体部の側面視における段差と厚みの相違は,需要者がキーボードを購入する際に,本体部の薄さに注目することから,本体部側面視において段差があるかないか,厚みが薄いか否かでは,見る者に異なる印象を与え,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。

次に,相違点(B)の本体部上面の周縁部に領域を設け,インジケーターを備えているか否かの相違は,キーボードを使用する際に,キーボードの入力状態を確かめられるか否かの違いとなって表れることから,利用者の印象が異なり,その相違は軽視することができず,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものである。

そうすると,本体部の側面視における段差と厚みの相違点(A)に,本体部上面のインジケーターの有無の相違点(B)が相俟った視覚的効果を考慮すると,これら相違点の印象は,共通点の印象を凌駕して,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきである。

(4)小括
以上の通り,両意匠は,意匠に係る物品及び両意匠部分の部分意匠としての用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲が共通するものであるが,両意匠部分の形態において,相違点が共通点を凌駕し,それらが両意匠部分の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。


第5.むすび
以上のとおりであって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するものとはいえないので,本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-12-27 
出願番号 意願2015-20151(D2015-20151) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (H7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 澤崎 雅彦 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 山田 繁和
正田 毅
登録日 2017-01-27 
登録番号 意匠登録第1570527号(D1570527) 
代理人 大貫 敏史 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 内藤 和彦 
代理人 江口 昭彦 
代理人 阿部 豊隆 

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