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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 F4
管理番号 1324913 
審判番号 不服2016-11857
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-05 
確定日 2017-01-10 
意匠に係る物品 ラップフィルム用引出し片 
事件の表示 意願2015- 11201「ラップフィルム用引出し片」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする,平成27年(2015年)5月22日の意匠登録出願であり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「ラップフィルム用引出し片」とし,形態を,願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたもので,「実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」としたものである。(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願実線部分」という。)(別紙第1参照)

第2 原査定おける拒絶の理由及び引用意匠

原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

「本願意匠はラップフィルム用引出し片であって,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分は,使用状態においてラップフィルム巻回体から浮き上がった状態となる,二つ折りの摘み部と認められますが,当該構成の摘み部を備えたラップフィルム用引出し片は,従来から公然知られています(下記の公知文献)。
そうすると本願意匠は,この公然知られた構成の摘み部の平面形状を,横幅が縦長の約2.5倍程度の長さの横長矩形状としたまでのものであり,この意匠の分野の通常の知識を有するものであれば,その形状は容易に創作することができたものと認められます。

公知文献: (別紙第2参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2008-094458(発明の名称:ラップフィルムロール)
【図6】に表された貼付体(符号7)の摘み部(符号8)の断面及びこれに関連する段落【0012】の記載参照」

第3 請求人の主張

1.本願意匠が登録されるべき理由
(1)本願意匠について
本願は,意匠に係る物品を「ラップフィルム用引出し片」とし,その形態は願書及び願書添付の図面に記載されたとおりのものであって,実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。
本願意匠は,下記参考図1において赤字で図示するとおり,基本的な構成として,使用状態においてラップフィルム巻回体から浮き上がった状態となるものであって,二つ折りの摘み部を有する。
本願意匠は,より具体的な構成として,摘み部は,(ア)二枚のラップフィルムが貼り合わされた接着部と,(イ)その先端にラップフィルムが貼り合わされず,ループ状に巻き回されたループ状部とを備える。
(2)引用意匠について(平成28年5月6日付け提出の意見書同旨)
拒絶理由通知において,引用意匠に関し,審査官は「当該構成の摘み部を備えたラップフィルム用引出し片は,従来から公然知られています」と認定している。
拒絶理由通知においては,本願意匠に関し,摘み部の構成をさらに具体的には認定されていないため,引用意匠においても,摘み部の構成としてそれ以上細かい認定はされていない。
この点,下記参考図2として提示する引用文献の図6及び参考図3として提示する引用文献の図2に示されるとおり,引用意匠の摘み部は,その二つ折りの面全体に「粘着層P」が形成されており,二つ折りの摘み部は,全体が一様に貼り合わされた接着部のみによって形成されている。
(3)本願意匠の創作非容易性について
上述のとおり,本願意匠は,摘み部として,(ア)二枚のラップフィルムが貼り合わされた接着部と,(イ)その先端にラップフィルムが貼り合わされず,ループ状に巻き回されたループ状部とを備えているのに対して,引用意匠における摘み部は,全体が一様に貼り合わされた接着部によって構成され,ループ状部を備えない点で異なる。
このループ状部について,審査官は,拒絶査定謄本において「本願意匠のループ部は,弾性のあるシート材を二つ折りにした際に折り目部に普通に表れるようなループ形状であって,ごくありふれた形状と判断せざるを得ない」と判断し,「本願意匠は引用した公知意匠に対して,単に摘み部の平面形状を縦長より横幅の方が長い横長矩形状とした程度のものであり,折り目部に小さくループ形状が形成されている点も含めて当業者の格別の創作を要したとは認められ」ないとした。
審査官は,「本願意匠のループ部は,弾性のあるシート材を二つ折りにした際に折り目部に普通に表れるようなループ形状であって,ごくありふれた形状」と認定するが,拒絶査定謄本においては,実際にありふれた形状であることを示す公知形状等は一切示されていない。
また,確かに,弾性のあるシート材を二つ折りにした場合には,その折り目にはループ状が形成されるが,ひとことにループ状といっても,ループ状をなすループの物品におけるサイズ,形状は,意見書で述べたとおり,ループ状を形成するための接着面の範囲によって全く異なる。すなわち,折り目のループ状といっても,如何に接着面を形成し,接着させるか,接着しろをどの程度設けるか,といった創作により,種々のループ状を創作し得るものである。審査官は,本願意匠のループ状を「普通に表れる」と表現するが,上述のとおり,接着しろをどの程度設けるのかによってループ状によって表れる形状,大きさ,範囲は全く異なるので,「普通」という表現は非常に恣意的なものと言わざるを得ない。
つまり,本願意匠は,摘み部において,側面視左右長さ方向として,6分の5?7分の6程度の広い範囲に接着部を形成し,6分の1?7分の1程度にループ状部を形成することで,外観でほぼ真円形のループ状部を形成している。一方で,接着部の範囲を狭くすればするほど,ループ状部の外観に表れる形状は変化し,雫状の外観を表すようになる。本願意匠は,このように,ループ状部をどのような形状によって形成するか,といった点に正にその創作があり,この点が評価されるべきと考える。
意見書でも既に述べたとおり,引用意匠においては,上記参考図3として示した通り,摘み部全体に接着面を設けていることが明示され,引用意匠が開示された引用文献全体から見ても摘み部全体を接着して構成することが前提となっており,本願意匠のように,ループ状部を持たせるという発想自体がないことは明らかである。引用意匠においては,摘み部が一様で本願意匠にあるような構成を有さない。そして,引用意匠が摘み部の全体を接着部によって形成していることからも,引用意匠には本願意匠におけるようなループ形状を如何に構成するか,といった創作的意図が見られない。
本願意匠は,引用意匠の置換・寄せ集めや単なる配置変更によっては成し得ない高い創作性を有するものであり,本願意匠は,引用意匠に基づき容易に創作することは困難である。
また,引用意匠にループ状を形成するという発想が全く見られない以上,少なくとも,置換対象となる公知形状等は証拠をもって示されるべきであって,「本願意匠のループ部は,弾性のあるシート材を二つ折りにした際に折り目部に普通に表れるようなループ形状であって,ごくありふれた形状」との認定は恣意的に過ぎ,到底受け入れることができない。

第4 当審の判断

以下において,本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性,つまり,本願意匠が容易に創作することができたか否かについて,請求人の主張を踏まえて検討し,判断する。
(1)本願意匠の認定
(ア)本願意匠
本願意匠の意匠に係る物品は,「ラップフィルム用引出し片」であり,願書の記載並びに願書に添付された「使用状態参考図」,「使用状態分解参考図」及び「使用状態断面参考図」によれば、ラップフィルム巻回体の中央に貼り付けて使用されるものと認められる。本願意匠は,ラップフィルム巻回体の半周に貼り付ける部分とラップフィルムの上端から水平方向に延長した部分(以下,「本願延長部」という。)から成る。
(イ)本願実線部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本願実線部分は,ラップフィルムの使用を開始する際に,巻回体からラップフィルムを引出す用途及び機能を有し,また,収納箱内でラップフィルム巻回体の位置ずれを防止する機能を有する。
また,本願実線部分は,側面視して本願延長部の先端から約2/3までの位置であり,ラップフィルム巻回体を半周して上端から水平方向に延長された破線部を含むシート材全体の先端から約1/5の範囲であって,平面視において横幅が縦長の約2.5倍の大きさである。
(ウ)本願実線部分の形態
本願実線部分は,側面視して,二つ折りにしたシート材の先端約1/7を略円形ループ状に形成したものである。
(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
引用意匠は,発明の名称を「ラップフィルムロール」とし,本願実線部分に相当する部分(以下,「引用部分」という。)は図6に表された貼付帯7の摘み部8の部分であり,引用部分の用途及び機能は,巻回体からラップフィルムを引出す用途及び機能を有しており,ラップフィルム巻回体の表面から斜め上方に浮いた状態で延長した位置にあり,貼付帯7の中央付近の折り目から外方に延長した端部までの範囲であって,横幅は不明のため大きさも不明である。また,引用部分の形態は,隙間無く二つ折りに形成したものである。
(3)創作容易性の判断
巻回したラップフィルムの使用を開始する際に使用される引出し片を二つ折りにしたシート材とすることは,引用延長部に示すように本願の出願前に公然知られているということができる。
しかしながら,引用意匠は,本願意匠とは異なる角度でラップフィルム巻回体から延長されており、横幅については不明で,端部は略円形ループ状に形成されていない。
すなわち,引用意匠は,本願意匠とは,用途及び機能は共通するものの,引出し片のラップフィルム巻回体との角度や端部の位置が異なり,範囲も大きく異なる上に,横幅については不明であることから,引用部分からは,本願実線部分の端部を収納箱内での位置ずれを防止する位置に形成し,平面視において横幅を縦長の約2.5倍とする態様は表されておらず,むしろ,本願実線部分の位置,大きさ及び範囲は,本願意匠に特有のものであって,引用意匠から導き出せたものということはできない。
また,本願実線部分の形態については,隙間無く二つ折りにされた引用意匠の形態に基づいて,本願実線部分の略円形ループ状の形態を導き出すことはできず,本願実線部分の形態が,弾性のあるシート材を二つ折りした際に普通に表れるごくありふれた形状とまではいうことができない。
したがって,原査定における拒絶の理由での引用意匠に基づいて,当業者が容易に本願意匠を創作することができたということはできない。

第5 結び
以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規程に該当しないものであり,原査定の理由によっては,本願を拒絶するべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-12-27 
出願番号 意願2015-11201(D2015-11201) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (F4)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木本 直美 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 渡邉 久美
温品 博康
登録日 2017-02-10 
登録番号 意匠登録第1571490号(D1571490) 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 内藤 和彦 
代理人 江口 昭彦 
代理人 大貫 敏史 

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