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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 C5
管理番号 1332308 
審判番号 不服2017-6862
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-12 
確定日 2017-09-04 
意匠に係る物品 飲料容器 
事件の表示 意願2016- 10729「飲料容器」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠
本願は,2017年(平成28年)5月20日の意匠登録出願であり,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「飲料容器」とし,その形態を願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)


第2 原審の拒絶の理由
原審における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形態に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には,
「この種飲料容器において,全体が,容器本体部と蓋部とからなり,容器本体部は,有底円筒形状を基調とし,上方を緩やかなすぼまり状として,やや細口状に形成し,蓋部は,容器本体の上方と略同径とし,口部に被せる態様のもので,蓋部と容器本体部の境に環状帯状体を形成したものが,本願意匠の出願前に公然知られています【意匠1】。
また,同様に蓋部の上方稜線部を丸面状に面取りし,下方の環状帯状部に矩形状の凹陥部を形成したものが,本願意匠の出願前に公然知られています【意匠2】。
本願意匠は,その出願前公然知られた【意匠1】の意匠に基づき,当業者にとってありふれた手法を用いて,蓋部を【意匠2】の意匠の様に上方稜線部を丸面状とし,下方の環状帯状部に矩形状の凹陥部を形成したまでのものにすぎませんから,容易に意匠の創作をすることができたものと認められます。

【意匠1】(当審注:別紙第2参照)
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2008年 9月18日に受け入れた
Zuhause Wohnen 9号
第18頁所載
水筒の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HB20008303号)

【意匠2】(当審注:別紙第3参照)
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2007年 6月18日に受け入れた
Stil & markt 6号
第7頁所載
水筒の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HB19005687号)」
としたものである。


第3 請求人の主張
これに対し,請求人は,審判請求書を提出し,要旨以下のとおり主張した。

1.本願意匠と引用意匠の認定の誤り
拒絶理由では,本願意匠と引用意匠1は「蓋部の上方稜線部を丸面状に形成した点」で相違するが,この相違の意匠構成は引用意匠2で公知だから,本願意匠は創作容易と判断した。しかし本願意匠は,引用意匠1との比較で, 拒絶理由にある蓋部の上方稜線部だけが相違しているのでなく,極めて重要な基本構成を顕著に相違し,これにより美観の基調を大きく相違している。つまり,拒絶査定は,本願意匠と引用意匠1の認定に誤りがある。

2.基本形態の相違の評価
(1)飲料容器の造形美のうち,曲線により表される曲線美は,本件のようなボトルや,その他のカップやグラス等において広く認知されているように,極めて繊細な創作が求められており,曲線の如何により,意匠から看取される美感が顕著に異なることは周知のとおりである。このため,創作者は,物品のデザインコンセプトを具体的に表現するための曲線の組み合わせや,アールの取り方や,曲線のバランス等々を日夜研究し,種々の観点から考察を加え,独創的な美観を訴求できる曲線形態の創出に努力している。本願意匠で,創作的な曲線美は,容器本体の胴部から口部に向けて表されており,意匠全体を支配する造形美の表象として,顕在化している。
(2)特に重要な点として,本願意匠は,「撫で肩を呈して緩やかなカーブを描きながら長距離の範囲にわたり膨らむ肩部」を重要な要素として,飲料容器の全体にわたり曲線美で統一された「ふっくら」とした軟らかさを表現したレトロ調をデザインコンセプトの基礎としており,このため,容器本体の底部周囲に丸みを与え,蓋部の頂部周囲にも丸みを与えているのである。
(3)これに対し,引用意匠1は、当業者の目から見ると,本願意匠とは正反対に,モダンな直線美で統一することをデザインコンセプトにしている。このため,底部周囲及び頂部周囲にエッジを表し,これと調和させるために「テーパ面」と「内向き円弧」による絞り込み状の首部を強調し,本願意匠のような「ふっくら」とした軟らかさを払拭させるために肩部の「外向き円弧」を凝縮させている。
(4)そうすると,本願意匠は引用意匠1に類似しないことが明らかである。拒絶査定は「常とう的に行われる変更の範囲に止まる」と述べるだけで根拠事実を何ら示していない。

3.創作容易
(1)本願意匠は引用意匠1と基本形態が相違しており,非類似の意匠である。そして,本願意匠の基本形態(肩部の形態)が当業者に創作容易であることを示す公知意匠は提示されていない。
(2)出願人が意見書において主張した「帯状部」についても,拒絶査定は,「常とう的に行われる変更の範囲に止まる」と述べるだけで,その根拠事実を示していないから誤りである。

4.むすび
よって,本願意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたものとは言えず,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものである。


第4 当審の判断
請求人の主張を踏まえ,本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性,すなわち,本願意匠が容易に創作することができたか否かについて,検討し,判断する。

1.本願意匠
本願意匠の意匠に係る物品は「飲料容器」であり,本願意匠の形態は,以下のとおりである。なお,引用意匠にあわせ,飲料容器を立てた状態で認定する。
本願意匠の形態は,(ア)容器と蓋から成り,容器は,有底縦長略円筒状の胴の上部に,上に向けて縮径する肩部を持つもので,蓋は,やや扁平な略円筒状で,その径を当該容器の上端の径と同径とする。
そして,容器について,詳細には,容器の縦横(最大径)比は,約5:2であり,容器の下から約5分の3を同径とし,(イ)その余(肩部)の径を,外形線が緩やかな凸弧状の曲線となるよう,容器の上端に向けて徐々に縮径させ最大径の約4分の3の径とし,特に,胴の肩部については,その正面視の外形線を,肩部の下方の約7分の5をきわめて緩やかな凸弧状の曲線とし,続く約7分の1を緩やかな凹弧状の曲線とし,その余を垂直の直線としている。
蓋について,詳細には,その縦横比は,約2:3であり,(ウ)上端縁に丸みを持たせ,(エ)下端に蓋の丈の長さの約4分の1の幅の帯状部を設け,その周面に正面視略正方形状で横断面視凹弧状の浅い凹みを8個等間隔に設け,(オ)その上面中央に蓋の径の約半分の径の同心円状部を設けているものである。
また,容器の下部の態様において,容器の丈の長さに対し,容器の下端からおよそ13分の1の高さに,容器の胴を一周する一本の形状線が表れている。

2.引用意匠
(1)【意匠1】
意匠に係る物品は,「水筒」であり,その形態は,(ア)容器と蓋から成り,容器は,有底縦長略円筒状の胴を持ち,蓋は,やや扁平な略円筒状で,その径を当該容器の上端の径とほぼ同径とする。
そして,容器について,詳細には,容器の縦横(最大径)比は,約3:1であり,容器の下から約3分の2を同径とし,(イ)その余(肩部)の径を,外形線が凸弧状の曲線,直線及び凹弧状の曲線が連続するよう,容器の上端に向け徐々に縮径させ最大径の約5分の3の径としている。特に,胴の肩部については,その正面視の外形線は,肩部の下方の約8分の2を凸弧状の曲線とし,続く約8分の2を直線とし,続く約8分の3を凹弧状の曲線とし,その余を垂直の直線としている。
蓋について,詳細には,その縦横比は,約3:4であり,(ウ)上端縁を縦断面視で直角の態様とし,(エ)下端に蓋の丈の長さの約12分の1の幅の帯状部を設けている。(オ)なお,その上面の態様は視認できないものの,細幅で厚みの薄い扁平な紐を,人の手が入る程度の輪をつくり,紐の両端を重ねて,その重ねた両端を蓋の上面の中央付近に取付け,本物品全体を手で提げる掴み紐を設けていると認められる。
(2)【意匠2】
意匠に係る物品は,「水筒」であり,その形態は,(ア)容器と蓋から成り,容器は,有底縦長略円筒状の胴を持ち,蓋は,やや扁平な略円筒状で,その径を当該容器の上端の径とほぼ同径とする。
そして,容器と蓋の境界の位置が不明であるものの,蓋の下端に帯状部を設ける本願意匠の態様にあわせ,以下認定すると,容器について,詳細には,容器の縦横(最大径)比は,約3:1であり,容器の上部と下部を除く約10分の9を同径とし,(イ)その余(容器の上部と下部)を,正面視の外形線が凸弧状の曲線で,漸次縮径する凸弧状のテーパーとしている。
蓋について,詳細には,その縦横比は,約1:1であり,(ウ)上端縁を丸面状の態様とし,(エ)下端に径が僅かに長い幅広の帯状部を設け,その表面に正面視略横長台形状で台形の上辺に向かって漸次削られる態様のごく浅い凹みをおよそ5個等間隔に設けている。(オ)なお,その上面の態様は視認できない。

3.本願意匠の創作の容易性について
本願意匠は,意匠に係る物品を「飲料容器」とし,その形態を前記「1.本願意匠」に認定したとおりのものである。

この種物品分野において,(ア)容器及び蓋を用い,容器を,有底縦長略円筒状の胴とし,蓋を,やや扁平な略円筒状とし,その径を当該容器の上端の径とほぼ同径として,飲料容器として意匠全体を構成することは,例示するまでもなく,本願出願前からごく普通になされている造形手法であるから,このような手法に基づいて創作された形態については,その創作が困難であるとは認められない。

しかし,より具体的な形態まで詳細に検討すると,(イ)胴の肩部の正面視の外形線につき,本願意匠は,肩部の下から上にかけての長い部分を緩やかな凸弧状とし,続くごく短い部分を凹弧状及び直線としていることから,肩部の張り具合が,きわめて緩やかな曲線になっており,いわば撫で肩のように認められるのに対して,【意匠1】は,肩部の下方の約4分の1を凸弧状の曲線とし,続けて同じ長さの範囲を直線とし,さらに同程度の長さの範囲を凹弧状の曲線とし,その余を垂直の直線としており,外形線の全体をあわせて見ると,凸弧状の曲線,直線,凹弧状の曲線及び直線の各態様が肩部の範囲で連続し,人の肩から頚への外形線のようなはっきりした凸部や凹部が認められる。つまり,【意匠1】に本願意匠の肩部の態様が表されておらず,その態様は異なるものである。そうすると,本願意匠は,その出願前に公然知られた【意匠1】の意匠に基づいた,とはいえない。さらに,本願出願前に,この種物品分野において,肩部を本願意匠のような態様のものとする容器の例を発見することができない。したがって,この態様は,先行意匠に照らすところ,本願意匠の特徴的な着想によるものというべきである。

また,蓋の形状のうち,(ウ)上端縁の態様については,本願意匠も,【意匠2】も,同程度の丸面状の態様としている。この種物品分野において,手で蓋を開け閉めしやすいように蓋をつかむ際に手のひらに素直に収まる程度に,上端縁に丸みを持たせることは,例示するまでもなく,本願出願前からごく普通になされている造形手法であるから,このような手法に基づいて創作された形態については,その創作が困難であるとは認められない。

しかし,本願意匠にみられる,(エ)蓋の下端の帯状部の幅については,本願意匠が,縦横比を約2:3とする蓋の下端に,蓋の丈の長さの約4分の1の幅の帯状部を設けているのに対し,【意匠1】は,縦横比を約3:4とする蓋の下端に,蓋の丈の長さの約12分の1の幅の帯状部を設けている。つまり,本願意匠の場合,蓋の扁平さもあいまって帯状部の幅が広い様相を呈するのに対し,【意匠1】の場合、蓋が扁平でないこともあいまって帯状部の幅が狭い様相を呈している。この種物品分野において,蓋が帯状部を備える場合のその帯の幅の大小は,蓋を含む意匠全体を構成するなかで,意匠全体と当該帯状部の幅とのバランスを加味して独創性をもって決めるものである。そうすると,本願意匠と【意匠1】にははっきりとした大小の差があり,蓋の下端の帯状部の幅の態様は,本願意匠の独創的な着想によるものというべきである。加えて,帯状部の凹みの態様についても検討を加えると,本願意匠の帯状部の凹みの態様が正面視略正方形状で横断面視凹弧状とする態様であるのに対し,【意匠2】の帯状部の凹みの態様が正面視略横長台形状で台形の上辺に向かって漸次削られる態様であって,この点について,本物品から蓋をはずす際に手の滑り止めとなる蓋の下端の凹みの態様は,この種物品分野において,位置や配置等の要素が造形創作の際に検討されて決定されるものである。そうすると,本願意匠の凹みの態様と【意匠2】の凹みの態様は,正面視の形状の差異,そして,当該凹みの部分の帯状部に対する削り込み方の差異があり,帯状部の凹みの態様は,本願意匠の独創的な着想によるものというべきである。

さらに,(オ)上面中央における蓋の径の約半分の径の同心円状部については,【意匠2】では,上面が視認できず,当該同心円状部の有無について確認できないことから,本願意匠は,その出願前に公然知られた【意匠2】の意匠に基づいた,とはいえない。また,当該同心円状部は,本願出願前に,この種の物品分野において,その例を発見することができない。したがって,当該態様は,先行意匠に照らすところ,本願意匠の特徴的な着想によるものというべきである。

そうすると,本願意匠については,上記(ア)に述べたとおり,蓋と容器を用いて,飲料容器として意匠全体を構成した,その創作が困難とは認められず,さらに,上記(ウ)に述べたとおり,蓋の上端縁の丸面状の態様も,本願出願前からごく普通になされている造形手法であるから,このような手法に基づいて創作された形態については,その創作が困難であるとは認められない一方,本願意匠の,上記(イ)に述べた容器の肩部の態様,上記(エ)に述べた蓋の下端の帯状部における幅と凹みの態様,そして,上記(オ)に述べた蓋の上面中央における蓋の径の約半分の径の同心円状部の態様は,本願意匠の独創的な着想によるもので,特徴的な態様を創出したというべきであるから,(イ),(エ)及び(オ)の態様を備える本願意匠は,意匠全体としては,【意匠1】及び【意匠2】に基づいて容易に想到することができたものとはいえない。

4.結び
したがって,本願意匠は,原審で引用された【意匠1】及び【意匠2】を基にしては,意匠法第3条第2項の規定に該当しないので,原審の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,当審が更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2017-08-15 
出願番号 意願2016-10729(D2016-10729) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (C5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 油科 壮一 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 江塚 尚弘
宮田 莊平
登録日 2017-09-22 
登録番号 意匠登録第1588210号(D1588210) 
代理人 中野 収二 

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