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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 C5
管理番号 1334425 
審判番号 不服2017-10643
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-18 
確定日 2017-10-24 
意匠に係る物品 コップ 
事件の表示 意願2016- 4373「コップ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,部分意匠として意匠登録を受けようとする,平成28年(2016年)年2月29日(パリ条約による優先権主張2015年8月31日 アメリカ合衆国)の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「コップ」とし,その形態を願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたもので,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」(以下,本願において,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)としたものである。(別紙第1参照)

2.原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

この種コップにおいて,本体周側面を略円筒形状とし,底部寄りを丸面状に形成したものが,本願意匠の出願前に公然知られている【意匠1】。
同様に,内側上方部を段差状に形成し,底部寄り外周に円環状の継ぎ目を形成したものが,本願意匠の出願前に公然知られている【意匠2】。
本願意匠が意匠登録を受けようとする部分は,その出願前公然知られた【意匠1】の意匠に基づき,当業者にとってありふれた手法を用いて,【意匠2】の意匠のように,内側に段差部を形成し,底部寄り外周に継ぎ目部を表したまでのものにすぎませんから,容易に意匠の創作をすることができたものと認められる。


【意匠1】(別紙第2参照)
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第1370441号の意匠
(意匠に係る物品:コップ)の本願意匠が意匠登録を受けようとする部分に相当する部分の意匠

【意匠2】(別紙第3参照)
電気通信回線の種類 インターネット
掲載確認日(公知日) 2009年 3月23日
受入日 特許庁意匠課受入2009年 3月27日
掲載者 株式会社ベネッセコーポレーション
表題 初節句 サーモス 真空断熱タンブラー2個セット
掲載ページのアドレス http://shop.benesse.ne.jp/tamahiyo/disp/CSfGoodsImage_001.jsp?MSK_NO=1488382055000000
に掲載された「タンブラー」の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HJ20071600号)
の本願意匠が意匠登録を受けようとする部分に相当する部分の意匠

3.請求人の主張の要旨
(1)本願意匠と引用意匠1(意匠登録第1370441)との対比
本願意匠と引用意匠1との共通点
本願意匠および引用意匠1は,本体周側面を略円筒状とし,本体底部寄り外周を丸面状とした形状を呈している点が共通する。
本願意匠と引用意匠1との相違点
内側上方部内周の形状について
本願意匠は,内側上方部内周は段差状となっているが,引用意匠1は段差が全くない形状となっている。この点で本願意匠と引用意匠1は,大きく相違する。特にこの段差の有無は,コップを上方から見たとき,また使用時に目立つ箇所における相違点であり,これにより両意匠は容易に識別でき,別異の意匠であることは明らかであると考える。
この段差の有無に関する相違点について,引用意匠2「真空断熱タンブラー」(特許庁意匠課公知資料番号第HJ20071600号)と比較して申し述べる。
(2)本願意匠と引用意匠2との対比
本願意匠および引用意匠2は,開口部の内側上方部内周を段差状としている点が共通する。
(3)創作非容易性の検討
引用意匠1及び2から当業者が容易に創作できる,本願意匠に近いコップの形状は,内側上方部内周を引用意匠2に表された段差状とし,本体周側面を引用意匠1に表された略円筒状とするとともに,底部寄り外周を丸面状とした真空断熱タンブラーの形状であると考えられる。
引用意匠2のタンブラーの段差部は,開口縁とその近傍が薄く形成されており,開口縁から段差までの距離が短くなっている。これに対し,本願意匠の開口縁部内周の段差部は,開口縁とその近傍が比較的厚く形成されており,段差までの距離も長くなっている。この部分は,コップとしてその外観形状と同様にコップの端縁部の形状は,コップの使用時に口当たりに影響することから最も注目を集める部分でもある。即ち,コップの端縁部の形状は,使用時における口当たりの感じを予見させるものであり,その結果,本願意匠の厚く,段差までの距離の長い端縁部形状と,引用意匠2の薄く,段差までの距離の短い端縁部形状の違いは,コップの内側の部分的な相違ではあるが,コップを購入しようとする者が使う状況を想像しながら手に取ってみて当然に感ずる特徴であり,それ以外の相違点が目を引くものではないだけに,一層目を引き,看者をして両意匠が異なる意匠であることを一瞬にして印象付けるほどの相違があるものと考える。特に端縁部の厚さが厚いことは,コップが頑丈な印象を与えるものであるが,引用意匠2の端縁部からはこのような印象は得られないものである。従って,引用意匠1および2を単に置換或いは寄せ集めたからといって,本願意匠の特有の印象を有するコップを容易に創作できたとは言えないものであり,本願意匠は意匠の創作として登録に値するものであると確信するものである。
(4)むすび
以上のように,本願意匠は,引用意匠1および2から容易に創作できたものではなく,本願意匠は最早意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当するものではないと思料する。よって,原査定を取り消す,この出願の意匠はこれを登録すべきものとする,との審決を求めるものである。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠(別紙第1参照)
本願意匠は,意匠に係る物品を「コップ」とし,底部の具体的な態様と側面部下方寄りの水平線部分を除いた部分を,本願部分としたもので,意匠登録を受けようとする部分を正面視の縦横比を約4:3とする略円筒形状のコップの内側及び外側の大部分としたもので,その部分の形態は,部分全体を側面部を垂直状とした略円筒形状とし,外側の底部寄りの側面視した全体の高さの約1/16の高さの外周を凸弧状に形成し,内側において全体の高さの約1/8程度の高さの飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約1/2程度の幅のわずかな傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚くして垂直面としたものである。
(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
(ア)【意匠1】(別紙第2参照)
【意匠1】は,意匠に係る物品を「コップ」とし,正面視の縦横比を約1:1とする略円筒形状のコップの,本願部分に相当する引用部分1において,全体を透光性を有する素材による略円筒形状とし,側面部を垂直状とし,外側の底部寄りに外周を凸弧状に形成して段差を設け,さらに径の小さな高台部を形成し,内側底面に濃い青色で太幅の二重円模様を形成したものである。
(イ)【意匠2】(別紙第3参照)
意匠2は,意匠に係る物品を「タンブラー」とし,正面視の最大径と高さの比を約3:5とする略円筒形状のコップの,本願部分に相当する引用部分2において,全体を金属製の素材による正面視逆台形状の略逆円錐台形状とし,外側の底部寄りに細い継ぎ目模様を施し,底部外周を凸弧状に形成し,内側において全体の高さの約1/29程度の細幅の飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約3倍程度の幅の広い傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚く形成したものである。
(3)創作容易性の判断
まず,この種のコップの分野においては,全体が金属などの不透明な素材による略円筒形状のものは,意匠2に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。
また,その外側の側面が垂直状となるものも【意匠1】に見られるように本願出願前より既に普通に見られる態様といえるものである。
そして,この種のコップの分野においては,飲み口付近を薄く形成し,その下方に傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚くしたものも,【意匠2】に見られるように本願出願前より既に見られる公然知られた態様といえるものである。
しかしながら,【意匠1】に表されたものは,正面視の縦横比を約1:1とし,全体を透光性を有する素材によるものとし,外側の底部寄りに外周を凸弧状に形成して段差を設け,さらに径の小さな高台部を形成し,内側底面に濃い青色で太幅の二重円模様を形成したものであって,正面視の縦横比を約4:3とし,部分全体を側面部を垂直状とした略円筒形状とし,外側の底部寄りの側面視した全体の高さの約1/16の高さの外周を凸弧状に形成した本願部分とは,その具体的な態様が異なるものである。
また,【意匠2】には,内側において全体の高さの約1/29程度の細幅の飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約3倍程度の幅の広い傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚く形成した態様が表されているが,【意匠2】の内側の薄く形成した部分と傾斜面の幅の大小が本願部分とは逆で,全体の高さの約1/8程度の高さの飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約1/2程度の幅のわずかな傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚くして垂直面とした本願の態様とは大きく異なり,【意匠1】の外形状に【意匠2】に表された内側の飲み口付近を薄く形成した態様を組み合わせたとしても,本願部分の態様を導き出すことができないものである。
全体が金属などの不透明な素材による略円筒形状のものは,【意匠2】に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものであり,その外側の側面が垂直状となるものも【意匠1】に見られるように本願出願前より既に普通に見られる態様といえるものである。しかしながら,それらの意匠から,直接本願部分の態様を導き出すことはできず,また,【意匠2】のように内側の飲み口付近を薄く形成した態様を【意匠1】の外形状のコップと組み合わせたとしても,【意匠1】のコップはその縦横比の割合も,高台がある点も本願部分とは異なり,内側の飲み口付近を薄く形成した態様も,内側において全体の高さの約1/29程度の細幅の飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約3倍程度の幅の広い傾斜面を設けた【意匠2】とは,全体に対する飲み口付近の高さと傾斜面の高さの割合が異なるもので,さらにその下方の厚みや底部にかけての態様も本願部分のものとは異なり,多数の変更を加えなければ,本願部分の態様を導き出すことはできないものである。本願部分と同様の外形状を有する不透明なコップは,他には見当たらず,また,本願部分と同様の飲み口付近を薄く形成した態様を有するものも他には見られず,飲み口付近は使用時に直接使用者の口が接する部分であるから,需要者の関心が高い部分といえ,その全体の高さの約1/8程度の高さの飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約1/2程度の幅のわずかな傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚くして垂直面とした本願部分の内側に表れた態様は,本願部分の独自の態様を表す創作がなされているものであり,当業者にとって,本願部分の態様が容易に創出し得るものということはできない。
そうすると,本願部分は,部分全体を不透明な素材とし,正面視の縦横比を約4:3とする略円筒形状のコップの内側及び外側の大部分としたもので,側面部を垂直状とした略円筒形状とし,外側の底部寄りの側面視した全体の高さの約1/16の高さの外周を凸弧状に形成した態様としたものであって,とりわけ,全体の高さの約1/8程度の高さの飲み口付近を薄く形成し,その下方にその約1/2程度の幅のわずかな傾斜面を設け,さらにその下方は厚みを厚くして垂直面とした本願部分の内側に表れた態様は,本願部分の独自の態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことができないものである。
よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,【意匠1】及び【意匠2】に見られる,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2017-10-10 
出願番号 意願2016-4373(D2016-4373) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (C5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 油科 壮一 
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 斉藤 孝恵
正田 毅
登録日 2017-11-24 
登録番号 意匠登録第1593394号(D1593394) 
代理人 柳田 征史 

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