• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 B3
管理番号 1339231 
審判番号 不服2017-15096
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-10 
確定日 2018-03-26 
意匠に係る物品 眼鏡用レンズ 
事件の表示 意願2016- 28080「眼鏡用レンズ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとし,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする,平成28年(2016年)12月26日の意匠登録出願であって,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「眼鏡用レンズ」とし,その形態は,願書の記載及び願書添付の図面に記載されたとおりのもので,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」(以下,本願において,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)としたものである。(別紙第1参照)

2.原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

この意匠登録出願の意匠に係る「レンズ」の分野において,レンズを,円状(ドット状)の透過部と,それ以外の半透明部(遮光部)とによるドットパターンによって構成することは,例えば,下記の意匠2においてみられるように,本願出願前より,一般的な手法である。
そうすると,本願出願前に公然と知られた下記の意匠1のレンズを,本願出願前に公然知られた下記の意匠2のレンズのように構成したに過ぎない本願の意匠は,当業者であれば,容易に創作することができたものである。

【意匠1】
特許庁発行の意匠公報記載のレンズの意匠
意匠登録第798320号の意匠(別紙第2参照)

【意匠2】
特許庁発行の公開特許公報記載のレンズにおける文字部分を除いた部分の意匠
平成 8年特許出願公開第248361号
(特に,図2,図3参照。)(別紙第3参照)

3.請求人の主張の要旨
(1)拒絶査定における審査官の認定について
審査官は,(ア)「正面図から部分拡大図までで表された本願意匠は,単にレンズ表面に白丸のドットが表れるような態様に過ぎない」と認定した。
しかしながら,この認定は,本願意匠を図面のみに基づいて特定しようとするものであり,妥当ではない。すなわち,本願の意匠の説明において「各図に表された灰色は,半透明の部分を示す。また,灰色以外の部分は透明である。」と記載したとおり,ドット部はそもそも白丸などとされる白色で表されたものではなく透明部分であり,また,本願意匠において,非ドット部は,半透明すなわち透光性を有する部分であることは明らかである。本願意匠の認定に当たっては,上記意匠の説明を考慮したうえで図面と合わせて特定されるべきであることはいうまでもない。
この点,本願意匠は,上記のとおり非ドット部が半透明であるのに対して,意匠2では,非ドット部は遮光部,すなわち透光性がない部分である点で明らかに異なる。つまり,本願意匠は,正面視において,透明のドット部と半透明の非ドット部のいずれの部分からも,レンズの反対側が見通せるものであり,特に側面視では,レンズ全体が透光性を有するので,側面から奥側が見通せ,側面からでもドット部と非ドット部との重なりを視認することができる。
一方で,意匠2は,貫通穴のドット部に対して,非ドット部は遮光部であるので,正面視においてはドット部からしかレンズの反対側を見通すことができず,また,側面視ではすべてが遮光性の非ドット部で形成されるため,奥側が全く見通せない。したがって,ドット部と非ドット部の重なりなど,見ることができるはずがない。
審査官の認定は,そもそも本願意匠において透明のドット部と半透明の非ドット部で形成されている点を見落とし,ドット部が白色であるかの認定を行い,そのため,ドット部が貫通孔で形成され,非ドット部が遮光性の意匠2との大きな相違を見落としたものである。
審査官は,また,上記(イ)のとおり,「ARコート層や半透明層の具体的な構成は,「参考図」のみにしか記載されていない」としているが,この点も誤りである。すなわち,本願の意匠に係る物品の説明では「本物品は,参考拡大断面図に示すとおり,基材と,基材の上面及び下面に形成されたHC(ハードコート)層と,HC層の外側に形成されたAR(Anti Reflection:反射防止)コート層と,撥水コート層とからなり,非ドット部はHC層の表面に形成された半透明層によって実現される。」と明示的に記載されている。
そして,本願意匠に係る物品の記載及び参考図から,本願意匠に係る物品が積層構造であり,ドットパターンが表面の層に存在しない物品であることは特定されているのであり,このような物品であることを前提として記載された正面図をはじめとした六面図においても,積層構造であってドットパターンが表面にないことは読み取り得るものである。
以上より,審査官の認定は,意匠に係る物品の説明の欄の記載を見落とした恣意的な認定であり,妥当でない。
さらに,審査官は,「本願意匠がARコート層に半透明層を形成したものであるとしても,意匠として評価する場合において,層は具体的に何の層であるのか,また,ARコート層の上に半透明層が施されているとの事項を,見る者は視認できないので意匠性がない」とした。
しかしながら,少なくとも,本願物品を見る者は,透明のドットパターン及び半透明の非ドットパターンにおいて,このドットパターン及び非ドットパターンがレンズ内に内在されていることを視認することはできるので,表面に貫通孔として露出し,側面はすべて遮光性で中を見通せない意匠2のドットパターンとの相違は大きいといわざるを得ない。つまり,本願意匠が意匠2と異なるのは,層構造が視認できるか否かではなく,ドットパターンと非ドットパターンがレンズに内在していることを正背面視及び側面視等において視認できる本願意匠と,正背面視においてドットが貫通孔として露出した様を視認でき,側面視からは遮光性の非ドットパターンしか視認できない意匠2との相違である。特に,「層は具体的に何の層であるのか」まで特定されないと意匠性の評価ができないなどとする審査官の認定は全く理解に苦しむものである。
また,審査官は,「表面が平滑になるようにコーティングを施したレンズの態様は,下記の参考意匠の様に,本願出願前より周知の態様である」から「当該「表面が平滑になる」との形態も意匠として高く評価出来るものではありません」とした。
しかしながら,出願人の主張は,表面が平滑である点の意匠性を主張するものではなく,意見書に記載したとおり,「本願意匠は,貫通孔を一切備えず,レンズの表面及び裏面は平滑にし,レンズの積層構造によりドット状を構成したものであって,意匠2と意匠1との組み合わせによっても,このような構成が容易に創作し得るということは到底できません。」とするものであって,意匠2との相違として構成の相違を述べたに過ぎない。本願意匠における意匠性については,意見書において「本願意匠は,表面及び裏面が平滑面で構成され,内部にドットパターンが形成されたことで,表面及び裏面からドットパターンを視認した場合に,光の屈折が生じるものであって,単にプレートに貫通孔を形成したような意匠2とは,視覚を通じて認識される美感が全く異なるものです。」と述べるものであって,仮に,意匠2の表面を参考意匠に示されるように平滑面でコーティングしても,上述した本願意匠と意匠2におけるドットパターン及び非ドットパターンの構成上の相違から,両意匠は全く異なった美感を与えるものである。
(2)本願意匠が創作容易でない理由のまとめ
上述のとおり,本願意匠は,透明のドット部と半透明の非ドット部とが,レンズ内部に内在しており,正面視において,透明のドット部と半透明の非ドット部のいずれの部分からも,レンズの反対側が見通せるものであり,特に側面視では,レンズ全体が透光性を有するので,側面から奥側が見通せ,側面からでもドット部と非ドット部との重なりを視認することができるものである。
一方で,意匠2は,貫通穴のドット部に対して,非ドット部は遮光部であるので,正面視においてはドット部からのみレンズの反対側を見通せず,また,側面視ではすべてが遮光性の非ドット部で形成されるため,奥側が全く見通せない。したがって,ドット部と非ドット部の重なりなど,見ることができるはずがない。
このような相違が存在することから,参考意匠を参酌し,意匠1のレンズを,意匠2のレンズのように構成したとしても,本願意匠は創作することはできないことは明らかである。
以上より,本願意匠は,たとえ当業者であっても容易に創作し得るものでないことは明らかであり,本願意匠は意匠法第3条2項に該当しないと考える。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠(別紙第1参照)
本願意匠は,意匠に係る物品を「眼鏡用レンズ」とし,本願部分を正面図側の円形の外周の輪郭線の端部までの,側面視略凸円弧状に膨出した表面の部分とし,その形態は,灰色で表された半透明の層に透明な円形ドット部を設け,その上面に表面コート層を設けたもので,円形ドット部はA-A’B-B’部分拡大図において,小円形によるドット模様を縦に15個半,横に9個ずつ,それぞれ隣の列とずらして千鳥状に配したもので,正面図側の円形の外周の輪郭線の端部まで細かい円形ドット模様が施されているものである。
(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
(ア)意匠1(別紙第2参照)
意匠1は,意匠に係る物品の名称を「サングラス用レンズ」とし,側面視略凸円弧状に膨出した,正面視円形状の凸型レンズで厚みが細帯状に表されたものである。本願部分に相当する引用部分は,側面視凸円弧状に膨出した,正面の表面部分とし,その形態は,正面視を明色と濃色の市松模様状としたもので,明色の部分が鏡面で濃色の部分も背面側から透視可能なもので,小型正方形が中央の最大幅の直径において縦10個,横10個,少ない上下左右辺において縦6個,横6個配されたもので,明色の正方形と濃色の正方形が交互に市松模様を形成したものである。
(イ)意匠2(別紙第3参照)
意匠2は,発明の名称を「透光性を抑制したサングラス」とし,眼鏡フレームに遮光プレートを設け,遮光プレートに多数の小さなパンチ孔を設け,透光性を抑制したサングラスであって,パンチ孔は直径0.5ミリか1ミリ前後の丸孔で,相互に1.5ミリ間隔か2ミリ前後の間隔を開けたものである。遮光プレートに印刷などの手段により図柄を描くことができ,遮光プレートの裏面の全面に透明な,あるいは着色した紫外線遮断のフィルム(UVカットシート)を貼着したものである。【図2】には,拡大縦断側面図が表され,丸いパンチ孔が,それぞれ隣の列とずらして千鳥状に配されている。【図3】には,別実施例の拡大縦断側面図が表され,遮光プレートの裏面に紫外線遮断のフィルムを貼着した側面の態様が表されているものである。
(3)創作容易性の判断
まず,この種の眼鏡用レンズの物品分野においては,側面視略凸円弧状に膨出した正面視円形状のレンズは,普通に見られるありふれた態様といえるものである。また,そのレンズの表面に透光性の度合いの異なる部分を設けることは,意匠1に見られるように,本願出願前より既に見られる公然知られた態様といえるものである。
そして,小円形によるドット模様を,それぞれ隣の列とずらして千鳥状に配した態様も意匠2に見られるように,本願出願前より既に見られる公然知られた態様といえるものである。
しかしながら,意匠1には,明色の正方形と濃色の正方形が交互に市松模様を形成したものであって,本願部分の細かいドット模様とは異なり,また,意匠1の市松模様は,小型正方形が中央の最大幅の直径において縦10個,横10個,少ない上下左右辺において縦6個,横6個配されたもので,本願部分の模様とは,その数と配列が大きく異なり,次に,意匠2は,遮光プレートの裏面に紫外線遮断のフィルムを貼着したもので,遮光プレートに印刷などの手段により図柄を描くことができるもので,その模様の態様も,遮光プレートに丸いパンチ孔が多数設けられたもので,表面コート層によってレンズ内に内在されている本願部分のドット模様とは異なるものであるから,本願部分のように灰色で表された半透明の層に透明な円形ドット部を設け,その上面に表面コート層を設けた態様の眼鏡用レンズは,意匠1と意匠2のいずれにも表されておらず,それらの意匠から,本願部分の態様を容易に導きだすことができない。
そして,意匠1のレンズの態様に基づいて,ありふれた手法に基づいて意匠2のように,小円形によるドット模様を,それぞれ隣の列とずらして千鳥状に配したとしても,小円形によるドット模様の大きさを揃え,灰色で表された半透明の層に透明な円形ドット部を設け,その上面に表面コート層を設けるといった,さらに様々な変更を加えなければ,それらの意匠から,本願部分の態様を直ちに導き出すことはできず,本願部分の態様は,他には見当たらず,独自の態様を表す創作がなされているものといえ,当業者にとって,本願部分の態様が容易に創出し得るものということはできない。
そうすると,本願部分は,部分全体を側面視略凸円弧状に膨出した表面の部分としたものであって,とりわけ,灰色で表された半透明の層に透明な円形ドット部を設け,その上面に表面コート層を設けた態様は,本願部分の独特の態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたものということができないものである。
よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,意匠1と意匠2に見られる,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審決日 2018-03-13 
出願番号 意願2016-28080(D2016-28080) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (B3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 佳孝 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 斉藤 孝恵
渡邉 久美
登録日 2018-04-13 
登録番号 意匠登録第1603662号(D1603662) 
代理人 茜ヶ久保 公二 
代理人 大貫 敏史 
代理人 内藤 和彦 
代理人 林 美和 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 江口 昭彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ