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審決分類 審判    F4
管理番号 1343955 
審判番号 無効2017-880008
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-04 
確定日 2018-08-13 
意匠に係る物品 包装箱 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1494832号「包装箱」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1494832号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1494832号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照)は,平成25年(2013年)1月9日に意匠登録出願(意願2013-191)されたものであって,審査を経て平成26年3月14日に意匠権の設定の登録がなされ,同年4月14日に意匠公報が発行され,そして,平成28年6月24日の判定請求に対して,平成29年2月24日付けで判定がなされ,その後,当審において,主に以下の手続を経たものである。
平成29年 8月 4日付け 審判請求書提出
(甲第1号証ないし甲第5号証提出)
平成29年10月13日付け 審判事件答弁書提出
(乙第1号証提出)
平成29年12月20日付け 審判事件弁駁書提出
平成30年 2月16日付け 審判事件答弁書(第2回)提出
(乙第2号証及び乙第3号証提出)
平成30年 5月 2日付け 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成30年 5月10日付け 手続補正書提出(請求人)
(甲第6号証ないし甲第8号証提出)
平成30年 5月15日付け 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成30年 5月30日 口頭審理

第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は,「登録第1494832号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,その主張事実を立証するため甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
なお,請求人は,審判請求当初は無効理由1ないし3を挙げていたが,弁駁書において無効理由2及び3を取り下げた。
1.請求の理由
1-1.無効理由の要点
本件登録意匠は,その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠に類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
甲第1号証
特開2000-203555(平成12年7月25日公開)
発明の名称「包装用容器」の図1,図4に記載された意匠
(以下,この意匠を「甲1意匠」という。別紙第2参照)
1-2.先行周辺意匠
本件登録意匠と同様に,正面部分の正面視左右辺が対称に緩やかな略S字形状に波打ち,上下方いずれかに凸弧状幅広部を有し,他方に凹弧状幅狭部を有する略縦長直方体形状の包装用容器としては以下の例が存在し,本件登録意匠の出願前から公然知られている。
(1)甲第2号証
特開2005-8192(平成17年1月13日公開)
発明の名称[曲面を有する包装箱]の図1,図2に記載された意匠
(以下,この意匠を「甲2意匠」という。別紙第3参照)
(2)甲第3号証
特開2001-130543(平成13年5月15日公開)
発明の名称「曲面カートン」の図1,図2に記載された意匠
(以下,この意匠を「甲3意匠」という。別紙第4参照)
(3)甲第4号証
「THE PACKAGING DESIGNER’S BOOK OF PATTERNS」
(1991年発行)「carton」(カートン)の展開図,斜視図を掲載した
第198頁に記載された意匠
(以下,この意匠を「甲4意匠」という。別紙第5参照)
(4)甲第5号証
公開実用新案公報 昭62-159313(昭和62年10月9日公開)
考案の名称「包装箱」の第1図,第2図に記載された意匠
(以下,この意匠を「甲5意匠」という。別紙第6参照)
1-3.本件登録意匠と甲1意匠との類否
本件登録意匠と甲1意匠とを対比すると,複数の差異点がある。しかしながら,これら差異点は以下に述べるように,いずれも形態全体としてみれば限られた部分における軽微な差異であって,類否判断に与える影響は微弱なものにすぎず,本件登録意匠が甲1意匠に類似することは明らかである。
(1)全体について
正面視の横幅と高さとの構成比率,及び側面視の横幅と高さとの構成比率は,本件登録意匠ではいずれも約1対3,甲1意匠では正面視が約1対2.5,側面視が約1対3.8であることにより,本件登録意匠が甲1意匠よりも,正面視において細長く,側面視において厚みがあるとしても,正面において波打つ態様を有する特異な特徴を備えた両意匠においては,前記の幅と高さとの構成比率はさほど目立つ差異ではなく両意匠の共通点に埋没する程度の差異である。
(2)正面について
正面視凸弧状幅広部における最も幅の広い部分,及び正面視凹弧状幅狭部における最も幅の狭い部分の上端または下端からのそれぞれの位置の差異と,側面視凹弧状部の最も窪む部分,及び側面視凸弧状部の最も膨らむ部分の位置の差異と,側面視凸弧状部の最も膨らむ部分における上辺との位置関係の差異とは,いずれも,側面視緩やかな略S字形状とした特徴的な共通態様における軽微なものに過ぎず,定規を当ててみて気が付く程度の差異といえるものであるから,両意匠の共通点に埋没する程度の差異である。また,正面視凹弧状幅狭部における最も幅の狭い部分と,正面視凸弧状幅広部における最も幅の広い部分との差異の比率,すなわち幅広部と幅狭部の広狭の差異は,特徴的な緩やかな略S字形状の左右両辺を向い合せ,上下両辺を単純な水平な直線とした左右対称形の共通態様においては,極めて軽微な差異に過ぎず,看者による両意匠の視覚的な印象を異ならせる程度のものではないから,両意匠の共通点に埋没する程度の差異である。
(3)左右両側面について
平面視における横幅への広がり方と狭まり方の程度はそれほど大きなものではなく,甲1意匠の稜線部についても本件登録意匠の稜線部と同様に目立たない態様としたものであり,また,下方寄りの面の構成においては,稜線部から正面側に向けて平面視横幅を徐々に狭くしている点において共通しており,正面方向から観察した場合には正面の波打つ態様に比べると目立ちにくいものであるから,両意匠の共通点に埋没する程度の差異である。
(4)平面及び底面について
(4-1)外形
平面及び底面の具体的な形状の差異は,基本的な構成態様としては両意匠共に略四角形状である点でむしろ共通しており,一方,差異点である甲1意匠が略等脚台形状である点については,真上や真下から観察した場合に初めて気付く程度の軽微な差異といえることから,これらの差異点は,意匠全体として見れば,両意匠の共通点に埋没する程度の差異に過ぎない。
(4-2)切り込み部
両意匠における切り込み部の有無の差異は,切り込み部の態様が極めて部分的なものであり,甲1意匠のように切り込み部を形成しないものも極めて普通に見られるものであるから,これらの差異は,両意匠の共通点に埋没する程度の軽微な差異に過ぎない。
(5)背面について
両意匠における切り欠き部の有無の差異は,切り欠き部の態様が極めて部分的なものであり,甲1意匠のように切り欠き部を形成しないものも極めて普通に見られるものであるから,これらの差異は,両意匠の共通点に埋没する程度の軽微な差異に過ぎない。
1-4.まとめ
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠とは,甲1意匠がその出願日前に存在しなかった,立方体の一面のみを正面視前後方向に凹凸に波打つように湾曲させ,この湾曲面に隣接する左右の面をも緩やかに凹凸させた形態からなる創作度が高い包装用容器としての形態であることから,本件登録意匠が甲1意匠と近似または酷似している。
よって,本件登録意匠は,意匠全体として,甲1意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができない意匠であることが明らかであるので,同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。

2.答弁に対する弁駁
請求人が提出した平成29年12月20日付け無効審判弁駁書(以下「弁駁書」という。)の概要は,以下のとおり。
(1)被請求人は,「側面視緩やかな略S字状とした態様の包装箱は甲第2号証ないし甲第5号証に見られるとおりいろいろと存在する形状であって,側面視緩やかな略S字状とした態様のなかでも,もっと具体的にどのような形態となっているかを特定して比較すべきである。」と主張し,さらに,「正面における幅広形状及びくびれた部分の形状によって,全く異なる美的印象を生じさせ,また,側辺の前方への出っ張り具合によっても,全く異なる美的印象を生じさせるものである。その他平面および底面の形状の相違,切り欠き部と切り込み部の有無の相違があり,全体として,本件登録意匠と甲1意匠からは,異なる美的印象が生じる。」と主張するが,本件登録意匠の先行周辺意匠である甲2意匠ないし甲5意匠には,いずれも,正面視左辺が緩やかな略S字形状,右辺が緩やかな略逆S字形状に波打って構成され,正面及び左右側面が正面の正面視及び側面視において波打った態様,正面の面自体が奥行方向前後に波打っている態様,左右両側面が緩やかに外側に膨らんだ面構成,すなわち,全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様,及び平面,底面及び背面が平坦面で構成されている態様の全てを備えた意匠は開示されておらず,特に,先行周辺意匠は,いずれも左右両側面が緩やかに外側に膨らんだ面構成,すなわち,全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様を備えていない点で大きく異なるものであるから,これらの先行周辺意匠の存在は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
(2)両意匠は,意匠に係る物品において包装箱と共通し,その形態においても,包装箱が店頭で陳列棚に並べられている場合に意匠全体の中で占める割合が大きい正面及び左右両側面の形態の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいのに対して,相違点が類否判断に及ぼす影響は共通点が需要者に与える視覚的印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合に,両意匠は需要者に共通の美感を起こさせるものである。
付言すると,前記したように,本件登録意匠の「意匠の物品」は,店頭に並べられる包装容器と考えるのが妥当であり,そうすると,前記需要者は一般消費者であり,両意匠の間の相違点は,相違として判断されない,ものと思料する。
したがって,被請求人が主張する「両意匠は具体的形態における相違点が多く,これらの相違点が相まって異なる美的意匠を与える。」との主張は認められないものである。
(3)本件登録意匠に関しては,請求人より判定請求がされており(判定2016-600029),イ号意匠である甲1意匠は本件登録意匠に類似するものと認定され,イ号意匠である甲1意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定がされている。

3.口頭審理陳述要領書
請求人が提出した平成30年5月2日付けの口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書という。」)の概要は,以下のとおり。
(1)乙第2号証および乙第3証の登録意匠の取扱について
昭45年(ワ)507号(学習机事件)(甲第6号証)を参考にして本件無効審判事件に帰ると,乙第2号証の登録意匠(以下「乙2意匠」という。別紙第7参照)および乙第3号証の登録意匠(以下「乙3意匠」という。(別紙第8参照))は,包装容器の正面に施した「茶の若木の枝先」の模様及び色彩に特徴部分があり,これをもって,意匠を全体的にみて,先行意匠と非類似であり,登録されたものと解される。
(2)判定の性質について
審判便覧の判定の項(審判便覧58-00)の記載には,高度に専門的・技術的な行政官庁である特許庁(合議体)が行う鑑定であるから,事実上,社会的にみて十分尊重され,裁判所も権威ある判断の一つであると判示している(名古屋高金沢支判昭42.6.14(昭41(ネ)137号(甲第7号証)・・・)」との記載があり,判定は,社会的にみて十分尊重されるものであると記述されている。同様の記載は,経済産業省のホームページの「裁判所以外による紛争解決を図る」(甲第8号証)にも存在する。
上記昭41年(ネ)第137号判決は,判定の結果を事情の変更の一つとして取り上げて,仮処分を取り消している。
無効審判事件において,判定の結果を重要視することは当然のことである。

4.証拠方法
甲第1号証 特開2000-203555号
甲第2号証 特開2005-8192号
甲第3号証 特開2001-130543号
甲第4号証 「THE PACKAGING DESIGNER’S BOOK OF PATTERNS」
(1991年発行)
甲第5号証 公開実用新案公報 昭62-159313
甲第6号証の1ないし4 昭45年(ワ)第507号判決文
甲第7号証 昭41年(ネ)137号判決文
甲第8号証 経済産業省のホームページの
「裁判所以外による紛争解決を図る」
(甲第1号証ないし甲第8号証は,全て写し。)

第3 被請求人の答弁及びその理由
被請求人は,答弁の趣旨を「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。との審決を求める。」とし,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,その主張事実を立証するため,乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1.審判請求書の主張に対する答弁
被請求人が提出した平成29年10月13日付けの審判事件答弁書(以下「答弁書(1)」という。)の概要は,以下のとおり。
1-1.本件登録意匠と甲1意匠との類否
(1)共通点に係る形態は,まさに両意匠のような包装用箱の骨格に関するものであって,これらの骨格を需要者は重要視しない。これら骨格よりももっと具体的な具体的構成態様における形態を重視する。
(2)両意匠は具体的構成態様において,顕著な相違が多くある。側面視において,凸状になっている部分(正面におけるくびれた部分)が,本件登録意匠では側辺前端よりも前方に突出しているのに対して,甲1意匠では側辺前端と同じ位置まで突出している点で相違している。これにより,本件登録意匠は下方が出っ張って膨らんだ安定感あるデザインとして認識することができるのに対して,甲1意匠ではそのような安定感は醸し出されていない。また,上辺および下辺と側辺の割合においては,本件登録意匠ではそれぞれ1:1で等しいのに対して,甲1意匠では,上辺:側辺の割合が1.7:1.4,下辺:側辺の割合が,2.0:1.2であって,甲1意匠は本件登録意匠よりも幅に対する厚みが薄い。よって,側面視においては,甲1意匠よりも,本件登録意匠が安定感ある意匠との美的印象を受ける。
(3)正面の上辺:幅広の部分:くびれた部分:下辺の割合が,本件登録意匠では1.6:1.8:1.2:1.6であるのに対して,甲1意匠では1.7:2.0:1.5:2.0である点で相違する点により,本件登録意匠はくびれた部分がより大きくくびれている意匠であるのに対して,甲1意匠は幅広部分が大きく幅広な意匠との印象を受ける。また,上辺:下辺の割合が,本件登録意匠では1.6:1.6で等しいのに対して,甲1意匠では1.7:2.0であって裾広がりで安定感ある意匠である。よって,正面視においては,本件登録意匠よりも,甲1意匠が安定感ある意匠との美的印象を受ける。
(4)正面くびれた部分の横断面については,本件登録意匠では背面側から稜線に向けて窄まり,さらに稜線から正面側に向けてさらに窄まる形状であるのに対して,甲1意匠では背面側から稜面側に向けて窄まる形状であるが,具体的形態については不明である。よって,本部分に関する比較はできない。
(5)平面及び底面が,本件登録意匠では正方形であるのに対して,甲1意匠では台形である。また,本件登録意匠では,平面及び底面の後辺には直線状の切り込み部が設けられているのに対して,甲1意匠にはそのような切り込みはない。また,本件登録意匠では,背面の上辺中央には半円状の切り欠きが設けられているのに対して,甲1意匠にはそのような切り欠きはない。このように,切り込みや切り欠きの有無が異なるので,需要者が開封時に触れて注視する部分の形状において相違がある。
(6)このように,本件登録意匠と甲1意匠には,側面視における厚みバランス,正面視における底部の幅バランスおよびくびれ部分のくびれ具合に大きな相違がある。特に,本件登録意匠は奥行きがあって,下方くびれ部のくびれが強い印象が強いのに対して,甲1意匠は奥行きが少なく上方幅広部が広い印象が強く感じ取られる。その他,平面底面の具体的形状および開封部分の形状にも相違かおり,開封時に需要者が注視する部分における差異も大きい。これらの相違点から生じる美的印象は,共通点から生じる美的印象を凌駕するものであって,両意匠は非類似である。
1-2.請求人主張への反論
(1)正面について
請求人は,「正面視凸弧状幅広部における最も幅の広い部分,及び正面視凹弧状幅狭部における最も幅の狭い部分の上端または下端からのそれぞれの位置の差異」と,「側面視凹弧状部の最も窪む部分,及び側面視凸弧状部の最も膨らむ部分の位置の差異」と,「側面視凸弧状部の最も膨らむ部分における上辺との位置関係の差異」は,「いずれも側面視緩やかな略S字状形状とした特徴的な共通態様における軽微なものに過ぎない」旨を述べている。しかし,側面視緩やかな略S字状とした態様の包装箱は甲2意匠ないし甲5意匠にも見られるとおり,いろいろと存在する形状であって,「側面視緩やかな略S字状」とした態様のなかでも,もっと具体的にどのような形態となっているかを特定して比較すべきである。我々が上記相違点での検討で主張したように,両意匠には具体的形態における相違点が多く,これら相違点が相まって異なる美的印象を与えるものである。また,「正面視凹弧状幅狭部における最も幅の狭い部分と,正面視凸弧状幅広部における最も幅の広い部分との差異の比率,幅広部と幅狭部の広狭の差異は,特徴的な緩やかな略S字形状の左右両辺を向かい合わせ,上下両辺を単純な水平な直線とした左右対称形の共通態様においては,極めて軽微な差異に過ぎない」旨を請求人は述べている。しかし,先ほど述べたように,側辺を緩やかな略S字状とした態様の包装箱は,甲2意匠ないし甲5意匠にも見られる通り,いろいろと存在する形状であって,「側面視緩やかな略S字状」という美感のみを需要者は感じない。もっと具体的な美感,すなわち,本件登録意匠ではくびれた部分がよりくびれていて,甲1意匠では幅広部分がより幅広であるという具体的な美感を需要者は受け取る。
(2)左右両側面について
請求人は,「甲1意匠の稜線部についても本件登録意匠の稜線部と同様に目立たない態様としたものであり,また,下方寄りの面の構成においては,稜線部から正面側に向けて平面視横幅を徐々に狭くしている点において共通しており,正面方向から観察した場合には正面の波打つ態様に比べると目立ちにくいものであるから,両意匠の共通点に埋没する」旨を述べている。しかし,前述したように,この点の具体的形態については,甲1意匠では不明であり,形態比較ができないため,この点に関する請求人の主張も失当である。
(3)平面及び底面における外形について
請求人は,「平面及び底面の具体的な形状の差異は,基本的な構成態様としては両意匠共に略四角形状である点でむしろ共通しており,一方,差異点である甲1意匠が略等脚台形状である点については,真上や真下から観察した場合に初めて気付く程度の軽微な差異といえるから,これらの差異点は,意匠全体としてみれば,両意匠の共通点に埋没する程度の差異に過ぎない」と述べている。しかし,甲1意匠の平面及び底面が台形状であるがゆえに,正面の上辺と下辺の長さが異なり,下辺が長く,正面からは安定感ある美的印象を与えるに至っている。仔細な観察をせずとも需要者が認識できる相違点である。
(4)切り込み部及び背面について
切り込み部の有無や切り欠き部の有無は,両意匠の共通点に埋没する程度の軽微な差異に過ぎないと請求人は述べている。しかし,これらは,包装箱を開封する際に需要者が実際に指で触れる部分であり,このあたりの形状を需要者は注視する。よって,切り込み部や切り欠き部の有無の相違を軽視することは失当である。
以上より,請求人が行った両意匠の共通点および相違点に関する主張はいずれも失当である。
1-3.まとめ
以上より,本件登録意匠と甲1意匠には,正面における幅広形状およびくびれた部分の形状によって,全く異なる美的印象を生じさせ,また,側辺の前方への出っ張り具合によっても,全く異なる美的印象を生じさせるものである。その他平面および底面の形状の相違,切り欠き部と切り込み部の有無の相違もあり,全体として,本件登録意匠と甲1意匠からは,異なる美的印象が生じる。よって,両意匠は非類似である。

2.弁駁書の主張に対する答弁
被請求人が提出した平成30年2月16日付けの審判事件答弁書(第2回)(以下「答弁書(2)」という。)の概要は,以下のとおり。
2-1.起伏形状の具体的構成態様の相違について
(1)請求人は,弁駁書において,「全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様,及び平面,底面及び背面が平坦面で構成されている態様は両意匠の要部といえるもの」と述べる。しかし,この点を両意匠の要部に係る共通点とするのは誤りである。請求人が主張する前記特徴は両意匠の基本的構成態様である。このような構成態様は,例えば,甲2意匠において開示されており,新規な特徴と言えるものではなく,前記基本的構成態様に係る形態が重視されることはない。
(2)また,「全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様,及び平面及び底面が平坦面で構成されている態様」については,甲2意匠のほか,甲3意匠ないし甲5意匠にも表れている態様である。さらに,乙2意匠(別紙第7参照)及び乙3意匠(別紙第8参照)は,本件登録意匠の公報発行後に出願および登録された意匠であるが,これら登録意匠も,「全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様,及び平面及び底面が平坦面で構成されている態様」を有するところ,本件登録意匠とは非類似として登録されている。
(3)これら公知意匠および後願意匠の登録例から考えても,前記共通点に係る「全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様,及び平面,底面及び背面が平坦面で構成されている態様」は類否判断において重視されるものではなく,本件登録意匠と甲1意匠の類否判断においては,この基本的構成態様よりももっと具体的な構成態様が重視されるべきである。
(4)両意匠の具体的な起伏形状を比較すると,【図1】(別紙第9参照)に示すように(図1中,黒線は本件登録意匠,赤線は甲1意匠である),本件登録意匠の方がくびれが大きく,また,正面下辺も幅が狭い。これによって,本件登録意匠は「スレンダーでくびれがくっきりしたメリハリある印象」であるのに対して,甲1意匠は「くびれが少なくて寸胴に近く,正面下辺が幅広くどっしりした印象」である。両意匠は,具体的な起伏形状を比較すると,真逆であって顕著な違いを有する。
(5)また,両意匠はその側面においても,厚みのバランスが異なる。本件登録意匠は正面とほぼ均等の厚みがあって,正面のもっとも前方に膨らんでいる部分が上辺の位置よりも飛び出しているのに対して,甲1意匠は正面に対して厚みが薄く形成されていて,正面のもっとも前方に膨らんでいる部分でも上辺の位置と同程度であって飛び出していない。
(6)上記のような両意匠の起伏形状の具体的構成態様から,本件登録意匠は「くびれ及び厚みにおいてメリハリの効いたボディでバランスよくスラッとした印象」であるのに対して,甲1意匠は「寸胴のボディで厚みが薄くバランス悪くドッシリした印象」である。これにより,本件登録意匠と甲1意匠は全く異なる美的印象となるため,両者の違いは明白である。なお,この起伏形状の具体的構成態様の相違については,弁駁書において,請求人自身も十分認識しているところである。
(7)両意匠の起伏形状の具体的構成態様における相違は,全く逆の美的印象を生じさせるものである。一方で,両意匠の共通点に係る基本的構成態様は公知意匠にも散見される形状であるため,大きく評価することができない。よって,両意匠の起伏形状の具体的構成態様における相違は,共通点に係る基本的構成態様よりも大きく評価されるべきであって,両意匠の共通点に埋没する程度の相違ではない。この点において,請求人の主張は失当である。
(8)請求人は,弁駁書において,「特に,先行周辺意匠(甲第2号証ないし甲第5号証)は,いずれも左右両側面が緩やかに外側に膨らんだ面構成,すなわち,全体的に緩やかな起伏のある面構成とされている態様を備えていない点で大きく異なるものであるから,これらの先行周辺意匠の存在は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。」と主張する。しかし,甲2意匠は,正面,左側面および右側面が曲面で形成されており,特に正面両側辺が波形状になっていることによって,両側面が収縮されて全体的に緩やかな起伏ある面構成となることは必至である。乙2意匠及び乙3意匠においても,正面両側面が波形状になっていることによって,両側面が収縮されて緩やかな起伏ある面構成となることがわかる。よって,この点において,前記の請求人の主張は失当である。
2-2.平面および底面の具体的構成態様について
(1)甲1意匠の平面と底面の台形状は,平面の正面辺<平面の背面辺=底面の背面辺<底面の正面辺となっていて,平面と底面の正面辺と底面辺の長さは,捻れて等しくなっている。これに対して,本件登録意匠では平面及び底面はそれぞれ略正方形である。このように,本件登録意匠の平面及び底面は略正方形というスッキリした形状であるのに対して,甲1意匠では正面辺及び底面辺の長さにおいて捻れが生じていて複雑な形状となっていて,顕著な相違がある。
(2)請求人は,弁駁書において,「本件登録意匠の「意匠の物品」は,店頭に並べられる包装容器と考えるのが妥当であり,そうすると,前記需要者は一般消費者であり」,「両意匠の間の相違点は,相違と判断されない」と主張する。包装箱は,陳列棚では正面だけが視認されているとしても,需要者は購入の段階で包装箱を手にとるのであって,その際に,需要者は,包装箱を三次元で認識し,甲1意匠の平面と底面における正面辺及び底面辺の長さの捻れ状態について認識する。よって,請求人のように陳列棚での陳列状態のみを主張の根拠とすることは失当である。
2-3.判定について
判定は特許庁(合議体)の公的な見解の表明であって,鑑定的性質をもつにとどまり,それにはなんらの法的拘束力はない(審判便覧58-00,(最一小判昭43.4.18(昭42(行ツ)47号)判時521号46頁),東地判平1.9.25(昭63(行ウ)185号))。
また,判定2016-600029は,イ号意匠と本件登録意匠をほとんど単純比較したのみである。一方,本件無効審判では,前記判定の時とは異なる公知意匠が提出されており,それらを含めて総合的に判断することになる。この点において,前記判定と本件無効審判とでは判断材料が異なる。

3.口頭審理陳述要領書
被請求人が提出した平成30年5月15日付けの口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)の概要は,以下のとおり。
3-1.乙2意匠及び乙3意匠の取り扱いについて
請求人は,本件登録意匠と乙2意匠及び乙3意匠が非類似とされた理由について,学習机事件を引用した上で,乙2意匠及び乙3意匠は,包装容器の正面に施した「茶の若木の枝先」の模様及び色彩に特徴部分があり,これをもって,意匠を全体的にみて,先行意匠と非類似であり,登録されたものと解される旨を述べている。
確かに,乙2意匠及び乙3意匠は,線図のみの意匠(形状のみの意匠)ではなく,「茶の若木の枝先」の模様及び色彩が施されている意匠である。しかし,模様及び色彩が付されているからといって,形状の特徴を無視して非類似と判断されたとまでいうことはできない。既に答弁書(2)において述べているとおり,包装箱に係る意匠においては,基本的構成態様ではなく具体的構成態様において詳細に形態を特定した上で,類否判断がなされているところ,本件登録意匠と乙2意匠及び乙3意匠とは,曲面と平面とで構成されるという大きな基本的構成態様では共通するものの,各面の形状やその組み合わせという具体的構成態様においては全く相違しており,その具体的構成態様の相違によって,両者は非類似と判断されたと考えるのが通常である。「茶の若木の枝先」の模様及び色彩は存在するものの,本件登録意匠との類否判断においては形状の違いが大きな意味をもち,模様や色彩は形状の違いほどの意味を持たない。
3-2.判定の性質について
審判便覧58-00における「2.判定の性質」中,「判定は特許庁(合議体)の公的な見解の表明であって,鑑定的性質をもつにとどまり,それにはなんら法的拘束力はない」との記載は,判定は法的拘束力がなく,そのため,行政不服審査法の対象たる行政処分には該当しないという趣旨である。よって,我々が答弁書(2)で述べたように,判定2016-600029は,後の行政や司法の判断を何ら拘束するものではない。
判定については,高度に専門的・技術的な行政官庁である特許庁(合議体)が行う鑑定であるから,事実上,社会的に見て十分尊重されるべきものであることは我々も否定しない。しかし,鑑定というものは,判断材料の証拠資料が異なれば,鑑定結果も異なることがあるのは当然である。先の判定2016-600029と本件とは提出された証拠(例えば,乙第2号証,乙第3号証は前記判定では提出されていない)および主張が異なるため,当然に両者の判断は異なる。
特に,意匠の類否判断においては,公知意匠によって意匠の要部の新しさが変化するのは当然であって,手続内であげられる周辺意匠如何によって判断の結論が変わる。先述したように,判定2016-600029と本件無効審判とでは提出された公知意匠や参考意匠が異なるので,判断が異なることは十分にあり得る。

4.証拠方法
乙第1号証 本件登録意匠と甲1意匠の展開図及び斜視図に基づいて
各部の名称や寸法を示した図
乙第2号証 意匠登録第1551260号
乙第3号証 意匠登録第1551970号
(乙第1号証ないし乙第3号証は,全て写し。)

第4 口頭審理
本件審判について,平成30年5月30日に口頭審理を行った(平成30年5月30日付け口頭審理調書)。
1.請求人の主張
請求人は,審判請求書,弁駁書及び請求人陳述要領書に記載のとおり陳述した。また,被請求人の提出した乙第1号証ないし乙第3号証の成立を認めた。
2.被請求人の主張
被請求人は,答弁書(1),答弁書(2)及び被請求人陳述要領書に記載のとおり陳述した。また,請求人の提出した甲第1号証ないし甲第8号証の成立を認めた。
3.審判長
請求人の提出した甲第1号証ないし甲第8号証及び被請求人の提出した乙第1号証ないし乙第3号証について取り調べ ,本件審理を終結した。

第5 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠の認定は,以下のとおりである。
1-1.意匠に係る物品
意匠に係る物品は,「包装箱」である。
1-2.形状
<基本的構成態様>
(1)全体は,正面を正面視及び側面視において波打った曲面とする,略縦長直方体形状としたものである。
(2)正面は,(2-1)正面視左辺が緩やかな略S字形状,正面視右辺が緩やかな略逆S字形状とし,上方に凸弧状の幅の広い部分(以下「凸弧状幅広部」という。),下方に凹弧状の幅の狭い部分(以下「凹弧状幅狭部」という。)を有し,上辺及び下辺を水平な直線とする,左右対称形であり,(2-2)側面からみても正面は緩やかな略S字形状とし,凸弧状幅広部は側面視凹弧状に窪み(以下「側面視凹弧状部」ともいう。),凹弧状幅狭部は側面視凸弧状に膨んだ(以下「側面視凸弧状部」ともいう。)ものである。
(3)左右両側面は,(3-1)緩やかな略S字形状(右側面視においては略逆S字形状)に波打った正面側の辺を除いた3辺を直線,つまり,上辺及び下辺を水平な直線,背面側の辺を垂直な直線とし,(3-2)全面的に緩やかな起伏(正面が正面視及び側面視S字形状に形成されていることに伴う歪み等による起伏)のある面の構成とし,(3-3)左側面と右側面とを左右対称の形状としたものである。
(4)平面は,外形を左右対称の略四角形状としたものである。
(5)底面は,外形を左右対称の略四角形状としたものである。
(6)背面は,外形を略縦長長方形状としたものである。
<具体的構成態様>
(7)全体は,正面視の横幅(底辺の長さ)と高さとの構成比率を,約1対3とし,側面視の横幅(底辺の長さ)と高さの構成比率を,約1対3としたものである。
(8)正面は,(8-1)凸弧状幅広部については,上端から約5分の1のあたりで最も広く,凹弧状幅狭部については,下端から約3分の1のあたりで最も狭くし,(8-2)側面視凹弧状部については,上端から約5分の1のあたりで最も窪み,側面視凸弧状部については下端から約3分の1のあたりで最も膨らみ,(8-3)左右両辺の略S字形状(右辺は略逆S字形状)に波打った形状と,側面視正面側の辺の略S字形状(右側面は略逆S字形状)に波打った形状とを,その湾曲の位置や大きさについて同程度とし,(8-4)凸弧状幅広部の最も幅の広い部分と凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分との比率を,約1.45対1とし,(8-5)凸弧状幅広部の最も広い部分の幅を下辺の長さよりも広く,凹弧状幅狭部の最も狭い部分の幅を上辺の長さよりも狭くし,(8-6)側面視凸弧状の最も膨らんでいる部分が上辺の位置よりも前方に突出し,(8-7)上辺と下辺の前後方向における位置を同程度としたものである。
(9)左右両側面は,(9-1)上端及び下端の平面視横幅は背面側から正面側にわたり同幅とし,(9-2)横方向の略中央に稜線が表れており,その上方が僅かに正面視緩やかな凸弧状に膨らみ,下方が僅かに正面視緩やかな凹弧状に窪んだものとし,(9-3)A-A拡大断面図によれば,凸弧状幅広部の最も幅の広い部分の水平断面について,背面側から稜線に向けて平面視横幅を広くし,稜線から正面側に向けて平面視横幅を一定幅とし,(9-4)B-B拡大断面図によれば,凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分の水平断面について,概ね背面側から正面側へ向けて平面視横幅を狭くしたものである。
(10)平面は,(10-1)外形を略正方形状とし,(10-2)全面を平坦とし,(10-3)背面側の辺の左右両端に直線状の切り込み部を形成したものである。
(11)底面は,(11-1)外形を略正方形状とし,(11-2)全面を平坦とし,(11-3)背面側の辺の左右両端に直線状の切り込み部を形成したものである。
(12)背面は,(12-1)全面を平坦な面とし,(12-2)上辺中央に半円形状の切り欠き部を形成したものである。

2.無効理由の要点
請求人が主張する無効理由は,「本件登録意匠は,その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠に類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。」というものである。

3.甲1意匠
甲1意匠の認定は,以下のとおりである。
3-1.意匠に係る物品
意匠に係る物品は,「包装用容器」である。
3-2.形状
<基本的構成態様>
(1)全体は,正面を正面視及び側面視において波打った曲面とする,略縦長直方体形状としたものである。
(2)正面は,(2-1)正面視左辺が緩やかな略S字形状,正面視右辺が緩やかな略逆S字形状とし,上方に凸弧状の幅の広い部分(以下「凸弧状幅広部」という。),下方に凹弧状の幅の狭い部分(以下「凹弧状幅狭部」という。)を有し,上辺及び下辺を水平な直線とする,左右対称形であり,(2-2)側面からみても正面は緩やかな略S字形状とし,凸弧状幅広部は側面視凹弧状に窪み(以下「側面視凹弧状部」ともいう。),凹弧状幅狭部は側面視凸弧状に膨んだ(以下「側面視凸弧状部」ともいう。)ものである。
(3)左右両側面は,(3-1)緩やかな略S字形状(右側面視においては略逆S字形状)に波打った正面側の辺を除いた3辺を直線,つまり,上辺及び下辺を水平な直線,背面側の辺を垂直な直線とし,(3-2)全面的に緩やかな起伏のある面の構成とし(正面が正面視及び側面視S字形状に形成されていることに伴う歪み等による起伏が存在するものと認定した。),(3-3)左側面と右側面とを左右対称の形状としたものである。
(4)平面は,外形を左右対称の略四角形状としたものである。
(5)底面は,外形を左右対称の略四角形状としたものである。
(6)背面は,外形を略縦長長方形状としたものである。
<具体的構成態様>
(7)全体は,正面視の横幅(底辺の長さ)と高さとの構成比率を,約1対2.5とし,側面視の横幅(底辺の長さ)と高さの構成比率を,約1対3.8としたものである。
(8)正面は,(8-1)凸弧状幅広部については,上端から約6分の1のあたりで最も広く,凹弧状幅狭部については,下端から約2.7分の1のあたりで最も狭くし,(8-2)側面視凹弧状部については,上端から約6分の1のあたりで最も窪み,側面視凸弧状部が下端から約2.7分の1のあたりで最も膨らみ,(8-3)左右両辺の略S字形状(右辺は略逆S字形状)に波打った形状と,側面視正面側の辺の略S字形状(右側面は略逆S字形状)に波打った形状とを,その湾曲の位置や大きさについて同程度とし,(8-4)凸弧状幅広部の最も幅の広い部分と凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分との比率を,約1.25対1とし,(8-5)凸弧状幅広部の最も広い部分の幅を下辺の長さと同程度,凹弧状幅狭部の最も狭い部分の幅を上辺の長さと同程度とし,(8-6)側面視凸弧状部の最も膨らんだ部分が,上辺と同程度の位置まで前方に突出し,(8-7)上辺は,下辺よりも前方に位置したものである。
(9)左右両側面は,(9-1)上端の平面視横幅を背面側から正面側へ向けて狭くし,下端の平面視横幅を背面側から正面側へ向けて広くしたものであるから,全体的にごく僅かに捻りを加えたような面構成といえるものであるが,(9-2)稜線の有無や態様は不明であり,(9-3)凸弧状幅広部の最も幅の広い部分における水平断面の平面視横幅の広狭の変化の具体的な態様は,不明であり,(9-4)凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分の水平断面における平面視横幅の広狭の変化の具体的な態様は,不明なものである。
(10)平面は,(10-1)外形を正面側の辺が背面側の辺よりも短い略等脚台形状とし,正面側の辺は,底面の正面側の辺よりも短く,背面側の辺は,底面の背面側の辺と同程度の長さとし,(10-2)全面を平坦としたものである。
(11)底面は,(11-1)外形を正面側の辺が背面側の辺よりも長い略等脚台形状とし,正面側の辺は,平面の正面側の辺よりも長く,背面側の辺は,平面の背面側の辺と同程度の長さとし,(11-2)全面を平坦としたものである。
(12)背面は,全面を平坦としたものである。

4.無効理由の検討
以下,本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するか否かについて,本願意匠と甲1意匠(以下「両意匠」という。)を対比し,両意匠の共通点及び相違点の認定,評価を行うことにより,本願意匠が甲1意匠に類似するか否かを検討し,判断する。
4-1.両意匠の対比
(1)意匠に係る物品について
意匠に係る物品については,本件登録意匠は「包装箱」であり,甲1意匠は「包装用容器」であるが,表記上の相違に過ぎず,どちらも物品を包装する容器であることには変わりがないから,共通する。
(2)形状について
(2-1)共通点
<基本的構成態様>
(A)全体は,正面を正面視及び側面視において波打った曲面とする,略縦長直方体形状としたものである。
(B-1)正面は,正面視左辺が緩やかな略S字形状,正面視右辺が緩やかな略逆S字形状とし,上方に凸弧状幅広部,下方に凹弧状幅狭部を有し,上辺及び下辺を水平な直線とする,左右対称形としたものである。
(B-2)正面は,側面からみても緩やかな略S字形状とし,正面視凸弧状幅広部は側面視凹弧状に窪み,正面視凹弧状幅狭部は側面視凸弧状に膨んだものである。
(C-1)左右両側面は,緩やかな略S字形状(右側面視においては略逆S字形状)に波打った正面側の辺を除いた3辺を直線,つまり,上辺及び下辺を水平な直線,背面側の辺を垂直な直線としたものである。
(C-2)左右両側面は,全面的に緩やかな起伏のある面の構成としたものである。
(C-3)左右両側面は,左側面と右側面とを左右対称の形状としたものである。
(D)平面及び底面は,外形を左右対称の略四角形状としたものである。
(E)背面は,外形を略縦長長方形状としたものである。
<具体的構成態様>
(F)正面は,左右両辺の略S字形状(右辺は略逆S字形状)に波打った形状と,側面視正面側の辺の略S字形状(右側面は略逆S字形状)に波打った形状とを,その湾曲の位置や大きさについて同程度としたものである。
(G)平面,底面及び背面は,いずれも全面を平坦な面としたものである。
(2-2)相違点
基本的構成態様については相違点が存在せず,具体的構成態様について,以下のとおり相違点が存在する。
(ア)全体について,本件登録意匠は,正面視の横幅(底辺の長さ)と高さとの構成比率を約1対3とし,側面視の横幅(底辺の長さ)と高さの構成比率を約1対3としたものであるのに対して,甲1意匠は,正面視の横幅(底辺の長さ)と高さとの構成比率を約1対2.5とし,側面視の横幅(底辺の長さ)と高さの構成比率を約1対3.8としたものであり,本件登録意匠は,正面視においては甲1意匠よりも細く,側面視においては甲1意匠よりも厚みのあるものである。
(イ-1)正面について,本件登録意匠は,凸弧状幅広部が上端から約5分の1のあたりで最も広く,凹弧状幅狭部が下端から約3分の1のあたりで最も狭くしたものであるのに対して,甲1意匠は,凸弧状幅広部が上端から約6分の1のあたりで最も広く,凹弧状幅狭部が下端から約2.7分の1のあたりで最も狭くしたものである。
(イ-2)正面について,本件登録意匠は,凸弧状幅広部の最も幅の広い部分と凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分との比率を,約1.45対1としたものであるのに対して,甲1意匠は,凸弧状幅広部の最も幅の広い部分と凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分との比率を,約1.25対1としたものであり,本件登録意匠は,甲1意匠よりも広狭の差が大きいものである。
(イ-3)正面について,本件登録意匠は,側面視凹弧状部が上端から約5分の1のあたりで最も窪み,側面視凸弧状部が下端から約3分の1のあたりで最も膨らんでいるものであるのに対して,甲1意匠は,側面視凹弧状部が上端から約6分の1のあたりで最も窪み,側面視凸弧状部が下端から約2.7分の1のあたりで最も膨らんでいるものである。
(イ-4)正面について,本件登録意匠は,側面視凸弧状部の最も膨らんでいる部分が,上辺の位置よりも前方に突出したものであるのに対して,甲1意匠は,側面視凸弧状部の最も膨らんでいる部分が,上辺と同程度の位置まで前方に突出したものである。
(イ-5)正面について,本件登録意匠は,上辺と下辺の前後方向における位置を同程度としたものであるのに対して,甲1意匠は,上辺が,下辺よりも前方に位置したものである。
(イ-6)正面について,本件登録意匠は,凸弧状幅広部の最も広い部分の幅を下辺の長さよりも広く,凹弧状幅狭部の最も狭い部分の幅を上辺の長さよりも狭くしたものであるのに対して,甲1意匠は,凸弧状幅広部の最も広い部分の幅を下辺の長さと同程度,凹弧状幅狭部の最も狭い部分の幅を上辺の長さと同程度としたものである。
(ウ-1)左右両側面について,本件登録意匠は,上端と下端の平面視横幅は一定の同幅としたものであるのに対して,甲1意匠は,上端の平面視横幅を背面側から正面側へ向けて狭くし,下端の平面視横幅を背面側から正面側へ向けて広くしたものであるから,全体的にごく僅かに捻りを加えたような面構成といえるものである。
(ウ-2)左右両側面について,本件登録意匠は,稜線を,上方が僅かに正面視緩やかな凸弧状に膨らみ,下方が僅かに正面視緩やかな凹弧状に窪んだものであるのに対して,甲1意匠は,稜線の有無や態様が不明なものである。
(ウ-3)左右両側面について,本件登録意匠は,凸弧状幅広部の最も幅の広い部分の水平断面を,背面側から稜線に向けて平面視横幅を広くし,稜線から正面側に向けて平面視横幅を一定幅としたものであるのに対して,甲1意匠は,凸弧状幅広部の最も幅の広い部分の水平断面における平面視横幅の広狭の変化の具体的な態様が不明なものである。
(ウ-4)左右両側面について,本件登録意匠は,凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分の水平断面を,概ね背面側から正面側へ向けて平面視横幅を狭くしたものであるに対して,甲1意匠は,凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分の水平断面における平面視横幅の広狭の変化の具体的な態様が不明なものである。
(エ-1)平面及び底面について,本件登録意匠は,平面及び底面の外形を略正方形状としたものであるのに対して,甲1意匠は,平面の外形を正面側の辺が背面側の辺よりも短い等脚台形状とし,底面の外形を正面側の辺が背面側の辺よりも長い等脚台形状とし,平面の正面側の辺は,底面の正面側の辺よりも短く,平面の背面側の辺と底面の背面側の辺とは同じ長さとしたものである。
(エ-2)平面及び底面について,本件登録意匠は,背面側の辺の左右両端に直線状の切り込み部を形成したものであるのに対して,甲1意匠は,そのような切り込み部を形成していないものである。
(オ)背面について,本件登録意匠は,上辺中央に半円形状の切り欠き部を形成したものであるのに対して,甲1意匠は,そのような切り欠き部を形成していないものである。

4-2.両意匠の共通点及び相違点の評価
包装箱は,陳列状態においては,主に正面側から観察されるものであるから,正面側は特に重要視するところではあるが,使用時においては需要者が手に持って使用するものであり,縦長の形状においては周側面が握る部分になりやすく,正面側はもとより背面側についても需要者は一定程度の意識を持って観察する部分となりえるから,これらの点を踏まえて,以下,共通点と相違点が存在する形状について,両意匠の類否判断に及ぼす影響を,評価する。
まず,共通点についていえば,共通点(A)ないし(G)を備えた両意匠の形状,特に,略縦長直方体の正面のみが正面視及び側面視略S字形状に波打つ形状は,両意匠の全体の形状を特徴付けるものであって,需要者に正面視においては,下方がくびれているからスリムな印象,側面視においては下方が膨らんでいるから安定感のある印象を与えるものであり,共通点(A)ないし(G)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
一方,相違点については,以下のとおり,いずれも両意匠の共通点に埋没する程度の相違であって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
相違点(ア)の正面視及び側面視の横幅(底辺の長さ)と高さとの構成比率の相違は,本件登録意匠が,正面視においては甲1意匠よりも細く,側面視においては甲1意匠よりも厚みのあるものであるとしても,正面の波打った形状の特徴を備えた両意匠においては,さほど目立つ相違ではなく,両意匠の共通点に埋没する程度の相違と認められる。
相違点(イ-1)の凸弧状幅広部の最も幅が広い部分及び凹弧状幅狭部の最も幅が狭い部分の上下両端からの位置の相違,及び相違点(イ-2)の凸弧状幅広部の最も幅が広い部分と凹弧状幅狭部の最も幅が狭い部分との比率の相違,相違点(イ-6)の凸弧状幅広部の最も広い部分の幅と下辺の長さとの異同及び凹弧状幅狭部の最も狭い部分の幅と上辺の長さとの異同の相違は,いずれの相違点も,緩やかな略S字形状の左辺と緩やかな略逆S字形状の右辺を向かい合わせにし,上下両辺を水平な直線とした左右対称形の共通態様における軽微な相違であって,両意匠の視覚的な印象を異なるものとする程のものではないから,両意匠の共通点に埋没する程度の相違と認められる。
相違点(イ-3)の側面視凹弧状部の最も窪んでいる部分及び側面視凸弧状部の最も膨らんでいる部分の上下両端からの位置の相違,相違点(イ-4)の側面視凸弧状部の最も膨らんでいる部分が上辺の位置よりも突出しているか否かの相違,及び相違点(イ-5)の上辺と下辺の前後方向における位置の相違は,いずれの相違点も,定規を当てたり,両意匠の展開図を重ね合わせてみて気が付く程度の相違といえるものであるから,両意匠の共通点に埋没する程度の相違と認められる。
左右両側面における,相違点(ウ-1)の上端及び下端の平面視横幅の広狭の変化の有無により全体的にごく僅かに捻りを加えたような面の構成であるか否かの相違,相違点(ウ-2)の稜線の態様の相違,相違点(ウ-3)の凸弧状幅広部の最も幅の広い部分の水平断面における平面視横幅の広狭の変化態様の相違,及び相違点(ウ-4)の凹弧状幅狭部の最も幅の狭い部分の水平断面における平面視横幅の広狭の変化態様の相違は,甲1意匠においていずれの態様も不明であるとしても,背面側と正面側の平面視横幅の広狭の差を考慮すれば,両意匠共に凸弧状幅広部においては概ね背面側から正面側に向けて平面視横幅を広くしたものといえる範囲内での相違であり,凹弧状幅狭部においては,概ね背面側から正面側に向けて平面視横幅を狭くしたものといえる範囲内での相違であり,両意匠共に左右両側面は全体的に緩やかな起伏のある面の構成であることからすると,いずれの相違も正面の波打った態様と比べると目立ちにくく,両意匠の共通点に埋没する程度の相違と認められる。
相違点(エ-1)の平面及び底面の具体的な形状の相違は,基本的構成態様としては両意匠共に略四角形状とした点において共通しており,甲1意匠の略等脚台形状も正面側の辺と背面側の辺の長さの差が大きいといえる程のものではなく,真上や真下から観察した場合に気付く程度のものといえるから,意匠全体として見れば,両意匠の共通点に埋没する程度の相違と認められる。
相違点(エ-2)の平面及び底面における切り込み部の有無の相違,及び相違点(オ)の背面における切り欠き部の有無の相違は,本件登録意匠に形成された切り込み部及び切り欠き部が,包装箱の蓋の開閉を考慮して形成されたものであり,当該部位は蓋の開閉の際に需要者が注視する部分であったとしても,意匠全体から見ると極めて部分的なものであり,包装箱の蓋の開閉を考慮して形成される態様としてよく見られるものであるから,このような部位を備えているか否かの相違は,両意匠の共通点に埋没する程度の相違と認められる。
そうすると,相違点はいずれも軽微なものであって,両意匠のどちらか一方が正面視において特にスリムな印象を与えるとか,側面視において特に安定感のある印象を与えるといえる程の相違ではなく,これらの相違点を総合したとしても,両意匠から受ける共通の印象を覆すものとは認められない。

4-3.類否判断
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態についても,共通点は両意匠の全体の形状を特徴付けるものであるのに対して,相違点はいずれも軽微なものであって,共通点が生じさせる視覚的効果が相違点のそれを凌駕し,全体として需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,本願意匠は,引用意匠に類似する意匠と認められる。

なお,甲2意匠は,両意匠の共通点を備えたものではあるものの,各部の構成比率が大きく異なるものであり,甲3意匠ないし甲5意匠は,正面だけでなく背面も同様に背面視及び側面視略S字形状に波打つ曲面としたものであるから,両意匠とは基本的構成態様において大きく相違しており,これらの周辺意匠をもって両意匠に見られる基本的構成態様をありふれたものと認めることはできないし,両意匠の類否判断において共通点が及ぼす影響を軽視する理由も認められない。
また,本件登録意匠の公報発行後に意匠登録出願され,意匠登録された乙2意匠及び乙3意匠は,正面だけでなく背面も同様に背面視及び側面視略S字形状に波打つ曲面としたものであって,両意匠とは基本的構成態様において大きく相違しているので,乙2意匠及び乙3意匠が本件登録意匠とは非類似として意匠登録されているからといって,両意匠の類否判断において共通点が及ぼす影響を軽視することはできない。
それから,特許庁が行った判定は,社会的に見て十分尊重されるべきものであるとしても,個別の事例の判断に係るものであるから,本件無効審判を何ら拘束するものではない。
そして,被請求人が主張するように,提出された周辺意匠の証拠が異なれば,類否判断が異なることがあり得るとしても,甲2意匠ないし甲5意匠,乙2意匠及び乙3意匠については上記のとおりであるから,両意匠の類否判断における共通点及び相違点が及ぼす影響の重み付けにおいて,本件無効審判と判定2016-600029との間に差が生じたとしても,それは僅かであって,両意匠を非類似とするまでの影響を及ぼすものではない。

4-4.小括
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,請求人の主張する無効理由には,理由がある。

第6.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項柱書の規定に違反して意匠登録を受けたものであり,同法第48条第1項第1号に該当することより,本件登録意匠は無効とすべきものである。
また,審判に関する費用については,意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2018-07-05 
出願番号 意願2013-191(D2013-191) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (F4)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木本 直美 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 正田 毅
江塚 尚弘
登録日 2014-03-14 
登録番号 意匠登録第1494832号(D1494832) 
代理人 川崎 仁 
代理人 宗助 智左子 
代理人 松井 宏記 

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