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審決分類 |
審判 C5 審判 C5 |
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管理番号 | 1351489 |
審判番号 | 無効2018-880004 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-04-18 |
確定日 | 2019-05-07 |
意匠に係る物品 | そうめん流し器 |
事件の表示 | 上記当事者間の意匠登録第1551624号「そうめん流し器」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件意匠登録第1551624号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,平成27年(2015年)8月28日に意匠登録出願(意願2015-18978)されたものであって,審査を経て平成28年5月13日に意匠権の設定登録がなされ,同年6月13日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。 平成30年 4月18日 審判請求書提出(請求人,甲第1号証ない し甲第13号証添付) 平成30年 5月17日付け 審尋 平成30年 6月18日 回答書提出(請求人,甲第14号証添付) 平成30年 7月20日付け 審判事件答弁書(被請求人,乙第1号証添 付) 平成30年 9月25日 審判事件弁駁書提出(請求人,甲第15号 証及び甲第16号証添付) 平成30年11月 6日付け 審理事項通知書 平成30年12月11日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成31年 1月 9日 口頭審理陳述要領書(請求人,甲第17号 証添付) 平成31年 1月23日 口頭審理 第2 請求人の申し立て及び理由 請求人は,「登録第1551624号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と請求し,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠として甲第1号証ないし甲第17号証を提出した。 1.無効理由の要点 本件登録意匠は,その出願前に日本国内において公然知られた甲第3号証の意匠と同一であるから,意匠法第3条第1項第1号の規定により意匠登録を受けることができないものである。 また,本件登録意匠は,その出願前に日本国内において公然知られた甲第4号証の意匠に類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。 また,本件登録意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた甲第4号証等の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。 よって,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。 2.本件登録意匠を無効とすべき理由 (1)本件登録意匠の要旨 本件登録意匠は,意匠に係る物品を「そうめん流し器」としたものである(甲第1号証)。 また,本件登録意匠の形態は,意匠登録第1551624号公報(甲第2号証)に記載されているとおり,その基本的構成態様として,上流の吐水口から下流のトレイに向かって水が流れるように連結レールを配置したウォータースライダー型としたものである。 そして,各部の具的構成態様として,吐水口は枝を斜めに切った竹を模した竹筒型とし,連結レールは割竹からなる竹樋を模した螺旋型とし,トレイは中央に回転器を配置した楕円形の流れるプール型としたものである。 (2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明 甲第3号証は,被請求人である株式会社ハックの商品「流しそうめん 風流極(きわみ)」を販売する通販サイトRakutenのみんなのレビューページの写しであり,この商品の購入者が商品についての感想を本件登録意匠の出願日以前の2014年(平成26年)6月19日に投稿している。 よって,甲第3号証の意匠は,本件登録意匠の出願前に日本国内において公然知られた意匠である(以下「公知意匠1」という。)。 甲第4号証は,株式会社ハックが日本国内で販売する商品を紹介するウェブページ(2017年11月8日時点)の写しであり,このページには同社の商品「流しそうめん 風流(商品名,以下同じ。)」が掲載されている。 甲第5号証は,甲第4号証に掲載された商品と同一の商品「流しそうめん 風流」のJANコードを検索した結果を示したページの写しであり,この商品の発売日は2015年(平成27年)3月15日と記されている。 甲第6号証は,甲第4号証に掲載された商品と同一の商品「流しそうめん 風流」を販売する通販サイトAmazonの紹介ページとカスタマーレビューページの一部であり,この商品の購入者が商品についての感想を2015年(平成27年)7月16日に投稿している。 甲第7号証は,甲第4号証に掲載された商品と同一の商品「流しそうめん 風流」を実際に組み立てて使用している様子を,ネット動画配信者(YouTuber)のSEIKINが動画サイトYouTubeにアップしたものであり,この動画は2015年(平成27年)7月31日に公開されている。 甲第8号証は,フジテレビで放送されている情報トークバラエティ番組「バイキング」のホームページの写し,同番組における過去の放送内容のページの写し,及びそのYouTube動画の一部を静止画にしたものであり,同番組の2014年(平成26年)7月23日の生放送において,スタジオで商品「流しそうめん 風流」が紹介されている。 以上の証拠より,甲第4号証の商品「流しそうめん 風流」は,少なくとも本件登録意匠の出願日である平成27年8月28日より前に日本国内で販売されていたことが明らかである。 よって,甲第4号証の意匠は,本件登録意匠の出願前に日本国内において公然知られた意匠である(以下「公知意匠2」という。)。 また,公知意匠2は「そうめん流し器」の意匠であって,その形態の基本的構成態様は,上流の吐水口から下流のトレイに向かって水が流れるように連結レールを配置したウォータースライダー型としたものである。 そして,各部の具体的態様は,吐水口について枝を斜めに切った竹を模した竹筒型とし,連結レールについて割竹からなる竹樋を模した螺旋型とし,トレイについて長方形のプール型としたものである。 なお,公知意匠1と公知意匠2を対比すると,トレイ及び回転器を除けば,両意匠は明らかに同一の形態である。 (3)先行周辺意匠の摘示 トレイについて,本件登録意匠と同様に,中央に回転器を配置した楕円形の流れるプール型としたものは,以下の例が存在し,本件登録意匠の出願前から公然知られている。 イ.被請求人の株式会社ハックが販売したそうめん流し器「涼美」(甲第9号証) ロ.和平プレイス株式会社が販売したそうめん流し器「涼流庵」(甲第10号証) ハ.株式会社ピーナッツ・クラブが販売したそうめん流し器「涼味」(甲第11号証) ニ.意匠登録第1351076号「そうめん流し器」(甲第12号証) ホ.意匠登録第1449949号「そうめん流し器」(甲第13号証) (4)本件登録意匠と公知意匠1との対比 意匠に係る物品は,両意匠ともに「そうめん流し器」に関するものであり,同一の物品である。 公知意匠1は,本件登録意匠とはトレイ及び回転器の色彩において相違をするものの,明らかに本件登録意匠を製品化したものであることから,詳細に対比するまでもなく,両意匠は同一の形態である。 (5)本件登録意匠と公知意匠2との対比 意匠に係る物品は,両意匠ともに「そうめん流し器」に関するものであり,同一の物品である。 両意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。 まず,上記の物品全体の対比から明らかなように,本件登録意匠と公知意匠2は,上流の吐水口から下流のトレイに向かって水が流れるように連結レールを配置したウォータースライダー型の基本的構成態様が共通する。 次に,各部の具体的態様を詳しく対比する。 (a)吐水口 吐水口の態様は,両意匠ともに枝を斜めに切った竹を模した竹筒型である点,吐水口の周囲に大小の竹筒が並んで配置されている点,個々の竹筒の長さ・太さ・配置関係など,すべての形態が共通する。 (b)連結レール 連結レールの態様は,両意匠ともに吐水口からの受け皿が角型である点,割竹からなる竹樋を模している点,5個の割竹のパーツを連結してレールが構成されている点,連結レール全体が螺旋型に曲がっており,その傾斜角度や曲率などが全く同一であり,すべての形態が共通する。 (c)トレイ トレイの態様は,本件登録意匠が中央に回転器を配置した楕円形の流れるプール型であるのに対し,公知意匠2は回転器のない長方形のプール型である点に差異がある。 (d)その他 その他の態様は,両意匠ともに連結レールを支える支柱が5本設けられている点,このうち中央の支柱の上部に乾電池を収容する円筒形の本体が設けられている点など,すべての形態が共通する。 (6)本件登録意匠と公知意匠2との類否 両意匠の類否を検討すると,共通するウォータースライダー型の基本的構成態様は,(a)吐水口,(b)連結レール,及び(d)その他の具体的態様の共通点と共に,両意匠の支配的基調を形成しており,これによって,一般需要者に共通の美感を起こさせ,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしている。 また,両意匠の形態の差異点である(c)トレイの態様について,本件登録意匠と同様に,中央に回転器を配置した楕円形の流れるプール型のトレイは,甲第9乃至13号証に示すとおり,本件登録意匠の出願前に日本国内で数多く販売され広く知られていたことから,一般需要者にとってありふれて見えるものとなり,注意を引かないし,重きが置かれない。 したがって,両意匠のトレイの差異点が意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであり,その差異点は,共通点が有するウォータースライダー型のそうめん流し器という共通の美感を凌駕しないため,本件登録意匠は公知意匠2に類似するものである。 さらに,本件登録意匠と公知意匠2との関係は以下のとおりである。 本件登録意匠と公知意匠である公知意匠2との差異点は,物品「そうめん流し器」において,トレイの形態が楕円形の流れるプール型であるか,長方形のプール型であるかの違いのみである。すなわち,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた公知意匠2の基本的構成態様であるウォータースライダー型の外観をそっくりそのまま踏襲し,トレイの形態のみ改変したものである。 この点につき,当該物品分野において,トレイの形態を楕円形の流れるプール型にしたそうめん流し器が,本件登録意匠の出願前から日本国内で数多く販売され広く知られていた(甲第9乃至13号証)。このため,公知意匠2のうち,分離可能な部品であるトレイの形状(長方形のプール型)を他のトレイの形状(例えば甲第9号証の楕円形の流れるプール型)に置き換えることは,いわゆる当業者にとってありふれた手法であり,容易に創作することが可能である。 すなわち,本件登録意匠は,公然知られた意匠の特定の構成要素を,いわゆる当業者にとってありふれた手法により他の公然知られた意匠に置き換えて構成したにすぎない「置換の意匠」に該当する。 また,本件登録意匠は,ウォータースライダーと流れるプールをデザインコンセプトとしたものである。ところが,全国各地のレジャー施設に目を向ければ,ウォータースライダーと流れるプールを併設した施設が,証拠を示すまでもなく本件登録意匠の出願前から多数存在しており,社会的に広く知られている。このため,創作の過程において,そうめん流し器のトレイの形態として流れるプール型を採用することは容易に着想することができ,着想が新しいとか独創的であるとはいえない。 したがって,本件登録意匠は,その出願前にいわゆる当業者が日本国内において公然知られた甲第4号証等の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。 (7)付言 付言すると,本件登録意匠と公知意匠2とを対比すると,トレイの形状と,回転器の有無の相違点があるだけでその他の形態は同一であり,同一の形態である部分は全体の8割以上を占めると思われる。このことから,公知意匠2が本件登録意匠の出願日前に公知でなかったのであれば,本件登録意匠は公知意匠2の関連意匠として出願されるべき意匠であると思われる。両意匠はこのような関係にあると思われることからしても,本件登録意匠は,公知意匠2と類似する関係にあり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないとすべきである。 さらに,本件登録意匠は,公知意匠2が公知となった後1年以上後に出願されているが,公知意匠2との相違点は,上述したとおり,トレイの形状及び回転器の有無に過ぎず,この相違点の形態である流れるプール型のそうめん流し器は,本件登録意匠の出願前から多数存在する(甲第9号証乃至第13号証)ことも勘案すれば,本件登録意匠は単なる置換の意匠に該当することは明らかであり,このような意匠に独占排他権を付与することは,意匠の実施に不当な制約が加わることとなり,産業の発達に寄与するという意匠法の目的に反する。 (8)むすび 以上より,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号,第3号又は同条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。 (9)証拠方法 (ア)立証の趣旨 本件登録意匠と同一のそうめん流し器の商品が販売されていたことを甲第3号証で,本件登録意匠と類似するそうめん流し器の商品が販売されていることを甲第4号証で,商品(「流しそうめん 風流」)の発売日が本件登録意匠の出願前であったことを甲第5号証ないし甲第8号証で,楕円形の流れるプール型のそうめん流し器が本件登録意匠の出願前に公知であったことを甲第9号証ないし甲第13号証より立証する。 (イ)証拠の表示 甲第1号証 :無効審判対象の意匠登録第1551624号登録原簿の写し 甲第2号証 :無効審判対象の意匠登録第1551624号公報の写し 甲第3号証 :通販サイトRakutenの商品「流しそうめん 風流 極 」みんなのレビューページの写し 甲第4号証 :株式会社ハックの商品「流しそうめん 風流」の紹介ページ の写し 甲第5号証 :商品「流しそうめん 風流」のJANコード検索結果の写し 甲第6号証 :通販サイトAmazonの商品「流しそうめん 風流」の紹 介ページとカスタマーレビューページの一部の写し 甲第7号証 :YouTube動画「【本格派】家で流しそうめんやってみ た!」の一部を静止画にしたものの写し 甲第8号証 :フジテレビ番組「バイキング」のホームページ,同番組の過 去の放送内容,及びそのYouTube動画の一部を静止画 にしたものの写し 甲第9号証 :通販サイト楽天市場の商品「涼味」(当審注:「涼美」の誤 記と認められる。)のみんなのレビュー・口コミページの写 し 甲第10号証:通販サイトAmazonの商品「涼流庵」の紹介ページとカ スタマーレビューページの一部の写し 甲第11号証:通販サイトヨドバシ.comの商品「涼味」の紹介ページの 写し 甲第12号証:意匠登録第1351076号公報の写し 甲第13号証:意匠登録第1449949号公報の写し 3.回答書 請求人は,当合議体の審尋に対して回答書を提出し,要旨以下のとおり主張をし,その主張事実を立証するため,甲第14号証を提出した。 (1)本件登録意匠が容易に創作することが可能とする理由について 審判請求書において,本件登録意匠と公知意匠2を対比したとおり,本件登録意匠と公知意匠2の相違点は,トレイの形状が本件登録意匠は長方形の一端が円弧によって形成されたD型形状であるのに対し,公知意匠2は長方形である点と,公知意匠2には回転器を有していない点のたった2点であり,これら相違点を除いた部分の形状は全く同一である。 また,流しそうめん器において,D型形状をしたトレイは,例えば,本件登録意匠の出願日より6年以上前の2009年には,株式会社バンダイが販売していた「流しそうめん そうめんや」で採用され公知になっている(甲第14号証)。 さらに,本件登録意匠の回転器の形状は,色彩は相違するものの甲第9,10,12号証に現された回転器と同一あるいは略同一である。 このような状況下において,壁面に傾斜している等多少形状は相違するものの甲第9ないし13号証に現された楕円形の流れるプール型(中央に回転器を配置して全体を楕円形状にした形態)をD型形状のトレイ内に嵌め込んだに過ぎず,創作性は極めて低いと考える。そして,審判請求書で述べているとおり,本件登録意匠は,ウォータースライダーと流れるプールを合体したようなものであり,これらを併設した施設は証拠を示すまでもなく多数存在していることから,これらを組み合わせること自体に着想が新しいとか独創的であるとは言えないと考える。審査基準に挙げられている「置換の意匠」,「寄せ集めの意匠」,「配置の変更による意匠」等は,意匠法第3条第2項の規定に該当する場合の例示であることから,上記のような解釈も可能であると考える。 (2)証拠方法 (ア)立証の趣旨 D型形状のトレイが本件登録意匠の出願前に公知であったことを甲第14号証より立証する。 (イ)証拠の表示 甲第14号証:バンダイホームページに掲載された「流しそうめん そうめんや」のプレスリリースの写し 第3 被請求人の答弁及び理由 被請求人は,平成30年7月20日付けの審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)において,答弁の趣旨を「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」とし,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,その主張事実を立証するため,乙第1号証を提出した。 1.答弁の理由 (1)公知意匠1と意匠法第3条第1項第1号 請求人は,甲第3号証を証拠として挙げているが,その成立性を認めない。請求人は,2014年(平成26年)6月19日に行われたレビューの記載を根拠に,甲第3号証の第1ページ左上に記載の写真が既にその時点で公知となっていることを主張したいようであるが,失当である。 インターネット等の電気通信回線を通じて公開されているweb情報は,webページの管理者が任意の時点で,写真,レイアウト,文章等を改変することができる点で,紙媒体で内容及び日付が確定されたうえで公開される特許公開公報,新聞または学会論文とは相違する。 請求人が提出した甲第3号証は本件意匠の出願日よりも後の平成29年12月8日に印刷されたものにすぎない。請求人は,本件意匠出願日である平成27年(2015年)8月28日以前に甲第3号証に記載のまま電気通信回線を通じて,第三者に公開されていた事実を立証していない。 また,甲第3号証の「https://review,rakuten.co.jp/item/1/260370_10004064/1.1」で特定されるwebページについて,webページを定期的に保存する”Waybackmachine”にて調査したところ,同ページの写真が甲第3号証の写真とはすり替わっている事が判明した。乙第1号証から明らかな通り,掲載されている写真は,本件登録意匠についてのものではなく,本件登録意匠の被請求人の前モデルに対応する「流しそうめん 風流」であることがわかる。そして,2014年6月19日の「ryuchan3959」氏のレビューも本件登録意匠のものではなく,被請求人の前モデルに対応する「流しそうめん 風流」に対するものであるといえる。 以上のとおりであるから,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第1号の規定に反するものではない。 (2)公知意匠2について 請求人が提出した甲第6号証と,本件意匠とを比較すれば,少なくとも以下の3つの相違点が存在する。 相違点1:弧状仕切り壁 本件意匠には,周壁よりも高さが低く設定された弧状仕切り壁が中央部側に設けられている点で,何ら仕切り壁の存在しない甲第6号証とは相違する。これは下記に示すように,トレイ内に水とそうめんとが落下し,トレイ内を水とそうめんとが回転するところ,水のみ弧状仕切り壁を越えさせ,そうめんは弧状仕切り壁を越えさせないようにすべく,全体デザインとの調和を考慮して設計したものである。水だけが弧状仕切り壁を乗り越え,トレイに落下したそうめんが,弧状仕切り壁に沿って回転する様をユーザはそうめんを食しながら注目するため,当該弧状仕切り壁はデザイン上の大きなポイントになる。 相違点2:本件意匠は回転器がトレイ中央部分に設けられている点で,回転器が存在しない甲第6号証とは相違する。 相違点3:本件意匠は弧状周壁がトレイ外端に設けられている点で,直線状壁しか存在しない甲第6号証とは相違する。 以上の通り,本件意匠と甲第6号証とは顕著に相違することから本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に反するものではない。 (3)創作容易性について 請求人は甲第9号証?甲第13号証を提出し,創作容易と主張しているが失当である。一例として甲第9号証と,本件意匠とを比較する。 本件意匠のトレイに着目すると,甲第9号証とは少なくとも以下の相違が認められる。 相違点1:本件意匠では,上述した弧状仕切り壁を有するため楕円状のトレイの先端側の高さと中央側の高さとが相違する点で,高さが均一である甲第9号証とは相違する。すなわち,本件意匠は中央側において弧状仕切り壁を有し,さらにその外側に当該弧状仕切り壁よりも高い弧状周壁を備える点で,甲第9号証とは相違する。 相違点2 :本件意匠のトレイは弧状周壁及び弧状周壁が直立している点で,外側に向けてなだらかに傾斜する甲第9号証とは相違する。 このような顕著な相違点を有していることから,本件意匠は,請求人が主張するような「置換の意匠」,「寄せ集め意匠」,「配置の変更による意匠」のいずれにも該当しない。 従って,本件意匠は意匠法第3条第2項の規定に反するものではない。 (4)結語 以上のとおり,本件意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び同法第2項の規定に反するものではなく,同法第48条第1項の規定により無効とされるべきものではない。 よって,この審判の請求は成り立たないとの審決を求める。 2.証拠方法 (1)乙第1号証 Waybackmachineの検索結果の印刷物 第4 請求人の弁駁及びその理由 請求人は,被請求人の答弁に対し,審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し,以下のとおり主張をし,その主張事実を立証するため,甲第15号証及び甲第16号証を提出した。 1.弁駁の理由 (1)公知意匠1について 請求人は,審判請求書において,本件登録意匠は公知意匠1と同一の形態である旨主張したところ,この点に関して答弁書において被請求人は否認していない。よって,本件登録意匠と公知意匠1とは全く同一の形態であることが証明された。 また,答弁書において被請求人は,甲第3号証のレビューは被請求人の前モデルに対応する「流しそうめん 風流」に対するものであると主張していることから,少なくとも,本件登録意匠の出願日より1年以上も前の2014年6月19日には「流しそうめん 風流」は,被請求人によって販売され公知になっていたことが明確になった。 よって,請求人は,甲第3号証は「流しそめん 風流 極」が本件登録意匠の出願日より前に公開されていたことを示す証拠資料ではなく,上記事実を立証するための証拠資料の1つであることに同意する。 (2)公知意匠2について 上述したとおり,答弁書によって,「流しそうめん 風流 極」(公知意匠1)は本件登録意匠と同一の形態であること,及び「流しそうめん 風流」(公知意匠2)は本件登録意匠の1年以上も前に請求人によって販売され公知になっていたことが明らかになったことから,請求人が購入した「流しそうめん 風流 極」及び「流しそうめん 風流」のそれぞれに付属していた説明書(甲第15号証,甲第16号証)を新たに証拠資料として提示し,本件登録意匠と公知意匠2とが類似していることは明らかであることの立証を行う。 本件登録意匠,公知意匠1,公知意匠2及び甲第14号証に記載の「流しそうめん そうめんや」は,いずれも物品は「流しそうめん器」であり物品は同一である。そして,「流しそうめん器」は,一般的に組み立てて使用されるものであり,分解された状態で箱詰めされて販売されている(甲第14乃至16号証)。この点,甲第2号証の【意匠に係る物品の説明】に「?割竹にみたてた連結レール?」と記載されていることから,本件登録意匠も分解された状態で箱詰めされて販売され,組み立てて使用する物品を想定していることは明らかである。このような観点から,甲第15号証と甲第16号証とを見比べると,部品Iの形状の相違及び部品Pの有無以外は,使用している部品は全く同一である。この点を認めてか,被請求人は,本件登録意匠と公知意匠2との相違点は,弧状仕切り壁,回転器及び弧状周壁の形態にあると主張しており,答弁書においてはこの相違点が顕著であることから本件登録意匠と公知意匠2とは非類似である旨主張している。すなわち,被請求人は換言すれば,本件登録意匠のいわゆる要部はこの3点のみであり,この部分のみが本件登録意匠の特徴的創作部分であると主張しているのである。そうであるならば,本件登録意匠は,この相違部分を独創的で特徴のある創作部分とした部分意匠の意匠登録出願とすべきであったと考えられ,意匠全体を観察することを大原則とする類否判断においては,大部分を公知意匠2と同一の形態とする本件登録意匠を非類似と判断するのは不合理である。蓋し,「流しそうめん 風流」とほとんどの部品を共通とすることをコンセプトとして創作された意匠が本件登録意匠である,と出願時点において被請求人は認識していたわけである。このことは,答弁書においても3つの相違点のみが本件登録意匠の特徴部分であると主張していることから明白であるので,このような認識のもと被請求人は部分意匠としての出願を選択せず,全体意匠としての意匠登録出願を選択したのであるから,この相違部分が仮に意匠の特徴部分であったとしても大原則通り全体観察をすべきであり,これによって該相違部分の創作的価値が希釈化され保護されなかったとしても不合理とは言えず,むしろ一年以上も前に販売され公知になっている商品と全体形状が略同一とする意匠を登録し保護することの方が,新たな意匠の創作を保護するとする法目的に反するものであり不合理であると考える。 なお,被請求人は答弁書において,弧状周壁を本件登録意匠の特徴部分であると主張しているが,甲第15号証の部品Iの形状と甲第14号証の樋4(当審注:4の数字は丸囲み)を対比すると,内部の弧状仕切り壁の有無と,回転器の設置部分の対向するC宇と逆向きC字からなる突起部(本件登録意匠においては見えない部分)の有無を除けば,その外観はほぼ同一の形状であることから,弧状周壁は本件登録意匠の特徴部分とは言えないと考える。 以上より,本件登録意匠と公知意匠2とは類似していることは明らかである。 (3)創作容易性について 本件登録意匠は,公知意匠2の形状を基にして,その基にした形状と相違する部分は,当業者であれば,どの証拠の意匠の形状から導き出すことができ,どのような手法によって容易に創作することができたのかについて,説明が不十分であったことから以下に詳細に説明する。 本件登録意匠と公知意匠2の相違点は,被請求人が答弁書で主張するとおり3点であると考えるので,この点を相違点として以下に説明する。なお,説明の便宜上順不同で説明する。 a)弧状周壁 甲第14号証に掲載された部品の写真の中の樋4(当審注:4の数字は丸囲み)の形状と,甲第15号証に掲載された部品Iの形状とを対比すると,内部の形状を除けばほぼ同一の形状である。すなわち,弧状周壁の相違は,公知意匠2において,5年以上も前に公知になっていた部品(樋4)に置換することにより表出したに過ぎない。よって,公知意匠2において,トレイの形状を本件登録意匠のトレイの形状と同一のものに置換することは当業者であれば容易に想到し得ることである。 b)弧状仕切り壁及び回転器 以下に説明する通り,公知意匠2においてトレイの形状を本件登録意匠のトレイの形状とすることは容易であり,さらに,このトレイに回転器を設け,かつ,弧状仕切り壁を設けるような形態とすることは当業者であれば容易に想到し得るものである。 蓋し,「流しそうめん器」を取り扱う業界において,回転器を中心にして楕円形状の流路を有する「流しそうめん器」は多数製造・販売されている点に関しては,甲第9乃至13号証において示したところであるが,さらに,当該業界においては,回転器の形状は変えずにトレイの形状のみを変えて「流しそうめん器」の全体の意匠を形作ることが一般的に行われているからである。その一例について説明すると,本件登録意匠のトレイ部分(トレイと回転器からなる部分)を見ると,トレイの形状が相違するものの回転器の形態は,色彩を除けば甲第9号証及び第10号証の回転器と全く同一であり,甲第12号証の回転器の形態ともほぼ同一である。本件登録意匠の出願時点において,トレイの外観形状は種々の形態が存在していたことは認定とおりであるが,いずれの形態も回転器を中心として楕円形状の流路を形成した構造である点においては共通している。そして,甲第14号証を見ると,樋4(当審注:4の数字は丸囲み)の中に楕円形状のざる7(当審注:7の数字は丸囲み)を取り付けて使用していることから,本件登録意匠のトレイの内部に楕円形状の壁を形成し,回転器を中心とした楕円形状の流路を形成することは当業者であれば容易に想到し得ることである。なお,被請求人は弧状仕切り壁に関しては,「水のみを弧状仕切り壁を越えさせ,そうめんは弧状仕切り壁を越えさせないようにすべく,全体デザインとの調和を考慮して設計したもの」と主張しているが,単に,弧状周壁より多少高さを低くしただけであって,意匠的に見れば,単に楕円形状のトレイの一部分の高さを低く形成したに過ぎず,当業者であれば容易に想到し得る程度のものである。 以上説明した通り,本件登録意匠と公知意匠2とは相違点を有するものの,その相違点は当業者であれば容易に想到し得るものであり,意匠審査基準に例示された「置換の意匠」,「寄せ集めの意匠」及び「配置の変更による意匠」にそのまま当てはまるものではないものの,これらに相当する程度の創作しかないと同視し得るものであり,本件登録意匠は,商標法第3条第2項の規定に反して登録されたものであることは明らかである。 (4)結語 以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び同法第2項の規定に反して登録されたものであることは明らかであることから,同法第48条第1項の規定により無効とされるべきものである。 よって,意匠登録第1551624号の登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。 2.証拠方法 (1)甲第15号証 「流しそうめん 風流 極」の取扱説明書の写し (2)甲第16号証 「流しそうめん 風流」の取扱説明書の写し 第5 口頭審理 本件審判について,当審は,平成30年11月6日付け審理事項通知書を通知し,これに対して,被請求人は,同年12月11日に口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)を提出し,請求人は,平成31年1月9日に口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)を提出し,同年1月23日に口頭審理を行った(平成31年1月23日付け第1回口頭審理調書)。 1.被請求人の主張 被請求人は,被請求人陳述要領書に基づき,以下のとおり意見を述べた。 (1)甲第14号証との対比 本件意匠と甲第14号証との相違点は以下のとおりである。 相違点1:本件意匠には,回転するそうめんと水とを分離する弧状仕切り壁が設けられている点で,そのような仕切り壁が存在しない甲第14号証とは相違する。特に甲第14号証では水槽上側が直線状を成すため,本件意匠の特徴であるそうめんの回転アクションを実現することはできず,デザインとして根本的に相違する。 相違点2:本件意匠は中央部分に回転器が設置され,かつ,この回転器両端の弧状部分と,弧状仕切り壁及び弧状周壁とにより長円環状の水路が形成されるが,甲第14号証では当該形状を形成し得ない。 相違点3:本件意匠の弧状仕切り壁の高さは,先端に形成される弧状周壁の高さよりも低い点て,周壁の高さが全て均一である甲第14号証とは相違する。 そしてこれらの相違点により,下記のごとく流れ込む水を適切に排出しつつ,回転するそうめんのコースアウト,ひいてはそうめんのつまりを防止し得る独創的なデザインが完成しているのである。甲第14号証ではそうめんが水槽上を漂よい,しかも水の吸い込み口に引き寄せられて詰まってしまう。 このような顕著な相違点を有していることから,本件意匠は,請求人が主張するような「置換の意匠」,「寄せ集めの意匠」,「配置の変更による意匠」のいずれにも該当しない。 (2)甲第6号証から甲第4号証への差し替え 答弁書で用いた甲第6号証から,甲第4号証へ差し替えた上で意見を陳述する。なお,実質的な主張内容は,答弁書で主張したものと相違しない。 請求人が提出した甲第4号証と,本件意匠とを比較すれば,少なくとも以下の3つの相違点が存在する。 相違点1:弧状仕切り壁 本件意匠には,周壁よりも高さが低く設定された弧状仕切り壁が中央部側に設けられている点で,何ら仕切り壁の存在しない甲第4号証とは相違する。これは下記に示すように,トレイ内に水とそうめんとが落下し,トレイ内を水とそうめんとが回転するところ,水のみ弧状仕切り壁を越えさせ,そうめんは弧状仕切り壁を越えさせないようにすべく,全体デザインとの調和を考慮して設計したものである。水だけが弧状仕切り壁を乗り越え,トレイに落下したそうめんが,弧状仕切り壁に沿って回転する様をユーザはそうめんを食しながら注目するため,当該弧状仕切り壁はデザイン上の大きなポイントになる。 相違点2:本件意匠は回転器がトレイ中央部分に設けられている点で,回転器が存在しない甲第4号証とは相違する。 相違点3:本件意匠は弧状周壁がトレイ外端に設けられている点で,直線状壁しか存在しない甲第4号証とは相違する。 以上の通り,本件意匠と甲第4号証とは顕著に相違することから本件意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に反するものではない。 2.請求人の主張 請求人は,請求人陳述要領書に基づき,以下のとおり意見を述べ,その主張事実を立証するため,甲第17号証を提出した。 (1)甲第9号証及び甲第10号証について 被請求人は,甲第9号証に掲載された「そうめん流し器涼美」が本件登録意匠の出願前に販売され公知になっていることに関しては一切否定しておらず,さらに,この商品は被請求人が販売する商品であるとの請求人の主張に対しても一切否定してないことからすれば,このレビューは甲第9号証に掲載された意匠についてなされたものであると考える。 甲第10号証についても,212KITCEN STOREのウェブサイトにリンクされたブログ(2015年7月14日付記事)には,甲第10号証に掲載された商品「涼流庵 そうめん流し器(小)」と同様の商品が紹介されていることから,甲第10号証に掲載されたレビューは,甲第10号証に掲載された意匠についてなされた意匠であり,また,甲第10号証に掲載された意匠は,本件登録意匠の出願前に公知であったものと考える。 (2)「流しそうめん 風流」について 被請求人は「流しそうめん 風流」が本件登録意匠の意匠登録出願前に公知であったとの請求人の主張に対しては一切反論していない。また,「流しそうめん 風流」が,本件登録意匠の意匠登録出願前に,YouTube動画サイトで放映され(甲第7号証),テレビ番組で放送された(甲第8号証)との読求人の主張に対しても一切反論していない。従って,「流しそうめん 風流」が本件登録意匠の意匠登録出願前に公知であったことは,甲第3号証によって証明するまでもなく明らかであると考える。 (3)甲第15号証及び甲第16号証について 審判事件弁駁書(平成30年9月25日付け)において,請求人は 「本件登録意匠と公知意匠1とは全く同一の形態であることが証明された」と主張したところ,被請求人は一切反論していない。従って,請求人は公知意匠1,すなわち,被請求人が販売する「流しそうめん 風流 極」の形態は,色彩等を除けば,略本件登録意匠の形態と同一であると考える。このことから,請求人において購入した「流しそうめん 風流 極」を取扱説明書(甲第15号証)に基づき組み立て撮影し,本件登録意匠の図面と対比したところ,色彩を除けば形態は略同一である。 同様に,回答書(平成30年6月18日付け)において請求人は,「公知意匠2は,甲第4号証乃至第8号証に現わされた被請求人の製品「流しそうめん 風流」を,請求人がネットショップで購入し,甲第2号証の図面と対比するために撮影したものです。」との請求人の主張に対して被請求人は一切反論していない。このことから,請求人がネットショップで購入した「流しそうめん 風流」は公知意匠2と同様のものであり,取扱説明書(甲第16号証)に基づき組み立てた公知意匠2と同様の形態となることは明らかである。 確かに,本件登録意匠の願書や図面等には,本件登録意匠が分解可能であることや,各パーツによって組み立てられる等の記載や描写は見当たらず,各パーツを組み立てることを前提とした取扱説明書(甲第15号証)は本件登録意匠の形態の認定において参酌しないとの判断は通常であれば至極当然であると思う。しかしながら,本件登録意匠を具現化したものが公知意匠1であると認められる本事案においては,取扱説明(甲第15号証)に基づき本件登録意匠と同様の形態が形成されることが明らかであり,かつ,公知意匠1や公知意匠2のような流しそうめん器が実際の商取引の上では,各パーツに分解されて販売され,そして実際に使用する際には消費者が組み立てて使用される商品である以上,本件登録意匠の形態を認定する際には,分解図や組立図が掲載された取扱説明書(甲第15号証)を参酌することは至極合理的であると考える。同様に,公知意匠2の形態の認定に際し。取扱説明書(甲第16号証)を参酌することは至極合理的であると考えられ,各パーツを組み立てたものが,公知意匠1ひいては本件登録意匠,公知意匠2になり得る以上,甲第15号証と甲第16号証を対比して本件登録意匠と公知意匠2との類似性を判断することは,合理的であり妥当であると考える。 (4)本件登録意匠と公知意匠2との類否について 上述したとおり,公知意匠2は,被請求人が販売する商品「流しそうめん 風流」と称する「流しそうめん器」を組み立てた状態の意匠であり,本件登録意匠の出願前には,その6面図及び斜視図はすでに公知であったことは明らかであることから,公知意匠2及び本件登録意匠の6面図及び斜視図を対比して両者が類似する関係にあることを補足説明する。 正面図及び背面図における相違点は,トレイの色彩,トレイの側面の長さ及びトレイの上部において回転器の上部が見えるか否かだけであり,その他の形態は同一である。 左側面図における相違点は,トレイの色彩及びトレイの上部において回転器の上部が見えるか否かだけであり,その他の形態は同一である。底面図における相違点は,トレイの色彩及びトレイの平面形状(一端が丸みを帯びている否か)のみであり,その他の形態は同一である。 右側面図における相違点は,トレイの色彩,トレイの上部において回転器の上部が見えるか否か及びトレイの前面が丸みを帯びているように見えるか否かだけであり,その他の形態は同一である。 斜視図における相違点は,トレイの色彩,トレイの全体形状及び回転器の有無だけであり,その他の形態は同一である。 このように6面図及び斜視図を対比してみれば明らかなとおり,両者の大部分の形態は同一であり,両者が類似することは明らかであると考える。 (5)「弧状仕切り壁」について 被請求人は,本件登録意匠と公知意匠2との相違点の1つとして「弧状仕切り壁」の有無を主張しており,今までの主張において被請求人は「弧状仕切り壁」が本件登録意匠の要部であると主張していると思われるが,以下に説明するとおり「弧状仕切り壁」は本件登録意匠の要部にはなりえないと考える。 (ア)本件登録意匠の意匠登録出願の選択の誤り 本件登録意匠の図面を参照すると,「弧状仕切り壁」は平面図にそのごく一部が見えており,全体像が見えているのは斜視図のみであり,「弧状仕切り壁」の高さが「弧状周壁」よりも低いことは視認できるものの,どの程度の高さであることは分かりづらく,被請求人の主張する「水のみ弧状仕切り壁を越えさせ,そうめんは弧状仕切り壁を越えさせないようにすべく,全体デザインとの調和を考慮して設計した」ような形態になっているようには到底見えない。また,上述したように,本件登録意匠の出願時点においては,トレイ部分以外の形態は同一の「流しそうめん 風流」は,被請求人自身によって販売していたのであるから,この「弧状仕切り壁」が要部であるというのであれば,この部分を部分意匠として出願するか,トレイ部分を部分意匠として出願するかなど,「弧状仕切り壁」を含む領域を部分意匠として出願すべきであったと考える。本件登録意匠が部分意匠による出願ではなく全体意匠による出願であることを勘案すれば,本件登録意匠と公知意匠2は意匠的に見てほぼ同価値であると思われ,本件登録意匠を保護することはすでに公知となった意匠に対し,新規性喪失の例外規定の適用なく法が保護することになり,そのような結果を招来することは不合理であり,部分意匠制度の存在意義や新規性喪失の例外規定の存在意義を脅かすものであると考える。 (イ)出願法域の誤り 被請求人は,「弧状仕切り壁」を「水のみ弧状仕切り壁を越えさせ,そうめんは弧状仕切り壁を越えさせないようにすべく,全体デザインとの調和を考慮して設計した」ことから,「弧状仕切り壁」が本件登録意匠の要部であると主張しているが,このような特徴はデザイン上の特徴ではなく,技術的な特徴であり,本来であれば,本件登録意匠は,特許出願あるいは実用新案登録出願をすべきであったと考える。確かに,被読求人の主張するとおり,公知意匠2と本件登録意匠の相違点として,「弧状仕切り壁」の有無がある点に関しては請求人も認める。しかしながら,この「弧状仕切り壁」は斜視図においてやっと全体が現れる程度の部分である。また,甲第2号証の【意匠に係る物品の説明】の記載「・・・レール上を流れるそうめん,あるいはトレイ内を回転するそうめんをすくい取って食することができる・・・」からも分かるように,そうめん流し器の使用者が,レール上を流れるそうめんをすくいとることができず,そうめんがトレイ内に落ちてしまった揚合に,トレイ内を回転するそうめんをすくい取る際に,かろうじて視認できる程度の形態である。このようなことから,「弧状仕切り壁」が技術的特徴部分になることはあり得ても,本件登録意匠のデザイン的特徴部分や要部になるとは到底考えられない。 (6)むすび 以上より,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号,第3号又は同条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきであると考える。 (7)証拠方法 (ア)立証の趣旨 甲第10号証に掲載された意匠が,本件登録意匠の出願前に公知であったことを,甲第17号証により立証する。 (イ)証拠の表示 甲第17号証:「212KITDKEN STOREのウェブサイトにリンクされたブログの記事」写し 3.審判長 審判長は,この口頭審理において,甲第1号証ないし甲第17号証,並びに乙第1号証について取り調べ,請求人及び被請求人に対して,本件無効審判事件の審理終結を告知した。 第6 当審の判断 1.本件登録意匠(甲第2号証の意匠)(別紙第1参照) 本件登録意匠の認定は以下のとおりである。 (1)意匠に係る物品 意匠に係る物品は,「そうめん流し器」であり,連結したレールに水を流してそうめんを流し,レール上を流れるそうめん,あるいはトレイ内を回転するそうめんをすくい取って食することができるようにしたものである。 (2)形態 本件登録意匠の形態は,以下の(ア)ないし(エ)のとおりである。 (ア)全体構成 上端に吐水口を設けて,ポンプを内蔵した本体を有する中央支柱部,らせん状の下り傾斜として,レール及び支柱から成る水路部,水路部の終端に位置して,回転器を有するトレイ部からなる。 (イ)中央支柱部 上端の周側面に吐水口を形成した,水をくみ上げる円筒から成る支柱であって,水路部上端とトレイ部の基端をつなぐ位置にあり,上端からトレイ部基端までの上下略中央に,ポンプを内蔵して円筒から大きく張り出した本体を有する。 (ウ)水路部 (ウ-1)上端部分は,その下に連なるレール部分の約2倍の幅とする角丸四角形の皿状で,その略中央に円筒の束を配して,吐水口部が設けられている。具体的には,中央支柱を含めて平面視三角形状の位置に配された高さの異なる3本の円筒と,このうち2番目の高さの円筒を取り囲む外方周縁に,これよりやや短く小径で節のある竹筒を模した円柱が4本配されており,3本の円筒のうち最も長い中央支柱と最も短いものの上端寄りに先端を傾斜状にした小円筒から成る吐水口が水平に突出している。 (ウ-2)レール部分は,割竹を模した半円弧状の断面形状から成るレールを連結して,吐水口部が設けられた上端部分から上端部を回り込むように大きく湾曲しながら下降し,緩やかな曲線を描きながらトレイから最も遠い部分をヘアピンカーブ状に湾曲させ,僅かな凹弧状の湾曲を経て終端がトレイ部に向かって凸弧状に湾曲したもので,平面視で変形した横長楕円形状を形成している。 (ウ-3)支柱部分は,レールの下面に,水路の高さに応じた長さの異なる円柱状の支柱が配されており,中央支柱部の両側にトレイ部の両側張り出し部に接続する長い支柱と短い支柱を配し,ヘアピンカーブの入り口付近と出口付近に円錐台状の脚部を有する2本の支柱を配している。 (エ)トレイ部 平面視した外形状が,長方形の右方を半円形状とする横長な略D字状で,垂直な周側面で囲まれた上面が開口したトレイであって,左方の基端部に,中央支柱が接続するブロック状の部材を嵌装して,その両側のトレイ外方下端に支柱と接続する張り出しを設けている。また,ブロック部の右方にトレイ外方の半円形状と対称をなす半円形状で周側面よりも高さの低い仕切り板を設けて,トレイ内部にトラック形の角丸長方形を形成して,その中央には,回転器を配している。回転器の形態は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体で,縦横高さの比が約1:2.3:1.5であって,上面の左半部に逆D字形の凹陥部,右半部に小径の円盤状の操作部を設け,斜視図から,周側面の上下中央付近に僅かに凹陥した帯状部が看取される。 2.無効理由の要点 (1)無効理由1 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由1は,本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内において公然知られた甲第3号証の意匠と同一であるから,意匠法第3条第1項第1号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであるとするものである。 (2)無効理由2 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由2は,本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内において公然知られた甲第4号証の意匠と類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであるとするものである。 (3)無効理由3 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由3は,本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が日本国内において公然知られた項第4号証等の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであるとするものである。 3.無効理由の判断 (1)無効理由1 本件登録意匠が,甲第3号証の意匠(以下,請求人の表記とあわせて「公知意匠1」という。)と同一の意匠であるか否かについて検討する。 1)証拠の説明 (ア)甲第3号証(別紙第2参照) 甲第3号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,通販サイトRakutenの商品「流しそうめん 風流 極」のみんなのレビューページの写しであって,購入者の投稿が本件登録意匠の出願日前の2014年6月19日であることから,本件登録意匠の出願前に本件登録意匠と同一のそうめん流し器の商品が販売されていたことを立証しようとするものである。 (イ)乙第1号証(別紙第17参照) 乙第1号証は,審判事件答弁書に添付され,被請求人が,電気通信回線を通じて公開された,Wayback Machineの甲第3号証のアドレスで特定されるwebページについて調査したページの写しであって,2014年8月27日の当該webページには,公知意匠1とは異なる「流しそうめん 風流」の商品が掲載されていることから,同ページの写真が甲第3号証の写真とはすり替わっている事を立証しようとするものである。 2)判断 公知意匠1の掲載された甲第3号証については,被請求人から,答弁書において,非営利法人Internet Archiveによって運営されるWayback Machineで調査したところ,掲載されている商品は,「流しそうめん 風流」から「流しそうめん 風流 極」に差し替えられたものであるとの主張がなされ,証拠として乙第1号証が提出された。 当合議体は,乙第1号証によれば,2014年8月27日の当該webページには,公知意匠1とは異なる「流しそうめん 風流」の商品が掲載されており,2014年6月19日の購入者の投稿は,被請求人が「流しそうめん 風流 極」の前モデルとする「流しそうめん 風流」に対してなされたものであることが推認されることから,請求人に対して,「流しそうめん 風流 極」すなわち公知意匠1が,2014年6月19日に公然知られていたことについて,補足的な事実や間接事実によって,客観的な証拠により立証することを促したが,これに対する証拠の提出はなかった。 そうすると,甲第3号証は,請求人が作成した平成29年(2018年)11月8日と,Wayback Machineで保存・公開された2014年8月27日とでは,掲載された商品が相違していることが明らかであるから,2014年6月19日に公知意匠1が,電気通信回線を通じて公開された事実を認定することはできない。 なお,請求人は,審判事件弁駁書において,「答弁書において被請求人は,甲第3号証のレビューは被請求人の前モデルに対応する『流しそうめん 風流』に対するものであると主張していることから,少なくとも,本件登録意匠の出願日より1年以上も前の2014年6月19日には『流しそうめん 風流』は,被請求人によって販売され公知になっていたことが明確になった。 よって,請求人は,甲第3号証は『流しそめん 風流 極』が本件登録意匠の出願日より前に公開されていたことを示す証拠資料ではなく,上記事実を立証するための証拠資料の1つであることに同意する。」と主張したが,甲第3号証には,「流しそうめん 風流」の商品が掲載されていないのであるから,このような事実を認定することはできない。 3)小括 以上のとおり,甲第3号証から公知意匠1が本件登録意匠の出願前に公然知られた事実を認定することはできないから,公知意匠1が本件登録意匠の出願前に日本国内において公然知られていた意匠に相当しないので,本件登録意匠が公知意匠1と同一であるか否かにかかわらず,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号の規定に該当する意匠ということはできない。 したがって,請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由1には,理由がない。 (2)無効理由2 本件登録意匠が,甲第4号証の意匠(以下,請求人の表記にあわせて「公知意匠2」という。)と類似する意匠であるか否かについて検討する。 なお,請求人は,公知意匠2が,本件登録意匠の出願前に公然知られた事実を立証する証拠として甲第5号証ないし甲第8号証を提出しており,当合議体は,これらの証拠に示された事実から,公知意匠2が,本件登録意匠の出願前に公然知られていなかったとする事情は認められないから,公知意匠2は本件登録意匠の出願前に公然知られていたものと認定し,甲第4号証に基づいて公知意匠2の認定を行う。 1)証拠の説明 (ア)甲第4号証(別紙第3参照) 甲第4号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,株式会社ハックの商品「流しそうめん 風流」の紹介ページの写しであって,商品の写真と供にJANコード(JAN:4580278048844)が掲載されたものである。 (イ)甲第5号証(別紙第4参照) 甲第5号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,商品「流しそうめん 風流」のJANコードの検索結果のページの写しであって,この商品の発売日が2015年(平成27年)3月15日との記載されたものである。 (ウ)甲第6号証(別紙第5参照) 甲第6号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,通販サイトAmazonの商品「流しそうめん 風流」の紹介ページとカスタマーレビューの一部の写しであって,2015年(平成27年)7月16日の購入者の投稿が記載されたものである。 (エ)甲第7号証(別紙第6参照) 甲第7号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,YouTube動画「【本格派】家で流しそうめんやってみた!」の一部を静止画にしたもので,2015年(平成27年)7月31日に公開と記載されたものである。 (オ)甲第8号証(別紙第7参照) 甲第8号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,フジテレビ番組「バイキング」のホームページから同番組の過去の放送内容,及びそのYouTube動画の一部を静止画にしたもので,2014年(平成26年)7月23日の放送において「流しそうめん 風流」を紹介したと記載されたものである。 (カ)甲第15号証(別紙第14参照) 甲第15号証は,弁駁書に添付され,請求人は,審判請求書における本件登録意匠は公知意匠1と同一である旨の主張に対して,被請求人が否認していないことを理由に,本件登録意匠と「流しそうめん 風流 極」とが同一であるとして,請求人が購入した「流しそうめん 風流 極」に付属していた説明書の写しを証拠として追加したもので,請求人は,公知意匠2との対比において,本件登録意匠の認定に参酌することが合理的であると主張するが,本件登録意匠は完成品である「そうめん流し器」であるのに対して,甲第15号証は,各パーツと組立て方を説明した取扱説明書であって,同一ということはできないから,当合議体は,甲第15号証を本件登録意匠の認定に参酌することはしない。 (キ)甲第16号証(別紙第15参照) 甲第16号証は,弁駁書に添付され,被請求人が答弁書で行った「流しそうめん 風流」が「流しそうめん風流 極」の前モデルであるとの主張を受けて,「流しそうめん 風流」が,本件登録意匠の出願前に販売され公知になっていたことが明らかになったとして,請求人が購入した「流しそうめん 風流」に付属していた説明書の写しを証拠として追加したもので,請求人は,公知意匠2の認定に参酌することが合理的であると主張するが,甲第4号証に現された公知意匠2は完成品である「そうめん流し器」であるのに対して,甲第16号証は,各パーツと組立て方を説明した取扱説明書であって,同一ということはできないから,当合議体は,甲第16号証を公知意匠2の認定に参酌することはしない。 2)公知意匠2の意匠に係る物品 公知意匠2の意匠に係る物品は「そうめん流し器」であり,連結したレールに水を流してそうめんを流し,レール上を流れるそうめん,あるいはトレイ内のそうめんをすくい取って食することができるようにしたものである。 3)公知意匠2の形態 公知意匠2の形態は,以下の(ア)ないし(エ)のとおりである。 (ア)全体構成 上端に吐水口を設けて,ポンプを内蔵した本体を有する中央支柱部,らせん状の下り傾斜として,レール及び支柱から成る水路部,水路部の終端に位置するトレイ部からなる。 なお,甲第4号証に現された公知意匠2は,斜視図のみであることから,背面,左側面,底面の態様,及び詳細な構成比率が不明である。 (イ)中央支柱部 上端の周側面に吐水口を形成した,水をくみ上げる円筒から成る支柱であって,水路部上端とトレイ部の基端をつなぐ位置にあり,上端からトレイ部基端までの上下略中央に,ポンプを内蔵して円筒から大きく張り出した本体を有する。 (ウ)水路部 (ウ-1)上端部分は,背面や左側面の態様,及び詳細な構成比率については不明であるが,終端をその下に連なるレール部分より幅広とする角丸四角形の皿状で,その略中央に円筒の束を配して,吐水口部が設けられている。具体的には,中央支柱を含めて平面視三角形状の位置に配された高さの異なる3本の円筒と,このうち2番目の高さの円筒を取り囲む外方周縁に,これよりやや短く小径で節のある竹筒を模した円柱が複数本配されており,3本の円筒のうち最も長い中央支柱と最も短いものの上端寄りに先端を傾斜状にした小円筒から成る吐水口が水平に突出しており,一番長い円筒の頂部には竹の葉を模した飾りが付されている。 (ウ-2)レール部分は,割竹を模した半円弧状の断面形状から成るレールを連結して,吐水口部が設けられた上端部分から上端部を回り込むように大きく湾曲しながら下降し,緩やかな曲線を描きながらトレイから最も遠い部分をヘアピンカーブ状に湾曲させ,僅かな凹弧状の湾曲を経て終端がトレイ部に向かって凸弧状に湾曲したもので,平面視で変形した横長楕円形状を形成している。 (ウ-3)支柱部分は,レールの下面に,水路の高さに応じた長さの異なる円柱状の支柱が配されており,中央支柱部の両側にトレイ部の両側張り出し部に接続する長い支柱と短い支柱を配し,ヘアピンカーブの入り口付近と出口付近に円錐台状の脚部を有する2本の支柱を配している。 (エ)トレイ部 平面視した外形状が,横長長方形状で,垂直な周側面で囲まれた上面が開口したトレイであって,左方の基端部に,中央支柱が接続するブロック状の部材を嵌装して,その両側のトレイ外方下端に支柱と接続する張り出しを設けている。 4)本件登録意匠と公知意匠2(以下「両意匠」ともいう。)の意匠に係る物品の対比 両意匠の意匠に係る物品は,共に「そうめん流し器」である。 5)本件登録意匠と公知意匠2の形態の対比 (ア)共通点 (A)全体構成を,上端に吐水口を設けて,ポンプを内蔵した本体を有する中央支柱部,らせん状の下り傾斜として,レール及び支柱から成る水路部,水路部の終端に位置するトレイ部からなるものとした点。 (B)中央支柱部を,上端の周側面に吐水口を形成した,水をくみ上げる円筒から成る支柱であって,水路部上端とトレイ部の基端をつなぐ位置にあり,上端からトレイ部基端までの上下略中央に,ポンプを内蔵して円筒から大きく張り出した本体を有するものとした点。 (C-1)水路部の上端部分を,終端をその下に連なるレール部分より幅広とする角丸四角形の皿状として,その略中央に円筒の束を配して,吐水口部が設けられ,具体的には,中央支柱を含めて平面視三角形状の位置に配された高さの異なる3本の円筒と,このうち2番目の高さの円筒を取り囲む外方周縁に,これよりやや短く小径で節のある竹筒を模した円柱が複数本配されており,3本の円筒のうち最も長い中央支柱と最も短いものの上端寄りに先端を傾斜状にした小円筒から成る吐水口が水平に突出している点。 (C-2)水路部のレール部分を,割竹を模した半円弧状の断面形状から成るレールを連結して,吐水口部が設けられた上端部分から上端部を回り込むように大きく湾曲しながら下降し,緩やかな曲線を描きながらトレイから最も遠い部分をヘアピンカーブ状に湾曲させ,僅かな凹弧状の湾曲を経て終端がトレイ部に向かって凸弧状に湾曲したもので,平面視で変形した横長楕円形状を形成している点。 (C-3)水路部の支柱部分を,レールの下面に,水路の高さに応じた長さの異なる円柱状の支柱とし,中央支柱部の両側にトレイ部の両側張り出し部に接続する長い支柱と短い支柱,ヘアピンカーブの入り口付近と出口付近に円錐台状の脚部を有する2本の支柱を配している点。 (D)トレイ部を,垂直な周側面で囲まれた上面が開口したトレイとして,平面視して,左方の基端部に,中央支柱が接続するブロック状の部材を嵌装して,その両側のトレイ外方下端に支柱と接続する張り出しを設けている点。 (イ)差異点 (a)公知意匠2は,斜視図のみであることから,背面,左側面,底面の態様,及び詳細な構成比率が不明である点。 (b)水路部の上端部分に,公知意匠2は,竹の葉を模した飾りを有するのに対して,本件登録意匠は飾りを有さない点。 (c-1)トレイ部は,本件登録意匠の外形状が横長D字状であるのに対して,公知意匠2は横長長方形状である点。 (c-2)本件登録意匠が,ブロック部の右方にトレイ外方の半円形状と対称をなす半円形状で周側面よりも高さの低い仕切り板を設けて,トレイ内部にトラック形の角丸長方形を形成しているのに対して,公知意匠2は仕切り板を有さない点。 (c-3)本件登録意匠が,上面を角丸長方形とする略直柱体の回転器を有するのに対して,公知意匠2は回転器を有さない点。 6)両意匠の類否判断 (ア)意匠に係る物品 両意匠の意匠に係る物品は,共に「そうめん流し器」であるから,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。 (イ)両意匠の形態の評価について 「そうめん流し器」は,流れるそうめんをすくい取ることで,そうめんを食べる行為に楽しさやエンターテイメント性を持たせることを目的とするもので,ウォータースライダー式のものや回転式のものが見られるが,いずれの場合においても,需要者は,そうめんをすくい取る部位に,どのようにそうめんが流れるかについては注意を払うと考えられるから,これに関係する部位は,使用時に各部の形態を観察する際にも,特に注目するものと考えられる。そして,需要者である一般消費者のこのような視点から各部位の形態を評価し,かつそれらを総合して意匠全体として形態を評価する。 (ウ)形態の共通点の評価 まず,共通点(A)は,全体の構成に関する共通点であるが,この種物品分野においては,中央支柱部,水路部及びトレイ部から成る「そうめん流し器」は,甲第14号証にも見られる(甲第14号証の意匠の認定については後述。)ことから,両意匠の共通点を概括的に捉えた場合の共通点といわざるをえないものであるから,両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 共通点(B)は,中央支柱部に関する共通点であるが,上端に吐水口を形成する形態は,甲第14号証にも見られるから,両意匠のみの特徴ということはできず,また,ポンプを内蔵して円筒から大きく張り出した本体部分を有する点は他に見られない共通点であるとしても,本体部分は水路部の上端下方にあって,使用時に注目されにくい部分であるから,本体部分を考慮しても,共通点(B)が,意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまる。 次に,共通点(C-1)は,吐水口を有する水路部の上端部分の具体的な形態に関する共通点であるが,上端部に竹筒を束ねて並べたような視覚的印象をもたらすものであって,そうめんを流し始める部分にも近い当該部位は需要者の目に付きやすい部分であるから意匠の類否判断に影響を与えるものである。 そして,共通点(C-2)及び(C-3)は,水路部の具体的な形態に関する共通点であるが,レール及び支柱から成り,割竹を模した半円弧状の断面形状から成るレールを連結して,吐水口が設けられた上端部から大きく湾曲しながら下降し,緩やかな曲線を描きながらトレイから最も遠い部分をヘアピンカーブ状に湾曲させ,僅かな凹弧状の湾曲を経て終端がトレイ部に向かって凸弧状に湾曲した,平面視で変形した横長楕円形状を形成し,レールの下面に水路の高さに応じた長さの異なる円筒状の支柱を配し,中央支柱部の両側にトレイ部の両側部に接続する長い支柱と短い支柱,ヘアピンカーブの入り口付近と出口付近に円錐台状の脚部を有する2本の支柱とした形態は,甲第14号証にも見られるから,両意匠のみの特徴ということはできないから,共通点(C-2)及び(C-3)が,意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまる。 また,共通点(D)はトレイ部の具体的な形態に関するものであるが,上部を開口とすることは,この種物品においては一般的であるから,類否に与える影響は認められず,トレイに支柱との連結部を設ける態様も甲第14号証に見られ,両意匠のみの特徴ということはできないから,類否に与える影響は小さい。 そうすると,共通点(A),(C-2),(C-3)及び(D)が類否判断に与える影響は小さく,共通点(B)が類否判断に与える影響は一定程度にとどまるが,共通点(C-1)については類否判断に影響を及ぼすものである。 (エ)形態の差異点の評価 差異点(a)は,甲第4号証が,斜視図のみであることから,公知意匠2の背面,左側面,底面の具体的な態様,及び詳細な構成比率が不明な点であるが,不明な点はいずれも部分的な態様や構成比率であるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 差異点(b)は,竹の葉を模した飾りの有無であるが,当該部位の差異は,意匠全体から見れば極小さい部分の差異に過ぎないから,類否判断に与える影響は小さい。 差異点(c-1)は,トレイ部の外形状に関する差異であるが,トレイの右方は,そうめん流し器の外方に大きく張り出した目に付きやすい部分であって,そうめんがとどまる部分であることも考慮すれば,この部分が半円形状か,四角形状かの差異は,需要者の視覚的印象が大きく異なるが,トレイの外形状を横長D字状としたものは甲第14号証にも見られ,本件登録意匠のみの特徴ということはできないから,類否判断に与える影響は一定程度にとどまる。 差異点(c-2)は,トレイ内の仕切り板に関する差異であるが,本件登録意匠が,仕切り板によって,トラック形の角丸長方形を形成し,また仕切り板を外周と異なる高さとしてトレイの内側に変化を持たせているのに対して,公知意匠2は,仕切りのない単一の四角形状であって,視覚的な印象が大きく異なるから,類否判断に与える影響は大きい。 差異点(c-3)は,回転器の有無に関する差異であるが,回転器の有無は,そうめんの流れ方にも大きく影響することから,需要者に与える視覚的印象は大きく異なり,類否判断に与える影響は極めて大きい。 そうすると,差異点(a)及び(b)が類否判断に与える影響は小さく,差異点(c-1)が類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものの,差異点(c-2)及び(c-3)が類否判断に及ぼす影響は大きいものである。 (オ)判断 両意匠は,形態において,共通点(B)の上端部の形態と,差異点(c-2)及び(c-3)のトレイ部の形態が類否判断に及ぼす影響が大きいと考えられるので,これらが意匠全体としての類否に及ぼす影響について検討すると,「6)(イ)両意匠の形態の評価」で述べたとおり,需要者は,どのようにそうめんが流れるかについては注意を払うと考えられるところ,「そうめん流し器」にウォータースライダー式のものと回転式のものが見られるなかで,水路を流れてきたそうめんが,トレイ内にあっても流れ続ける本件登録意匠の形態は,需要者に,ウォータースライダー式の「そうめん流し器」と回転式の「そうめん流し器」の機能を併せ持った形態として,水路を流れてきたそうめんが単に滞留するだけのトレイを有する形態の公知意匠2とは別異のものとの印象を与えるものであるから,差異点(c-2)及び(c-3)の形態は,共通点(B)の上端部の共通する形態が,特徴的なものであったとしても,これを凌駕して別異の印象をもたらすものといわざるを得ない。 7)小括 以上のことから,本件登録意匠と公知意匠2は,意匠に係る物品が一致するものの,形態においては,差異点が意匠の類否判断に与える影響が大きいものであるから,本件登録意匠は,公知意匠2に類似しているとはいえず,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する意匠ということはできない。 したがって,請求人が主張する本件登録意匠の無効理由2には,理由がない。 (3)無効理由3 請求人は,前記第2の1に示すとおり,「本件登録意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた甲第4号証等の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。」と主張している。 具体的には,前記第2の3に示すとおりであって,本件登録意匠と公知意匠2の相違点は,トレイの形状が本件登録意匠は長方形の一端が円弧によって形成されたD型形状であるのに対し,公知意匠2(甲第4号証の意匠)は長方形である点と,公知意匠2には回転器を有していない点の2点であり,D型形状をしたトレイは,甲第14号証に見られ,回転器の形状は,甲第9号証,甲第10号証,甲第12号証に現された回転器と同一あるいは略同一であるから,甲第9号証ないし甲第13号証に現された楕円形の流れるプール型(中央に回転器を配置して全体を楕円形状にした形態)をD型形状のトレイ内に嵌め込んだに過ぎず,創作性は極めて低いとするものである。 1)証拠の説明 (ア)甲第9号証(別紙第8参照) 甲第9号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,通販サイト楽天市場の商品「涼美」のみんなのレビュー・口コミページの写しであって,2015年(平成27年)8月1日の購入者の投稿が記載されたものである。 当合議体は,甲第9号証の当該ページの購入者の投稿には,製品番号の記載が無く,投稿記事が甲第9号証の意匠に対するものであることを確認できないから,請求人に対して,補足的な事実や間接事実によって,客観的な証拠により立証することを促したが,これに対する証拠の提出はなかった。 そうすると,甲第9号証の意匠が,2015年8月1日に,電気通信回線を通じて公開された事実を認定することはできない。 以上のとおり,甲第9号証から,甲第9号証の意匠が本件登録意匠の出願前に公然知られた事実を認定することはできないから,当合議体は,甲第9号証を無効理由3の証拠として参酌しない。 (イ)甲第10号証(別紙第9参照) 甲第10号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,通販サイトAmazonの商品「涼流庵」の紹介ページとカスタマーレビューページの一部の写しであって,2015年(平成27年)7月14日の購入者の投稿が記載されたものである。 当合議体は,甲第10号証の当該ページの購入者の投稿には,製品番号の記載が無く,投稿記事が甲第10号証の意匠に対するものであることを確認できないから,請求人に対して,補足的な事実や間接事実によって,客観的な証拠により立証することを促したが,これに対して,請求人は,甲第17号証を提出し,甲第10号証に掲載された意匠が,本件登録意匠の出願前に公知であったことを立証した。 甲第10号証の意匠の形態は,以下の(a)ないし(c)のとおりである。 (a)全体は,トレイと回転器から成り, (b)トレイは,平面視した外形状が,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形で,開口部側が底面より広く,周側面が傾斜状に形成された舟形状を成し, (c)回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体で,縦横高さの比が約1:2.3:1.5であって,上面の左半部に逆D字形の凹陥部,右半部に小径の円盤状の操作部を設け,斜視図から,周側面の上下中央付近に僅かに凹陥した帯状部が看取され,一番下の帯部の半円部分には多数のスリットが看取される。 (ウ)甲第11号証(別紙第10参照) 甲第11号証は,審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,通販サイトヨドバシ.comの商品「涼味」の紹介ページの写しであって,発売開始日が2015年4月2日と記載されたものである。 甲第11号証の意匠の形態は,以下の(a)ないし(c)のとおりである。 (a)全体は,トレイと回転器から成り, (b)トレイは,平面視した外形状が,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形で,開口部側が底面より広く,周側面が傾斜状に形成され,内周面に帯状の凹凸が看取される。 (c)回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体で,縦横高さの比が約1:2.3:1.5であって,上面の左半部に逆D字形の凹陥部,右半部に小径の円盤状の操作部を設け,斜視図から,周側面は上下に二分割され,下の帯部の半円部分には多数のスリットが看取される。 (エ)甲第12号証(別紙第11参照) 甲第12号証は,意匠登録第1351076号公報の写しであって,日本国特許庁が,平成21年(2009年)2月16日に発行したものである。 甲第12号証の意匠の形態は,以下の(a)ないし(c)のとおりである。 なお,認定は本件登録意匠の向きとそろえて左右反転して行うものとする。 (a)全体は,トレイと回転器から成り, (b)トレイは,平面視した外形状が,横長長方形で,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形の凹陥部を形成したものである。 (c)回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体で,縦横高さの比が約1:2.3:1.5であって,上面の左半部に逆D字形の凹陥部,右半部に小径の円盤状の操作部を設け,斜視図から,周側面の上下中央付近に僅かに凹陥した帯状部が看取され,一番下の帯部の半円部分には多数のスリットが看取される。 (オ)甲第13号証(別紙第12参照) 甲第13号証は,意匠登録第1449949号公報の写しであって,日本国特許庁が,平成24年(2012年)9月3日に発行したものである。 甲第13号証の意匠の形態は,以下の(a)ないし(c)のとおりである。 (a)全体は,トレイと回転器から成り, (b)トレイは,平面視した外形状が,角丸長方形で,側面視して下端を円弧状にすぼめた形状で,中央に回転器を設置する凸部を設け,この周囲に断面が円弧状の底面となる流路を形成している。 (c)回転器は,上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体で,縦横高さの比が約1:2.3:1であって,上面の左半部に円形の凹陥部,右半部にD字状の凹陥部を設け,側面視して下半部の周側面が僅かに拡幅し,半円部分に多数のスリットが看取される。 (カ)甲第14号証(別紙第13参照) 甲第14号証は,回答書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,バンダイホームページに掲載された「流しそうめん そうめんや」のプレスリリースの写しであって,記事中に,2009年4月18日発売との記載があり,記事の左上隅に2009年4月9日の日付が記されたものである。 甲第14号証の意匠の形態は,以下の(a)ないし(d)のとおりである。 なお,本件登録意匠と向きをそろえて認定するものとする。 (a)全体構成 上端に吐水口部を設けた中央支柱部,らせん状の下り傾斜として,レール及び支柱から成る水路部,水路部の終端に位置するトレイ部からなる。 (b)中央支柱部 上端に吐水口を形成した,水をくみ上げる円筒から成る支柱であって,水路部上端とトレイ部の基端をつなぐ位置にある。 (c)水路部 (c-1)上端部分は,終端を角丸四角形の皿状とし,略中央に水車小屋を模した吐水口部が設けられている。 (c-2)レール部分は,割竹を模した半円弧状の断面形状から成るレールを連結して,吐水口部が設けられた上端部分から上端部を回り込むように大きく湾曲しながら下降し,緩やかな曲線を描きながらトレイから最も遠い部分をヘアピンカーブ状に湾曲させ,僅かな凹弧状の湾曲を経て終端がトレイ部に向かって凸弧状に湾曲したもので,平面視で変形した横長楕円形状を形成している。また,トンネル部材が,ヘアピンカーブ手前と出口の先の2箇所に配されている。 (c-3)支柱部分は,レールの下面に,水路の高さに応じた長さの異なる円柱状の支柱が配されており,中央支柱部の両側にトレイ部の両側張り出し部に接続する長い支柱と短い支柱を配し,ヘアピンカーブの入り口付近と出口付近に円錐台状の脚部を有する2本の支柱を配している。 (d)トレイ部 平面視した外形状が,左方を隅丸,長方形の右方を半円形状とする横長な略D字状で,左方の基端部は,中央支柱が接続するブロック状に形成され,その両側の外方下端に支柱と接続する張り出し,左外方下端に長方形状の電池ボックスとの接続片を設けており,ブロック状部分の右方が,垂直な周側面で囲まれた上面が開口したトレイとなっている。また,トレイは,水路部を流れてきたそうめんがトレイの中央に到達する位置に配されており,トレイの内部には角丸長方形のざるが取り付けられ,トレイの左方には横長な逆D字状の電池ボックスが接続されている。 (キ)甲第17号証(別紙第16参照) 甲第17号証は,口頭審理陳述要領書に添付された証拠説明書の記載によれば,電気通信回線を通じて公開された,「212KITDKEN STOREのウェブサイトにリンクされたブログの記事」写しであって,甲第10号証に現された商品である「涼流庵」の写真と共に記事の右上隅に2015年7月14日の日付が記されたもので,甲第10号証に掲載された意匠が,本件登録意匠の出願前に公知であったことを立証するためのものである。 2)創作容易性の判断 請求人の無効理由3についての主張は,本件登録意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた公知意匠2等の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたというものであって,本件登録意匠と公知意匠2の形態は,トレイの形状と回転器の有無を除けば同一で,D型形状をしたトレイは,甲第14号証に,回転器の形状は,甲第9号証,甲第10号証,甲第12号証に現された回転器と同一あるいは略同一であるから,甲第9号証ないし甲第13号証に現された中央に回転器を配置して全体を楕円形状にした形態をD型形状のトレイ内に嵌め込んだに過ぎないというものである。 したがって,これらの点について,本件登録意匠が当業者によって容易に創作できたものであるかについて検討し判断する。 なお,甲第9号証は,前記1)証拠の説明(ア)甲第9号証で述べたとおり,本件登録意匠の出願前に公然知られた事実を認定することができないから,以下の検討に参酌しない。 本件登録意匠と公知意匠2の各部形態の対比は,前記第6 3.(2)5)のとおり,本件登録意匠は,上端部において,竹の葉を模した飾りを有さない点,及びトレイ部の形態において相違するほかは形態が共通するものである。 そうすると,本件登録意匠は,中央支柱部及び水路部の形態については,公知意匠2から極小さい装飾用の部品を取り除いた程度であるから,創作が容易でなかったということはできない。 そして,本件登録意匠のトレイ部の形態については,前記第6 1.(2)(エ)のとおりであって,トレイの外形状は,右半部を半円形状とした形態が甲第14号証の意匠に見られるように公然知られており,左方の基端部に,中央支柱が接続するブロック状の部材を嵌装して,その両側のトレイ外方下端に支柱と接続する張り出しを設けた形態は公知意匠2に見られるように公然知られている。 そうすると,トレイ部の外形状についても,公知意匠2に基づいて,右半部を公然知られた甲第14号証の意匠と同様に半円形状とした程度であるから,創作が容易でなかったということはできない。 また,トレイ部の回転器の形態については,上面が両端を半円形状とする角丸長方形から成る略直柱体で,縦横高さの比が約1:2.3:1.5であって,上面の左半部に逆D字形の凹陥部,右半部に小径の円盤状の操作部を設け,斜視図から,周側面の上下中央付近に僅かに凹陥した帯状部が看取される形態が,甲第10号証及び甲第12号証の意匠に見られるように公然知られており,これらの意匠は一番下の帯部の半円部分に多数のスリットが看取されるのに対して本件登録意匠は当該部分が不明であるものの,それ以外の形態が共通しているから,回転器の形態については,公然知られた甲第10号証及び甲第12号証の意匠に基づいて,創作が容易でなかったということはできない。 しかしながら,全体の構成について,上端に吐水口を設けて,ポンプを内蔵した本体を有する中央支柱部,らせん状の下り傾斜として,レール及び支柱から成る水路部,及び水路部の終端に位置して,回転器を有するトレイ部とした点は,本件登録意匠の出願前の「そうめん流し器」の分野においては,公知意匠2及び甲第14号証の意匠のようなウォータースライダー式のものと,甲第10号証ないし甲第13号証のような回転式のものが見られるものの,ウォータースライダー式のもののトレイ部に回転器を有する形態のものは見られないから,本件登録意匠の全体の構成に想到することが容易であったということはできない。 そして,各部の形態のうち,トレイ内部の仕切り板についても,本件登録意匠の仕切り板と外周面によって構成されるトレイの内周面に注目して,本件登録意匠の仕切り板に想到することが容易であるか否かを検討すると,甲第10号証,甲第11号証及び甲第13号証の意匠のトレイ部は,勾配や内周面の態様が本件登録意匠と相違しているから,これらの形状からは,本件登録意匠のトレイの内周面を導き出すことはできない。また,甲第12号証の意匠のトレイは,勾配や平面視した形状については共通しているが,内周面が段差のない一つながりのものであるから,本件登録意匠の仕切り板が周側面より高さの低いものとした形態を導き出すことはできない。 なお,仕切り板は,トレイ内部にトレイ外方の半円形状と対称をなす半円形状で周側面よりも高さの低い板を設けたものであるが,請求人は,甲第9号証ないし甲第13号証に現された中央に回転器を配置して全体を楕円形状にした形態をD型形状のトレイ内に嵌め込んだに過ぎないというものであると主張するので,これを検討する。 甲第10号証は,平面視した外形状が,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形で,開口部側が底面より広く,周側面が傾斜状に形成された舟形状を成すものである。 甲第11号証は,平面視した外形状が,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形で,開口部側が底面より広く,周側面が傾斜状に形成され,内周面に帯状の凹凸が看取される。 甲第12号証の意匠のトレイは,平面視した外形状が,横長長方形で,両端を半円形状とするトラック形の角丸長方形の凹陥部を形成したものである。 甲第13号証の意匠のトレイは,平面視した外形状が,角丸長方形で,側面視して下端を円弧状にすぼめた形状で,中央に回転器を設置する凸部を設け,この周囲に断面が円弧状の底面となる流路を形成している。 以上のとおり,甲第10号証ないし甲第13号証の意匠のトレイ部の形態は,それ自体が完成品であるそうめん流し器の外形状を構成するトレイ部であって,接続された水路部からの流れを遮ることなくそうめんをすくい取ることを目的とした完成品の一部である本件登録意匠のトレイ部とは相違するものであって,単純に置き換えられるものではないから,これらのトレイの形態から,直ちに,当業者が本件登録意匠のトレイを創作することができたということはできない。 そうすると,本件登録意匠は,中央支柱部及び水路部の形態については,公知意匠2から,トレイ部のうちトレイの外形状については,公知意匠2及び甲第14号証の意匠から,回転器の形態については,甲第10号証及び甲第12号証の意匠から,当業者であれば,容易に創作することができたということができるものではあるが,トレイ部のうち,トレイ外方の半円形状と対称をなす半円形状で周側面より高さの低い仕切り板を設けてトレイ内部に,トラック形の角丸長方形を形成した点については,当業者が容易に創作をすることができたということができず,さらに,全体の構成を,この出願前には見られなかった,ウォータースライダー式のもののトレイ部に回転器を有する形態としたものであるから,本件登録意匠に想到することが容易であったということはできない。 3)小括 以上のとおり,本件登録意匠は,公知意匠2,甲第10号証ないし甲第14号証の意匠に基づいて,当業者が容易に創作することができたということはできず,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものとはいえない。 したがって,請求人が主張する本件登録意匠の無効理由3には,理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由3に係る理由及び証拠方法によっては,本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。 審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2019-03-20 |
出願番号 | 意願2015-18978(D2015-18978) |
審決分類 |
D
1
113・
121-
Y
(C5)
D 1 113・ 113- Y (C5) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹下 寛 |
特許庁審判長 |
小林 裕和 |
特許庁審判官 |
木本 直美 温品 博康 |
登録日 | 2016-05-13 |
登録番号 | 意匠登録第1551624号(D1551624) |
代理人 | 長谷川 敬一 |
代理人 | 茅原 裕二 |
代理人 | 河野 英仁 |