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審決分類 |
審判 B5 |
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管理番号 | 1351490 |
審判番号 | 無効2018-880014 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-10-11 |
確定日 | 2019-05-07 |
意匠に係る物品 | 靴 |
事件の表示 | 上記当事者間の意匠登録第1568714号「靴」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 意匠登録第1568714号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件意匠登録第1568714号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、平成28年(2016年)7月5日に意匠登録出願(意願2016-14261号)されたものであって、審査を経て平成29年(2017年)1月6日に意匠権の設定の登録がなされ、同年2月6日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。 平成30年10月11日 :審判請求書提出 平成31年 2月12日付け:書面審理通知書 第2 請求人の申し立て及び理由 請求人は、「登録第1568714号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。 1 請求の理由 (1)意匠登録無効の理由の要点 本件登録意匠は、甲第3号証乃至甲第6号証の意匠と同一又は類似のものであって、意匠法第3条第1項第2号又は3号に規定される意匠に該当するので、同条の規定により意匠登録を受けることができないものである。よって、意匠法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (2)本件意匠登録を無効とすべき理由 ア 本件登録意匠の説明 本件登録意匠に係る物品は、甲第2号証登録公報に掲載のとおり、「靴」(短靴)であって、アッパー部を除いたソール部について、部分意匠として意匠登録されたものである。 そのアウトソール部の底面には、浅い曲面形状の溝が中央縦方向全長に亘って伸びるように形成され、その溝の両側に沿って、断面がほぼ台形状の隆起部が、ほぼ対称的に配設されている。各隆起部には全長に亘って細溝が形成され、その細溝を横切るように多数の曲線溝が、細溝と同じ深さに形成され、細溝と曲線溝に仕切られた各凸部の上面に、複数の浅い滑り止め溝が刻設されている。 イ 甲第3号証及び甲第4号証の説明 甲第3号証は、アマゾンジャパン合同会社(本社:東京都目黒区下目黒1丁目8番1号Arco Tower Annex、代表者:ジャスパー・チャン)が運営するAmazon.co.jpの商品掲載ページの写しであり、甲第3号証には、「サンダル」が掲載されている。そして、甲第3号証の第1ページ下部の登録情報の記載から、当該商品が2012年6月19日よりAmazon.co.jpで取り扱われていたことが分かる。 即ち、甲第3号証に掲載の商品は、本件登録商標(当審においては「本件登録商標」を「本件登録意匠」として判断する。以下、同じ。)の出願日である2016年7月5日前に既に公になっていたものである。 また、甲第4号証は、甲第3号証に係るサンダルの写真である。 ウ 甲第3号証及び甲第4号証の意匠の説明 甲第3号証及び甲第4号証に係る意匠(甲第3号証及び甲第4号証に掲載されている商品を意味し、以下、「意匠A」とする。)は、「サンダル」(本件登録意匠は「靴」とされているが、その青色で示されている部分の形状からして、意匠Aと同じ「サンダル」であると考えられる。)であって、アウトソール部の底面には、浅い曲面形状の溝が中央縦方向全長に亘って伸びるように形成され、その溝の両側に沿って、断面がほぼ台形状の隆起部が、ほぼ対称的に配設されている。各隆起部には全長に亘って細溝が形成され、その細溝を横切るように多数の曲線溝が、細溝と同じ深さに形成され、細溝と曲線溝に仕切られた各凸部の上面に、複数の浅い滑り止め溝が刻設されている。 エ 本件登録意匠と意匠Aの類否 両意匠は、いずれも「履物」(靴とサンダル)であって、物品が同一又は類似であることに疑いの余地はない。そして、靴底部の部分意匠として登録されている本件登録意匠の靴底と、意匠3(当審においては「意匠3」を「意匠A」と認定する。)に係る靴底は、同一の形状と言える。 即ち、両意匠の靴底は同一の形状と言い得るので、当然のことながら、全体から生ずる視覚性美感は共通である。 オ 甲第3号証及び甲第4号証まとめ 以上のとおり、本件登録意匠と意匠Aの靴底は、その視覚性美感を共通にする、同一の(少なくとも類似する)意匠である。そして、意匠Aは、遅くとも、本件登録意匠の出願日前である2012年6月19日の時点で公になっていたものである。 よって、本件登録意匠は、本来、意匠Aの存在を根拠に、意匠法第3条第1項の規定により登録を受けることが出来なかったものであるため、本件意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定により、無効とされるべきものである。 カ 甲第5号証及び甲第6号証の説明 甲第5号証は、甲第3号証と同様に、アマゾンジャパン合同会社が運営するAmazon.co.jpの商品掲載ページの写しであり、甲第5号証には、「サンダル」が掲載されている。そして、甲第5号証の第1ページ下部の登録情報の記載から、当該商品が2012年7月16日よりAmazon.co.jpで取り扱われていたことが分かる。即ち、甲第5号証に掲載の商品は、本件登録商標の出願日である2016年7月5日前に既に公になっていたものである。 また、甲第6号証は、甲第5号証に係るサンダルの写真である。 キ 甲第5号証及び甲第6号証の意匠の説明 甲第5号証及び甲第6号証に係る意匠(甲第5号証及び甲第6号証に掲載されている商品を意味し、以下、「意匠B」とする。)は、「サンダル」であって、アウトソール部は、アウトソール部の底面には、浅い曲面形状の溝が中央縦方向全長に亘って伸びるように形成され、その溝の両側に沿って、断面がほぼ台形状の隆起部が、ほぼ対称的に配設されている。各隆起部には全長に亘って細溝が形成され、その細溝を横切るように多数の曲線溝が、細溝と同じ深さに形成され、細溝と曲線溝に仕切られた各凸部の上面に、複数の浅い滑り止め溝が刻設されている。 ク 本件登録意匠と意匠Bの類否 両意匠は、いずれも「履物」(靴とサンダル)であって、物品が同一又は類似であることに疑いの余地はない。そして、靴底部の部分意匠として登録されている本件登録意匠の靴底と、意匠Bに係る靴底は、同一の形状である。 即ち、両意匠の靴底は同一の形状と言い得るので、当然のことながら、全体から生ずる視覚性美感は共通である。 ケ 甲第5号証及び甲第6号証まとめ 以上のとおり、本件登録意匠と意匠Bの靴底は、その視覚性美感を共通にする、同一の(少なくとも類似する)意匠である。そして、意匠Bは、遅くとも、本件登録意匠の出願日前である2012年7月16日の時点で既に公になっていたものである。 よって、本件登録意匠は、本来、意匠Bの存在を根拠に、意匠法第3条第1項の規定により登録を受けることが出来なかったものであるため、本件意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定により、無効とされるべきものである。 (3)むすび 上記理由により、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号に規定する意匠に該当するので、同条の規定により登録されるべきではなかったことは明らかであり、意匠法第48条第1項第1号の規定により、無効とすべきである。 2 請求人が提出した証拠 請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第6号証(全て写しであると認められる)を、審判請求書の添付書類として提出した。 (1)甲第1号証 意匠登録第1568714号原簿 (2)甲第2号証 意匠登録第1568714号公報 (3)甲第3号証 Amazon.co.jpの商品掲載ページ(【RICHARD SMITH】メンズサンダル/ホワイト/5960-01)、https://www.amazon.co.jp/%E3%80%90%EF%BC%B2%EF%BC%A9%EF%BC%A3%EF%BC%A8%EF%BC%A1%EF%BC%B2%EF%BC%A4-%EF%BC%B3%EF%BC%AD%EF%BC%A9%EF%BC%B4%EF%BC%A8%E3%80%91-%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89-%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9-%EF%BC%B3%EF%BC%AD%EF%BC%A9%EF%BC%B4%EF%BC%A8%E3%80%91%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%AB/dp/B008CN017Y (4)甲第4号証 写真 撮影対象:甲第3号証に掲載されているサンダル (5)甲第5号証 Amazon.co.jpの商品掲載ページ([リチャードスミス]RICHARD SMITH メンズサンダル)、https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9-RICHARD-SMITH-%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%AB/dp/B007YCG1XM (6)甲第6号証 写真 撮影対象:甲第5号証に掲載されているサンダル 第3 被請求人の答弁 特許庁より被請求人に対し、平成30年11月14日に審判請求書を送達し、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、被請求人からの応答はなかった。 第4 当審の判断 1.本件登録意匠(甲第2号証の意匠)(別紙第1参照) 本件登録意匠の認定は、以下のとおりである。 (1)意匠に係る物品 意匠に係る物品は「靴」であって、願書に添付された図面には、アッパー部がストラップにより構成されるサンダル状の靴が記載されており、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである。 また、本件登録意匠は、部分意匠として意匠登録を受けようとするものであり、願書の「意匠の説明」には、「青色で示された部分以外の部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」(以下「本件登録意匠部分」という。)と記載されている。 (2)本件登録意匠部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲 本件登録意匠部分は、サンダル状の靴のうち、ミッドソール及びアウトソール部分であって、衝撃吸収、耐久性及び対滑性に係る用途及び機能を有する。 (3)本件登録意匠部分の形態 本件登録意匠部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、主に以下の点が認められる。 (ア)ミッドソールは側面視において、かかと側に向かって漸次厚みを増している点、 (イ)アウトソール部の外形状は底面視において、つま先側の幅がかかと側より広く、つま先は親指側から小指側に向かって傾斜している点、 (ウ)アウトソール部の左右側面は底面に向かってすぼまるように傾斜し、底面視において中央縦方向全長にわたって、断面略弧状で浅い幅広の溝(以下、「中央溝」という。)が形成され、中央溝の両側には、中央溝及び左右傾斜面によって形成された断面略台形状の隆起部が、左右ほぼ対称に配設されている点、 (エ)隆起部はその中央溝寄りに、中央溝と平行にアウトソール部の縦方向全長にわたって細溝(以下、「縦細溝」という。)が形成され、その縦細溝と交差するように中央から左右方向に向かって傾斜して配置された、わずかに湾曲した細溝(以下、「曲線溝」という。)が等間隔で形成されている点、 (オ)曲線溝の間には複数の浅い滑り止め溝が形成されている点。 (カ)アウトソール部は黒色で、ミッドソール部は黒色か灰色か不明である点。 2.請求人が主張する無効の理由 (1)無効理由1 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由1は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である、甲第3号証及び甲第4号証に記載された意匠と同一のため、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。 (2)無効理由2 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由2は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である、甲第3号証及び甲第4号証に記載された意匠に類似するため、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。 (3)無効理由3 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由3は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である、甲第5号証及び甲第6号証に記載された意匠と同一のため、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。 (4)無効理由4 請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由4は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である、甲第5号証及び甲第6号証に記載された意匠に類似するため、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。 3.無効理由の検討 本件登録意匠の無効理由の検討にあたって、請求人は、甲第4号証は甲第3号証に係るサンダルの写真であると主張するが、甲第4号証において、甲第4号証に記載された各写真が甲第3号証記載の商品を撮影したものであることを示す記載はなく、また、甲第4号証に記載された各写真により現されたサンダルの意匠は、甲第3号証に記載されたイ号意匠とストラップ部分の織り模様の色彩において相違するため、両意匠は同一の意匠とは認められない。したがって、当審においては、無効理由1及び2の判断は、甲第3号証に記載された意匠のみに基づき行う。また、請求人は、甲第6号証は甲第5号証に係るサンダルの写真であると主張するが、甲第6号証において、甲第6号証に記載された各写真が甲第5号証記載の商品を撮影したものであることを示す記載はなく、また、甲第6号証に記載された各写真により現されたサンダルの意匠は、甲第5号証に記載された意匠とストラップ部分の織り模様の色彩において相違するため、両意匠は同一の意匠とは認められない。したがって、当審においては、無効理由3及び4の判断は、甲第5号証に記載された意匠のみに基づき行う。 (1)無効理由1及び無効理由2について 無効理由1及び無効理由2は、本件登録意匠は甲第3号証に記載された意匠(以下、「甲第3号証意匠」という。)と同一又は類似することから、本件登録意匠はその意匠登録を無効とされるべきというものであるから、無効理由1及び無効理由2を併せて、以下検討を行う。 ア 甲第3号証意匠 (ア)甲第3号証意匠は、審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば、アマゾンジャパン合同会社が運営するAmazon.co.jpの商品掲載ページ「【RICHARD SMITH】メンズサンダル/ホワイト/5960-01(情報のアドレスURL:https://www.amazon.co.jp/%E3%80%90%EF%BC%B2%EF%BC%A9%EF%BC%A3%EF%BC%A8%EF%BC%A1%EF%BC%B2%EF%BC%A4-%EF%BC%B3%EF%BC%AD%EF%BC%A9%EF%BC%B4%EF%BC%A8%E3%80%91-%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89-%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9-%EF%BC%B3%EF%BC%AD%EF%BC%A9%EF%BC%B4%EF%BC%A8%E3%80%91%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%AB/dp/B008CN017Y)」に記載された「サンダル」の意匠であって、その形態は、甲第3号証の第1ページ左上に掲載された写真及びその写真の拡大図である、甲第3号証の第3ページないし第8ページ掲載の写真に現されたとおりのものである。(別紙第2参照) (イ)甲第3号証第1ページ下部の登録情報における「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2012/6/19」との記載があるところ、当該ウェブサイトが2012年6月19日に公開されたことに、特に信用性を疑わせるような事情はないことから、甲第3号証意匠は、本件登録意匠の出願日である2016年7月5日以前の、2012年6月19日より日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認定する。 (ウ)甲第3号証意匠の意匠に係る物品 甲第3号証意匠の意匠に係る物品は「サンダル」であって、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである。 (エ)甲第3号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分の、用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲 甲第3号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分は、サンダルのうち、ミッドソール及びアウトソール部分であって、衝撃吸収、耐久性及び対滑性に係る用途及び機能を有する。 (オ)甲第3号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分の形態 甲第3号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分の形態は、主に以下の点が認められる。 なお、甲第3号証意匠の図面の向きを本件登録意匠の図面の向きに揃え、以下、形態の認定を行う。 (A)ミッドソールは側面視において、かかと側に向かって漸次厚みを増している点、 (B)アウトソール部の外形状は底面視において、つま先側の幅がかかと側より広く、つま先は親指側から小指側に向かって傾斜している点、 (C)アウトソール部の左右側面は底面に向かってすぼまるように傾斜し、底面視において中央縦方向全長にわたって、断面略弧状で浅い幅広の溝(以下、「中央溝」という。)が形成され、中央溝の両側には、中央溝及び左右傾斜面によって形成された断面略台形状の隆起部が、左右ほぼ対称に配設されている点、 (D)隆起部はその中央溝寄りに、中央溝と平行にアウトソール部の縦方向全長にわたって細溝(以下、「縦細溝」という。)が形成され、その縦細溝と交差するように中央から左右方向に向かって傾斜して配置された、わずかに湾曲した細溝(以下、「曲線溝」という。)が等間隔で形成されている点、 (E)曲線溝の間には複数の浅い滑り止め溝が形成されている点。 (F)アウトソール部及びミッドソール部は黒色である点。 イ 本件登録意匠と甲第3号証意匠との対比 本件登録意匠の意匠に係る物品は「靴」であって、願書に添付された図面には、アッパー部がストラップにより構成されるサンダル状の靴が記載されており、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである。甲第3号証意匠の意匠に係る物品は「サンダル」であって、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものであることから、本件登録意匠と甲第3号証意匠(以下、「両意匠」という。)は、用途及び機能に共通性がみられる。 次に、本件登録意匠部分と甲第3号証意匠の該当部分(以下、「両意匠部分」という。)を対比すると、両意匠部分は、サンダル状の靴又はサンダルの、ミッドソール及びアウトソール部分であって、両意匠部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が共通し、その部分の形態については、以下の共通点及び相違点が認められる。 (共通点) (ア)ミッドソールは側面視において、かかと側に向かって漸次厚みを増している点、 (イ)アウトソール部の外形状は底面視において、つま先側の幅がかかと側より広く、つま先は親指側から小指側に向かって傾斜している点、 (ウ)アウトソール部の左右側面は底面に向かってすぼまるように傾斜し、底面視において中央縦方向全長にわたって、断面略弧状で浅い幅広の溝(以下、「中央溝」という。)が形成され、中央溝の両側には、中央溝及び左右傾斜面によって形成された断面略台形状の隆起部が、左右ほぼ対称に配設されている点、 (エ)隆起部はその中央溝寄りに、中央溝と平行にアウトソール部の縦方向全長にわたって細溝(以下、「縦細溝」という。)が形成され、その縦細溝と交差するように中央から左右方向に向かって傾斜して配置された、わずかに湾曲した細溝(以下、「曲線溝」という。)が等間隔で形成されている点、 (オ)曲線溝の間には複数の浅い滑り止め溝が形成されている点。 (カ)アウトソール部は黒色である点。 (相違点) (キ)本件登録意匠は、ミッドソール部は黒色か灰色か不明であるのに対し、甲第5号証意匠のミッドソール部は黒色である点。 ウ 本件登録意匠と甲第3号証意匠との類否判断 両意匠は、意匠に係る物品が「靴」と「サンダル」である点で異なるが、いずれもストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである点で用途及び機能に共通性があることから、両意匠の意匠に係る物品は類似する。 次に、両意匠部分について、用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が共通する。また、両意匠部分の形態については、前記(ア)ないし(カ)の共通点がみられ、特に前記(ウ)及び(エ)の共通点に係る形態については、本件登録意匠の出願前に公然知られた靴又はサンダルにおいてみられない特徴的な態様であって、需要者に強い共通の美感を起こさせるものである。他方、両意匠部分は、ミッドソール部の色彩について異なる点がみられるが、これは両意匠部分全体の中でわずかな部分における相違であることから、両意匠部分全体の美感に及ぼす影響はごくわずかに過ぎない。したがって、両意匠部分の形態は類似する。 そうすると、両意匠は、意匠に係る物品が類似し、両意匠部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が共通し、形態が類似するものであるから、両意匠は同一とは認められないが、類似するものと認められる。 エ 小括 以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である、甲第3号証意匠と同一とは認められないことから、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当せず、請求人が主張する無効理由1には理由がない。しかしながら、本件登録意匠は甲第3号意匠に類似することから、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、請求人が主張する無効理由2については理由がある。 (2)無効理由3及び無効理由4について 無効理由3及び無効理由4は、本件登録意匠は甲第5号証に記載された意匠(以下、「甲第5号証意匠」という。)と同一又は類似することから、本件登録意匠はその意匠登録を無効とされるべきというものであるから、無効理由3及び無効理由4を併せて、以下検討を行う。 ア 甲第5号証意匠 (ア)甲第5号証意匠は、審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば、アマゾンジャパン合同会社が運営するAmazon.co.jpの商品掲載ページ「[リチャードスミス]RICHARD SMITH メンズサンダル」(情報のアドレスURL:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9-RICHARD-SMITH-%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%AB/dp/B007YCG1XM)に記載された「サンダル」の意匠であって、その形態は、甲第5号証の第1ページ左上に掲載された写真及びその写真の拡大図である、甲第5号証の第4ページないし第10ページ掲載の写真に現されたとおりのものである。(別紙第3参照) (イ)甲第5号証第1ページ下部の登録情報における「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2012/7/16」との記載があるところ、当該ウェブサイトが2012年7月16日に公開されたことに、特に信用性を疑わせるような事情はないことから、甲第5号証意匠は、本件登録意匠の出願日である2016年7月5日以前の、2012年7月16日より日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認定する。 (ウ)甲第5号証意匠の意匠に係る物品 甲第5号証意匠の意匠に係る物品は「サンダル」であって、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである。 (エ)甲第5号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分の、用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲 甲第5号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分は、サンダルのうち、ミッドソール及びアウトソール部分であって、衝撃吸収、耐久性及び対滑性に係る用途及び機能を有する。 (オ)甲第5号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分の形態 甲第5号証意匠の本件登録意匠部分に相当する部分の形態は、主に以下の点が認められる。 なお、甲第5号証意匠の図面の向きを本件登録意匠の図面の向きに揃え、以下、形態の認定を行う。 (A)ミッドソールは側面視において、かかと側に向かって漸次厚みを増している点、 (B)アウトソール部の外形状は底面視において、つま先側の幅がかかと側より広く、つま先は親指側から小指側に向かって傾斜している点、 (C)アウトソール部の左右側面は底面に向かってすぼまるように傾斜し、底面視において中央縦方向全長にわたって、断面略弧状で浅い幅広の溝(以下、「中央溝」という。)が形成され、中央溝の両側には、中央溝及び左右傾斜面によって形成された断面略台形状の隆起部が、左右ほぼ対称に配設されている点、 (D)隆起部はその中央溝寄りに、中央溝と平行にアウトソール部の縦方向全長にわたって細溝(以下、「縦細溝」という。)が形成され、その縦細溝と交差するように中央から左右方向に向かって傾斜して配置された、わずかに湾曲した細溝(以下、「曲線溝」という。)が等間隔で形成されている点、 (E)曲線溝の間には複数の浅い滑り止め溝が形成されている点。 (F)アウトソール部及びミッドソール部は黒色である点。 イ 本件登録意匠と甲第5号証意匠との対比 本件登録意匠の意匠に係る物品は「靴」であって、願書に添付された図面には、アッパー部がストラップにより構成されるサンダル状の靴が記載されており、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである。甲第5号証意匠の意匠に係る物品は「サンダル」であって、その用途及び機能は、ストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものであることから、本件登録意匠と甲第5号証意匠(以下、「両意匠」という。)は、用途及び機能に共通性がみられる。 次に、本件登録意匠部分と甲第5号証意匠の該当部分(以下、「両意匠部分」という。)を対比すると、両意匠部分は、サンダル状の靴又はサンダルの、ミッドソール及びアウトソール部分であって、両意匠部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が共通し、その部分の形態については、以下の共通点及び相違点が認められる。 (共通点) (ア)ミッドソールは側面視において、かかと側に向かって漸次厚みを増している点、 (イ)アウトソール部の外形状は底面視において、つま先側の幅がかかと側より広く、つま先は親指側から小指側に向かって傾斜している点、 (ウ)アウトソール部の左右側面は底面に向かってすぼまるように傾斜し、底面視において中央縦方向全長にわたって、断面略弧状で浅い幅広の溝(以下、「中央溝」という。)が形成され、中央溝の両側には、中央溝及び左右傾斜面によって形成された断面略台形状の隆起部が、左右ほぼ対称に配設されている点、 (エ)隆起部はその中央溝寄りに、中央溝と平行にアウトソール部の縦方向全長にわたって細溝(以下、「縦細溝」という。)が形成され、その縦細溝と交差するように中央から左右方向に向かって傾斜して配置された、わずかに湾曲した細溝(以下、「曲線溝」という。)が等間隔で形成されている点、 (オ)曲線溝の間には複数の浅い滑り止め溝が形成されている点。 (カ)アウトソール部は黒色である点。 (相違点) (キ)本件登録意匠は、ミッドソール部は黒色か灰色か不明であるのに対し、甲第5号証意匠のミッドソール部は黒色である点。 ウ 本件登録意匠と甲第5号証意匠との類否判断 両意匠は、意匠に係る物品が「靴」と「サンダル」である点で異なるが、いずれもストラップ部分で足に固定され、靴底により足裏を保護するためのものである点で用途及び機能に共通性があることから、両意匠の意匠に係る物品は類似する。 次に、両意匠部分について、用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が共通する。また、両意匠部分の形態については、前記(ア)ないし(カ)の共通点がみられ、特に前記(ウ)及び(エ)の共通点に係る形態については、本件登録意匠の出願前に公然知られた靴又はサンダルにおいてみられない特徴的な態様であって、需要者に強い共通の美感を起こさせるものである。他方、両意匠部分は、ミッドソール部の色彩について異なる点がみられるが、これは両意匠部分全体の中でわずかな部分における相違であることから、両意匠部分全体の美感に及ぼす影響はごくわずかに過ぎない。したがって、両意匠部分の形態は類似する。 そうすると、両意匠は、意匠に係る物品が類似し、両意匠部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が共通し、形態が類似するものであるから、両意匠は同一とは認められないが、類似するものと認められる。 エ 小括 以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である、甲第5号証意匠と同一とは認められないことから、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当せず、請求人が主張する無効理由3には理由がない。しかしながら、本件登録意匠は甲第5号意匠に類似することから、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、請求人が主張する無効理由4については理由がある。 第5 むすび 以上のとおりであって、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものであるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号に該当し、その意匠登録を無効とすべきものである。 審判に関する費用については、意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 ![]() |
審理終結日 | 2019-03-01 |
結審通知日 | 2019-03-05 |
審決日 | 2019-03-26 |
出願番号 | 意願2016-14261(D2016-14261) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Z
(B5)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 並木 文子 |
特許庁審判長 |
温品 博康 |
特許庁審判官 |
木村 智加 江塚 尚弘 |
登録日 | 2017-01-06 |
登録番号 | 意匠登録第1568714号(D1568714) |
代理人 | 齋藤 貴広 |
代理人 | 齋藤 晴男 |
代理人 | 大川 宏 |