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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) B2
管理番号 1357755 
判定請求番号 判定2019-600016
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 判定 
判定請求日 2019-06-13 
確定日 2019-12-03 
意匠に係る物品 カーディガンショール 
事件の表示 上記当事者間の登録第1471906号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠(判定請求書に添付された「イ号意匠及び説明書」に表された意匠)は、登録第1471906号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は、令和1年6月13日付けの判定請求書において、
「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1471906号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由としておおむね以下の主張をし、その主張事実を立証するため、後記4に掲げた甲第1号証ないし甲第5号証の証拠を提出した。

2 請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人は、本件判定請求に係る登録意匠「カーディガンショール」(甲第1号証、以下「本件登録意匠」という)の意匠権者である。
本件判定被請求人(株式会社良品計画、以下「被請求人」という)が現在販売しているイ号意匠(甲第2号証)ボレロ(イ号物件)は、本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので、請求人は令和1年5月15日、その旨の通知書(甲第3号証)を被請求人に送付した。
これに対して、被請求人は、回答書(令和1年5月24日付甲第4号証の1、下から6行目)にて、(本件登録意匠について「長方形の生地を二つ折り重ね、短辺の左右に開口部を設け残りは閉じてある」という形状について、意匠登録を受けたものではないと考えております。)として意匠権の侵害には該当しない旨主張するので、特許庁による判定を求める。
(2)本件登録意匠の説明
ア 本件登録意匠(甲第1号証参照)、意匠に係る物品は「カーディガンショール」である。
イ 甲第1号証1ページ7行目【意匠分類】B2-70は、(甲第1号証別紙1参照)「意匠分類の記号一覧」にあるように、分類はマフラー等であり、この分類に含まれる物品は、マフラー、ストール、ショールである。
ウ 本件登録意匠の形態の趣旨を次のとおりとする(甲第1号証、意匠公報参照)。
【意匠に係る物品の説明】本物品は、カーディガンショールであり、長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である。使用方法は、ショールの左右から手を通し、(使用状態を示す参考図1)カーディガンとして使用した状態を示す。また、ショールの左右に留め金(部分拡大図)を設け筒状に形を変えることができ、(使用状態を示す参考図2)スヌードのように使用でき、(使用状態を示す参考図3)のように筒に手を通してボレロ風にもアレンジできる。また、(使用状態を示す参考図4)のように、留め金を外してマフラーとしても使用できる。
(3)イ号意匠の説明
ア 被請求人が販売するイ号意匠は(甲第2号証 イ号意匠販売状況参照)によれば、商品名が「UVカットフレンチリネンボレロ135×135cm」及び「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ140×35cm」である。(甲第2号証 画像1)が示すとおり、イ号意匠はストール・ケープとして販売されている。また、(甲第2号証 画像3)には、イ号意匠は「ケープです。羽織ったり巻いたり様々な着こなしを楽しめます」との記載がある。また、(甲第2号証 画像4)商品タグには、羽織ったり、首に巻いて使用するイラストが描かれているとおり、イ号意匠に係る物品はストール・ケープである。
イ イ号意匠は、甲第2号証及び添付書類「イ号意匠及び説明書」に記載のイ号意匠の写真に示されたものであって、その形態は写真図に現わされたとおり、具体的な形態は以下のとおりである。
長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である。使用方法は、(イ号意匠及び説明書 図2)商品タグのイラストに描かれているとおり、羽織って使用する形態と、首に巻いて使用する形態である。
(4)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 両意匠の共通点
(ア)イ号意匠に係る物品は(甲第2号証)画像1・画像3に記載があるように「ストール・ケープ」である。本登録意匠に係る物品は「カーディガンショール」であり、(甲第1号証)【意匠分類】B2-70意匠分類の表示では、マフラー等、この分類に含まれる物品は、マフラー、ストール、ショールであり、両意匠に係る物品は同類である。
(イ)両意匠の形態は、長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である。主要部分の形態が同じである。
(ウ)両意匠とも長方形の生地を二つ折りにしているもので、細長い長方形であり、見た目が同じである。
(エ)本件登録意匠は、第1号証【使用状態を示す参考図1】【使用状態を示す参考図4】が示すように羽織ったり首に巻いたりして使用するものである。また、イ号意匠の使用方法も(イ号意匠及び説明書 図2)商品タグのイラストが示すように、羽織ったり首に巻いて使用するものであり、両意匠とも使用方法が同じである。
イ 両意匠の差異点
(ア)本件登録意匠は(甲第1号証 部分拡大図参照)留め具があり、スヌードのようにして使用することができるが、イ号意匠には留め具がない。
(5)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
ア 被請求人が送付してきた【参考文献】。
甲第4号証の2 公開実用平成2-53917号(参考文献1)
甲第4号証の3 実用新案登録第3134268号(参考文献2)
イ 本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲について
(ア)被請求人は上記参考文献を理由に、回答書(甲第4号証の1)下から6行目、貴殿商品は「長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に開口部を設け短辺の残りは閉じてある。」という形状について意匠登録を受けたものではないと考えておりますと主張していることに対する反論。
a 被請求人が送付してきた参考文献1及び参考文献2は、意匠公報(甲第1号証)20行目【参考文献】に記載されている文献であり、審査時に参考としながら類似しないと判断された文献である。
b 参考文献1の名称は「上掛け衣」、「参考文献2」の名称は「羽織りシャツ構造」であり、本件登録意匠の【意匠に係る物品】は「カーディガンショール」であり【意匠分類】はB2-70、服飾品マフラー等「マフラー、ストール、ショール」であり、物品が異なる。
c 本件登録意匠は、(甲第1号証使用状態を示す参考図4)のように、首に巻いて使用できるもので「参考文献1・参考文献2」どちらにも首に巻いて使用できる旨の記載は無く使用方法が異なる。
d 本件登録意匠は、(甲第1号証平面図)が示すように、長方形の生地を二つ折りしたものであって、細長い形態であり「参考文献1・参考文献2」とは、見た目が異なる。
e 上記a?dのとおり、本件登録意匠は「参考文献1・参考文献2」とは、類似しないものである。
f 本件登録意匠の審査経緯において「長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に開口部1を設け短辺の残りは閉じてある。」を除外する旨の記載はない。
意匠法
第四章 意匠権
(登録意匠の範囲等)
第二十4条 登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面
に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わ
された意匠に基いて定めなければならない。
したがって、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲は、本件登録意匠(甲第1号証)に記載されている全文及び写真により現わされた意匠すべてが権利範囲である。
ウ 本件登録意匠とイ号意匠の共通点(上記(4)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 ア 両意匠の共通点参照)
(ア)物品が同類である。
(イ)形態が同じである。
(ウ)見た目が同じである。
(エ)使用方法が同じである。
エ イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(ア)本件登録意匠についての証拠
a 請求人が販売する商品の説明(甲第5号証別紙1参照)として、「ストール状の左右に手を通して、モモンガ風カーディガン、留め金をとめてスヌード、ねじってみたり、巻いてみたり、フードにして被ってみたり、」と記載している。
b (甲第1号証参照)
本件登録意匠公報記載の【意匠分類】B2-70は、甲第1号証別紙1「意匠分類の記号一覧」にあるように分類はマフラー等であり、この分類に含まれる物品は、マフラー、ストール、ショールである。
c 【意匠に係る物品の説明】本物品は、カーディガンショールであり、長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である。使用方法は、ショールの左右から手を通し、(使用状態を示す参考図1)カーディガンとして使用した状態を示す。また、ショールの左右に留め金(部分拡大図)を設け筒状に形を変えることができ、(使用状態を示す参考図2)スヌードのように使用でき、(使用状態を示す参考図3)のように筒に手を通してボレロ風にもアレンジできる。また(使用状態を示す参考図4)のように、留め金を外してマフラーとしても使用できる。
(使用状態を示す参考図1)は、羽織って使用する形態を示している。
(使用状態を示す参考図4)は、首に巻いて使用する形態を示している。
(イ)イ号意匠についての証拠
a 被請求人が販売するイ号意匠は(甲第2号証イ号意匠販売状況参照)によれば「UVカットフレンチリネンボレロ135×35cmm」及び「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ140×35cm」で、甲第2号証 画像1にあるようにストール・ケープとして販売されている。また、甲第2号証 画像3には、イ号意匠は「ケープです。羽織ったり巻いたり様々な着こなしを楽しめます」との記載がある。また、甲第2号証 画像5・6はイ号意匠の形態と使用方法を示す画像であり、画像4「商品タグには」羽織ったり、首に巻いて使用するイラストが描かれているとおり、イ号意匠に係る物品はストール・ケープである。
b イ号意匠は、(甲第2号証及び添付書類「イ号意匠及び説明書」参
照)に記載のとおり、具体的な形態は以下のとおりである。
長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である。使用方法は、(イ号意匠及び説明書 図2商品タグ)のイラストに、羽織って使用する形態と、首に巻いて使用する形態が描かれている。
(ウ)上記(ア)が示す本件登録意匠と(イ)が示すイ号意匠に、共通する単語(文言)は、ストール、ボレロ、長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である、羽織って使用する形態、首に巻いて使用する形態、である。
上記説明のとおり、両意匠の主要部分「長方形の生地を二つに折り重ね、短辺の左右に(開口部1)を設け短辺の残りは閉じてある。長辺の一辺は折り目であり、もう一辺は(開口部2)である、羽織って使用する形態、首に巻いて使用する形態である。」の形態が同じであり、使用方法も同じである。イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものである。
(6)むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属するので、請求趣旨のとおり判定を求める。

3 「判定請求弁駁書」における主張
請求人は、令和1年10月3日付けで判定事件弁駁書を提出しておおむね以下の主張をし、その主張事実を立証するため、後記4に掲げた甲第6号証ないし甲第8号証の証拠を提出した。
(1)本件登録意匠について
被請求人は本件登録意匠の模様について主張しているが、【意匠に係る物品の説明】において、模様や色彩について一切言及していない。公報に使われている写真は、商品の形状や使用状態を示す参考図であり模様や色彩を限定したものではない。(甲第6号証意匠公報)
そもそもショール・マフラー・ストール類は、さまざまな色や柄、素材のものを販売するのが常識である。
甲第7号証イ号意匠及び説明書 図7、イ号意匠(a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ140×35cm」2色、図8、イ号意匠(b)「UVカットフレンチリネンボレロ135×135cm」6色を販売している。本件登録意匠の商品(甲第8号証)も、さまざまな色・柄・素材のものを販売するものである。
(2)「意匠」の形状について
意匠法 第一章 総則
(目的)
第1条 この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。
(定義等)
第2条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

上記、意匠法の保護対象は、第一は物品の形状である。
形状とは、物品の形、状態、使用状態のことである。

イ号意匠の形伏は、甲第7号証イ号意匠及び説明書のとおり、
図1 イ号意匠(a)の正面図、
図2 イ号意匠(a)商品タグのイラストが示す使用状態、
図3 イ号意匠(b)の正面図、
図4 イ号意匠(b)商品タグのイラストが示す使用状態である。

本件登録意匠とイ号意匠との共通となる形状は、次のとおりである。
a 長方形の生地を二つに折り重ね、
b 短辺の左右に(開口部1)を設け、
c 前記開口部1の短辺の残りは閉じ、
d 長辺の一辺は折り目であり、
e 長辺のもう一辺は(開口部2)である。
f 羽織って使用する形状
g 首に巻いて使用できる形状。
以上、aからgである。
(3)イ号意匠について
イ号意匠の形状は、被請求人も認めているとおり、
a 長方形の生地を二つに折り重ね、
b 短辺の左右に(開口部1)を設け、
c 前記開口部1の短辺の残りは閉じ、
d 長辺の一辺は折り目であり、
e 長辺のもう一辺は(開口部2)である。と、
イ号意匠商品タグのイラスト(甲第7号証 図2、図4)が、示す
f 羽織って使用する形状
g 首に巻いて使用できる形状。
以上、aからgがイ号意匠の形状である。

上記aからgの形状は、本件登録意匠主要部分の形状と同一であり、このaからgの形状のことを以下「本件登録意匠主要部分の形状」という。
本件登録意匠主要部分の形状と同一の物品が、ただの色違い・柄違い・素材違いというだけで非類似品となるのであれば、すべての登録意匠が色違い・柄違い・素材違いのものを作れば販売できるということになり、それでは、意匠を登録する意味がなくなってしまう。そもそもショール・マフラー・ストール類は、さまざまな色や柄、素材のものを販売するのが常識である。
(4)まとめ
本件登録意匠は、何一つ拒絶理由なく登録されており、本件登録意匠、本件登録意匠主要部分の形状は、被請求人が提出した参考文献とは、物品が違う、形状、使用状態が違う。いずれの意匠も首に巻いて使用できる形状ではなく、本件登録意匠、本件登録意匠主要部分の形状とは同一ではない。本件登録意匠、本件登録意匠主要部分の形状ともに、公知意匠ではないことの証明であり、本件登録意匠、本件登録意匠主要部分の形状の新規性を証明するものである。
本件登録意匠主要部分の形状と同一の商品で現在確認できているものは、平成25年5月10日に意匠登録された本件登録意匠と、平成31年、今春から販売を開始したイ号意匠(a)(b)のみである。イ号意匠が類似品であることは明白である。
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠主要部分の形状と同一のものであるから、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。

4 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第8号証(枝番を含む。全て写しであると認められる。)を、判定請求書及び判定事件弁駁書の添付書類として提出した。
甲第1号証 本件登録意匠公報
甲第2号証 イ号意匠の販売状況
甲第3号証 通知書
甲第4号証の1 回答書
甲第4号証の2 参考文献1
甲第4号証の3 参考文献2
甲第5号証 本件登録意匠の販売経緯
甲第6号証 意匠登録第1471906号公報
甲第7号証 イ号意匠及び説明書
甲第8号証 本件登録意匠商品


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1 答弁の趣旨
被請求人は、令和1年8月9日付けで判定事件答弁書を提出し、
「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1471906号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。」と申し立て、その理由として要旨以下のとおりの主張をし、その主張事実を立証するため、後記3に掲げた証拠を提出した。

2 答弁の理由
(1)本件登録意匠について
ア 意匠法第2条第1項は、「この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定され、以下には、物品と形態(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)として説明する。
イ 乙第1号証から明らかなとおり、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「カーディガンショール」(物品)とし、かつ、「正面図」等に示すように、「形状、模様、色彩との結合」(形態)からなる意匠である。
ウ 本件登録意匠は、【意匠に係る物品の説明】、【正面図】等を参考にして説明すると、以下のようになる。すなわち、
[基本的構成態様]
(i)長方形の生地を二つに折り重ね、
(ii)短辺の左右に(開口部1)を設け、
(iii)前記開口部1の短辺の残りは閉じ、
(iv)長辺の一辺は折り目であり、
(v)長辺のもう一辺は(開口部2)であり、
(vi)短辺の両端に、所定の間隔をおいて留め具を有し、
[具体的構成態様]
(vii)全体がベージュ、グレー、黒の色彩を基調とした三角形と四角形の組合せからなる模様が配され、
(viii)三角形は、複数の細い横縞があるもの、複数の太い横縞があるもの、横縞がないものでなり、
(ix)四角形は、複数の太い横縞があるもの、横縞がないものでなり、前記三角形と四角形の図形の組合せによって、本件登録意匠が構成されている。
(2)イ号について
ア 被請求人が販売する製品は、(a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ」、(b)「UVカット フレンチリネンボレロ」の2つのタイプがある(乙第2号証の1)。これらをイ号という。
乙第2号証の1に示すように、(a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ」は、2種類のカラーが用意されており、また、(b)「UVカット フレンチリネンボレロ」は、6種類のカラーが用意されている。これら個々の製品は、単一色の色彩でなる。すなわち、例えば、(a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ」は、青色1色の色彩からなり、(b)「UVカット フレンチリネンボレロ」は、ベージュ1色の色彩からなる。したがって、模様はない。
イ 乙第2号証の1乃至乙第2号証の3に示すように、(a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ」、(b)「UVカット フレンチリネンボレロ」からなるイ号は、同じ構成からなっている。したがって、以下にまとめて説明する。
[基本的構成態様]
(i)長方形の生地を二つに折り重ね、
(ii)短辺の左右に(開口部1)を設け、
(iii)前記開口部1の短辺の残りは閉じ、
(iv)長辺の一辺は折り目であり、
(v)長辺のもう一辺は(開口部2)であり、
[具体的構成態様]
(vi)単一色の色彩でなり、
(vii)無模様である。
(3)先行公知文献について
ア 被請求人は、先行公知文献として、
公開実用新案平成2-53917号(乙第3号証の1)(甲第4号証の2、参考文献1と同じ文献である)、
実用新案登録第3134268号(乙第3号証の2)(甲第4号証の3、参考文献2と同じ文献である)、
を提出する。
(4)本件登録意匠と先行公知文献との対比について
ア 本件登録意匠と乙第3号証の1とを対比すると、
(i)長方形の生地を二つに折り重ね(略方形の布地1を横長状に二つ折りし)、
(ii)短辺の左右に(開口部1)を設け(左右の側辺である袖部3、4のうち、二つ折り線2から所定幅W2に亘って開放させ(開口部1に相当))、
(iii)前記開口部1の短辺の残りは閉じ(左右の側辺である袖部3、4のうち、残余の縁辺W3を互いに縫合し、
(iv)長辺の一辺は折り目であり(二つ折り線2に相当)、
(v)長辺のもう一辺は(開口部2)であり(二つ折り線2の対向辺側に位置する長手辺5は縫合せずに開放させたままにし(開口部2に相当))、
(vi)短辺の両端に、所定の間隔をおいて留め具を有し(開示されていない)、
が開示されており、乙第3号証の1には、本件登録意匠の基本的構成態様が開示されている。なお、「(vi)短辺の両端に、所定の間隔をおいて留め具を有し」の構成については、例えば、特開2007-117638「装身具用留め具」(乙第4号証の1)、実用新案登録第3134396号「留め具付きタオル」(乙第4号証の2)等から「留め具」の構成については広く一般に周知の構成であり、公知である。
イ 本件登録意匠と乙第3号証の2とを対比すると、
(i)長方形の生地を二つに折り重ね(布辺10を二つに折り(図1、図
2は、長方形の布辺10を示している)、
(ii)短辺の左右に(開口部1)を設け(双辺に小さな直径の側部開口14(開口部1に相当)を設け、
(iii)前記開口部1の短辺の残りは閉じ(双辺の側部開口14の一部を閉じ(図2参照)、
(iv)長辺の一辺は折り目であり(図1、図2に示す布辺10を二つに折り)、
(v)長辺のもう一辺は(開口部2)であり(一端を閉じ(布辺10の折り目)、他端が空間を開放した大きな直径の主開口13(開口部2に相当))、
(vi)短辺の両端に、所定の間隔をおいて留め具を有し(開示されていない)、
が開示されており、乙第3号証の2には、本件登録意匠の基本的構成態様が開示されている。なお、「(vi)短辺の両端に、所定の間隔をおいて留め具を有し」の構成については、既に述べたとおり公知の構成である。
(5)本件登録意匠とイ号との対比について
ア 本件登録意匠とイ号の基本的構成態様については、既にみてきたとおり、本件登録意匠が、「(vi)短辺の両端に、所定の間隔をおいて留め具を有し、」とする構成を有するのに対して、イ号は、そのような構成を備えていない点で差異を有する。
かかる差異については、請求人が前記第1の2(4)イ「両意匠の差異点(ア)本件登録意匠は(甲第1号証 部分拡大図参照)留め具があり、スヌードのようにして使用することができるが、イ号意匠には留め具がない。」と本件登録意匠とイ号との差異を認めている。
イ 本件登録意匠とイ号の具体的構成態様については、以下に述べるように顕著な差異を有するものである。すなわち、既に述べたように、本件登録意匠は、全体意匠(基本的構成態様については、先行公知文献等から公知の構成であることについては既に述べた。)であるから、具体的構成態様にその特徴を有するものである。すなわち、
ウ 本件登録意匠は、
「(vii)全体がベージュ、グレー、黒の色彩を基調とした三角形と四角形の図形の組合せからなる模様が形成され、
(viii)三角形は、複数の細い横縞があるもの、複数の太い横縞があるもの、横縞がないものでなり、
(iv)四角形は、複数の太い横縞があるもの、横縞がないものでなり、」という具体的構成態様に特徴を有するのに対して、
イ号は、
「(vi)単一色の色彩でなり、(vii)無模様である。」という具体的構成態様に特徴を有するものである。
したがって、本件登録意匠とイ号とは、具体的構成態様において顕著な差異を有し、共通の美感を有さないものであるから、イ号は、本件登録意匠の同一または類似する範囲には属さないものである。
(6)前記第1に対する被請求人の主張について
ア 前記第1の2(5)イ(ア)aについて
「被請求人が送付してきた参考文献及び参考文献2は、意匠公報(甲第1号証)20行目【参考文献】に記載されている文献であり、審査時に参考としながら類似しないと判断された文献である。」と主張する。
しかして、意匠法第3条第1項1号乃至3号は、いわゆる新規性を規定したものであって、先行公知文献である公開実用平成2-53917号、実用新案登録第3134268号等を公知文献(以下、引用文献ともいう。)として、審査官は引用文献として引用することができる。
請求人は前記第1の2(5)イ(ア)f以下に、
「(登録意匠の範囲等)第二十4条・・・・したがって、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲は、本件登録意匠(甲第1号証)に記載されている全文及び写真により現わされた意匠すべてが権利範囲である。」と主張するように、本件登録意匠を審査した審査官は、本件登録意匠は、全体意匠であって、具体的構成態様である形態にその特徴があると判断したのであるから、前記引用文献は参照するに留めたものと解するのが相当である。
イ 前記第1の2(5)イ(ア)bについて
「参考文献1の名称は「上掛け衣」、「参考文献2」の名称は「羽織りシャツ構造」であり、本件登録意匠の【意匠に係る物品】は「カーディガンショール」であり【意匠分類】はB2-70、服飾品マフラー等「マフラー、ストール、ショール」であり、物品が異なる。」と述べているが、請求人がいう「物品が異なる。」とする点は理解しえない。
けだし、「参考文献1」の名称である「上掛け衣」(乙第3号証の1)、「参考文献2」の名称である「羽織シャツ構造」(乙第3号証の2)は、技術的創作に係る考案が化体された物品の名称として採択されたものであり、請求人がいう「服飾品マフラー等「マフラー、ストール、ショール」」の範疇に属するものであるから、「物品が異なる」との請求人の主張は、的を射たものではない。
ウ 前記第1の2(5)ウについて
請求人は、「本件登録意匠とイ号意匠の共通点(上記(4)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 ア 両意匠の共通点参照)
(ア)物品が同類である。
(イ)形態が同じである。
(ウ)見た目が同じである。
(エ)使用方法が同じである。」
と主張する。
被請求人も本件登録意匠とイ号の物品が「服飾品」の範躊に属するものであることは認めるが、既に述べたように、「(イ)形態が同じである。」、「(ウ)見た目が同じである。」とする点は、容認しえないものである。既に述べたように、本件登録意匠とイ号とは、形態が顕著に相違するものであって、請求人がいう「形態」はどのような意味で使用されているのか理解しえないものである。
エ 前記第1の2(5)エについて
請求人は、被請求人が既に述べた[基本的構成態様]に関する点、「使用状態を示す参考図1」乃至「使用状態を示す参考図4」を用いた使用方法等に関する記載を縷々述べているが、的を射たものでない主張である。
(7)まとめ
本件登録意匠とイ号とは、顕著な差異を有するので、共通の美感を有さないものであるから、イ号は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないものであって、イ号は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないとの判定を求める。

3 被請求人が提出した証拠
被請求人は、以下の乙第1号証ないし乙第5号証(枝番を含む。全て写しであると認められる。)を、判定事件答弁書の添付書類として提出した。
乙第1号証 意匠登録第1471906号公報
乙第2号証の1 (a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ」、
(b)「UVカット フレンチリネンボレロ」
検乙第2号証の2(a)「日焼けを防ぐUPF50+ボレロ」の製品写真
検乙第2号証の3(b)「UVカットフレンチリネンボレロ」の製品写真
乙第3号証の1 公開実用新案平成2-53917号公報
乙第3号証の2 実用新案登録第3134268号公報
乙第4号証の1 特開2007-117638号公報
乙第4号証の2 実用新案登録第3134396号公報
乙第5号証 審査基準第5部 一意匠一出願(81、82頁)


第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1471906号)は、平成24年(2012年)11月13日に意匠登録出願され、平成25年(2013年)5月10日に意匠権の設定の登録がなされ、意匠登録出願の願書の記載によれば、本件登録意匠の意匠に係る物品は「カーディガンショール」であり、願書添付図面の「使用状態を示す参考図1」ないし「同3」によれば使用者の肩と腕を覆うものである。そして、本件登録意匠の形態は、願書及び願書に添付された図面代用写真に現されたとおりとしたものである(請求人が提出した甲第1号証(別紙第1)参照。)。
本件登録意匠の形態には、基本的構成態様として、以下の点が認められる。なお、本件登録意匠の各部の名称は、請求人が提出した判定請求書の添付書類「イ号意匠及び説明書」(別紙第2参照)でイ号意匠について示された名称に基づく。
(1)基本的構成態様について
全体が、長方形の生地を短手方向に山折りして前後に重ねたものであって、正面から見て、左端及び右端の上側に開口部1が設けられて、下側は閉じられたままであり、下端に開口部2が形成されている。
また、具体的態様として、以下の点が認められる。
(2)正面部(及び背面部)の具体的態様について
正面部の具体的態様は、以下のとおりである。なお、本件登録意匠の意匠登録出願の願書の記載「背面図は正面図と同一」により、背面部の具体的態様は正面部のそれと同じである。
ア 模様及び色彩について
(ア)正面部は三角形と四角形が組み合わされた模様を呈しており、それらの図形は明灰色、暗灰色又は黒色に現され、明灰色と暗灰色で現された図形の中には黒色の横縞模様が施されたものがあり、同横縞模様は略水平状であって太い縞模様と細い縞模様の2通りがある。具体的な模様及び色彩は、以下のとおりである。
(イ)正面部の模様は、左端から中央寄りまでの模様が、中央やや右から右端にかけて繰り返されている。具体的には、正面左下角の暗灰色直角三角形(細い縞模様が施されている)が中央下端に三角形の右半分として現れ、正面右端の左向き三角形(太い縞模様が施されている)が中央左寄りの変形四角形の略左半分として現れている。この変形四角形と中央下端の三角形の間には、下向きの三角形(明灰色で現され太い縞模様が施されている)が挟まるように配されている。
(ウ)左端から中央寄りまでの模様及び色彩
下端には、左から順に、上記直角三角形、細い縞模様が施された明灰色の三角形(右下部が欠けている。以下「細縞三角形」という。)、太い縞模様が施された大きめの明灰色の三角形(以下「太縞三角形」という。)及び縞模様が施されていない明灰色の三角形(以下「縞なし三角形」という。)が並んで配されている。当該直角三角形と細縞三角形の間には黒色の変形四角形が挟まるように配されて、その右上には明灰色の変形四角形の略下半分が配されている。細縞三角形と太縞三角形の間には太い縞模様が施された暗灰色の変形四角形が挟まるように配されている。太縞三角形と縞なし三角形の間には暗灰色の変形四角形が挟まるように配されて、その左上には、細い縞模様が施された暗灰色の下向き三角形(左上部が欠けている)が配されている。当該暗灰色変形四角形の頂部に接するように小さな下向き三角形(黒色)が配されて、縞なし三角形の頂部に接するように明灰色の下向き三角形(細い縞模様が施されている)が配されている。
イ 留め金について
正面左端と右端の最上部、最下部及び中央やや上の位置に、左端と右端を連結させるための留め金が付いている。なお、本件登録意匠の意匠登録出願の願書には、「ショールの左右に留め金(部分拡大図)を設け筒状に形を変えることができ、(使用状態を示す参考図2)スヌードのように使用でき、(使用状態を示す参考図3)のように筒に手を通してボレロ風にもアレンジできる。」と記載されている。
ウ 縦横比について
正面部の縦横比は、略1:5である。

2 イ号意匠
請求人は、イ号意匠の形態を特定するにあたり、判定請求書の添付書類として「イ号意匠及び説明書」(別紙第2参照)を提出した。同書類及び請求人による前記第1の2(3)の説明によれば、イ号意匠の意匠に係る物品は「ストール・ケープ」であり、同書類第2頁の「図2 イ号意匠 商品タグ写真」に現された最下部のタグの上の図によれば使用者の肩と腕を覆うものである。
当審において、審判長が判定請求人に対して、令和1年9月19日付けで「答弁書副本の送付通知」を発して弁駁書の提出を求めるとともに、イ号意匠の形態の認定について以下のとおり通知した。
「判定請求書に添付された「イ号意匠及び説明書」に現されたイ号意匠の色彩と、「甲第2号証」に現されたイ号意匠の色彩は異なっているところ、審判合議体は、「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、・・・との判定を求める。」との請求の趣旨にしたがって、判定請求書の添付書類である「イ号意匠及び説明書」に基づいてイ号意匠の形態(色彩を含む。)を認定します。」
この認定に対して、弁駁書において判定請求人から意見はなかったため、当審では、以上のとおりイ号意匠の形態を認定することとする。
イ号意匠の形態は、判定請求書に添付された「イ号意匠及び説明書」に現されたとおりであって、基本的構成態様として、以下の点が認められる。なお、イ号意匠の各部の名称は、同書類で示された名称に基づく。
(1)基本的構成態様について
全体が、長方形の生地を短手方向に山折りして前後に重ねたものであって、正面から見て、左端及び右端の上側に開口部1が設けられて、下側は閉じられたままであり、下端に開口部2が形成されている。
また、具体的態様として、以下の点が認められる。
(2)正面部の具体的態様について
正面部の具体的態様は、以下のとおりである。なお、「イ号意匠及び説明書」には背面の図がないので、背面部の具体的態様は不明である。
ア 模様及び色彩について
正面部はほぼ無模様であり、全面が濃紺色で現されている。また、子細に観察すると、濃紺色には上下方向に4段の筋が現されている。
イ 商品ダグについて
正面左端の中央やや上に小さな商品タグが取り付けられており、その形態は、黄土色の横長長方形状紙片が2枚重なり合い、その上に、茶色の楕円形紙片が更に重なっている。
ウ 縦横比について
正面部の縦横比は、略1:4.3である。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「カーディガンショール」であり、イ号意匠の意匠に係る物品は「ストール・ケープ」であって、共に使用者の肩と腕を覆うものであるから、本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は共通する。
(2)形態の共通点
両意匠の形態には、基本的構成態様について共通点が認められる。
(共通点1)基本的構成態様
全体が、長方形の生地を短手方向に山折りして前後に重ねたものであって、正面から見て、左端及び右端の上側に開口部1が設けられて、下側は閉じられたままであり、下端に開口部2が形成されている。
他方、両意匠の形態には、具体的態様について、以下の相違点が認められる。
(相違点1)模様及び色彩の相違
本件登録意匠の正面部は三角形と四角形が組み合わされた模様を呈しており、それらの図形は明灰色、暗灰色又は黒色に現され、明灰色と暗灰色で現された図形の中には黒色の横縞模様が施されたものがあり、同横縞模様は略水平状であって太い縞模様と細い縞模様の2通りがある。
これに対して、イ号意匠の正面部はほぼ無模様であり、全面が濃紺色で現されている。
(相違点2)留め金の有無の相違
本件登録意匠の正面左端と右端の最上部、最下部及び中央やや上の位置に、左端と右端を連結させるための留め金が付いているが、イ号意匠に留め金は付いていない。
(相違点3)商品ダグの有無の相違
本件登録意匠には商品タグはないが、イ号意匠には、正面左端の中央やや上に小さな商品タグが取り付けられている。
(相違点4)縦横比について
正面部の縦横比が略1:5であるか(本件登録意匠)、略1:4.3であるか(イ号意匠)で相違する。

4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
(1)カーディガンショールの物品分野の意匠の類否判断
カーディガンショールを使用するに当たり、カーディガンショールの需要者はカーディガンショールを羽織って使用されるものであるから、全体形状にとどまらず、模様や色彩の具体的態様を含む各部の形態に注意を払うこととなる。したがって、カーディガンショールの物品分野の意匠の類否判断においては、各部の形態を詳細に評価し、各評価を総合して意匠全体として形態を評価する。
(2)意匠に係る物品
前記3(1)で認定したとおり、両意匠の意匠に係る物品は共通する。
(3)形態
ア 基本的構成態様の共通点1の評価
本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様の共通点1、すなわち、「全体が、長方形の生地を短手方向に山折りして前後に重ねたものであって、正面から見て、左端及び右端の上側に開口部1が設けられて、下側は閉じられたままであり、下端に開口部2が形成されている」点については、カーディガンショールに関連する物品分野、例えば、使用者の肩と腕を覆う「上掛け衣」や「羽織シャツ」の物品分野において本件登録意匠の出願前に広く知られており(例えば、乙第3号証の1(別紙第3参照)及び乙第3号証の2(別紙第4参照))、両意匠にのみ見られる特徴とはいえず、需要者が特に着目するとはいい難いから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。したがって、共通点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
イ 具体的態様の相違点の評価
これに対して、具体的態様についての評価は、以下のとおりである。
まず、模様及び色彩に係る相違点1、すなわち、本件登録意匠の正面部が三角形と四角形が組み合わされた模様を呈し、それらの図形が明灰色、暗灰色又は黒色に現され、黒色の横縞模様が施されたものもあるのに対して、イ号意匠の正面部がほぼ無模様であり、全面が濃紺色で現されている相違は、需要者が一見して気付く相違であり、カーディガンショールの需要者が模様や色彩の具体的態様を含む各部の形態に注意を払うことを考慮すると、両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすといえる。
請求人が前記第1の2(5)イ(ア)fで述べているとおり、「本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲は、本件登録意匠(甲第1号証)に記載されている全文及び写真により現わされた意匠すべてが権利範囲である」から、本件登録意匠の「正面図」に現された正面部の模様及び色彩は、本件登録意匠の権利範囲を構成しており、イ号意匠がこの権利範囲に属するか否かを判断するに当たっては、本件登録意匠の正面部の模様及び色彩を除くことはできない。
この点に関して請求人は、「【意匠に係る物品の説明】において、模様や色彩について一切言及していない。公報に使われている写真は、商品の形状や使用状態を示す参考図であり模様や色彩を限定したものではない。・・・そもそもショール・マフラー・ストール類は、さまざまな色や柄、素材のものを販売するのが常識である。」(前記第1の3(1))と主張し、また、「意匠法の保護対象は、第一は物品の形状である。」(前記第1の3(2))、「本件登録意匠主要部分の形状と同一の物品が、ただの色違い・柄違い・素材違いというだけで非類似品となるのであれば、すべての登録意匠が色違い・柄違い・素材違いのものを作れば販売できるということになり、それでは、意匠を登録する意味がなくなってしまう。そもそもショール・マフラー・ストール類は、さまざまな色や柄、素材のものを販売するのが常識である。」(前記第1の3(2))とも主張する。
しかしながら、請求人がいうとおり、ショール・マフラー・ストール類には様々な色や柄があることは常識であり、需要者は、自分に最適なものを選定し購入するに当たって、その色や柄に注目することは当然であるから、カーディガンショールの物品分野の意匠の類否判断においては、色や柄を含むカーディガンショールの形態を評価することが重要である。そして、色や柄、すなわち模様と色彩を含めた物品の形態が意匠であり、模様と色彩を特定して意匠登録出願をし、登録されたものが本件登録意匠であるから、本件登録意匠の形態は前記1で認定したとおりであって、模様と色彩を含む形態が本件登録意匠の形態であることは明らかである。したがって、意匠法の保護対象が物品の形状であることを強調し、公報に使われている写真が形状であって模様や色彩を限定したものではないとの請求人の主張を採用することはできない。
次に、留め金の有無の相違に係る相違点2、すなわち、本件登録意匠に左端と右端を連結させるための留め金が付いているがイ号意匠に留め金は付いていない相違は、本件登録意匠の留め金が、前記1(2)イで認定したとおり、スヌードのような使用とボレロ風のアレンジを可能にするものであることを踏まえると、需要者はその留め金に着目するというべきであるから、両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすといえる。
他方、商品ダグの有無の相違は、イ号意匠の商品タグは小さくて目立たないものであるから需要者の注意を惹くものではないので、相違点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また、正面部の縦横比が略1:5であるか(本件登録意匠)、略1:4.3であるか(イ号意匠)の相違も、カーディガンショールやそれに関連する物品分野においては、様々な縦横比の意匠が見受けられるから、需要者はその相違に注目するとはいい難いので、相違点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
ウ 総合判断
以上のとおり、基本的構成態様の共通点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいのに対して、具体的態様の相違点については、相違点1が両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼし、相違点2も両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすから、相違点3及び相違点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいとしても、相違点を総合すると相違点が共通点を凌駕し、需要者に与える両意匠の美感を異にするといわざるを得ない。
(4)小括
したがって、本件登録意匠とイ号意匠は、意匠に係る物品は共通するが、形態については、共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響よりも、相違点が及ぼす影響の方が大きく、意匠全体として見ると、相違点は両意匠を別異なものと印象付けるから、両意匠は類似するとはいえない。


第4 むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2019-11-19 
出願番号 意願2012-27634(D2012-27634) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (B2)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 小林 裕和
小柳 崇
登録日 2013-05-10 
登録番号 意匠登録第1471906号(D1471906) 
代理人 大木下 香織 
代理人 仲村 圭代 
代理人 小野 博喜 
代理人 羽切 正治 

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