ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項容易に創作 取り消して登録 C5 |
---|---|
管理番号 | 1364081 |
審判番号 | 不服2020-430 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-12 |
確定日 | 2020-07-30 |
意匠に係る物品 | タンブラー |
事件の表示 | 意願2018- 25145「タンブラー」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,意匠法第4条第2項の規定(新規性喪失の例外)の適用を受けようとする,平成30年(2018年)11月17日の意匠登録出願であって,令和1年(2019年)7月29日付けの拒絶理由の通知に対し,同年8月31日に意見書が提出されたが,同年12月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,令和2年1月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願意匠 本願の意匠(以下「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「タンブラー」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。 第3 原査定における拒絶の理由及び引用した意匠 原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。 「この種タンブラーにおいて,全体が断熱効果を有する二重構造で,外形状を略有底円筒形状とし,中間部やや下方寄りで大きくくびれて下方に続く,下すぼまり状に形成したものが,本願意匠の出願前に公然知られています【意匠1】。 容器本体部の内底部を,上方に向かって膨らむドーム状に形成したものが,本願意匠の出願前に公然知られています【意匠2】。 本願意匠は,その出願前公然知られた【意匠1】の意匠に基づいて,内底部を【意匠2】の意匠のように,上方に向かって膨らむドーム状に形成したまでのものにすぎませんから,容易に意匠の創作をすることができたものと認められます。 【意匠1】 電気通信回線の種類 インターネット 掲載確認日(公知日) 2011年 7月11日 受入日 特許庁意匠課受入2011年 7月15日 掲載者 コクヨS&T株式会社 表題 タイトルなし 掲載ページのアドレス http://www.thermos.j p/product/tabletop/h ome_images_products/ jcy400_sm_l.jpg に掲載された「タンブラー」の意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HJ23011825号) 【意匠2】 特許庁発行の意匠公報記載 意匠登録第1507855号の意匠(意匠に係る物品:タンブラー)」 第4 審判請求人の主張の概要 (1)本願意匠と意匠1との対比 本願意匠は,下から1/5辺りから下方に行くに従い次第に太くなるようにしたことで,下部の形状が下方に行くに従い半径方向外側に広がるように湾曲したカーブを描いている。末広がりな形状にしたことにより,安定感,持ちやすさ感が増している。更に,下から1/5辺りの一番細くなった部分がタンブラーを手で持つときに小指等を当てる目印の如く印象を与える。意匠1には,このような安定感や持ちやすさ感とか目印効果は無い。 また,意匠1は,高さ方向の下から1/5辺りから4/5辺りまで徐々に太くなったあと,4/5辺りから上端まで逆に徐々に細くなっており,鋭利感が消えて,「柔らかみ」の美観を持たせている。 (2)本願意匠と意匠2との対比 タンブラーの底部内側について,意匠2は,ドーム状に膨らんでいるものの,ドーム部の基部の断面が丸みを帯びているため平面図にドーム部の境界線が現れず,上から覗いたときに,ドーム部の膨らみの存在に殆ど気づかない。これに対し,本願意匠は,ドーム部の基部の断面に角があるため平面図にドーム部の境界線が現れて,上から覗いたときに,複雑な多重円が見えると同時に,ドーム状に膨らんでいることに容易に気づくことができ,形状の面白みを味わうことができる。 (3)このように,本願意匠は,意匠1の意匠の形状の比率を変えただけとか,意匠1に意匠2の意匠を組み合わせただけというのとは,全く異なる美観を呈している。 以上説明したように,本願意匠は,意匠1及び2の意匠に基づき当業者が容易に創作できたものでなく,意匠登録されるべきものである。 第5 当審の判断 1 本願意匠の認定 (1)意匠に係る物品 本願意匠の意匠に係る物品は,「タンブラー」であり,断面図によれば,上端寄りを除く周壁部と底部は,外側面と内側面から成る中空の二重面としたものであることから,断熱効果のある飲み物用のコップと認められる。 (2)形状 全体の概略形状は,(a)高さと上端の直径の比率を約2対1とした縦長の有底円筒形であって,側面視の形状は,上方から下方へ向かって緩やかに側面視凸弧状から凹弧状に反転させて,下方を少し細くしたものである。 そして,(b)外側面の形状を具体的に見れば,上端から全体の約4分の3の高さ位置までを垂直状とし,そこから全体の約5分の2の高さ位置までを凸弧状で縮径し,その下端から凹弧状で縮径して全体の約5分の1の高さ位置で最も細くなり,そこから転じて,拡径して末広がりとしたものであり,(c)底面は,中央に小さい円錐形状の凹部を有する2段の浅い凹部を設けたものである。 また,(d)内側面については,上端寄りの垂直状の僅かな部分は,厚みが薄く,その下端から少しの傾斜状段部を経て,外側面と乖離(かいり)した内側面は,おおむね一定程度離れた状態で外側面に沿うようにして中空部を形成し,(e)内側面の底部は,周囲に僅かに平坦部を残すようにして,中央を緩やかな凸曲面状としたものである。 2 引例した意匠の認定 (1)意匠1について(別紙第2参照) 意匠1は,意匠に係る物品が「タンブラー」であり,意匠1が掲載されたウェブページに記載の製品名によれば,真空断熱タンブラーであることから,外側面と内側面から成る二重面で中空としたコップと認められる。 その全体の概略形状は,(a)高さと上端の直径の比率を約2対1とした縦長の有底円筒形であって,側面視の形状は,上方から下方へ向かって緩やかに側面視凸弧状から凹弧状に反転させて,下方を少し細くしたものである。 そして,(b)外側面の形状を具体的に見れば,上端の僅かな部分が垂直状で,その下端から凸弧状が始まり,拡径して全体の約5分の4の高さ位置で最大径となり,そこから縮径して,全体の約2分の1の高さ位置で凹弧状に反転して,全体の約8分の1の高さ位置まで凹弧状で縮径し,約8分の1の高さ位置から下端までは垂直状としたものである。 また,(c)内側面の上端寄りは,厚みが薄く,その下端に少しの傾斜状段部を設けたものである。 なお,内側面における傾斜状段部より下方の部分及び底面の形状については,不明である。 (2)意匠2について(別紙第3参照) 意匠2は,本願意匠の内側面における底部の形状に対して引用したものであって,意匠に係る物品が「タンブラー」であり,断面図によれば,上端寄りを除く周壁部と底部は,外側面と内側面から成る中空の二重面としたものであることから,断熱効果のある飲み物用のコップと認められる。 そして,その内側面における底部の形状は,周囲に平坦部を残さずに緩やかな凸曲面状としたものである。 3 創作容易性の判断 (1)本願意匠における内側面の底部を除いた部分の形状について 本願意匠における内側面の底部を除いた部分の形状と意匠1の形状とを対比した場合,全体の概略形状が,高さと上端の直径の比率を約2対1とした縦長の有底円筒形であって,側面視の形状は,上方から下方へ向かって緩やかに側面視凸弧状から凹弧状に反転させて,下方を少し細くした点,内側面の上端寄りは,厚みが薄く,その下端に少しの傾斜状段部を設けたものである点において共通するといえるものの,具体的に見れば,以下の点において相違する。 相違点1:外側面における凸弧状の部分と凹弧状の部分の反転する高さ位置について,本願意匠は,全体の約5分の2の所としたものであるのに対して,意匠1は,全体の約2分の1の所としたものである点。 相違点2:外側面の上方(凸弧状から凹弧状に反転する高さ位置から上方の部分)について,本願意匠は,上端から全体の約4分の3の高さ位置までを垂直状とし,そこから全体の約5分の2の高さ位置までを凸弧状で縮径したものであるのに対して,意匠1は,上端の僅かな部分が垂直状で,その下端から凸弧状が始まり,拡径して全体の約5分の4の高さ位置で最大径となり,そこから全体の約2分の1の高さ位置まで凸弧状で縮径したものである点。 相違点3:外側面の下方(凸弧状から凹弧状に反転する高さ位置から下方の部分)について,本願意匠は,当該反転の高さ位置から凹弧状で縮径して全体の約5分の1の高さ位置で最も細くなり,そこから転じて,拡径して末広がりとしたもの,つまり,くびれ部を有しているものであるのに対して,引用意匠は,当該反転の高さ位置から全体の約8分の1の高さ位置まで凹弧状で縮径し,その約8分の1の高さ位置から下端までは垂直状としたもの,つまり,くびれ部を有していないものである点。 相違点4:底面について,本願意匠は,中央に小さい円錐形状の凹部を有する2段の浅い凹部を設けたものであるのに対して,意匠1は,不明である点。 相違点5:内側面における傾斜状の段部の下端から下方の部分について,本願意匠は,中空部により外側面と乖離(かいり)した内側面は,おおむね一定程度離れた状態で外側面に沿うようにして形成したものであるのに対して,意匠1は,不明である点。 そうすると,本願意匠と意匠1とは,特に外側面の具体的な形状が相違しており,タンブラーの意匠として本願意匠における内側面の底部を除いた部分の形状は,意匠1の形状によっては本願の出願前に公然知られたものとはいえないし,ありふれた手法により多少の改変を加えた程度ともいえない。 (2)本願意匠の内側面における底部の形状について 本願意匠の内側面における底部の形状と意匠2の内側面における底部の形状とを対比した場合,緩やかな凸曲面状とした点において共通するといえるものの,本願意匠は,周囲に僅かに平坦部を残すようにして,中央を緩やかな凸曲面状としたものであるのに対して,意匠2は,周囲に平坦部を残さずに緩やかな凸曲面状としたものである点において相違する。 そうすると,意匠2によっては,タンブラーの意匠として,内側面における底部を凸曲面状とすることは,本願の出願前に行われているといえるとしても,本願意匠の,周囲に僅かに平坦部を残すようにして,中央を緩やかな凸曲面状とした形状についてまでは,本願の出願前に公然知られたものとはいえないし,ありふれた手法により多少の改変を加えた程度ともいえない。 (3)小活 以上のとおりであるから,本願意匠は,意匠1の形状を基本にして,その内側面の底部を意匠2の内側面の底部のように凸曲面状としたまでのものとはいえず,当業者が公然知られた形状に基づいて容易に創作することができた意匠とは認められない。 第6 むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当しないので,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審決日 | 2020-07-14 |
出願番号 | 意願2018-25145(D2018-25145) |
審決分類 |
D
1
8・
121-
WY
(C5)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 前畑 さおり |
特許庁審判長 |
木村 恭子 |
特許庁審判官 |
橘 崇生 正田 毅 |
登録日 | 2020-08-05 |
登録番号 | 意匠登録第1666690号(D1666690) |
代理人 | 坪内 康治 |