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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 K1
管理番号 1371760 
審判番号 不服2020-8359
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-16 
確定日 2021-03-09 
意匠に係る物品 給水シャンク 
事件の表示 意願2019- 5819「給水シャンク」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 事案の概要

1 手続の経緯
本願は,平成31年(2019年)3月19日の意匠登録出願であって,令和1年(2019年)年11月7日付けの拒絶理由の通知に対し,同年12月20日に意見書が提出されたが,令和2年(2020年)3月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同年11月20日付けで審尋がなされ,令和3年(2021年)1月13日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

2 本願意匠の願書及び添付図面の記載
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であって,その意匠は,意匠に係る物品を「給水シャンク」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり(以下「本願意匠」という。),部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を,「実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」(以下「本願部分」という。)としたものである(別紙第1参照)。

3 原査定の拒絶の理由及び引用した意匠
原査定の拒絶の理由は,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形態に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には,以下のとおりである。

「本願意匠は,ドリルビットを冷却するのに冷却水を用いて水冷する湿式電動ドリル用の給水シャンクの電動ドリルとの連結端部の部分意匠ですが,この種の電動工具に連結して用いる各種の工具の分野において,その連結部の形状を相手側の連結形状に合わせて適宜の形状に置き換えて形成することが常套的に行われています。
そうすると,本願意匠は,本願出願前に公然知られた引用意匠1にみられる給水シャンクの電動ドリルとの連結端部の形状を,ありふれた形状である雌ねじ付き円筒端部にいわゆるスパナ溝(側面に平面状の切り欠きを2面平行に設けた形状)を形成した形状(例えば,引用意匠2)としたにすぎません。また,本願意匠には,当該連結端部の基部に,当該連結端部と直径をほぼ同じくする薄板状の円盤部材が形成されていますが,この改変は当業者が容易に成し得る程度のありふれたものの範囲内にすぎず,格別の創作性を見出すことはできません。
したがって,本願意匠は,当業者であれば容易に創作することができたものと認められます。

引用意匠1(当審注:別紙第2参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2017-196846
図2に表された先端工具保持部,回転軸支持部及び給水バルブからなる注液機構の意匠

引用意匠2(当審注:別紙第3参照)
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第1574871号の意匠のチャック装着側の端部形状」

第2 当審の判断

本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性について,すなわち,本願意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれば容易に本願意匠の創作をすることができたか否かについて,以下検討し,判断する。
1 本願意匠の認定
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,電動モーターで回転するドリルビットを,冷却水を用いて冷却する湿式電動ドリル用の「給水シャンク」である。

(2)本願部分の用途及び機能
本願部分の用途及び機能については,給水シャンクにおける,湿式電動ドリルとの連結部として用いられる部分であり,電動ドリルのスピンドル部をねじ込んで連結することができる機能を有する部分である。

(3)本願部分の位置,大きさ及び範囲
本願部分の位置,大きさ及び範囲については,略円筒形状である給水シャンク本体部の右側面部中央部分の位置に突設された,その直径が給水シャンク本体部の直径の約1/2の大きさからなる肉厚な略中空円筒形状の部分を,その範囲とするものである。

(4)本願部分の形態
本願部分は,略円筒形状の給水シャンク本体部の右側面部中央部分から突設した連結部の部分であって,本願部分の形態である連結部の形態は,部分全体を肉厚な略中空短円筒形状とし,この連結部分の先端部から約4/5の部分にかけて正面視略長方形状のスパナ溝状切り欠き部を右側面視において左右一対となるように形成し,連結部の給水シャンク本体部との接合部分の形状を僅かに縮径したごく薄い略中空円筒形状とし,連結部中空部分の内側面には雌ねじを形成したものである。

2 原査定の拒絶の理由における引用意匠の認定
原査定における拒絶の理由で引用された,引用意匠1及び引用意匠2の意匠に係る物品及び形態は,概要以下のとおりである。
以下,対比のため,本願意匠の図面における正面,平面等の向きを,引用意匠1及び引用意匠2にもあてはめることとする。
(1)引用意匠1
引用意匠1は,日本国特許庁が平成29年(2017年)11月2日に公開した公開特許公報,特開2017-196846(【発明の名称】注液機構及びこれを用いた穿孔機)に記載された,図2に表された「先端工具保持部,回転軸支持部及び給水バルブからなる注液機構」に係る,先端部にドリル刃を装着し,冷却水を用いてドリル刃を冷却する機能を有する回転軸支持部の意匠である。また,引用意匠1における本願部分に相当する部分の形態は,略円筒形状の給水シャンク本体部の右側面部中央部分から突設した連結部の部分であって,この連結部の形態は,連結部の給水シャンク本体部との接合部分にごく薄い略中空円筒形状の部分を設け,この中空部分に棒状の軸部を嵌入したものである。

(2)引用意匠2
引用意匠2は,日本国特許庁が平成29年(2017年)4月24日に発行した意匠公報,意匠登録第1574871号に記載された「切削工具用スリーブ」の意匠であり,そのチャック装着側の端部形状を原審の拒絶の理由に引用したものであって,該部位の用途及び機能は,該部位を後方から六角レンチで回動させ,その先端にあるOリングを切削工具の後端に密着させる切削工具用スリーブの後端固定具として用いられるものであり,その先端にあるOリングを切削工具の後端に密着させることで,切削油が途中で漏れないようにすることができる機能を有するものであって,その形態は,部分全体を肉厚な略中空短円筒形状とし,この後端固定具の先端部から約4/5の部分にかけて正面視略長方形状のスパナ溝状切り欠き部を右側面視において上下一対となるように形成したものである。

3 本願意匠の創作容易性の判断
まず,引用意匠2の意匠に係る物品は,切削工具を先端部から挿入して保持し,工作機械に固定するための「切削工具用スリーブ」であって,本願意匠の意匠に係る物品である,ドリルビットを,冷却水を用いて冷却するための「給水シャンク」とは全く異なる分野に属するものであり,更に,引用意匠2において本願部分に相当する部分であるチャック装着側の端部形状の用途及び機能も,その先端にあるOリングを切削工具の後端に密着させる切削工具用スリーブの後端固定具として用いられ,その先端にあるOリングを密着させて,切削油が途中で漏れないようにすることができるものであって,本願部分の用途及び機能である,湿式電動ドリルとの連結部として用いられ,電動ドリルのスピンドル部をねじ込んで連結することができるものとは全く異なるものである。
したがって,意匠に係る物品を「切削工具用スリーブ」とする引用意匠2の意匠公報に,部分全体の形態を,肉厚な略中空短円筒形状とし,この後端固定具の先端部から約4/5の部分にかけて正面視略長方形状のスパナ溝状切り欠き部を右側面視において上下一対となるように形成したものが図示されていたとしても,この引用意匠2の「切削工具用スリーブ」の属する分野と,本願意匠の「給水シャンク」の属する分野が全く異なり,引用意匠2における本願部分に相当する部分と本願部分の用途及び機能も全く異なることを考慮すれば,本願意匠の給水シャンクに係る当業者の間で,引用意匠2において本願部分に相当する部分であるチャック装着側の端部形状が,公然知られていたとは認められず,引用意匠2における該部位の形態を,本願意匠が公然知られた形態に基づいて,当業者であれば容易に創作をすることができたか否かの判断を行う際に基準となる,公然知られた形態であるとして拒絶の理由に引用することはできない。
次に,引用意匠1と本願意匠の意匠に係る物品は,その用途及び機能が共通し,類似するものであるから,この引用意匠1は,拒絶の理由に引用できるものであるが,引用意匠1における本願部分に相当する部分の形態は,給水シャンクのドリル取り付け側端部に棒状の軸部を設け,この軸部を電動ドリルのチャック部に嵌入して取り付けるものであって,本願部分の形態である,肉厚な略中空短円筒形状の連結部分の先端部から約4/5の部分にかけて正面視略長方形状のスパナ溝状切り欠き部を左右一対となるように形成し,給水シャンク本体部との接合部分の形状を僅かに縮径したごく薄い略中空円筒形状とし,連結部中空部分の内側面に雌ねじを形成した形態とは全く異なるものである。
さらに,本願部分の形態は,電動ドリルのスピンドル部の回転時に生じる振動を抑制するために,雄ネジが形成された電動ドリルのスピンドル部を,雌ネジを形成した給水シャンクの連結部に螺子入れて,電動ドリルに給水シャンクを確実に固定する工夫が施されたものであり,引用意匠1の形態を僅かに改変するなどをして容易に創作された程度のものではなく,当業者が独自の着想によって,スピンドル部の回転時に生じる振動を抑制するための新たな形態を創出したといえるものであるから,本願部分には,意匠登録を認めるに足りる程度の創作性を肯定することができる。
上記のとおり,本願意匠は,本願意匠の出願前に公然知られた引用意匠1及び引用意匠2を示しても,当業者が公然知られた形態に基づいて,容易に創作をすることができたものであるとはいうことができない。

第3 むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,原審が示した理由によっては意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当しないものであるから,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審決日 2021-02-10 
出願番号 意願2019-5819(D2019-5819) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (K1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奈良 日向子清野 貴雄 
特許庁審判長 木村 恭子
特許庁審判官 江塚 尚弘
渡邉 久美
登録日 2021-03-16 
登録番号 意匠登録第1682524号(D1682524) 
代理人 眞榮城 繁樹 
代理人 安彦 元 

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