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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) F4 |
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管理番号 | 1377866 |
判定請求番号 | 判定2020-600034 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2020-11-02 |
確定日 | 2021-09-27 |
意匠に係る物品 | 飲料容器 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1553721号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | 「イ号意匠の説明書」によって示されたイ号意匠は,登録第1553721号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 平成27年10月29日 意匠登録出願 (意願2015-24108号) 平成28年06月10日 意匠権の設定の登録 (登録第1553721号) 令和 2年11月 2日 本件判定請求(本件判定請求人) 令和 3年 4月 9日 答弁書提出(本件判定被請求人) 令和 3年 6月14日 弁駁書提出(本件判定請求人) 第2 請求の趣旨,理由の概要及び証拠方法 1.請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,イ号意匠及びその説明書に示す意匠は,登録第1553721号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求め,おおむね以下のように主張した。 なお,請求の趣旨でいう「イ号意匠」は,「イ号意匠の説明書」に記載されたイ号意匠を示す図1ないし4で表された意匠を意味すると善解する。 2.請求の理由 (1)判定請求の必要性 請求人は,登録第1553721号意匠(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者であり,本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)はイ号意匠の「飲料容器」を現在使用している者である。 被請求人が現在使用しているイ号意匠の飲料容器は,本件登録意匠の意匠権を侵害する可能性があるので特許庁による判定を求める。 (2)本件登録意匠の手続の経緯 意匠登録出願 平成27年10月29日 登録日 平成28年06月10日 (3)本件登録意匠の説明 (3-1)基本的構成態様 (A1)本件登録意匠は,意匠に係る物品を「飲料容器」としている。 (B1)本件登録意匠は,本体底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状で構成されている。 (C1)本件登録意匠は,本体底面において複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状で構成されている。 (D1)本件登録意匠は,本体底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状となり2者不可分一体的に構成されている。 (3-2)具体的構成態様 (E1)本体底面の隆起した形状のサイズ比は幅:高さ:奥行は,約10:7.9:10である。 (F1)本件登録意匠は,本体底面において複数の連続した「畝(リブ)」を12個有する形状で構成されている。 (G1)本件登録意匠は,本体底面において複数の連続した直線的な「畝(リブ)」を有する形状で構成されている。 (4)イ号意匠の説明 (4-1)基本的構成態様 (A2)イ号意匠は,意匠に係る物品を「飲料容器」としている。 (B2)イ号意匠は,本体底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状で構成されている。 (C2)イ号意匠は,本体底面において複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状で構成されている。 (D2)イ号意匠は,本体底面において中心に向け「放射線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状となり2者不可分一体的に構成されている。 (4-2)具体的構成態様 (E2)イ号意匠は,本体底面の隆起した形状のサイズ比は幅:高さ:奥行は,約10:7.2:10である。 (F2)イ号意匠は,本体底面において複数の連続した「畝(リブ)」を7個有する形状で構成されている。 (G2)イ号意匠は,本体底面において複数の連続した丸みを帯びた「畝(リブ)」を有する形状で構成されている。 (5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 (5-1)本件登録意匠とイ号意匠の共通点 本件登録意匠とイ号意匠は,基本的構成態様(A1)?(D1)と(A2)?(D2)が共通しているほか,具体的構成態様(E1)及び(E2)もほぼ共通となり両意匠とも本体底面において中心に向け横長比で「放物線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状となり2者不可分一体的に構成されている。 よって本件登録意匠とイ号意匠とは上記構成に係る基本的構成態様を共通としている。 (5-2)本件登録意匠とイ号意匠の差異点 本件登録意匠とイ号意匠は,基本的構成態様において差異点はない。 具体的構成態様の差異点は,(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)である。しかし上記の差異点は,公知資料1?7が示すように本体底面において中心に向け隆起した形状で複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状等,「畝(リブ)」の個数や形状について既に公知となった意匠であるため,(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)との差異点は,『ありふれた態様』にすぎず視覚を通じて起こさせる美感への影響は小さい。 (6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由 (6-1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠(先行周辺意匠) 公知資料:1 意匠登録第1340555 公知資料:2 実開昭56-150712 公知資料:3 意匠登録第1508797 公知資料:4 意匠登録第1490231 公知資料:5 意匠登録第1473250 公知資料:6 意匠登録第1494142 公知資料:7 意匠登録第1468218 (6-2)本件登録意匠の要部 上記先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠の基本的構成態様(A1)?(D1)を全て有する公知意匠は存在しない。 また,基本的構成態様(B1)と(C1)は本件登録意匠を構成する要素であり,一般消費者が商品を店頭で手にした状態で,視認できる形状である。 したがって,本件登録意匠の要部は基本的構成態様(A1)?(D1)を兼ね備えた形状,すなわち「本件登録意匠」本体底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状が2者不可分一体的に構成されているということが特徴的な形態要素であり「意匠の要部」であるといえる。 (6-3)本件登録意匠とイ号意匠との類否考察 そこで,両意匠の共通点及び差異点を比較検討するに ア.本件登録意匠とイ号意匠は,本件登録意匠の要部である基本的構成態様(A1)?(D1)と(A2)?(D2)が全て共通している。 また具体的構成態様(E1)及び(E2)もほぼ共通となり,両意匠ともに本体底面において中心に向け横長比で「放物線状に」隆起していることが共通している。 本件登録意匠の要部である飲料容器底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状は本件登録意匠とイ号意匠と重ね合わせると,ほぼ同一となることから両意匠の類似性に極めて大きな影響を与え共通の特徴ある美感が,本件登録意匠とイ号意匠の両者から生じている。 一般消費者にとってイ号意匠が包装で隠れることが無いため,触覚・視覚の両感覚で確認することできるため,本件登録意匠は購買に大きく寄与するものである。 イ.本件登録意匠とイ号意匠の具体的構成態様の差異点は,(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)である。しかし上記の差異点は,公知資料1?7が示すように本体底面において中心に向け隆起した形状で複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状等,「畝(リブ)」の個数や形状について既に公知となった意匠であるため,(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)との差異点は,『ありふれた態様』にすぎず,視覚を通じて起こさせる美観への影響は小さい。 アンケート調査結果が示すように,両意匠に共通する(A1)?(D1)及び(A2)?(D2)の本体底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状が2者不可分一体的に構成されている特徴的な基本的構成態様を全て具備していることについて,全体の81%の一般消費者が『似ている』若しくは『どちらかというと似ている』と回答した。 そして本体底面において中心に向け「放射線状に」隆起した形状について,全体の68%の一般消費者が『似ている』若しくは『どちらかというと似ている』と回答した。 差異点であった(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)について,全体の半数以上の53%の一般消費者が『似ている』若しくは『どちらかというと似ている』と回答。 また,イ号意匠の飲料容器を使用する商品を手にした際,一般消費者が飲料容器底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状について視角・触覚をもって確認できるか調査したところ,全体の100%の一般消費者が『確認できる』と回答した。 以上のことから両意匠に共通する基本的構成態様すなわち本体底面において中心に向け「放物線状に」隆起した形状,かつ複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状が2者不可分一体的に構成されているということが,本件の需要者(本件では飲料品を購入する一般消費者)に対し両意匠の類似性に極めて大きな影響を与えていることがアンケート調査結果を見ても明らかである。 またアンケートを回答した全ての一般消費者がイ号意匠の飲料容器を使用する商品底面の意匠を視覚・触覚をもって確認できたことからも,商品における意匠の寄与率が高いことが明らかである(甲第3号証参照)。 (7)むすび したがってイ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の基本的構成態様の特徴的な形態要素であり『意匠の要部』である(A1)?(D1)と(A2)?(D2)が全て共通しており,具体的構成態様(E1)と(E2)もほぼ共通している。 差異点であった具体的構成態様の(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)であるが,公知資料1?7が示すように本体底面において中心に向け隆起した形状で複数の連続した「畝(リブ)」が中心から「放射状に」有する形状等,「畝(リブ)」の個数や形状について既に公知となった意匠であるため,(F1)と(F2)及び(G1)と(G2)との差異点は,『ありふれた態様』にすぎず視覚を通じて起こさせる美観への影響は小さいといえることから,両意匠は類似の範囲に属するため,請求の趣旨どおりの判定を求める。 3.証拠方法 甲第1号証 意匠公報(意匠登録第1553721号) 甲第2号証 本件登録意匠 構成の【説明図】 甲第3号証 本件登録意匠とイ号意匠を比較し一般消費者へ確認 した街頭アンケート調査結果 第3 被請求人の答弁の趣旨,理由の概要及び証拠方法 1.答弁の趣旨 被請求人は,被請求人イ号意匠説明書(乙1)並びに請求人提出のイ号意匠説明書及び参考品によって示される飲料容器の意匠は,意匠登録第1553721号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求め,おおむね,以下のように主張した。 2.答弁の理由 本答弁の理由では,まず被請求人の考える類否判断を主張した上で,請求人の主張について反論する。 (1)争点の整理 本件登録意匠は,「意匠に係る物品」が飲料容器であるとともに,飲料容器の底面において,外周側の接地部の内側を胴部の内部に向かって椀状に隆起させた「上げ底部」に関する部分意匠である。 かかる本件登録意匠とイ号意匠とを対比した場合,(i)意匠に係る物品,(ii)部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本件登録部分」という。被請求人が,答弁書でいうところの「本件実線部分」のこと。)とイ号のこれに対応する部分(以下「イ号部分」という。被請求人が,答弁書でいうところの「イ号対応部分」のこと。)との用途及び機能,並びに,(iii)本件登録部分及びイ号部分(以下「両部分」という。被請求人が,答弁書でいうところの「両意匠の当該部分」のこと。)の位置大きさ範囲は,共通またはありふれた範囲内のものである,という点は被請求人も否認しない。 (2)本件登録部分の形態 ア.基本的構成態様 (ア)いわゆる「上げ底部」の構成であり,全体を略円錐形状としたものである。 (イ)正面視及び側面視において,外側に向かって緩やかに膨らんでいる。 (ウ)上げ底部の一部をさらに胴部の内部に向かって隆起させることで形成され,平面視及び底面視において中央から放射状に延びる凸条部を有する。 (エ)平面視及び底面視において,星型正12角形状としたものである。 イ.具体的構成態様 (ア)正面視及び側面視において,横幅と高さとの構成比率を約1:1とする。 (イ)正面視及び側面視において,上端側は尖頭アーチ形状である。 (ウ)凸条部は,上方に向かって先細りとなる尖った(とがった)逆V字状であって,平面視及び底面視において,星型正12角形状の中心から星型正12角形状の頂点(山)まで延びる凧形状に形成されたものである。 (エ)凸条部は,周方向に30°ずつ等間隔に12個,隙間なく配置されているので,凸条部と隣接する凸条部との間には,星型正12角形状の中心からその外縁まで12個の谷線が形成されている。 (3)イ号部分の形態 ア.基本的構成態様 (ア)いわゆる「上げ底部」の構成であり,全体を略円錐形状としたものである。 (イ)正面視及び側面視において,外側に向かって緩やかに膨らんでいる。 (ウ)上げ底部の一部をさらに胴部の内部に向かって隆起させることで形成され,平面視及び底面視において中央から放射状に延びる凸条部を有する。 (エ)平面視及び底面視において,半径20.5mmの円形状としたものである。 イ.具体的構成態様 (ア)正面視及び側面視において,横幅と高さとの構成比率を約2:1とする。 (イ)正面視及び側面視において,上端側は放物線アーチ形状である。 (ウ)凸条部は,上方に向かって先細りとなる緩やかな逆U字状であって,平面視及び底面視において,径方向中間部に長円形状に形成されたものである。 (エ)凸条部は,周方向に約50°ずつ等間隔に7個,隙間を空けながら配置されているので,凸条部と隣接する凸条部との間には,平面視及び底面視において,中心角33.5°かつ半径16.7mmの扇形状の平滑斜面部が7個形成されている。 (4)本件登録部分とイ号部分との比較説明 ア.共通点の認定 ア-1.基本的構成態様 (ア)いわゆる「上げ底部」の構成であり,全体を略円錐形状としたものであり,正面視及び側面視において,外側に向かって緩やかに膨らんでいる点。 (イ)上げ底部の一部をさらに胴部の内部に向かって隆起させることで形成され,平面視及び底面視において中央から放射状に延びる凸条部を有する点。 ア-2.具体的構成態様 両意匠には,具体的構成態様において共通点はない。 イ.差異点の認定 イ-1.基本的構成態様 (ア)平面視及び底面視において,本件登録部分は星型正12角形状であるのに対し,イ号部分は円形状である点。 イ-2.具体的構成態様 (イ)正面視及び側面視における横幅と高さとの構成比率が,本件登録部分は約1:1であるのに対し,イ号部分は約2:1である点。 (ウ)正面視及び側面視における形状が,本件登録部分は尖頭アーチ形状であるのに対し,イ号部分は放物線アーチ形状である点。 (エ)凸条部の形状が,本件登録部分は上方に向かって先細りとなる尖った逆V字状であるのに対し,イ号部分は上方に向かって先細りとなる緩やかな逆U字状である点。 (オ)凸条部の形状が,平面視及び底面視において,本件登録部分は,星型正12角形状の中心から星型正12角形状の頂点まで延びる凧形状に形成されたものであるのに対し,イ号部分は,径方向中間部に長円形状に形成されたものである点。 (カ)凸条部と隣接する凸条部との間について,本件登録部分は,凸条部が隙間なく配置されているので,星型正12角形状の中心からその外縁まで延びる谷線が形成されているのに対し,イ号部分は,凸条部が隙間を空けながら配置されているので,扇形状(中心角33.5° 半径16.7mm)の平滑斜面部が7個形成されている点。 (5)類否判断 ア.共通点の評価 ア-1.基本的構成態様 (ア)共通点(ア)は,全体を概括したものであり,下記乙3?乙5に示すように,この種物品においては従来から見られる一般的なものであるから,この共通点が両意匠の類否判断に与える影響は,小さい。 (イ)基本的構成態様に関する共通点(イ)は,「上げ底部」の全域にレリーフとして表れるため,両意匠の類否判断に与える影響は大きくなりやすい部分であるが,放射状の凸条部を形成すること自体は,この種物品においてごく普通に見られるものであるから,この共通点が両意匠の類否判断に与える影響は,小さい。 ア-2.具体的構成態様 両意匠には,具体的構成態様において共通点はない。 イ.差異点の評価 イ-1.基本的構成態様 (ア)両意匠の意匠に係る物品「飲料容器」は,通常,正面視及び側面視において商品選択をするものであるため,底面は,通常目に触れにくい部分であって注目されるものではない。 しかしながら,一般消費者(被請求人がいう「一般需要者」のこと。)が購入する流通過程において,「飲料容器」の胴部にラベルが巻き付けられており,平面視,正面視及び側面視において両意匠の「上げ底部」の形態は,そもそも把握することができない。 そうすると,差異点(ア)の「上げ底部」の底部外縁の形状は,意匠全体に係る差異であるとともに,かつ,前記流通過程でも辛うじて一般消費者が視認できる底面視で把握される差異であるため,この差異点が両意匠の類否判断に与える影響は,大きい。 イ-2.具体的構成態様 (ア)差異点(イ)の「上げ底部」全体の正面視縦横比は,全体のプロポーションを決める要素であり,本件登録部分は約1:1であってスリムな印象を与え,他方,イ号部分は約1:2であって,安定感がある印象を与え,両意匠について異なる印象を少なからず与えるものである。 よって,差異点(イ)の縦横比の比率自体はさほど大きくないものの,この差異点(イ)が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度認められる。 (イ)差異点(ウ)の「上げ底部」の形状のうち,本件登録部分の尖頭アーチ形状は,従来には見られない独特の態様(本件登録意匠の要部)といえるものであるとともに,先端が尖っていることでシャープな印象を与えるのに対して,イ号部分の放物線アーチ形状は,従来から見られるものであり,先端が丸まっていることで柔らかな印象を与えるものである。 よって,差異点(ウ)は本件登録意匠の要部に関するものであるとともに,この差異点(ウ)によって両意匠から受ける印象は異なるから,差異点(ウ)が類否判断に及ぼす影響は,大きい。 (ウ)差異点(エ)の凸条部の形状のうち,本件登録部分の尖った逆V字状は,従来には見られない独特の態様(本件登録意匠の要部)といえるものであり,先端が尖っていることでシャープな印象を与えるのに対して,イ号部分の緩やかな逆U字状は,従来から見られるものであり,先端が丸まっていることで柔らかな印象を与えるものである。 よって,差異点(エ)は本件登録意匠の要部に関するものであるとともに,この差異点(エ)によって両意匠から受ける印象は異なるから,差異点(エ)が類否判断に及ぼす影響は,大きい。 (エ)差異点(オ)の凸条部の形状のうち,本件登録部分の星型正12角形状の中心から星型正12角形状の頂点まで延びる凧形状は,従来には見られない独特の態様(本件登録意匠の要部)といえるものであり,角張っていることでシャープな印象を与えるのに対して,イ号部分の径方向中間部に形成された長円形状は,従来から見られるものであり,上端及び下端が丸まっていることで柔らかな印象を与えるものである。 よって,差異点(オ)は本件登録意匠の要部に関するものであるとともに,この差異点(オ)によって両意匠から受ける印象は異なるから,差異点(オ)が類否判断に及ぼす影響は,大きい。 (オ)差異点(カ)の凸条部と隣接する凸条部との間に設けられる形状に関し,本件登録部分の谷線は,従来には見られない独特の態様(本件登録意匠の要部)といえるものであり,凸条部の稜線と前記谷線とが交互に配置されることで,周方向に沿って三角波状にギザギザしてシャープな印象を与える。 これに対して,イ号部分の平滑斜面部は,従来から見られるものであり,「上げ底部」の略円錐形状という輪郭に沿ってなだらかに傾斜していることで柔らかな印象を当てるものである。 また,イ号部分の平滑斜面部は,平面視及び底面視において,全体の43%を占める領域であるため,全体に占める割合が大きく,他方,本件登録部分において「上げ底部」の略円錐形状という輪郭に沿っている箇所は谷線だけであり,面積としてはゼロである。 よって,差異点(カ)は本件登録意匠の要部に関するものであるとともに,この差異点(カ)によって両意匠から受ける印象は異なり,かつ,全体に占める面積の差が大きいことから,差異点(カ)が類否判断に及ぼす影響は,大きい。 ウ.小括 両意匠について意匠全体として総合的に観察した場合,上述した当該部分の形態における共通点及び差異点の評価に基づけば,共通点(ア)及び(イ)は,いずれも両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものではなく,一方,差異点(ア)ないし(カ)は,需要者に異なる美感を起こさせるものといえる。 したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,当該部分の用途及び機能については共通し,当該部分の位置,大きさ及び範囲についてはありふれた範囲内であるものの,その当該部分の形態において,需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,イ号意匠は,本件登録意匠に類似しないものと認められる。 (6)請求人の主張に対する反論 請求人の主張は,少なくとも以下の5つの点のみを考えても失当である。 ア.本件登録意匠は放物線状でないこと 第1に,本件登録意匠は,頂点において屈曲する尖頭アーチ形状であり,放物線状ではない。 よって,本体底面において中心に向けて隆起した形状に関しては,その形状が要部か否かにかかわらず,本件登録意匠とイ号意匠との共通点ではないため,むしろ差異点として強い影響があることを請求人自ら認めるようなものである。 イ.「リブ」が「放射状」な形状はありふれていること 第2に,本体底面において複数の連続した「リブ」が中心から「放射状に」有する形状は,従来から見られるものであり,ありふれた形態にすぎない。 よって,複数の連続した「リブ」が中心から「放射状に」有する形状は,本件登録意匠の要部には該当しない。 ウ.構成態様の認定と評価とを混同している点について 第3に,請求人は,基本的構成態様D1として『本体底面において中心に向け「放射線状に」隆起した形状かつ複数の連続した「リブ」が中心から「放射状に」有する形状となり2者不可分一体的に構成されている』と認定しているが,構成態様の認定は純粋に「もののすがた・かたち」として行うものであって,”2つの構成を「2者不可分一体的」に感じるかどうか”という評価を構成態様の認定に混在させることは,意匠の類比判断の手法を理解していないといわざるを得ない。 また,そもそも意匠とは,形状・模様・色彩の調和によって感得される美感に関するものであるため,同一物品の同一の箇所に施された2つの形状であれば,その2つの形状が協働して織りなすハーモニーこそが意匠なのだから,2つの形状が一体不可分に評価されるのは単なる前提であって,一体不可分こそが創作の特徴(要部)などと,殊更強調する筋合いのものではない。 エ.構成態様の認定が不当であること 第4に,請求人は,結局のところ両意匠を類似と強弁するために,恣意的に意匠の構成態様を敢えて曖昧に認定している。そのため,請求人の意匠の構成態様の認定,及び,共通点及び差異点の評価に従えば,本件登録意匠は,引例意匠(意匠登録第1340555号 乙3)と類似し,新規性を有さないこととなる。 すなわち,本件登録意匠と引例意匠との共通点及び差異点は,判定請求書に記載された本件登録意匠とイ号意匠との共通点及び差異点よりも共通点の方が1つ多い。また,判定請求書(7頁)の主張によるならば,当該共通点は意匠の要部に係るものであり美感への影響が大きく,当該差異点はありふれた形態にすぎず美感への影響が小さい,ということになるので,本件登録意匠と引例意匠とは類似するというのが論理的帰結である。 よって,請求人が主張する意匠の構成態様の認定並びに共通点及び差異点の評価は,自らの本件登録意匠の無効理由を自認するに等しいものであるため,明らかに不当である。 したがって,請求人の主張する類否判断は,誤った意匠の構成態様の認定,並びに,誤った共通点及び差異点の評価に基づくものであるため,妥当なものではない。 オ.触覚に関し 請求人は,意匠を「触覚・視覚の両感覚で確認する」と主張する。 しかしながら,「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状,模様若しくは色彩若しくはこれらの結合…であつて,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。(意匠法第2条第1項)」とされており,触覚にて確認するものではない。 よって,請求人の主張は,誤りである。 (7)街頭アンケートについて 請求人が示す街頭アンケート(甲3)は,不公平で無意味なものである。 (8)まとめ 以上説明したとおり,請求人の主張はいずれも妥当ではなく,被請求人が説明したとおり,イ号意匠は,本件登録意匠に類似しないものである。 したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を速やかに求める。 3.証拠方法 乙1:被請求人イ号意匠説明書(写し) 乙2:本件登録意匠の補足説明書(写し) 乙3:意匠登録第1340555号公報(写し) 乙4:意匠登録第1316422号公報(写し) 乙5:意匠登録第1359225号公報(写し) 乙6:意匠登録第1270127号公報(写し) 乙7:意匠登録第1350912号公報(写し) 乙8:意匠登録第1466592号公報(写し) 第4 請求人の弁駁 請求人は,令和3年6月14日に提出した「判定請求答弁書に対する弁駁書」において,被請求人の答弁に沿って弁駁しているが,その主張内容の内,本件登録意匠の認定,イ号意匠の認定,両意匠の対比,及び類否判断については,おおむね上記第2の「2.請求の理由」の主張と重複するものであり,新たな主張内容をまとめると,主に以下のとおりである。 ア.上記第3の,2.(2)イ.(イ)の認定に対する反論 本件登録部分は,「正面視及び側面視において,上端側は尖頭アーチ形状である。」という被請求人の主張に対して, 「本件登録意匠は放物線状に隆起し,上端に向け曲線が強くなっており,むしろ『放物線アーチ形状』である。 甲第1号証及び答弁書6ページの乙2の底面図にある様に,中心は畝(リブ)が密接するので黒く塗りつぶされており,放物線状に隆起した本件登録意匠底面の頂点は,『面状』となっていることが明らかである。 もし被請求人の述べる『尖頭アーチ形状』であれば頂点は『点』となる筈である。 以上のことからも本件登録意匠の形態は『尖頭アーチ形状』ではなく『放物線アーチ形状』である。」(弁駁書6ページ下から6行?7ページ6行。その他。) イ.上記第3の,2.(3)ア.(エ)の認定に対する反論 イ号部分は,「平面視及び底面視において半径20.5mmの円形状としたものである。」という被請求人の主張に対して, 「被請求人の述べる半径20.5mm(直径41mm)の寸法に該当する箇所は,本体底面の『放物線状に』隆起していない箇所を過分に含めるものである。 よって,イ号意匠は横幅が32mm,高さが23mmの比率となり,正しい構成比率は1:0.72である。 明らかに放物線状に隆起していない箇所も『イ号対応部分』としているのが明白である。」(弁駁書9ページ13?19行。その他。) 第5 当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は,その願書の記載及び願書に添付した図面の記載の内容によると,以下のとおりである(別紙第1参照)。 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は「飲料容器」である。 (2)本件登録部分の位置,大きさ及び範囲,並びに用途及び機能 本件登録意匠に係る物品のうち,意匠登録を受けようとする部分(以下「本件登録部分」という。)は,飲料容器の底面中央に設けた隆起した部分である。 本件登録部分は,飲料容器の底面中央に位置する,飲料容器の直径を100とした場合,横幅が約60,高さが約51となる大きさ及び範囲であり,飲料容器の底面中央の隆起した部分という用途及び機能を有するものである。 (3)本件登録部分の形状 本件登録部分の基本的構成態様は, (A1)山状に隆起し, (A2)山頂に向けて曲率が強くなってゆく凸曲線を,容器底面の中心を通る鉛直線を回転軸として回転させた回転体の回転面を山肌(隆起した部分の表面のこと。以下同じ。)とし, (A3)その山肌に,平面視で放射状に畝(突条のこと。以下同じ。)を設けた ものである。 本件登録部分の具体的構成態様は, (a1)回転体の形状について, (a1-1)容器の底面の水平面の位置から急激に立ち上がっている。 (a1-2)正面視において回転体の山頂は尖っている。 (a1-3)回転体の立体形状は椎の実のような形状である。 (a2)山肌に沿って設けた畝の形状について, (a2-1)畝は12条ある。 (a2-2)畝は回転体の下端まである。 (a2-3)畝の断面形状は,頂角が鈍角の二等辺三角形である。 (a2-4)畝の高さと幅は,山頂に向かって徐々に小さくなっている。 (a2-5)12条の畝は,隙間なく並んでいる。 (a3)本件登録部分の横幅と高さの構成比率は,約6:5である。 (a4)本件登録部分の水平断面形状は,山頂から麓に至るまで正星形12角形である。 2.イ号意匠 請求人のいう,イ号意匠とは,本件判定請求書に添付された,イ号意匠の説明書に示されたものであって,以下のとおりである(別紙第2参照)。 (1)意匠に係る物品 イ号意匠の意匠に係る物品は「飲料容器」である。 (2)イ号部分の位置,大きさ及び範囲,並びに用途及び機能 イ号意匠中,本件登録部分に相当する部分(以下「イ号部分」といい,本件登録部分と併せて「両部分」ともいう。)は,飲料容器の底面中央に設けた隆起した部分である。 イ号部分は,飲料容器の底面中央に位置する,飲料容器の直径を100とした場合,横幅が約57,高さが約48となる大きさ及び範囲であり,飲料容器の底面中央の隆起した部分という用途及び機能を有するものである。 (3)イ号部分の形状 イ号部分の基本的構成態様は, (B1)山状に隆起し, (B2)山頂に向けて曲率が強くなってゆく凸曲線と裾野の小さな凹曲線を,容器底面の中心を通る鉛直線を回転軸として回転させた回転体の回転面を山肌とし, (B3)その山肌に,平面視で放射状に畝を設けた ものである。 イ号部分の具体的構成態様は, (b1)回転体の形状について, (b1-1)容器の底面の略水平面の位置からなだらかな裾野を介して立ち上がっている。 (b1-2)正面視において回転体の山頂は丸くなっている。 (b1-3)回転体の立体形状はチューリップハットのような形状である。 (b2)山肌に沿って設けた畝の形状について, (b2-1)畝は7条ある。 (b2-2)畝は回転体の裾野には至っていない。 (b2-3)畝の断面形状は,半円形である。 (b2-4)畝の高さと幅は,山頂に向かって,一定である。(ただし,山頂においては,7条の畝が合わさって,畝条ではなくなっている。) (b2-5)7条の畝は,約51度の等間隔で,畝と畝の間には大きな隙間があり,山肌が表れている。 (b3)イ号部分の横幅と高さの構成比率は,約6:5である。 (b4)イ号部分の水平断面形状は,回転体の山頂近傍の部分は,小さな正円形であり,それより下の凸曲線の部分は,正円形の円周上に等間隔に7つの半円形を並べた形状であり,回転体の裾野の凹曲線の部分は,大きな正円形である。 3.本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)意匠に係る物品の対比 本件登録意匠は,願書の記載によると,意匠に係る物品は「飲料容器」であって,請求人が提出した請求書に添付されているイ号意匠の説明書によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「飲料容器」である。 (2)両部分の位置,大きさ及び範囲,並びに用途及び機能の対比 本件登録部分は,飲料容器の底面中央に位置する,飲料容器の直径を100とした場合,横幅が約60,高さが約51となる大きさ及び範囲であるのに対して,イ号部分は,飲料容器の底面中央に位置する,飲料容器の直径を100とした場合,横幅が約57,高さが約48となる大きさ及び範囲である。 そして,本件登録部分は,飲料容器の底面中央の隆起した部分という用途及び機能を有するものであるのに対して,イ号部分は,飲料容器の底面中央の隆起した部分という用途及び機能を有するものである。 (3)両部分の形状の対比 両部分の形状を対比すると,以下に示す主な共通点と相違点が認められる。 ア.共通点 〔共通点1〕山状に隆起している。(A1とB1) 〔共通点2〕山肌に,平面視で放射状に畝を設けたものである。(A3とB3) 〔共通点3〕両部分の横幅と高さの構成比率は,約6:5である。(a3とb3) イ.相違点 〔相違点1〕山肌につき,本件登録部分は,山頂に向けて曲率が強くなってゆく凸曲線を,容器底面の中心を通る鉛直線を回転軸として回転させた回転体の回転面であるのに対して,イ号部分は,山頂に向けて曲率が強くなってゆく凸曲線と裾野の小さな凹曲線を,容器底面の中心を通る鉛直線を回転軸として回転させた回転体の回転面である。(A2とB2) 〔相違点2〕回転体の形状につき,本件登録部分は,容器の底面の水平面の位置から急激に立ち上がっているのに対して,イ号部分は,容器の底面の略水平面の位置からなだらかな裾野を介して立ち上がっている。(a1-1とb1-1) 〔相違点3〕回転体の形状につき,本件登録部分は,正面視において回転体の山頂は尖っているのに対して,イ号部分は,正面視において回転体の山頂は丸くなっている。(a1-2とb1-2) 〔相違点4〕回転体の立体形状につき,本件登録部分は,椎の実のような形状であるのに対して,イ号部分は,チューリップハットのような形状である。(a1-3とb1-3) 〔相違点5〕山肌に沿って設けた畝の形状につき,本件登録部分は,畝は12条であるのに対して,イ号部分は,畝は7条である。(a2の1とb2-1) 〔相違点6〕山肌に沿って設けた畝の形状につき,本件登録部分は,畝は回転体の下端まであるのに対して,イ号部分は,畝は回転体の裾野には至っていない。(a2-2とb2-2) 〔相違点7〕山肌に沿って設けた畝の形状につき,本件登録部分は,畝の断面形状は,頂角が鈍角の二等辺三角形であるのに対して,イ号部分は,畝の断面形状は,半円形である。(a2-3とb2-3) 〔相違点8〕山肌に沿って設けた畝の形状につき,本件登録部分は,畝の高さと幅は,山頂に向かって徐々に小さくなっているのに対して,イ号部分は,畝の高さと幅は,山頂に向かって,一定である。(ただし,山頂においては,7条の畝が合わさって,畝状ではなくなっている。)(a2-4とb2-4) 〔相違点9〕山肌に沿って設けた畝の形状につき,本件登録部分は,12条の畝は,隙間なく並んでいるのに対して,イ号部分は,7条の畝は,平面視で約51度の等間隔で,畝と畝の間には大きな隙間があり,山肌が表れている。(a2-5とb2-5) 〔相違点10〕部分の水平断面形状につき,本件登録部分は,山頂から麓に至るまで正星型12角形であるのに対して,イ号部分は,回転体の山頂近傍の部分は,小さな正円形であり,それより下の凸曲線の部分は,正円形の円周上に等間隔に7つの半円形を並べた形状であり,回転体の裾野の凹曲線の部分は,大きな正円形である。(a4とb4) 4.類否判断 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠が類似するか否かについて,検討する。 (1)両意匠の意匠に係る物品 上記「3.(1)」で述べたとおり,両意匠の,意匠に係る物品は,共に「飲料容器」であって,一致している。 (2)両部分の位置,大きさ及び範囲,並びに用途及び機能の評価 本件登録部分は,飲料容器の底面中央に位置する,飲料容器の直径を100とした場合,横幅が約60,高さが約51となる大きさ及び範囲であるのに対して,イ号部分は,飲料容器の底面中央に位置する,飲料容器の直径を100とした場合,横幅が約57,高さが約48となる大きさ及び範囲であるから,本願部分と引用部分の位置は一致し,本願部分と引用部分の大きさ及び範囲に別異感が起こる程の差異はなく,共通しているといえる。 本件登録部分もイ号部分も共に,飲料容器の底面中央の隆起した部分という用途及び機能を有するものであるから一致している。 (3)両部分における形状の評価 ア.共通点について (ア)共通点1及び2については,この物品分野においては極ありふれた形状であって,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 (イ)共通点3については,両部分に対して僅かに共通感を醸し出しているが,具体的には相違点1及び2の相違があるため,両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 イ.相違点について (ア)相違点1ないし4によって,両部分の山肌の形状に別異感を生みだし,両部分の形状の類否判断に与える影響は大きい。 (イ)相違点5及び9によって,本件登録部分は表面全てが畝であるのに対して,イ号部分は畝が部分的であり,山肌が多く見えるので,需要者に異なる印象を与えるため,両部分の形状の類否判断に与える影響は大きい。 (ウ)相違点7ないし9の結果,相違点10が生じるが,これらの相違によって,需要者は両部分の形状が異なると認識するため,両部分の形状の類否判断に与える影響は大きい。 (4)小括 そうすると,両部分の形状については,その共通点及び相違点の評価に基づくと,上記のとおり,共通点は,類否判断に及ぼす影響は小さいのに対して,相違点によって類否判断に及ぼす影響は大きいものであり,両部分の形状は,類似するとは認められない。 (5)両意匠における類否判断 以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,両部分の位置が一致し,両部分の大きさ及び範囲が共通し,両部分の用途及び機能が一致しているが,両部分の形状は,類似するとは認められないものである。 よって,本願意匠と引用意匠とは類似するとはいえない。 5.アンケートについて 請求人は,請求人が行ったというアンケート(甲第3号証)を提出すると共に,それによる主張を判定請求書及び判定請求答弁書に対する弁駁書において説明している。 意匠法24条2項では,「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されているが,ここでいう「需要者」は,一般的又は抽象的な概念としての需要者を意味すると解され,具体的な個々の自然人を意味するとはいえないから,アンケートに回答した特定の個人が,両意匠が類似すると判断したとしても,当審の判断を覆す理由にはならない。 したがって,アンケートを根拠とする請求人の主張は採用できない。 6.請求人の主張について 判定請求書及び判定請求答弁書に対する弁駁書における請求人の主張の内,本件登録意匠の認定,イ号意匠の認定,両意匠の対比,及び類否判断については,上記1.ないし5.のとおりであるが,上記第4の新たな主張内容について検討する。 (1)請求人の主張 ア.本件登録意匠は放物線状に隆起し,上端に向け曲線が強くなっており,むしろ『放物線アーチ形状』である。 甲第1号証及び答弁書6ページの乙2の底面図にある様に,中心は畝(リブ)が密接するので黒く塗りつぶされており,放物線状に隆起した本件登録意匠底面の頂点は,『面状』となっていることが明らかである。 もし被請求人の述べる『尖頭アーチ形状』であれば頂点は『点』となる筈である。 以上のことからも本件登録意匠の形態は『尖頭アーチ形状』ではなく『放物線アーチ形状』である。(弁駁書6ページ下から2行?7ページ6行。その他。) イ.被請求人の述べる半径20.5mm(直径41mm)の寸法に該当する箇所は,本体底面の『放物線状に』隆起していない箇所を過分に含めるものである。 よって,イ号意匠は横幅が32mm,高さが23mmの比率となり,正しい構成比率は1:0.72である。 明らかに放物線状に隆起していない箇所も『イ号対応部分』としているのが明白である。(弁駁書9ページ13?19行。その他。) (2)請求人の主張に対して ア.上記(1)ア.の主張について 本件登録意匠を表した図面(願書に添付した図面)は,意匠法施行規則第3条に定められている様式第6備考8(平成11年12月通産令132号による改正前のもの。)の規定にのっとって正投影図法により記載された図面であるが,視覚によって形状を伝達するために,形状を表す形状線は見えるものでなければならない。よって,図面において形状線は,面積のあるもの(太さのある線)で表さざるをえない。 そうすると,実際の立体では点となる尖頭アーチ形状の平面視であったとしても,太さのある線で記載する図面において表した場合は,多くの(本件登録意匠においては,24本。)形状線が平面図の中心にて交わってしまい,密接して黒く塗りつぶされた状態で表れるものである。 請求人は,密接して黒く塗りつぶされた状態が表れていることから,本件登録部分の形状は,正面視及び側面視において頂点が尖っていないと主張しているが,上記のとおり,本件登録意匠の平面図において,黒く塗りつぶされたように視認されるのは,形状線が集中しているためであり,頂点が丸くなる形状を示しているとはいえない。 そして,本件登録意匠を表した図面中,正面図を見ると,本件登録部分の形状は,頂点において尖っている。 よって,この点についての請求人の主張は採用することはできない。 また,本件登録部分の形状は,上記1.(3)のとおりである。 イ.上記(1)イ.の主張について 本件登録部分は,本件登録意匠における飲料容器の底面中央の隆起した部分の全部,すなわち隆起した部分の下端から上端までの範囲の部分であるから,その本件登録部分に相当する部分としたイ号部分は,イ号意匠における飲料容器の底面中央の隆起した部分の下端から上端までの範囲の部分である。 そして,その位置,大きさ及び範囲,並びにその形状は,上記2.(2)及び(3)のとおりであり,イ号部分について,放物線状に隆起していない箇所を含めるべきでない旨の請求人の主張は採用できない。 7.結び 以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2021-09-15 |
出願番号 | 意願2015-24108(D2015-24108) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(F4)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 奈良田 新一 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
橘 崇生 正田 毅 |
登録日 | 2016-06-10 |
登録番号 | 意匠登録第1553721号(D1553721) |
代理人 | 特許業務法人創成国際特許事務所 |