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審決分類 審判    D3
管理番号 1381706 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-04-26 
確定日 2021-12-13 
意匠に係る物品 壁じか付け灯 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1680738号「壁じか付け灯」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1680738号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件登録意匠、すなわち、本件意匠登録第1680738号の意匠(意匠公報を別紙第1に示す。)は、令和2年(2020年)8月11日に意匠登録出願(意願2020−18806。以下「本願」という。)されたものであって、審査を経て令和3年(2021年)2月19日に意匠権の設定の登録がなされ、同年3月8日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 令和 3年 4月26日差出
・審判事件答弁書提出 令和 3年 7月14日差出
(当審注:被請求人は判定請求答弁書を提出したが、これは審判事件答
弁書の誤記と認められる。)
・当審による書面審理通知 令和 3年 9月22日付け
・当審による審理終結通知 令和 3年10月13日付け


第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、請求の趣旨を
「登録第1680738号意匠の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を、おおむね以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、後記4に掲げる甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。

1 意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証に記載の意匠と類似するもりであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

2 本件意匠登録を無効とする理由
(1)本件登録意匠の説明
本件意匠は物品「壁じか付け灯」に係る意匠である。側壁にビス留めする円盤状板の中央に短い丸棒を立設し、別の長い丸棒を、その中央部を短い丸棒先端に接続した状態で短い丸棒に直角方向に取付け、長い丸棒の一端の延長方向に電球と思われる灯を取り付けるための短い外形円柱状のソケットを取り付けた意匠である。
(2)甲第1号証の意匠の説明
甲第1号証は、Amazonによりインターネットに掲載された「ブラケットライト」の広告画面である。「ブラケット」とは、壁面に取り付けるタイプの証明器具のことである。
甲第1号証の1/7ページには「LED電球専用真鍮ブラケットライトウォールライト壁掛け」と表示され、その横にそのブラケットの写真が掲載されている。
「ブラケットライトウォールライト壁掛け」と書かれており、無効請求対象である意匠登録第1680738号の物品「壁じか付け灯」と物品が同一である。
1/7ページに掲載されているブラケッ卜の外観は、図面で描かれた意匠登録第1680738号の意匠と類似である。
3/7ページには、この広告の「商品の情報」が掲載されており、その中の「登録情報」には、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2020/7/6」との記載がある。
即ち、1/7ページに掲載された「ブラケット」は「2020年7月6日」にAmazonで発売開始されたことを意味している。
この「2020年7月6日」は、意匠登録第1680738号の出願日「2020年8月11日」より前であり、その出願日より前に既に公知になっていたことになる。
(3)甲第2号証、甲第3号証の意匠の説明
甲第2号証は「楽天」によりインターネットに掲載された19頁からなる「ブラケットライト」の広告画面である。
その1/19ページの最上部に「ブラケットライト真鍮レトンブラケット」と記載され、同じ頁の下部には「ブラケットライト「レトンブラケット・ロング」と記載されていることから、「ブラケット」の広告であり、意匠登録第1680738号の物品と同じ物品の広告であることが分かる。
2/19ページ、3/19ページには、この広告物品の写真が掲載ざれている。この写真の意匠は意匠登録第1680738号の意匠に類似する意匠である。
この広告の16/19ページを見ると、右下部に下記のように書かれている。
「すべてのレビューを見る(37件)
このショップのレビューを見る」
この部分をクリックすると、この広告物品の購入者がこの物品について寄せたレビューが表示される。
クリックして表れたレビュー画面のコピーが甲第3号証である。
レビュー件数が37件と多いため1、15件ずつに3分割して表示される。甲第3号証は、その3分割目の画面のコピーである。
最上部に「ブラケットライト真鍮レトンブラケット」と書かれ、その少し下に「Rakuten みんなのレビュー」と書かれていることから、前記甲第2号証の広告商品についてのレビューであることが分かる。画面中央左寄りには、甲第3号証の広告に掲載されていたものと同じ商品の写真も掲載されている。
このページの下部から次ページにかけて7件のレビューが掲載されている。各レビューの右端には、このレビューが楽天に投稿された日付が表示されている。
下記は7件の中の5件のレビューに書かれている日付である。
2020−08−04
2020−08−03
2020−07−20
2020−07−16
2020−07−15
これらの日付は、意匠登録第1680738号の出願日「2020年8月11日」より前である。
即ち、これらのレビューの投稿者は、この商品の広告を見て購入し、レビューを意匠登録第1680738号の出願日「2020年8月11日」より前に楽天に投稿していたということである。
このことは、意匠登録第1680738号の物品の意匠に類似する甲第2号証、甲第3号証にある写真の意匠が、意匠登録第1680738号の出願日より前に公知になっていたことを意味する。

3 むすび
前記2の「(2)甲第1号証の意匠の説明」、「(3)甲第2号証、甲第3号証の意匠の説明」に記載した通り、意匠登録第1680738号は出願前に公知になっていた意匠出願であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであったため、同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

4 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第3号証(全て写しである。)を、審判請求書の添付書類として提出した。
甲第1号証 Amazonによりインターネットに掲載された
「ブラケットライト」の広告画面
甲第2号証 「楽天」によりインターネットに掲載された
「ブラケットライト」の広告画面
甲第3号証 「楽天」によりインターネットに掲載された
「ブラケットライト」のレビュー画面


第3 被請求人の答弁及び理由
被請求人は、審判事件答弁書を提出し、答弁の趣旨を
「本件審判の請求は成り立たない、
審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を、おおむね以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、後記2に掲げる乙第1号証ないし乙第3号証(当審注:請求人は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出したが、これらは乙第1号証ないし乙第3号証の誤記と認められる。)を提出した。

1 答弁の理由
(1)請求人が意匠法第48条第1項第1号を根拠とする無効請求に対して、異議を申し立て、意匠登録第1680738号を無効とする、審判番号無効2021−880005に対して答弁する。
(2)Amazonでの発売日2020年7月6日、Rakutenみんなのレビューに書かれているという日付、
2020−08−04
2020−08−03
2020−07−20など、
は、被請求人の意匠登録出願日2020年8月11日より、前である。
しかしながら、被請求人は、意匠登録出願日は2020年8月11日であるが、それより以前から、本件登録意匠の「壁じか付け灯」を販売しており、それは請求人の指摘する日付より前である。
ア 乙第1号証の意匠の説明
乙第1号証は、被請求人のオンラインショップに掲載された、「ブラケットライト」の販売画面であります。「ブラケットライト」は意匠登録番号1680738号の「壁じか付け灯」と物品が同一である。
この2/3ページに掲載されたブラケットの外観が意匠登録番号1680738号と同一であり、3/3ページ目に記載されているショップの評価日付を見ると、購入者の評価日が、
2020−05−18
2020−05−17
2020−05−14
となっている。
Amazonでの発売日2020年7月6日、Rakutenみんなのレビューに書かれているという日付、
2020−08−04
2020−08−03
2020−07−20など、
より前に被請求人より発売、公知されているものである。
イ 乙第2号証の意匠の説明
乙第2号証は被請求人の「壁じか付け灯」であるブラケットライトを購入した顧客によるインターネットに公開されたブログである。公開された日付は1/16ページに記載されているように、2020−04−25となっている。
3/16ページ目、および4/16ページ目に掲載されている写真は、被請求人が取得した意匠登録第1680738号の「壁じか付け灯」である、ブラケットライトであることがわかる。
このブログが公開されたのは2020−04−25であり、Amazonでの発売日2020年7月6日、Rakutenみんなのレビューに書かれているという日付、
2020−08−04
2020−08−03
2020−07−20など、
より前に被請求人より発売、公知されているものであることがわかる。
ウ 乙第3号証の意匠の説明
乙第3号証は被請求人の代表者西本卓也のSNSであるinstagramに公開した、被請求人の「壁じか付け灯」であるブラケットライトの画像になる。
公開した日付が2020−04−30であり、Amazonでの発売日2020年7月6日、Rakutenみんなのレビューに書かれているという日付、
2020−08−04
2020−08−03
2020−07−20など、
より前に被請求人より発売、公知されているものであります。

2 被請求人が提出した証拠
被請求人は、以下の乙号証(全て写しである。)を、審判事件答弁書の添付書類として提出した。
乙第1号証 被請求人のオンラインショップに掲載された、
「ブラケットライト」の販売画面
乙第2号証 被請求人の「壁じか付け灯」であるブラケットライト
を購入した顧客によるインターネットに公開された
ブログ
乙第3号証 被請求人の代表者西本卓也のSNSであるinsta
gramに公開した、被請求人の「壁じか付け灯」
であるブラケットライトの画像


第4 書面審理及び審理終結
当審は、本件審判について、両当事者の申出に応じて、令和3年9月22日付けで書面審理に付する旨の通知を両当事者に通知し、同年10月13日付けで審理を終結する旨を通知した。


第5 当審の判断
1 本件登録意匠
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠公報(別紙第1参照)によれば、本件登録意匠の意匠に係る物品は「壁じか付け灯」であり、壁に設置される電灯であって、「正面図」の下端に電球を取り付けるものである。この電球は破線で表されているため、本件登録意匠を構成しない。すなわち、本件登録意匠は破線で表された電球を除いて意匠登録を受けようとするものであり、以下、電球を除いて本件登録意匠を認定する。
(2)本件登録意匠の形態
本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)は、以下のとおりである。なお、正面方向を前方、背面方向を後方ともいい、前方の端を前端、後方の端を後端といい、前方の面を前面、後方の面を後面という。
ア 全体の構成
正面から見て、垂直に配された丸棒(以下「垂直丸棒」という。)の下端に略円筒形状のソケット部を設け、丸棒の中央やや上の後面に、後方に水平に伸びる丸棒(以下「水平丸棒」という。)を取り付け、水平丸棒の後端部に薄い円板を、円板が垂直になるように接合したものである。その接合位置は円板の中心である。
イ 正面から見た構成比
ソケット部の長さは垂直丸棒の長さの約1/5.4であり、ソケット部の幅は円板の直径の約1/3.7である。また、円板の直径は、垂直丸棒の長さの約1/2.7である。
ウ 側面から見た構成
側面の全幅(=本件登録意匠の奥行きの長さ)は、円板の直径とほぼ同じである。垂直丸棒と水平丸棒は、太さがほぼ同じである。
エ 円板の形状
円板の厚みは垂直丸棒の太さの約半分である。正面及び背面から見た円板の中心の左右には、半径を2等分する位置に、小円形の取付け孔が設けられている。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は、次の2つである。
(1)無効理由1
本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において公然知られた意匠となった、甲第1号証(別紙第2参照)第1頁に記載された意匠、すなわち、2020年7月6日にAmazonで発売開始された「ブラケット」の意匠に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。
(2)無効理由2
本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において公然知られた意匠となった、甲第2号証(別紙第3参照)第2頁及び第3頁に記載された意匠、すなわち、「楽天」によりインターネットに掲載され、レビュー(甲第3号証。別紙第4参照。)により出願前に公知になったと認められる「ブラケットライト」の意匠に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。

3 無効理由1の判断
甲第1号証の意匠(当審注:以下「甲1意匠」という。)について検討する。なお、請求人が、甲第1号証第1頁のブラック(黒色)の意匠を主に説明しているので、黒色の意匠を認定の対象とする。
甲1意匠(別紙第2参照)は、Amazonによりインターネットに掲載された「ブラケットライト」の意匠であり、請求人は、「3/7ページには、この広告の「商品の情報」が掲載されており、その中の「登録情報」には、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2020/7/6」との記載がある。即ち、1/7ページに掲載された「ブラケット」は「2020年7月6日」にAmazonで発売開始されたことを意味している。この「2020年7月6日」は、意匠登録第1680738号の出願日「2020年8月11日」より前であり、その出願日より前に既に公知になっていたことになる。」と主張する。
しかし、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2020/7/6」の記載が、甲1意匠を掲載したWebサイトが2020年7月6日に公開されていたことを必ずしも保証するものではなく、また、2020年7月6日以降に甲1意匠を実際に購入した、使用したなどの第3者による証明(レビュー記事など)もないので、請求人の主張及び立証の限りでは、甲1意匠が本願の出願前に公然知られた意匠であると認めることはできない。
そうすると、甲1意匠は意匠法第3条第1項第1号公然知られた意匠ではなく、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないから同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものではなく、本件登録意匠の登録は同法第48条第1項第1号に該当しないので、同項柱書の規定によって無効とすることはできない。
したがって、請求人が主張する無効理由1については、理由がない。

4 無効理由2の判断
本件登録意匠が、甲第2号証の意匠(当審注:以下「甲2意匠」という。)と類似する意匠であるか否かについて検討する。なお、甲1意匠と同様に、黒色の意匠を認定の対象とする。
(1)甲2意匠(別紙第3参照)
ア 甲2意匠の公知性について
甲2意匠は、「楽天」によりインターネットに掲載された「ブラケットライト」の意匠であり、「楽天」のレビュー(甲第3号証。別紙第4参照。)によれば、5件のレビュー記事の日付が、以下のとおり本件登録意匠の出願日「2020年8月11日」より前になっており、記事の内容も「ブラケットライト」を購入した事実を示すものである。
2020−08−04
2020−08−03
2020−07−20
2020−07−16
2020−07−15
そうすると、これらのレビューの投稿者が、本件登録意匠の出願日前に、「楽天」によりインターネットに掲載された「ブラケットライト」の意匠(甲2意匠)を見て購入したことは明らかであるから、甲2意匠は、本件登録意匠の出願日前に公然知られた意匠であると認められる。
イ 被請求人の主張について
被請求人は、「意匠登録出願日は2020年8月11日であるが、それより以前から、本件登録意匠の「壁じか付け灯」を販売しており、それは請求人の指摘する日付より前である。」と主張し、乙第1号証ないし乙第3号証の意匠の公開日などが、甲2意匠の上記レビュー記事の日付よりも前であることを示した。
しかし、仮に乙第1号証ないし乙第3号証の意匠が甲2意匠よりも前に公然知られていたとしても、甲2意匠が本件登録意匠の出願日前に公然知られた意匠であるという事実に変わりはないから、被請求人の主張を、甲2意匠の公知性を否定する理由として採用することはできない。
ウ 甲2意匠の意匠に係る物品
甲2意匠の意匠に係る物品は「ブラケットライト」であり、壁に設置される電灯であって、下端に電球を取り付けるものである。
エ 甲2意匠の形態
甲2意匠の形状等は、以下のとおりである。なお、本件登録意匠の向きに合わせて甲2意匠の向きを認定する。
(ア)全体の構成
正面から見て、垂直に配された丸棒(以下「垂直丸棒」という。)の下端に略円筒形状のソケット部を設け、丸棒の中央やや上の後面に、後方に水平に伸びる丸棒(以下「水平丸棒」という。)を取り付け、水平丸棒の後端部に薄い円板を、円板が垂直になるように接合したものである。その接合位置は円板の中心である。
(イ)正面から見た構成比
ソケット部の長さは垂直丸棒の長さの約1/4.3であり、ソケット部の幅は円板の直径の約1/2である。また、円板の直径は、垂直丸棒の長さの約1/3である。
(ウ)側面から見た構成
側面の全幅(=甲2意匠の奥行きの長さ)は、円板の直径とほぼ同じである。垂直丸棒と水平丸棒は、太さがほぼ同じである。
(エ)円板の形状
円板の厚みは垂直丸棒の太さとほぼ同じである。正面に取り付け孔は設けられていない。背面から見た円板の形状は不明である。
(オ)色彩
ソケット部下面を除いて、全体が黒色で表されている。
(2)本件登録意匠と甲2意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「壁じか付け灯」であり、甲2意匠の意匠に係る物品は「ブラケットライト」であり、表記は異なるが、共に壁に設置される電灯であって、下端に電球を取り付けるものであるから、本件登録意匠と甲2意匠(以下「両意匠」ともいう。)の意匠に係る物品は、同一である。
イ 本件登録意匠と甲2意匠の形態
本件登録意匠と甲2意匠の形態には、以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
(共通点1)全体の構成についての共通点
正面から見て、垂直に配された丸棒(以下「垂直丸棒」という。)の下端に略円筒形状のソケット部を設け、丸棒の中央やや上の後面に、後方に水平に伸びる丸棒(以下「水平丸棒」という。)を取り付け、水平丸棒の後端部に薄い円板を、円板が垂直になるように接合したものである。その接合位置は円板の中心である。
(共通点2)正面構成についての共通点
円板の直径が、垂直丸棒の長さの1/2.7〜1/3の範囲内にある。
(共通点3)側面構成についての共通点
側面の全幅は、円板の直径とほぼ同じである。垂直丸棒と水平丸棒は、太さがほぼ同じである。
(イ)相違点
(相違点1)ソケット部に係る構成比についての相違点
本件登録意匠では、ソケット部の長さは垂直丸棒の長さの約1/5.4であり、ソケット部の幅は円板の直径の約1/3.7である。これに対して、甲2意匠では、ソケット部の長さは、垂直丸棒の長さの約1/4.3であり、ソケット部の幅は円板の直径の約1/2である。
(相違点2)円板の形状についての相違点
本件登録意匠では、円板の厚みが垂直丸棒の太さの約半分であって、正面及び背面から見た円板の中心の左右には、半径を2等分する位置に、小円形の取付け孔が設けられている。これに対して、甲2意匠では、円板の厚みは垂直丸棒の太さとほぼ同じであって、正面に取付け孔は設けられておらず、背面から見た円板の形状は不明である。
(相違点3)色彩についての相違点
甲2意匠はほぼ全体が黒色で表されているが、本件登録意匠には色彩は表されていない。
(3)本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
本件登録意匠の意匠に係る物品である「壁じか付け灯」の使用状態においては、壁に取り付けた状態を需要者は観察することとなるから、需要者は背面方向を除く方向から物品の各部を観察し、特に、電球が取り付けられるソケット部の全体における位置やその形状、ソケット部に連なる支持部がどのような構成になっているかに注意を払うこととなる。したがって、「壁じか付け灯」の意匠の類否判断については、このような需要者の視点から、物品の各部の形状を評価することとする。
ア 意匠に係る物品の類否判断
前記(2)アで認定したとおり、本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は同一である。
イ 両意匠の形態の共通点及び相違点の評価
(ア)両意匠の形態の共通点
まず、全体の構成についての共通点1、すなわち、正面から見て、垂直丸棒の下端に略円筒形状のソケット部を設け、丸棒の中央やや上の後面に水平丸棒を取り付け、水平丸棒の後端部に薄い円板を接合した構成は、ソケット部の全体における位置やその形状、及びソケット部に連なる支持部の構成に関わる共通点であるから、需要者は特に注意を払うというべきである。したがって、共通点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に、正面構成についての共通点2と、側面構成についての共通点3は、両意匠の基本的構成態様に係る共通点であり、特に、側面の全幅が円板の直径とほぼ同じである共通点は、ソケット部が壁から離れている程度、すなわち、壁じか付け灯の電球取付け位置が壁から離れている程度が、その壁じか付け灯を支える円板の直径とほぼ同じであるという共通点でもあり、円板の直径は垂直丸棒の長さの1/2.7〜1/3の範囲内にあって共通するから、両意匠は垂直丸棒の長さ、円板の直径、電球取付け位置が壁から離れている程度の構成比が共通している。この構成比の共通点は需要者の視覚を通じて確たる美感を起こさせるから、需要者は共通点2及び共通点3に注目するといえる、したがって、共通点2及び共通点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
(イ)両意匠の形態の相違点
これに対して、本件登録意匠と甲2意匠の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
a ソケット部に係る構成比についての相違点1について
長さが垂直丸棒の長さの約1/5.4であり、幅が円板の直径の約1/3.7である本件登録意匠のソケット部は、それぞれが約1/4.3、約1/2である甲2意匠に比べて、全体に占めるソケット部の面積が小さいことを示している。しかしながら、約1/5.4と約1/4.3の差は僅かであり、約1/3.7と約1/2の差も、共通点を圧して、需要者に別異の美感を起こさせるほどの差であるとはいい難い。したがって、相違点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
b 円板の形状についての相違点2について
円板の厚みが垂直丸棒の太さの約半分であるか(本件登録意匠)、ほぼ同じであるか(甲2意匠)の相違は、需要者の視覚的印象を異にするほどのものではなく、また、本件登録意匠に設けられた円形の取付け孔も小さいから比較的目立たず、その有無の相違が需要者にとって重要であるとはいい難い。そして、「壁じか付け灯」の使用状態においては、壁に取り付けた状態を需要者は観察することとなるから、甲2意匠の背面形状が不明であり、背面にも取付け孔が看取される本件登録意匠と相違する点も、需要者が特に注意を払うことはない。したがって、相違点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(c)色彩についての相違点3について
甲2意匠は黒色で表されてはいるものの、ほぼ全体が単一色で表されていて色分け模様にはなっておらず、黒色もありふれた色彩である。したがって、色彩の有無の相違点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
ウ 両意匠の類否判断
本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が同一であり、形態においても、共通点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対して、相違点は、いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さく、これらがあいまって生じる視覚的効果を考慮しても、共通点が需要者に与える美感を覆して、両意匠を別異のものと印象付けるほどのものとはいえないから、本件登録意匠は、甲2意匠に類似するものと認められる。
(4)小括
そうすると、本件登録意匠は、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠に類似する意匠であるから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、同条同項の規定により意匠登録を受けることができないものであって、同法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
したがって、請求人が主張する無効理由2については、理由がある。


第6 むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、同条同項の規定に違背して登録されたものであるから、その登録は、同法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

























審理終結日 2021-10-13 
結審通知日 2021-10-18 
審決日 2021-11-02 
出願番号 2020018806 
審決分類 D 1 113・ 111- Z (D3)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 渡邉 久美
小林 裕和
登録日 2021-02-19 
登録番号 1680738 
代理人 小川 清 

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