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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 C4
管理番号 1388447 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-11 
確定日 2022-08-16 
意匠に係る物品 マスク 
事件の表示 意願2020− 24853「マスク」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
本願は、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする2020年(令和2年)11月18日に出願された意匠登録出願であって、2020年(令和2年)12月16日に新規性喪失の例外証明書提出書を提出したものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。
2021年(令和3年) 9月 7日付け:拒絶理由の通知
2021年(令和3年)10月18日 :意見書の提出
2021年(令和3年)12月 9日付け:拒絶査定
2022年(令和4年) 3月11日 :審判請求書の提出

第2 本願意匠
本願の意匠(以下、「本願意匠」という。)は、願書及び願書に添付した図面代用写真の記載によれば、意匠に係る物品を「マスク」とし、その形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合」を形状等という。)を、願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとしたものであって、願書の「意匠に係る物品の説明」には、「本物品は、日常生活以外にも、合唱や歌唱、ピアノ等のレッスン等においても使用可能なマスクである。着用者の顔の下半分を覆って着用者の口周りの空間を確保することで飛沫飛散を抑えることができる。また、着用者の口周りの空間を確保することで、着用時の息苦しさや不快感も軽減でき、着用者は、発声・ブレス・会話を容易に行うことができる。さらに、本物品を使用することで着用者の首まわりを温かく保つこともできる。」と記載されているものである。(別紙第1参照)

第3 原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における令和3年(2021年)9月7日付けの拒絶の理由は、本願意匠が、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)としたものであって、具体的には、以下の通りである。

「この意匠登録出願の意匠と下記の引例の意匠を比較すると、引例の意匠は本願意匠の実施物を表すものと推認され、物品及び形態が顕著に共通することから、両意匠は類似するものと認められます。
なお、新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書を提出されていますが、この拒絶理由通知書に記載した引例の意匠は、上記証明書において公開の事実として記載のなかった意匠です。新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるためには、原則として全ての公開の事実について証明する必要があります。
(中略)
〈引例の意匠〉
2020年10月13日に、Twitterにアップロードされた下記のツイートにおいて公開された、マスクの意匠
(書誌的事項)
・著者の氏名
カワイ出版(@editionkawai)
・表題
記載なし
・掲載箇所
下記リンク先の画像
https://pbs.twimg.com/media/EkMsNMgVcAABAfU?format=jpg&name=small
・媒体のタイプ
[online]
・掲載年月日
2020年10月13日
・検索日
2021年9月1日
・情報の情報源
インターネット
・情報のアドレス
https://twitter.com/editionkawai/status/1315944424971530240
(別紙第2参照)」

第4 請求人の主な主張
これに対し、請求人は、審判を請求し、要旨以下のとおり主張した。
1 本願意匠が登録されるべき理由
原査定では、ウェブサイトの公開に基づいてTwitterの公開がなされたという関係にあるものとは認められない、ウェブサイトに記事を投稿すれば、それがTwitterなどその他のソーシャルネットワーキングサービス(以下「SNS」という。)に自動的に転載されるような関係であるとは考えられないとのことである。
しかしながら、特許庁発行の「意匠の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」(令和3年10月)では、公開された意匠が複数存在する場合、該公開された意匠同士が、「先の公開に基づく関係にあるとき」、先に公開された意匠について「証明する書面」の提出を行っていれば、その後に公開された意匠について該提出の省略が認められる、と記載され、原査定が述べるような、ウェブサイトにおける先の公開によってSNSに「自動的」に転載される、といった厳密かつ物理的な一体性が要求されるべきであることの記載は何ら存しない。
一方で、本願意匠については、ウェブサイトで先に公開した上で、同一のものを、Twitterで掲載することは、昨今の広告手法、広告戦略としては極自然かつ一般的であること、また、ウェブサイトとTwitterにおいて公開した主体はいずれも出願人で同一であり、また、公開された意匠がその内容として「同一」であることにも加え、その媒体(写真)も同一であることから、ウェブサイトで先に公開した上で、同一のものを、Twitterで掲載した本願意匠は、公開された意匠同士が「先の公開に基づく関係」に該当し、該Twitterにおける公開について証明書面の提出の省略が認められるべきことは明らかである。
よって、本願意匠は、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠には該当しないことは明らかである。

第5 当審の判断
1 本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の対比
(1)本願意匠
本願意匠は、意匠に係る物品を「マスク」とし、その形状等は、顔の下半分から首下の胸元より上までを覆うことを可能とする柔らかい布状もので構成され、全体を正面視において略舌片形状とし、左右の側辺を縦中央約1/3の長さに渡って垂直とし、縦長略楕円形状の上部に略水平に袋縫い部を設けている。また、縦長略楕円形状の上部の略水平部の両端から下に向かってマスクの縦の長さ約1/3のところまでを略弧形状にして切り欠いて袋縫いしてあり、耳掛け用の紐を通して両方の弧状の外側でそれぞれ紐が結ばれ、正面視で縦長略楕円形状の上部の略水平部の中央付近から下に向かって、縦の長さ約1/3のところまでに縦長略長方形の当て布部を設けたものとしている。

(2)引用意匠
引用意匠は、2020年10月13日に、Twitterのカワイ出版(@editionkawai)の表題【カワイ出版−コーラスマスクのご予約が可能に!】のツイートに写真掲載されて公然知られた「マスク」の意匠であり、その形状等は、マスクを人が装着した状態にして右側から斜視したものであり、全体を縦に長い布状のものでマスク下部を緩やかな弧形状とし、マスク上部を略弧形状に切り欠いて袋縫いして耳掛け用の紐を設けたものとしている。また、マスク上部において、マスクをかけた際に左耳から鼻に向かって略水平になるようにしたマスクである。
なお、引用意匠のマスクの左側は掲載されていないものの、マスク等の当業者は、マスクという物品を構成するために、マスク左側はマスク右側とは対称の形状等となっているものと当然に推察すると考えられ、引用意匠を展開した場合には、本願意匠と同様の形状等となると推察する。

(3)本願意匠と引用意匠の類否判断
以上の共通点及び差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。
本願意匠の意匠に係る物品は、歌唱等のレッスン時に使用可能な「マスク」であり、引用意匠も歌唱等のレッスン時に使用可能な「マスク」であるから、両意匠に係る物品は同一である。
両意匠の形状等は、マスク全体の基本的な構成態様を、顔の下半分から首下の胸元より上までを覆うことを可能とする構成としている点が共通している。
また、引用意匠のマスクの左側は掲載されていないものの、引用意匠を展開した場合には、マスク左側はマスク右側とは対称の形状等となっているものとの推察でき、本願意匠と引用意匠は、全体の形状等を縦長略楕円形状とし、左右の側辺を縦中央約1/3の長さに渡って垂直とし、縦長略楕円形状の上部に略水平に袋縫い部を設けた基本的な構成態様が共通している。
さらに、マスクをかけた際に、両耳と鼻先を同じ高さで覆うことができるようにマスク上部を略水平として、耳掛け紐を留めている部分の形状等を略弧形状に2カ所切り欠いた形状とする具体的な構成態様も共通するから、両意匠の形状等も類似するものである。
よって、本願意匠と引用意匠は、意匠に係る物品が同一で、その形状等においても類似することから、類似する意匠である。

2 本願に引用意匠を新規性喪失の例外規定の適用における「先の公開に基づく関係にある」ものと認めるか否かについて
当審は、本願意匠について、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるために本願の出願人(審判請求人)が提出した「意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」(以下、「証明書」という。)及び意見書に基づいて、引用意匠が証明書と「先の公開に基づく関係にある」とし、その後に公開された意匠について証明書の省略が認められるものの対象となって、本願意匠の新規性の判断資料から除外されるべきものであるか否かを、以下のように判断する。

(1)証明書に記載された意匠
ア 証明書について
本願について提出された証明書には、19通の証明書に記載された意匠とともに、それぞれの証明書に公開された意匠は株式会社河合楽器製作所内の亀田正人氏が創作し、創作直後の2020年(令和2年)5月21日に意匠登録を受ける権利を株式会社河合楽器製作所に譲渡され、2020年(令和2年)11月18日に株式会社河合楽器製作所が意匠登録出願を行っていること、公開された意匠の意匠登録を受ける権利を有する株式会社河合楽器製作所の意向により、グループ会社である株式会社全音楽譜出版社が公開を行っていることが記載され、全てに株式会社河合楽器製作所代表取締役会長兼社長河合弘隆の著名と代表印があって、上記の証明書記載事項が事実に相違ないことが証明されているものである。
これを踏まえ、引用意匠と最も掲載内容が似た最先の公開である2020年9月14日に株式会社全音楽譜出版社の「https://www.editionkawaqi.jp/blog/chorus/mask.htmo#photo」のアドレスのウェブサイトに掲載されたマスクの意匠(以下「証明書記載意匠」という。)を認定し、証明書記載意匠が意匠の新規性の喪失の例外の適用を受けるか否かについて判断する。

イ 2020年(令和2年)9月14日公開された意匠について
証明書記載意匠は、株式会社全音楽譜出版社が、2020年9月14日(本願出願日はこの日から1年以内である。)から自社のウェッブサイトである「https://www.editionkawaqi.jp/blog/chorus/mask.htmo#photo」にて公開された意匠(別紙第3参照)であり、その形状等は、マスクを人が装着した状態を右側から斜視したものであり、全体を縦に長い布状のものとし、マスク下部を緩やかな略弧形状にしてあり、マスク上部の左側を略弧形状に切り欠いて袋縫いして耳掛け用の紐を設けたものとしている。また、マスク上部において、マスクをかけた際に左耳から鼻に向かって略水平になるようにしたマスクである。

ウ 証明書記載意匠に対する意匠の新規性の喪失の例外の適用について
以上の通り、証明書記載意匠が意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して意匠法第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至った意匠であって、本願がその該当するに至った日から1年以内に意匠登録を受ける権利を有する者がした意匠登録出願である事実が認められることから、証明書記載意匠は意匠法第4条第2項による意匠の新規性の喪失の例外の適用を受けることができると認められる。

(2)引用意匠と証明書記載意匠との関係
引用意匠と証明書記載意匠とを比較すると、引用意匠と証明書記載意匠は、いずれも全音楽譜出版社が掲載したものであり、同一人によって掲載されたものと認められるから、引用意匠の意匠登録を受ける権利を有する者は株式会社河合楽器製作所であり、同社の行為に起因して証明書記載意匠が公開されたと推認される。
次に、引用意匠と証明書記載意匠は、意匠に係る物品はいずれも歌唱等のレッスン時に使用可能な「マスク」であって、意匠に係る物品は同一のものである。また、その形状等については、いずれもマスクを人が装着した状態を右側から斜視したもので、マスク本体の基本的な構成態様とマスク上部を略水平とし、耳掛け紐を留める部分を略弧形状に切り欠いた形状としている具体的な構成態様も同一であり、引用意匠と証明書記載意匠は同一のものである。
そして、引用意匠の公開日は、2020年(令和2年)10月13日であり、本願の出願日はこの日から1年以内である。

(3)本願における意匠の新規性の喪失の例外の適用について
審判請求人の主張及びその他の事実、新規性の喪失の例外書提出書を総合して考察すると、前記(2)の通り、引用意匠は、証明書記載意匠と同一であり、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して意匠法第3条第1項第1号又は2号に該当するに至った意匠であると推認され、本願がその該当するに至った日から1年以内に意匠登録を受ける権利を有する者がした意匠登録出願である事実が認められるから、引用意匠についても、証明書記載意匠と同様に、本願意匠の新規性の判断資料から除外されるべきであるということができる。
なお、同一人もしくはグループ会社が、様々なウェッブサイトやTwitterなどのSNSを利用して商品等を広告掲載することは極めて通常行われていることであり、社会通念上、証明書に記載のウェブサイトにおける公開とTwitterにおける公開とは、関係性の高いものであって、別個に行われたものとはいえないものである。

3 小括
したがって、引用意匠は、本願意匠と類似するものであるが、引用意匠は意匠の新規性の喪失の例外の適用を受けることができ、本願意匠の新規性の判断資料から除外されるので、引用意匠をもって、本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当することはない。

第6.むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、原査定の拒絶の理由によっては、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するものとはいえないので、本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

別掲


審決日 2022-08-02 
出願番号 2020024853 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (C4)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 上島 靖範
正田 毅
登録日 2022-09-12 
登録番号 1725300 
代理人 名古屋国際特許業務法人 
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