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審決分類 審判    J3
管理番号 1389450 
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-03-26 
確定日 2022-09-20 
意匠に係る物品 ドライブレコーダー 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1666587号「ドライブレコーダー」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1666587号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

本件登録意匠、すなわち、意匠登録第1666587号の意匠(別紙第1参照)は、令和2年(2020年)1月10日に意匠登録出願(意願2020−000355)されたものであって、審査を経て、同年8月4日に意匠権の設定の登録がなされ、同年8月24日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要以下の手続を経たものである。

令和3年(2021年) 3月26日 審判請求書提出
同年 7月12日 審判事件答弁書提出
同年 10月14日 審判事件弁駁書提出
令和4年(2022年) 1月17日付け 審理事項通知
同年 2月 4日 口頭審理陳述要領書
(被請求人)提出
同年 2月24日 口頭審理陳述要領書
(請求人)提出
同年 3月10日 口頭審理
同年 3月30日付け 無効理由通知
(被請求人に対して)
同年 3月30日付け 職権審理結果通知
(請求人に対して)
同年 4月22日 意見書(被請求人)提出

第2 請求人の申し立て及び理由の要点

請求人は、請求の趣旨を
「登録第1666587号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を、以下のとおり主張した。

1 「審判請求書」における主張

「6 請求の理由
(1)手続の経緯
(当審注:中略)

(2)意匠登録無効の理由の要点
(2−1)本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

(2−2)本件登録意匠は、甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

(3)本件意匠登録を無効とすべき理由
(3−1)本件登録意匠の説明(別紙1参照)
本件登録意匠は、意匠登録第1666587号公報に記載のとおりである。

(3−1−1)意匠に係る物品
ドライブレコーダー

(3−1−2)意匠に係る物品の説明
本物品は、取付用部材を用いて、車両内のフロントガラス上部等に貼付して車外用カメラにより車外の映像を記録するドライブレコーダーである。また、セキュリティモード時には、振動等の外部信号により車内用カメラも用い車外および車内の映像を記録するとともにスピーカーから音響を発することができる。なお、記録映像は操作ボタン部を操作することで表示部に表示させることができ、端子部を介して外部機器に送信することもできる。

(3−1−3)本件登録意匠の基本的構成態様
[本基態1]正面側に表示部を備え、背面側に車外用カメラを備えた本体を有している。
[本基態2]本体の平面側に、車両内のフロントガラス上部に貼り付けるための取付用部材と、外部機器と接続するための端子部を有している。
[本基態3]本体の底面側に、操作ボタン部を有している。
[本基態4]本体の左側面側に、車内用カメラを有している。
[本基態5]本体の右側面側に、スピーカーを有している。

(3−1−4)本件登録意匠の具体的構成態様
[本具態1]本体の形状が、直立した長方形状の平面体に円弧状体を組み合わせたカマボコ型であって、該本体の正面には表示部がほぼ全面を占めており、該本体の背面には車外用カメラが中心よりスピーカー側に寄った位置で本体の幅に対して三分の一程度の割合で存在している。
[本具態2]本体の平面には、本体の幅の半分より大きな幅の取付用部材が存在し、該取付用部材に並んで、車内用カメラの取り付け側に丸型及びUSBミニタイプ型の2つの端子による端子部が存在している。
[本具態3]本体の底面には、正面側付近に5つの細長形状体が集合した操作ボタン部が存在している。
[本具態4]本体の左側面には、本体の高さの半分程度の高さの円柱状突出物が存在し、該円柱状突出物の側面には、該円柱の幅とほぼ等しい直径の円形枠の中央にレンズを有する車内用カメラが存在している。
[本具態5]本体の右側面には、本体の幅の10分の一程度の高さで突出する短円柱状のスピーカーが存在している。

(3−2)甲第1号証の意匠の説明
甲第1号証は、2019年12月25日から下記URLに示す動画投稿サイトで公開されている「JADO」による新製品「ドライブレコーダー」(製品型番:D350S)の動画(全59秒)における、各再生時間における一時停止画面のコピーである。
https://www.youtube.com/watch?v=I5tAVPprqcQ
すなわち、甲第1号証に係る意匠は、2020年1月10日より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である。
なお、本動画の画面コピーを行ったのは、2021年3月2日である。
甲第1号証の1は、カウント[0:00/0:59]における画面コピーで、背面斜視による画像である。
甲第1号証の2は、カウント[0:01/0:59]における画面コピーで、右側面視による画像である。
甲第1号証の3は、カウント[0:01/0:59]における画面コピーで、正面斜視による画像である。
甲第1号証の4は、カウント[0:09/0:59]における画面コピーで、正面斜視1による画像である。
甲第1号証の5は、カウント[0:09/0:59]における画面コピーで、正面斜視2による画像である。
甲第1号証の6は、カウント[0:09/0:59]における画面コピーで、正面斜視3による画像である。
甲第1号証の7は、カウント[0:10/0:59]における画面コピーで、右側面視による画像である。
甲第1号証の8は、カウント[0:10/0:59]における画面コピーで、右側面斜視1による画像である。
甲第1号証の9は、カウント[0:10/0:59]における画面コピーで、右側面斜視2による画像である。
甲第1号証の10は、カウント[0:10/0:59]における画面コピーで、背面斜視1による画像である。
甲第1号証の11は、カウント[0:10/0:59]における画面コピーで、背面斜視2による画像である。
甲第1号証の12は、カウント[0:10/0:59]における画面コピーで、背面視による画像である。
甲第1号証の13は、カウント[0:20/0:59]における画面コピーで、背面視による画像である。
甲第1号証の14は、カウント[0:23/0:59]における画面コピーで、背面斜視による画像である。
甲第1号証の15は、カウント[0:23/0:59]における画面コピーで、左側面視による画像である。
甲第1号証の16は、カウント[0:35/0:59]における画面コピーで、正面視による画像である。

(3−2−1)甲第1号証の意匠に係る物品
ドライブレコーダー

(3−2−2)甲第1号証の意匠に係る物品の説明
本物品のドライブレコーダーは、3台のカメラにより録画可能なものであり、取付用部材を用いて車両内のフロントガラス上部等に貼付して使用するものである。
該ドライブレコーダーは、車外用カメラであるフロントカメラで車両前方の映像を記録すると共に、車内用カメラで車内の映像も記録可能であり、さらに、製品に付属のリアカメラ(画像は無し)により車両後方の記録も可能なものである。

(3−2−3)甲第1号証の意匠の基本的構成態様
[甲1基態1]正面側に表示部を備え、背面側に車外用カメラを備えた本体を有している。
[甲1基態2]本体の平面側に、車両内のフロントガラス上部に貼り付けるための取付用部材と、電源等の供給とリアカメラを接続するための端子部を有している。
[甲1基態3]本体の底面側に、操作ボタン部を有している。
[甲1基態4]本体の左側面側に、車内用カメラを有している。
[甲1基態5]本体の右側面側に、スピーカーを有している。

(3−2−4)甲第1号証の意匠の具体的構成態様
[甲1具態1]本体の形状が、直立した長方形状の平面体に円弧状体を組み合わせたカマボコ型である(甲第1号証の1〜8参照)。
該本体の正面には、3インチの液晶による表示部がほぼ全面を占めている(甲第1号証の16参照)。
該本体の背面には、車外用カメラが中心よりスピーカー側に寄った位置で本体の幅に対して三分の一程度の割合で存在している(甲第1号証の12参照)。
[甲1具態2]本体の平面には、本体の幅の半分より大きな幅の着脱自在な取付用部材が存在している(甲第1号証の12,13参照)。
該取付用部材に並んで、車内用カメラの取り付け側に端子部が存在している(甲第1号証の12,14参照)。
[甲1具態3]本体の底面には、正面側付近に5つの細長形状体が集合した操作ボタン部が存在している(甲第1号証の1参照)。
[甲1具態4]本体の左側面には、本体の高さの半分程度の高さの円柱状突出物が存在している(甲第1号証の16参照)。
該円柱状突出物の側面には、該円柱の幅とほぼ等しい直径の円形枠の中央にレンズを有する車内用カメラが存在している(甲第1号証の16参照)。
[甲1具態5]本体の右側面には、本体の幅の10分の一程度の高さで突出する短円柱状のスピーカーが存在している(甲第1号証の16,3参照)。

(3−3)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比
(3−3−1)意匠に係る物品の対比
共に、ドライブレコーダーで同一である。

(3−3−2)意匠の形態の共通点
[基本的構成態様1について]
両者は、正面側に表示部を備え、背面側に車外用カメラを備えた本体を有している点で共通する。
[基本的構成態様2について]
両者は、本体の平面側に、車両内のフロントガラス上部に貼り付けるための取付用部材と、端子部を有している点で共通する。
[基本的構成態様3について]
両者は、本体の底面側に、操作ボタン部を有している点で共通する。
[基本的構成態様4について]
両者は、本体の左側面側に、車内用カメラを有している点で共通する。
[基本的構成態様5について]
両者は、本体の右側面側に、スピーカーを有している点で共通する。
[具体的構成態様1について]
両者は、本体の形状が、直立した長方形状の平面体に円弧状体を組み合わせたカマボコ型である点で共通する。
両者は、本体の正面には表示部がほぼ全面を占めている点で共通する。
両者は、本体の背面には車外用カメラが中心よりスピーカー側に寄った位置で本体の幅に対して三分の一程度の割合で存在している点で共通する。
[具体的構成態様2について]
両者は、本体の平面には、本体の幅の半分より大きな幅の取付用部材が存在している点で共通する。
両者は、取付用部材に並んで、車内用カメラの取り付け側に端子部が存在している点で共通する。
[具体的構成態様3について]
両者は、本体の底面には、正面側付近に5つの細長形状体が集合した操作ボタン部が存在している点で共通する。
[具体的構成態様4について]
両者は、本体の左側面には、本体の高さの半分程度の高さの円柱状突出物が存在し、該円柱状突出物の側面には、該円柱の幅とほぼ等しい直径の円形枠の中央にレンズを有する車内用カメラが存在している点で共通する。
[具体的構成態様5について]
両者は、本体の右側面には、本体の幅の10分の一程度の高さで突出する短円柱状のスピーカーが存在している点で共通する。

(3−3−3)意匠の形態の差異点
両者は、具体的構成態様2における端子部について、本件登録意匠では平面図に示すように、端子部の具体的な形状が、丸型及びUSBミニタイプ型の2つの端子の形状によるものであるのに対し、甲第1号証の意匠の端子部は、2つの端子の具体的な形状が示されていない点で相違する。

(3−3−4)意匠の形態の対比の評価
両者は共に物品がドライブレコーダーである点で共通し、ドライブレコーダーの美観として重要視される本体の形状やカメラの形状及び取り付け位置に関する基本的構成態様1〜5については全ての点で共通し、具体的構成態様1〜5についても、前記(3−3−3)の相違点を除けば、全ての点で共通している。
そして、両者の唯一の相違点である端子部の具体的な構成態様は、需要者にとって、あまり重要視されるものではない。
そもそも、ドライブレコーダーに必要な端子部の役割は、外部からの電源を取り入れることと、リアカメラの信号を取り入れることであり、多くのドライブレコーダーにおいて電源供給にはUSBミニタイプ型が使われ、リアカメラとの接続には丸型端子が使われているので、甲第1号証の意匠でも、端子部は丸型及びUSBミニタイプ型の2つの端子の形状によるものである。

(3−3−5)類否の結論
甲第1号証の意匠は、ドライブレコーダーとして重要視される構成態様について全ての点で、本件登録意匠と共通するので、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と同一の意匠である。
仮に両者が同一の意匠であると判断されない場合であっても、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠に類似するものである。

(3−4)甲第2号証の意匠の説明
甲第2号証は、2020年1月1日から下記URLに示すインターネットでの販売サイトで公開されている「JADO」による新製品「ドライブレコーダー」(製品型番:D350S)の画面コピーである。
https://www.amazon.co.jp/JADO−360%E5%BA%A6%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E5%89%8D%E5%BE%8C%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9−%E3%80%902020%E5%B9%B4%E6%9C%80%E6%96%B0%E3%81%AE3%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9%E5%90%8C%E6%99%82%E9%8C%B2%E7%94%BB%E3%80%91%E3%80%903%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9%E5%90%8C%E6%97%B6%E9%A7%90%E8%BB%8A%E7%9B%A3%E8%A6%96%E3%80%91%E8%BD%A6%E5%86%85%E9%8C%B2%E7%94%BB−1080P%E3%83%95%E3%83%ABHD−%E8%BB%8A%E5%86%85%E5%A4%96%E5%BE%8C%E5%90%8C%E6%99%82%E9%A7%90%E8%BB%8A%E7%9B%A3%E8%A6%96/dp/B083DSWBP7
すなわち、甲第2号証に係る意匠は、2020年1月10日より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった意匠である。
なお、画面コピーを行ったのは、2021年3月2日である。
甲第2号証の1は、型番D350SのAmazon.co.jpでの登録情報で、アマゾン独自の商品コードであるASINとして「B083DSWBP7」が付与され、Amazon.co.jpでの取り扱い開始日が「2020/1/1」である旨が表示されている画面のコピーで、製品自体は背面斜視による画像である。
甲第2号証の2は、製品説明が表示されている画面のコピーで、説明の都合で「A」「B」「C」が付与されており、「A」は正面視による画像、「B」は背面斜視による画像、「C」は正面斜視による画像である。

(3−4−1)甲第2号証の意匠に係る物品
ドライブレコーダー

(3−4−2)甲第2号証の意匠に係る物品の説明
本物品のドライブレコーダーは、3台のカメラにより録画可能なものであり、取付用部材を用いて車両内のフロントガラス上部等に貼付して使用するものである。
該ドライブレコーダーは、車外用カメラであるフロントカメラで車両前方の映像を記録すると共に、車内用カメラで車内の映像も記録可能であり、さらに、製品に付属のリアカメラ(甲第2号証の1参照)により車両後方の記録も可能なものである。

(3−4−3)甲第2号証の意匠の基本的構成態様
[甲2基態1]正面側に表示部を備え、背面側に車外用カメラを備えた本体を有している。
[甲2基態2]本体の平面側に、車両内のフロントガラス上部に貼り付けるための取付用部材を有している。
[甲2基態3]本体の底面側に、操作ボタン部を有している。
[甲2基態4]本体の左側面側に、車内用カメラを有している。
[甲2基態5]本体の右側面側に、スピーカーを有している。

(3−4−4)甲第2号証の意匠の具体的構成態様
[甲2具態1]本体の形状が、直立した長方形状の平面体に円弧状体を組み合わせたカマボコ型である(甲第2号証の2中のC参照)。
該本体の正面には、3インチの液晶による表示部がほぼ全面を占めている(甲第2号証の2中のA参照)。
該本体の背面には、車外用カメラが中心よりスピーカー側に寄った位置で本体の幅に対して三分の一程度の割合で存在している(甲第2号証の2中のB参照)。
[甲2具態2]本体の平面には、本体の幅の半分より大きな幅の着脱自在な取付用部材が存在している(甲第2号証の2中のA参照)。
[甲2具態3]本体の底面には、正面側付近に5つの細長形状体が集合した操作ボタン部が存在している(甲第2号証の2中のC参照)。
[甲2具態4]本体の左側面には、本体の高さの半分程度の高さの円柱状突出物が存在している(甲第2号証の2中のA参照)。
該円柱状突出物の側面には、該円柱の幅とほぼ等しい直径の円形枠の中央にレンズを有する車内用カメラが存在している(甲第2号証の2中のA参照)
[甲2具態5]本体の右側面には、本体の幅の10分の一程度の高さで突出する短円柱状のスピーカーが存在している(甲第2号証の2中のA参照)。
(3−5)本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比
(3−5−1)意匠に係る物品の対比
共に、ドライブレコーダーで同一である。

(3−5−2)意匠の形態の共通点
[基本的構成態様1について]
両者は、正面側に表示部を備え、背面側に車外用カメラを備えた本体を有している点で共通する。
[基本的構成態様2について]
両者は、本体の平面側に、車両内のフロントガラス上部に貼り付けるための取付用部材を有している点で共通する。
[基本的構成態様3について]
両者は、本体の底面側に、操作ボタン部を有している点で共通する。
[基本的構成態様4について]
両者は、本体の左側面側に、車内用カメラを有している点で共通する。
[基本的構成態様5について]
両者は、本体の右側面側に、スピーカーを有している点で共通する。
[具体的構成態様1について]
両者は、本体の形状が、直立した長方形状の平面体に円弧状体を組み合わせたカマボコ型である点で共通する。
両者は、本体の正面には表示部がほぼ全面を占めている点で共通する。
両者は、本体の背面には車外用カメラが中心よりスピーカー側に寄った位置で本体の幅に対して三分の一程度の割合で存在している点で共通する。
[具体的構成態様2について]
両者は、本体の平面には、本体の幅の半分より大きな幅の取付用部材が存在している点で共通する。
[具体的構成態様3について]
両者は、本体の底面には、正面側付近に5つの細長形状体が集合した操作ボタン部が存在している点で共通する。
[具体的構成態様4について]
両者は、本体の左側面には、本体の高さの半分程度の高さの円柱状突出物が存在し、該円柱状突出物の側面には、該円柱の幅とほぼ等しい直径の円形枠の中央にレンズを有する車内用カメラが存在している点で共通する。
[具体的構成態様5について]
両者は、本体の右側面には、本体の幅の10分の一程度の高さで突出する短円柱状のスピーカーが存在している点で共通する。

(3−5−3)意匠の形態の差異点
両者は、基本的構成態様2及び具体的構成態様2における端子部について、本件登録意匠では平面図に示すように、丸型及びUSBミニタイプ型の2つの端子による端子部があるのに対し、甲第2号証の意匠には、端子部が直接的に確認できない点で相違する。

(3−5−4)意匠の形態の対比の評価
両者は共に物品がドライブレコーダーである点で共通し、ドライブレコーダーの美観として重要視される本体の形状やカメラの形状及び取り付け位置に関する基本的構成態様1〜5については全ての点で共通し、具体的構成態様1〜5についても、前記(3−5−3)の相違点を除けば、全ての点で共通している。
そして、両者の唯一の相違点である端子部は、需要者にとって、あまり重要視されるものではない。
そもそも、ドライブレコーダーに必要な端子部の役割は、外部からの電源を取り入れることと、リアカメラの信号を取り入れることであり、多くのドライブレコーダーにおいて電源供給にはUSBミニタイプ型が使われ、リアカメラとの接続には丸型端子が使われているので、甲第2号証の意匠でも、端子部が存在し、該端子部は丸型及びUSBミニタイプ型の2つの端子の形状によるものと推測される。

(3−5−5)類否の結論
甲第2号証の意匠は、ドライブレコーダーとして重要視される構成態様について全ての点で、本件登録意匠と共通するので、本件登録意匠は、甲第2号証の意匠と同一の意匠である。
仮に両者が同一の意匠であると判断されない場合であっても、本件登録意匠は、甲第2号証の意匠に類似するものである。

(4)むすび
したがって、本件登録意匠は、甲第1号証又は甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」

2 「弁駁書」における主張

「6 理由
(1)証拠の妥当性について
被請求人は、「甲第1号証、第2号証を証拠として挙げているが、その成立性を認めない。」とし、その根拠として、「動画が差し替えられている場合公開日は意味を持たないため」であることを理由としている。
しかしながら、甲第1号証の成立性を否定するのであれば、甲第1号証が、実際に差し替えらたものであることを証拠として示すべきである。
すなわち、可能性の有無をもって、証拠の成立性を論じることはできないため、甲第1号証は妥当なものであり、証拠の成立性に問題無いものと思料する。
また、甲第2号証について、「販売サイトの都合により取り扱い開始日登録後1ヶ月以上公開されないこともよくあること」との主張や、「このインターネットの販売サイトでは、実物と異なる製品写真が用いられていたり、単一の製品に複数の異なる製品写真が使わたりすることも多々あり」と主張するのみで、甲第2号証について「登録後1ヶ月以上公開されていないこと」や、「実物と異なる製品写真が用いられていた」ことについての具体的な証拠は示されていない。
したがって、商品の取り扱い開始日が2020年1月1日であることを証明する甲第2号証の成立性に問題無いものと思料する。

(2)相違点について
被請求人は、端子部以外の基本的態様、具体的構成態様については、一切、答弁していない。
そして、端子部の有無が相違点であるとし、「意匠に係る物品『ドライブレコーダー』において機能性を重視する需要者層に対しては、その『端子形状』が特に重要なってくる。」と主張し、「端子部は全体意匠において占める部分が少なくとも重要者の興味、注意を特に引く部分となっており、類否判断において無視できる部分とは到底言い難い。」と主張している。
しかしながら、ドライブレコーダーにおいて、需要者が重要視するのは、端子部以外の基本的態様、具体的構成態様であり、使用態様等において視認が困難な端子部が、その基本的態様等を大きく超えて、重要者の興味、注意を特に引く部分であるとの主張は認められるものではないと思料する。
よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第1号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
なお、被請求人は、端子の位置等を変更した場合のケーブル接続時における正面図として、乙第3号証を提出している。
この乙第3号証には、縦方向に4つのドライブレコーダーが記載され、一番上のドライブレコーダーには、上側にケーブル等が接続され、本件登録意匠のドライブレコーダーであると推測される。
また、上から二番目には左側に、三番目には左右両側に、四番目には下側にケーブル等が接続されていることが示されているが、このようなドライブレコーダーは存在しないものと思料する。
本件登録意匠に係るフロントガラス上部に接着して設置するタイプのドライブレコーダーは、フロントガラス上端側と天井側の境界に存在するモールに配線を隠すように設置するのが一般的である。
そのため、配線がなるべく目立たないように、端子部はドライブレコーダーの上側に設けるのが通常であり、あえて端子部を左側、両側、下側に設けた製品を販売することは無いものと思料する。

(3)まとめ
前記したとおり、甲第1号証及び甲第2号証は、証拠の成立性に問題無いものであり、本件登録意匠は、甲第1号証又は甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができず、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」

3 「口頭陳述要領書」における主張

「6 陳述の要領
(1)証拠の妥当性について
被請求人は、「甲第1号証、第2号証を証拠として挙げているが、その成立性を認めない。」とし、甲第2号証における根拠として、カメラ部センセーがSONY製と異なると指摘している。
しかしながら、販売サイトに記載の表記と、実際の製品で使われる部品が異なることは、部品供給等の影響であり得ることであり、このことをもって、甲第2号証の成立性を否定することはできないと思料する。
ここで、インターネットにおいて新規性を喪失することを証明するために、「現実に誰かがアクセスしたという事実は必要としない」ので、そのようなデータの提示は不要である。
なお、被請求人は、「2020年1月30日以前の販売サイトでSONY製センサーを使用していないにも関わらずSONY製センサーの使用を謳って販売を行っているとすると」と仮定した上で、「そのような虚偽の表示態様による販売行為は相当悪質」と決めつけ、「景品表示法等にも抵触する行為である。」と断定し、「なお、万一、SONY製センサーの使用を謳っていない態様における販売サイトの公開情報を提示できない場合は、販売を行っているJADO社は悪質な虚偽表示を平気で行う企業とみなされる虞がある。」と、独自の解釈による理論を主張している。
そして、このような主張に基づき、証拠の成立性について言及しているが、そもそも被請求人による独自の解釈は、意匠法から離れた解釈であり、採用することはできないとものと思料する。
よって、証拠の成立性は認められるべきものである。

(2)相違点について
被請求人は、「以上より、端子部は、端子部の位置、端子形状ともに需要者の興味、注意を引く部分となっているため、意匠の類否判断において無視できる部分とは言い難い。」と主張し、このことをもって、「これにより、本件登録意匠では明確に端子部が存在するのに対し、甲第1号証、甲第2号証では端子部が確認できない点が大きく相違しているため、本件登録意匠と甲第1号証、甲第2号証の意匠とは相違する。」と結論づけている。
すなわち、被請求人は、端子部以外の基本的態様、具体的構成態様については、相変わらず、一切、言及していない。
繰り返しになるが、ドライブレコーダーにおいて、需要者が重要視するのは、端子部以外の基本的態様、具体的構成態様であり、端子部の確認性のみを根拠に、「本件登録意匠と甲第1号証、甲第2号証の意匠とは相違する。」との主張は認められるべきでないと思料する。
なお、被請求人は、「さらに、甲第2号証の1,甲第2号証の2B図において端子部主張の位置に端子が存在するのなら端子部の一部が十分視認できるアングルと思われるが、そのようになっていないことより端子部主張の位置には端子類は存しないと解することが妥当である。」と主張してる。
今回、被請求人は、乙第4号証を提示し、「本件登録意匠の意匠権者がこのインターネットの販売サイトで2020年1月30日に購入した甲第2号証に係る商品である」と主張している。
よって、口頭審理において、購入した甲第2号証に係る商品について、端子の位置を確認することを希望する。

(3)まとめ
前記したとおり、甲第1号証及び甲第2号証は、証拠の成立性に問題無いものであり、本件登録意匠は、甲第1号証又は甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができず、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」

4 請求人添付の証拠

(1)甲第1号証
2019年12月25日から下記URLに示す動画投稿サイトで公開されている「JADO」による新製品「ドライブレコーダー」(製品型番:D350S)の動画(全59秒)における、各再生時間における一時停止画面のコピー
https://www.youtube.com/watch?v=I5tAVPprqcQ
(2)甲第1号証の1 カウント[0:00/0:59]における画面コピー
(3)甲第1号証の2 カウント[0:01/0:59]における画面コピー
(4)甲第1号証の3 カウント[0:01/0:59]における画面コピー
(5)甲第1号証の4 カウント[0:09/0:59]における画面コピー
(6)甲第1号証の5 カウント[0:09/0:59]における画面コピー
(7)甲第1号証の6 カウント[0:09/0:59]における画面コピー
(8)甲第1号証の7 カウント[0:10/0:59]における画面コピー
(9)甲第1号証の8 カウント[0:10/0:59]における画面コピー
(10)甲第1号証の9 カウント[0:10/0:59]における画面コピー
(11)甲第1号証の10 カウント[0:10/0:59]における画面コピー
(12)甲第1号証の11 カウント[0:10/0:59]における画面コピー
(13)甲第1号証の12 カウント[0:10/0:59]における画面コピー
(14)甲第1号証の13 カウント[0:20/0:59]における画面コピー
(15)甲第1号証の14 カウント[0:23/0:59]における画面コピー
(16)甲第1号証の15 カウント[0:23/0:59]における画面コピー
(17)甲第1号証の16 カウント[0:35/0:59]における画面コピー
(18)甲第2号証 2020年1月1日から下記URLに示すインターネットでの販売サイトで公開されている「JADO」による新製品「ドライブレコーダー」(製品型番:D350S)の画面コピー
https://www.amazon.co.jp/JADO−360%E5%BA%A6%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E5%89%8D%E5%BE%8C%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9−%E3%80%902020%E5%B9%B4%E6%9C%80%E6%96%B0%E3%81%AE3%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9%E5%90%8C%E6%99%82%E9%8C%B2%E7%94%BB%E3%80%91%E3%80%903%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9%E5%90%8C%E6%97%B6%E9%A7%90%E8%BB%8A%E7%9B%A3%E8%A6%96%E3%80%91%E8%BD%A6%E5%86%85%E9%8C%B2%E7%94%BB−1080P%E3%83%95%E3%83%ABHD−%E8%BB%8A%E5%86%85%E5%A4%96%E5%BE%8C%E5%90%8C%E6%99%82%E9%A7%90%E8%BB%8A%E7%9B%A3%E8%A6%96/dp/B083DSWBP7
(19)甲第2号証の1 型番D350SのAmazon.co.jpでの登録情報で、アマゾン独自の商品コードであるASINとして「B083DSWBP7」が付与され、Amazon.co.jpでの取り扱い開始日が「2020/1/1」である旨が表示されている画面のコピー
(20)甲第2号証の2 製品説明が表示されている画面のコピーで、説明の都合で「A」「B」「C」が付与されており、「A」は正面視による画像、「B」は背面斜視による画像、「C」は正面斜視による画像

第3 被請求人の答弁及び理由の要点

被請求人は、答弁書を提出し、請求の趣旨に対する答弁を「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を、以下のとおり主張した。

1 「答弁書」における主張

「7 理由
(1)証拠の妥当性について
請求人は、甲第1号証、第2号証を証拠として挙げているが、その成立性を認めない。
甲第1号証は動画投稿サイトの動画であり、2019年12月25日から公開されているとのことだが動画の差し替えが行われた可能性を完全に否定することはできない。
この動画投稿サイトでは原則的に動画の差し替えはできないとのことだが、原則に例外はつきものであり、下記URLに記載のように動画の差し替えは不可能ではなく、動画が差し替えられていた場合公開日は意味を持たないため、紙媒体で内容及び日付が確定されたうえで公開される特許公開公報、新聞または学会論文と同列に扱うことはできない。
https://rebirth−reverse.com/2018/05/18/youtube−replacement/

また、甲第2号証に関してだが、webページを定期的に保存する「Waybackmachine」にて調査を行ったところ、関連するであろう商品ページ(https://www.amazon.co.jp/JADO−360****)の掲載データは2020年12月以降のもののみとなっている。
なお、2019年以前の商品ページ等は関連の無い商品となっている。
また、このインターネットの販売サイトでは、取り扱い開始日は販売サイトのデータベースに登録された日となっており、公開日は当然それより後になっており、販売サイトの都合により取り扱い開始日登録後1ヶ月以上公開されないこともよくあることとなっている。
さらに、このインターネットの販売サイトでは、実物と異なる製品写真が用いられていたり、単一の製品に複数の異なる製品写真が使われたりすることも多々あり、スペック詳細等の記載に誤った表記がなされていることも多く情報としての確度には多くを期待できない。ちなみに、甲第2号証のスペック詳細等にもsonyセンサー不使用にも関わらずsonyセンサー使用等の誤った表記が散見される。

(2)相違点について
請求人が提出した甲第1号証、第2号証と本件意匠とは少なくとも以下の相違点が存在する。
相違点:端子部の有無
本件意匠では、明確に端子部が存在するのに対し、甲第1号証、第2号証では端子部が確認できない点が大きく相違する。
なお、甲第1号証での具体的構成態様2等において「両者は、取付用部材に並んで、車内用カメラの取り付け側に端子部が存在している点で共通する。」との記載があるが、端子等が具体的に確認できない状態(端子であるか否かを判別できない状態)で端子部の位置を恣意的に認定するのには無理がある。
ここで、端子部に関して考察する。意匠に係る物品「ドライブレコーダー」において機能性を重視する需要者層に対しては、その「端子形状」が特に重要になってくる。例えば、このような需要者層においては電源、データ転送等に一般的なケーブルが利用できるか否か、現在使用中のケーブルが使用可能か否か等に関心を寄せるものと思われる。
また、意匠に係る物品「ドライブレコーダー」においてデザイン性を重視する需要者層に対しては、その端子部の位置が重要になってくる。このような需要者層ではケーブルの配置、ケーブル長にまで気を配り、ケーブル込みでの美観を気にするものと思われ、どの部分に端子部が配されているかが特に重要となってくる。
なお、端子の位置等を変更した場合のケーブル接続時における正面図を乙第3号証に示す。
このようにケーブル接続が不可欠な製品の場合、端子部は全体意匠において占める部分が少なくとも需要者の興味、注意を特に引く部分となっており、類否判断において無視できる部分とは到底言い難い。
以上より、本件意匠と甲第1号証、第2号証の意匠とは相違することから本件登録意匠は意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定に反するものではない。

(3)結語
以上の通り、本件意匠は、甲第1号証、第2号証の意匠とは相違することから本件登録意匠は意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定に反するものではなく、同法第48条第1項の規定により無効とされるべきものではない。
よって、この審判の請求は成り立たないとの審決を求める。」

2 「口頭審理陳述要領書」における主張

「6 陳述の要領
(1)証拠の妥当性について
請求人は、甲第1号証、第2号証を証拠として挙げているが、その成立性を認めない。
まず、甲第2号証について述べる。乙第4号証は本件登録意匠の意匠権者がこのインターネットの販売サイトで2020年1月30日に購入した甲第2号証に係る商品であるが、カメラ部センサーが乙第4号証に示すように明らかにSONY製と異なっている。
この事実に鑑みるに、少なくとも2020年1月30日までは、JADO社はこの販売サイトでSONY製センサーを使用していないものの販売を行っていたことになり、好意的に解釈してもSONY製センサーを使用するものの販売は2020年1月31日以降であるということになる。
換言すると、SONY製センサーの使用を謳った販売サイトの公開情報は2020年1月31日以降のものということになり、そのようなデータに証拠能力はないものと思われる(本件登録意匠の出願日は2020年1月10日である。)。
すなわち、2020年1月30日以前においてはSONY製センサーの使用を謳っていない態様で販売を行っていなければならず、2020年1月30日より前における販売サイトにおける公開事実を証明するには、SONY製センサーの使用を謳っていない態様における販売サイトの公開情報を提示する必要があると思われる。
一般的に公開(データへのアクセスが可能)の事実のないものの証拠を提出することは不可能に近いが(そもそもそのようなデータが存在しないため)、公開の事実のあるものの証拠は提出可能であるため、先ずはそのようなデータの提示が最低限必要である。
なお、サーバへのデータの登録日と通常の注意力を有する一般需要者がそのデータへのアクセスが可能となる(パスが通っており、そのパスが利用可能となっている)状態となっていることとは必ずしも同意ではない。
万一、2020年1月30日以前の販売サイトでSONY製センサーを使用していないにも関わらずSONY製センサーの使用を謳って販売を行っているとすると、そのような虚偽の表示態様による販売行為は相当悪質(顧客吸引力のある著名なSONYの表示を利用して不正の利益を得る目的があると容易に推認できる。そもそも、虚偽表示行為は、不正競争防止法において誤認惹起行為等に比して不正の目的の立証が要件に課されていないことに鑑みても悪質性が相当高いと考えられる。)であり、不正競争防止法第2条第1項第20号等に抵触するばかりではなく(なお、不正競争防止法第21条第2項第1号、第5号に該当する者は、「5年以下の懲役若しくは500万以下の罰金に処し又はこれを併科する」ことになっており、不正競争防止法第22条第1項第3号に該当する法人に対しては「3億円以下の罰金刑」を科することになっている。)、景品表示法等にも抵触する行為である。
なお、2020年1月30日の購入明細には、2020年1月31日より前の2020年1月30日購入にも関わらず、乙第5号証に示すようにSONY製センサーの使用が謳われている(この時点で既に悪質な虚偽表示による販売態様となっている。)。
なお、万一、SONY製センサーの使用を謳っていない態様における販売サイトの公開情報を提示できない場合は、販売を行っているJADO社は悪質な虚偽表示を平気で行う企業であるとみなされる虞がある。この場合、JADO社によって公開される甲第1号証の情報を無条件に信用しろということには相当無理があるため、少なくとも動画データの変更がないことをタイムスタンプ等で証明する、公開ポリシーの変更の有無の存在、実際に通常の注意力を有する一般需要者がそのデータへのアクセスが可能な状態であったか否か等の裏付け等が必要になると思われる。
よって、JADO社の汚名返上、名誉挽回のためにも、2020年1月10日より前でのSONY製センサーの使用を謳っていない態様における販売サイトの公開情報の提示が必要であり、このような公開情報なくして証拠の成立性を認めることもできない。

(2)相違点について
本件登録意匠に係るフロントガラス上部に接着して設置するタイプのドライブレコーダーでは、後付けを前提とした場合、給電はダッシュボード等に設けられるシガーソケット、USB端子等から行うことが一般的である。ここで、請求人は、このようなタイプのドライブレコーダーはフロントガラス上端側と天井側の境界に存在するモールに配線を隠すように設置するのが一般的であるとあるが、この場合、配線を左右いずれかの方向に端までモールに沿って一旦這わせるように配索する必要があるため、左右側面に給電ポートが設けられる乙第3号証の上から二番目(左側配索)、三番目(右側配索)の図がむしろより合理的な構成であると考えられる(最初から左右方向に配索しやすくなっており、配索時にドライブレコーダーを設置状態のまま取り外すことなく給電用ケーブルの着脱を容易に行うことができる)。なお、左右側面に給電用ポートが形成されているドライブレコーダーも普通に存在している(JVC GC−DR3等)。
また、配線をモールに通さないことを前提とすると、ノイズ低減、配線抵抗低減等の観点から無理なく配線長を最も短くし得る乙第3号証の上から四番目(最短接続)の図が最も合理的な構成であると考えられる。なお、この接続態様もドライブレコーダーを設置状態のまま取り外すことなく給電用ケーブルの着脱を容易に行うことができる。
すなわち、特に後付けであり、シガーソケット、USB端子等から給電を行うことを前提とする場合、給電用ポートの位置は非常に重要となってくる(右側配索、左側配索、最短接続等の給電用ケーブルの接続態様により合理的な給電用ポートの位置は異なってくるため)。
さらに、特に後付けであり、シガーソケット、USB端子等から給電を行うことを前提とする場合では、給電用ケーブルを大きく迂回させてシガーソケット、USB端子まで導く必要があるためケーブル長が極端に長くなっており、無理な配線態様によるケーブルの断線等が起こりやすくなっている。このため、交換用ケーブルの入手性の良否の観点からも給電用ポートの端子形状も重要になってくる。なお、給電用ケーブル交換の際にドライブレコーダーを取り外さずに給電用ケーブルの着脱を容易に行うことができる方が便利であることは言うまでもない。
以上より、端子部は、端子部の位置、端子形状ともに需要者の興味、注意を特に引く部分となっているため、意匠の類否判断において無視できる部分とは言い難い。
これより、本件登録意匠では明確に端子部が存在するのに対し、甲第1号証、第2号証では端子部が確認できない点が大きく相違しているため、本件登録意匠と甲第1号証、第2号証の意匠とは相違する。
なお、甲第1号証では、本件登録意匠の端子部とは異なる位置における給電用ポートとも解し得るスリット部が視認できるにも係わらず、この部分を差し置いてまで視認できない部分を恣意的に端子部であるとする主張は不自然極まりないと言わざるを得ない。すなわち、このような主張は本件登録意匠の構成を確認した上での後出し主張としか考えられず到底受け入れることはできない。
さらに、甲第2号証の1、甲第2号証の2B図において端子部主張の位置に端子が存するのなら端子類の一部が十分視認できるアングルと思われるが、そのようになっていないことより端子部主張の位置には端子類は存しないと解することが妥当である。

(3)結語
以上の通り、甲第1号証、第2号証は証拠の成立性に問題がある。
また、本件登録意匠は、甲第1号証、第2号証の意匠とは相違することから本件登録意匠は意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定に反するものではなく、同法第48条第1項の規定により無効とされるべきものではない。」

3 被請求人添付の証拠

(1)乙第1号証 「動画の差し替えは不可能ではなく、動画が差し替えられていた場合公開日は意味を持たないため、紙媒体で内容及び日付が確定されたうえで公開される特許公開公報、新聞または学会論文と同列に扱うことはできない」旨が述べられた記事の画面コピー。
https://rebirth−reverse.com/2018/05/18/youtube−replacement/
(2)乙第2号証 「webページを定期的に保存する「Waybackmachine」にて調査を行ったところ、関連するであろう商品ページ(https://www.amazon.co.jp/JADO−360****)の掲載データは2020年12月以降のもののみとなっている。」旨を示す、履歴のコピー。
(3)乙第3号証 「端子の位置等を変更した場合のケーブル接続時における正面図」を表現したもの。
(4)乙第4号証 「本件登録意匠の意匠権者がこのインターネットの販売サイトで2020年1月30日に購入した甲第2号証に係る商品」の購入品の写真のコピー。
(5)乙第5号証 「2020年1月30日の購入明細には、2020年1月31日より前の2020年1月30日購入にも関わらず、乙第5号証に示すようにSONY製センサーの使用が謳われている」ことを示す、購入明細のコピー。

第4 口頭審理

当審は、本件審判について、令和4年(2022年)3月10日に口頭審理を行った。審判長は、本件審判において請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由について、前記第2の(2−1)及び(2−2)のとおりとし、甲第1号証及び甲第2号証、乙第1号証ないし乙第5号証について取り調べた。(令和4年3月10日付け「第1回口頭審理調書」)

第5 当審の無効理由通知

当審は、請求人及び被請求人の主張について審理し、更に請求人が申し立てない理由についても審理したところ、本件登録意匠の意匠登録に無効理由が認められたので、その無効理由を、令和4年(2022年)3月30日付けで被請求人に対して、無効理由通知書により通知し、請求人に対して、職権審理結果通知書により通知し、期間を指定して意見書の提出を求めたところ、同年4月22日に被請求人より意見書の提出があり、請求人からの応答はなかった。

無効理由通知書及び職権審理結果通知書により通知した無効理由は、同内容であり、本件登録意匠が、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記2の意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するものと認められ、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するから、本件の意匠登録が同法同条同項の規定に違反してされたものであり、意匠法第48条第1項第1号に掲げる意匠に該当するので無効とすべきものであるとの理由であり、具体的には以下のとおりである。


「1 本件登録意匠(別紙第1参照)
本件の意匠登録は、令和2年(2020年)1月10日に意匠登録出願(意願2020−355)され、令和2年8月4日に意匠権の設定の登録(意匠登録第1666587号)がなされたものであって、その意匠は、意匠に係る物品を「ドライブレコーダー」とし、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、願書及び願書に添付した図面の記載のとおりとしたものである。
本件登録意匠は、取付用部材を用いて、車両内のフロントガラス上部等に貼付して車外用カメラにより車外の映像を記録するドライブレコーダーであって、その形態は、具体的には以下のとおりである。

基本的構成態様
(1)全体は、使用者側を正面とすると、正面側に表示部、背面側に車外用カメラを備える本体部、正面視本体部の左側に車内用カメラ部、同右側にスピーカー部、そして本体部上面の取付用部材から成り、本体部底面側に操作ボタン部を、上面側に端子部を有するものである。

具体的構成態様
(2)本体部の形態は、側面視を略半楕円形とする倒略半楕円柱状であって、垂直面のほぼ全面を正面視横長長方形状の表示部とし、背面視中央左寄りに隅丸正方形状の凹部を形成して、当該凹部に隅丸四角柱状の車外用カメラを配するものであって、車外用カメラは本体部より外方に僅かに突出する。
(3)車内用カメラ部の形態は、本体部の左側面略中央から水平方向に大きく突出した円柱体の正面側に、円柱状のカメラを嵌め込むものであって、当該嵌め込まれた円柱状の車内用カメラは、その嵌め込まれている円柱体より垂直方向に僅かに突出している。
(4)スピーカー部の形態は、本体部の右側面略中央から水平方向に突出する短円柱状とし、円形端面には複数の小円孔が放射状に施される。
(5)取付用部材の形態は、本体部正面視右寄りの上面に、大小の平面視隅丸横長直方体を二つ重ねて配するものであって、大きい方の隅丸横長直方体は天面を斜状にして上側に配し、下側の隅丸横長直方体よりも正面側に僅かに突出する。
(6)操作ボタン部は、本体部底面側の表示部寄りに、底面視横長トラック形状凹部が表れ、当該横長トラック形状凹部の横幅と本体部の横幅の比率は約1:1.3であり、凹部内には略横長矩形状のボタンを水平方向に5つ配し、5つのボタンは、中央の3つが横長矩形状、左右の2つが各外方側の一辺のみが凸弧状の略横長矩形状である。
(7)端子部は、背面視において、本体部上面の表示部側、取付用部材の右側に、横長トラック形状凹部が表れ、当該横長トラック形状凹部の横幅と本体部の横幅の比率は約1:3.6であり、当該凹部内には異なる端子を2つ配したものである。

2 引用意匠(別紙第2参照)
引用意匠は、米国非営利法人インターネット・アーカイブ(The Internet Archive)が運営するインターネット・アーカイブ(Wayback Machine)により、2019年10月24日付けで保存・公開されている「JADO捷渡智能」のホームページにおいて「微単(当審注:「単」は、原文では「つかんむり」の点を2つとしたもの)系列」に「D350」として表された「ドライブレコーダー」の意匠(出力日:令和4年3月16日)。

出力日 2022年3月16日
インターネット・アーカイブURL
https://web.archive.org/web/20191024131625/http://www.china−jado.com/page/490.htm

引用意匠は、取付用部材を用いて、車両内のフロントガラス上部等に貼付して車外用カメラにより車外の映像を記録するドライブレコーダーであって、その形態は、具体的には以下のとおりである。
なお、引用意匠の図の向きは、本件登録意匠の図面の向きにあわせて認定する。

基本的構成態様
(1)全体は、使用者側を正面とすると、正面側に表示部、背面側に車外用カメラを備える本体部、正面視本体部の左側に車内用カメラ部、そして本体部上面の取付用部材から成り、本体部底面側に操作ボタン部を、上面側に端子部と推認される凹部を有するものである。

具体的構成態様
(2)本体部の形態は、側面視を略半楕円形とする倒略半楕円柱状であって、垂直面のほぼ全面を正面視横長長方形状の表示部とし、背面視中央左寄りに隅丸正方形状の凹部を形成して、当該凹部に隅丸四角柱状の車外用カメラを配するものであって、車外用カメラは本体部より外方に僅かに突出する。
(3)車内用カメラ部の形態は、本体部の左側面略中央から水平方向に大きく突出した円柱体の正面側に、円柱状のカメラを嵌め込むものであって、当該嵌め込まれた円柱状の車内用カメラは、その嵌め込まれている円柱体より垂直方向に僅かに突出している。
(4)スピーカー部の有無及びその形態は不明である。
(5)取付用部材の形態は、本体部正面視右寄りの上面に、大小の平面視隅丸横長直方体を二つ重ね、天面に板体を貼付して配するものであって、小さい方の隅丸横長直方体は天面を斜状にして上側に配する。
(6)操作ボタン部は、背面図によると、本体部底面側の表示部寄りに、底面視横長凹部が表れ、当該横長凹部の横幅と本体部の横幅の比率は約1:1.2であり、凹部内には横長状のボタンを水平方向に5つ配するものであるが、当該横長凹部の具体的な形状は不明であって、横長状の5つのボタンについても、中央の3つが左右の2つよりやや横長であるが、具体的な形状は不明である。
(7)端子部と推認される凹部は、背面視において、本体部上面の表示部側、取付け用部材の右側に、横長凹部が表れ、当該凹部の横幅と本体部の横幅の比率は約1:8であり、当該横長凹部内の端子の形状は不明である。
(8)色彩については、全体が黒色であり、取付用部材の天面板が暗赤色であって、本体部背面側中央に水平方向の銀色の帯状装飾が表れる。

3 対比
本件登録意匠と引用意匠の対比
(1)物品について
本件登録意匠及び引用意匠(以下「両意匠」という。)は、いずれも、取付用部材を用いて、車両内のフロントガラス上部等に貼付して車外用カメラにより車外の映像を記録する「ドライブレコーダー」であって、両意匠の意匠に係る物品は、同一である。
(2)形態について
ア 共通点
基本的構成態様について
(A)全体は、使用者側を正面とすると、正面側に表示部、背面側に車外用カメラを備える本体部、正面視本体部の左側に車内用カメラ部、そして本体部上面の取付用部材から成り、本体部底面側に操作ボタン部を、上面側に端子部を有するものである点、
具体的構成態様について
(B)本体部の形態は、側面視を略半楕円形とする倒略半楕円柱状であって、垂直面のほぼ全面を正面視横長長方形状の表示部とし、背面視中央左寄りに隅丸正方形状の凹部を形成して、当該凹部に隅丸四角柱状の車外用カメラを配するものであって、車外用カメラは本体部より外方に僅かに突出する点、
(C)車内用カメラ部の形態は、本体部の左側面略中央から水平方向に大きく突出した円柱体の正面側に、円柱状のカメラを嵌め込むものであって、当該嵌め込まれた円柱状の車内用カメラは、その嵌め込まれている円柱体より垂直方向に僅かに突出している、
(D)取付用部材の形態は、本体部正面視右寄りの上面に、大小の平面視隅丸横長直方体を二つ重ねて配する点、
(E)操作ボタン部は、本体部底面側の表示部寄りに、底面視横長形状凹部内に横長状のボタンを水平方向に5つ配する点、
(F)端子部は、背面視において、本体部上面の表示部側、取付け用部材の右側に、横長凹部に表れる点が共通する。

イ 相違点
具体的構成態様について
(a)車内用カメラ部の円柱に対して垂直方向に円柱状のカメラを嵌め込む位置が、本件登録意匠は正面側であるのに対し、引用意匠は背面側である点、
(b)スピーカー部について、本件登録意匠は本体部の右側面略中央から水平方向に突出する短円柱状とし、円形端面には複数の小円孔が放射状に施されるのに対し、引用意匠はその有無及び端面側の具体的な態様が不明である点、
(c)取付用部材の形態について、大小の平面視隅丸横長直方体を二つ重ねて配するもののうち、本件登録意匠は大きい方の隅丸横長直方体は天面を斜状にして上側に配し、下側の隅丸横長直方体よりも正面側に僅かに突出するのに対し、引用意匠は、天面に板体を貼付して配するものであって、小さい方の隅丸横長直方体は天面を斜状にして上側に配する点、
(d)操作ボタン部について
(d−1)底面視横長凹部の形状が、本件登録意匠が横長トラック形状であるのに対し、引用意匠は横長であっても具体的な形状が不明である点、
(d−2)底面視横長凹部の横幅と本体部の横幅の比率が、本件登録意匠が約1:1.3であるのに対し、引用意匠は約1:1.2である点、
(d−3)5つのボタンの形状について、本件登録意匠は中央の3つが横長矩形状、左右の2つが各外方側の一辺のみが凸弧状の略横長矩形状であるのに対し、引用意匠は中央の3つが左右の2つよりやや横長であるが、具体的な形状は不明である点、
(e)端子部について、横長凹部の横幅と本体部の横幅の比率が、本願意匠が当該凹部のは約1:3.6であるのに対し、引用意匠は約1:8であり、端子が、本願意匠は当該横長凹部内に異なる端子を2つ配したものであるのに対し、引用意匠は不明である点、
(f)色彩について、本件登録意匠が色彩を特定しないのに対し、引用意匠は全体が黒色であり、取付用部材の天面板が暗赤色であって、本体部背面側中央に水平方向の銀色の帯状装飾が表れる点で相違する。

4 判断
(1)意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。
(2)両意匠の形態の共通点及び相違点の評価
ア 形態の共通点の評価
共通点(A)については、全体が、正面側に表示部、背面側に車外用カメラを備える本体部、正面視本体部の左側に車内用カメラ部、そして本体部上面の取付用部材から成り、本体部底面側に操作ボタン部を、上面側に端子部を有する両意匠全体の基本的な形態は、ドライブレコーダーの物品分野において、概括的な態様にとどまり、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に、共通点(B)については、本体部が側面視を略半楕円形とする倒略半楕円柱状であるものがドライブレコーダーの物品分野において特異な形状であり、かつ、本体部は物品を構成する部材のうち最も大きな箇所であるため共通の視覚的印象を強めること、また、短隅丸四角柱状の車外用カメラを側面視を略半楕円形とする倒略半楕円柱の曲面に嵌め込む態様は、両意匠のみに共通する特徴であって、需要者の注意を引きつけることから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
共通点(C)については、円柱体に対して垂直方向に円柱状のカメラを嵌め込むものは一般的に見られる態様ではあるが、車内用カメラ部を、側面視を略半楕円形とする倒略半楕円柱状の本体部の左側面略中央から水平方向に大きく突出して円柱状に形成するものは特徴といえるものであるから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
共通点(D)については、本体部平面視右寄りに、略相似形のブロック体が重なっているように看取されることから、両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼす。
共通点(E)については、設置状態おいて視認されにくい細部に係るものであるが、需要者が操作の際に直接手で触れる箇所であって一定の注意を払うところであるから、両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼす。
共通点(F)については、設置状態おいては視認されにくい細部に係るものであるが、需要者は設置の際の利便性や設置後の配線等を含めた美感を想定して注意を払うところ、両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼす。
イ 形態の相違点の評価
これに対して、相違点(a)については、当該車内用カメラ部が円柱状であって、円柱の中心を軸に回動するものと解するのが相当であるから、円柱状のカメラを嵌め込む位置の相違は、使用状態によって変化するものであって重要では無く、この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
相違点(b)については、引用意匠におけるスピーカー部の有無及び端面側の具体的な態様が不明であっても、本件登録意匠のようにスピーカー部に小円孔が施される態様は一般的であるのでこの点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
相違点(c)については、本体部平面視右寄りの上面に、略相似形のブロック体が重なっているように看取されるものの、当該箇所のみに注目すれば、大小の隅丸横長立方体の上下の配置位置が異なるのは視覚的印象に多少の差異を与えるものであるから、両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼす。
相違点(d−1)及び(d−3)については、引用意匠の凹部の形状及びボタンの詳細な形態が不明であっても、視認できる範囲での共通する態様が顕著であって、その中で見られる細部の変更の域を出るものとはいえないから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また、相違点(d−2)についても、共通点(E)に記載のように操作ボタン部は需要者が一定の注意を払う箇所であることを考慮しても、比率の相違としては小さく、物品全体の中における操作部の範囲としてはむしろ近似するものであって、類否判断に及ぼす影響は小さい。
相違点(e)については、横長凹部の横幅と本体部の横幅の比率における相違は、本体部平面側における取付用部材を除いた範囲内の構成比率の変更に過ぎないから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また、端子の形態等について引用意匠が不明であっても、意匠全体からみれば局所的な相違であり、かつ使用状態では視認し難い凹部内のものであって、需要者の注意を格別ひくものとはいえないから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
相違点(f)については、選択的に様々な色彩を施すことは、ごく普通の造形手法であるから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そして、相違点(c)は類否判断に一定程度の影響を及ぼすが、その余の相違点はいずれも類否判断に及ぼす影響は小さく、総じても両意匠の類否判断を左右するほどの影響を及ぼすには至らないものである。
(3)両意匠の類否判断
そうすると、両意匠は意匠に係る物品が同一であって、形態においては、共通点(A)は両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいとしても、共通点(B)及び共通点(C)は、大きく、共通点(D)ないし共通点(F)は両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものであるから、これらの共通点は、総じて、見る者に与える共通の印象を一層強くするものであるのに対し、相違点(c)は類否判断に一定程度の影響を及ぼすものの、その余の相違点はいずれも類否判断に及ぼす影響は小さく、総じても両意匠の類否判断を左右するほどの影響を及ぼすには至らず、相違点の印象は、共通点の印象を覆すには至らないものであるから、意匠全体として見た場合に、両意匠は類似する。」

第6 意見書

被請求人が令和4年(2022年)4月22日に提出した意見書には、以下の主張が述べられている。

「3.無効理由に対する意見

1)相違点に関して

具体的態様に関しまして相違点として、(a)〜(f)について列挙されていますが、新たに
(g)模様について、本件登録意匠が模様を特定しないのに対し、引用意匠は本体部背面側中央の銀色の帯状装飾の背面視右下に本体部の横幅約20%、高さ約15%程度の領域に白色で「JADO」の文字列が配される点でも相違することになると思われます。
ここで、「JADO」の文字列について考察します。まず、「JADO」の文字列による一般的な検索結果では「インターネット販売サイトでの販売情報」、「JADOのドラレコはやはりイメージセンサーを偽装していた!」等の記事程度しか挙がってこないため、需要者に対して「JADO」の文字列が周知、著名な商標とは言い難いと思われます。
また、「JADO」の文字列は、所謂ヤンチャ系と呼ばれる方々が好んで用いたがる「邪道」のアルファベット表記とも考えられます(新日本プロレスラー邪道氏が自身の表記をこのようにしています。)。
よって、東京地裁H24.9.6H23(ワ)23260「サーフズアップ事件」の判決等に鑑みても「JADO」の文字列は需要者が商標的使用態様であると断定できるものではないと思われます。
また、万一、需要者が商標的使用態様であると認識したとしても、相応の領域範囲に表示されてものであり、設置時にフロントガラス越しに視認できることに鑑みても、意匠を構成しないものであるとすることはできないと思われます。
よって、相違点(g)を加えた上での、再度の類否判断を行っていただきたく思います。
なお、需要者は立体物の類否判断において、意匠である、商標であるとの意識をして判断することはないものと思われます。換言すると、需要者、特に一般需要者が立体物の類否を判断する際に、意匠として類似、商標として類似等の区別をして判断をすることはないということになると思われます。

4.結論
相違点として上記(g)が考慮されていないと思われますので、相違点(g)を加えた上で、御再査いただきますようよろしくお願いいたします。」

第7 当審の判断

1 本件登録意匠

前記第5に記載のとおりである。

2 引用意匠

前記第5に記載のとおりである。

3 本件登録意匠と引用意匠の対比

前記第5に記載のとおりである。

4 本件登録意匠と引用意匠の類否判断

前記第5に記載のとおりである。

5 無効理由について

引用意匠は、前記第5に示したとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である。
そうすると、本件登録意匠は、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものである。

6 当審の拒絶の理由に対する被請求人の意見書の主張について

被請求人が、意見書において新たに両意匠の相違点として追加して判断すべきと主張した相違点(g)について検討すると、引用意匠には「JADO」と判読できる文字列が視認できるのに対して、本願意匠には文字列はなく、無模様である点において両意匠は相違する。
しかしながら、当該文字列は、意匠の構成要素である模様として一定の視覚的効果をもたらすものであるとしても、単に一般的な製品等に付されるロゴ等の文字列を表示したに過ぎず、また、当該文字列が意匠全体に占める大きさもごく小さなものであるから、相違点(g)が両意匠の類否判断に与える影響は極めて小さい。
そうすると、両意匠の形態の類否判断においては、前記第5のとおり、共通点は、総じて、見る者に与える共通の印象を一層強くするものであるのに対し、相違点(c)は類否判断に一定程度の影響を及ぼすものの、その余の相違点はいずれも類否判断に及ぼす影響は小さく、総じても両意匠の類否判断を左右するほどの影響を及ぼすには至らないものであるから、この被請求人の主張は採用することができない。

第8 むすび

以上のとおり、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同項柱書の規定に違反して登録されたものであるから、本件の意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号に掲げる意匠に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。






審理終結日 2022-07-27 
結審通知日 2022-07-29 
審決日 2022-08-09 
出願番号 2020000355 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (J3)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 藤澤 崇彦
渡邉 久美
登録日 2020-08-04 
登録番号 1666587 
代理人 松本 秀治 
代理人 石黒 修 

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