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審決分類 審判    E2
管理番号 1401731 
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2022-01-11 
確定日 2023-08-23 
意匠に係る物品 子供用四輪車 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1658399号「子供用四輪車」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由
第1 手続の経緯

本件意匠登録1658399号の意匠(以下「本件意匠登録という。」別紙第1参照)は、令和1年(2019年)10月11日に意匠登録出願(意願2019−022880)されたものであって、令和2年(2020年)3月5日付けで登録査定がなされ、同年4月7日に意匠権の設定の登録がされた後、同年4月27日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

令和4年(2022年) 1月11日付け 審判請求書の提出
同年 8月30日付け 請求書副本の送達通知
同年 11月 8日付け 答弁書の提出
同年 11月22日付け 答弁書副本の送付通知
令和5年(2023年) 1月13日付け 上申書(請求人)の提出
同年 1月16日付け 上申書(被請求人)の提出
同年 1月26日付け 書面審理通知書の送付

第2 請求人による請求の趣旨及び理由

請求人は、請求の趣旨を
「登録第1658399号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由を、審判請求書で以下のとおり主張した。

1 請求の理由

「6 請求の理由
第1 本件登録意匠
登録番号 第1658399号
意匠に係る物品 子供用四輪車
別紙1意匠公報に記載のとおり

第2 手続の経緯
出 願 令和1年10月11日
登 録 令和2年4月7日

第3 意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

第4 本件意匠登録を無効とすべき理由
1 本件登録意匠の構成態様等

本件登録意匠は、意匠登録第1658399号の意匠公報に記載のとおり、意匠に係る物品を「子供用四輪車」とし、その形態は、以下のとおりである。
以下、別紙2対比説明書の本件登録意匠の説明図を参照して説明する。(当審注:「別紙2対比説明書」省略)

(1)基本的構成態様
ア 正面視において、水平丸パイプ状のハンドル1と、これに中央で略T字状に結合されるハンドルステム2と、フレーム3の前端部を構成しハンドルステム2を貫通させるヘッドチューブ4と、その下部においてハンドルステム2の下端に水平の車軸5で支持される左右平行一対の前輪6とを有する。
イ フレーム3は、側面視において、ヘッドチューブ2の中央部から後輪8の軸心に向かって直線状に下方に概ね25°傾斜して延び、このフレーム3の略中央上部にサドル7が設けられ、サドル7の斜め下後方において、前輪6と略同径の後輪8がフレーム3に支持される。
ウ 各部の寸法比率は概略以下のとおりである。全長:全高は、10:7、全高:車輪直径は、10:4、全長:サドル長は、10:5である。
エ 全体として、サドル7が大きく、2つの前輪6が存する前方が幅広で、後輪8が存する後方が幅狭の形状である。

(2)本件登録意匠の具体的構成態様
ア ハンドル1は、グリップエンドのない真っ直ぐな丸パイプ状である。
イ ヘッドチューブ4は、側面視において後方に傾いた丸パイプ状であり、ハンドルステム2の全長の大部分を貫通させる。
ウ ヘッドチューブ4を貫通するハンドルステム2の下端部は、左右前輪6を連結する車軸5とその中央において接続されるが、視認できない。
エ 左右の前輪6の外側には、外方に僅かに膨出する球面状のホイールキャップ9が設けられる。
オ 傾斜したフレーム3は、断面が長円形状で、ヘッドチューブ4と略同一幅の直線状の一部材で構成される。
カ サドル7は、前部7aと後部7bの2部材からなり、全体として側面視において後方広がりの略三角形状で、後端部は後輪8の中心上方位置付近にあって、やや上方に反り返り、下縁は略フレーム3の上縁に沿って前方上がりに斜めに延びる。
キ 後輪8は、外側に前輪6と同様なホイールキャップ9を有する2つの車輪8a、8bがそれと略同径の円環状カバー8cを挟んで略一体の三層状に形成され、この円環状カバー8cにフレーム3の後端が差し込まれ、その内部で視認できない車軸を支持する。

2 甲第1号証の意匠の構成態様等

甲1意匠は、意匠登録第1513381号の意匠公報に記載のとおり、意匠に係る物品を「子供用乗用玩具」とし、その形態は、以下のとおりである。
以下、別紙2対比説明書の甲1意匠の説明図を参照して説明する。(当審注:「別紙2対比説明書」省略)

(1)基本的構成態様
ア 正面視において、水平丸パイプ状のハンドル1と、これに中央で略T字状に結合されるハンドルステム2と、フレーム3の前端部を構成しハンドルステム2を貫通させるヘッドチューブ4と、その下部においてハンドルステム2の下端に水平の車軸5で支持される左右平行一対の前輪6とを有する。
イ フレーム3は、側面視において、ヘッドチューブ2の中央部から後輪8の軸心に向かって直線状に下方に概ね25°傾斜して延び、このフレーム3の略中央上部にサドル7が設けられ、サドル7の斜め下後方において、前輪6と略同径の後輪8がフレーム3に支持される。
ウ 各部の寸法比率は概略以下のとおりである。全長:全高は、10:7、全高:車輪直径は、10:4、全長:サドル長は、10:5である。
エ 全体として、サドル7が大きく、2つの前輪6が存する前方が幅広で、後輪8が存する後方が幅狭の形状である。

(2)具体的構成態様
ア ハンドル1は、真っ直ぐな丸パイプ状で、両端部には略扁平球状のグリップエンド1aが形成される。
イ 丸パイプ状のヘッドチューブ4は、鉛直状で、ハンドルステム2の中間部を貫通させ、上端部には下向きの略半球状のカバー4aが、下端部には上向きのやや扁平カップ状のカバー4bが設けられる。
ウ ヘッドチューブ4を貫通して下方へ延出したハンドルステム2は、左右前輪6を連結する車軸5とその中央において球体状部2aを介して接続される。
エ 左右の前輪6の外側中央には略円錐台状の小突起6aが設けられる。
オ 傾斜したフレーム3は、断面が長円形状でヘッドチューブ4と略同一幅のメインフレーム3aと、サドル7の端部付近から平面視略U字状にメインフレーム3aから分岐するパイプ状のバックフォーク3bとで構成される。
カ サドル7は、側面視において後方広がりの略三角形状で、後端部は、後輪8の中心上方位置付近にあって、やや上方に反り返り、下縁は略メインフレーム3aの上縁に沿って前方上がりに斜めに延びる。
キ 単一の後輪8は、バックフォーク3bの下端において、これよりやや太い伏椀状の軸受10に支持された視認できない車軸によって軸支される。

第5 甲1意匠と本件登録意匠との対比

1 甲1意匠と本件登録意匠の共通点及び差異点

(1)共通点
両意匠は、基本的構成態様が共通する。また両意匠は、具体的構成態様においては、サドル7が、側面視において後方広がりの略三角形状で、後端部は、後輪8の中心上方位置付近にあって、やや上方に反り返り、下縁は略フレーム3の上縁に沿って前方上がりに斜めに延びる共通性を持つ。

(2)差異点
両意匠には、具体的構成態様において以下の差異点がある。
ア 甲1意匠は、ハンドル1の両端部には略扁平球状のグリップエンド1aが形成されるのに対し、本件登録意匠は、グリップエンド1aを有しない点。
イ 甲1意匠は、ハンドルステム2とヘッドチューブ4が鉛直状に形成され、ヘッドチューブ4は、ハンドルステム2の中間部を貫通させ、上下端部に略半球状のカバー4a、4bが設けられるのに対して、本件登録意匠は、ハンドルステム2とヘッドチューブ4が後方に傾いており、ハンドルステム2の全長の大部分を貫通させ、半球状のカバー4a、4bを有しない点。
ウ 甲1意匠は、ヘッドチューブ4を貫通して下方へ延出したハンドルステム2が、左右前輪6を連結する車軸5とその中央において球体状部2aを介して接続されるのに対して、本件登録意匠は、ヘッドチューブ4を貫通するハンドルステム2の下端部が視認できない点。
エ 甲1意匠は、前輪6の外側中央に略円錐台状の小突起6aが設けられているのに対して、本件登録意匠は、前輪6の外側に外方に僅かに膨出するホイールキャップ9が設けられている点。
オ 甲1意匠は、フレーム3が、断面が長円形状でヘッドチューブ4と略同一幅のメインフレーム3aと、サドル7の端部付近から平面視略U字状にメインフレーム3aから分岐するパイプ状のバックフォーク3bとで構成されるのに対し、本件登録意匠は、フレーム3が、断面が長円形状で、ヘッドチューブ4と略同一幅の直線状の一部材で構成される点。
カ 甲1意匠は、単一の後輪8がバックフォーク3bの下端のこれよりやや太い伏椀状の軸受10に支持された車軸によって軸支されるのに対して、本件登録意匠は、2つの車輪8a、8bが、外側に前輪と同様なホイールキャップ9を有し、相互間に、それよりわずかに小径の円環状カバー8cを挟んで略一体の三層状に形成され、この円環状カバー8cにフレーム3の後端が差し込まれ、その内部で視認できない車軸を支持する点。

(3)甲1意匠と本件登録意匠の類否評価
ア 共通点の評価
〔1〕 基本的構成態様の共通点の評価
甲1意匠と本件登録意匠は、基本的構成態様が共通する。この基本的構成態様は、両意匠において、子供用乗用玩具の使用上の安全性の見地からも需要者の最も注意を惹き付ける、意匠の要部であるということができる。
すなわち、甲1意匠と本件登録意匠の基本的構成態様における、ペダルのない2つの前輪6が存する前方が幅広で、後ろの一輪8が存する後方が幅狭の形態は、ハンドル1へのつかまり立ちや乗り降りによっても倒れにくく、乗用時に床を蹴る足が後部側面に衝突しにくいという機能的側面での共通の印象を看る者に与える。
また、全長の概略50%を占める大きなサドル7は、幼児の身体を安定して保持でき、介助する保護者が幼児を乗せやすいという、両意匠に共通の機能的印象を看者に与える。
上記に加え、ヘッドチューブ4と、これと略同一幅の太いフレーム3が、強固な乗り物であると感じさせる共通の視覚的効果がある。この点は、両意匠の類否判断を左右するほど大きな影響を与えるものである。
意匠の類否は、周辺意匠との相対的な関係において判断されるべきものであるが、甲1意匠は、以下に述べるように、物品として高い新規性を有するものであり、これが意匠としての類似範囲を画する重要な要素となる。
前輪が、ペダルのない2輪で構成される子供用乗用玩具として、甲1意匠の出願前に公知の周辺意匠としては、甲2、甲3意匠以外に見いだすことができない。しかし、これらは、いずれも甲1意匠と本件登録意匠に共通の基本的構成態様を備えていない。
すなわち、甲1意匠は、その物品としての新規性が高いものであって、一般需用者が、前輪が、ペダルのない2輪で構成される子供用乗用玩具を目にする機会はきわめて少なく、甲1意匠を目にした一般需用者は、その基本的構成態様に強く印象づけられる(この点、甲1意匠の実施品である「ディーバイクミニ」は、公益財団法人日本デザイン振興会が運営する2015年度、グッドデザイン賞を受賞した製品(甲4)であるところ、受賞にあたっての「審査委員の評価」(甲4第3頁)には、「こどもの観察からうまれた、素直でスマートなプロダクトである。前輪を二輪にしたことで生まれた安定性や、ペダルをなくし小さな子供でも乗りこなせるアイディアを評価したい。」とされることからも窺える。)ことになるのであって、この基本的構成態様が共通する範囲が甲1意匠の類似範囲を画しているといえる。
そして、本件登録意匠は、甲1意匠の類似範囲を画している基本的構成態様を共通にする意匠である。
〔2〕 具体的構成態様の共通点の評価
具体的構成態様において、サドル7が、側面視において後方広がりの略三角形状で、後端部は、後輪8の中心上方位置付近にあって、やや上方に反り返り、下縁は略フレーム3の上縁に沿って前方上がりに斜めに延びる共通性を持つ点は、幼児に身体的特徴に合わせて身体を安定的に保持する形態であり、後端部がやや上方に向かって突出し反り返った形状に形成された点は、後方にずり落ちないための配慮がなされた形状となっており、看者に安全なサドルであるとの印象を与えるものであり、類否判断に与える影響は大きい。

イ 差異点の評価
一方、具体的構成態様におけるア〜カの差異点は、周辺意匠との関係において両意匠の上記の強い共通性を凌駕して全体として別異の美感を起こさせるものではないということができる。
このうち、オとカの差異点は、類否評価に影響を一定の影響を与えると考えられるので検討する。
オの差異点、すなわち、甲1意匠は、フレーム3が、断面が長円形状でヘッドチューブ4と略同一幅のメインフレーム3aと、サドル7の端部付近から平面視略U字状にメインフレーム3aから分岐するパイプ状のバックフォーク3bとで構成されるのに対し、本件登録意匠は、フレーム3が、断面が長円形状で、ヘッドチューブ4と略同一幅の直線状の一部材で構成される点については、サドル7の下部の、需要者の通常の視点である上方からは見えにくい部位についての差異であり、しかも、形状が共通で見え易いメインフレーム3aの部分が、物品の強固な駆体を構成しているという強い共通の印象を看者に与えるため、この印象を凌駕して別異の印象を看者に与えるほどの差異とはいえず、類否判断に与える影響は小さい。
カの差異点、すなわち、甲1意匠は、単一の後輪8がバックフォーク3bの下端のこれよりやや太い伏椀状の軸受10に支持された車軸によって軸支されるのに対して、本件登録意匠は、2つの後部車輪8a、8bが、相互間に、それよりわずかに小径の円環状カバー8cを挟んで略一体の三層状に形成され、この円環状カバー8cにフレーム3の後端が差し込まれ、その内部で視認できない車軸を支持する差異点については、結局のところ、後輪が1輪であるか2輪であるかの差異であるが、本件登録意匠における後輪8は、円環状カバー8cを挟んで三層状の一体状のものであるとの印象を与え、しかも、後輪2輪が一体となった幅が、前輪2輪間の幅より狭く、全体として、前方が幅広で、後方が幅狭の三輪車の形状であるという共通の印象を看者に与るから、類否判断に与える影響は小さい。
なお、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「子供用四輪車」とするが、本件登録意匠の実施品である商品のインターネット通信販売サイト(甲5、6、7)における商品説明には、いずれも「XJD 三輪車 1歳−3歳 Mini Bike」などと、敢えて「三輪車」と表示され、三輪車として取引されている実情が見られる。これは、その商品の外観上の特徴、すなわち、甲1意匠と共通の、全体として、前輪2輪の前方が幅広で、後輪1輪の後方が幅狭の三輪車の形態的印象が強く看者に認識されているからにほかならない。

ウ 総合評価
上記の共通点および差異点の検討結果を基に総合的に判断すると、両意匠は、要部である基本的構成態様が共通し、全体として、2つの前輪が存する前方が幅広で、後輪が存する後方が幅狭の形状で、ハンドルへのつかまり立ちや乗り降りによっても倒れにくく、また角がなく、床を蹴る足が後部側面に衝突しにくい安全な乗り物であるとの印象を与えると共に、ヘッドチューブと略同一幅の太いメインフレームが、スマートで強固な乗り物であると感じさせる視覚的効果が強く認識されるところであり、具体的構成態様における共通点と相俟って、両意匠の支配的要素となっており、両意匠の特徴を決定付けているということができる。
一方、差異点は、いずれも意匠の要部における差異ではなく、これらの差異が相侯って奏する視覚的効果を考慮したとしても、両意匠の共通点が奏する美感を凌駕するものではない。

第6 結び
以上のとおり、本件登録意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が共に「子供用乗用玩具」であって、同一物品であり、両者の形態を全体として総合的に観察すると、本件登録意匠と甲1意匠の形態は、その奏する美感を共通にし、互いに類似するというほかない。したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第 1号の規定に該当し、無効とすべきである。」

2 証拠方法
(1)甲第1号証 意匠登録第1513381号公報
(2)甲第2号証 意匠登録第1299834号公報
(3)甲第3号証 「ジャスパープッシュバイク」(三田シティドットコム)(備考1)
(4)甲第4号証 2015年度グッドデザイン賞受賞製品(甲1意匠の実施品)の紹介ウェブページ(備考2)
(5)甲第5号証 アマゾン XJDストアのWebページ(備考3)
(6)甲第6号証 Yahoo Japanショッピング
Pink−storeのWebページ(備考4)
(7)甲第7号証 楽天市場 JOLIE SHOPのWebページ(備考5)

備考1:
https://sandacity.com/?p=7369
備考2:
https://www.g-mark.org/award/describe/42082
備考3:
https://www.amazon.co.jp/XJD-%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AF-%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A-%E3%83%99%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AF-%E4%B8%80%E6%AD%B3%E3%81%AE%E8%AA%95%E7%94%9F%E6%97%A5%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%83%88/dp/B088JYWRMV
備考4:
https://store.shopping.yahoo.co.jp/pink-store/20211012232630-00750.html?sc_e=slga_pla_i_shp_02510&gclid=CjwKCAiAiKuOBhBQEiwAId_sKwBJOgut0r5amvvhqtFQtoWs9npDVHNDvTHFelOdMFUq-ZGewRTq0hoCx9kQAvD_BwE
備考5:
https://item.rakuten.co.jp/jolie-beauty/5000000108703/?s-id=sd_browsehist_search

第3 被請求人の答弁及び理由

被請求人は、答弁書を提出し、請求の趣旨に対する答弁を「本件意匠登録は意匠法第3条第1項第3号規定による無効理由に該当せず、本件意匠登録審判請求は成立しない、との審決を求める。」と答弁し、その理由を、以下のとおり主張した。

1 答弁の理由

「7 答弁の理由
本件登録意匠(乙)と、甲第1号証(甲1)との対比

(1) 意匠に係る物品の相違
(1−1)車輪の数からみた相違
乙は、正面斜視図、正面図、背面図、平面図、底面図から明らかなように、前輪2輪、後輪2輪の安定性ある子供用4輪車であり、意匠登録も意匠に係る物品の名称が「4輪車」として登録が認められている。甲1は、正面斜視図、正面図、背面図、平面図、底面図から明らかなように、後輪が1つかない(当審注:「1つしかない」の誤記と認められる。)、安定感に劣る3輪車であり、乗り物の基本構造が全く異なる別物品といえる。そして、乙は後輪2輪故、後部の車輪周りにボリューム感・安定感のある美感があるのに対し、甲1の後部の車輪周りには、ボリューム感・安定感のある美感はない。
(1−2)ヘッドチューブの角度から見た相違
乙は、正面斜視図、右側面図、平面図、底面図から明らかなように、ヘッドチューブが大きく後傾したクルーザ型であり、キャスター角が30度前後ある。乙は、サドルにお尻の載る高さが低く、また前後方向の位置が後輪近くになっている。これに対し、甲1は、正面斜視図、右側面図、平面図、底面図から明らかなように、ヘッドチューブが直立し、キャスター角が0度である。サドルにお尻の載る高さが高く、また前後方向の前後位置が乙に比較して後輪から離れた前寄りになっている。
乙はヘッドチューブの後傾により、側面視が前方から後方にかけて流線形の美感を有するのに対し、甲1はヘッドチューブの直立により前端に垂直壁の如き美感を有し、両者は全く異なる美観を呈する。
また乙はヘッドチューブの後傾により、平面視、底面視で前輪から後方に大きく離れた位置にハンドルがあり、複雑な形の美観有するのに対し、甲1はヘッドチューブの直立により、平面視、底面視で前輪とハンドルは重なり合っており、シンプルな形の美観を有し、両者は平面視において全く異なる美観を呈する。
(1−3)このように、乙と甲1は、物品のタイプが全く異なる故に、基本構造が全く異なっており、全体として全く異質な非類似な美観を呈する。

(2)前部の形態の相違
(2−1)前輪の相違
・乙の前輪は正面斜視図、右側面図、正面図から明らかなように、タイヤ幅が狭く、外側面にドーム形のホイールキャップが嵌着されており、側方から車軸は見えず、すっきりした美観を有している。一方、甲1は、正面斜視図、右側面図、正面図から明らかなように、タイヤ幅が広く、外側面がカバーされていないので、側方に車軸が露出したメカ的な美観を有している。
・このように、乙と甲1は、前輪の美観が全く異なる。
(2−2)ヘッドチューブ周りの相違
・乙は、正面斜視図、右側面図、正面図から明らかなように、ヘッドチューブがストレートパイプ状であり、ハンドルステム、ヘッドチューブ、車軸に到る上下方向に見たときに、段差形状は無く、すっきりしたシンプルな美観を有している。一方、甲1は、正面斜視図、右側面図、正面図から明らかなように、ヘッドチューブとハンドルの間、ヘッドチューブと球体状部の間に、小径のハンドルステムが露出しているため、ハンドル、ハンドルステム、ヘッドチューブ、ハンドルステム、球体状部の間に、多数の段差形状が存在し、複雑なメカ構造の美観を有する。
・このように、乙と甲1は、ヘッドチューブ周りの美観が全く異なる。
(2−3)ハンドルの相違
・乙のハンドルは、正面斜視図、右側面図、正面図、背面図、平面図から明らかなように、ハンドルステムの上端が突出した十字型であり、ハンドル軸方向の中央に段差があり、複雑な美観を有するのに対し、甲1は、正面斜視図、右側面図、正面図、背面図、平面図から明らかなように、ハンドルステムの上端が突出しないT字型であり、ハンドル軸方向に段差がなく、棒状のストレートな美観を有している。
・このように、乙と甲1は、ハンドルの美観が全く異なる。
(2−4)乙の前部は全体として、すっきりした美観を有しているのに対し、甲1の前部は、ヘッドチューブ周りに段差が多い、複雑なメカ的美観を有しており、両者は全く異なる美観を呈している。

(3)中央部の形態の相違
(3−1)サドルの相違
・乙のサドルは、正面斜視図、右側面図、平面図、底面図から明らかなように、長さが短く小型でスリムな銀杏型の美観を有している。一方、甲1のサドルは、正面斜視図、右側面図、平面図、底面図から明らかなように、乙よりも長く幅広で大きな重量感有る美観を有している。
・乙は、サドルの前にサドル前部が付設されているため、平面視で、ヘッドチューブと接続されたフレームが隠れて見えず、すっきりしたシンプルな美観を有している。一方、甲1のサドルは、サドル前部がなく、ヘッドチューブと接続されたフレームが見えており、複雑な構造の美観を有している。
(3−2)フレームの相違
・乙のフレームは、正面斜視図、右側面図、平面図、底面図から明らかなように、前端がヘッドチューブから始まり、後端が後輪の車軸までまっすぐ延びている。側面視、底面視は、ヘッドチューブと後輪の間に、一本のまっすぐ延びた棒が見えるだけであり、非常にシンプルな美観を有している。これに対し、甲1は、正面斜視図、右側面図、平面図、底面図から明らかなように、かなり太いフレームの後端が後輪の手前で終わってしまっており、サドル下のフレーム後端部から二股に分かれた細手のバックフォークが後輪の車軸まで延びている。側面視、底面視、平面視、底面視には、フレーム後端部から左右に枝分かれして後方へ延びた二股フォークの形態が表われており、非常に複雑なメカ構造の美観を有している。
(3−3)乙の中央部は小さなサドルと一本のフレームからなり、全体として、すっきりした美観を有しているのに対し、甲1の中央部は、大きなサドル、太いフレームと二股に分かれたバックフォークからなり、複雑なメカ的美観を有しており、両者は全く異なる美観を呈している。

(4)後部の相違
(4−1)後輪の数の相違
・乙は、後輪が左右に別れて二つ存在する。従って、乙の物品は前輪二輪、後輪二輪の4輪車であり、後部が幅広な形態となり、安定感ある美観を生じている。これに対し、甲1は、後輪が後部の中央に一つ存在するだけであり、従って、三輪車であり、後部が幅狭な形態となり、不安定な美観を生じている。
(4−2)後輪の形態の相違
・乙は、正面斜視図、正面図、背面図、平面図、底面図から明らかなように、後輪も前輪と同様にタイヤ幅が狭く、外側面にドーム形のホイールキャップが嵌着されており、側方から車軸は見えず、すっきりした美観を有している。一方、甲1は、正面斜視図、正面図、背面図、平面図、底面図から明らかなように、タイヤ幅が広く、外側面がカバーされていないので、側方に車軸が露出したメカ的な美観を有している。
(4−3)後輪の支持構造部分の相違
・乙は、正面斜視図、正面図、背面図、平面図、底面図から明らかなように、フレームの後端部が2つ後輪の間まで延びて車軸に連結されるとともに、円筒型のカバーで覆われているため、2つの後輪の間に段差が無く、また、後輪の側方への突起物もなく、全体がドラム形のすっきりとした美観を有している。これに対し、甲1は、正面斜視図、正面図、背面図、平面図、底面図から明らかなように、二股状のバックフォークが、後輪の外側で車軸を支持しているため、車軸とバックフォークの突出構造が際だったメカ的美観を有している。
(4−4)このように、乙と甲1は、後部の美観が全く異なる。

(5)以上詳細に述べた如く、
乙は、
物品が子供用四輪車でヘッドチューブが傾斜しており、全体が流線型で安定感ある美観を有し、
各車輪にホイールキャップが外嵌されていること、
サドルが小さいこと、
サドル前部が下のフレームを覆っていること、
フレームの後端が2つの後輪の間の車軸まで延びていること、
2つの後輪の間にカバーが着けられていること、
ヘッドチューブが軸方向に長く、ハンドルステムから前輪の車軸まで段差が無いこと、
などから、全体的にみて、きわめてすっきりしたスマートな美観を呈している。前部、中央部、後部に分けてみても、同様に、きわめてすっきりしたスマートな美観を呈している。
これに対し、甲1は、
物品が三輪車でヘッドチューブが垂直に立っており、前端が壁の如きで不安定な美観を有し、
各車輪の外側に車軸が露出していること、
サドルが大きいこと、
サドルとヘッドチューブの間のフレームが上から丸見えであること、
フレームの後端が後輪の前方で終わって、フレーム後端部から延びた二股状のバックフォークが後輪の外側で車軸を支持していること、
ヘッドチューブが短く、ハンドル、ハンドルステム、ヘッドチューブ、球体状部まで上下方向に段差が多いこと、
などから、全体的にみて、複雑なメカ構造の美観を呈している。前部、中央部、後部に分けてみても、複雑なメカ構造の美観を呈している。
従って、乙と甲1は、物品が全く異なり、全体的な美観、前部、中央部、後部に分けた美観も、全く異なる非類似の意匠である。本件意匠登録は、本件無効審判請求人の主張する意匠法第3条第1項第3号規定による無効理由に全く該当しないことは、明白である。本件意匠登録審判請求は成立しない、との審決を求める。」

第4 答弁書副本の送付

審判長は、請求人に対し、答弁書の副本を送達し、期間を指定して弁駁書の提出を求めたが、請求人からの応答はなかった。

第5 両当事者からの上申及び書面審理

請求人から令和5年(2023年)1月13日付けで、被請求人から同年1月16日付けでそれぞれ上申書が提出され、いずれも口頭審理ではなく、書面審理を希望する旨が申し述べられた。
それを受け、審判長は、両当事者に対し、同年1月26日付けでこの無効審判についての審理は、書面審理に付する旨を通知した。

第6 当審の判断

本件登録意匠及び意匠登録1513381号の意匠(以下「甲1意匠」という。)の認定にあたっては、子供用乗用遊戯具の前輪側を前方側、後輪側を後方側とする。また、ヘッドチューブとフレームを接合したものをメインフレームとする。


1 本件登録意匠
本件登録意匠は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「子供用四輪車」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、子供がサドルに跨がり、地面を足で蹴ることで前進することができる「子供用四輪車」である。

(2)本件登録意匠の形態
ア 基本的構成態様
全体は、メインフレームの前後に略円盤状の車輪を両側から2輪ずつ配した四輪車であって、全長、全幅及び全高の比率は、約2.1:1:1.4で、メインフレームは、斜め後方に傾斜した略縦長円筒形のヘッドチューブの背面中央に略横長角筒形のフレームを直角に接合し、全体を右側面視略「人」字状に形成したものである。ハンドルは略円柱形で、略短円筒形のハンドルステムの側面中央に直交するように取り付け、フレームの上面に略変形三角錐状のサドルを取り付けたものである。

各部の態様として、
イ サドル
サドルは、ヘッドチューブとフレームの接合点付近からフレーム上に沿うようにして取り付けられ、前部と後部で構成されたサドル全体の平面視は、上方が幅広の略細長卵形状とし、側面視を座面後端部が上方に向かって湾曲した略変形三角形状とし、後部のサドル上面周縁に沿って縁取りを施している。また、後部のサドルには、シートポストがフレームを貫通するように取り付けられ、シートポストのフレーム下側は、側面視略台形状に突出している。このシートポストを上方に突出することにより、サドルの高さ調節を可能としている。

ウ ヘッドチューブ
ヘッドチューブは、前輪の垂直軸に対する傾き角(キャスター角)を約30度とし、斜め後方に傾斜している。また、その下端部分を、平面視において、前方が弧状に膨出した略長方形板状の前輪用車軸と連結している。

エ 車輪
車輪は、円環状のタイヤと円盤状のホイールにより構成され、ホイールの両外側には略円形ドーム状のホイールキャップを設けている。
前輪は、前輪用車軸の左右先端部分に、平行になるように一対配しており、後輪は、フレームの後端部に2輪配し、この2つの後輪の間に、略短円筒形のカバーを設けている。


2 甲1意匠
甲1意匠は、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする平成26年(2014年)6月18日の意匠登録出願(出願番号:意願2014−013141)であり、同年11月7日に登録の設定(意匠登録第1513381号)がなされ、同年12月8日に意匠登録公報が発行されたものであって、願書及び願書添付図面の記載によれば、意匠に係る物品を「子供用乗用玩具」とし、その形態を、願書及び願書添付図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第2参照)

(1)甲1意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、子供がサドルに跨がり、地面を足で蹴ることで前進することができる「子供用乗用玩具」である。

(2)甲1意匠の形態
ア 基本的構成態様
全体は、メインフレームの前方側に略円盤状の車輪を2輪、後方側に1輪配した三輪車であって、全長、全幅及び全高の比率は、約2.3:1:1.7で、メインフレームは、鉛直状の略短円筒形のヘッドチューブの背面中央に略横長角筒形のフレームを斜め後方に向かって傾斜して接合して、全体を右側面視略「ト」字状に形成したものである。ハンドルは略円柱形で、略円柱形のハンドルステムの上端に、正面視略「T」字状に取り付け、フレームの上に略変形三角錐状のサドルを取り付けたものである。

各部の態様として、
イ フレーム
フレーム前端部は、ヘッドチューブ背面中央から、ヘッドチューブに対して下方に略65°傾斜するように接合し、後端部付近からは、先端寄りを内側に湾曲した略円柱形のバックフォークを、底面視略倒U字状となるよう左右に設けている。

ウ サドル
サドルは、フレーム上辺の後方から約1/5の位置に設けたシートポストによって取り付けられ、平面視において上方が幅広の略細長卵形状とし、側面視を座面中央部分が僅かに凹み、後端部が上方に向かって湾曲した略変形三角形状とし、その座面周縁に沿って縁取りを施したものである。

エ ヘッドチューブ
ヘッドチューブは、キャスター角が0度の鉛直状とし、その上下端部に、略半球状のカバーを配している。また、下方のカバー部から略円柱形の部材を延出している。

オ ハンドル
ハンドル両端に、略扁平楕円形状のグリップエンドを設けている。

カ 車輪
車輪は、円環状のタイヤと円盤状のホイールにより構成され、前輪は、その両外側中心部分に小突起を設けている。略円柱形の前輪用車軸は、中央に球体を形成し、ヘッドチューブ下端の部材と接合している。後輪は、バックフォークの後端部に配設された軸受の間に配している。

3 本件登録意匠と甲1意匠の対比

(1)意匠に係る物品の対比
本件登録意匠と甲1意匠(以下「両意匠」という)の意匠に係る物品は、本件登録意匠は「子供用四輪車」であり、甲1意匠は「子供用乗用玩具」であるが、いずれも、子供がサドルに跨がり、地面を足で蹴ることで前進することができる子供用乗用遊戯具であるから意匠に係る物品は概ね一致する。

(2)形態の対比
両意匠の形態を対比すると、主として、以下の共通点及び相違点が認められる。

ア 形態の共通点

(共通点1)両意匠は、全体の構成を、メインフレームの前後に略円盤状の車輪を設けたものとし、ヘッドチューブの上端に設けたハンドルステム上方に略円柱形のハンドルを取り付け、フレーム上に略変形三角錐状のサドルを取り付けた点において、共通する。

(共通点2)両意匠は、フレームを、略横長角筒形とした点において、共通する。

(共通点3)両意匠は、車輪を、円環状のタイヤと円盤状のホイールとし、前輪を、平行になるように一対(2輪)配した形態とした点において、共通する。


イ 形態の相違点

(相違点1)全体について、本件登録意匠は、ヘッドチューブのキャスター角を30度後傾、フレームをヘッドチューブに対して直角に接合したことにより、メインフレームの右側面視を略「人」字状に形成しているのに対して、甲1意匠は、ヘッドチューブのキャスター角を0度の鉛直状とし、フレームをヘッドチューブに対して約65°下方に傾斜して接合したことにより、メインフレームの右側面視を略「ト」字状に形成している点において、両意匠は相違している。
また、各部の長さの比率において、本件登録意匠は、全長、全幅及び全高の比率を約2.1:1:1.4としているのに対して、甲1意匠は、約2.3:1:1.7としている点において、両意匠は相違する。

(相違点2)フレームの構成及び具体的態様について、本件登録意匠は、フレームがヘッドチューブ背面中央から、後輪用車軸までまっすぐに延びて連結しているのに対し、甲1意匠は、フレーム後端部付近から、先端寄りを内側に湾曲した略円柱形のバックフォークを、底面視略倒U字状となるよう左右に設けている点において、両意匠は相違する。

(相違点3)サドルの形態及び取り付け態様について、本件登録意匠は、サドル前部とサドル後部で構成されているのに対し、甲1意匠は、一体型である点、
取り付け位置について、本件登録意匠は、ヘッドチューブとフレームの接合点付近からフレーム上面に沿うように設けられ、後部のサドルには、シートポストがフレームを貫通するように取り付けられ、サドルの高さ調節を可能としているのに対し、甲1意匠は、フレーム上辺の後方から約1/5の位置に立設したシートポストによってフレームから離れて取り付け、サドルの高さ調節が可能であるか否かは不明である点において、両意匠は相違する。

(相違点4)ヘッドチューブの形態について、本件登録意匠は、後方側に大きく傾斜したストレート型の略縦長円筒形としているのに対し、甲1意匠は、鉛直状で、略短筒形状とし、その上下端部に略半球状のカバーを配している点において、両意匠は相違する。

(相違点5)ハンドル及びハンドルステムの形態について、本件登録意匠は、ヘッドチューブと同径の略短筒形状のハンドルステムと、その側面中央に直交するようにハンドルを取り付け、略十字状を形成しているのに対し、甲1意匠は、略円柱形のハンドルステム上端に、略扁平楕円形状のグリップエンドを配したハンドルを、略「T」字状に取り付けた点において、両意匠は相違する。

(相違点6)車輪等の形態について、本件登録意匠は、ホイールの両外側に略円形ドーム状のホイールキャップを設けているのに対して、甲1意匠は、ホイールキャップは設けず、略円盤状のホイール中心部分に小突起を設けた点において、両意匠は相違する。

(相違点7)前輪用車軸周辺の形態について、本件登録意匠は、平面視において、前方が弧状に膨出した略長方形板状の前輪用車軸と、ヘッドチューブ下端を直接連結した形態としているのに対して、甲1意匠は、略円柱形の前輪用車軸の中央に球体を形成し、ヘッドチューブ下端の部材と接合している点において、両意匠は相違する。

(相違点8)後輪及び後輪取り付け部周辺の形態について、本件登録意匠は、2つの後輪の間に、略短円筒形のカバーを設けているのに対し、甲1意匠は、バックフォークの後端部に配設された軸受の間に1輪配している点において、両意匠は相違する。


類否判断

(1)意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、本件登録意匠は「子供用四輪車」であり、甲1意匠は「子供用乗用玩具」であって、いずれも「子供用乗用遊戯具」であるから、概ね一致する。

(2)両意匠の形態について

ア 共通点の評価
(共通点1)の全体の構成は、本件登録意匠や甲1意匠以外にも、請求人提出の甲第2号証、甲第3号証にも見られるように、「子供用乗用遊戯具」であれば誰しも思い浮かべることができる、概括的なものであるため、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

(共通点2)のフレームについては、甲第3号証にも見られるなど、両意匠以外にも見受けられるものであり、特段特徴のない略横長角筒形にすぎないものであるから、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

(共通点3)の車輪については、両意匠のように、前方側に2輪を配したものは、甲第2号証、甲第3号証に見られるように両意匠の他にもごく普通に見受けられるものであって、格別需要者の注意を引くものとはいえず、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。


イ 相違点の評価
(相違点1)の全体について、まず、フレームとヘッドチューブの形態については、子供用乗用遊戯具において最も大きく目につきやすい、いわば骨格をなすものであるところ、本件登録意匠は、側面視において、キャスター角を30度後傾したヘッドチューブとフレームからなるメインフレームの右側面視略「人」字状の形態としているのに対して、甲1意匠は、キャスター角0度の鉛直状ヘッドチューブとフレームからなるメインフレームの右側面視を略「ト」字状の形態としている点において、両意匠の本体部側面視の形態は大きく異なり、スタイリングに係る部分の形態を注視する需要者に異なる美感を与えるものであり、また、各部の長さの比率についても、本件登録意匠は、全長、全幅及び全高の比率を約2.1:1:1.4としているのに対して、甲1意匠は、約2.3:1:1.7とし、本件登録意匠の方がより重心が低く安定感がある形態である印象を与えるものであるから、(相違点1)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものである。

(相違点2)のフレームの構成及び具体的態様、(相違点4)ヘッドチューブの形態、(相違点5)ハンドルステム及びハンドルの形態、及び(相違点7)前輪用車軸周辺の形態については、いずれも子供用乗用遊戯具において目につきやすい前方部分の大部分を占める形態における相違であるところ、本件登録意匠のこれらの形態からなる態様は、略横長角筒形の直線的な形態のフレームの前端部に、ストレート型の略縦長円筒形のヘッドチューブを配し、その上端にヘッドチューブと同径の略短筒形状のハンドルステムに、略十字状にハンドルを設け、ヘッドチューブの下端には、平面視において、前方が弧状に膨出した略長方形板状の車軸を配設した形態で構成され、直線を多用した骨太な安定感のある形態のものとの印象を与えるものであるのに対し、甲1意匠のこれらの形態からなる態様は、略横長角筒形の直線的な形態のフレームの前端部に、略半球状のカバーを上下に配した略短筒形状のヘッドチューブを配し、その上方に、略円柱形のハンドルステムと、両端部に略扁平楕円形状のグリップエンドを配したハンドルを、略「T」字状になるように接合し、ヘッドチューブ下方のカバー部からは、略円柱形の部材を延出し、その下端部と略円柱形の前輪用車軸の中央の球体を接合した幾何学的な形態で構成され、リズミカルで軽やかな形態のものとの印象を与えるものであって、両意匠の本体部前方部分の形態は大きく異なり、スタイリングや使用時の安全性、操作性等に係る部分の形態を注視する需要者にとって全く異なる美感を与えるものであるから、これらの相違点が相まって、両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものである。

(相違点3)のサドルの形態及び取り付け態様については、本件登録意匠は、サドル全体の形態をサドル前部とサドル後部で構成し、取り付け位置はヘッドチューブとフレームの接合点付近からフレーム上に沿うようにして配設され、後部のサドルには、シートポストがフレームを貫通するように取り付けられ、サドルの高さ調節を可能とした形態としているのに対し、甲1意匠は、分割のない普通にみられるサドルをメインフレーム上辺の後方から約1/5の位置に立設したシートポストによってフレームから離れて取り付けられ、サドルの高さ調節が可能であるか否かは不明であることから、スタイリングや使用時の安全性、操作性等に係る部分の形態を注視する需要者にとって、この相違の類否判断に及ぼす影響は大きいものである。

(相違点6)の車輪等の形態については、外側に略円形ドーム状のホイールキャップを設けた本件登録意匠と、ホイールキャップは設けず、略円盤状のホイール中心部分に小突起を設けた甲1意匠とは、一見して大きく異なるものであるから、両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。

(相違点8)の後輪及び後輪取り付け部周辺の形態については、本件登録意匠は、後輪用車軸の左右端に1輪ずつ後輪が設けられ、この2つの後輪の間に、略短円筒形のカバーが設けられていることから、後輪等が塊状の安定感のある形態で構成されたものとの印象を与えるのに対し、甲1意匠はバックフォーク後端部に配設された軸受の間に、ディスク型ホイールを1輪設けていることから、幾何学的な形態のもので構成されたものとの印象を与えるため、両意匠のフレーム後方部分から後輪にかけてのスタイリングに係る部分の形態は大きく異なり、需要者に全く異なる美感を与えるものであるから、この(相違点8)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものである。


(3)両意匠の形態の類否判断
両意匠の形態における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察した場合、両意匠は、需要者の注意を強く惹くスタイリングに係る部分である、子供用乗用遊戯具全体の印象を占める、メインフレームの形態や、フレーム、ヘッドチューブ、ハンドル、及びヘッドチューブ下端部分と前輪用車軸周辺部位からなる子供用乗用遊戯具の前方側の形態の美感に大きな相違があり、ホイールの形態、サドルの配設位置を含めた形態、後輪及び後輪取り付け部周辺の形態の美感についても大きく異なるといえる。
一方、両意匠は、略横長角筒形のフレームを骨格とした点が需要者に共通する美感を起こさせるとしても、それは、特段、特徴のない略横長角筒形にすぎないものであるから、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さく、限定的なものであり、フレーム後方端部におけるバックフォークの有無等の構成が異なる点も踏まえると、これら共通点を考慮しても、意匠全体として観察した際には、前記のメインフレームの骨組み態様、本体部前方部分の形態、サドル及びサドル取付け部の形態、ホイールの形態、後輪及び後輪取付け部周辺の形態等により両意匠には異なる美感を起こさせるものといえる。
したがって、両意匠の形態は類似しないものである。

なお、請求人は「なお、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「子供用四輪車」とするが、本件登録意匠の実施品である商品のインターネット通信販売サイト(甲5、6、7)における商品説明には、いずれも「XJD 三輪車 1歳−3歳 Mini Bike」などと、敢えて「三輪車」と表示され、三輪車として取引されている実情が見られる。これは、その商品の外観上の特徴、すなわち、甲1意匠と共通の、全体として、前輪2輪の前方が幅広で、後輪1輪の後方が幅狭の三輪車の形態的印象が強く看者に認識されているからにほかならない。」と、主張するが、このような通信販売サイトでの商品名表示は、商品カテゴリーとしての表示をしているだけであり、厳密に「三輪車」であるか「四輪車」であるかを表示したものではない。また、甲第5号証では、商品説明に「前2輪後2輪の構造で、・・・」等の記載があるため、「三輪車」として取引されている事を決定づけるものでもない。また、仮に本件登録意匠が、「三輪車」として取引されていたとしても、該部は、前記の後輪及び後輪取り付け部周辺の形態の相違により、需要者に異なる美感を起こさせるものといえ、この物品分野においては、全体のスタイリングが大きく異なる両意匠を類似するものとはいえず、請求人のこの主張を採用することはできない。

(4)小括
以上のとおり、本件登録意匠は、甲1意匠に類似しないので意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず、本件登録意匠について意匠登録を受けることができないとすることはできない。
したがって、請求人が主張する無効理由には、理由がない。


第7 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由には理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は、無効とすることはできない。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。

別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。







審理終結日 2023-06-08 
結審通知日 2023-06-14 
審決日 2023-07-12 
出願番号 2019022880 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (E2)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 渡邉 久美
前畑 さおり
登録日 2020-04-07 
登録番号 1658399 
代理人 大塚 忠 
代理人 坪内 康治 
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