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審決分類 審判    L6
管理番号 1416537 
総通号数 35 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2024-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2022-01-05 
確定日 2024-10-30 
意匠に係る物品 瓦 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1697530号「瓦」の意匠登録無効審判事件についてされた令和5年6月6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和05年(行ケ)第10066号、令和5年12月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1697530号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件登録意匠

本件意匠登録に係る意匠は、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようする、令和2年9月1日の意匠登録出願であって、令和3年9月30日に意匠登録を受けたものである(意匠登録第1697530号)。
そして、その意匠は、意匠に係る物品を「瓦」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)を願書に添付した図面に記載したとおりとしたものである(別紙第1参照)。


第2 手続の経緯

請求人は、令和4年1月5日、結論同旨の審決を求める意匠登録無効審判を請求し、無効理由として次項のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証の2の書証を提出したが、合議体は、令和5年6月6日付けで、本件審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「原審決」という。)をした。

請求人は、原審決を不服として、令和5年6月23日、知的財産高等裁判所に訴えを提起し、同裁判所は、令和5年(行ケ)第10066号として審理した上で、令和5年12月21日に原審決を取り消す旨の判決(以下、単に「判決」という。)を言い渡した。


第3 無効理由

請求人は、本件登録意匠は、出願前に頒布された刊行物である意匠公報に記載された意匠登録第1663938号の意匠(以下「引用意匠」という。)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである、とした。


第4 判決の理由

判決は、原告(審判請求人)が取消事由とした本件登録意匠と引用意匠との類否判断の誤り(本件審判請求における無効理由に相当)に係る原審決の判断について審理した上で、取消事由には理由があるから、本件審決は取り消されるべきであるとした。


第5 当審の判断

上記判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により当審を拘束するものであるため、判決の趣旨を踏まえ、本件審判請求に係る無効理由について検討し、判断する。

1 本件登録意匠と引用意匠の類否判断

(1)意匠に係る物品の類否判断
本件登録意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、いずれも「瓦」であり、同一である。

(2)形状等の類否判断
ア 両意匠の形状等の共通点及び相違点
本件登録意匠の図面を引用意匠の図面の向きに合わせて(例えば、本件登録意匠の「平面図」を「正面図」、本件登録意匠の「正面図」を「底面図」、本件登録意匠の「右側面図」を左に90度回転して認定)、以下対比する。

(ア)共通点
(共通点1)底面視において、左端部に壁が設けられ、その壁から右側に連続する女瓦の凹み部から他方部に向けて上がり勾配に連続して形成された半円筒形の男瓦を一体化し、底面図において略S字型を270度回転させた瓦形状としている。

(共通点2)男瓦の上側隅角部分には、他の瓦を直上に重ねて瓦葺きした際に面一状に重ね合わせられるよう、径を縮小した段差(縮径段差部)が形成されている。

(共通点3)女瓦の中央部近傍に左右に横切る段差が設けられており、その段差は、瓦上辺から下辺の間におよそ6対4の割合の位置で形成されている。

(共通点4)男瓦の両側部と上部に、コ字状のラインを270度回転して下方開口とした縦長のコの字模様が形成されており、同模様において、コ字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。

(共通点5)女瓦の左端部の壁には、瓦上辺から下辺を約2:1に内分する位置に、傾斜段差が形成されており、左側面視において、女瓦の左端部の壁は、斜めクランク状に表されている。

(共通点6)右側面視において、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段差が形成されている。

(共通点7)正面視における全高:全幅の比率は、約1:1.1である。

(イ)相違点
(相違点1)背面視において、本件登録意匠は、女瓦の上辺から下辺を約2:1に内分する位置に、傾斜段差が形成されている。これに対して、引用意匠では、上側端と、下側端と、中央下寄りに3つの凸部が横方向に形成されており、上端側凸部の右隣には、縦長の凸部が形成されている。A−A断面図によれば、上端側と中央下の凸部に挟まれた部分の凹みの深さは、中央下と下側端の凸部に挟まれた部分の凹部の深さの約4倍である。中央下の凸部の上下、下側端の凸部の上、及び縦長凸部の左右は、それぞれテーパー状に表されている。

(相違点2)左側面視において、本件登録意匠の女瓦の左端部の壁は、男瓦を覆い隠すように、正面側に張り出している。これに対して、引用意匠の女瓦の左端部の壁は、瓦のほぼ中央までで、男瓦は隠れていない。

(相違点3)本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。

(相違点4)底面視において、下端面の略S字型の縦横比が約1:5(本件登録意匠)か約1:3(引用意匠)かで相違し、略S字型の中間部分が屈曲状(本件登録意匠)か滑らかな弧状(引用意匠)かで相違する。すなわち、本件登録意匠の略S字型は引用意匠に比べて扁平であって、中間で折れ曲がるように表されている。

(相違点5)本件登録意匠は、引用意匠と比べて、コの字模様の両側部の幅が若干広く、コの字模様の内側の正面視長方形部(以下「長方形模様部」という。)の幅は若干狭い。また、本件登録意匠のコの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠のコの字模様はわずかに段差状に隆起している。

(相違点6)本件登録意匠では、正面視右上端に位置する一段低く形成された縮径段差部の表面には細い水平溝が2つ形成されており、右側端は左側に傾斜している。これに対して、引用意匠の縮径段差部では、表面に溝はなく平坦に形成されており、右側端は、男瓦の右側端と略平行に形成されている。

(相違点7)正面視において、女瓦の上端寄りに水平帯状の凸部が複数形成されているか(本件登録意匠)、波線状の凸部が一本形成されているか(引用意匠)で相違し、女瓦の左下端が斜めに形成されているか(本件登録意匠)、直角に形成されているか(引用意匠)で相違する。

(相違点8)本件登録意匠では、コの字模様のライン部分は白色で表され、それ以外の部分は褐色に表されているが、引用意匠には色彩は表されていない。

イ 形状等の共通点及び相違点の評価

(ア)共通点の評価
本件登録意匠及び引用意匠において、需要者の注意を最も強く引く形状等(以下「要部」という。)について検討し、評価を行う。
(ア−1)公知意匠(「飛鳥野瓦」)
本葺一体瓦(平瓦(女瓦)と丸瓦(男瓦)を一体成型した瓦)の代表的なものとして、瓦寅工業株式会社を意匠権者とする登録意匠(意匠登録第549771号、昭和53年8月22日出願、昭和55年12月12日登録、請求人が提出した甲第7号証の10(別紙第3参照))があり、「飛鳥野瓦」との商品名で製造販売され、広く知られるに至っていた(その意匠は、本件登録意匠出願時までに周知のものになっていたと認められる。)。なお、飛鳥野瓦には、女瓦部分が上下二段に見えるように正面視略中央を左右に横切る段差が設けられているタイプ(段付き)と、これがないタイプ(段なし)がある(請求人が提出した甲第8号証(別紙第4参照)、甲第12号証の1、2(別紙第5、第6参照))。
本件登録意匠は、コの字模様以外の構成態様において、段付き飛鳥野瓦の意匠をほぼ踏襲したものといえる。

(ア−2)本葺一体瓦のバリエーション
本葺一体瓦の細部の構成態様に関しては、飛鳥野瓦の構成態様以外にも、下記のような様々なバリエーションがあり、これらの意匠も本件登録意匠の出願以前に公知になっていたと認められる。

(a)飛鳥野瓦は、右上(縮径段差部の右側端)と左下(女瓦の左下端)がそれぞれ斜めに切り欠いたように形成されているのに対し、右上及び左下ともに斜めの切り欠きがなく、ほぼ直角に形成されているものがある(商品名「万葉」及び「陽光」、請求人が提出した甲第7号証の9(別紙第7参照))。

(b)縮径段差部には、本件登録意匠のように、2本の細い水平溝を形成したもの(飛鳥野瓦、請求人が提出した甲第8号証(別紙第4参照)、甲第12号証の2(別紙第6参照))のほか、細い水平溝が1本のもの(請求人が提出した甲第7号証の10(別紙第3参照))、引用意匠のように水平溝はなく平坦なもの(請求人が提出した甲第7号証の1(別紙第8参照)、甲第7号証の8(別紙第9参照))もある。

(c)女瓦の上端寄りに左右に延びる凸部を形成するのは、雨水の逆流を防ぐ「水返し」と呼ばれる役割を担うものとして広く採用されている構成であるが、その具体的な形状に関しては、本件登録意匠と同様、複数の水平帯状のもの(請求人が提出した甲第7号証の9(別紙第7参照)、甲第7号証の10(別紙第3参照)、甲第9号証(別紙第10参照)、甲第12号証の1(別紙第5参照))、本件引用意匠と同様、波線状の凸部が1本のもの(請求人が提出した甲第12号証の3(別紙第11参照))、波線状の凸部が2本のもの(請求人が提出した甲第7号証の8(別紙第9参照))など、多様なものがある。

(d)男瓦の形状は、飛鳥野瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるが(請求人が提出した甲第12号証の2(別紙第6参照))、幅が均一の円筒形のもの(請求人が提出した甲第7号証の1(別紙第8参照)、甲第7号証の7〜10(順に別紙第12、第9、第7、第3参照)、甲第12号証の1(別紙第5参照))や、下方に向かってハの字状に広がる円筒形のもの(請求人が提出した甲第13号証の1(別紙第13参照))もある。

(e)本葺一体瓦を底面から見ると、略S字型を270度回転させた形状になるが、その縦横比、女瓦と男瓦の接合部の曲がり具合(すなわち扁平の程度)についても、様々な形状のものがある(請求人が提出した甲第7号証の5、9、甲第12号証の2(順に別紙第14、第7、第6参照))。

(ア−3)沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様
沖縄では、本葺き工法に際して、瓦の接合部を漆喰で固める方法が伝統的に用いられており、瓦の赤色と漆喰の白色のコントラストが形成する外観は、「沖縄赤瓦」又は「琉球赤瓦」と呼ばれ、南国の風土と調和する美観が高く評価されてきた。
このような沖縄赤瓦の特徴を本葺一体瓦に反映させる工夫として、本葺一体瓦に白色の模様を付して、実際には漆喰を使用することなく沖縄赤瓦と同様の外観を実現しようとする考案、意匠が広く知られるに至った。
本件登録意匠出願前の公知文献としては、以下のものがある。

(a)平成4年3月4日公開の実開平4−27013号公報(請求人が提出した甲第9号証(別紙第10参照))に、「平瓦と丸瓦を連結した瓦の少なくとも外周端面一部に白色素材を漆喰止め状に取着け…たものは、重合部を合わせて順次瓦を葺き固定してゆくだけで屋根葺き後は瓦全体が白色素材で囲まれた漆喰止め状となるので」(同公報5頁)、「屋根全体が漆喰止め状を呈するので沖縄の民家風となって建物にアクセントを添えるという外観上の効果をも併せ奏し得るものである。」(同公報9〜10頁)等の記載とともに、男瓦の左右端と男瓦及び女瓦の下端に白色素材を用いた図面(同公報第2図)が示されている。

(b)また、平成11年7月21日公開の特開平11−193600号公報(請求人が提出した甲第13号証の1(別紙第13参照))には、平瓦と丸瓦を一体とした瓦について「…漆喰の白色を出すと、琉球瓦と同様な雰囲気となる。」(【0046】)、「そのために、上記のS字状の屋根瓦8の下端や上端(すなわち小口)の少なくとも表面(上面)を白色にすることが好ましい。」(【0047】)との記載があるが、一部を白色とした瓦の図面はない。

(c)上記2つの公知文献には、本葺一体瓦の男瓦部分等に白色の模様を施して漆喰で施工したような外観を作出するアイデアと、コの字模様の開口を上方とした模様の意匠(請求人が提出した甲第9号証の第2図(別紙第10参照))は記載されているが、本件登録意匠と引用意匠に共通するコの字模様のように開口を下方とした模様の意匠は示されていない。

(ア−4)コの字模様の要部該当性について
(a)まず、本件登録意匠も引用意匠も、基本的な部分では周知の本葺一体瓦を踏襲する意匠であることは明らかである。そして、本葺一体瓦の葺き上がりの外観は伝統的な本葺き工法のものと同様であり、半円筒形の丸瓦(男瓦)の連なりが屋根の勾配に沿って手前から奥に向かって整然と延びる姿がひと際目を引き、豪華、重厚な印象を与えるものと認められる。したがって、そのような男瓦の連なりに係る形状及び模様が、看者の注意を強く引く部分ということができる。

(b)本件登録意匠は、褐色の地色にコの字模様を白色で表している点に特徴があるところ、これは前記(ア−3)で認定した沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様を意図しているものと認められる。具体的には、本件登録意匠に係る瓦を屋根瓦として施工した場合、半円筒形の男瓦の連なりが、漆喰をイメージさせる白色によってくっきりと枠取られるとともに、その連なりの中ほどに、白色で囲まれた地色(褐色)の長方形模様部が規則的に表れる形になり、このような褐色と白色の模様の造形及びコントラストが形成する外観は、南国情緒を演出するものとして極めて印象的なものといえる。
したがって、本件登録意匠のコの字模様は、看者の美感に強く訴求するものと認められる。

(c)引用意匠については、色彩は表されていないものの、本件登録意匠と共通する開口を下向きにしたコの字模様を備えるものであり、先行する意匠として、沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様が広く知られていたこと(前記(ア−3))を踏まえると、引用意匠の主たる実施態様として、褐色の地色と白色のコの字模様の組合せが想定されていたものと認められる。そうすると、本件登録意匠に関して前記(ア−3)で説示したところは、引用意匠にも相当するものと解される。

(d)以上の点に加え、本件登録意匠は、コの字模様以外の構成態様において、周知の段付き飛鳥野瓦の意匠をほぼ踏襲したものである(前記(ア−1))のに対し、両意匠が共通して有する共通点4に係る開口を下向きにしたコの字模様は、他の公知意匠には見られない引用意匠の新規な創作部分であるため、要部認定において大きな意味を持つものといえる。
すなわち、本葺一体瓦に白色の模様を付して、実際には漆喰を使用することなく沖縄赤瓦と同様の外観を実現しようとする疑似漆喰模様自体は、本件登録意匠及び引用意匠の出願前に広く知られていたものであるが、開口を下向きにしたコの字模様の意匠に関しては、これを開示する公知文献等は見当たらない。

(e)以上に述べたところを総合すれば、本件登録意匠と引用意匠において、要部は、両意匠に共通する下方開口のコの字模様であり、その共通性こそ、類否判断に最も強い影響を及ぼすものというべきである。

(イ)相違点の評価
(イ−1)瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮径段差部の溝の有無及び右側端の角度)、同7((i)女瓦の上端寄りの凸部の形状、(ii)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様に関するものである。
意匠の類否は「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきものである。両意匠にみられる瓦は、屋根等を葺くための建築部材であって、瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的な需要者であり、そうした需要者の求める美観は施工後の外観に係るものである。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視される。
そうすると、両意匠における瓦については、施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるというべきである。
よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるというべきである。
なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないものであるから(前記(ア−2)(a)〜(c))、この点においても、当該相違点が類否判断に及ぼす影響は限定的なものと認められる。

(イ−2)底面形状の縦横比について(相違点4関係)
両意匠の各底面図を対比すると、本件登録意匠の上記略S字型の形状が引用意匠のものに比べて扁平である。
しかし、本葺一体瓦を施工する場合、男瓦の軒口は「軒巴」などと呼ばれる円形の飾り瓦で覆われるため(請求人が提出した甲第12号証の2(別紙第6参照))、上記略S字型の形状は外観上視認できなくなる。そうであっても、例えば男瓦の盛り上がり具合の違いといった形で上記の違いを間接的に認識できる可能性もないではないが、立体形状を認識し易い斜視図(引用意匠では参考斜視図)を比較しても、両意匠の男瓦の盛り上がり具合等に有意の違いは生じておらず、上記の程度の底面形状の縦横比の相違が、瓦を葺き上げた外観に実質的な美観の違いを生じさせるものとは認められない。
以上に加え、上記略S字型の縦横比(扁平の程度)の違いは、公知意匠のバリエーションの範囲内と認められること(前記(ア−2)(e))も勘案すると、上記相違点は、類否判断にさほど影響を及ぼすものとはいえない。

(イ−3)男瓦の形状及びコの字模様の細部の形状等について(相違点3、5関係)
相違点3の男瓦が逆ハの字状か均一な幅とするかについては、本葺一体瓦において採用される公知の形状等のバリエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記(ア−2)(d))、相違点5のコの字模様における幅の違いやコの字模様が面一か段差状に隆起しているかについては、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である下方開口のコの字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎず、これらの相違が、両意匠の共通点である下方開口のコの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観を生じさせるものとは認められない。
よって、相違点3及び相違点5は、類否判断に一定の影響を及ぼすものではあるが、コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さい。

(イ−4)色彩の有無について(相違点8関係)
引用意匠に色彩は表されていないものの、前記(ア−4(c))で述べたとおり、沖縄赤瓦風の疑似漆喰模様が周知となっていることを踏まえると、その相違は類否判断に実質的な影響を及ぼすものとはいえない。

ウ 総合評価に基づく形状等の類否判断
以上のとおり、両意匠の要部は、本葺一体瓦において看者の注意を強く引く男瓦の連なりに係る構成部分であり、かつ、従来の意匠に見られなかった新規の創作に係る下方開口のコの字模様というべきである。その共通性が両意匠の形状等の類否判断に及ぼす影響は極めて大きく、他方、両者の相違点の中には、類否判断に一定程度の影響を及ぼす点はあるものの、その影響は相対的に小さいものと認めざるを得ず、全体として評価すれば、両意匠の形状等は類似する。

(3)両意匠の類否判断
両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、形状等においても類似するものであるから、本件登録意匠は引用意匠に類似するものである。

2 まとめ

そうすると、本件登録意匠は、出願前に公然知られた意匠(引用意匠)と類似するから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものである。

よって、請求人が主張する無効理由には、理由がある。


第6 むすび

以上のとおり、請求人が主張する無効理由には理由があるから、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり、審決する。






別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。















































































審理終結日 2024-08-28 
結審通知日 2024-09-02 
審決日 2024-09-20 
出願番号 2020018477 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (L6)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 前畑 さおり
特許庁審判官 松田 光太郎
北代 真一
登録日 2021-09-30 
登録番号 1697530 
代理人 杉山 浩康 
代理人 長谷川 好道 
代理人 鯉沼 敦規 
代理人 中前 佑一 

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