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審決分類 |
審判 J5 審判 J5 |
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管理番号 | 1416553 |
総通号数 | 35 |
発行国 | JP |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2024-11-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2024-02-08 |
確定日 | 2024-10-07 |
意匠に係る物品 | 物品提供装置 |
事件の表示 | 上記当事者間の意匠登録第1756786号「物品提供装置」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 意匠登録第1756786号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件意匠登録第1756786号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、令和5年(2023年)5月31日に意匠登録出願(意願2023−11052)されたものであって、同年10月5日付けで登録査定がなされ、同年10月25日に意匠権の設定の登録がされた後、同年11月2日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。 令和6年(2024年) 2月 8日受付 審判請求書の提出 同年 4月18日受付 手続補正書の提出 同年 5月 7日付け 請求書副本の送達通知 同年 7月 3日付け 書面審理通知書 同年 7月25日付け 審理終結通知 第2 請求の趣旨及び理由 請求人は、令和6年2月8日受付で審判請求書を提出し、「意匠登録第1756786号の意匠登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証から甲第9号証を提出した。 1 請求の理由 「(1)手続の経緯 出願 令和5年5月31日 拒絶理由通知書 令和5年10月2日 手続補正書 令和5年10月3日 意見書 令和5年10月3日 登録 令和5年10月25日 掲載公報発行 令和5年11月2日 (2)意匠登録無効の理由の要点 本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された甲第1号証(中国登録意匠公報許可公告番号CN307639432S)に記載された意匠と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。 本件登録意匠は、本件意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。 (3)本件意匠登録を無効とすべき理由 イ 本件登録意匠の要旨 意匠に係る物品を「物品提供装置」としたものである。 下図は、本件登録意匠の正面図、右側面図、および背面図である。下図を参照して、本件登録意匠の基本的構成態様は、直方体状の筐体に、空洞であるカプセル収納部を設け、カプセル収納部を覆うウインドウを筐体の前面に設け、筐体の前面におけるウインドウの下に操作パネルを設け、操作パネルに、物品の価格などを表示する表示部、購入時に操作される購入操作部、物品を排出するための物品排出口、購入に必要なコインの投入を受け付けるコイン投入口、コインの返却時に操作されるコイン返却操作部、コインを返却するためのコイン返却口、返却されたコインを保持するためのコイン受け、およびカプセル収容部内部にアクセスするための鍵の挿入を受け付ける鍵穴の各々を設けたものである。 そして、本件登録意匠の各部の具体的態様は、 a.ウインドウについて、(a1)ウインドウの上下が筐体における把持部 で挟まれる位置に設け、(a2)ウインドウを筐体の前面から両側面にまで延在させ、(a3)筐体の前面から両側面にかけてウインドウと把持部とを面一とし、(a4)筐体の側面におけるウインドウの下部と後部との境界の弧形状の曲率を、筐体の側面におけるウインドウの上部と後部との境界の弧形状の曲率よりも大きくし、(a5)ウインドウ全体にわたって透明にし、 b.表示部について、(b1)操作パネルにおける左上部に設け、(b2) 略楕円形状とし、(b3)1つのみとし、 c.購入操作部について、(c1)つまみを含む円形状とし、(c2)操作 パネルにおける略中央部に設け、 d.物品排出口について、(d1)購入操作部よりも大きい円形状とし、(d2)操作パネルにおける表示部の下に設け、 e.コイン投入口、コイン返却操作部、コイン返却口、およびコイン受けの 各々を、操作パネルにおける購入操作部の右に設けられた矩形の板部材上に、 この順序で上から下に向かって並べ、 f.コイン返却操作部について、矩形状のボタンで構成し、 g.鍵穴について、(g1)円形状とし、(g2)操作パネルにおける板部 材の下に設け、 h.突起または凹みを、筐体の両側面、背面、上面、および底面の各々に設 け、 i.筐体の背面に矩形部材を設け、矩形部材上に円形状、正方形状、および 六角形状の端子を設けたものである。 <本件登録意匠の正面図、右側面図、および背面図> (当審注:図省略。) ロ 先行意匠が存在する事実及び証拠の説明 甲第1号証は、中国の登録意匠公報である。甲第1号証の発行日は、令和4年11月4日(2022年11月4日)であり、本件登録意匠の出願日である令和5年5月31日よりも前である。 甲第1号証は、意匠に係る物品を「カプセルトイ販売機(当審注:原文省略)」としたものである。 甲第1号証は、設計1と設計2という2つの意匠を含んでいる。 下図は、甲第1号証の設計1の意匠の正面図、右側面図、および背面図である。下図を参照して、甲第1号証の設計1の意匠の基本的構成態様は、直方体状の筐体に、空洞であるカプセル収納部を設け、カプセル収納部を覆うウインドウを筐体の前面に設け、筐体の前面におけるウインドウの下に操作パネルを設け、操作パネルに、物品の価格などを表示する表示部、購入時に操作される購入操作部、物品を排出するための物品排出口、購入に必要なコインの投入を受け付けるコイン投入口、コインの返却時に操作されるコイン返却操作部、コインを返却するためのコイン返却口、返却されたコインを保持するためのコイン受け、およびカプセル収容部内部にアクセスするための鍵の挿入を受け付ける鍵穴の各々を設けたものである。 そして、甲第1号証の設計1の意匠の各部の具体的態様は、 a.ウインドウについて、(a1)ウインドウの上下が筐体における把持部で挟まれる位置に設け、(a2)ウインドウを筐体の前面から両側面にまで延在させ、(a3)筐体の前面から両側面にかけてウインドウと把持部と面一とし、(a4)筐体の側面におけるウインドウの下部と後部との境界の弧形状の曲率を、筐体の側面におけるウインドウの上部と後部との境界の弧形状の曲率よりも大きくし、(a5’)ウインドウの前面の一部に不透明な領域を設け、ウインドウのその他の領域を透明にし、 b.表示部について、(b1)操作パネルにおける左上部に設け、(b2)略楕円形状とし、(b3’)2つとし、 c.購入操作部について、(c1)つまみを含む円形状とし、(c2)操作パネルにおける略中央部に設け、 d.物品排出口について、(d1)購入操作部よりも大きい円形状とし、(d2)操作パネルにおける表示部の下に設け、 e.コイン投入口、コイン返却操作部、コイン返却口、およびコイン受けの各々を、操作パネルにおける購入操作部の右に設けられた矩形の板部材上に、この順序で上から下に向かって並べ、 f’.コイン返却操作部について、矩形状のレバーで構成し、 g.鍵穴について、(g1)円形状とし、(g2)操作パネルにおける板部材の下に設け、 i’.筐体の背面に矩形部材を設けたものである。 <甲第1号証の設計1の意匠の正面図、右側面図、および背面図> (当審注:図省略。) ハ 先行周辺意匠の例示 本件登録意匠の基本態様である、直方体状の筐体に、空洞であるカプセル収納部を設け、カプセル収納部を覆う透明なウインドウを筐体の前面に設け、筐体の前面におけるウインドウの下に操作パネルを設け、操作パネルに、物品の価格などを表示する表示部、購入時に操作される購入操作部、物品を排出するための物品排出口、購入に必要なコインの投入を受け付けるコイン投入口、コインの返却時に操作されるコイン返却操作部、コインを返却するためのコイン返却口、返却されたコインを保持するためのコイン受け、およびカプセル収容部内部にアクセスするための鍵の挿入を受け付ける鍵穴の各々を設けたものは、甲第2号証(意匠登録第1635325号公報)および甲第3号証(意匠登録第1703843号公報)にも記載されており、本願登録意匠の出願前から公然知られている。 また、物品の価格などを表示する表示部を操作パネルに1つのみ設けることは、甲第2号証および甲第3号証に記載されているように、本願登録意匠の出願前から公然知られている。 下図は、甲第2号証の正面図および斜視図と、甲第3号証の正面図および斜視図である。 <甲第2号証の正面図および斜視図> (当審注:図省略。) <甲第3号証の正面図および斜視図> (当審注:図省略。) ウインドウを全体にわたって透明にし、物品の販売前に物品提供装置の管理者などの手によってウインドウの前面にPOP広告をセットすることは、甲第4号証(“Gacha.S.B取扱説明書”、2003年10月現在、株式会社ユージン発行、インターネット<https://www.a-muzu.com/user_data/amuzuup/m4.pdf>)および甲第5号証(“実は第4次「ガチャガチャ」ブーム「世界でも日本だけ」の進化はなぜ起きたのか”、2023年2月12日12時00分、東京新聞 TOKYO Web、株式会社中日新聞社、インターネット<URL:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230733>)に記載されている通り、本願登録意匠の出願前から公然知られている。 下図のように、甲第4号証の3頁目には、物品の販売前であるカプセル充填・補充の際に、物品提供装置の管理者などの手によって透明なフロントウインドウの前面内側にPOPカードがセットされることが記載されている。 <甲第4号証の3頁目> (当審注:図省略。) 下図のように、甲第5号証の1頁目には、収納されている物品に応じて互いに異なるPOP広告が、全体にわたって透明なウインドウの前面にセットされた状態で、物品の販売を行う複数の物品提供装置の各々が記載されている。 <甲第5号証の1頁目> (当審注:図省略。) 下図のように、甲第4号証の2頁目には、操作パネルに矩形状のコイン返却ボタンを設けることが記載されている。操作パネルに設けられた、コインの返却時に操作されるコイン返却操作部を矩形状のボタンで構成することは、甲第4号証の2頁目に記載されている通り、本願登録意匠の出願前から公然知られている。 <甲第4号証の2頁目> (当審注:図省略。) ニ 本件登録意匠と先行意匠との対比 本件登録意匠の意匠に係る物品は「物品提供装置」である一方、甲第1号証は、意匠に係る物品を「カプセルトイ販売機(?蛋机)」としたものである。カプセルトイ販売機が、カプセルに収納された物品を販売する物品提供装置であることは広く知られている。したがって、本件登録意匠の意匠に係る物品と甲第1号証の意匠に係る物品とは同一である。 また、本件登録意匠と甲第1号証の設計1の意匠とは、基本的構成態様が共通する。すなわち、両者は、直方体状の筐体に、空洞であるカプセル収納部を設け、カプセル収納部を覆う透明なウインドウを筐体の前面に設け、筐体の前面におけるウインドウの下に操作パネルを設け、操作パネルに、物品の価格などを表示する表示部、購入時に操作される購入操作部、物品を排出するための物品排出口、購入に必要なコインの投入を受け付けるコイン投入口、コインの返却時に操作されるコイン返却操作部、コインを返却するためのコイン返却口、返却されたコインを保持するためのコイン受け、およびカプセル収容部内部にアクセスするための鍵の挿入を受け付ける鍵穴の各々を設けたものである点で共通する。加えて、本件登録意匠と甲第1号証の設計1の意匠とは、各部の具体的構成態様について、 a.ウインドウについて、(a1)ウインドウの上下が筐体における把持部で挟まれる位置に設け、(a2)ウインドウを筐体の前面から両側面にまで延在させ、(a3)筐体の前面から両側面にかけてウインドウと把持部とを面一とし、(a4)筐体の側面におけるウインドウの下部と後部との境界の弧形状の曲率を、筐体の側面におけるウインドウの上部と後部との境界の弧形状の曲率よりも大きくし、 b.表示部について、(b1)操作パネルにおける左上部に設け、(b2)略楕円形状とし、 c.購入操作部について、(c1)つまみを含む円形状とし、(c2)操作パネルにおける略中央部に設け、 d.物品排出口について、(d1)購入操作部よりも大きい円形状とし、(d2)操作パネルにおける表示部の下に設け、 e.コイン投入口、コイン返却操作部、コイン返却口、およびコイン受けの各々を、操作パネルにおける購入操作部の右に設けられた矩形の板部材上に、この順序で上から下に向かって並べ、 g.鍵穴について、(g1)円形状とし、(g2)操作パネルにおける板部材の下に設けた点が共通する。 一方、本件登録意匠と甲第1号証の設計1の意匠とは、各部の具体的構成態様について、 (イ)ウインドウについて、本件登録意匠ではウインドウ全体にわたって透明にしているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠ではウインドウの前面の一部に不透明な領域を設けている点、 (ロ)表示部について、本件登録意匠では表示部を1つのみとしているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠では表示部を2つにしている点、 (ハ)コイン返却操作部について、本件登録意匠ではコイン返却操作部を矩形状のボタンで構成しているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠ではコイン返却操作部を矩形状のレバーで構成している点、 (ニ)本件登録意匠では突起または凹みを筐体の両側面、背面、上面、および底面の各々に設けているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠では突起または凹みを筐体の両側面、背面、上面、および底面の各々に設けているか不明である点、および (ホ)本件登録意匠では筐体の背面に設けられた矩形部材上に円形状、正方形状、および六角形状の端子を設けているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠では矩形部材上に円形状、正方形状、および六角形状の端子を設けていない点、が相違する。 ホ 本件登録意匠と先行意匠との類否 この種の物品提供装置において、物品の購入者は、物品を収納したカプセルをウインドウ越しに見て物品の購入を決定し、操作パネルに設けられた部材を操作することにより物品を購入および取得する。したがって、この種の物品提供装置における意匠上の創作の主たる対象は、ウインドウの形態および操作パネルに設けられた各部材の形態である。 本件登録意匠と先行意匠との類否を検討すると、共通する基本的構成態様は、具体的態様の多数の共通点と共に、両意匠の基調を形成しているのに対して、 (イ)ウインドウについて、本件登録意匠ではウインドウ全体にわたって透明にしているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠ではウインドウの前面の一部に不透明な領域を設けている点については、後述するように、容易に行われる改変であり、 (ロ)表示部について、本件登録意匠では表示部を1つのみとしているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠では表示部を2つにしている点については、表示部の個数は特段顕著な相違といえず、類否の判断に与える影響は微弱であり、また容易に行われる改変であり、 (ハ)コイン返却操作部について、本件登録意匠ではコイン返却操作部を矩形状のボタンで構成しているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠ではコイン返却操作部を矩形状のレバーで構成している点については、コイン返却操作部としては、甲第1号証の設計1のようなレバーや、甲第4号証のボタンのように様々な公知の形状のものがあるので、その選択は任意であり、どのような形状のコイン返却操作部を使用しても特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱であり、また容易に行われる改変であり、 (ニ)本件登録意匠では突起または凹みを筐体の両側面、背面、上面、および底面の各々に設けているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠では突起または凹みを筐体の両側面、背面、上面、および底面の各々に設けているか不明である点については、些細な部分に関するものであり、両者の類否判断に影響を及ぼすものではなく、 (ホ)本件登録意匠では筐体の背面に設けられた矩形部材上に円形状、正方形状、および六角形状の端子を設けているのに対し、甲第1号証の設計1の意匠では矩形部材上に円形状、正方形状、および六角形状の端子を設けていない点については、些細な部分に関するものであり、両者の類否判断に影響を及ぼすものではない。 ここで、上記相違点(イ)について詳細に検討すると、甲第1号証の簡単な説明の欄には、「7.このデザイン製品では、デザイン1の文字Aとデザイン2の文字Dで示される完全な灰色の領域がライトパネルで絵を表示することができます。(当審注:原文省略)」と記載されており、甲第1号証の設計1の意匠のウインドウの前面の一部の不透明な領域が、絵を表示するためのライトパネルであると解釈される。 一方で、本件登録意匠のようにウインドウを全体にわたって透明にした物品提供装置に対し、物品の販売前に物品提供装置の管理者などの手によってウインドウの前面にPOP広告をセットすることは、甲第4号証および甲第5号証に記載されているように、本願登録意匠の出願前から公然知られている。 したがって、甲第1号証の設計1の意匠のように、販売時にPOP広告などの絵を表示するためのライトパネルをウインドウの前面の一部に設けたものを、ライトパネルを除去してウインドウを全体にわたって透明にするように改変することは、容易に行われる改変である。 また、甲第1号証の設計1の意匠において、ウインドウの前面のライトパネルに対しPOP広告の絵を表示したものと、本件登録意匠において、透明なウインドウの前面にPOP広告をセットしたものとは、いずれもウインドウの前面にPOP広告が表示された形態となり、取引者や需要者などの看者から見て美感が同様である。 以上のように、本件登録意匠と甲第1号証の設計1の意匠との間には、多数の共通点がある一方でいくつかの相違点がある。しかし、それらの相違点は、特段顕著な相違といえず、または容易に行われる改変であり、共通点の有する美感を凌駕するものではない。ゆえに、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と類似するものである。 また、仮に本件登録意匠が甲第1号証の意匠と類似するものでないとしても、本件登録意匠は、甲第1号証の設計1の意匠に基づいて容易に創作をすることができたものである。 (4)むすび 上述のように、本件登録意匠は、本件意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。 上述のように、本件登録意匠は、本件意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。」 2 証拠方法 (1)甲第1号証 中国登録意匠公報許可公告番号CN307639432S (2)甲第2号証 意匠登録第1635325号公報 (3)甲第3号証 意匠登録第1703843号公報 (4)甲第4号証 “Gacha.S.B取扱説明書” https://www.a-muzu.com/user_data/amuzuup/m4.pdf (5)甲第5号証 “実は第4次「ガチャガチャ」ブーム 「世界でも日本だけ」の進化はなぜ起きたのか” https://www.tokyo-np.co.jp/article/230733 (6)甲第6号証 COMMERCIAL INVOICE (7)甲第7号証 PROFORMA INVOICE (8)甲第8号証 PROFORMA INVOICE (9)甲第9号証 意匠登録第1702978号公報 なお、甲号証は、すべて写しである。 第3 答弁の趣旨及び理由 審判長は、被請求人に対し、審判請求書の副本を送達し、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、被請求人からの応答はなかった。 第4 書面審理及び審理終結 当審は、本件審判について、両当事者に対し、令和6年7月3日付けで書面審理に付する旨を通知し、令和6年7月25日付けで審理を終結する旨を通知した。 第5 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1756786号)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「物品提供装置」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(別紙第1参照) (1)基本的構成態様 全体は、奥行きのある略縦長直方体形状で、正面において、上の二隅を小さな角丸とし、左右端を弧状に面取りし、上端寄りから真ん中付近まで透明パネルを面一に取り付け、透明パネルのすぐ下から下端近くまで浅い凹状面とし、その左上隅に略横長長円形の小さなパネル(表示部)を取り付け、左下隅に略円形孔(物品排出口)を形成し、真ん中上寄りに略円形の回転レバーを取り付け、右上隅にコイン投入口及びコイン返却口を上下に形成した略縦長矩形状のプレート(コイン投入部)を取り付け、コイン投入部の右下近傍に略円板形状の錠(シリンダー)を取り付けている。 各部の態様として、 (2)全体の長さの比率 正面視における縦横及び奥行きの長さの比率は約1.7:1:1.3である。 (3)透明パネル 透明パネルは、正面両端から左右側面の真ん中寄りまで左右対称形の略隅丸矩形状に延出し、その上下の隅は、上がやや小さい曲率半径で、下が大きい曲率半径でそれぞれ湾曲している。 (4)物品排出口 物品排出口は、正面視において細幅の二重円状で、直径は全幅の約1/3である。 (5)回転レバー 回転レバーは、直径は全幅の約1/5で、周の10時と4時を結んだ線上に端面が弧状に湾曲した板状のつまみを取り付けている。 (6)コイン投入部 コイン投入部は、プレートの縦横の長さの比率は約2:1で、縦の長さは全高の約1/6で、横の長さは全幅の約1/6強である。 コイン投入部の内容は、プレート中央において上から順に、略円板の真ん中に縦のスリットを形成したコイン投入口、大小の略横長矩形板を2段重ねしたコイン返却操作部、縦のスリットと板体を略U字状に湾曲したコイン受けからなるコイン返却口を形成している。 (7)錠 錠は、直径は全幅の約1/14で、真ん中に縦の鍵穴を形成している。 (8)背面 背面の左隅を略横長矩形状に凹ませて端子部とし、その左右端中央から左右の外端までそれぞれ横溝を形成している。 2 無効理由の要点 請求人が主張する無効理由の要旨は、以下のとおりである。 (1)無効理由1 本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号により意匠登録を受けることができないものであるから、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。 (2)無効理由2 本件登録意匠は、本件意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるから、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。 3 無効理由の判断 (1)無効理由1 請求人は、前記第2の1(2)に示すとおり、本件登録意匠は、「本件登録意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべき」と主張しているから、以下、本件登録意匠が、甲第1号証の意匠(以下「甲1意匠」という。)と類似する意匠であるか否かについて検討する。 ア 証拠の説明 甲1意匠は、審判請求書に添付された甲第1号証の訳文の記載によれば、中華人民共和国の国家知的財産権局が、2022年11月4日に発行した外観設計特許公報に記載の意匠(意匠を使用した商品名「ガシャポンマシン(コスミックコードミニバージョン)」、授権公告番号CN307639432S)である。(別紙第2参照) (ア)意匠に係る物品 甲1意匠の意匠に係る物品は、「ガシャポンマシン(コスミックコードミニバージョン)」であり、カプセル入りの玩具等を販売するための小型自動販売機である。 なお、「ガシャポン」の呼称は、我が国において、株式会社バンダイが商標登録(商標登録第1756991号、他)している。 (イ)形状等 甲第1号証は、2つの意匠が含まれているが(設計1の意匠及び設計2の意匠)、請求人は、このうち設計1の意匠に基づいて主張していることから、当審において、設計1として現されている意匠を甲1意匠として特定し、以下のとおり認定する。 a 基本的構成態様 全体は、奥行きのある略縦長直方体形状で、正面において、上の二隅を小さな角丸とし、左右端を弧状に面取りし、上端寄りから真ん中付近まで透明パネルを面一に取り付け、透明パネルのすぐ下から下端近くまで浅い凹状面とし、その左上隅に略横長長方形と略横長長円形の小さなパネル(表示部)を上下に近接して取り付け、左下隅に略円形孔(物品排出口)を形成し、真ん中上寄りに略円形の回転レバーを取り付け、右上隅にコイン投入口及びコイン返却口を上下に形成した略縦長矩形状のプレート(コイン投入部)を取り付け、コイン投入部の右下近傍に略円板形状の錠(シリンダー)を取り付けている。 各部の態様として、 b 全体の長さの比率 正面視における縦横及び奥行きの長さの比率は約1.8:1:1.3である。 c 透明パネル 透明パネルは、正面両端から左右側面の真ん中寄りまで左右対称形の略隅丸矩形状に延出し、その上下の隅は、上がやや小さい曲率半径で、下が大きい曲率半径でそれぞれ湾曲している。 正面中央に左右にやや余地を残して略縦長長方形の不透明な面を形成している。 d 物品排出口 物品排出口は、正面視において細幅の二重円状で、直径は全幅の約1/3である。 e 回転レバー 回転レバーは、直径は全幅の約1/4で、周の12時と6時を結んだ線上に端面が弧状に湾曲した板状のつまみを取り付けている。 回転レバーの外縁に沿って略円環状の模様を施している。 f コイン投入部 コイン投入部は、プレートの縦横の長さの比率は約2:1で、縦の長さは全高の約1/6で、横の長さは全幅の約1/6強である。 コイン投入部の内容は、プレート中央において上から順に、縦のスリット(コイン投入口)、コイン返却操作部、縦のスリットと板体を略U字状に湾曲したコイン受けからなるコイン返却口を形成している。 g 錠 錠は、直径は全幅の約1/13で、真ん中に鍵穴を形成している。 h 背面 背面の左隅に略横長矩形板を形成している。 イ 本件登録意匠と甲1意匠(以下「両意匠」ともいう。)の対比 (ア)意匠に係る物品 両意匠は、表記は異なるが、いずれもカプセル入りの玩具等を販売するための小型自動販売機であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。 (イ)両意匠の形状等 両意匠の形状等を対比すると、主として、以下の共通点と相違点がある。 A 共通点 (共通点1)基本的構成態様 全体は、奥行きのある略縦長直方体形状で、正面において、上の二隅を小さな角丸とし、左右端を弧状に面取りし、上端寄りから真ん中付近まで透明パネルを面一に取り付け、透明パネルのすぐ下から下端近くまで浅い凹状面とし、その左上隅に略横長長円形の小さな表示部を取り付け、左下隅に略円形孔の物品排出口を形成し、真ん中上寄りに略円形の回転レバーを取り付け、右上隅にコイン投入口及びコイン返却口を上下に形成した略縦長矩形状のコイン投入部を取り付け、コイン投入部の右下近傍に略円形の錠を取り付けている点。 (共通点2)透明パネル 透明パネルは、正面両端から左右側面の真ん中寄りまで左右対称形の略隅丸矩形状に延出し、その上下の隅は、上がやや小さい曲率半径で、下が大きい曲率半径でそれぞれ湾曲している点。 (共通点3)物品排出口 物品排出口は、正面視において細幅の二重円状で、直径は全幅の約1/3である点。 (共通点4)回転レバー 回転レバーは、直径の線上に、端面が弧状に湾曲した板状のつまみを取り付けている点。 (共通点5)コイン投入部 コイン投入部は、プレートの縦横の長さの比率は約2:1で、縦の長さは全高の約1/6で、横の長さは全幅の約1/6強である点。 コイン投入部の内容は、プレート中央において上から順に、縦のスリット(コイン投入口)、コイン返却操作部、縦のスリットと板体を略U字状に湾曲したコイン受けからなるコイン返却口を形成している点。 (共通点6)錠 錠は、真ん中に鍵穴を形成している点。 B 相違点 (相違点1)全体の長さの比率 本件登録意匠は、正面視における縦横及び奥行きの長さの比率が約1.7:1:1.3であるのに対し、甲1意匠は、約1.8:1:1.3で、甲1意匠の方が、若干縦長である点。 (相違点2)表示部 甲1意匠は、正面の凹状面の左上隅に略横長長方形と略横長長円形の表示部を上下に近接して取り付けているのに対し、本件登録意匠は、略横長長円形の表示部のみ取り付けている点。 (相違点3)透明パネル 甲1意匠は、透明パネルの正面中央に左右にやや余地を残して略縦長長方形の不透明な面を形成しているのに対し、本件登録意匠は、透明パネルに不透明な面は形成していない点。 (相違点4)回転レバー 本件登録意匠は、直径は全幅の約1/5であるのに対し、甲1意匠は、約1/4で、本件登録意匠の方が、やや径が小さい点。 本件登録意匠は、周の10時と4時を結んだ線上につまみを取り付けているのに対し、甲1意匠は、12時と6時を結んだ線上につまみを取り付けている点。 甲1意匠は、回転レバーの外縁に沿って略円環状の模様を施しているのに対し、本件登録意匠は、模様を施していない点。 (相違点5)背面 本件登録意匠は、背面の左隅を略横長矩形状に凹ませて端子部とし、その左右端中央から左右の外端までそれぞれ横溝を形成しているのに対し、甲1意匠は、背面の左隅に略横長矩形板を形成し、横溝は形成していない点。 ウ 両意匠の類否判断 (ア)両意匠の意匠に係る物品 両意匠の意匠に係る物品は、いずれもカプセル入りの玩具等を販売するための小型自動販売機であるから、同一である。 (イ)形状等の共通点及び相違点の評価 両意匠は、主に玩具を販売するための自動販売機であるから、玩具の購入者や販売業者が主たる需要者といえる。したがって、物品排出口、回転レバー、コイン投入部等の操作に纏わる部位が形成される正面における態様について第一に評価し、かつそれ以外の形状等も併せて、各部を総合して意匠全体として形状等を評価することとする。 a 共通点の評価 (共通点1)基本的構成態様について、すなわち、全体を奥行きのある略縦長直方体形状とし、正面の上端寄りから真ん中付近まで透明パネルを面一に取り付け、透明パネルのすぐ下から下端近くまで浅い凹状面とし、その左上隅に略横長長円形の小さな表示部を取り付け、左下隅に略円形孔の物品排出口を形成し、真ん中上寄りに略円形の回転レバーを取り付け、右上隅にコイン投入口及びコイン返却口を上下に形成した略縦長矩形状のコイン投入部を取り付けた態様は、需要者に強い共通の美感を与えるものであるから、(共通点1)が両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい。 また、各部の態様である(共通点2)〜(共通点6)についても、需要者が強い関心を持って観察する部位に係るものであり、それぞれ(共通点1)と相まって、両意匠の共通の印象を更に強める効果をもたらしており、これらの共通点が両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 そうすると、この種物品においては、(共通点1)〜(共通点6)が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであって、これらの共通点は、相まって、需要者に共通の美感を与えるものである。 b 相違点の評価 (相違点1)について、正面視における縦横の長さにおいて、甲1意匠が本件登録意匠より若干縦長であるが、その差はごく僅かであって、ほとんど目立たないから、(相違点1)が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 (相違点2)について、当該表示部は付加的なものであり、また、小さいもので、さほど目立つものではないから、格別、需要者の注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 (相違点3)について、両意匠は、透明パネルの正面中央に形成される略縦長長方形の不透明な面の有無において相違するが、請求人が提出した甲第5号証の第1頁の掲載写真に見られるとおり、この種物品においては、透明パネルの正面中央に、商品広告や商品の使用方法等を表示したチラシを貼り付けることは、ごく普通に見られるものであり、正面中央の比較的目立つ箇所における相違ではあるが、この相違が、需要者に異なる美感を与えているとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 (相違点4)について、両意匠は、径の大きさが異なるが、その差は僅かであり、ほとんど目立つものではないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、つまみの取り付け角度についても、回転レバーのつまみであるから、両意匠の類否判断に与える影響はほとんどない。さらに、外縁に沿って施される略円環状の模様の有無についても、当該模様は、レバーの回転方向を指し示すための矢印を表したものであり、付加的なものであるから、格別、需要者の注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 (相違点5)について、背面側における態様の相違は、当該物品の設置時に裏側に隠れて見えないことから、需要者の注意を惹くものとはいえず、微弱なものといわざるを得ないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 そして、これら相違点は、相まっても両意匠の類否判断を左右するほどの影響を与えるには至らないものである。 c 共通点及び相違点の評価 したがって、前記の共通点と相違点を総合して判断すれば、本件登録意匠と甲1意匠とは、意匠に係る物品が同一で、形状等についても、相違点が、両意匠の類否判断を左右するほどの影響を与えるには至らないものであるのに対して、共通点は、相まって、需要者に共通の印象を与えるものであるから、意匠全体として見た場合、両意匠は類似する。 したがって、請求人が主張する本件登録意匠の無効理由1には、理由がある。 (2)無効理由2 請求人は、前記第2の1(2)に示すとおり、本件登録意匠は、「本件登録意匠は、本件意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべき」と主張しているから、以下、本件登録意匠が、甲1意匠に基づいて、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が意匠登録出願前に容易に創作することができたものであるか否かについて検討する。 ア 証拠の説明 甲1意匠の認定については、前記3(1)アにおいて認定したとおりである。 イ 創作容易性の判断 本件登録意匠の形状等は、甲1意匠の形状等をほとんどそのまま表し、正面中央に略縦長長方形の不透明な面を有するパネルから、全体が透明なパネルに変更したまでに過ぎないから、本件登録意匠は、当業者であれば、容易に意匠の創作をすることができたものといわざるを得ない。 したがって、請求人が主張する本件登録意匠の無効理由2には、理由がある。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1及び無効理由2について理由があり、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠及び同条第2項に規定する意匠に該当し、その登録は、同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。 審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2024-07-25 |
結審通知日 | 2024-07-29 |
審決日 | 2024-08-27 |
出願番号 | 2023011052 |
審決分類 |
D
1
113・
121-
Z
(J5)
D 1 113・ 113- Z (J5) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
富永 亘 |
特許庁審判官 |
内藤 弘樹 清野 貴雄 |
登録日 | 2023-10-25 |
登録番号 | 1756786 |
代理人 | 古岩 信嗣 |
代理人 | 古岩 信嗣 |
代理人 | 椿 豊 |
代理人 | 石川 竜郎 |