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審決分類 審判    B4
管理番号 1364998 
審判番号 無効2019-880004
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-07-16 
確定日 2020-07-20 
意匠に係る物品 トートバッグ 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1469166号「トートバッグ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1469166号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、平成24年(2012年)4月10日に意匠登録出願(意願2012-9757)されたものであって、平成25年3月7日付けで登録査定がなされ、同年4月12日に意匠権の設定の登録がされた後、同年5月20日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

令和 1年 7月16日付け 審判請求書提出
同年 9月19日付け 審判事件答弁書提出
令和 2年 1月 6日付け 審判事件弁駁書提出
同年 2月10日付け 審理事項通知書
同年 2月27日付け 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年 3月19日付け 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
同年 3月30日付け 口頭審理期日延期通知書
同年 5月13日付け 書面審理通知書

当審は、令和2年2月10日付け審理事項通知書を通知し、これに対して、被請求人は、同年2月27日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)を提出し、請求人は、同年3月19日に口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)を提出した。
その後、当審は、令和2年4月7日に発令された緊急事態宣言による外出自粛要請に応じ、同年3月27日を期日とした口頭審理に代えて、令和2年5月13日付けで、本件の審理を職権により書面審理とする旨、通知した。

第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第1469166号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。

1 意匠登録無効の理由の要点
本件意匠(当審注:本件登録意匠のこと。以下、同じ。)は、本件意匠登録出願前に頒布された意匠登録第1361063号公報に掲載された意匠(以下、「引用意匠」という。)と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

2 本件意匠登録を無効とすべき理由

(1)本件意匠の説明
本件意匠は、意匠登録第1469166号の意匠公報に記載のとおり、意匠に係る物品を「トートバッグ」とするものであり、その構成は、下記のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア)前後の身頃と、両側のマチと、底面と、持ち手から構成されている。
(イ)前後の身頃は、上辺が長く下辺が短い浅い逆台形状である。
(ウ)両側面に形成されるマチは、鋭角二等辺三角形状である。
(エ)底面は矩形である。
(オ)持ち手は、前後の身頃の上辺中央から大きく上に立ち上がって取り付けられている。
(カ)底面周縁に設けたファスナーを閉じ、バッグ本体を折り畳んで収納した状態の形状は、扁平矩形の袋体をなしている。
(キ)バッグ本体表面全体に模様が形成されており、形状と模様からなる意匠である。

イ 具体的構成態様

(あ)上辺が長く下辺が短い浅い逆台形状の前後の身頃は、その上辺、下辺及び高さの比が略1.65:1.35:1である。
(い)前身頃の中央上部には、ファスナーを施した略横長長方形状のポケットが配され、その下方には、若干の間隔を開けて、帯状体が設けられている。この帯状体は、横幅がポケットと同一であって、縦幅はポケットの略1/2になっている。
(う)ポケット及び帯状体は、前身頃に両側辺だけが縫い付けられ、裏側はトンネル状となっており、スーツケース等のキャリーバーを通すことができるようになっている。
(え)両側面に形成される、鋭角二等辺三角形状のマチは、側面視で、高さ対底面の長さ比が、略2.6:1である。
(お)側面視において、マチの斜辺は、わずかに外側に膨らんでいる。
(か)持ち手は、その幅がやや幅広となっており、一方の持ち手は、後身頃の上辺近傍に取り付けられ、もう一方の持ち手は、前身頃の上辺から下辺にまで延びている。
(き)両身頃の上辺と底面周囲にファスナーが形成され、正背面視で前後の身頃の下辺の中央に、ファスナーの始端部が短冊状となって下方に突出し、その前身頃側には、ファスナーの取手が現れる。
(く)このファスナーの始端部とファスナーの取手それぞれは、バッグ本体を折り畳んで収納した状態では、扁平矩形の袋体の短辺両端から、長手方向に突出する。
(け)バッグ本体を折り畳んで収納した状態の扁平矩形の袋体は、その縦横の比が、略1:1.72である。
(こ)バッグ本体表面に施された模様は、地色を黒色とし、バラのような小さい花の図柄が多数配された構成になっている。

(2)引用意匠の説明
引用意匠は、意匠に係る物品を「トートバッグ」とするものであって、本件意匠の出願日前である平成20年7月8日に出願され、平成21年4月24日に設定登録、同年6月1日に意匠公報が発行された意匠登録第1361063号の意匠であり、その構成は、意匠公報に掲載のとおり、下記の構成態様からなる。

ア 基本的構成態様

(ア)前後の身頃と、両側のマチと、底面と、持ち手から構成されている。
(イ)前後の身頃は、上辺が長く下辺が短い浅い逆台形状である。
(ウ)両側面に形成されるマチは、鋭角二等辺三角形状である。
(エ)底面は矩形で、平底面視では、マチが外側に突出し、扁平な六角形状である。
(オ)持ち手は、前後の身頃の上辺中央から大きく上に立ち上がって取り付けられている。
(カ)底面周縁に設けたファスナーを閉じ、バッグ本体を折り畳んで収納した状態の形状は、扁平矩形の袋体をなしている。
(キ)バッグ本体表面に模様はなく、形状のみの意匠である。

イ 具体的構成態様

(あ)上辺が長く下辺が短い浅い逆台形状の前後の身頃は、その上辺、下辺及び高さの比が略1.8:1.5:1である。
(い)前身頃の中央には、上部にファスナーを施した略四角形状のポケットが配されている。
(う)そのポケットは、前身頃に両側辺だけが縫い付けられ、裏側はトンネル状となっており、スーツケース等のキャリーバーを通すことができるようになっている。
(え)両側面に形成される、鋭角二等辺三角形状のマチは、側面視で、高さ対底面の長さ比が、略2.1:1である。
(お)側面視において、マチの斜辺は、わずかに外側に膨らんでいる。
(か)持ち手は、その幅がやや幅広となっており、前後の身頃の上辺に取り付けられている。
(き)両身頃の上辺と底面周囲にファスナーが形成され、正背面視で前後の身頃の下辺の中央に、ファスナーの始端部が短冊状となって下方に突出し、その前身頃側には、ファスナーの取手が現れる。
(く)このファスナーの始端部とファスナーの取手それぞれは、バッグ本体を折り畳んで収納した状態では、扁平矩形の袋体の短辺両端から、長手方向に突出する。
(け)バッグ本体を折り畳んで収納した状態の扁平矩形の袋体は、その縦横の比が、略1:1.6である。
(こ)バッグ本体表面に模様はない。

(3)本件意匠と引用意匠との対比
ア 本件意匠と引用意匠の意匠に係る物品の対比
意匠に係る物品は、両意匠ともに「トートバッグ」に関するものであり、同一の物品である。

イ 本件意匠と引用意匠の形態の共通点及び差異点の列挙
[基本的構成態様における共通点及び差異点]
両意匠は、上記2(1)ア及び(2)ア記載の構成(ア)ないし(カ)において共通している。なお、構成(エ)については、本件意匠の底面図からは、外側に突出したマチが視認できないが、平面図において本件意匠は扁平な六角形状になっている点、正面視において、本件意匠は上辺が下辺より長い逆台形状に構成され、さらに、側面視において、マチが鋭角二等辺三角形状になっている点を考慮すれば、底面視において、本件意匠は、引用意匠と同様に、扁平な六角形状になっていると解釈できると思料するので、構成(エ)においても、両意匠は共通している。
してみれば、相違点は、構成(キ)の模様の有無のみである。
[具体的構成態様における共通点及び差異点]
両意匠は、上記2(1)ア及び(2)イ記載の構成(お)、(き)及び(く)において共通し、さらに、構成(う)において、ポケットが、スーツケース等のキャリーバーを通すことができるようにするため、両側辺だけが前身頃に縫い付けられ、裏側がトンネル状になっている点で共通している。
差異点は、構成(あ)?(え)、(か)、(け)及び(こ)であって、具体的には下記の通りである。

(あ)本件意匠は、前後の身頃の上辺、下辺及び高さの比率が略1.65:1.35:1であるのに対して、引用意匠は、略1.8:1.5:1である点
(い)本件意匠の前身頃の中央上部には、ファスナーを施した略横長長方形状のポケットが配され、その下方には、若干の間隔を開けて、横幅がポケットと同一で縦幅がポケットの略1/2になっている帯状体が設けられているのに対して、引用意匠の前身頃には、上部にファスナーを施した略四角形状のポケットが配されている点
(う)本件意匠には、スーツケース等のキャリーバーを通すことができるようにするため、両側辺だけが前身頃に縫い付けられ、裏側がトンネル状になっている帯状体が配されているのに対して、引用意匠にはそれがない点
(え)本件意匠のマチの高さ対底面の長さ比が、略2.6:1であるに対して、引用意匠は略2.1:1である点
(か)本件意匠の持ち手は、片方が後身頃の上辺近傍に取り付けられ、もう片方の持ち手は、前身頃の上辺から下辺にまで延びているのに対して、引用意匠の持ち手は前後の身頃の上辺にそれぞれ取り付けられている点
(け)バッグ本体を折り畳んで収納した状態における扁平矩形の袋体の縦横の比が、本件意匠は略1:1.72であるので対して、引用意匠は略1:1.6である点
(こ)本件意匠には、地色を黒色とし、その上にバラのような小さい花の図柄がバッグ本体全面に多数施された模様が付されているのに対して、引用意匠には模様はなく、形状のみとなっている点

ウ 本件意匠と引用意匠の形態の共通点及び差異点の評価
[共通点の評価]
本件意匠と引用意匠とは、上記2(1)ア及び(2)ア記載の基本的構成態様の構成(ア)ないし(キ)のうち、構成(ア)ないし(カ)を共通にしているが、かかる構成は、それぞれの意匠において、面積上大部分をカバーし、両意匠の基本的骨格をなすものであるから、基本的な美感を形成し、それを需要者に強く印象付けるものであって、意匠の類否判断に与える影響は、大である。
さらに、上記2(1)イ及び(2)イ記載の具体的構成態様における共通点、である構成(お)、つまり、マチの斜辺がわずかに外側に膨らんでいる点については、バッグ本体の形状に直接影響を与えるものであり、これらが共通することは、意匠の類否に一定程度の影響を与えるものである。
構成(き)及び(く)については、それぞれ、意匠全体に比して小さいものではあるが、アクセントとなりうるものであり、これらが共通することは、両意匠全体の類似感を需要者に与える一助となっている。
[差異点の評価]
両意匠を対比すると、具体的構成態様における構成(あ)、(え)及び(け)、つまり、前後の身頃、マチ及びバッグ本体を折り畳んで収納した状態における扁平矩形の袋体の構成比率が、以下のように相違している。
・前後の身頃の上辺:下辺:高さの比率
本件意匠 略1.65:1.35:1
引用意匠 略1.8:1.5:1
・マチの高さ対底面の長さの比率
本件意匠 略2.6:1
引用意匠 略2.1:1
・バッグ本体を折り畳んで収納した状態における扁平矩形の袋体の縦横比
本件意匠 略1:1.72
引用意匠 略1:1.6
しかしながら、これらの数値の相違は、比率的に顕著な差異を示しておらず、むしろ、同様の傾向を示しており、視覚上、意匠全体に別意の美感を与える程の有意な差異となって表れているとはいえず、これらの相違は、極めて軽微な相違にすぎない。
差異点(い)及び(う)については、引用意匠は、略四角形状のポケットが前身頃の中央に大きく一つ配されているのに対して、本件意匠は、前身頃の中央上部に横長長方形状のポケットを配し、その下に若干間隔を開けて帯状体が設けられているので、かかる構成の差異については、意匠の類否において、一定程度の影響を与えるものと思料するものであるが、本件意匠におけるポケットと帯状体の隙間は、それほど大きく開いているものではなく、また、ポケットと隙間と帯状体からなる部分の形状は、略四角形状であって、引用意匠のポケットと略同じ位置、略同じ大きさ、略同じ範囲にあり、一見すると、引用意匠とほとんど同じような印象を需要者に与えているので、かかる構成の違いは、意匠の類否に決定的な影響を与えるものではなく、むしろ、バリエーションの一つと需要者に認識されるものである。
持ち手の取り付けに関する差異点(か)については、本件意匠の前身頃側の持ち手が、引用意匠とは異なり、バッグ本体の上辺から下辺まで延びている点が特徴となっているが、かかる部分は、バッグ本体中央の大部分に配されたポケットと帯状体とによって、そのほとんどが覆い隠されており、下辺まで延びていることが視認しづらく、むしろ、一見すると、後身頃と同じように、前身頃の上辺近傍に持ち手が取り付けられていると認識されやすいような構成になっているので、かかる差異点は、特段注意を惹くものではない。
模様の有無に関する差異点(こ)は、本件意匠では、地色を黒色とし、バラのような小さい花の図柄がバッグ本体全体に多数配された模様が施されているのに対して、引用意匠は形状のみの意匠であって、模様がない。模様があるものとないものを対比すると、模様の有無によって、一見、両意匠が異なる意匠のような印象を与え得るが、そもそも、模様は、任意に選択できるものであり、意匠を構成する要素の一つであっても、形状に比して二次的なものと言わざるを得ない。また、この種の物品分野において、バッグ本体全体に小さな花の図柄を配した模様は、比較的ありふれたものであって、地色に様々な色を用いることも普通に行われていることである。これらを鑑みれば、地色を黒色とし、バラのような小さな花の図柄を多数、バッグ本体全体に配した本件意匠の模様は、特に目新しいものではないので、意匠の類否判断において、この模様の有無を殊更重視すべきではない。

エ 本件意匠と引用意匠の意匠に係る物品及び形態の共通点及び差異点の評価に基づく類否の結論
両意匠は、基本的構成態様の構成(ア)ないし(カ)が共通しており、かかる共通点は、面積上大部分をカバーし、両意匠の基本的骨格をなすものであるから、基本的な美感を形成し、それを需要者に強く印象付けるものであって、意匠の類否判断に与える影響は極めて大きいといえる。このことは、逆台形状を基調とするトートバッグや、底面周縁にファスナーを配し、それを閉じるとバッグ本体を折り畳むことができるトートバッグが、それぞれ既に公開されていたとしても、構成(ア)から(カ)を組み合わせたものは新規で独創的なものになっていることから、構成(ア)から(カ)が共通している点が、意匠の類否判断において重視されるべきことに変わりはない。
加えて、前後の身頃、マチ及びバッグ本体を折り畳んで収納した状態における扁平矩形の袋体の構成比率に違いがあるとしても、かかる相違は、実質的に両意匠のバッグ本体の全体形状及び扁平矩形の袋体の形状が異なっているとの印象を需要者に与える程の相違とはなっておらず、むしろ、ほとんど同じ形状との印象を与える程度の違いである。
さらに、本件意匠のポケットと隙間と帯状体からなる部分の形状が、引用意匠のポケットとほぼ同じ位置、大きさ、範囲になっていることから、本件意匠が隙間を介して二分割された構成になっているとしても、この相違が両意匠の類否に決定的な影響を与えるものではなく、模様の有無についても、模様は二次的で任意に選択できるものであり、また、本件意匠の模様は比較的ありふれたものでもあることから、意匠の類否判断に与える影響は小さいと言わざるを得ない。
これらのことを考慮すれば、両意匠の全体形状は、需要者に共通した美感を印象づけていることは明らかであるから、両意匠は類似するものである。

3 むすび
したがって、本件意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。

4 証拠方法
甲第1号証 意匠登録第1469166号公報(本件意匠公報)の写し
甲第2号証 意匠登録第1361063号公報(引用意匠公報)の写し
甲第3号証 本件意匠と引用意匠の名称図
甲第4号証 本件意匠と引用意匠の比較図

第3 被請求人の答弁及びその理由
被請求人は、令和1年9月19日付けの答弁書において、答弁の趣旨を「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」とし、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。

1 答弁の理由

(1)認否
審判請求書 「6 請求の理由」のうち、(1)本件意匠登録及び(2)手続きの経緯については認め、その余は否認する。

(2)理由
【被請求人の主張】
ア 意匠法第3条第1項第3号違反について
請求人は、甲第2号証記載の意匠(以下、「引用意匠」という。)を理由として本件登録意匠について意匠法第3条第1項第3号違反の無効理由を主張している。しかし、後述するとおり、本件登録意匠と引用意匠は、両意匠の差異点が共通点を大きく凌駕しており、類似するものではない。
以下、詳述する。

(ア)本件登録意匠の要旨
A 本件登録意匠の意匠にかかる物品
本件登録意匠の意匠にかかる物品は「トートバッグ」である。
B 本件登録意匠の構成
本件登録意匠の構成を以下の通り説明する。
【基本的構成態様】
(A)全体が、上辺が長く下辺が短い正面視略逆台形状、側面視略二等辺三角形状、底面視略長方形状であって、持ち手が肩掛け可能な程度の長さを有し、開口部にはファスナーを有する。
(B)底面の周縁に沿ってファスナーが設けられており、バッグ本体を底面の内部に折り畳んでファスナーを開閉することにより、収納可能である。
(C)生地に花柄の模様が付されている。
【具体的構成態様】
(a)正面視略台形状の上辺、下辺、高さの比が1.6:1.3:1である。なお、甲第1号証の公報の正面図を実測すると、7.2cm:6cm:4.4cmであったため、上記の比率になる。
(b)正面には横長の長方形で構成されるポケットが設けられ、そのポケットにはファスナーが設けられると共に、ポケットの左右辺のみがバッグ本体に取り付けられており、ポケットとバッグ本体との間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている。
(c)ポケットの下に間隔を開けてポケットと同じ横幅・略半分の縦幅で構成される帯状体が設けられ、その左右辺のみがバッグ本体に取り付けられており、バッグ本体との間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている。
(d)側面視略二等辺三角形状の底面と高さの比は1:2.9である。なお、甲第1号証の公報の右側面図を実測すると、1.8cm:5.2cmであったため、上記比率となる。
(e)正面側の持ち手は正面のポケットと帯状体の生地の下を通り、下辺まで延びているが、背面側の持ち手はバッグ本体の上方に取り付けられ、始端部が視認できる。
(f)底面の周縁に設けられているファスナーは正面側の中央を始端とし、短冊状の始端部が設けられ、始端部とファスナーの持ち手は下方に突出する。
(g)バッグ本体を底面の中央で長手方向に二つ折りにして、底面の周縁に設けられたファスナーを閉合することにより、底面内にバッグを収納可能である。
(h)バッグ本体を収納した状態は略長方形であり、縦横比は1:1.5である。なお、甲第1号証の公報の底面図を実測すると、縦が2.5cmで、横が7.6cmの半分とし、3.8cmであるため、上記比率となる。
(i)バッグ本体を収納した状態において、ファスナー始端部とファスナーの取っ手がそれぞれ略長方形の本体の短辺両端から突出する。
(j)バッグ本体とファスナーの始端部の生地には黒地に赤いバラの花と緑の葉の小花模様が描かれている。
(イ)引用意匠の要旨
A 引用意匠の意匠にかかる物品
引用意匠の意匠にかかる物品は「トートバッグ」である。
B 引用意匠の構成
引用意匠は平成21年6月1日に意匠公報が発行されることにより開示された。
【基本的構成態様】
(A)全体が、上辺が長く下辺が短い正面視略逆台形状、側面視略二等辺三角形状、底面視略長方形状であって、持ち手が肩掛け可能な程度の長さを有し、開口部にはファスナーを有する。
(B)底面の周縁に沿ってファスナーが設けられており、バッグ本体を底面の内部に折り畳んでファスナーを開閉することにより、収納可能である。
【具体的構成態様】
(a)正面視略台形状の上辺、下辺、高さの比が1.8:1.5:1である。なお、甲第2号証の公報の正面図を実測すると、8.3cm:7cm:4.6cmであったため、上記の比率になる。
(b)正面には略正方形で構成されるポケットが設けられ、そのポケットにはファスナーが設けられると共に、ポケットの左右辺のみがバッグ本体に取り付けられており、ポケットとバッグ本体の間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている。
(d)側面視略二等辺三角形状の底面と高さの比は1:2.1である。なお、甲第2号証の公報の右側面図を実測すると、2.2cm:4.6cmであったため、上記比率となる。
(e)持ち手は上辺に取り付けられている。
(f)底面の周縁に設けられているファスナーは、正面側の中央を始端とし、短冊状の始端部が設けられ、始端部とファスナーの持ち手は下方に突出する。
(g)バッグ本体を底面の中央で長手方向に二つ折りにして、底面の周縁に設けられたファスナーを閉合することにより、底面内にバッグを収納可能である。
(h)バッグ本体を収納した状態は略長方形であり、縦横比は1:1.6である。なお、甲第2号証の公報の底面図を実測すると、縦が2.2cmで、横が7cmの半分とし、3.5cmであるため、上記比率となる。
(i)バッグ本体を収納した状態において、ファスナー始端部とファスナーの取っ手がそれぞれ略長方形の本体の短辺両端から突出する。
(ウ)本件登録意匠と引用意匠の対比
A 共通点
上述した構成に基づいて対比すると、本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様中、
(A)全体が、上辺が長く下辺が短い正面視略逆台形状、側面視略二等辺三角形状、底面視略長方形状であって、持ち手が肩掛け可能な程度の長さを有し、開口部にはファスナーを有し、
(B)底面の周縁に沿ってファスナーが設けられており、バッグ本体を底面の内部に折り畳んでファスナーを開閉することにより、収納可能である
点において共通する。
また、具体的構成態様において、
(f)底面の周縁に設けられているファスナーは正面側の中央を始端とし、短冊状の始端部が設けられ、始端部とファスナーの持ち手は下方に突出しており、
(g)バッグ本体を底面の中央で長手方向に二つ折りにして、底面の周縁に設けられたファスナーを閉合することにより、底面内にバッグを収納可能であり、
(i)バッグ本体を収納した状態において、ファスナー始端部とファスナーの取っ手がそれぞれ略長方形の本体の短辺両端から突出する
点が共通している。
B 差異点
上述した構成に基づいて対比すると、本件登録意匠と引用意匠の差異点は、以下のとおりである。
本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様中、
(C)本件登録意匠では、生地に花柄の模様が付されているのに対し、引用意匠には生地の模様が付されていない。
また、具体的構成態様において、
(a)本件登録意匠では、正面視略台形状の上辺、下辺、高さの比が1.6:1.3:1であるのに対し、
引用意匠は、上辺、下辺、高さの比が1.8:1.5:1である。
(b)本件登録意匠では、正面には横長の長方形で構成されるポケットが設けられているが、
引用意匠は、正面には略正方形で構成されるポケットが設けられている。
(c)本件登録意匠では、ポケットの下に間隔を開けて帯状体が設けられており、ポケットと帯状体とバッグ本体との間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっているのに対し、
引用意匠は、帯状体がなく、ポケットのみとバッグ本体の間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている。
(d)本件登録意匠では、側面視略二等辺三角形状の底面と高さの比は1:2.9であるのに対し、
引用意匠は、側面視略二等辺三角形状の底面と高さの比は1:2.1である。
(e)本件登録意匠では、正面側の持ち手は正面のポケットと帯状体の生地の下を通り、下辺まで延びているが、背面側の持ち手はバッグ本体の上方に取り付けられ、始端部が視認できるのに対し、
引用意匠は、持ち手は上辺に取り付けられており、正面視及び背面視には持ち手の始端部が現れない。
(h)バッグ本体を折り畳み、収納した状態に関し、
本件登録意匠では、略長方形であり、縦横比は1:1.5であるのに対し、
引用意匠は、略長方形であり、縦横比は1:1.6である。
(j)本件登録意匠では、バッグ本体とファスナーの始端部の生地には黒地に赤いバラの花と緑の葉の小花模様が描かれているのに対し、
引用意匠には模様が表されていない。
C 類否判断
【共通点の評価】
本件登録意匠と引用意匠は、基本的構成態様において、
(A)全体が、上辺が長く下辺が短い正面視略逆台形状、側面視略二等辺三角形状、底面視略長方形状であって、持ち手が肩掛け可能な程度の長さを有し、開口部にはファスナーを有し、
(B)底面の周縁に沿ってファスナーが設けられており、バッグ本体を底面の内部に折り畳んでファスナーを開閉することにより、収納可能である点において共通しているが、バッグ全体の(A)のような構成は乙第1号証ないし乙第8号証に示すように、ありふれた一般的な構成であって、需要者の注意を引かず、類否判断に与える影響は極めて小さい。
さらに、(B)の構成についても乙第1号証及び乙第9号証ないし乙第11号証で開示されており、既に公然知られた形態であるため、類否判断に与える影響は極めて小さい。
特に、乙第1号証にはその基本的構成態様において(A)と(B)の全ての共通点を備えた意匠が開示されている。
請求人は基本的構成態様における共通点が基本的骨格をなすものであり、需要者に強く印象付ける旨主張しているが、上記の共通点は上述した先行意匠に開示されているものであって、いずれも一般的に採用される構成であり、何ら特徴となるものではない。
特に、上述したように、乙第1号証には(A)と(B)の全ての共通点を備えた意匠が開示されており、これら基本的構成態様における共通点は要部にはなり得ない。したがって、請求人の主張には根拠がない。
また、具体的構成態様における共通点についていえば、
(f)底面の周縁に設けられているファスナーは正面側の中央を始端とし、短冊状の始端部が設けられ、始端部とファスナーの持ち手は下方に突出している点が共通しているが、
乙第9号証ないし第11号証において、底面の周縁に設けられているファスナーが正面側の中央を始端とする構成や、ファスナーの持ち手が下方に突出している構成が開示されているため、既に公然知られた形態であって、類否判断に与える影響は極めて小さい。
さらに、本件登録意匠と引用意匠は、
(g)バッグ本体を底面の中央で長手方向に二つ折りにして、底面の周縁に設けられたファスナーを閉合することにより、底面内にバッグを収納可能である点が共通しているが、
乙第9号証ないし第11号証において、(g)と全く同じ構成が既に開示されており、既に公然知られた形態であるため、類否判断に与える影響は極めて小さい。
加えて、本件登録意匠と引用意匠は、
(i)バッグ本体を収納した状態において、ファスナー始端部とファスナーの取っ手がそれぞれ略長方形の本体の短辺両端から突出する点が共通している。
しかしながら、乙第1号証や乙第9号証ないし第11号証ではバッグ本体を収納した状態が長方形となる構成が開示されているし、さらには乙第9号証ないし第11号証において、ファスナーの取っ手がそれぞれ略長方形の本体の短辺両端から突出する点が開示されている。したがって、この共通点に関しても、既に公然知られた形態であって、類否判断に与える影響は極めて小さい。
以上のように、これらの共通点は先行意匠と比較すると、特徴的な形態とは言えず、類否判断に与える影響は極めて小さいものであると共に、これらの共通点が全体に与える影響は微細で、その共通点が需要者の注意を引くことはなく、要部にはなり得ない。
むしろ本登録意匠には、引用意匠にも、また先行意匠にも開示されていない特徴的な差異点があり、その部分が需要者の注意を引くものであるから、以下に詳述する。
【差異点の評価】
基本的構成態様において、
(C)本件登録意匠では、生地に花柄の模様が付されているのに対し、
引用意匠には生地の模様が付されていない。
模様は意匠の重要な構成要素であり(意匠法第2条第1項)、需要者にとって形状や色彩と同様に注意を惹きつけるものである。本件登録意匠において、模様が意匠全体に占める割合が面積として大きく、華やかな印象を与えることから、類否判断に及ぼす影響は大きく、何の模様も付されていない引用意匠と花柄が記載されている本件登録意匠は明らかな差異があり、類否判断に及ぼす影響は大きい。
請求人は、本件登録意匠の模様は特に目新しいものではない旨、主張しているが、そのことを裏付ける証拠が添付されておらず、根拠がない。
具体的構成態様において、
(a)本件登録意匠では、正面視略台形状の上辺、下辺、高さの比が1.6:1.3:1であるのに対し、
引用意匠は、上辺、下辺、高さの比が1.8:1.5:1であり、同一の寸法ではなく、別異の印象を与える。
(b)本件登録意匠では、正面には横長の長方形で構成されるポケットが設けられるのに対し、
引用意匠は、ポケットが略正方形で構成されている。
ポケットは需要者の注意を惹く正面に設けられているため、その形状が横長の長方形であることと略正方形であることは、需要者に別異の印象を抱かせる。
(c)本件登録意匠では、ポケットの下に間隔を開けて帯状体が設けられており、ポケットと帯状体とバッグ本体との間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっているのに対し、
引用意匠は、帯状体がなく、ポケットとバッグ本体の間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている。
スーツケース等のハンドルを通す機能を有する本物品において、その構成は需要者の注意を惹く部分であるところ、本件登録意匠は、ポケットとこの帯状体との二つの生地でハンドルを支えることから、需要者に対して安心感を与える。さらにスーツケース等のハンドルを通した使用状態において、そのハンドルがポケットと帯状体との間から視認できるから、引用意匠とは別異の印象を与える。
さらに、本件登録意匠のようにポケットと帯状体の二つの生地でハンドルを支える構成は先行意匠にも開示されておらず、斬新であり、本件登録意匠の特徴部分を構成するため、類否判断に及ぼす影響は大きい。
請求人はポケットと隙間と帯状体からなる部分の形状は略四角形状であって、引用意匠のポケットと略同じ位置、略同じ大きさ、略同じ範囲にあり、一見するとほとんど同じような印象を需要者に与えている旨主張するが、構成が全く異なっていると共に、本件登録意匠はポケットと帯状体の隙間から持ち手が見えるため、一見して異なっていることは明白であり、別異の印象を与えるものである。
(d)本件登録意匠では、側面視略二等辺三角形状の底面と高さの比は1:2.9であるのに対し、
引用意匠は、側面視略二等辺三角形状の底面と高さの比は1:2.1であって、寸法が異なり、本願登録意匠の方がスリムな印象を与えるため、別異の印象を与える。
(e)本件登録意匠では、正面側の持ち手は正面のポケットと帯状体の生地の下を通り、下辺まで延びており、背面側の持ち手はバッグ本体の上方に取り付けられ、始端部が視認できるのに対し、
引用意匠は、持ち手は上辺に取り付けられており、正面視及び背面視には持ち手の始端部が現れない。
本件登録意匠の持ち手は本体とは別の生地であるから、正面において下辺まで到達する持ち手を視認することができる。持ち手が下辺まで到達しているのはこの種のバッグにおいてはあまり一般的に見られるデザインではなく、特徴的である。特に、ポケットと帯状体の隙間から持ち手を視認することもできる点で特徴的である。
これに対し、引用意匠は持ち手が正面には表れないから、与える印象が大きく異なっている。
持ち手は需要者の目につく正面及び背面で視認されるものであって、本件登録意匠の本構成が公知意匠には見られない斬新な構成であるため、本件登録意匠の特徴部分を構成するものであって、類否判断に及ぼす影響は大きい。
請求人は、本件登録意匠について、一見すると、上辺近傍に持ち手が取り付けられていると認識されやすい旨主張するが、ポケットと帯状体の隙間からも、また帯状体の下から下辺までも持ち手を視認できるため、見間違えることはない。断続的に連続する持ち手が需要者の注目しやすい正面に設けられていることから、別異の印象を与えるものになっている。
(h)バッグ本体を折り畳み、収納した状態に関し、
本件登録意匠では、略長方形であり、縦横比は1:1.5であるのに対し、
引用意匠は、略長方形であり、縦横比は1:1.6であるため、寸法が異なり、別異の印象を与える。
(j)本件登録意匠では、バッグ本体とファスナーの始端部の生地には黒地に赤いバラの花と緑の葉の小花模様が描かれているのに対し、
引用意匠には模様が表されていない。上述したように、模様の有無は意匠の重要な構成要素の一部であり、類否判断に及ぼす影響は大きいものであり、本件登録意匠は華やかで女性的な印象を与える。さらに、ファスナーの始端部の生地と本体の生地の模様が共通することで、本件登録意匠には全体の一体性があるため、特徴的であって、引用意匠とは別異の印象を与える。
【本件登録意匠と引用意匠の差異点は、共通点を凌駕し、両意匠は類似しない】
本件登録意匠と引用意匠の差異点及び共通点は上述のとおりであるところ、本件登録意匠は、特に、その差異点に関する、
基本的構成態様に見られる、
(C)生地に花柄の模様が付されている点、また、
具体的構成態様に見られる、
(b)正面には横長の長方形で構成されるポケットが設けられ、そのポケットにはファスナーが設けられると共に、ポケットの左右辺のみがバッグ本体に取り付けられており、ポケットとバッグ本体との間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている点、
(c)ポケットの下に間隔を開けてポケットと同じ横幅・略半分の縦幅で構成される帯状体が設けられ、その左右辺のみがバッグ本体に取り付けられており、バッグ本体との間にスーツケース等のハンドルを通すことができる構成になっている点、
(e)正面側の持ち手は正面のポケットと帯状体の生地の下を通り、下辺まで延びているが、背面側の持ち手はバッグ本体の上方に取り付けられ、始端部が視認できる点、
(j)バッグ本体とファスナーの始端部の生地には黒地に赤いバラの花と緑の葉の小花模様が描かれている点において、
これらの差異点が相俟って引用意匠には見られない美感を表出しており、これら差異点が共通点をはるかに凌駕している。
さらに、両意匠の共通点は公知意匠で開示されているものであり、要部とはなり得ないものであって、上記の差異点が両者に大きな美感の相違をもたらしている。
【本件登録意匠の審査段階における引例について】
本件登録意匠の審査段階において、引用意匠を理由として意匠法第3条第1項第3号(当審注:後記、口頭審理陳述要領書において、意匠法第3条第1項第3号の記載は、意匠法第3条第2項の誤記である旨、訂正がなされた。)違反とする拒絶理由を受けたが、意見書にて、ポケットと帯状体が正面に設けられること、また持ち手がポケットと帯状体の下を通り下辺まで延びている点において引用意匠とは相違する旨、反論し(乙第12号証)、非類似として登録を受けている。

イ 本件登録意匠の消滅理由について
本件登録意匠に係る製品はサンプルであり、被請求人は当該製品について販売を行わなかった。また、被請求人は、引用意匠とは非類似である、くまのぬいぐるみの模様が記載されたデザインのトートバッグを製造販売したものの、そのトートバッグについても、現在では被請求人は製造販売をしていない。
以上のような事情があるため、本件登録意匠は年金不納付により、2017年4月12日に消滅している。

ウ まとめ
以上のように、本件登録意匠と引用意匠は非類似であり、意匠法第3条第1項第3号には該当しない。したがって、本件登録意匠には無効理由は存在しないことは明らかである。

2 証拠方法
乙第1号証 実用新案登録第3052416号 登録実用新案公報
乙第2号証 意匠登録第1112622号 意匠公報
乙第3号証 意匠登録第1145626号 意匠公報
乙第4号証 意匠登録第1406114号 意匠公報
乙第5号証 pen、11号、10巻、(2006-6-15)、168頁、(特許庁意匠課公知資料番号HA18007234)
乙第6号証 株式会社スタジオクリップ、2145-610-09-1-31、(特許庁意匠課公知資料番号HJ18018093)
乙第7号証 BELLEMAISONSPORT(1990-7-1)、5頁、(特許庁意匠課公知資料番号HC02038550)
乙第8号証 THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART STORE Holiday 2001、89頁、(特許庁意匠課公知資料番号HD14000901)
乙第9号証 意匠登録第568810号 意匠公報
乙第10号証 実用新案登録番号第3091594号 登録実用新案公報
乙第11号証 エスピーアイ vol.1 2002-2003 BEST GIFT CATALOGUE、9頁、(特許庁意匠課公知資料番号HC14054786)
乙第12号証 本件登録意匠の審査段階で提出した意見書

第4 請求人の弁駁及びその理由
請求人は、被請求人の答弁に対し、令和2年1月6日付けで審判事件弁駁書を提出し、要旨以下のとおり主張をし、その主張事実を立証するため、甲第5号証及び甲第6号証を提出した。

1 理由
本弁駁書は、令和1年9月19日付けの答弁書に対して弁駁するものである。

(1)答弁書中の「(ウ)C 類否判断【共通点の評価】」について

本件登録意匠と引用意匠は、基本的構成態様において、
(A)全体が、上辺が長く下辺が短い正面視略逆台形状、側面視略二等辺三角形状、底面視略長方形状であって、持ち手が肩掛け可能な程度の長さを有し、開口部にはファスナーを有し、
(B)底面の周縁に沿ってファスナーが設けられており、バッグ本体を底面の内部に折り畳んでファスナーを開閉することにより、収納可能である点において共通し、(A)の構成は乙第1号証ないし乙8号証に、(B)の構成については、乙第1号証及び乙第9号証ないし乙第11号証に開示されており、各構成は、それぞれ意匠の類否判断に与える影響は小さく、特に、乙第1号証には、(A)と(B)の構成を備えた意匠が開示されているので、基本的構成態様における共通点は要部にはなり得ない旨主張している。
しかしながら、乙第1号証で開示された意匠を見るに、バッグ本体の形状は、上辺が長く下辺が短い形状であって、概略的には逆台形状といるものではあるが、正面視における両辺は湾曲したものになっており、加えて、逆台形状であっても、本件登録意匠や引用意匠に比して、明らかに縦長に構成されている。かかる形状の相違があるにも関わらず、バッグ本体の形状が、略逆台形状で共通すると十把一絡げに主張することは、抽象的すぎる主張であると思料する。むしろ、バッグ本体の形状が逆台形状で共通していたとしても、乙第1号証と、本件登録意匠・引用意匠のバッグ本体の基本的な形状は、異なるものと判断すべきと考える。
また、乙第1号証で開示された意匠は、(B)の構成を有している旨主張しているが、乙第1号証の意匠は、バッグ本体より肉厚に構成されたカバーケースを、バック本体の底面と前身頃(又は後身頃)の下端部に取り付け、そのカバーケースの周辺に配されたファスナーを閉じることによってバッグ本体を収納可能にする構成になっており、バッグ本体の底面周縁に沿ってファスナーは設けられておらず、収納方法も全く異なるものになっており、(B)の構成を有しているとはいえるものではない。
これらにより、乙第1号証に開示された意匠が、上記(A)と(B)のそれぞれの構成を有しているとの主張は当を得ていないと言わざるを得ない。

(2)答弁書中の「(う)C 類否判断【差異点の評価】」について

ア 基本的構成態様(C)生地の模様の有無
被請求人は、本件登録意匠において、模様が意匠全体に占める割合が面積として大きく、華やかな印象を与えることから、模様がない引用意匠とは明らかな差異があり、類否判断に及ぼす影響は大きいと主張しているが、このような主張が罷り通るならば、形状が同じであっても、模様の有る無しで意匠の類否が決定されるようなことになりかねない。また、本件登録意匠のバック本体全体に配された模様については、その審査の段階において、バッグ本体全面に種々の模様を施すことは極普通に行われているありふれた手法であり、本件登録意匠の出願前に公然知られたものと認められる小花状模様であると判断されている(甲第5号証)。さらには、インターネット上のGoogle画像検索において、キーワードを「トートバッグ バラ柄」として検索してみれば、バッグ本体全面にバラ柄が付されたトートバッグが多数検出されますので(甲第6号証)、バッグ本体全面に、バラなどの小花模様を付することは、特に目新しいものではない。
これらにより、本件のような場合には、殊更に、模様の有無を意匠の類否判断において評価すべきではないと考える。

イ 具体的構成態様(a)バッグ本体の上辺、下辺、高さの比
本件登録意匠の上辺、下辺、高さの比は1.6:1.3:1であるのに対して、引用意匠は1.8:1.5:1であって、同一の寸法ではなく、別異の印象を与えると主張しているが、同一寸法でなければ、共通した印象を与えないとの主張は曲論であると思料する。同一寸法でなくとも、共通した印象を与えることは、論をまたず、当然のことである。本件登録意匠と引用意匠の構成比率にはわずかな違いしかなく、微差といえるものであって、この違いがバッグ本体の形状に有意な差異となって表出していないので、バッグ本体の上辺、下辺、高さの構成比率の違いは、共通の印象を与える範囲に留まるものと考える。

ウ 具体的構成態様(b)ポケットと(c)帯状体
被請求人は、答弁書において、ポケットと帯状体を区別して、引用意匠との形状の違いを主張しているが、ポケットと帯状体は、ともにスーツケース等のハンドルを通して使用する点において、同じ用途・同じ機能を有しており、需要者もそのように理解するのが通常と思料する。
してみれば、ポケットと帯状体を区別してその類否を評価する必然性はとぼしく、むしろ、引用意匠のポケットと、本件登録意匠のポケットと隙間と帯状体とからなる部分とを比較すべきと考える。
両意匠の当該部分を比較するに、本件登録意匠には、ポケットと帯状体の間にわずかな隙間が空いているのみであり、その他の位置や大きさ、範囲といったものは略同じであって、この隙間の違いが意匠の類否判断に決定的な影響を与え得るものとはなっていない。
したがって、本件登録意匠の当該部分は、引用意匠のポケットのバリエーションの一つと需要者に認識されるものと考える。

エ 具体的構成態様(d)マチの底面と高さの比
本件登録意匠のマチの底面と高さの比は1:2.9と主張しており、請求人が主張する略1:2.6とは、その構成比率に隔たりがあるが、これは、本件登録意匠が、写真図面によって登録されたものであって、側面図が真横から撮影されたものではなく、また、前方が大きく後方が小さく映る、いわゆるパースがかかっている状態のものであり、バッグ本体の高さの頂点や底辺の幅が、線図に比べて不明確であり、どこに頂点や底辺の幅の始めと終わりを取るのかによって、比率に違いが生じたものと思料する。
このような事情を考慮すれば、本件の場合における比率の比較については、正確な判断は難しいものと思料する。
仮に、被請求人が主張するように、本件登録意匠のマチの底面と高さの比が1:2.9、引用意匠が1:2.1であったとして、かかる比率の相違は、視覚上、意匠全体に別異の美感を与える程の有意な差異となって表れてはおらず、一般の需要者であれば、共通の印象と認識する程度のものであり、かかる比率の違いが、意匠全体に別異の印象を与えるものにはなっていない。

オ 具体的構成態様(e)持ち手
本件登録意匠の正面側の持ち手は、正面のポケットと帯状体の生地の下を通り、バッグ本体の下辺まで延び、かつ、ポケットと帯状体の隙間と帯状体の下から下辺まで視認できるので、引用意匠の持ち手と見間違えることはない旨主張しているが、ポケットと帯状体の隙間から見える持ち手の延長部と帯状体の下から下辺まで延びる持ち手の延長部は、ポケットと帯状体によって覆い隠されている部分と比較するとわずかであり、このことによって、正面側の持ち手は、バッグ本体の上辺近傍に始端部が取り付けられた背面側の持ち手と同様の構成と需要者に認識されやすいものと思料する。
また、本件登録意匠の持ち手とバッグ本体とは別の生地であることを根拠に、正面において下辺まで到達する持ち手を視認できる旨主張しているが、トートバッグにおいて、持ち手とバッグ本体の生地を、別の生地で構成することは、例を示すまでもなく、通常行われているものであり、本件登録意匠が特別有するものではない。また、持ち手が下辺まで到達しているのは、この種バッグではあまり一般的に見られるデザインではなく、特徴的である旨主張しているが、インターネット上のGoogle画像検索において、キーワードを「トートバッグ バラ柄」として検索してみれば、持ち手が下辺まで延びているトートバッグが多数検出されるので(甲第6号証)、持ち手をバッグ本体の下辺まで到達させることは、トートバッグの分野においては、ありふれたものになっており、持ち手をバッグ本体の上辺中央に取り付けるか、上辺近傍に取り付けるか、あるいは、バッグ本体の下辺まで延ばして取り付けるかは、バリエーションの範囲といえる。
これらを考慮すれば、持ち手の差異は特段注意を惹くものではなく、意匠の類否判断に与える影響は、小さいものと考える。

カ 具体的構成態様(h)バッグ本体を折り畳み、収納した状態
被請求人は、バッグ本体を折り畳み、収納した状態の縦横比を、本件登録意匠は1:1.5、引用意匠は1:1.6とし、かかる寸法の相違により、別異の印象を与えると主張しているが、かかる主張が通るならば、印象が共通する場合とは、寸法が同じときに限られることになる。寸法が同一でなくても、共通した印象を醸成することは極普通なことと考える。
両意匠のバッグ本体を折り畳み、収納した状態の縦横比の違いは、極めて軽微なものであり、一般の需要者であれば、略同じと認識するのが通常の判断であると思料する。

キ 具体的構成態様(j)模様
上記「(2)ア 基本的構成態様(C)生地の模様の有無」において説明したとおり、バッグ本体全面に、バラなどの小花模様を付することは、特に目新しいものではない。また、被請求人は、ファスナーの始端部の生地とバッグ本体の生地の模様を共通にしたことで、本件登録意匠には全体の一体性があるため、特徴的であって、引用意匠とは別異の印象を与えるとしているが、ファスナーの始端部の生地と本体の生地の模様を共通にすることは、創作の過程において、普通に行われることであって、本件登録意匠を特徴づけるものではない。

以上より、本件登録意匠と引用意匠の共通点は、差異点を凌駕するものであるから、本件審判の請求趣旨どおりの審決を求める。

2 証拠方法と立証趣旨
甲第5号証 意匠登録第1469166号に関する拒絶理由通知書
甲第6号証 キーワードを「トートバッグ バラ柄」とするGoogle画像検索の結果一覧

第5 口頭審理について

合議体は、請求人及び被請求人の当事者双方に対して、特許庁審判廷において口頭審理を開廷(期日:令和2年3月27日)する旨通知し、双方より期日請書を受領し、それぞれ口頭審理陳述要領書を提出した。
しかしながら、合議体は、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、口頭審理の期日を延期する旨通知し、その後の緊急事態宣言の発令による外出自粛要請を受け、当事者双方から当該審理を書面審理にすることに異存はない旨の了承を得た上で、以後、本件審理を書面審理とした。

1 被請求人の主張
被請求人は、被請求人陳述要領書に基づき、要旨以下のとおり意見を述べた。

(1)陳述の要領

ア 請求人の「審判事件弁駁書」に対する反論

(ア)「(1)答弁書中の『(ウ)C 類否判断【共通点の評価】』について」に対する反論
請求人は、乙1号証は逆台形状ではなく、バッグ本体の底面周縁に沿ってファスナーは設けられていないため、共通点(A)(B)のそれぞれの構成を有しているとは言えない旨、反論している。
しかしながら、被請求人が提出した答弁書の共通点(A)にも「略台形状」と記載したとおり、おおむね台形状であることを意味している。また、当該共通点(A)は基本的構成態様に関する構成要件であるところ、「基本的構成態様」とは意匠を大つかみに捉えた骨格的な態様のことを言うものであり、詳細な構成は具体的構成態様で論ずべきものである。請求人が主張する、「正面視における両辺が湾曲している」点や、「縦長」である点は、細かな点であり、基本的構成態様ではない。そのため、乙第1号証の意匠はその基本的構成において共通点(A)(B)のそれぞれの構成を有している。
(イ)「(2)答弁書中の『(う)C 類否判断【差異点の評価】』について ア 基本的構成態様(C)生地の模様の有無」に対する反論
請求人は甲5号証を提出し、本件登録意匠のバッグ本体全体に配された模様については、出願前に公然知られたものと認められる小花柄模様であって、甲第6号証に示すようにバッグ本体全面にバラ柄が付されたトートバッグは多数検出されるから、バッグ本体全面に、小花模様を付することは目新しいものではない旨、反論している。
しかしながら、模様は意匠の重要な構成要素であり、視覚的に大きな面積を占める本体の生地に用いられていることから、類否判断に大きな影響を与えることは明白である。また、甲5号証及び甲6号証に挙げられている小花模様と本件登録意匠のバッグ本体全体に配された模様とを比較すると一見して異なるものであって、本件登録意匠の模様がありふれているとは言い難い。
なお、請求人は、形状が同じであっても模様の有る無しで意匠の類否が決定されるようなことになりかねない旨、反論しているが、意匠の類否は、意匠の要部において共通するか、あるいは差異があっても、ありふれていたり、共通点の有する美感を凌駕するかどうかで決まるものであり、常に模様の有る無しで類否が決まるものではない。
被請求人は模様が付されていれば直ちに非類似となると主張しているのではなく、模様が要部を構成する重要な構成要素の一つであると主張している。
(ウ)「(2)答弁書中の『(う)C 類否判断【差異点の評価】』について ウ 具体的構成態様(b)ポケットと(c)帯状体」に対する反論
請求人は、ポケットと帯状体は、ともにスーツケース等のハンドルを通して使用する点において、同じ用途、機能を有しているため、ポケットと帯状体を区別して類否を評価する必然性は乏しく、引用意匠のポケットと、本件登録意匠のポケットと隙間と帯状体とからなる部分とを比較すべきと主張している。
しかしながら、帯状体はポケットのように内部にものを入れておくことはできないから、用途や機能は異なる。需要者の使い方次第でスーツケースのハンドルをいずれか一方に入れて使用することも可能であり、常に一体に機能するものではない。そのため、ポケットと帯状体を区別して類否を判断することに問題はない。
仮に請求人の主張するように引用意匠のポケットと、本件登録意匠のポケットと隙間と帯状体とからなる部分とを比較したとしても、その構成において両者は異なっており、両者は別異の印象を与える。
(エ)「(2)答弁書中の『(う)C 類否判断【差異点の評価】』について オ 具体的構成態様(e)持ち手」に対する反論
請求人は、甲第6号証を提出し、持ち手がバッグ下辺まで伸びているトートバッグはありふれている旨、主張しているが、ポケットと帯状体の隙間を通って断続的に持ち手が視認できるものは一つもない。また、背面側がどうなっているかまでは甲第6号証では明らかにされていない。
したがって、正面側の持ち手は正面のポケットと帯状体の生地の下を通り、下辺まで延びており、背面側の持ち手はバッグ本体の上方に取り付けられ、始端部が視認できる点についてはありふれているとは言えない。
(オ)「(2)答弁書中の『(う)C 類否判断【差異点の評価】』について キ 具体的構成態様(j)模様」に対する反論
請求人はバッグ本体全面に、バラなどの小花模様を付することは、特に目新しいものではない旨主張しているが、上述したように、本件登録意匠に付されている模様と同一の模様は、甲第5号証にも第6号証にも記載されていない。したがって、本件登録意匠に付されている模様がありふれているとは言い難い。
また、請求人はファスナーの始端部の生地と本体の生地の模様を共通にすることは、創作の過程において普通に行われることであると主張しているが、そのことを証明する証拠がない。

イ 事実誤認について
被請求人が提出した答弁書「7.答弁の理由(II)理由【被請求人の主張】(i)意匠法第3条第1項第3号違反について 3 本件登録意匠と引用意匠の対比(3)類否判断 エ 本件登録意匠の審査段階における引例について」(第11頁)において、本件登録意匠に対して通知された拒絶理由は意匠法第3条第1項第3号ではなく、意匠法第3条第2項の誤記であるので、訂正する。
なお、審査官が引用意匠を把握しながらも、第3条第1項第3号違反を通知するのではなく、意匠法第3条第2項を通知したことを考えれば、本件登録意匠と引用意匠が非類似であると判断したものと推認することができる。
したがって、本件登録意匠と引用意匠は非類似であるであることは明白である。

ウ 本件登録意匠の構成、引用意匠の構成、共通点、差異点、要部に関するその他の事項について、令和1年9月19日付け答弁書で述べたとおりである。

2 請求人の主張
請求人は、請求人陳述要領書に基づき、要旨以下のとおり意見を述べた。

(1)陳述の要領

ア 被請求人の「口頭審理陳述要領書」に対する反論

(ア)被請求人のア(ア)の主張について
被請求人は、乙第1号証と引用意匠は、そのバッグ本体の形状がおおむね逆台形状であって基本的構成態様を共通にすると主張している。
「基本的構成態様」とは意匠を大つかみに捉えた骨格的な態様であることについては異存のないところであるが、逆台形状であっても、基本的構成態様において区別される形状があってしかるべきと思料する。バッグ本体の形状が逆台形状であれば、その基本的構成態様を共通にすると十派一絡げに認定することは、あまりに概括的な認定であり、逆台形状であっても、需要者に与える印象を異にするほど、その形状が大きく相違している場合には、基本的な形状の相違として評価すべきと考える。
乙第1号証のバッグ本体の形状は、引用意匠に比して、明らかに「縦長」であり、その形状は全く異なっているので、請求人が令和2年1月6日付けで提出した審判事件弁駁書の「1 理由(1)」で主張した通り、乙第1号証と、引用意匠・本件登録意匠のバック本体の基本的な形状は、異なるものと判断すべきである。
また、被請求人は、乙第1号証の意匠はその基本的構成において共通点(A)(B)のそれぞれの構成を有していると主張しているが、上記の通り、両意匠は、(A)において共通点を有するものではなく、(B)においても、審判事件弁駁書の「1 理由(1)」で主張した通り、乙第1号証の意匠は、バッグ本体より肉厚に構成されたカバーケースを、バック本体の底面と前身頃(又は後身頃)の下端部に取り付け、そのカバーケースの周辺に配されたファスナーを閉じることによってバッグ本体を収納可能にする構成になっており、バッグ本体の底面周縁に沿ってファスナーは設けられておらず、収納方法も全く異なるものになっているので、乙第1号証の意匠が(B)の構成も有していないのは明らかである。

(イ)被請求人のア(ア)及び(オ)の主張について
被請求人は、模様は意匠の重要な構成要素であり、視覚的に大きな面積を占める本体の生地に用いられていることから、類否判断に大きな影響を与えることは明白であると主張し、また、本件登録意匠に付されている模様がありふれているとは言い難いと主張している。
模様は、意匠の構成要素の一つであり、意匠の類否判断において一定程度の影響度を有することは理解するところであるが、バッグ全体に模様を付すことは、普通に行われており、また、バッグの販売にあたっては、同じ形状のバッグであっても模様のバリエーションが用意されることも常であることから、模様は、形状に比べて二次的なものと思料する。
さらに、バッグ全体に模様を付せば、視覚的に大きな面積を占めることは当然であって、このことをもって、意匠の類否判断に大きな影響を与えると認定すれば、類否の結論を誤ることになりかねない。
したがって、本件登録意匠に付されたバラ柄の模様が、公知のバラ柄模様にはない新規なものであったとしても、両意匠の差異点である模様の有無を、意匠の類否判断において、殊更に重視して評価すべきでなく、両意匠の形状を第一義とすべきと考える。

(ウ)被請求人のア(ウ)の主張について
被請求人は、帯状体はポケットのように内部にものを入れておくことはできないから、用途や機能は異なる。需要者の使い方次第でスーツケースのハンドルをいずれか一方に入れて使用することも可能であり、常に一体に機能するものではないと主張している。
しかしながら、帯状体は、細い帯状で構成され、バッグの下方に付されていることから、帯状体のみにスーツケース等のハンドルを通して使用すれば、バッグを安定的にハンドルに固定することができないので、一般の需要者であれば、帯状体にスーツケース等のハンドルを通して使用する場合は、本件登録意匠の意匠公報に掲載されている【使用状況を示す参考図】にもあるように、ポケットにもハンドルを通して使用するのが自然な使い方であって、帯状体のみにハンドルを通して使用するのは、むしろまれであり、想定し難い使い方と考える。
してみれば、帯状体とポケットは、スーツケース等のハンドルを通して使用することがその主たる用途・機能であると思料するので、請求人が審判事件弁駁書の「1 理由(3)」で主張した通り、帯状体とポケットを区別してその類否を評価する必然性は乏しく、引用意匠のポケットと、本件登録意匠のポケットと隙間と帯状体とからなる部分とを比較すべきと考える。当該部分を比較した場合、本件登録意匠は引用意匠のポケットのバリエーションの一つとして需要者に認識されるであろうことは、審判事件弁駁書の「1 理由(3)」で請求人が主張した通りである。

イ 本件登録意匠と引用意匠の構成、共通点、差異点及びそれらの評価に関する上記(1)以外の事項については、令和1年7月16日付け審判請求書及び令和2年1月6日付け審判事件弁駁書で主張した通りである。

第6 当審の判断

1 本件登録意匠(別紙第1参照)
本件登録意匠の認定は、以下のとおりである。

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「トートバッグ」であり、意匠公報記載の意匠に係る物品の説明によると、「本物品は、正面図にある使用状態から本体を二つ折りにし、底面に設けたファスナーを閉じることによって折り畳みが可能である。スーツケースのハンドルを本物品の取っ手の縫い目に沿って外ポケットの間に通すと、スーツケースに引っ掛けて使用が可能である。また、本体の内部には携帯電話と小物を収納するための内ポケットが付いている。」と記載されているものである。

(2)本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)

ア 全体
本件登録意匠は、上面全体を開口部とする持ち手付きのバッグであって、バッグ本体(以下「本体部」という。)の外形状は、正面視において、略横長逆等脚台形とし、側面視は、等辺をやや弧状に膨出した略隅丸縦長二等辺三角形で、底面視は、略隅丸横長長方形とするものであり、上面全体にファスナーを取り付けて開閉可能としている。
持ち手は、略等幅帯状で、両端を、本体部正背面の中央寄りの位置に1つずつ取り付けている。
また、不使用時にかさばらないよう底面中央を長手方向に2つ折りして畳み込み収納することができるものである。

イ 各部の形態

(ア)本体部
(アー1)寸法比
正面の縦(高さ)、上辺、下辺の長さの比率は、約1:1.7:1.5で、両側の傾斜角度(外角)は、約80度である。
側面の底辺の長さと高さの比率は、約1:2である。
底面の縦横の長さの比率は、約1:3である。
(ア-2)正面
中央上端寄りに、縦横の長さの比率が約1:2で、縦は本体部の約4/10で横は本体部(上辺)の約1/2弱とする略横長長方形の袋状のポケット部を設け、そのポケット部は、上から約1/4の位置の左右中央に横の長さの約9/10の長さのファスナーを水平に取り付けて開閉可能としている。また、スーツケースに取り付ける際にスーツケースの伸縮ハンドルを内側に通すため、上下端を開放状としている。
ポケット部の下側に近接して、縦の長さがポケット部の約1/2で、横は等幅の略横長長方形の部材を、上下端を開放状に設け、スーツケースの伸縮ハンドルを内側に通して保持するための保持部(以下「ハンドル保持部」という。)としている。
ポケット部とハンドル保持部の間に、持ち手と同幅の略矩形部材を、持ち手の取り付け位置に合わせて左右に1つずつ、上下端が両者の端部と接するよう形成している。また、ハンドル保持部の下端から本体部の下端まで、同じく持ち手と同幅の略縦長長方形部材を、持ち手の取り付け位置に合わせて左右に1つずつ形成している。
(ア-3)底面
左右中央に、浅い縦溝を形成し、周縁に沿って、収納用のファスナーをほぼ全周に取り付けている。また、上端中央に略矩形状の舌片を突出状に設けてファスナーの始端部とし、真ん中にファスナーのスライダー及び引き手を設けている。
(イ)持ち手
持ち手の幅と本体部上辺の長さの比率は、約1:17である。
持ち手の両端は、本体部正背面の上端で正面視において本体部の上辺を略3等分し内分する位置に1つずつ取り付けて、内側を中空状とする正面視、略逆V字状としている。
本体部への取り付け態様につき、本体部の正背面上端からやや下側まで取り付け、正面側は、背面側の約2倍の長さで、ポケット部の上端と接している。
(ウ)模様及び色彩
本体部は、全体(舌片を含む。)を黒地とし、全面にピンク色と白色からなるバラの花と緑葉をあしらった模様を多数施している。
本体部上面、底面、ポケット部に設けたファスナーは、いずれも黒色で、スライダーと引き手のみ白系の金属色である。
持ち手及び本体部正面の略矩形部材と略縦長長方形部材(以下、略矩形部材と略縦長長方形部材を合わせて「両部材」という。)は、いずれも無模様の黒色である。

2 請求人が主張する無効の理由
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は、「本件意匠は、本件意匠登録出願前に頒布された意匠登録第1361063号公報に掲載された意匠(当審注:引用意匠、甲第2号証の意匠。)と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべき」というものである。

3 甲第2号証の意匠(別紙第2参照)
甲第2号証の意匠(以下「甲2意匠」という。)は、本件登録意匠の出願前である平成21年(2009年)6月1日発行の意匠公報所載の意匠登録第1361063号の意匠である。

(1)意匠に係る物品
甲2意匠の意匠に係る物品は「トートバッグ」であり、意匠公報記載の意匠に係る物品の説明によると、「本願意匠に係るトートバッグは、折り畳み式のものとしてあり、底面周縁に設けられたスライドファスナーを閉じることによって、バッグ本体を2つ折にした底面の内部に折り畳んで収容できる構造になっている。」と記載されているものである。

(2)甲2意匠の形態

ア 全体
甲2意匠は、上面全体を開口部とする持ち手付きのバッグであって、本体部の外形状は、正面視において、略横長逆等脚台形とし、側面視は、等辺をやや弧状に膨出した略隅丸縦長二等辺三角形で、底面視は、略隅丸横長長方形とするものであり、上面全体にファスナーを取り付けて開閉可能としている。
持ち手は、略等幅帯状で、両端を、本体部正背面の中央寄りの位置に1つずつ取り付けている。
また、不使用時にかさばらないよう底面中央を長手方向に2つ折りして畳み込み収納することができるものである。

イ 各部の形態

(ア)本体部
(アー1)寸法比
正面の縦(高さ)、上辺、下辺の長さの比率は、約1:1.7:1.5で、両側の傾斜角度(外角)は、約80度である。
側面の底辺の長さと高さの比率は、約1:2である。
底面の縦横の長さの比率は、約1:3である。
(ア-2)正面
中央に、縦横の長さの比率が約1:1.2で、縦は本体部の約7/10で横は本体部(上辺)の約1/2弱とする略横長長方形の袋状のポケット部を設け、そのポケット部は、上から約1/9の位置の左右中央に横の長さの約7/10の長さのファスナーを水平に取り付けて開閉可能としている。また、スーツケースに取り付ける際にスーツケースの伸縮ハンドルを内側に通すため、上下端を開放状としている。

(ア-3)底面
周縁に沿って、収納用のファスナーをほぼ全周に取り付けている。また、上端中央に略矩形状の舌片を突出状に設けてファスナーの始端部とし、真ん中にファスナーのスライダー及び引き手を設けている。
(イ)持ち手
持ち手の幅と本体部上辺の長さの比率は、約1:17である。
持ち手の両端は、本体部上面の正背面側において、ちょうど本体部とファスナーの間に挟み込むように配し、正面視において本体部の上辺を略3等分し内分する位置に1つずつ取り付けて、内側を中空状とする正面視、略逆U字状としている。

(ウ)模様及び色彩
本体部及び持ち手は、形状のみで、模様及び色彩は施していない。

4 無効理由の検討

(1)本件登録意匠と甲2意匠の対比

ア 意匠に係る物品
本件登録意匠及び甲2意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、いずれも折り畳んで収納可能な「トートバッグ」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

イ 形態の対比
本件登録意匠と甲2意匠を対比すると、両意匠の形態については、主に、以下の共通点及び相違点がある。

(ア)共通点
A 全体
両意匠は、上面全体を開口部とする持ち手付きのバッグであって、本体部を、正面視、略横長逆等脚台形、側面視、略隅丸縦長二等辺三角形、底面視、略隅丸横長長方形とし、上面全体にファスナーを取り付け、持ち手は、略等幅帯状で、両端を、本体部正背面の中央寄りの位置に1つずつ取り付け、底面中央を長手方向に2つ折りして畳み込み収納できるものである点。
B 各部の形態
(A)本体部の寸法比及び傾斜角度において、正面の縦、上辺、下辺の長さの比率及び両側の傾斜角度、側面の底辺の長さと高さの比率、底面の縦横の長さの比率がほぼ一致する点。
(B)本体部の正面において、左右中央に、横幅が本体部(上辺)の約1/2の長さでファスナー付きの略横長長方形の袋状のポケット部を設け、上下端を開放状としている点。
(C)本体部の底面において、周縁に沿って、収納用のファスナーをほぼ全周に取り付け、上端中央に略矩形状の舌片を突出状に設けてファスナーの始端部とし、真ん中にスライダー及び引き手を設けている点。
(D)持ち手において、本体部上辺の長さに対する持ち手の幅の比率がほぼ一致し、その両端は、本体部上端で正面視において本体部の上辺を略3等分し内分する位置に1つずつ取り付けて、内側を中空状としている点。

(イ)相違点
a 本体部
(a)ポケット部について、本件登録意匠は、正面中央上端寄りに設けているのに対し、甲2意匠は、正面中央に設けている。また、縦横の長さの比率は、本件登録意匠は、約1:2であるのに対し、甲2意匠は、約1:1.2で、甲2意匠の方が本件登録意匠より縦長としている。さらに、本体部との比較において、本件登録意匠は、縦の長さが本体部の約4割であるのに対し、甲2意匠は、約7割である点。
(b)本件登録意匠は、ポケット部の下側に、ハンドル保持部を設けているのに対し、甲2意匠は、ハンドル保持部は設けていない点。
(c)本件登録意匠は、ポケット部とハンドル保持部の間に、持ち手と同幅の略矩形部材を、持ち手の取り付け位置に合わせて左右に1つずつ、上下端が両者の端部と接するよう形成し、ハンドル保持部の下端から本体部の下端まで、同じく持ち手と同幅の略縦長長方形部材を、持ち手の取り付け位置に合わせて左右に1つずつ形成しているのに対し、甲2意匠は、このような部材は形成していない点。
b 持ち手
本件登録意匠は、持ち手の両端を、本体部の正背面上端からやや下側まで取り付け、正面側は、背面側の約2倍の長さで、ポケット部の上端と接しているのに対し、甲2意匠は、本体部上面の正背面側において、ちょうど本体部とファスナーの間に挟み込むように取り付けている点。
c 模様及び色彩
本件登録意匠は、本体部全体を黒地とし、全面にピンク色と白色からなるバラの花と緑葉をあしらった模様を多数施し、ファスナーは、黒色で、スライダーと引き手のみ白系の金属色で、持ち手及び本体部正面の両部材は、無模様の黒色に着色しているのに対し、甲2意匠は、形状のみで、模様及び色彩は施していない点。

(2)両意匠の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に与える影響を評価・総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。

ア 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

イ 形態の共通点及び相違点の評価
両意匠は、スーツケースのハンドルに取り付け可能で、また、折り畳んで収納することができるトートバッグであるから、需要者は、主に、旅行用かばんとして、又は、荷物の運搬や買い物等に使用する目的でバッグを購入する者である。
したがって、需要者が最も注意を払う部位は、全体の形態に加え、本体部正面のスーツケースへの取り付け部位といえるから、まずそれらについて評価し、かつそれ以外の形態も併せて、各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。

(ア)共通点の評価
まず、共通点Aの全体について、この種物品の分野において、上面全体を開口部とする持ち手付きバッグの本体部を、正面視を略横長逆等脚台形、側面視を略隅丸縦長二等辺三角形、底面視を略隅丸横長長方形とし、上面全体にファスナーを取り付け、持ち手は、略等幅帯状で、両端を本体部正背面に1つずつ取り付け、底面中央を長手方向に2つ折りして畳み込み収納できるものは、両意匠の他にも一般に知られているものであって(参考意匠1)、両意匠のみに共通する態様とはいえないことから、共通点Aが、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

参考意匠1(別紙第3参照)
韓国特許庁が2011年11月22日に発行した大韓民国意匠商標公報(登録番号30-0621995)に記載された「バッグ」の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HH23438939号)

次に、共通点Bの各部の形態のうち、(A)本体部の寸法比及び両側の傾斜角度について、正面が略横長逆等脚台形で、側面を略隅丸縦長二等辺三角形とするトートバッグは、両意匠の他にも従来から数多くみられるところ、両意匠の各部の寸法比等は、当該トートバッグの標準的な外形状に照らして、ごく一般的なものといえ、需要者が、特に両意匠の寸法比等の一致に注目するとはいえないことから、微弱なものといわざるを得ず、(B)本体部正面のポケット部の態様については、当該物品の分野において、略横長長方形のポケット部を左右中央に設けたものは、例を挙げるまでもなくごく普通に見受けられるものであって、また、その横幅を本体部上辺の約1/2弱の長さとすることも、前記の参考意匠1のとおり、両意匠以外にも見受けられる態様のものであり、さらに、開口部分にファスナーを取り付けることも、両意匠の出願前から一般に知られていることから(例えば、株式会社阪急コミュニケーションズが平成18年6月15日に発行した内国雑誌「pen」11号の第168頁に所載の「バッグ」の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HA18007234)。参考意匠2、別紙第4参照)、これらの点は、格別、需要者の注意を引くものとはいえず、微弱である。そして、スーツケースの伸縮ハンドルを通すため、ポケット部の上下端を開放状としている点についても、バッグの正面又は背面にハンドル保持部を設けることは両意匠の出願前から公然知られているものであり(意匠登録第1316023号の「かばん」の意匠。)、また、両意匠のように、ポケット部がハンドル保持部の役割を兼ねているものもごく普通に見られる態様であることから、格別、需要者の注意を引くものとはいえず、微弱であるといわざるを得ない。(C)については、収納用ファスナーを、本体部底面の周縁に沿って取り付けたものが、被請求人が提出した乙第10号証(実用新案登録第3091594号)に記載の意匠にみられるとおり、両意匠の出願前から一般に知られており、また、前記の参考意匠1にもみられるものであるから、両意匠のみが有する特徴とはいえず、微弱であり、(D)持ち手について、すなわち、両意匠の本体部上辺の長さに対する持ち手の幅の比率は、参考意匠1の当該比率と比較しても大差なく、ごく一般的であること、また、その取付け位置も、等幅に内分する位置に取り付けたものが、両意匠の出願前から一般に知られていることから(参考意匠2)、これらの点は、ほとんど需要者の注意をひかないものであって、微弱なものというほかない。
そうすると、共通点Bは、いずれも微弱なものであるから、両意匠の美感に与える影響は小さい。

(イ)相違点の評価
まず、相違点aのうち、(a)ポケット部について、ポケット部の設けられる上下の位置の相違は、ポケット部上端の取付け位置がほぼ一致するものであるから、この相違はもっぱらポケット部の形態及び本体部に占める大きさの相違に依るものである。すなわち、甲2意匠は、縦の長さが本件登録意匠より2倍近く縦長であり、また、本体部との比較においても、縦の長さが長い分、ポケット部下端が本体部の下端近くまで達しているのに対し、本件登録意匠は、縦の長さが甲2意匠の半分程度で短く、ポケット部が本体部正面の上半分に収まるコンパクトな大きさであるから、両意匠のポケット部の形態及び本体部に占める大きさの相違が、両意匠における上下の取付け位置の相違となっている。そして、あらためて両意匠の形態を比較すると、甲2意匠は、明らかに本件登録意匠より縦長であり、ポケット内の容積が大きく、本体部との比較においても、甲2意匠は、本体部の正面全体の3割を超える大きさを占めており、ポケット部を強調したものとなっているのに対し、本件登録意匠は、全体の2割程度の大きさで、本体部正面の上半分に寄せて設けて、ポケット部の下側に大きな余地部を形成していることから、ポケット部そのものが本体部正面のなかで、格別、目につく存在とはなっておらず、両意匠の態様は、一見して、異なる視覚的印象をもたらしているものである。また、(b)甲2意匠のポケット部は、(a)のとおり、本件登録意匠の2倍近く縦長であるから、バッグをスーツケースに取り付けた際、ポケット部単体で安定的に保持できるものであるのに対し、本件登録意匠は、縦幅が短いポケット部の下側にハンドル保持部を設けて、この2つの部位により上記安定性を確保するものであるから、両意匠の態様は、明らかに相違している。他方、本件登録意匠のポケット部及びハンドル保持部は、本体部全体に施した模様及び色彩によって多少目立ちにくいものとなっているが、(c)両者の間の横帯状の隙間に形成した左右の略矩形部材がアクセントとなっているとともに、ハンドル保持部の下側にも略縦長長方形部材を左右に形成しているから、ポケット部及びハンドル保持部を際立たせる効果をもたらしており、加えて、両部材は、それぞれ持ち手の取付け位置にあわせて形成しているため、あたかも、持ち手の両端がポケット部とハンドル保持部の背面側を通って本体下端まで延出しているかのような視覚的効果を与えており、この点においても、両意匠は、需要者に異なる視覚的効果を与えるものといえる。したがって、相違点aが、両意匠の美感に与える影響は大きい。
次に、相違点bについて、まず、持ち手の取付け態様の相違であるが、上面側で目につきやすい箇所における相違であることに加えて、バッグの強度に関わる持ち手の取り付け部分の態様は、需要者にとって関心が高いものであるところ、持ち手の両端を本体部正背面に取り付けて端部がむき出しとしている本件登録意匠と、持ち手の両端を本体部上面に当接し、本体部正背面に持ち手の両端が表れていない甲2意匠との相違は、局所的であるが、需要者に別異の印象を強くもたらすものといえるから、両意匠の美感に与える影響は大きいものである。
さらに、相違点cについて、この種物品の分野において、無模様で地色のみのトートバッグのほか、地色に模様及び色彩を施したものが、従来から数多くみられるものであり、また、トートバッグ本体の表面全体にバラの花びら模様をあしらったものは、請求人提出の甲第6号証のとおり、多種態様な図柄のものがみられ、本件登録意匠のようにバラの花と緑葉をあしらった模様を多数施したバッグも散見されるが、こうした模様は、花の大きさ、数、配置、色合い等の違いによって、バッグ全体の印象を大きく左右するものであるから、需要者は、当該模様等が嗜好にあうものであるか否かを詳細に見極めるものと推察され、ひいては購入の決め手にもなり得るものである。そうすると、本体部全体を黒地とし、全面にピンク色と白色からなるバラの花と緑葉をあしらった模様を多数施し、ファスナー及び本体部正面の両部材、並びに持ち手を黒色に着色している本件登録意匠と、形状のみで、模様及び色彩を施していない甲2意匠は、明確に相違し、需要者にまったく異なる視覚的印象を与えているものといえるから、相違点cが、両意匠の美感に与える影響は大きい。
したがって、両意匠は、共通点A及び共通点Bが、両意匠の類否判断に与える影響は微弱であるのに対して、相違点aないし相違点cが、両意匠の美感に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が相まって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものである。

(3)小括
上記のとおり、本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が同一であるが、形態においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、相違点が共通点を凌駕し、本件登録意匠は、甲2意匠に類似しているとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由には、理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由に係る理由及び証拠によっては、本件登録意匠の登録は無効とすることはできず、本件登録意匠は、意匠法3条1項3号に違反して登録されたものとはいうことはできないから、同法48条1項1号によりその意匠登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、意匠法52条で準用する特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。



審理終結日 2020-05-27 
結審通知日 2020-05-29 
審決日 2020-06-10 
出願番号 意願2012-9757(D2012-9757) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (B4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前畑 さおり 
特許庁審判長 木村 恭子
特許庁審判官 江塚 尚弘
内藤 弘樹
登録日 2013-04-12 
登録番号 意匠登録第1469166号(D1469166) 
代理人 笹野 拓馬 
代理人 羽鳥 亘 
代理人 柿原 希望 

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