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審決分類 審判 判定   属する(申立成立) M2
管理番号 1375938 
判定請求番号 判定2020-600038
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 判定 
判定請求日 2020-12-07 
確定日 2021-07-08 
意匠に係る物品 スタンド式ミスト発生機 
事件の表示 上記当事者間の登録第1535643号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠及びその説明により示された「スタンド式ミスト発生機」の意匠は、登録第1535643号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び理由
1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は、令和2年(2020年)12月7日に「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1535643号意匠及びこれに類似する意匠の権利範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張をした。

2 請求の理由
(1)判定請求の必要性
本件判定請求人(中西泰)は、本件判定請求に係る登録意匠「スタンド式ミスト発生機」(甲第1号証、以下「本件登録意匠」という)の意匠権者である。
本件判定被請求人(株式会社後藤)が現在輸入販売しているイ号意匠のスタンド式ミスト発生機は、本件登録意匠の意匠権を侵害する可能性があるので、特許庁による判定を求める。本件判定被請求人は、従来、判定請求人の所属する株式会社タイショーから、本件登録意匠に係る「スタンド式ミスト発生機」を購入し、販売していたところ、別途、平成28年3月から一部構造を変更(T字型噴霧管が水圧により延びる機能を廃止)し、判定請求人のスタンド式ミスト発生機を製造依頼している同一の台湾会社「秀福銅機股分有限公司」(以下、「台湾工場」という)から、変更部分を除いて同一部品で製造した「スタンド式ミスト発生機」を、判定請求人の許しを得ることなく、独自にイ号意匠製品を輸入して日本国内で販売を始めた。

(2)本件登録意匠の手続きの経緯
出願:平成27年3月2日(意願2015-004401号)
登録:平成27年9月11日(意匠登録第1535643号)

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、判定請求人の中西泰が所有する意匠権に係るもので(甲第1号証)、その意匠に係る物品は「スタンド式ミスト発生機」であって、その機能及び用途は、図面(甲第2号証)に示すように、三脚スタンド10に嵌装した地上下方から上方に垂直に延びる縦パイプ11(送水管)を介して水道水を、縦パイプ上端に水平に延びる横パイプ20(噴霧管)に送り、横パイプ20に等間隔に設けた噴霧ノズル21から、地上からおよそ1.6m位置で水道水を空中に霧状に噴霧するスタンド式ミスト発生機である。登録意匠公報(甲第2号証)の記載から明らかなように、その特徴は(a)送水管をなす第1段の縦パイプ11をスタンド式に地面に立脚するためのパイプ製三脚10の中央に嵌装して取り付け、(b)そこから垂直上方に延びる送水管の第2段の縦パイプ12の上端に水平に延びる噴霧管たる横パイプ20を揺動部となる連結具21(第2の斜視図)を介して上下左右任意の角度に傾斜旋回可能なT字型となし、(c)この水平噴霧管の横パイプ20に4等分間隔で5個の噴霧ノズル22を設ける一方、(d)三脚10から下方に延びる第1段の縦パイプ11の下端部11aを「く」の字形に屈曲させ、(e)その下端に水道ホースとの連結を行う細長い連結具30を設け、水道ホースとの接続部を形成としたもので、全体として観察した場合、1)三脚スタンドの上方に延びる送水管の上部で水平に延びるT字形噴霧管と、2)三脚スタンド下方に延びる送水管の下端に水道水を供給する「く」字形送水管の下注ぎ形式とを3)長さ比率およそ2対1でバランスよく組み合わせたことを特徴とするものであるといえる。この縦パイプの送水管は、通常2段であるが、ネジ開放して使用すると、(f)水道ホースから送水される水圧に従って上方に延び、3段となる機能を有する(第1の斜視図)。

(4)イ号意匠の説明
判定被請求人の販売するイ号意匠製品はイ号意匠及びその説明図に示す通り、全体として観察した場合、1)三脚スタンドの上方に延びる送水管の上部で水平に延びるT字形噴霧管と、2)三脚スタンド下方に延びる送水管の下端に水道水を供給する「く」字形送水管の下注ぎ形式とを3)長さ比率およそ2対1でバランスよく組み合わせた特徴を有するものであるといえる。
そして、イ号意匠に示すように、(A)送水管をなす第1段の縦パイプ11’をスタンド式に地面に立脚するためのパイプ製三脚10’の中央に嵌装して取り付け、(B)そこから垂直上方に延びる送水管の第2段の縦12’の上端に水平に延びる噴霧管たる横パイプ20’を揺動部となる連結具を介して上下左右任意の角度に傾斜旋回可能なT字型となし、(C)この水平噴霧管の横パイプに4等分間隔で5個の噴霧ノズル22’を設ける一方、(D)三脚から下方に延びる第1段の縦パイプ11の下端部を「く」の字形に屈曲させ、(E)その下端に水道ホースと連結を行う細長い連結具30’を設け、水道ホ-スの接続部を形成としたもので、三脚上方に征びるT字型の上部水平噴霧管と、三脚下方に延びる送水管の下端に水道水を供給する下注ぎ形式とを組み合わせたことを特徴とするものである。

(5)本件登録意匠とイ号意匠の比較説明
両者の比較は甲第3号証に示す。
左側の図面は、意匠登録第1535643号公報記載の図面の拡大図であり、イ号意匠は図面拡大サイズに合わせた写真である。
両者の正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、底面図、参考斜視図を対比すると、図面と写真では意匠の現れ方が異なり、連結部には樹脂製品が使われているため、樹脂製品が黒く表れるどころが、図面では外形線のみで示されるため、幾分違うように見えるが、本件登録意匠の図面は判定請求人の販売製品を図面化したものである一方、イ号意匠製品は、同一の台湾工場で同一部品を使って製造されているので、本件登録意匠とイ号意匠を全体として観察した場合の基本的特徴1)、2)及び3)の組み合わせの構成は実質的に同一である。そして、各特徴を比較すると、
本件登録意匠の特徴(a)の送水管となる縦パイプ11をパイプ製三脚10の中央に嵌装して立脚可能とする点と、イ号意匠の特徴(A)の送水管11’となる縦パイプをパイプ製三脚10’の中央に嵌装して立脚可能とする点とは実質的に同一である、
本件登録意匠の特徴(b)の垂直上方に延びる送水管の第2段の縦パイプ12の上端に水平に延びる噴霧管たる横パイプ20を揺動部となる連結具21(第2の斜視図)を介して上下左右任意の角度に傾斜旋回可能なT字型となす点と、イ号意匠の特徴(B)の垂直上方に延びる送水管の第2段の縦パイプ12’の上端に水平に延びる噴霧管たる横パイプ20’を揺動部となる連結具21’(第2の斜視図)を介して上下左右任意の角度に傾斜旋回可能なT字型となす点とは実質的に同一である。
本件登録意匠の特徴(c)の水平噴霧管の横パイプ20に4等分間隔で5個の噴霧ノズル22を設ける点と、イ号意匠の特徴(C)の水平噴霧管の横パイプ20’に4等分間隔で5個の噴霧ノズル22’を設ける点は実質的に同一である。
本件登録意匠の特徴(d)の三脚10から下方に延びる第1段の縦パイプ11の下端部を「く」の字形に屈曲させる点と、イ号意匠の特徴(D)の三脚10’から下方に延びる第1段の縦パイプ11’の下端部を「く」の字形に屈曲させる点とは実質的に同一である。
本件登録意匠の特徴(e)の第1段目の縦パイプ11の下端に水道ホースとの連結を行う細長い連結具30を設け、水道ホースとの接続部を形成とした点と、イ号意匠の特徴(E)の第1段目の縦パイプ11’の下端に水道ホースとの連結を行う細長い連結具30’を設け、水道ホースとの接続部を形成とした点とは実質的に同一である。
したがって、判定請求人の販売製品と被判定請求人の販売製品とは登録意匠の特徴(f)の水圧で三段となる点を除いて同一部品で組み立てられたものであるから、それ以外に相違点はない。

(6)意匠が本件登録意匠の類似範囲に入る理由
ア 先行技術の考慮
(ア)本件登録意匠は中華人民共和国意匠公報CN302134794S(甲第4号証)の下注ぎ方式を先行例として登録された。先行例と比較すると、三脚から下方に延びる送水管は下端に水道ホースとの連結具30を有しない点で異なり、そして、三脚から上の送水管11aと下の送水管11bはほぼ1対1の長さ比率で、上の送水管から細い2段目の送水管が上方に延び、水平管でなく、鳥のウイングのように湾曲する噴霧管が水平方向に延びるが、噴霧管は旋回可能であるが、鶴首のように上下に傾動することはない。したがって、中国意匠公報は本件登録意匠の(d)三脚から下方に延びる送水管の下端は「く」の字を形成する点を除き、(a)、(b)、(c)及び(e)の特徴を備えない。
(イ)他方、台湾工場がフランスに輸出していた意匠(甲第5号証)は、T字型噴霧管とそれに連通する送水管が2段又は3段であることにおいて、共通するが、三脚部(a)が大きく広がる構成をなし、送水管は三脚を貫いて下方に延び、上方に下方に対し4対1で延びほぼ送水管の中央に水道ホースを繋ぐタイプの「スタンド式ミスト噴霧器」の意匠であり、上部で水平に延びる噴霧管が送水管に対しT字型に広がる点は共通するが、三脚が大きく広がり、三脚を中心とする垂直に伸びる送水管がほぼ4対1の比率で配分され、特徴(d)の三脚下方に延びる送水管の下方を「く」の字に屈曲させるものでなく、特徴(e)下側から水道ホースとの接続するものでない点で異なる。
してみると、本件登録意匠は先行意匠と同一でなく、本件登録意匠の要旨は、全体として観察した場合、1)三脚スタンドの上方に延びる送水管の上部で水平に延びるT字形噴霧管と、2)三脚スタンド下方に延びる送水管の下端に水道水を供給する「く」字形送水管の下注ぎ形式とを3)長さ比率およそ2対1でバランスよく組み合わせたもので、具体的構成として(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を備えるものである。
(ウ)さらに、先行意匠の上記甲第3号証(当審注:甲第4号証の誤記と認められる。)の中国意匠と上記甲第6号証(当審注:甲第5号証の誤記と認められる。)のフランス輸出意匠とを組み合わせることにより本件登録意匠を構成できるかについて、検討すると、両先行意匠は三脚を中心とする上部送水管と下部送水管の比率は甲第3号証(当審注:甲第4号証の誤記と認められる。)の1対1に対し、甲第6号証の比率は4対1と全く異にしている。しかも水注ぎ位置が甲第3号証(当審注:甲第4号証の誤記と認められる。)の下注ぎに対し、甲第6号証の中間注ぎと別個の構成を有するものであって、互いに組み合わせることは困難であって、また、これらを組み合わせて本願意匠を構成できるものでない。
(エ)さらに、本件登録意匠は(へ)水平噴霧管を水圧により二段目が上方に延び三段になるようにした機能はねじ止めにより調整できる構成であって、本件登録意匠の要旨をなすものではなく、全体として観察した場合、1)三脚スタンドの上方に延びる送水管の上部で水平に延びるT字形噴霧管と、2)三脚スタンド下方に延びる送水管の下端に水道水を供給する「く」字形送水管の下注ぎ形式とを3)長さ比率およそ2対1でバランスよく組み合わせたことを要旨とし、具体的構成(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の組み合わせ構造を有する点にあるということができる。

(7)結び
したがって、イ号意匠は登録第1535643号意匠の権利範囲に属するので請求の趣旨どおりの、判定を求める。

3 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第5号証(全て写しであると認められる。)を、判定請求書の添付書類として提出した。
(1)甲第1号証:意匠登録原簿謄本
(2)甲第2号証:意匠公報(意匠登録第1535643号)
(3)甲第3号証:製品対照図
(4)甲第4号証:中華人民共和国意匠公報(CN302134794S)
(5)甲第5号証:フランス国O’fresh.frのホームページ(www.o'fresh.fr)に掲載されたスタンド式ミスト発生機の写真

第2 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)は、令和3年3月18日に「イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、意匠登録第1535643号意匠及びこれに類似する意匠の権利範囲に属しない、との判定を求める。」と答弁し、その理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2 答弁の理由
(1)理由の概要
ア 先行意匠の存在から本件意匠の要部は各連結具の具体的形態に過ぎない。
意匠登録第1535643号にかかる意匠(以下、「本件意匠」という)の先行公知意匠1,2が存在する。3段式である形態は先行公知意匠1、その他の形態は先行公知意匠2に開示されている。そのため、需要者が美観を生ずる本件意匠の要部は、各連結具の具体的形態に過ぎない。
各連結具の具体的形態が異なるイ号意匠は、本件意匠に類似しない。
イ 仮に全体観察を重視したとしても本件意匠の要部は三段式の伸縮式縦パイプであることを含む。
本件意匠の「意匠にかかる物品の説明」、「第1の斜視図」、「第2の斜視図」を踏まえると、本件意匠の要部に三段式の伸縮式縦パイプであることは含まれるものであり、二段式の縦パイプであるイ号意匠は、本件意匠に類似しない。

(2)意匠の構成
ア 本件意匠
被請求人主張の本件意匠の要旨は以下のとおりである(別紙1参照)。
形態A1
下方から上方に向けて、第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具を有し、第2縦パイプと第3縦パイプとを連結する第2パイプ連結具を有する三段伸縮縦パイプを有する。
形態A2
第3縦パイプの上端は、水平噴水管の横パイプとを連結する横パイプ連結具を有してT字状に形成する。
形態A3
第1縦パイプは、放射状に延びるパイプ型三脚の上端を固定しつつ、前記第1縦パイプを挿通する挿通具を有する。
形態A4
挿通具より下方に位置する第1縦パイプは、くの字状に折曲して、下端に給水ホースと連結するホース連結具を有する。
形態A5(第1縦パイプ連結具と第2縦パイプ連結具の具体的形態)
第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具は、上下の円筒部の間に縦線を複数有する円筒状の大径中央部を有し、第2縦パイプと第3縦パイプとを連結する第2パイプ連結具は筒状部材である。
形態A6(横パイプ連結具の具体的形態)
横パイプ連結具は、側面視及び第1斜視図から第3縦パイプの上端縁から順に、小径筒状部、縦溝を形成する筒状部、上端に折曲面を有する上方に向けて径を大きくする筒状テーパー部と、筒状テーパー部の折曲面より傾斜方向に延びる折曲部と、折曲部から横筒部に連続する横筒連続部と、横筒部と、横筒部から横パイプに接続する横パイプ接続部と、を有する。
形態A7(挿通具の具体的形態)
挿通具は、正面視において、第1縦パイプを挿通する外径部からなる挿通筒と、前記外径部上端縁より水平方向に向けて延出する各々の脚固定部と、前記外径部に配する円筒状ノブと、を有する。
形態A8(ホース連結具の具体的形態)
ホース連結具は、第1縦パイプの下端から略同径の2つの内側円筒部と、2つの外側円筒部と、前記内側円筒部と前記外側円筒部との間に前記内側円筒部の縦パイプ長手方向長さの2倍の長さを有する中央円筒部と、前記外側円筒部から突出する小径円筒部と、を有する。
イ イ号意匠の形態は以下の通りである(別紙2参照)。
形態B1
下方から上方に向けて、第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具を有する二段伸縮縦パイプを有する。
形態B2
第2縦パイプの上端は、水平噴水管の横パイプとを連結する横パイプ連結具を有してT字状に形成する。
形態B3
第1縦パイプは、放射状に延びるパイプ型三脚の上端を固定しつつ、前記第1縦パイプを挿通する挿通具を有する。
形態B4
挿通具より下方に位置する第1縦パイプは、くの字状に折曲して、下端に給水ホースと連結するホース連結具を有する。
形態B5(第1パイプ連結具の具体的構成)
第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具は、上下の円筒部の間に縦線を複数有する円筒状の大径中央部を有する。
形態B6(横パイプ連結具の具体的形態)
横パイプ連結具は、第2縦パイプの上端縁から順に、小径筒状部、縦溝を有して上方に向けて大径とする大径筒状部、上端に折曲面を有する上方に向けて径を同じくして背面側に突出する円形の指掛け部を有する指掛け筒状部と、筒状テーパー部の折曲面より傾斜方向に延びる表面に凹凸を有する折曲部と、折曲部から横筒部に連続する表面に凹凸を有する横筒連続部と、横筒部と、横筒部から横パイプに接続する横パイプ接続部と、横パイプから突出する横パイプ側突出部を有する。
形態B7(挿通具の具体的形態)
挿通具は、正面視において、第1縦パイプを挿通する内径部と外径部とを有する挿通筒と、前記外径部表面より下方に傾斜しつつ延出する各々の脚固定部と、前記外径部に配する円周面に凹凸が形成される円筒状ノブと、脚固定部表面に形成される円形ピンと、を有する。
形態B8(ホース連結具の具体的形態)
ホース連結具は第1縦パイプの下端の小径円筒部と、表面に凹凸を有し、第1パイプよりも大径の内側凹凸円筒部と、同じく大径の外側凹凸円筒部と、前記内側凹凸円筒部と前記外側凹凸円筒部との間に側方へ突出するレバー具を有する中央円筒部と、前記外側円筒部から突出する同じく大径の指掛け部と、を有する。
ウ 本件意匠とイ号意匠との相違点(別紙3参照)
[1]本件意匠が第1パイプ、第2パイプ、第3パイプとを連結する三段式であるのに対し、イ号意匠は第1パイプと第2パイプとを連結する二段式であって、第三縦パイプが存在しない(上記形態A1,B1)。
[2]三段式と二段式の違いにより、イ号意匠には第2パイプと第3パイプとを連結する第2連結具が存在しない(上記形態A5,B5)。
[3]横パイプ連結具の具体的構成が異なる。イ号意匠は、縦溝や凹凸を有する大径筒状部材を連続して配しているのに対して、本件意匠は下端にしか配していない。更にイ号意匠は、後方に突出する指掛け部を形成しているのに対して、本件意匠には存在しない(上記形態A6,B6)。
[4]挿通具の具体的構成が異なる。イ号意匠は、三方に延出する足固定部が下方に傾斜しているのに対して、本件意匠は水平方向に足固定部が突出する。イ号意匠は、円周面に凹凸が形成される円筒状ノブであるのに対し、本件意匠は単なる円筒部材である。イ号意匠に配される円形ピンが本件意匠には存在しない。
[5]ホース連結具の具体的構成が異なる。イ号意匠は、表面に凹凸を有する円筒部が連続するのに対して、本件意匠は凹凸が存在しない。イ号意匠に配されるレバー具が本件意匠には存在しない。

3 先行公知意匠の存在
(1)先行公知意匠と、本件意匠とイ号意匠との関係
後述の先行公知意匠1,2は、判定請求書記載のとおり、台湾の「秀福銅器殷分有限公司」(以下、「台湾会社」という)が製造、販売するミスト発生器であり、請求人が代表取締役を務める件外株式会社タイショー(以下、「請求人会社」という)と被請求人会社は、当該台湾会社から購入して日本国内で販売している。
先行公知意匠1は、前記台湾会社がフランス国の「O’FRESH社」(以下、「フランス会社」という)に輸出し、同社の広告に関するものであって、台湾会社のミスト発生器の第1代目商品である(乙1,甲5)。先行公知意匠2は台湾会社が香港での展示会に出展したミスト発生器の第1代目商品を改良した第2代目商品であって第1代目商品と同じくフランス会社や他国にも販売している(乙2,3、4、5)。

(2)先行公知意匠1(第1代目商品)
[1]先行公知意匠1の公知
先行公知意匠1は、上記のとおり台湾会社がフランス会社へ販売したミスト発生器の第1代目商品である(甲5、乙1)。
請求人も本件意匠の先行意匠として認めている。遅くとも2012年10月17日には、アマゾンフランスで取り扱いが開始されており、本件意匠登録出願日にはすでに公知に至っている(乙1)。なお、台湾会社からのフランス会社への輸出開始は2010年である。
[2]先行公知意匠の形態
先行公知意匠1の形態は、以下のとおりである(別紙4参照)。
形態X1
下方から上方に向けて、第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具を有し、第2縦パイプと第3縦パイプとを連結する第2パイプ連結具を有する三段伸縮縦パイプを有する。
形態X2
第3縦パイプの上端は、水平噴水管の横パイプとを連結する横パイプ連結具を有してT字状に形成する。
形態X3
第1縦パイプは、放射状に延びるパイプ型三脚の上端を固定しつつ、前記第1縦パイプを挿着する挿着具を有する。
形態X4
第1縦パイプと第2縦パイプを連結する第1パイプ連結具の側方に給水ホースと連結するホース連結具を有する。
形態X5(第1縦パイプ連結具と第2縦パイプ連結具の具体的形態)
第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具は、上下の円筒部の間に縦線を複数有する円筒状の大径中央部を有し、第2縦パイプと第3縦パイプとを連結する第2パイプ連結具は、上下に分割されており上端と下端に向けて先細り状となり表面に連続した凹凸溝が形成された筒状部材である。
形態X6(横パイプ連結具の具体的形態)
横パイプ連結具は、側面視及び第1斜視図から第3縦パイプの上端縁から順に、小径筒状部、縦溝を形成する筒状部、上端に折曲面を有する上方に向けて径を大きくする筒状テーパー部と、筒状テーパー部の折曲面より傾斜方向に延びる折曲部と、折曲部から横筒部に連続する横筒連続部と、横筒部と、横筒部から横パイプに接続する横パイプ接続部と、を有する。
形態X7(挿着具の具体的形態)
挿着具は、正面視において、第1縦パイプを挿着する挿通筒に各々の脚を固定する固定孔と、を有する。
形態X8(ホース連結具の具体的形態)
ホース連結具は、第1パイプ連結具の側方に突出する突出筒と、前記突出筒の外側のバルブと、を有する。
[3]本件意匠と先行公知意匠1との一致点と相違点
本件意匠と先行公知意匠1の形態からすると、第1縦パイプ、第2縦パイプ、第3縦パイプとを連結した三段式伸縮縦パイプであり(形態A1、X1)、横パイプとを連結したT字状に形成し(形態A2、X2)、第1縦パイプはパイプ型三脚に固定する(形態A3、X3)との点で一致している。
また、以下の相違点を有する。
ア 相違点1-1
本件意匠は第1パイプが挿通具に挿通して下方から延長した部分をくの字に折曲してホース連結具を配するのに対し、先行公知意匠1は第1パイプの下端を挿入具に挿入して下方に延出しない点、及び、挿通具と挿入具との具体的形態(本件意匠の形態A3,A4とA7)
イ 相違点1-2
本件意匠は第1パイプの下端にホース連結具を配するのに対し、先行公知意匠1は第1パイプと第2パイプとを連結する第1パイプ連結具にホース連結具を配する点、及び、ホース連結具の具体的形態(本件意匠の形態A4とA8)
ウ 相違点1-3
第1パイプ連結具、第2パイプ連結具、横パイプ連結具の具体的形態(本件意匠の形態A5、A6)

(3)先行公知意匠2(第2代目商品)
[1]先行公知意匠2の公知
先行公知意匠2は、上記のとおり台湾会社が製造、販売するミスト発生器の第2代目商品で、第1代目商品の改良品である。先行公知意匠2は、2014年(平成26年)10月20日から同月23日まで香港で開催された「MEGA SHOW」に展示することにより公知に至った(乙2・展示会写真、乙3・ブースレイアウト図、乙4・展示用チラシ)。
すなわち、乙3・ブースレイアウト図に示すように、2014年10月20日から23日まで展示会が開催されており、台湾会社のブース番号が「3T-80」と記載されている。乙2・展示会写真に示すように、「3T-80」番号のブースにおいて、第2代目商品が展示されている。さらに、乙4・展示用チラシは配布されたものであるが、各々のページを拡大してブース内で展示もしている。
第2代目商品は、縦パイプが2段のものと3段のものとが併存し、「MEGA SHOW」に展示された実物品は2段式であるが、実際には3段式も存在していた。第2代目商品の写真(乙2,乙4)はいずれもホース連結具を取り外した状態であるが、商品説明にはホース連結具が記載されているとおり(乙5)、実際の商品にはホース連結具が取り付けられている。なお、別紙5・先行公知意匠2名称参考図は、3段式の縦パイプのものでホース連結具を備えた実際の台湾会社の製品をもとに示している。
[2]先行公知意匠の形態
先行公知意匠2の形態は、以下のとおりである(別紙5参照)。
形態Y1
下方から上方に向けて、第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具を有する二段伸縮縦パイプを有する。
形態Y2
第2縦パイプの上端は、水平噴水管の横パイプとを連結する横パイプ連結具を有してT字状に形成する。
形態Y3
第1縦パイプは、放射状に延びるパイプ型三脚の上端を固定しつつ、前記第1縦パイプを挿通する挿通具を有する。
形態Y4
挿通具より下方に位置する第1縦パイプは、くの字状に折曲して、下端に給水ホースと連結するホース連結具を有する。
形態Y5(第1縦パイプ連結具と第2縦パイプ連結具の具体的形態)
第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具は、上下の円筒部の間に縦線を複数有する円筒状の大径中央部を有し、第2縦パイプと第3縦パイプとを連結する第2パイプ連結具は筒状部材である。
形態Y6(横パイプ連結具の具体的形態)
横パイプ連結具は、第2縦パイプの上端縁から順に、小径筒状部、縦溝を有して上方に向けて大径とする大径筒状部、上端に折曲面を有する上方に向けて径を同じくして背面側に突出する円形の指掛け部を有する指掛け筒状部と、筒状テーパー部の折曲面より傾斜方向に延びる表面に凹凸を有する折曲部と、折曲部から横筒部に連続する表面に凹凸を有する横筒連続部と、横筒部と、横筒部から横パイプに接続する横パイプ接続部と、横パイプから突出する横パイプ側突出部を有する。
形態Y7(挿通具の具体的形態)
挿通具は、正面視において、第1縦パイプを挿通する内径部と外径部とを有する挿通筒と、前記外径部表面より下方に傾斜しつつ延出する各々の脚固定部と、前記外径部に配する円周面に凹凸が形成される円筒状ノブと、脚固定部表面に形成される円形ピンと、を有する。
形態Y8(ホース連結具の具体的形態 乙4形態)
第1縦パイプの下端に筒状部材からなる連結金具が配されている。
形態Y’8(ホース連結具の具体的形態 別紙5で現れる現物写真形態)
ホース連結具は第1縦パイプの下端の小径円筒部と、表面に凹凸を有し、第1パイプよりも大径の内側凹凸円筒部と、同じく大径の外側凹凸円筒部と、前記内側凹凸円筒部と前記外側凹凸円筒部との間に側方へ突出するレバー具を有する中央円筒部と、前記外側円筒部から突出する同じく大径の指掛け部と、を有する。
[3]本件意匠と先行公知意匠2との一致点、相違点
本件意匠と先行公知意匠2の形態からすると、横パイプとを連結したT字状に形成し(形態A2、Y2)、第1縦パイプはパイプ型三脚に固定し(形態A3、Y3)、第1縦パイプは挿通具の下方でくの字状に折曲してホースと連結する(形態A4、Y4)との点で一致している。
また、以下の相違点を有する。
ア 相違点2-1
本件意匠は第1縦パイプと第2縦パイプと第3縦パイプの3段式であるのに対し、先行公知意匠2は第1縦パイプと第2縦パイプの2段式である点が異なる(形態A1)。ただし、現物写真形態のとおり、第2代目商品には3段式のものも存在する。
イ 相違点2-2
第1パイプ連結具と横パイプ連結具の具体的形態(形態A5、6)
ウ 相違点2-3
挿通具の具体的形態(本件意匠の形態A7)
エ 相違点2-4
ホース連結具の具体的形態(本件意匠の形態A8)

4 本件意匠の要部
(1)本件意匠の要部
意匠の類比判断において、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様、並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、意匠の要部を共通しているか否かを重視して、観察を行うことが必要となる。

(2)本件の事情、経緯
特に、本件は、次の事情・経緯が存在する。
台湾会社がすでに第1代目商品(先行公知意匠1乙1,甲5)と、第2代目商品(先行公知意匠2 乙2)とを、本件意匠出願日前に公開していた。甲2・意匠公報における「意匠にかかる物品の説明」欄に「・・・ホースを接続して送水すると、第1の斜視図に示されるように縦パイプが送水の圧力を受けて延び、・・・」と記載されるように、請求人は、第2代目商品を日本国に輸入する際に、「三段式」の「自動」伸縮機能を追加したと称して、第3代目商品となる製品を台湾会社と何らの了承を経ることなく、無断で自ら意匠登録出願を行って、登録に至ったものである。
なお、甲2・意匠公報における「第1の斜視図」と「第2の斜視図」は「参考図」の記載もなく、本件意匠登録出願は、何らの新規性喪失の例外規定の適用をしていない。
一方、被請求人は、請求人が意匠権を取得していることを知り、意匠公報に記載の「意匠にかかる物品の説明」欄と、参考図との記載のない「第1の斜視図」、「第2の斜視図」から、本件意匠権の要部を第3縦パイプの「自動」伸縮機能を持たせたと称していることに着目し、「二段式」の「手動」伸縮の商品を輸入することとした(第4世代商品)。

(3)本件意匠の要部1
先行公知意匠1,2の存在と上記経緯を踏まえて検討すると、上記のとおり本件意匠の形態として形態A1乃至A8が特定されるところ、形態A1、A2、A3は先行公知意匠1に開示され、形態A4は先行公知意匠2に開示されている。
よって、「公知意匠にはない新規な創作部分」は、第1縦パイプ連結具と第2縦パイプ連結具の具体的形態(形態A5)、横パイプ連結具の具体的形態(形態A6)、挿通具の具体的形態(形態A7)、ホース連結具の具体的形態(形態A8)といった各部材の具体的形態に過ぎない。

(4)本件意匠の要部2
被請求人は上記記載の要部1を主張するものであるが、仮に「全体観察」や「使用態様」を重視したとしても、本件意匠の要部は第1縦パイプと第2縦パイプとを第1連結具で、第2縦パイプと第3縦パイプとを第2連結具で連結した三段伸縮式を要部とするものである。
すなわち、本件意匠公報は、「意匠にかかる物品の説明」欄に「・・・ホースを接続して送水すると、第1の斜視図に示されるように縦パイプが送水の圧力を受けて延び、・・・」と記載されるように、縦パイプが送水圧力により自動的に伸縮することを記載している。これに加え正面図よりも先に「第1の斜視図」、「第2の斜視図」を示し、第3縦パイプが送水圧力により自動的に伸縮することを示している。この内容から自動伸縮するものは第3縦パイプであることが意匠公報に表れており、実際の請求人実施製品も第3縦パイプのみが水圧を受けて自動で伸縮する。
「第1の斜視図」、「第2の斜視図」は、「参考図」の指摘がなく、意匠の物品を説明するための理解の助けとなる補助的なものではない。「参考」の記載がない以上、意匠の構成要素を表したいわば正式な図面である。しかも、正面図よりも先に両斜視図を正式図面として示しており、本件意匠公報に接した需要者が、意匠権者にとって第三縦パイプが伸縮することを重要視していることを強く推認させる記載となっている。
意匠は物品の内部構造や機能を保護するものではなく、自動伸縮式の構成が断面図等により表れていないことから、「自動式」か「手動式」かは保護の対象外と思われる。しかし、上記「意匠にかかる物品の説明」、参考図ではない「第1の斜視図」、「第2の斜視図」の記載、両斜視図が正面図よりも先に掲載されている事実を踏まえ、少なくとも3段式の伸縮パイプであって第1連結具と第2連結具の双方を有することは本件意匠に表れた要部となる。そのように解釈しなければ意匠公報の権利の公示性を害する結果となる。

(5)請求人の主張の反論
請求人の主張は、全体観察を理由として、意匠の要旨として三脚スタンドとT字状噴霧管「1)」、三脚スタンドの下方のくの字型送水管「2)」、1)と2)とを2対1でバランスよく組み合わせた「3)」とし、具体的形態として(a)乃至(f)を挙げているものと思われる。
しかし、当該主張は、先行公知意匠を実際には一切参酌していない。請求人主張の要旨が認められれば、何ら新たなデザイン創作がなされていない公知意匠に意匠権が発生してしまい、創作法である意匠法の精神を没却する結果となる。よって、上記「1)」乃至「1)」が本件意匠の要旨となることはあり得ない。
また、請求人主張の具体的形態(a)乃至(f)は、「具体的」と主張しながらも「嵌装」(a)、「連結具21」(b)、「噴霧ノズル」(c)、「くの字折曲」(d)、「連結具30」(e)、「3段機能」(f)については、部材の存在を示すだけで何らの具体的形態を指摘していない。この部材の存在だけであれば、請求人主張の具体的形態(a)乃至(e)については、先行公知意匠1,2に開示されており何らの創意工夫を重ねて創作した創作的価値がない部分が意匠の要部となり妥当ではない。具体的形態(f)に至っては請求人の記載のとおり単なる機能に他ならない。
したがって、請求人主張の意匠の要旨とはなり得ず、先行公知意匠1,2を参酌すると、本件登録意匠の要部は、横パイプ連結具の具体的形態(本件登録意匠のA5)、挿通具の具体的形態(本件登録意匠のA6)、ホース連結具の具体的形態(本件登録意匠のA7)といった各部材の具体的形態とならざるを得ず(上記(3))、仮に全体観察や使用態様を考慮しても「三段式の伸縮式縦パイプを用いたこと」は要部となるものである(上記(4))。

5 本件意匠の要部とイ号意匠との対比
(1)本件意匠の要部とイ号意匠の該当部分との対比(別紙1,2,3,6)
本件意匠とイ号意匠の相違点は本書第5頁(別紙3)に記載のとおりであり、本件意匠の要部である各連結具の具体的構成と、イ号意匠の該当部分の対比は以下のとおりである。
ア 本件登録意匠
(ア)縦パイプ連結具の具体的構成
第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具は、上下の円筒部の間に縦線を複数有する円筒状の大径中央部を有し、第2縦パイプと第3縦パイプとを連結する第2パイプ連結具は筒状部材である。(A5)
(イ)横パイプ連結具の具体的構成
横パイプ連結具は、側面視及び第1斜視図から第3縦パイプの上端縁から順に、小径筒状部、縦溝を形成する筒状部、上端に折曲面を有する上方に向けて径を大きくする筒状テーパー部と、筒状テーパー部の折曲面より傾斜方向に延びる折曲部と、折曲部から横筒部に連続する横筒連続部と、横筒部と、横筒部から横パイプに接続する横パイプ接続部と、を有する。(A6)
(ウ)挿通具の具体的構成
挿通具は、正面視において、第1縦パイプを挿通する外径部からなる挿通筒と、前記外径部上端縁より水平方向に向けて延出する各々の脚固定部と、前記外径部に配する円筒状ノブと、を有する。(A7)
(エ)ホース連結具の具体的形態
ホース連結具は、第1縦パイプの下端から略同径の2つの内側円筒部と、2つの外側円筒部と、前記内側円筒部と前記外側円筒部との間に前記内側円筒部の縦パイプ長手方向長さの2倍の長さを有する中央円筒部と、前記外側円筒部から突出する小径円筒部と、を有する。(A8)
イ イ号意匠
(ア)縦パイプ連結具の具体的構成
第1縦パイプと第2縦パイプとを連結する第1パイプ連結具は、上下の円筒部の間に縦線を複数有する円筒状の大径中央部を有する。(B5)
※第2パイプ連結具は存在しない。
(イ)横パイプ連結具の具体的構成
横パイプ連結具は、第2縦パイプの上端縁から順に、小径筒状部、縦溝を有して上方に向けて大径とする大径筒状部、上端に折曲面を有する上方に向けて径を同じくして背面側に突出する円形の指掛け部を有する指掛け筒状部と、筒状テーパー部の折曲面より傾斜方向に延びる表面に凹凸を有する折曲部と、折曲部から横筒部に連続する表面に凹凸を有する横筒連続部と、横筒部と、横筒部から横パイプに接続する横パイプ接続部と、横パイプから突出する横パイプ側突出部を有する。(B6)
(ウ)挿通具の具体的構成
挿通具は、正面視において、第1縦パイプを挿通する内径部と外径部とを有する挿通筒と、前記外径部表面より下方に傾斜しつつ延出する各々の脚固定部と、前記外径部に配する円周面に凹凸が形成される円筒状ノブと、脚固定部表面に形成される円形ピンと、を有する。(B7)
(エ)ホース連結具の具体的形態
ホース連結具は第1縦パイプの下端の小径円筒部と、表面に凹凸を有し、第1パイプよりも大径の内側凹凸円筒部と、同じく大径の外側凹凸円筒部と、前記内側凹凸円筒部と前記外側凹凸円筒部との間に側方へ突出するレバー具を有する中央円筒部と、前記外側円筒部から突出する同じく大径の指掛け部と、を有する。(B8)

(2)相違点
本件意匠の具体的形態と、イ号意匠の具体的形態との相違点は、横パイプ接続部、挿通具、ホース連結具のいずれにも複数個所の相違点が存在する。

(3)本件意匠とイ号意匠の相違点の評価
本件意匠の要部となる具体的形態と、イ号意匠の該当部分の形態は、多くの相違点が存在する。これら多くの相違点は、各連結部分であって使用者が操作する部位でもあることから、取引者・需要者が特に注目する部分である。当該部分に数多くの相違点が存在することは、取引者・需要者として、異なる美観を生ぜしめる結果となる。
イ号意匠は、各連結部分において、大径筒状部を設け、凹凸を形成することで使用者に安全かつ円滑に連結部分を回転させて使用しやすい印象を生ぜしめるものである。また、横パイプ連結部の指掛け部、挿通具の下方傾斜部分、ホース連結具のレバー部は本件意匠に表れず、イ号意匠にのみ存在する形態であり、先行公知意匠を踏まえるとこれらの部材の存否は需要者に異なる美観を生ぜしめるものである。
仮に、要部認定において全体観察や使用態様を重視したとしても、三段縦パイプの伸縮形態は本件意匠の要部足りうるものであり、イ号製品は2段の縦パイプであって、第2縦パイプ連結具が存在しない。2段式と3段式の違いは、単なる部材の存否にとどまらず、横パイプと縦パイプの長さ比率が3段式では1:3.5、2段式では1:2となるように大きく異なる。実際の商品からしても、3段式の請求人商品は2mを超えて一般人の身長を超える高さにまで至るものであるが、2段式の被請求人商品は1m台と一般人の身長より低いものである。この違いは、需要者をして意匠全体の美観を異ならしめる結果となる。
これらの相違点を踏まえると、両者に接したものは、看者に異なる美観を生ぜしめるものであるため、両意匠は非類似である。したがって、イ号意匠は、本件意匠と同一若しくは類似するとして、本件意匠の権利範囲に抵触するものではない。

6 まとめ
よって、上記を理由として、イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、意匠登録第1535643号意匠及びこれに類似する意匠の権利範囲に属しない、との判定を求める。

7 被請求人が提出した証拠
被請求人は、以下の乙第1号証ないし乙第7号証(全て写しである。)を、答弁書の添付書類として提出した。
(1)乙第1号証:アマゾンフランス(一部抜粋)
(2)乙第2号証:HONGKONG MEGA SHOWの展示写真
(3)乙第3号証:展示ブースレイアウト図
(4)乙第4号証:展示ブースに掲示されているDM
(5)乙第5号証:部品説明書
(6)乙第6号証:年代表図
(7)乙第7号証:判決文

第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1535643号)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「スタンド式ミスト発生機」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり、具体的な形態は、以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)基本的構成態様について
全体は、水平方向に延びる噴霧管と垂直方向に延びる送水管を、正面視略T字状に連結し、送水管の下方を三脚に挿通して立設した基本構成である。

(2)具体的な態様について
ア 噴霧管について
噴霧管は略パイプ状をなし、細幅円環状の噴霧ノズルを長手方向の中央、両端、及びそれらの中間の位置に等間隔で5つ設けている。
イ 送水管について
送水管は、3本の略縦長パイプを各々連結具(以下「送水管連結具」という。)により連結した構成とし、上端には噴霧管を接合する連結具(以下「噴霧管連結具」という。)を設け、三脚に挿通して下方に延びる部分は正面視略J字状に屈曲し、その先端には水道ホースを連結して注水するための連結具(以下「ホース連結具」という。)を設けている。
また、送水管は伸縮機構を有し、通常は2段であるが、使用時には水圧によって上段のパイプが上方に伸びて3段となる。
ウ 三脚について
三脚は、上部の大略傘状の収束部から斜め三方に開脚する略パイプ状の支持脚を設けた態様をなしている。
エ 連結具について
エ-1 噴霧管連結具は、側面視において、略筒状部材が前方斜め45度に屈曲し、円柱状部材を介して、更に45度屈曲して、前方に延びて噴霧管と接合している。
エ-2 上段パイプと中段パイプを連結する送水管連結具は、略円筒状であり、直径と長さの比は、約1:2である。
エ-3 中段パイプと下段パイプを連結する送水管連結具は、全体が大略円筒状で、上下は径の異なる2つの短円筒部で構成し、その中間部の周面には複数の縦筋を設けている。中間部の直径と全体の長さの比は、約1:4である。
エ-4 ホース連結具は、全体が大略円筒状で、上下は径の異なる2つの短円筒部で構成し、かつ、先端側にはより径の小さい円筒状の突起部を設けている。下段パイプの直径と全体の長さの比は、約1:6である。

2 イ号意匠
本件判定請求の態様であるイ号意匠は、判定請求書の添付書類として提出された「イ号意匠及び説明書」により示されたものであって、意匠に係る物品は、前記第1の2(1)の記載によれば「スタンド式ミスト発生機」であると認められ、その形態を、「イ号意匠及び説明書」に表されたとおりとしたものであり、具体的な形態は、以下のとおりである。(別紙第2参照)

(1)基本的構成態様について
全体は、水平方向に延びる噴霧管と垂直方向に延びる送水管を、正面視略T字状に連結し、送水管の下方を三脚に挿通して立設した基本構成である。

(2)具体的な態様について
ア 噴霧管について
噴霧管は略パイプ状をなし、細幅円環状の噴霧ノズルを長手方向の中央、両端、及びそれらの中間の位置に等間隔で5つ設けている。
イ 送水管について
送水管は、2本の略縦長パイプを送水管連結具により連結した構成とし、上端には噴霧管を接合する噴霧管連結具を設け、三脚に挿通して下方に延びる部分は正面視略J字状に屈曲し、その先端には水道ホースを連結して注水するためのホース連結具を設けている。
ウ 三脚について
三脚は、上部の大略傘状の収束部から斜め三方に開脚する略パイプ状の支持脚を設けた態様をなしている。
エ 連結具について
エ-1 噴霧管連結具は、側面視において、略筒状部材が前方斜め45度に屈曲し、円柱状部材を介して、更に45度屈曲して、前方に延びて噴霧管と接合している。
エ-2 上段パイプと下段パイプを連結する送水管連結具は、全体が大略円筒状で、上下は径の異なる2つの短円筒部で構成し、その中間部の周面には複数の縦筋を設けている。中間部の直径と全体の長さの比は、約1:4である。
エ-3 ホース連結具は、全体が大略円筒状で、上下は径の異なる2つの短円筒部で構成し、かつ、先端側にはより径の小さい円筒状の突起部を設けている。下段パイプの直径と全体の長さの比は、約1:6である。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠及びイ号意匠は(以下「両意匠」という。)は、いずれも「スタンド式ミスト発生機」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると、主として、以下の共通点と相違点が認められる。
ア 共通点
(A)基本的構成態様
全体が、水平方向に延びる噴霧管と垂直方向に延びる送水管を、正面視略T字状に連結してT字管とし、送水管の下方を三脚に挿通して立設した基本構成である点。
(B)噴霧管
略パイプ状をなし、細幅円環状の噴霧ノズルを長手方向の中央、両端、及びそれらの中間の位置に等間隔で5つ設けている点。
(C)送水管
複数の略縦長パイプを送水管連結具により連結した構成とし、上端には噴霧管を接合する噴霧管連結具を設け、三脚に挿通して下方に延びる部分は正面視略J字状に屈曲し、その先端には水道ホースを連結して注水するためのホース連結具を設けている点。
(D)三脚
上部の大略傘状の収束部から斜め三方に開脚する略パイプ状の支持脚を設けた態様である点。
(E)連結具
(E-1)噴霧管連結具は、側面視において、略筒状部材が前方斜め45度に屈曲し、円柱状部材を介して、更に45度屈曲して、前方に延びて噴霧管と接合している点。
(E-2)中間の送水管連結具は、全体が大略円筒状で、上下は径の異なる2つの短円筒部で構成し、その中間部の周面には複数の縦筋を設けており、中間部の直径と全体の長さの比は、約1:4である点。
(E-3)ホース連結具は、全体が大略円筒状で、上下は径の異なる2つの短円筒部で構成し、かつ、先端側にはより径の小さい円筒状の突起部を設けており、下段パイプの直径と全体の長さの比は、約1:6である点。
イ 相違点
(a)送水管について、本件登録意匠は、3本の略縦長パイプで構成しているのに対して、イ号意匠は、2本の略縦長パイプで構成している点。また、本件登録意匠は、上段パイプと中段パイプを連結する送水管連結具を有する点。
(b)本件登録意匠の送水管は伸縮機構を有し、通常は2段であるが、使用時には水圧によって上段のパイプが上方に伸びて3段となる点。

4 本願意匠とイ号意匠の類否判断
(1)意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は同一である。

(2)形態の共通点及び相違点の評価
両意匠は、主に暑熱環境下における熱中症対策に用いられるスタンド式ミスト発生機であり、使用にあたっては、屋外に設置し、水道ホースを接続して注水し、噴霧管からミストを発生させることによって、身体等を冷却させるものであるから、需要者は、設置するための支持具の態様、注水部の位置やその態様、噴霧管の位置、噴霧ノズルの個数や具体的な態様に着目するものといえる。
したがって、これらの観点を踏まえた視覚的印象の影響について評価することとする。
ア 共通点の評価
両意匠の共通点のうち、前記3(2)アの(A)ないし(D)は意匠全体の基本構成及び骨格に係るものであり、類否判断に及ぼす影響は大きいといえるところ、特に(B)ないし(D)の具体的な態様は、需要者が着目するところであるから、これらが類否判断に及ぼす影響は極めて大きい。
(E)の連結具については、総じて類否判断に及ぼす影響は小さいといえるが、(E-1)の屈曲する噴霧管連結具の態様は、特徴的な態様であるから、この共通点が類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
イ 相違点の評価
送水管について、本件登録意匠は3本の略縦長パイプで構成し、かつ、伸縮機構を有しているのに対して、イ号意匠は2本の略縦長パイプで構成したものであるが、この種物品分野においては、送水管の長さが異なるものや、伸縮機構を有するものは普通に見受けられるものであるから、この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。また、本件登録意匠は3段であることにより、上段パイプと中段パイプを連結する略円筒状の送水管連結具を有しているが、その形態は単なる円筒状のものであって、格別特徴的といえる程のものではないから、この点も類否判断に及ぼす影響は小さい。

5 小活
したがって、前記の共通点と相違点を総合して判断すれば、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が同一で、形態についても、相違点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものであるのに対して、共通点は、相まって、需要者に共通の視覚的印象を与えるものであるから、意匠全体として見た場合、両意匠は類似する。

第4 むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって、結論のとおり判定する。

別掲
判定日 2021-06-29 
出願番号 意願2015-4401(D2015-4401) 
審決分類 D 1 2・ 2- YA (M2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 恭子 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 井上 和之
江塚 尚弘
登録日 2015-09-11 
登録番号 意匠登録第1535643号(D1535643) 
代理人 藤田 典彦 
代理人 石井 久夫 

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