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審決分類 審判 無効  2項容易に創作 無効とする J7
管理番号 1053547 
審判番号 無効2000-35001
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-01-04 
確定日 2001-12-21 
意匠に係る物品 温熱サポーター 
事件の表示 上記当事者間の登録第0978059号「温熱サポーター」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第0978059号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第一 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その無効理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。
1.本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は、靴下の爪先部分を切除して、全体略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする編物で構成される。この両端部分の所定幅をリブ編み等の強収縮部の模様が表れ、中間部分は平編みの模様が表れている形態である。
2.証拠の意匠の説明
(1)甲第1号証(実開昭58-110005号公報)には、裁断、縫製したフットカバーで足指が出るように爪先部分を開口して、足指つけ根からアンクル部まで一体となるように形成したフットカバーが開示されている。この甲第1号証の第1図及び第2図には、略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とし、この両端部分の所定幅を強収縮部とする模様が表れる斜視図(見取り図及び着用例を示す斜視図)が図示されている。
(2)甲第2号証(特開平3-279401号公報第1頁右下欄第19行目ないし第2頁左上欄第2行目)には、素材がニットであって伸縮性を有し、靴下の先端部分を取り除いた形状で、足首部に密着して包むように使用されるものであることが開示されている。この甲第1号証の第1図には、L字形に近い略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする形態が図示されている。
(3)甲第3号証(日本パルデス社、商品カタログ第11頁、1987年
発行)には、かかと用ソックスとして靴下の爪先部分を切除し、略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする形態が図示されている。
(4)甲第4号証(JMI医科器械図録1981、日本医科器械学会:国内カタログNo.50)には、全体略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする編物で構成されることが図示され、ひじ、かかとの床ずれ予防に適していることが説明されている。
(5)甲第5号証(Seventeen、P95-56052665)には、靴下の爪先部分を切除して、全体略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする編物で構成されることが写真で図示されている。
(6)甲第6号証(砂山靴下株式会社 商品ステッカー)には、足首サポーターとして靴下の爪先部分を切除し、略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする形態が図示されている。この商品ステッカーは、砂山靴下株式会社が中央パッケージング工業株式会社に依頼して作成したもので、これを商品の足首サポーターに貼付して従来より販売していた。この商品ステッカーを作成した日付を証明する書類として中央パッケージング工業株式会社が砂山靴下株式会社へ発行した見積書を添付する。
3.本件登録意匠と証拠意匠との対比
本件登録意匠と甲第1号証のものとは、共に足の腫部分を中心に被覆するためのもので、略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とし、この両端部に所定幅の強収縮部の模様が表れる形態に共通性を有する。甲第1号証が本件登録意匠にはない側方のシームラインを有するものの、その差は両意匠の同一性を妨げるものではない。
また、本件登録意匠と甲第2号証ものとは、前記甲第1号証と同様に共に足の踵部分を中心被覆するためのもので、靴下の先端部分を切除して略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とする形態に共通性を有する。本件登録意匠の形態として表れる開放両端部の強収縮部の模様が甲第2号証にはないが、その差は両意匠の同一性を妨げるものではない。
また、本件登録意匠と甲第3号証のものとは、足の踵部分を中心として被覆するためのもので、靴下の先端部分を切除した形態に共通性を有する。よって、本件登録意匠は、甲第4号証及び第5号証の同一性の範囲に含まれる。また、本件登録意匠と甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証のものとは、靴下の先端部分を切除した略く字形状の両端を開放した形態に共通性を有する。よって、本件登録意匠は、甲第4号証ないし甲第6号証の各同一性の範囲に含まれる。
4.結び
従って、本件登録意匠は、その出願前に前記甲第1号証ないし甲第6号証のいずれにおいても同一性を有する物品の形態が図示され、またこれを文章により説明されていることから、出願前に公に知られ、また公に実施された意匠であり意匠法第3条第1項第1号又は2号に該当し、無効とすべきである。
第二 被請求人の答弁及びその理由
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を求めるものであると答弁し、その理由として、答弁書に記載のとおりの反論をした。その反論の大要は、以下のとおりである。
1.請求人は、『本件登録意匠は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証に記載された意匠と同一の意匠であり、意匠法第3条第1項第1号若しくわ第2号に該当し、無効とすべきである。』と申し立て、結論として『本件登録意匠は、その出願前に前記甲第1号証ないし甲第6号証のいずれにおいても同一性を有する物品の形態が図示され、またこれを文章により説明されていることから、出願前公に知られ、また公に実施された意匠であり意匠法第3条第1項第1号又は2号に該当し、無効とすべきである。』と、主張しているものである。
しかしながら、この主張は、意匠の概念を誤認しており、しかも、客観性のない恣意的な認定判断であって、到底納得することができないものである。即ち、「意匠」は意匠法第2条1項の定義を持ち出すまでも無く、物品の外形そのものであって、特許や実用新案のように抽象的な技術的思想とは異なるものである。ところが、請求人は、本件登録意匠や甲号証の形態を抽象的な概念で特定し、この抽象的な概念に包含される意匠は、全て同一意匠としている。これは明らかに、意匠法に反するものであって到底容認できない。
2.本件登録意匠の要旨に対する答弁
審判請求書の第2頁(3)に「本件登録意匠の要旨」とある。一般に「要旨」とは、おおよその内容というような意味であるが、請求人は、この「要旨」でもって意匠を対比している。しかし、本件登録意匠と甲号証を対比する場合に、意匠の基本的な形態や具体的な形態を特定して、甲号証と対比すべきであって、おおまかな「要旨」でもって本件登録意匠と甲号証とを比較するのは、誤りである。
3.被請求人は、本件登録意匠の具体的形態を次のように解する。
(1)サポー夕本体は、表地と裏地の2枚の厚手の素材からなり、(2)表面には、ニット特有の多数の細線の模様を有し、(3)サポー夕本体の一端側と他端側は開放しているが、全体は偏平であって、(4)踵に対応する側縁は、踵部分を頂点として略く字状に大きく湾曲し、足の甲に対応する側縁は踵側よりゆるやかな弧状を呈しており、(5)サポー夕本体の両端には、所定の幅の収縮部を有している。
4.証拠の意匠の説明に対して
(1)甲第1号証
甲第1号証のフットカバーと、本件登録意匠の物品とは非類似物品である。即ち、甲第1号証の意匠分類は、装飾品のB2-44であって、本件登録意匠の医療用機械器具のJ7-51の分類とは異なる。物品が非類似であれば意匠も非類似であることは言うまでもないことである。さらに、甲第1号証の第1図では、フットカバー自体が筒状をしており、前記の本件登録意匠の具体的形態(3)の「サポー夕本体の一端側と他端側は開放しているが、全体は偏平である。」点が異なる。本件登録意匠を偏平な状態で観察するのは、通常の状態がこの形態であるのと、本件温熱サポータは正面図、左右側面図、平面図等に表された状態で店頭販売され、一般需要者はこの状態で本件物品を観察するからである。
しかも、甲第1号証の図面からは、素材は薄手のものとしか解されず、表面は無模様であるから、前記具体的形態(1)の「サポー夕本体は、表地と裏地の2枚の厚手の素材からなる」点や、(2)の「表面が、ニット特有の多数の細線の模様である」点が異なっている。さらに、両端に点線が表されているが、この部分が本件登録意匠のような収縮部か否か甲第1号証からは判然としない。従って、本件登録意匠と甲第1号証の第1図に表れたフットカバーとは形態が同一ではない。
(2)甲第2号証
甲第2号証も意匠分類は装飾品のB2-44であって、本件登録意匠の医療用機械器具のJ7-51とは異なり、非類似物品である。しかも、この甲第2号証も甲第1号証と同様に、前記本件登録意匠の具体的形態(1)〜(5)に記載された形態が図面上描かれていない。従って、明らかに本件登録意匠と甲第2号証は形態上、同一では無いことは明らかである。
(3)甲第3号証
甲第3号証(日本ノベルデス社 商品カタログ第11頁 A-B)は、ソックスを履いた状態しか描かれておらず、脱いだ状態がどのような形態になるのかこの線画からは不明であり、本件登録意匠の図面代用写真とは比較できない。しかも、かかる抽象的な線画は、本件登録意匠の前記具体的形態(1)〜(5)に記載された形態と相違し、同一意匠とはとても言えない。
(4)甲第4号証
甲第4号証は、この写真を見る限り、通常の形態が筒状をしており、本件登録意匠の偏平な形態とは異なる。しかも、「ユニークなエアークッションパッドで圧迫せずに固定できるので、」と記載されていることからもわかる通り、ごわごわと膨らみ、両端部の形状も明確には分からない。従って、明らかに本件登録意匠と形態が異なる。
(5)甲第5号証
甲第5号証も意匠分類は装飾品のB2-44であって、本件登録意匠の医療用機械器具のJ7-51とは異なり、非類似物品である。しかも、この写真は靴下を履いた状態を撮影したもので、脱いだ形態はわからない。脱いだ形態は、履いた形態と異なることもあり、この甲第5号証の写真だけでは意匠の特定ができない。しかも、表面の縞模様も本件登録意匠の細かいニット状の模様とは異なる。従って、本件登録意匠は甲第5号証と形態も同一ではない。
(6)甲第6号証
甲第6号証も意匠分類は装飾品のB2-44であって、本件登録意匠の医療用機械器具のJ7-51ではない。「遠赤外線素材」を用いたことを記載しているが、一般の靴下も「遠赤外線素材」を用いたものがあり、これだけをもって甲第6号証が医療用であるということはできない。しかも、この写真も履いた状態を撮影したもので、脱いだ状態はわからない。さらに、甲第6号証は、両端ばかりでなく中央部にも収縮部らしきものが描かれており、この中央部に収縮部があると、このサポータを脱いで畳んだ形態は本件登録意匠とは相違することも考えられる。
なお、審判請求書の第3頁、第15行目以下に「この商品ステッカーは、砂山靴下株式会社が中央パッケージングエ業株式会社に依頼して作成したもので、これを商品の足首サポー夕に貼付して従来より販売していた。」とあるが、見積書というのは、仕事にかかる前に予め費用の概算を顧客側に提示するものであるから、この平成6年8月1日時点では甲第6号証の商品ステッカーは商品に貼付されて販売されていなかったことになる。この見積書の日付は、本件登録出願日(平成6年10月11日)より僅か2月前であるから、この見積書の日付をもって、甲第6号証の商品ステッカ」が本件登録出願前に公然知られたということを立証したことにはならない。しかも、業者間において顧客の仕事の内容を漏らさないよう守秘義務が課されることもあり、守秘義務が課されるまでもなく依頼者の仕事の内容をみだりに口外することは無いから、砂山靴下株式会社が甲第6号証の商品ステッカーの印刷を中央パッケージング工業株式会社に依頼したことをもって、甲第6号証の商品ステッカーが公然知られたということにはならない。
4.本件登録意匠と証拠意匠との対比に対して
請求人は、「靴下の先端部分を切除した略く字状の両端を開放した形態が共通するから甲第1号証から甲第6号証は同一性の範囲に含まれる。」としている。しかし、前記の通り、意匠法は特許法や実用新案法と異なり、物品の形態を抽象的な思想でとらえ、他の意匠と比較するのは間違いであり、意匠の基本的な形態や具体的な形態を特定して、甲号証と比較検討すべきである。しかも、比較は取引市場における、通常の販売状態をもって対比観察すべきものである。
第三 当審の判断
1.請求人の無効理由について
請求人の無効理由は、「本件登録意匠は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された意匠と同一の意匠であり、意匠法第3条第1項第1号若しくは第2号に該当し、無効とすべきである。」というものであるが、本件登録意匠は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された意匠と同一の意匠とすることができず、その登録を無効とすることができない。
すなわち、甲第1号証は、意匠に係る物品が、「フットカバー」であり、甲第2号証は、「衝撃吸収靴下」であり、甲第5号証は、「足首及び踵のサポーター」と推察され、本件登録意匠の意匠に係る物品、医療目的を有する「温熱サポーター」とは、その使用目的及び用途において異なり、意匠の類否判断の前提となる物品が相違し、意匠法第3条第1項第1号若しくは第2号に該当するものとすることができない。
また、甲第3号証の第11頁の中段に記載された「かかと用ソックス」に係る意匠は、その使用目的が、静脈溜の予防と治療のためのものであり、本件登録意匠とは、医療目的という点で共通し、意匠に係る物品が類似するものと推察される。しかしながら、その形態については、靴下の爪先部分を切除し、略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とするイラストが図示されているだけで、その具体的態様については概念的範囲に止まっており、本件登録意匠と同一の意匠とすることができない。また、甲第4号証には、全体が略「く」字形状に屈曲して両端部を開放状態とする編物で構成される意匠が所載されているが、その商品の説明として「ユニークなエアークッションパッドで圧迫せずに固定できる」との記載のとおり、全体が厚地のものであり、本件登録意匠とは、その形態に大きな差異が認められ、本件登録意匠と同一の意匠とすることができない。さらに、甲第6号証は、本件登録意匠と意匠に係る物品が類似する、遠赤外線素材を使用し足首を暖める「足首サポーター」が記載されており、その形態は、靴下の爪先部分を切除し、略く字形状に屈曲して両端部を開放状態とするものが図示されているが、その具体的態様において、両端ばかりでなく中央部にも収縮部があり、本件登録意匠と同一の意匠とはいえない。結局、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証も、意匠法第3条第1項第1号若しくは第2号に該当せず、その登録を無効とすることができない。
したがって、請求人の主張及び提出した証拠をもって、本件登録意匠を無効とすべきものとすることはできない。
2.当審の無効理由
本件登録意匠は、当審の証拠調の結果、下記の無効理由を発見したので、請求人及び被請求人に期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えた。
すなわち、「本件登録意匠は、平成6年10月11日の意匠登録願(意願平6-30891号)に係り、平成9年1月10日に設定の登録がされたものであって、その願書及び願書添付の図面代用図面によれば、意匠に係る物品を『温熱サポーター』とし、その形態を、同添付図面に現したとおりのものである。(別紙第一参照)
ところで、本件登録意匠の形態は、全体が、厚手の伸縮性を有する布地を、略『く』の字状を呈する扁平な筒状体に形成し、その挿入部及び出口の縁部を細幅のゴム編み状に形成したものであり、その使用状態においては、足首、踵及び足の甲部を密着して被覆するいわゆる『つま先部をカットした靴下状の形状』を、温熱サポーターとしたものであるが、この種の物品の分野においては、本件登録意匠の出願前に発行された、(1)公開実用新案公報所載の平成2年12月19日公開、実用新案出願公開平2-149257号の第1図に『酸化マグネシュウムからなる遠赤外放射層と、該遠赤外放射層を坦持する布地とからなる遠赤外線サポーターの実施例(別紙第二参照)』が記載されていること、また、(2)砂山靴下株式会社が、自社の足首サポーターに貼付して、平成6年8月1日以降に公然と販売した、中央パッケージング工業株式会社製造の商品シール『遠赤外線素材+天然シルク100%足首サポーター』(甲第6号証)が存在した事実があること、さらに、(3)1987年に西独パルデス・コンプレッション・ストッキング製造会社日本総代理店「日本パルデス社」が発行したカタログ『脚の問題は太古の昔から人間を悩ませ続けてきた難問です。』(甲第3号証)の11頁に、医療用の『かかと用ソックス』が所載されていることを総合すると、本件登録意匠の出願前に、各種のサポーターを医療に用いること、また、それを遠赤外線素材等を用いた温熱サポーターとすることは、当業者において広く知られていたことが認められる。
また、本件登録意匠の形状については、本件登録意匠の出願前、(4)平成5年3月1日に特許庁が受け入れた早川繊維工業株式会社発行のカタログ『武道』53頁に記載された『かかとサポーター」(意匠課公知資料番号HC05004201号、別紙第三参照)、及び、(5)平成4年10月15日に特許庁が受け入れた台湾所在のHUNTEXCORPORATION発行のカタログ『SPORTINGPROTECTORS』の13頁に記載された『運動用足首サポーター』(意匠課公知資料番号HD04016621号)に、本件登録意匠の形状に酷似した『つま先部をカットした靴下状の形状』が所載されていることから、本件登録意匠の形状は、日本国内において広く知られた形状といえる。
してみると、本件登録意匠は、日本国内において広く知られた形状を、当業者であれば、極めて容易に着想し得る医療用の『温熱サポーター』とした程度のものというべきであり、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものといわざるを得ない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当する意匠であるにも拘わらず、意匠登録を受けたものであるから、その登録は無効とすべきものと認める。」
3.被請求人の意見書
これに対し、被請求人は、意見書を提出し、大要以下のとおり反論した。
「拒絶理由通知書の中で、引用意匠(4)、(5)を本件登録意匠の形状に酷似した『つま先部をカットした靴下状の形状』が所載されていることから、本件登録意匠の形状は日本国内において広く知られた形状といえる。』としている。しかし、引用意匠(4)、(5)が公知であることは認めますが、日本国内において広く知られた形状、即ち周知形状であるとの認識には承服致しかねます。周知形状と言われるためには、『少なくとも公然知られた状態、刊行物に掲載された状態だけでは足りず、少なくとも当業者はあまねく知っている状態でなけれはならない(石川義雄監修/森則雄著、意匠の実務、工業所有権実務体系4、発明協会発行、第117頁)」と解します。東京高等裁判所における審決取消事件、昭和54年(行ケ)第225号において意匠法第3条第2項の「日本国内において広く知られた」ということに関して「右引用資料が特許庁に資料として受け入れられた事実は認められるものの、意匠登録出願前周知の形態となっていたことを認めるに足りる証拠がない場合、このように周知の形態とは認められない引用意匠をもって同項にいう周知の形態としたのは誤りであり、その結論に影響を及ぼすことが明らかな認定の誤りを犯したもので違法として取消を免れない。」と判決しております。また、東京高等裁判所における審決取消事件、昭和62年(行ケ)第195号においても『右にいう周知の形態であるというには、その意匠が単に不特定多数の人に知られうる状態におかれただけでは足りず、当該意匠の属する分野において、通常の知識を有する者、すなわち当業者がその形態を現実に認識していたことが必要であって、その意匠の形態について、当業者である創作者が知らないということができないほど知れわたっていることを要するというべきである。」と判決しております。ところが、引用意匠(4)、(5)はいずれも私企業の商品カタログを御庁がそれぞれ平成5年3月1日と平成4年10月19日に受け入れたということしか証明されてはおりません。従って、この引用意匠(4)、(5)が周知の形状であるとの証拠にはなり得ないと解します。さらに、拒絶理由通知書において、「してみると、本件登録意匠は、日本国内において広く知られた形状を、当業者であれば、極めて容易に着想し得る医療用の『温熱サポーター』とした程度のものというべきであり、」と記載されております。この拒絶理由は、公知の引用意匠(1)〜(3)の医療用のサポーターに、公知の引用意匠(4)、(5)のスポーツ用のサポーターの形状を適用すれば、本件登録意匠が容易に創作できるとのご認定であると推測いたします。しかし、かかる認定には承服いたしかねます。即ち、本件登録意匠は、出願日が平成6年10月11日ですから、旧意匠法第3条第2項が適用されますが(意匠法附則平成10年法律第51号第4条第3項)、旧意匠法の審査基準ではかかる場合を創作容易の対象にはしておりません。旧意匠法の審査基準では『V-1.ありふれた形状や模様に基づく場合』、『V-2.自然物ならびに有名な著作物および建物などの模倣の場合』、『V-3.商慣行上の転用の場合』を意匠法第3条第2項創作容易の基準にしておりますが、本件登録意匠はこのいずれにも該当いたしません。従いまして、本件登録意匠が公知の引用意匠(1)〜(5)に基づいて容易に創作できるとして拒絶されることには納得できません。なお、平成12年4月3日の審判事件答弁書第4頁〜第5頁にも記載した如く、引用意匠(2)(甲第6号証)は、公知の日付を確定するのに、中央パッケージングエ業が発行した『見積書』を添付いたしております。しかし、この『見積書』は中央パッケージング工業が、平成6年8月1日付けで、サポーターが掲載された『商品シール』を印刷する場合の費用を砂山靴下に見積もったにすぎません。印刷業者が見積もりを出すことが、引用意匠(2)を公知にしたとは到底考えられません。従って、引用意匠(2)を公知資料とするのは失当であると解します。以上のように、本件登録意匠が、引用意匠(1)〜(5)によって容易に創作できるものであるとの理由によって拒絶することは法令違反の疑いがであると解するものであります。従って、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項により無効にされるべきものではない。」
4.当審の無効理由について
まず、被請求人は、昭和54年(行ケ)第225号判決及び昭和62年(行ケ)第195号判決を引用して、引用意匠(4)、(5)はいずれも私企業の商品カタログを特許庁がそれぞれ平成5年3月1日と平成4年10月19日に受け入れたということしか証明されていない。従って、この引用意匠(4)、(5)が周知の形状であるとの証拠にはなり得ないと主張する。しかしながら、私企業の商品カタログであっても、それが当業者間に広く頒布されて広く知られていると認められるものであれば、創作容易性の判断の根拠となり得るものであり、また、そのカタログが周知のものとまではいえないものであったとしても、それらが多数集積する場合には広く知られた状態と成り得るものであり、そこに記載されている形態は、当業者において、「日本国内において広く知られた形状」というべきである(国内に頒布された刊行物及び国内に頒布されたカタログにより、本願意匠の創作性が否定された事件として、平成2年(行ケ)第148号判決:上告棄却、平成3年(行ツ)第198号判決がある。)。
次ぎに、被請求人は、「本件登録意匠は、出願日が平成6年10月11日ですから、旧意匠法第3条第2項が適用されますが、旧意匠法の審査基準ではかかる場合を創作容易の対象にはしておりません。旧意匠法の審査基準では『V-1.ありふれた形状や模様に基づく場合』、『V-2.自然物ならびに有名な著作物および建物などの模倣の場合』、『V-3.商慣行上の転用の場合』を意匠法第3条第2項創作容易の基準にしておりますが、本件登録意匠はこのいずれにも該当いたしません。」と主張する。しかしながら、本件は、靴下(サポーター)を医療目的に供することが極普通に行われる業界において、周知の靴下(サポーター)の形状に温熱効果を付加して医療目的に転用したものであり、「V-3.商慣行上の転用の場合」に相当するものである。さらに附言すればすれば、当該審査基準は、「V 法第3条第2項に規程する容易な創作と認められるもの」の具体例を明示したものであり、そのV-1ないしV-3に限定されるものではない(意匠法第3条第2項の規程の適用の可否が争われた事件として、前記判決のほか、平成4年(行ケ)第119号判決:判決言渡平成4年12月24日、平成8年(行ケ)第224号判決:判決言渡平成9年6月26日、平成9年(行ケ)第234号判決:判決言渡平成10年8月4日、平成10年(行ケ)第42号判決:判決言渡平成11年7月13日、平成11年(行ケ)第321号判決:判決言渡平成12年3月16日等がある。)。
してみると、本件登録意匠は、当審の無効理由のとおり、日本国内において広く知られた形状を、当業者であれば、極めて容易に着想し得る医療用の『温熱サポーター』とした程度のものというべきであり、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものといわざるを得ない。
第四 まとめ
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当する意匠であるにも拘わらず、意匠登録を受けたものであるから、その登録は無効とすべきものと認める。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2001-03-01 
結審通知日 2001-03-13 
審決日 2001-03-27 
出願番号 意願平6-30891 
審決分類 D 1 11・ 121- Z (J7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 公明 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 岩井 芳紀
伊藤 栄子
登録日 1997-01-10 
登録番号 意匠登録第978059号(D978059) 
代理人 森本 義弘 
代理人 平井 安雄 

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