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審決分類 審判 無効  意48条1項3号非創作者無承継登録意匠 無効としない J6
審判 無効  2項容易に創作 無効としない J6
審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない J6
審判 無効  1項1号公知(類似も含む) 無効としない J6
管理番号 1067709 
審判番号 無効2001-35104
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-03-16 
確定日 2002-05-24 
意匠に係る物品 潜水用ヘルメット 
事件の表示 上記当事者間の登録第1033385号「潜水用ヘルメット」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.請求人の申し立て及び理由
請求人は、「意匠登録第1033385号は無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、請求の理由を要旨以下のように主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし第13号証を提出した。
(1)第1の無効理由
登録第1033385号意匠(以下、本件意匠という)は、意匠法第3条の規定に該当する。
a)本件意匠は、本件意匠の出願前に公知の甲第1号証ないし甲第9号証の各図面に開示されている「潜水用ヘルメット」の意匠に類似する。
b)本件意匠に係る物品は、その物品としての機能を満足するために、次の構成を必須の要件として備えている。
イ.利用者の頭部(前頭部から後頭部)を覆うための頭殻部
ロ.利用者の顔面を覆い、前方を透視するため、前記頭殻部前面に装着された透明窓部
ハ.前記頭殻部から下側で、利用者の首回りから胸部および背部にかけての前垂れ部、後垂れ部と、左右両肩に掛かる肩当て部とを一体的に構成した身体当接部
c)甲第1ないし第8号証に開示された意匠は、以下のような意匠上の特徴がある。
イ.頭殻部は、ほぼ球形であって、その頂部にはヘルメット携帯用の「∩」形状の把手部が前後に延びた形で装備されている。
ロ.透明窓部は、頭殻部の球形面の延長方向にほぼ沿う形の頂部および頬部を備えると共に、正面に垂直な平面部を備える一体形のものである。
ハ.身体当接部は、頭殻部の下側に延長される前垂れ部の両脇から後垂れ部にかけて、利用者の肩が入る弧状の凹みを持った肩当て部を一体に備えるものである。
d)本件意匠と甲第1号証とを比較すると、頭殻部では、その把手部の形状が若干相違するのみで、潜水用ヘルメットとして外観する時の印象では、特に、正面および背面から見た場合、同一の意匠性を持つている。
また、透明窓部では、正面から見た場合、その垂直な平面部の下縁が、本件意匠においては直線的であるのに対して、甲第1号証は弧状になっているが、右側面図では両者の形状上の相違は殆どなく、この相違点は、潜水用ヘルメットとして既に公知の甲第9号証の透明窓部の一部デザインを援用したものでしかない。
更に、身体当接部は、本件意匠は、後垂れ部に、潜水用ヘルメットの機能上、必要とされる空気供給用の二ップル及び排気用の小孔があり、前垂れ部には、把手部とほぼ同様な形状で、水平に前方に延びる把手部を備えている点で、甲第1号証と相違するが、その正面図、背面図、側面図で見る限り、意匠上の相違は認められない。しかも、甲第2号証、甲第3号証などには、潜水用ヘルメットの機能上、必要とされる空気供給用のニップルおよび排気用の小孔があり、本件意匠に関して、この点に意匠上の特徴は認められない。敢えて言えば、把手部が設けられている点が、本件意匠との相違点であるが、この点に意匠の創作性を認識することは困難である。加うるに、本件意匠の出願前の甲第10号証に開示の「潜水用ヘルメット」は、ヘルメットの透明窓部の形状が、全く本件意匠と同一であり、把手部を除けば、全体として、本件意匠の形状と同一である。
なお、甲第11号証は、甲第10号証の特許出願の内容とほぼ同一の内容を持って、甲第10号証に係る出願人により米国に出願され、US特許第5,906,200号として特許されたものである。
以上の点を勘案すると、本件意匠には、それ自体が持つ独自の創作性に欠け、甲第1号証ないし甲第8号証に開示する「潜水用ヘルメット」の意匠に類似する意匠であって、意匠登録の要件に欠ける。よって、意匠法第48条第1項1号に該当する。
(2)第2の無効理由
本件意匠は、鏑木政彦氏の創作した意匠である。本件意匠権者(被請求人)は、本件意匠の創作者を今野章氏及び手塚譲二氏としているが、この両名は鏑木政彦氏の意匠創作を冒認したものであり、本件意匠について、正当な創作者である同氏から意匠登録を受ける権利を承継していない。従って、本件意匠は意匠法第48条第1項の規定により無効とされるべきである。
a)本件意匠に係る物品「潜水用ヘルメット」は、以下の経緯によって、鏑木政彦氏によって創作されたものである。鏑木氏は、1980年代後半から現在に至るまで、鏑木氏を代表取締役とする東群企業株式会社において潜水用ヘルメット並びにこれを用いた海底歩行技術を研究・開発し続けていた。そして、平成1年には、株式会社ケーカンパニー(本審判請求人)を加えて、研究・開発を進め、現在に至っている。
b)この経緯の過程で、鏑木政彦氏は、彼が創作した潜水用ヘルメットに関して、意匠登録出願、特許出願など、日本国内において12件、また、諸外国(アメリカ合衆国など)にも数多くの出願をしている。
c)また、平成4年4月頃から、潜水用へルメット並びにこれを用いた海底歩行技術が実用段階に至ったとの認識に基づいて、鏑木政彦氏は、沖縄の万座ビーチホテルで、「シーウオーク(海底歩行)イベント」を開催するに至った(甲第12号証参照)。このイベントは、現在でも依然として盛んに行われている。
d)海底歩行技術の実用化以来、実験中に沢山の技術成果やノウハウが取得されたが、ここで問題になるのは、本件意匠の創作者として名前を連ねている今野章氏と鏑木政彦氏との関係である。即ち、今野章氏は、鏑木政彦氏を代表取締役とする東群企業株式会社の元社員であり、平成2年7月から平成8年1月まで同社に勤務していたものである(甲第13号証参照)。この期間、同社において実施した潜水用ヘルメットの実験現場などにおいて、今野章氏が職務上の利便性により、本件意匠と同一の意匠を創作した鏑木政彦氏の潜水用へルメットを知見できたことは当然のことである。
e)然るに、その後、退職した今野章氏は、約1年を経過して、本件意匠の出願の意匠の創作者に名を連ねている。これは明らかに、本件意匠の登録出願において、本件意匠の正当な創作者である鏑木政彦氏でないものがなした不法行為(創作者の冒認)で、意匠法第48条第1項3号に該当する。
2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由として要旨以下のように主張し、証拠方法として証人を申請した。
(1)第1の無効理由について
請求人が審判請求書の「第1の無効理由の詳細」の中で主張していることは、もっぱら機能面あるいは技術的な観点からとらえて判断しているだけである。意匠を物品の形態(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)としてとらえずに判断していることに本件無効審判請求の理由に重大な判断の誤りがある。本件意匠は、甲第1号証ないし甲第9号証の意匠のいずれにも類似していない。
a)頭殻部は、ほぼ球形であると判断しているが、右側面図を見れば判るように決して球形ではなく、後頭部は縦方向に伸びた状態の曲面をなしており頭部全体のイメージは球形を想起させない。本件意匠の把手部の形状もコ字状をしたゴツゴツした形状であるのに対し、登録第807082号意匠の把手部は、湾曲形状をした優雅なイメージを想起する点で両意匠は非類似である。
b)透明窓部は正面図で判るように全面が平坦な蒲鉾断面形状をなしており、登録第807082号意匠の透明窓部は、正面が平坦な真円をなしており、両者全く非類似の形状である。さらに身体当接部は、頭殻部の下側に延長される前垂れ部の両脇から後垂れ部にかけて、緩やかな小高い山形状をなしているのに対し、登録第807082号意匠の身体当接部は、頭殻部の下側に延長される前垂れ部の両脇から後垂れ部にかけて、右上がりの円弧状をなしており、両者は全く非類似の形状である。正面図及び側面図に表れる前垂れ部の稜線は、前垂れ部と肩当て部との間の形状の非連続性がもたらす単なる襞ではなく、形状にアクセントを与える模様と認識されるものである。
c)頭殻部の把手部とほぼ同様な形状で水平に前方に延びる前垂れ部の把手部は、本件意匠の全体にアクセントを与えるものである。さらに排気用の小孔は横方向一列の左右対称位置に配置して模様としての構成要素となるものである。
d)よって、本件意匠と代表例である登録意匠第807082号意匠とはその全体の形状及び模様の形態を全く異にする非類似の意匠である。
なお、甲第1号証ないし甲第8号証と本件意匠とはいずれも非類似である。また、甲第9号証から甲第12号証についても本件意匠とは全く無関係である。
(2)第2の無効理由について
本件意匠の創作者の一人である今野章は甲第13号証で示す通り確かに東群企業株式会社に平成2年から平成8年1月まで社員として勤務していた事実は認める。しかし、鏑木政彦氏が本件意匠の正当な創作者という事実は全く無根である。本件意匠の創作者は、あくまでも今野章と手塚譲二であることは間違いない。当時、株式会社東群企業を辞めた今野章が本件意匠権者の一人である株式会社ビッグドッグコーポレイションの社員であり、かつ本件意匠の創作者である手塚譲二の指示に従い、本件意匠に係る物品である潜水用ヘルメットについてデザイン上の変更を数度に亘り行なって本件意匠登録を受けたものであり、この間に鏑木政彦氏の関与は一切なかった。
従って、請求人の主張する創作者の冒認であるということは何の根拠もないことであり、意匠法48条第1項3号の無効理由に該当しない。
3.請求人の弁駁
(1)本件登録意匠は、甲1号証との比較において「頭殻部」の形状が若干縦長になる程度のことであり、本件登録意匠の創作性を認めることができない。把手部の形状も、把手部を備えるべき箇所にコ字状の把手を設けただけであり、また、透明窓部の差異も下縁部が直線的か弧状をなすかの差であり、更に、前垂れ部と後垂れ部の相違も、身体当接部の大きさ、形状を若干変えた程度のもので、いずれも登録されるべき創作性はない。
甲1号証の特徴は、頭殻部と連続する透明窓部の輪郭の特異性にあり、これは本件登録意匠の右側面図と全く同一であり、この点に関する限り本件登録意匠と甲1号証とは同一又は類似する。
(2)甲1号証と本件登録意匠とは、その全体構造が近似しているおり、真正な創作者は鏑木政彦氏であって、それに類似する意匠について、真正の創作者を主張するのは冒認以外の何ものでもない。
4.当審の判断
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、出願書類の記載によれば、平成9年1月30日の意匠登録出願に係り、平成10年12月18日に設定登録された登録第1033385号であって、意匠に係る物品を「潜水用ヘルメット」とし、その形態を別紙第1に示すとおりとしたものである。
(2)甲号意匠
a)甲第1号証は、本件登録意匠の出願前の平成3年2月14日に特許庁が発行した意匠公報に掲載された登録第807082号の意匠(以下「甲1号意匠」という。)であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「潜水用ヘルメット」とし、その形態を別紙第2に示すとおりとしたものである。
b)甲第4号証は、本件登録意匠の出願前の平成7年8月10日に特許庁が発行した意匠公報に掲載された意匠登録第807082の類似1号の意匠(以下「甲4号意匠」という。)であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「潜水用ヘルメット」とし、その形態を別紙第3に示すとおりとしたものである。
c)甲第9号証は、本件登録意匠の出願前の平成2年10月23日に特許庁が発行した意匠公報に掲載された意匠登録第798162号の意匠(以下「甲9号意匠」という。)であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「潜水用ヘルメット」とし、その形態を別紙第4に示すとおりとしたものである。
(3)本件登録意匠と甲1号意匠の比較検討
a)対比
本件登録意匠と甲1号意匠は、ともに潜水用ヘルメットに係るものであるから意匠に係る物品が共通する。
次に、その形態については、基本的な構成において、(イ)頭部を覆う略球形の頭殻部と、身体上部を覆う前垂れ部、後垂れ部、肩当て部とからなるものであって、頭殻部は、前面に透明窓部を設け、後面を略半球状とし、頂部に把手を形成し、前垂れ部及び後垂れ部は、それぞれ首部から略弧状に胸部又は背部に垂れ下がった態様とし、肩当て部は、両肩部で弧状の窪みを形成した点が共通し、その具体的な態様においても、(ロ)透明窓部について、その前面を略垂直面とし、頭殻部と前垂れ部との境界線を側面視略「く」字状に形成した点、(ハ)把手の態様について、頂点から後頭部中央に向かって丸棒状の把手を取り付けた点が共通している。
一方、両意匠の形態には、(い)頭殻部について、本件登録意匠は、縦長の球体であるのに対し、甲1号意匠は、真円に近い略球体である点、(ろ)透明窓部について、本件登録意匠は、垂直面を正面視略馬蹄形状とし、全体を前面に向かってやや先窄まりの厚みのある箱体状としたのに対し、甲1号意匠は、垂直面を正面視真円形とし、全体を略半球体の前面を垂直に切断したような形状とした点、(は)頂部の把手について、本件登録意匠は「コ」字状であるのに対し、甲1号意匠は、凸弧状である点、(に)前垂れ部について、本件登録意匠は、正面視横広の略楕円形状で、下方に把手があるのに対し、甲1号意匠は、正面視半円状で、把手が形成されていない点、(ほ)後垂れ部について、本件登録意匠は、背面視横広の略楕円形状で、ニップル及び小孔が形成されているのに対し、甲1号意匠は、背面視半円状で、ニップル等が設けられていない点に差異がある。
b)類否
以上の共通点と差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。
両意匠に共通する基本的な構成(イ)は、両意匠の全体の骨格を形成するものではあるが、頭部及び身体上部を覆う潜水用ヘルメットに共通するありふれた態様であるから(甲第2〜9号証参照)、両意匠のみに共通する特徴ある態様とは言えず、また、両意匠の差異点、就中頭殻部についての差異点(い)及び透明窓部についての差異点(ろ)と比較する場合は、両意匠の類否判断を左右する要素として特段に評価することはできない。共通点の(ロ)及び(ハ)についても、既に有り触れた態様であり(甲第2〜8号証参照)、差異点(い)ないし(ほ)を上まわる特徴を有するものとは認められないから、類否判断上特に評価することはできない。そして、これらの共通する態様が相俟って奏する効果を考慮しても、頭部及び身体上部を覆う潜水用ヘルメットのごく一般的な態様の範囲を脱していないものであり、上記差異点を凌駕して両意匠を類似とする程のものではない。
これに対して、差異点の(い)は、両意匠の基本的な構成に係るものであり、透明窓部の態様についての差異点(ろ)は、顔面を覆う部分の態様であって使用時に重視される部分であり、また、本件登録意匠の垂直面を正面視略馬蹄形状とし、全体を前面に向かってやや先窄まりの厚みのある箱体状とした態様は、本件登録意匠の出願前に類似の態様が見当たらないことから本件登録意匠の特徴と認められ(なお、甲第10号証は、その透明窓部は頂部を弧状とする略山形状であるが、本件登録意匠の出願後に発行されたものである。)、これら差異点及び把手部、前垂れ部、後垂れ部についての差異点(は)ないし(ほ)が相俟った効果は、本件登録意匠の特徴を際立たせていると認められる。
また、本件登録意匠は、上記したように周知の意匠にはない特徴を有しているから、周知の態様の単なる部分的改変や寄せ集めと言うことはできず当業者が容易に創作できたものということもできない。
請求人は、潜水用ヘルメットの外観、特に正面及び背面から見た場合は、同一の意匠性を持っていると主張するが、透明窓部、前垂れ部及び後垂れ部の態様に上記の差異があり、その差異は看者の注意を引く要部に係るものであるから請求人の主張は採用できない。請求人はまた、透明窓部について、右側面図を参照する限り形状の差異は殆どない、透明窓部の差異は下縁部が直線的か弧状をなすかの差であるとも主張するが、限られた方向からの観察であって両意匠の類否の根拠としては薄弱であるところ、右側面図においてさえ頭殻部の全体形状や前垂れ部、肩当て部、後垂れ部の態様の差異が看取されるのであるから、形状の差異は殆どないということはできない。そして、透明窓部の差異は、請求人が主張するように下縁部のみにとどまるものでなく、透明窓部の全体の態様が異なるというべきものである。
以上のとおり、両意匠は、上記共通点があるにもかかわらず類否判断を左右する要部において差異があるから、本件登録意匠は甲1号意匠に類似するということはできない。また、本件登録意匠は、当業者が周知の意匠に基づいて容易に創作することができたものということもできない。
なお、甲第7号証の意匠は、甲1号意匠とほぼ同一の意匠である。また、甲第3号証及び甲第5号証の意匠は、送気管、ニップル、小孔が設けられている他は甲1号意匠とほぼ同一であり、これらの付加は、使用に際して当然に装着するものか、全体からみれば部分的なものにすぎないから、上記認定、判断を覆すほどのものでない。
(4)本件登録意匠と甲4号意匠の比較検討
a)対比
本件登録意匠と甲4号意匠は、ともに潜水用ヘルメットに係るものであるから意匠に係る物品が共通する。
次に、その形態については、基本的な構成において、(イ)頭部を覆う略球形の頭殻部と、身体上部を覆う前垂れ部、後垂れ部、肩当て部とからなるものであって、頭殻部は、前面に透明窓部を設け、後面を略半球状とし、頂部に把手を形成し、前垂れ部及び後垂れ部は、それぞれ首部から略弧状に胸部又は背部に垂れ下がった態様とし、肩当て部は、両肩部で弧状の窪みを形成した点が共通し、その具体的な態様においても、(ロ)透明窓部について、その前面を略垂直面とし、頭殻部及び前垂れ部との境界線を側面視略「く」字状に形成した点、(ハ)把手の態様について、頂点から後頭部中央に向かって丸棒状の把手を取り付けた点、(ニ)後垂れ部の態様について、上部中央にニップル、その下に小孔を形成している点が共通している。
一方、両意匠の形態には、(い)頭殻部について、本件登録意匠は、縦長の球体であるのに対し、甲4号意匠は、真円状の略球体である点、(ろ)透明窓部について、本件登録意匠は、垂直面を正面視略馬蹄形状とし、全体を前面に向かってやや先窄まりの厚みのある箱体状としたのに対し、甲4号意匠は、垂直面を正面視円形とし、全体を略半球体の前面を垂直に切断したような形状とした点、(は)頂部の把手について、本件登録意匠は「コ」字状であるのに対し、甲4号意匠は、凸弧状である点、(に)前垂れ部について、本件登録意匠は、正面視横広の略楕円形状で、下方に把手があるのに対し、甲4号意匠は、正面視略半円状で、「V」字状の突部が形成されている点、(ほ)後垂れ部について、本件登録意匠は、小孔を3個ずつ一列に形成しているのに対し、甲4号意匠は、7個の小孔を千鳥状に形成している点に差異がある。
b)類否
以上の共通点と差異点が、本件登録意匠と甲4号意匠との類否判断に及ぼす影響について検討する。
両意匠に共通する基本的な構成(イ)は、両意匠の全体の骨格を形成するものではあるが、頭部及び身体上部を覆う潜水用ヘルメットに共通するありふれた態様であるから(甲第1〜3,5〜9号証参照)、両意匠のみに共通する特徴ある態様とはいえず、また、両意匠の差異点、就中頭殻部についての差異点(い)、透明窓部についての差異点(ろ)及び前垂れ部についての差異点(に)と比較する場合は、両意匠の類否判断を左右する要素として特段に評価することはできない。共通点の(ロ)ないし(ニ)についても、既に有り触れた態様であり(甲第2、3、5、6号証、8号証参照)、差異点(い)ないし(ほ)を上まわる特徴を有するものとは認められないから、類否判断上特に評価することはできない。そして、これらの共通する態様が相俟って奏する効果を考慮しても、頭部及び身体上部を覆う潜水用ヘルメットのごく一般的な態様の範囲を脱していないものであり、上記差異点を凌駕して両意匠を類似とする程のものではない。
これに対して、差異点の(い)は、両意匠の基本的な構成に係るものであり、透明窓部の態様についての差異点(ろ)は、顔面を覆う部分の態様であって使用時に重視される部分であり、また、本件登録意匠の垂直面を正面視略馬蹄形状とし、全体を前面に向かってやや先窄まりの厚みのある箱体状とした態様は、本件登録意匠の出願前に類似の態様が見当たらない本件登録意匠の特徴と認められ(なお、甲第10号証は、その透明窓部は頂部を弧状とする略山形状の箱体であるが、本件登録意匠の出願後に発行されたものである。)、また、前垂れ部の「V」字状の突部の有無等の差異点の(に)は、正面中央下部に大きく視認できる視覚的効果の大きい差異であり、これら差異点及び把手部と後垂れ部についての差異点(は)、(ほ)が相俟った効果は、両意匠を別異のものと印象付けているということができる。
また、本件登録意匠は、上記したとおり周知の意匠にはない特徴を有しているから、周知の態様の単なる部分的改変や寄せ集めと言うことはできず当業者が容易に創作できたものということもできない。
したがって、両意匠は、上記共通点があるにもかかわらず類否判断を左右する要部において差異があるから、本件登録意匠は甲4号意匠に類似するということはできない。また、本件登録意匠は、当業者が周知の意匠に基づいて容易に創作することができたものとも認められない。
なお、甲第8号証の意匠は、甲4号意匠とほぼ同一の意匠である。また、甲第2号証、6号証の意匠は、送気管を別にして上記甲4号意匠とほぼ同一の意匠であるから、その認定、判断は上記と変わるところはない。
(5)本件登録意匠と甲9号意匠の比較検討
a)対比
本件登録意匠と甲9号意匠は、ともに潜水用ヘルメットに係るものであるから意匠に係る物品が共通する。
次に、その形態については、基本的な構成において、(イ)頭部を覆う略球形の頭殻部と、身体上部を覆う前垂れ部、後垂れ部、肩当て部とからなるものであって、頭殻部は、前面に透明窓部を設け、頂部に把手を形成し、前垂れ部及び後垂れ部は、それぞれ首部から略弧状に胸部又は背部に垂れ下がった態様とし、肩当て部は、両肩部で弧状の窪みを形成した点が共通し、その具体的な態様においても、(ロ)透明窓部について、その前面を略垂直面とした点、(ハ)把手の態様について、頭殻部縦中央に略「コ」字状の丸棒を取り付けた点が共通している。
一方、両意匠の形態には、(い)頭殻部について、本件登録意匠は、縦長の略楕円形の略球体であるのに対し、甲9号意匠は、断面楕円形の柱体上部を半球状としたものである点、(ろ)透明窓部について、本件登録意匠は、垂直面を正面視略馬蹄形状とし、全体を前面に向かってやや先窄まりの厚みのある箱体状としたのに対し、甲9号意匠は、縁取りのある矩形状箱体である点、(は)頂部の把手について、本件登録意匠は後方に傾斜して設けられているのに対し、甲9号意匠は、頂点を跨いで略水平状に設けられている点、(に)前垂れ部について、本件登録意匠は、肩部が下方になだらかに下がった態様で、下方に把手が形成されているのに対し、甲9号意匠は、肩部が張った態様で、把手がない点、(ほ)後垂れ部について、本件登録意匠は、ニップル及び小孔が形成されているのに対し、甲9号意匠は、それらがない点、(へ)肩部について、本件登録意匠は小さな山形状の凹部であるのに対し、甲9号意匠は大きく湾曲している点に差異がある。
b)類否
以上の共通点と差異点が、本件登録意匠と甲9号意匠との類否判断に及ぼす影響について検討する。
両意匠に共通する基本的な構成(イ)は、両意匠の全体の骨格を形成するものではあるが、頭部及び身体上部を覆う潜水用ヘルメットに共通するありふれた態様であるから(甲第1〜8号証参照)、両意匠のみに共通する特徴ある態様でなく、また、両意匠の差異点、就中頭殻部についての差異点(い)及び透明窓部についての差異点(ろ)と比較する場合は、両意匠の類否判断を左右する要素として特段に評価することはできない。共通点の(ロ)についても、既に有り触れた態様であり(甲第1〜8号証参照)、また共通点の(ハ)は全体からみれば部分的なものにとどまり、差異点(い)ないし(へ)を上まわる特徴を有するものとは認められないから、類否判断上特に評価することはできない。そして、これらの共通する態様が相俟って奏する効果を考慮しても、頭部及び身体上部を覆う潜水用ヘルメットのごく一般的な態様の範囲を脱していないものであり、上記差異点を凌駕して両意匠を類似とする程のものではない。
これに対して、差異点の(い)は、両意匠の基本的な構成に係るものであり、透明窓部の態様についての差異点(ろ)は、顔面を覆う部分の態様であって使用時に重視される部分であり、また、本件登録意匠の垂直面を正面視略馬蹄形状とし、全体を前面に向かってやや先窄まりの厚みのある箱体状とした態様は、本件登録意匠の出願前に類似の態様が見当たらない本件登録意匠の特徴と認められ(なお、甲第10号証は、その透明窓部は頂部を弧状とする略山形状の箱体であるが、本件登録意匠の出願後に発行されたものである。)、これら差異点及び把手部についての差異点(は)、前垂れ部、後垂れ部、肩部についての差異点(に)ないし(へ)が相俟った効果は、両意匠を別異のものと印象付けているということができる。
また、本件登録意匠は、上記したように周知の意匠にはない特徴を有しているから、周知の態様の単なる部分的改変や寄せ集めともいえず当業者が容易に創作できたものということはできない。
したがって、両意匠は、上記共通点があるにもかかわらず類否判断を左右する要部において差異があるから、本件登録意匠は甲9号意匠に類似するということはできない。また、本件登録意匠は、当業者が周知の意匠に基づいて容易に創作することができたものとも認められない。
(6)第2の無効理由について
請求人は、本件登録意匠は鏑木政彦氏の創作を冒認したと主張し、その根拠として、鏑木政彦氏が創作した出願(甲第1〜11号証)及び、これら潜水用ヘルメットを用いた「シーウォークイベント」の開催、また、本件登録意匠の創作者とされる今野章氏が、鏑木政彦氏を代表取締役とする東群企業株式会社の元社員であったことを挙げる。
しかしながら、甲第1〜9号証の意匠(甲第10、11号証の意匠については、本件登録意匠の出願後で、今野章氏退社後に出願され、公知となった資料であるから検討から除外する。)と本件登録意匠とは、上記したように形態上の要部である透明窓部等に大きな差異があり、他の差異点とも相俟って互いに非類似の意匠であり、また、鏑木政彦氏創作の意匠をわずかに改変したようなものともいえない別個独立の意匠であるから、請求人が挙げる証拠によっては、本件登録意匠が冒認により出願され登録された意匠ということはできない。
請求人は、本件登録意匠と同一の創作は既に鏑木政彦氏によって創作されていると主張するが、本件登録意匠と鏑木政彦氏創作の意匠とは、従来の密閉式の潜水用ヘルメットと異なり、初心者でも気軽に潜水ができるようにした潜水用ヘルメットとしての発想及び機能については共通しているものの、それは技術的範疇の問題であって、意匠として両者を比較する場合は、その基本的な構成の一部は共通するが、本件登録意匠は、その形態の要部である透明窓部等に新たな創作を施した別個の意匠と認められるから、請求人の主張は採用できない。
6.結論
以上のとおりであって、請求人の主張及び提出した証拠によっては、本件意匠登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2002-03-18 
結審通知日 2002-03-22 
審決日 2002-04-12 
出願番号 意願平9-2058 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (J6)
D 1 11・ 16- Y (J6)
D 1 11・ 121- Y (J6)
D 1 11・ 111- Y (J6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 行久飛山 貴子 
特許庁審判長 藤木 和雄
特許庁審判官 温品 博康
岩井 芳紀
登録日 1998-12-18 
登録番号 意匠登録第1033385号(D1033385) 
代理人 今下 勝博 
代理人 今下 勝博 
代理人 鴇田 將 
代理人 瀬谷 徹 
代理人 鴇田 將 
代理人 斎藤 栄一 

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