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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) C3
管理番号 1291590 
判定請求番号 判定2013-600019
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2014-10-31 
種別 判定 
判定請求日 2013-05-30 
確定日 2014-09-02 
意匠に係る物品 洗濯機用台座 
事件の表示 上記当事者間の登録第1469180号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及び説明書に示す「洗濯機用台座」の意匠は,登録第1469180号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由の要点
1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,結論同旨の判定を求めると申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をした。

2 判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る意匠(以下「イ号意匠」という。)の洗濯機用台座(甲第1号証,以下「イ号物品」という。)の販売をしている。
被請求人は,本件判定請求に係る意匠登録第1469180号「洗濯機用台座」(甲第2号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
請求人は,本件登録意匠の意匠権者である被請求人から,イ号意匠が本件登録意匠の意匠権を侵害するものとして,平成25年4月26日付けの警告状が送付された。
請求人は,意匠権の効力の範囲について専門的知識を持って中立的立場から判断される特許庁による判定を求める。

3 本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)との比較説明
(1)両意匠の共通点
ア 両意匠は,意匠に係る物品が「洗濯機用台座」で一致している。
イ 本件登録意匠における部分意匠として登録を受けた部分の用途及び機能と,イ号意匠における当該部分に相当する部分の用途及び機能は,洗濯機を載置することで一致している。
ウ 当該部分の形態の基本的構成態様において,正面視略方形の箱体として形成されている。
(2)両意匠の差異点
具体的な構成態様としては,本件登録意匠の載置部は,正面視方形の箱状において,平面側外周面を左側面側から約50%の位置においてR形状として内向させ,また,右側面側外周面を底面側から約50%の位置においてR形状として内向させ,互いに対向するよう形成されているのに対し,イ号意匠の載置部は,正面視方形の外周面における一方の対角の一端部を,長尺側の対角寸法の約8%程中央側に後退させるため,大きなR形状となるように形成されているため,平面側外周面における左側面側から約50%の位置のR形状,及び,右側面側外周面における底面側から約50%の位置のR形状は,緩やかに内向しており,かつ,互いに対向するよう形成されていない。

4 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明
(1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
公知資料1 ウェブサイトからの抜粋(甲第3号証の1)
名称 洗濯機用かさ上げ台
新生産業株式会社 平成21年5月29日発行
URL http://www.synsay.co.jp/kaihatsu/2009/05/post_8.php
公知資料2 ウェブサイトからの抜粋(甲第3号証の2)
名称 洗濯機用かさ上げ台「マルチメゾン」
新生産業株式会社 平成21年7月16日発行
URL http://www.synsay.co.jp/kaihatsu/2009/07/post_12.php
公知資料3 ウェブサイトからの抜粋(甲第4号証の1)
名称 もっとかさあげくん
山本環境整備株式会社
平成21年9月25日発行
URL http://www.yksg.co.jp/parts/media/090925/1.pdf
(発効日につき甲第4号証の2参照。)
(2)本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠の創作の要点について述べれば,この種物品における意匠上の創作の主たる対象は,正面視方形の箱状において,平面側外周面を左側面側から約50%の位置においてR形状として内向させ,また,右側面側外周面を底面側から約50%の位置においてR形状として内向させ,互いに対向するよう形成されている構成態様にあることは明らかである。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との形態の類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の形態の共通点及び差異点を比較検討するに,
ア 両意匠の共通点のウについては,本件物品が「台」であり,公知資料1,1頁,上から4行目乃至5行目に記載されているように,この種物品が箱状であることが多いことから,平面,左右側面,底面の四方において方形状,すなわち箱状に見て取れる形状とすることはありふれた手法であり,両意匠の類否の判断に影響を与えるものでない。
イ 両意匠の差異点については,登録意匠のように正面視方形の箱状において,平面側外周面をR形状として内向させ,また,右側面側外周面をR形状として内向させ,互いに対向するよう形成されている形状は,公知資料1乃至公知資料3(公知資料1及び2に示す形状をより明確にするため,同意匠が記された甲第3号証の3,14頁の図2,15頁の図8等に現れた嵩上げ台の形状をご参照。)に示すように既に公知となっていた形態であり,注意を引く程度は相対的に弱く,また,当該物品を設置する,例えば防水パンの隅の形状等如何によっては設置の可否に影響し,需要者が関心を持って観察する部位であるため,相対的に載置部の形態の違い,すなわち本件登録意匠における,R形状として内向させ,互いに対向するよう形成した形態と,イ号意匠における,長尺側の対角寸法の約8%程中央側に後退させるため,大きなR形状となるように形成され,互いに対向することはない形態との相違点は,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
ウ 以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠は,意匠に係る物品,及び,本件登録意匠における登録を受けた部分の用途及び機能と,イ号意匠における当該部分に相当する部分の用途及び機能は一致するが,両意匠の登録をうけた部分とイ号意匠におけるこれに相当する部分の形態において,相違点が共通点を凌駕することとなって,意匠全体として両意匠に異なる美感を起こさせることになることから,イ号意匠は,本件登録意匠に類似しないものである。

5 本件登録意匠の明確性について
上記の判断は,本件登録意匠における正面側載置面も含めて,部分意匠として登録を受けた部分として善意に解釈したものである。
すなわち,(ア)正面図における右上側切欠部は,正面図では破線である一方,右側面図,平面図,斜視図及びA-A拡大断面図における当該切欠部は実線で描かれており,一致していない。
また,(イ)正面図における環状突縁部の外周は実線で描かれている一方,左側面図,右側面図,斜視図及びA-A拡大断面図における当該環状突縁部の外周は破線で描かれており,一致していない。
特に(ア)の部分が実線か破線かにより,本件登録意匠の登録を受けた部分に正面側の載置面が含まれるのか否か大きく異なり,破線が正しいのであれば当該載置面は本件登録意匠の部分意匠として登録を受けた部分に含まれるものではない。
また,(イ)の部分が実線か破線かにより,本件登録意匠の登録を受けた部分に環状突縁部の一部が含まれるのか否か異なり,実線が正しいのであれば環状突縁部の外壁部分は本件登録意匠の部分意匠として登録を受けた部分に含まれる。
したがって,本件登録意匠は部分意匠として形態が明確となっておらず,具体的とはいい難いものである。
本来であれば,このような意匠の類否を判断する対象とするのは困難であり,不明確な意匠と類似するとの判断をすることはできるものではない。
この点からもイ号意匠は,本件登録意匠に類似しないものである。

6 結び
従って,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

7 証拠方法
(1)甲第1号証 イ号図面及び説明書
(2)甲第2号証 意匠登録第1469180号 意匠登録原簿(写)
(3)甲第3号証の1 ウェブサイト(新生産業株式会社)からの抜粋
平成21年5月29日発行
(4)甲第3号証の2 ウェブサイト(新生産業株式会社)からの抜粋
平成21年7月16日発行
(5)甲第3号証の3 特開2010-242363の写し
発明の名称 洗濯機設置用防水パンにおける
洗濯機嵩上げ台
出願人 新生産業株式会社
公開日 平成22年10月28日
出願番号 特願2009-91776
出願日 平成21年4月6日
(6)甲第4号証の1 ウェブサイト(山本環境整備株式会社)
からの抜粋
平成21年9月25日発行
(7)甲第4号証の2 ウェブサイト(山本環境整備株式会社)
からの抜粋
URL http://www.yksg.co.jp/media.html


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1 答弁の趣旨
被請求人は,「イ号意匠図面に示す「洗濯機用台座」の意匠は,意匠登録第1469180号及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2 本件登録意匠の形態
(1)本件登録意匠は,意匠に係る物品が,洗濯機を底上げ状態で載置するのに用いられる「洗濯機用台座」である。
(2)本件登録意匠は,乙第1号証,乙第2号証に示すように,略等しい長さの四辺の側面で形成される四つの角部(a?d)のうち,一つの角部(a)を他の三つの角部(b?d)よりも筒軸芯側に後退形成し,且つ,上端から下端に亘って同一の輪郭形状に構成してある変形四角筒体と,この変形四角筒体の上端面よりも少し下方に偏位した高さ位置において当該変形四角筒体の内周面に一体形成される載置板部と,変形四角筒体の内部に臨む載置板部の下面に一体形成される補強部とを備え,かつ,変形四角筒体の上端部で,後退角部(a)が存在する対角線方向で相対向する部位の各々に,載置板部の上面に連続する高さ位置が底面となる切欠で相対向する部位の各々に,載置板部の上面に連続する高さ位置が底面となる切欠き部が形成されている洗濯機用台座において,
変形四角筒体の外周面のうち,後退角部の周方向中央領域及び載置板部の上面よりも上方に突出する上端部を除く外周面と,載置板部の上面,及び,両切欠き部の底面とを,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分に特定したものである。
(3)そして,本件登録意匠の特定部分の基本的及び具体的構成態様は,乙第1号証,乙第2号証に示すように,
ア 変形四角筒体の高さ(H)と一辺の長さ(L)との比率が1.0:1.67に構成されているとともに,変形四角筒体の外周面の輪郭形状が上端から下端まで同一に構成されている。
イ 変形四角筒体の外周面における他の三つの角部(b?d),及び,この三つの角部(b?d)に接する載置板部の上面における三つの角部は,一辺の長さ(L)の約20%に相当する寸法を半径とする比較的大きな円弧面に統一形成されている。
ウ 変形四角筒体の外周面のうち,後退角部(a)を交差箇所に構成する平面側外周面部(A)及び右側面側外周面(B)が,他方の角部(b,d)から一辺の長さ(L)の略半分の領域(L1)にまで連続する直線状の外周面部分A1,B1と,一辺の長さ(L)の約10%に相当する領域(L2)において後退角部(a)の周方向端部側を構成する円弧状の外周面部分A2,B2とを連続形成して構成されている。
エ 載置板部の上面が,変形四角筒体の上端面よりも少し下方に偏位した高さ位置に形成されている。
オ 載置板部の上面に,後退角部(a)が存在する対角線方向で相対向する部位の各々に形成されている両切欠き部の底面が面一状態で連続する。
カ 載置板部の上面における変形四角筒体の後退角部(a)に接する部位が一直線状に形成されている。
上記ア?カに記載した構成態様にある。

3 イ号意匠の形態
(1)イ号意匠も,意匠に係る物品が,洗濯機を底上げ状態で載置するのに用いられる「洗濯機用台座」であり,本件登録意匠と意匠に係る物品が一致する。
(2)そして,イ号意匠には,本件登録意匠が部分意匠として特定する部位に相当する部位を備え,その対応する部位の基本的及び具体的構成態様は,乙第1号証,乙第2号証に示すように,
A 変形四角筒体の高さ(H)と一辺の長さ(L)との比率が1.0:1.71に構成されているとともに,変形四角筒体の外周面の輪郭形状が上端から下端まで同一に構成されている。
B 変形四角筒体の外周面における他の三つの角部(b?d),及び,この三つの角部(b?d)に接する載置板部の上面における三つの角部は,一辺の長さ(L)の約20%に相当する寸法を半径とする比較的大きな円弧面に統一形成されている。
C 変形四角筒体の外周面のうち,後退角部(a)を交差箇所に構成する平面側外周面部(A)及び右側面側外周面(B)が,他方の角部(b,d)から一辺の長さ(L)の略半分の領域(L1)にまで連続する直線状の外周面部分A1,B1と,一辺の長さ(L)の約10%に相当する領域(L2)において後退角部(a)の周方向端部側を構成する円弧状の外周面部分A2,B2とを連続形成して構成されている。
D 載置板部の上面が,変形四角筒体の上端面よりも少し下方に偏位した高さ位置に形成されている。
E 載置板部の上面に,後退角部(a)が存在する対角線方向で相対向する部位の各々に形成されている両切欠き部の底面が面一状態で連続する。
F 載置板部の上面における変形四角筒体の後退角部(a)に接する部位が外方に張り出す円弧状に形成されている。
上記A?Fに記載した点にある。

4 本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)両意匠の共通点
ア 本件登録意匠では,変形四角筒体の高さ(H)と一辺の長さ(L)との比率が1.0:1.67に構成されているのに対して,イ号意匠では,変形四角筒体の高さ(H)と一辺の長さ(L)との比率が1.0:1.71に構成されており,両意匠の全体的な構成バランスは実質的に同一である。
しかも,両意匠は,変形四角筒体の外周面の輪郭形状が上端から下端まで同一に構成されている。
イ 本件登録意匠の上記イ?カで述べた基本的及び具体的構成態様は,イ号意匠の上記B?Fで述べた基本的及び具体的構成態様と同一である。
(2)両意匠の差異点
本件登録意匠では,載置板部の上面における変形四角筒体の後退角部(a)に接する部位が一直線状に形成されているのに対して,イ号意匠では,載置板部の上面における変形四角筒体の後退角部(a)に接する部位が外方に張り出す円弧状に形成されている。

5 判定請求人が提示した公知意匠について
(1)甲第3号証の1の公知資料1及び甲第3号証の2の公知資料2は,防水パンの四隅に配置される4個の台座を十字条の連結部材で一体に連結してなる組み立て式の洗濯機用嵩上げ台である。
判定請求人は,この組み立て式の洗濯機用嵩上げ台の部品である後方側の台座を取り上げて,判定請求書の第6頁第1行から第4行において,
「この種物品が箱状であることが多いことから,平面,左右側面,底面の四方において方形状,すなわち箱状に見て取れる形状とすることはありふれた手法であり,両意匠の類否の判断に影響を与えるものではない。」と主張し,さらに,判定請求書の第6頁第5行から12行において,
「b)両意匠の差異点については,登録意匠のように正面視方形の箱状において,平面側外周面をR形状として内向させ,互いに対向するよう形成されている形状は,公知資料1乃至公知資料3(公知資料1及び2に示す形状をより明確にするため,同意匠が記された甲第3号証の3,14頁の図2,15頁の図8等に現れた嵩上げ台の形状を参照。)に示すように既に公知となっていた形態であり,・・・」と主張している。
しかし,公知資料1,2に開示されている組み立て式の洗濯機用嵩上げ台の部品である後方側の台座は,載置面が上方に隆起形成され,しかも,一つの角部が直線状に切り欠き形成されているものの,全体的な構成バランスは大きく異なる。
そもそも,この切り欠き部は,十字条の連結部材5の左右の側板部5bと干渉しないための切り欠きであり,切り欠き部の幅は,連結部材5の連結腕5aの幅に対応した小さな幅寸法に構成されている。
しかも,載置面の切り欠き部側には,連結部材5の連結腕5aと連結するための連結凹部2aが形成されており,側面には,甲第3号証の3として挙げられた特開2010-242363の図2,図6,図8に明示されているように,幕板4と係合連結するための大きな連結凸部が外方に突出形成され,さらに,側面の下端部側には,図3,図7に明示されているように,防水パンの側壁に乗り上げるための切り欠き段差が形成されている。
したがって,公知資料1,2に開示されている組み立て式の洗濯機用嵩上げ台の部品である後方側の台座の形態は,本件登録意匠の形態とは大きく相違する。
尚,甲第3号証の3として挙げられた特開2010-242363は,本件登録意匠の出願後に公開されたものであり,しかも,図2,図6,図8,図11に開示されている後方側の台座の形態は一致せず,いずれが正しいのかは不明である。
(2)甲第4号証の1の公知資料3として,ウェブサイトに掲載された山本環境整備株式会社の「もっとかさあげくん」を挙げ,発効日につき甲第4号証の2をご参照と記載されている。
確かに,甲第4号証の2のウェブサイトの「2009年09月25日 マンション管理新聞」をクリックすると,甲第4号証の1のウェブサイトが現れ,そこにリニューアルされた「もっとかさあげくん」が掲載されている。
しかし,このリニューアルされた「もっとかさあげくん」が掲載されたウェブサイトの何処にも日付が記載されておらず,日付を確定する証拠が存在しない。
そして,乙第12号証に示すように,株式会社マンション管理新聞社発行の2009年09月25日付けのマンション管理新聞では,リニューアルされた「もっとかさあげくん」ではなく,四つの角部が直角に張り出すリニューアル前の「もっとかさあげくん」が掲載されている。
さらに,乙第13号証に示すように,リニューアルされた「もっとかさあげくん」は本件登録意匠の出願後である2011年の春に発表されたものであるとの正式な回答を山本環境整備株式会社より得ている。

6 本件登録意匠とイ号意匠との類否判断
(1)両意匠の共通点の評価
ア 変形四角筒体の高さ(H)と一辺の長さ(L)との比率が,本件登録意匠では1.0:1.67に構成され,イ号意匠では1.0:1.71に構成されているため,両意匠の全体的な構成バランスは実質的に同一である。
公知意匠である乙第3号証の意匠登録第1366823号公報の防水パン用底上げ具,及び,乙第4号証の意匠登録第1367118号公報の防水パン用底上げ具では,四角筒体の高さ(H)と一辺の長さ(L)との比率が1.0:1.96に構成されており,これと比較すると,本件登録意匠及びイ号意匠は嵩低く安定感のある印象を需要者に与えるため,類似判断を左右する基本的構成態様ではないものの,両意匠の全体的な構成バランスでの一つの美的特徴を構成している。
イ 本件登録意匠では,一つの角部(a)を他の三つの角部(b?d)よりも筒軸芯側に後退形成し,且つ,外周面の輪郭形状が上端から下端まで同一に構成されている変形四角筒体のうち,後退角部の周方向中央領域及び載置板部の上面よりも上方に突出する上端部を除く外周面を特定したものであるが,この特定された部分においても,公知意匠には存在しない特異でありながらもすっきりとした変形四角筒体の独特な特徴的構成態様をそのまま備えており,この点はイ号意匠においても共通する。
判定請求人は,判定請求書の第4頁第3行から第14行において,「具体的な構成態様としては,本件登録意匠の載置部は,正面視方形の箱状において,平面側外周面を左側面側から約50%の位置においてR形状として内向させ,また,右側面側外周面を底面側から約50%の位置においてR形状として内向させ,互いに対向するよう形成されているのに対して,イ号意匠」の「載置部は,正面視方形の外周面における一方の対角の一端部を,長尺側の対角寸法の約8%程度中央側に後退させるため,大きなR形状となるように形成されているため,平面側外周面における左側面側から約50%の位置のR形状,及び,右側面側外周面における底面側から約50%の位置のR形状は,緩やかに内向しており,かつ,互いに対向するよう形成されていない。」
と主張されているが,このR形状の向き等は細部の構成であって,特定された部分の特徴的構成態様は,
『変形四角筒体の外周面のうち,後退角部(a)を交差箇所に構成する平面側外周面部(A)及び右側面側外周面(B)が,他方の角部(b,d)から一辺の長さ(L)の略半分の領域(L1)にまで連続する直線状の外周面部分A1,B1と,一辺の長さ(L)の約10%に相当する領域(L2)において後退角部(a)の周方向端部側を構成する円弧状の外周面部分A2,B2とを連続形成して構成されている。』
という構成態様にある。
つまり,平面側外周面部(A)は,一辺の長さ(L)の半分強の領域(L1)に位置する直線状の外周面部分A1と後退角部(a)の周方向一端部側を構成する円弧状の外周面部分A2とから構成され,右側面側外周面(B)は,辺の長さ(L)の略半分の領域(L1)に位置する直線状の外周面部分B1と後退角部(a)の周方向他端部側を構成する円弧状の外周面部分B2とから構成されている点に特徴構成が存在するものであり,これに比較すると,弧状の外周面部分A2,B2の向き角度は細部の構成態様になり,類似判断に及ぼす影響は極めて微弱である。
したがって,本件登録意匠及びイ号意匠において共通する変形四角筒体の特定部位での上記の特徴的構成態様は,上記の各公知意匠にも存在しない斬新で独創的な構成態様であって,意匠上の要部となる基本的な構成態様であり,需要者に独特の視覚的印象を与えることになる。
ウ 本件登録意匠及びイ号意匠においては,変形四角筒体の外周面における他の三つの角部(b?d),及び,この三つの角部(b?d)に接する載置板部の上面における三つの角部は,一辺の長さ(L)の約20%に相当する寸法を半径とする比較的大きな円弧面に統一形成されている。
本件登録意匠の三つの角部(b?d)の曲率とイ号意匠の三つの角部(b?d)の曲率とは,判定請求書の第4頁の「登録意匠とイ号意匠の合成図」から明らかなように略同一に構成されている。
そして,乙第3号証及び乙4号証の公知意匠の角部の曲面処理と比較すると,本件登録意匠及びイ号意匠の三つの角部(b?d)の曲面処理は大きく,後退角部(a)の周方向両側において特定されている円弧状の外周面部分A2,B2との結合によって,変形四角筒体全体が丸みのある曲線基調の輪郭形状を呈することになり,公知意匠には存在しない特有の視覚的印象を需要者に与えている。
エ 本件登録意匠及びイ号意匠においては,載置板部の上面が,変形四角筒体の上端面よりも少し下方に偏位した高さ位置に形成され,後退角部(a)が存在する対角線方向で相対向する部位の各々に形成されている両切欠き部の底面が載置板部の上面に同じ高さで連続形成されている。
この両意匠の共通の構成態様は,上述の公知意匠には存在しないユニークな構成態様であり,しかも,最も良く注目される部位での構成であるため,類似判断を左右する基本的構成態様ではないものの,両意匠の一つの共通する美的特徴を構成している。
(2)両意匠の差異点の評価
本件登録意匠とイ号意匠とは,載置板部の上面における変形四角筒体の後退角部(a)に接する部位が,本件登録意匠では,一直線状に形成されているのに対して,イ号意匠では,外方に張り出す円弧状に形成されている点で唯一相違する。
しかし,略等しい長さの四辺の側面で形成される四つの角部(a?d)のうち,一つの角部(a)を他の三つの角部(b?d)よりも筒軸芯側に後退形成する手法として,その後退部位を直線状に造形処理するか,或いは,大きな半径の円弧状に造形処理するかは,従前から各種の分野で慣用されている選択的な造形処理であり,この造形処理の相違による類否判断への影響は微弱と判断される。
例えば,配管用ダクトの分野において,乙第5号証では,上部カバーの左右両側の角部及び下部カバーの左右両側の角部が夫々大きな円弧状に構成され,乙第6号証では,上部カバーの左右両側の角部及び下部カバーの左右両側の角部が夫々傾斜面に構成され,さらに,乙第7号証では,上部カバーの左右両側の角部及び下部カバーの左右両側の角部が夫々大きな幅の傾斜面に構成されている。
しかし,このような配管カバーの角部の造形処理の相違に拘わらず,乙第6,7号証は,乙第5号証を本意匠とする類似で登録されている。
また,配管用ダクト継手の分野において,乙第8号証では,上部カバーの左右両側の角部及び下部カバーの左右両側の角部が夫々大きな円弧状に構成され,乙第9号証では,上部カバーの左右両側の角部及び下部カバーの左右両側の角部が夫々傾斜面に構成されているが,乙第9号証は乙第8号証を本意匠とする類似で登録されている。
さらに,角部の後退処理ではないが,戸棚の分野において,乙第10号証では,前面が左右方向に沿う一直線状に構成され,乙第11号証では,前面が前方に張り出す大きな半径の円弧状に構成されているが,乙第11号証が乙第10号証を本意匠とする類似で登録されている。
よって,この後退角部(a)に接する部位での具体的形状の差異は,需要者にとっては細部の差異に止まる。
(3)本件登録意匠とイ号意匠の類否
ア 本件登録意匠とイ号意匠とを総合的に比較検討すると,イ号意匠は本件登録意匠の特徴構成を備えており,しかも,この特徴構成が結合した形態は公知意匠にも見られない独創性のある形態であり,類似判断を左右する重要な要素になっている。
イ 一方,前記4(2)で述べた差異点は,従前から各種の分野で慣用されている選択的な造形処理の相違であって,需要者に与える美感への影響が極めて小さい部分での差異であり,上述の共通する特徴的な構成態様に比べると類似判断を左右する要素としては極めて微弱なものである。

7 まとめ
以上要するに,両意匠を全体的に考察すると,両意匠の共通点は顕著なものであり,しかも,全体的な「美感」が近似するから,両意匠はその支配態様が同一と言うべきであり,イ号意匠は本件登録意匠の類似範囲に属する。
それ故に,被請求人は答弁の趣旨に記載の通りの判定を求める。

8 意匠登録願の願書に添付の図面相互の不一致について
(1)判定請求書の第6頁第31行?第7頁21行において,
「(ア)正面図における右上側切欠部は,正面図では破線である一方,右側面図,平面図,斜視図及びA-A拡大断面図における当該切欠部は実線で描かれており,一致していない。
(イ)正面図における環状突縁部の外周は実線で描かれている一方,左側面図,右側面図,斜視図及びA-A拡大断面図における当該環状突縁部の外周は破線で描かれており,一致していない。」
との指摘がある。
確かに,上記(ア)(イ)で指摘の正面図の記載に誤りがある。
(2)そして,このような図面相互の不一致がある場合,大阪地裁昭和63年12月22日判決では,
「登録意匠の願書添付の図面相互間に不一致がある場合,そのことにより直ちに当該登録意匠の範囲を確定することはできないとするのではなく,当業者の立場から,願書及び添付図面の記載内容並びに当該登録意匠に係る物品の性状などを総合的に判断し,合理的,客観的に,いずれかの図面が作図上の誤記であると理解することができ,統一性のある意匠として把握することができる場合には,その意匠をもって当該登録意匠の内容をなすものと認めるのが相当である。」
と説示している。
また,意匠審査基準においても,「例えば,願書又は願書に添付した図面等に誤記や不明瞭な記載などの記載不備を有していても,それが以下のいずれかに該当する場合は,具体的な意匠と認められる。」として,「その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて総合的に判断した場合に合理的に善解し得る場合」と「いずれが正しいか未決定のまま保留しても意匠の要旨の認定に影響を及ぼさない程度の微細な部分についての記載不備である場合」(意匠審査基準21.1.2)を挙げている。
(3)この観点に基づけば,誤りは正面図だけであり,それ以外の左側面図,右側面図,斜視図及びA-A拡大断面図をもって本件登録意匠を具体的な意匠として特定できるものである。
このことは,本件登録意匠が,特許庁におけるその出願経過において,方式審査での不備で指令をかけられることも,審査において拒絶の理由の通知を受けることもなく登録されたことからも理解できる。
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当するものである。

9 証拠方法
(1)乙第1号証 本件登録意匠とイ号意匠との対比
(2)乙第2号証 本件登録意匠とイ号意匠との対比説明図
(3)乙第3号証 意匠登録第1366823号公報の写し
(4)乙第4号証 意匠登録第1367118号公報の写し
(5)乙第5号証 意匠登録第647640号公報の写し
(6)乙第6号証 意匠登録第647640の類似12号公報の写し
(7)乙第7号証 意匠登録第647640の類似13号公報の写し
(8)乙第8号証 意匠登録第926934号公報の写し
(9)乙第9号証 意匠登録第926934の類似1号公報の写し
(10)乙第10号証 意匠登録第366065号公報の写し
(11)乙第11号証 意匠登録第366065の類似1号公報の写し
(12)乙第12号証 2009年9月25日付けマンション管理新聞
の写し 第18頁
(13)乙第13号証 2013年8月1日付け証明書の写し


第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1469180号)は,意匠法第13条第1項の規定(出願の変更)により特許出願2013-25781号(特許出願2010-208287号からの分割出願)を原出願として平成25年(2013年)2月14日に意匠登録出願され,その後「早期審査に関する事情説明書」の提出により早期審査の対象となり,特許出願2010-208287号の出願日(平成22年(2010年)9月16日)への遡及が認められて平成25年(2013年)4月12日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「洗濯機用台座」とし,形態を,願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたもので,「実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(判定注:以下「本件部分」という。)である。一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界を示す線である。」としたものである。(別紙第1参照)
本件部分は,被請求人が答弁書第3頁でいうとおり,「後退角部の周方向中央領域及び載置板部の上面よりも上方に突出する上端部を除く外周面と,載置板部の上面,及び,両切欠き部の底面」の部分である。
なお,請求人は,「本件登録意匠は部分意匠として形態が明確となっておらず,具体的とはいい難いものである」と主張するが,本件登録意匠の願書に添付された図面の全てを相互に比較すると,「正面図」の記載に誤りがあることは明らかであり,具体的には,「正面図」において,右上側切欠部が実線で表されておらず,また,後退角部の周方向中央領域を除く外周が破線で表されていない。この記載の誤りは,その誤りが明らかであるが故に合理的に善解できるものであって,本件部分の範囲を上記のように認定することの妨げにはならないものと認められる。
本件部分の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,前面が載置板で塞がれた略変形角筒であって,その前後の径は同じであり,正面から見て,右上が傾斜直線状に切り欠かれ,左上,左下及び右下の角が円弧状になった略変形五角形状の載置板の上面が表されている。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)具体的態様について
ア 全体の比率は,正面視の縦幅:横幅:奥行きの比が約5:5:3である。
イ 載置板上面の形状について
載置板上面(「斜視図」において上方に突出する上端部の内側の面)の右上角部の傾斜直線状の部分(以下「傾斜直線部」という。)は,載置板上辺の中央やや右寄りから,載置板右辺の中央やや上寄りにかけての位置に形成されており,傾斜直線部の長さと,左上角から右下角に亘る対角線の長さの比は,約2:5である。そして,傾斜直線部の両側には略弧状の屈曲部が形成され,傾斜直線部が,左上屈曲部を介して水平状の上辺左側部に連続し,右下屈曲部を介して垂直状の右辺下半部に接続している。また,左上,左下及び右下の角の円弧状の半径は,載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約2割に相当する。
ウ 載置板上面の張り出し部について
載置板上面の左下及び右上の箇所が(「斜視図」において上方に突出する上端部の間に)張り出しており,左下に張り出した部分は角筒の周面に連続している。左下に張り出した部分の長さは,載置板上面左下角の円弧の長さの約1/3である。右上に張り出した部分の長さは,左下に張り出した部分の長さと同じである。

2 イ号意匠
請求人は,イ号意匠の形態を特定するにあたり,判定請求書において「イ号図面及び説明書」(甲第1号証)を提出した。(別紙第2参照)
その記載によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「洗濯機用台座」である。
なお,本件部分と対比され,類否判断の対象になるイ号意匠の部分は,引用意匠における本件部分に相当する部分(以下「イ号部分」という。)であり,イ号部分の形態は,請求人が提出したイ号図面に記載されたとおりのものである,
イ号部分は,被請求人のいう「後退角部の周方向中央領域及び載置板部の上面よりも上方に突出する上端部を除く外周面と,載置板部の上面,及び,両切欠き部の底面」の部分である。
イ号部分の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,前面が載置板で塞がれた略変形角筒であって,その前後の径は同じであり,正面から見て,右上が大きな円弧状に形成され,左上,左下及び右下の角が円弧状になった略変形四角形状の載置板の上面が表されている。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)具体的態様について
ア 全体の比率は,正面視の縦幅:横幅:奥行きの比が約7:7:4である。
イ 載置板上面の形状について
載置板上面(「斜視図1」において上方に突出する上端部の内側の面)の右上角部の大きな円弧状の部分(以下「大円弧状部」という。)は,載置板上辺の中央やや右寄りから,載置板右辺の中央やや上寄りにかけての位置に形成されており,大円弧状部の半径は,載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約4/9に相当する。また,左上,左下及び右下の角の円弧状の半径は,載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約2割に相当する。
ウ 載置板上面の張り出し部について
載置板上面の左下及び右上の箇所が(「斜視図1」において上方に突出する上端部の間に)張り出しており,左下に張り出した部分は角筒の周面に連続している。左下に張り出した部分の長さは,載置板上面左下角の円弧の長さの約1/3である。右上に張り出した部分の長さは,左下に張り出した部分の長さと同じである。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠は「洗濯機用台座」であり,イ号意匠も「洗濯機用台座」であるので,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
(2)本件部分とイ号部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件部分は「洗濯機用台座」の一部であって,被請求人のいう「後退角部の周方向中央領域及び載置板部の上面よりも上方に突出する上端部を除く外周面と,載置板部の上面,及び,両切欠き部の底面」の部分であり,イ号部分も同様であるので,本件部分とイ号部分(以下「両部分」ともいう。)の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
(3)両部分の形態
両部分の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 形態の共通点
両部分の形態には,基本的構成態様として,以下の共通点が認められる。
(A)基本的構成態様の共通点
全体が,前面が載置板で塞がれた略変形角筒であって,その前後の径は同じであり,正面から見て,左上,左下及び右下の角が円弧状になった載置板の上面が表されている。
また,両部分の形態には,具体的態様として,以下の共通点が認められる。
(B)載置板上面の形状についての共通点
載置板上面の右上にある傾斜直線部(本件部分)又は大円弧状部(イ号部分)は,載置板上辺の中央やや右寄りから,載置板右辺の中央やや上寄りにかけての位置に形成されている。また,左上,左下及び右下の角の円弧状の半径は,載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約2割に相当する。
(C)載置板上面の張り出し部についての共通点
載置板上面の左下及び右上の箇所が張り出しており,左下に張り出した部分は角筒の周面に連続している。左下に張り出した部分の長さは,載置板上面左下角の円弧の長さの約1/3である。右上に張り出した部分の長さは,左下に張り出した部分の長さと同じである。
イ 形態の差異点
一方,両部分の形態には,基本的構成態様として,以下の差異点が認められる。
(ア)基本的構成態様の差異点
正面から見て,本件部分の載置板上面は右上が傾斜直線状に切り欠かれた略変形五角形状であるのに対して,イ号部分は右上が大きな円弧状に形成された略変形四角形状である。
また,両部分の形態には,具体的態様として,以下の差異点が認められる。
(イ)全体の比率についての差異点
全体の比率は,本件部分では正面視の縦幅:横幅:奥行きの比が約5:5:3であるのに対して,イ号部分では約7:7:4である。
(ウ)載置板上面の形状についての差異点
本件部分の載置板上面では,右上にある傾斜直線部の長さと,左上角から右下角に亘る対角線の長さの比が約2:5であり,傾斜直線部の両側には略弧状の屈曲部が形成され,傾斜直線部が左上屈曲部を介して水平状の上辺左側部に,右下屈曲部を介して垂直状の右辺下半部に接続している。これに対して,イ号部分の載置板上面では,右上にそのような傾斜直線部及び屈曲部は表されておらず,半径が載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約4/9に相当する大円弧状部が表されている。

4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
両意匠の類否を検討するに当たって,まず,請求人が提示した甲第4号証の1の意匠(別紙第3参照)について当審の考えを述べる。
(1)請求人が提示した甲第4号証の1の意匠について
請求人が提示した甲第4号証の1の意匠は,同書証,判定請求書第5頁及び甲第4号証の2の記載によれば,山本環境整備株式会社の製品「もっとかさあげくん」の意匠(意匠に係る物品,洗濯機用台座)であって,平成21年(2009年)9月25日にマンション管理新聞に掲載されたものとされている。
この点について,被請求人は,答弁書第6頁?第7頁において,甲第4号証の1に日付の記載がなく,「もっとかさあげくん」が掲載されたウェブサイトの日付を確定する証拠が存在しないこと,及び乙第13号証によりリニューアルされた「もっとかさあげくん」(同書証の記載によれば,「一隅部を内側に引退させる形状変更を施したリニューアル品」。)は本件登録意匠の出願後である2011年の春に発表されたと主張している。
他方,当審の調べにより,山本環境整備株式会社のウェブサイト(http://yksg.co.jp/kasaagekun.html)上に掲載されている製品「もっとかさあげくん」の意匠(意匠に係る物品,洗濯機用台座)が,平成22年(2010年)4月17日に掲載されていることが,米国非営利法人インターネット・アーカイブにより記録され,公表されている(https://web.archive.org/web/20100417110545/http://yksg.co.jp/kasaagekun.html。別紙第4参照。)ことが確認された。
そして,甲第4号証の1の右下寄りに掲載された意匠は,そのアーカイブに記録され,公表されたウェブサイト上の【もっとかさあげくん寸法】の欄に掲載された意匠と同一であると認められることから,甲第4号証の1に掲載された山本環境整備株式会社の製品「もっとかさあげくん」の意匠(公知資料3の意匠)は,平成22年(2010年)4月17日には,山本環境整備株式会社のウェブサイトに掲載されていたということができる。
したがって,被請求人の主張にかかわらず,請求人が提示した甲第4号証の1の意匠は,少なくとも本件登録意匠の出願日である平成22年(2010年)9月16日より前に公知となったものと認められることから,判定請求書に記載のとおり,本件登録意匠に関する先行周辺意匠であるというべきである。

次に,両意匠の意匠に係る物品と,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲について検討し,その上で,前述した両部分の形態の共通点及び差異点が両部分の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。
(2)意匠に係る物品
両意匠は,共に「洗濯機用台座」であるから,意匠に係る物品は同一である。
(3)両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
前記認定したとおり,両部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
(4)形態の共通点の評価
本件部分とイ号部分の基本的構成態様の共通点のうち,「前面が載置板で塞がれた略変形角筒」である態様については,平成21年(2009年)8月10日に発行された意匠公報に掲載された意匠登録第1367118号の意匠(別紙第5参照)により,本件登録意匠の出願前に公知であり,また,「正面から見て左上,左下及び右下の角が円弧状」である態様についても,甲第4号証の1の意匠(本件部分の向きに合わせて形態を認定する。)及び上記意匠登録第1367118号の意匠により,本件登録意匠の出願前に公知であるから,どちらの態様も両部分にのみ見られる特徴とはいえず,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そして,基本的構成態様の共通点のうち,前後の径が同じである態様,すなわち被請求人のいう「上端から下端に亘って同一の輪郭形状に構成して」いる態様について,被請求人は,「公知意匠には存在しない特異でありながらもすっきりとした」独特な特徴的構成態様であると主張するが,角筒が前後方向に亘って径を等しくすることはむしろ自然であって,甲第4号証の1の意匠及び上記意匠登録第1367118号の意匠のように径を縮小させたり,変化させることの方が看者の目を惹くというべきであるから,径が変化しない両部分の略変形角筒に対して,看者が特に目を惹くとはいい難いので,被請求人の主張を採用することはできない。
また,載置板上面の張り出し部の共通点(C)についても,張り出した部分の長さが角の円弧の長さの約1/3であって,限られた部位に関する共通点といえることから,この共通点は殊更評価できず,両部分を全体として比較した際には,両部分の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。
被請求人は,この張り出した部分について,「最も良く注目される部位での構成であるため,類似判断を左右する基本的構成態様ではないものの,両意匠の一つの共通する美的特徴を構成」すると主張するが,仮に張り出した部分を設けることが本件部分の出願前に公知ではなかったとしても,以下に述べる両部分の差異点がもたらす別異の印象を凌駕して,両部分を全体として見たときに看者に対して両部分の視覚的印象を同一とする程の要素であるとまではいい難いので,被請求人の主張を採用することはできない。
さらに,共通点(B)で認定した,載置板上面の左上,左下及び右下の角の円弧状の半径が載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約2割に相当する共通点についても,看者が特に注視する形態上の特徴というには及ばず,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(5)形態の差異点の評価
これに対し,差異点(ア)の基本的構成態様の差異は,一見して把握できる両部分の差異であって,傾斜直線状に切り欠かれた略変形五角形状の本件部分と,大きな円弧状に形成された略変形四角形状のイ号部分の差異は看者の目に付くものであり,看者に異なる印象を与えるものであるというべきであるから,差異点(ア)が,両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
また,この点に関して,被請求人は,両部分に共通する特徴的構成態様として,『変形四角筒体の外周面のうち,後退角部(a)を交差箇所に構成する平面側外周面部(A)及び右側面側外周面(B)が,他方の角部(b,d)から一辺の長さ(L)の略半分の領域(L1)にまで連続する直線状の外周面部分A1,B1と,一辺の長さ(L)の約10%に相当する領域(L2)において後退角部(a)の周方向端部側を構成する円弧状の外周面部分A2,B2とを連続形成して構成されている。』と認定した上で,「これに比較すると,弧状の外周面部分A2,B2の向き角度は細部の構成態様になり,類似判断に及ぼす影響は極めて微弱である。」と主張している(別紙第6参照)。
確かに,差異点(ウ)で認定したとおり,本件部分の載置板上面には傾斜直線部の両側に略弧状の屈曲部が形成され,傾斜直線部が左上屈曲部を介して水平状の上辺左側部に,右下屈曲部を介して垂直状の右辺下半部に接続しているので,被請求人のいう通り,本件部分には「後退角部(a)の周方向端部側を構成する円弧状の外周面部分A2,B2」が存在し,「A2(左上屈曲部)-傾斜直線部-B2(右下屈曲部)」という構成を呈している。
しかし,イ号部分の載置板上面には,右上にそのような傾斜直線部及び屈曲部は表されておらず,半径が載置板上面全体の縦幅(又は横幅)の約4/9に相当する大円弧状部が表されているのみであって,そもそも載置板上面右上の円弧状全体から,被請求人のいうA2(左上屈曲部)とB2(右下屈曲部)を明確に区切って観察することは困難であるというべきであるから,被請求人の上記認定を首肯することはできず,またその認定に基づく上記主張を採用することはできない。
そして,差異点(ウ)で指摘したとおり,本件部分では,右上にある傾斜直線部の長さが,左上角から右下角に亘る対角線の長さの約2/5を占めているので,載置板上面の傾斜直線部について看者が注意を払うところとなり,大円弧状部が表されているイ号部分との視覚的印象は異なるというべきであるから,傾斜直線部(本件部分)又は大円弧状部(イ号部分)が載置板上面の上辺の中央やや右寄りから右辺の中央やや上寄りにかけての位置に形成されているという共通点を考慮したとしても,傾斜直線状切り欠きと大きな円弧状の差異が両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
一方,差異点(イ)の全体の比率についての差異は,正面視の縦幅:横幅:奥行きの比が約5:5:3である本件部分と,約7:7:4であるイ号部分との間にはそれ程の差はなく,看者が仔細に観察した際に気付く程度の差異であるから,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(6)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ,及び範囲も共通するものであるが,両部分の形態については,共通点が類否判断に与える影響が限定的であるのに対して,差異点は両部分を別異なものと印象付けるような大きな影響を及ぼすものであるから,両意匠は類似するとはいえない。


第4 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2014-08-21 
出願番号 意願2013-2883(D2013-2883) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (C3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平田 哲也木本 直美 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
綿貫 浩一
登録日 2013-04-12 
登録番号 意匠登録第1469180号(D1469180) 
代理人 北村 修一郎 
代理人 佐野 弘 
代理人 宮地 正浩 
代理人 保田 元希 

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