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審決分類 審判 査定不服  工業上利用 取り消して登録 G3
管理番号 1341143 
審判番号 不服2018-1234
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-30 
確定日 2018-06-11 
意匠に係る物品 ボート 
事件の表示 意願2015- 20148「ボート」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年3月10日の域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う、平成27年(2015年)9月10日の意匠登録出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年12月 1日付け:優先権証明書提出書及びその訳文の提出
平成28年 3月22日付け:拒絶理由の通知
平成28年 6月30日 :手続補正書(図面全図変更)の提出
平成28年 6月30日付け:意見書の提出
平成28年 9月21日付け:補正の却下の決定
平成28年12月28日 :審判請求書(補正却下決定不服審判)の提出
平成29年 5月 9日付け:審決(補正2016-500006)
平成29年10月26日付け:拒絶査定
平成30年 1月30日 :審判請求書(拒絶査定不服審判)の提出
平成30年 3月 8日 :手続補正書(請求の理由の変更)の提出
平成30年 4月16日 :面接の実施
平成30年 4月27日 :上申書の提出

第2 本願意匠
本願は、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であり、その意匠は、意匠に係る物品を「ボート」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり、本願意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本願部分」という。)を、「実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。実線で表した部分(意匠登録を受けようとする部分)は、空気孔部である。」としたものである(別紙第1参照)。

第3 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、「この意匠登録出願の意匠は、下記に示すように、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当しません。」とし、下記の記載を「この意匠登録出願の意匠は、ボートの正面側に設けられた12の空気孔の部分(願書の意匠の説明の欄の記載による)について意匠登録を受けようとするものですが、正面図以外に当該部分が描かれておらず、断面図等も含まれていないことから、当該部分のうちどこが孔かさえ不明であり、当該部分の形状について一の意匠を特定することができませんので、具体的ではありません。」としたものである。

第4 請求人の主張
請求人は、平成30年1月30日に拒絶査定不服審判の請求を行い、平成30年3月8日の手続補正書、及び平成30年4月27日の上申書の記載を集約すると、要旨以下の主張を行った。

1.平成30年3月8日の手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更)
(1)本願意匠が登録されるべき理由
ア 願書、図面に記載された本願意匠の内容
(ア)意匠に係る物品
意匠に係る物品は、「ボート」である。
(イ)部分意匠として意匠登録を受けようとする部分
本願は、船底(図面における正面部)に表れた空気孔部を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とする、部分意匠の出願である。
なお、意匠に係る物品の説明に記載のとおり、本物品の空気孔部は、船底から水中に空気を送り出すためのものである。
(ウ)形態
本願意匠における、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下、単に「本願意匠」と呼ぶ。)は、船底の先端寄りに12個の空気孔部が略V字状に配設された態様である。
また、個々の空気孔部は、略隅丸四角形状部の内側に、略舟形状部を表し、略舟形状部の内側に6本の不等間隔の平行線が表れている態様である。

イ 本願意匠が属する分野について
例えば、本願の優先日(平成27年3月10日)より前に公知になった情報として、次のようなものがあるが、これらの公知の情報については、当業者の知見として当然に備わっているものである。
(ア)特表2015-506879号公報(甲第2号証)
(ア)は、公表日:平成27年3月5日、国際公開日:平成25年8月29日にかかるものである。同公報は、船舶の船底から空気を導出して水と船体との間に空気潤滑層を作ることにより、エネルギーを節約ことができる発明に関する発明が記載されている。
同公報においては、船舶の底面に、船底から水中に空気を導出するための空気孔部(同公報中では「凹部6」と記載されている)を備えた態様が表されている。
具体的には、複数の空気孔部が表れた船舶の底面が「図2」に表されており、空気孔部の正面視の拡大図が「図5」に表されており、空気孔部の側面図(実質的には断面図のような概略図)が「図4」に表されている。より具体的には、同公報に表された空気孔部は、「図2」に記載のとおり船底において複数並んで形成されており、また、各空気孔部は、正面視で、「図5」に記載のとおり、四角形状の中に略舟形状部を形成し、当該略舟形状部には平行状に表れている3つの波偏向部材7ないし7”と、上壁4と後壁16との境界となる線が表れている。また、「図4」は空気孔部を横方向から見た図であり、平板状の波偏向部材7ないし7”や、空気入口10、垂直状の前端9、水平状の上壁4、略弧状に傾斜する後壁16、後端15が表されている。すなわち、四角形状の中の当該略舟形状部は、開口しており、また、凹み(窪み)であり、当該略舟形状部の中に複数の波偏向部材と上壁4と後壁16との境界となる線が表れている態様である。

(イ)特許5653929号公報(甲第3号証)
(イ)は日本国特許公報であり、公報発行日:平成27年1月14日、国際公開日:平成22年6月10日にかかるものである。同公報は、水中での摩擦抵抗を減じるために船体に沿ってバブルの層を発生させる方法等に関する発明が記載されている。
同公報には、船舶の底面に、船底から水中に空気を導出するための空気孔部(同公報中では「キャビティ(6)」と記載されている)を備えた態様が表されている。具体的には、複数(2つ)の空気孔部が表れた船舶の底面が「図3」に表されており、当該空気孔部は略舟形である。すなわち、略舟形の当該空気孔部は開口部であり、凹み(窪み)である。

(ウ)Stena E-MAXairに関するウェブサイト上の記事(甲第4号証)
(ウ)は、平成22年1月8日に「The Motorship」というインターネット上のウェブサイトで公開された記事(URL=http://www.motorship.com/news101/ships-and-shipyards/stena-e-maxair-probably-the-...28-6-2017)である。同記事においては、船底において略舟形の空気孔部(甲第3号証の2頁目に「air pocket」と記載されている)が表れている。この空気孔部の空気圧はコンプレッサーによって維持される旨の記載もあり、当該部位に空気が供給されるものであると認められる。また、同記事に記載の船は、船底における空気のクッションの上を滑るように航行することで、水と船底との抵抗が低減される旨の記載がある。略舟形の空気孔部は開口であり、また、後端に傾斜面を備えており、凹み(窪み)であると認められる。

ウ 本願にかかる意匠が具体的なものであることについて
前記アのとおり、本願意匠はボートの船底における「空気孔部」を、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。
そして、本願意匠は、意匠に係る物品の説明に、「空気孔部は、船底から水中に空気を送り出すためのものである。」との記載を行っている。そのため、上記の「孔」が持つ意味や、意匠に係る物品の説明の記載及び図面の記載からは、本願意匠の形態としては、少なくとも、空気を送り出すための開口が船底に表れているものである、と理解することができる。
次に、本願意匠の個々の空気孔部は、略隅丸四角形状部の内側に、略舟形状部を表している。この点、前記文献(ア)においては、同様に略隅丸四角形状部の内側に略舟形状部を表しており、この略舟形状部は開口部を形成し、また、凹み(窪み)でもある。また、前記文献(イ)においては船底に略舟形状部を表しており、当該略舟形状部も開口部であり、凹み(窪み)である。さらに、前記文献(ウ)においては、船底の大半を占める形ではあるが、略舟形状部を表しており、この略舟形状部は開口部であり、凹み(窪み)である。これらの公知の情報と、前記の「孔」が持つ意味に基づけば、当業者は、本願意匠においては、略舟形状部が開口部であり、また凹み(窪み)でもあると当然に理解し、導き出すことができるものである。
本願意匠についてみると、本願意匠の創作の主要点であり本質的な特徴点、言い換えれば本願意匠を特徴づける意匠上の構成要素は、多数(12個)の空気孔部を船底に略V字状に配設した点にある。すなわち、12個の空気孔部の配設態様こそが意匠全体の美感を支配する本質的特徴なのであり、本願意匠を観察した際には視覚的に目立ち、需要者の注意を引くものである。一方で、空気孔部の断面形状等の個々の具体的形状は、厳密には、開口部を通して視認され得るものであるが、いわば空気孔部の内部の形状にかかる構成であり、意匠の本質に影響を与えない微細な部分における構成である。尚且つ、本願意匠に係る物品であるボートの通常の使用状態においては、空気孔部の具体的な断面形状は殆ど目にしないところであるため需要者の注意を殆ど惹くものではない。そのため、空気孔部の断面形状等の具体的形状については、意匠の要旨の認定に影響を与えるほどのものではないと言える。

以上のとおり、本願意匠は、当業者の知見に基づけば略舟形状部が開口及び窪み(拒絶理由通知書で不明とされている「孔」に相当)であることは当然に理解し導き出せるものであり、略舟形状部に表れている不等間隔の複数の平行線についても、傾斜面と上壁が交差する部位、及び波偏向部材を表しているものであると、合理的に善解することができるものである。そして、本願意匠の願書及び図面においては、多数(12個)の空気孔部を船底に略V字状に配設したという本願意匠の本質的特徴にかかる構成は開示されているものであり、この本質にかかわらない空気孔部個々の具体的態様の細部について開示が欠けているところがあるとしても意匠の要旨の認定に影響を及ぼす程のものではないため、願書及び図面から、美的創作として出願した具体的な一の意匠の内容を導き出すことができるものである。

2.平成30年4月27日の上申書
(1)本願意匠の内容について
本願意匠は、船底部に形成した12個の空気孔部を、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とするものである。
個々の空気孔部は、願書に添付した図面に表れているとおり、外側の略矩形状部と、その内側に略くさび形部(略舟形状部)が表れ、当該略くさび形部の内側には7つの区域が表れている。
そして、当該7つの区域それぞれが孔となっており、これらの孔から空気が水中に送り出されるものである。

第5 当審の判断
1.本願意匠について
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は、「ボート」であって、工業的技術を利用して同一物を反復して多量に生産し得るものである。

(2)本願部分の部分意匠としての用途及び機能
本願部分の用途及び機能は、ボートの船底から水中に空気を送り出すための12個の空気孔部であって、請求人の主張によれば、船底と水との摩擦抵抗を低減させて燃料消費量を削減することのできるものである。

(3)本願部分の部分意匠としての位置、大きさ及び範囲
本願部分の位置、大きさ及び範囲は、平底型のボート船底の船首側約1/3の範囲に、左右6つずつの空気孔部を、船側部に広がりながら船尾に向かって不規則な間隔で、全体の配置態様が略横V字状になるように配設したものである。

(4)本願部分の形態
本願部分の形態は、願書及び添付図面の記際によれば、船首側に左右2つ並設した空気孔部からそれぞれ船尾側斜め後方に向かって、6つの空気孔部を僅かな間隔を空けつつ、船尾に向かうほどその間隔が漸次広がるように略横V字状に配設したものであって、各空気孔部の形態は、外形を正面視横長長方形枠状とし、その中央部分に略楔状で7つの区域に分けられた空気孔が表れたものであると認められる。

2.本願内容が工業上利用することができる意匠か否かについて
意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠とは、まず、意匠法第2条第1項において定義されている意匠、すなわち、物品の形態であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであり、願書及び添付図面において、権利客体の内容である意匠の形態が、具体的な一の意匠として表されていなければならず、部分意匠の場合には、本願部分の形態に加え、物品全体における本願部分の占める位置、大きさ及び範囲が認定できるように、物品全体の形態も破線等によって記載されていなければならない。
さらに、本願意匠の意匠に係る物品は、工業的技術を利用して同一物を反復して多量に生産し得るものでなければならない。

以上を踏まえ、本願の内容が、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当するか否かについて、以下検討する。
まず、本願意匠の意匠に係る物品については、市場で流通する動産である「ボート」であり、本願部分についても、肉眼によって認識することができる大きさの固体であって、これらは視覚を通じて美感を起こさせるものであるから、本願意匠は、意匠法第2条第1項において定義されている意匠に該当するものといえる。
また、本願部分の形態については、本願意匠の属する分野における通常の知識に基づいて総合的に判断した場合に、上記1.(4)に記載のとおりに合理的に善解し得るものであって、断面図がなく空気孔部の内部形状が不明であるとしても、それをもって本願意匠が具体的でないということはできない。
そして、物品全体における本願部分の占める位置、大きさ及び範囲についても、上記1.(3)に記載のとおり願書及び添付図面に認定可能に記載されているものといえる。
さらに、本願意匠の意匠に係る物品は、工業的技術を利用して同一物を反復して多量に生産し得る「ボート」であるから、本願意匠は、工業上利用することができるものであることは明らかである。

以上の理由により、部分意匠として意匠登録出願された本願意匠は、意匠法第2条第1項において定義されている意匠を構成し、具体的な一の意匠の内容と、物品全体における本願部分の占める位置、大きさ及び範囲が認定できるようにして表したものであり、その本願意匠の意匠に係る物品が、工業上利用することができるものであるから、本願意匠は、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当するものである。

第6 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当し、原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見することができない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審決日 2018-05-25 
出願番号 意願2015-20148(D2015-20148) 
審決分類 D 1 8・ 14- WY (G3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大峰 勝士 
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 宮田 莊平
江塚 尚弘
登録日 2018-06-22 
登録番号 意匠登録第1609013号(D1609013) 
代理人 山口 和弘 
代理人 阿部 寛 
代理人 酒巻 順一郎 
代理人 野間 悠 
代理人 池田 成人 
代理人 野田 雅一 

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