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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 J1
管理番号 1375919 
審判番号 不服2020-17177
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-15 
確定日 2021-06-16 
意匠に係る物品 測量機 
事件の表示 意願2020- 746「測量機」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 事案の概要

1 手続の経緯
本願は,令和2年(2020年)1月17日の意匠登録出願であって,同年5月26日付けの拒絶理由の通知に対し,同年7月3日に意見書が提出されたが,同年9月8日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年12月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,令和3年(2021年)3月26日に面接がなされたものである。

2 本願意匠の願書及び添付図面の記載
本願意匠は,意匠に係る物品を「測量機」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。

3 原査定の拒絶の理由及び引用意匠
原査定の拒絶の理由は,本願意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることができない意匠)に該当する,というものである。
拒絶理由通知において引用された意匠は,日本国特許庁発行の意匠公報(公報発行日:平成14年(2002年)4月15日)に記載された,意匠登録第1138619号(意匠に係る物品,電子経緯儀)の意匠であって,その形態を,同公報に記載されたとおりとしたものである(以下「引用意匠」という。)(別紙第2参照)。

第2 当審の判断

1 本願意匠と引用意匠の対比
(1)意匠に係る物品の対比
本願意匠の意匠に係る物品は,「測量機」であり,引用意匠の意匠に係る物品は,「電子経緯儀」であるが,いずれも基準からの鉛直角と水平角をデジタル表示する一般に電子セオドライトといわれる測量機であるから,本願意匠及び引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は,その用途及び機能が一致するものである。

(2)形態の対比
本願意匠と引用意匠の形態を対比すると,両意匠の形態については,主として,以下のとおりの共通点及び相違点がある。

ア 形態の共通点
(共通点1)両意匠は,全体を,略円筒形状の望遠鏡(以下「スコープ部」という。)を回転可能に取り付けた正面視略U字状の筐体部分(以下「本体部」という。)の左右上端部間に,正面視略倒〔(亀甲括弧)状のキャリングハンドル(以下「ハンドル部」という。)を架設し,本体部の下端部に,三脚取り付け用の台座部分(以下「台座部」という。)を回転可能に軸着した構成としている点で共通する。
(共通点2)両意匠は,本体部の形態を,垂直な略直方体形状の左右側壁部分(以下「側壁部」という。)と,その下端部をつなぐ水平な略直方体形状の連結部分(以下「連結部」という。)からなる正面視略U字状の立体とし,左右側壁部の各外側面部分に,その外側面全体を覆うカバー材の部分(以下「側面カバー部」という。)を配設したものであって,左側壁部の正面部及び背面部の上方部分には,略凸円弧面状の膨出部分を形成し,連結部の正面側及び背面側の各前面部分には,操作設定及びデータ表示用のパネル(以下「操作設定パネル」という。)を取り付けるための側面視略直角台形状の略四角柱状体のパネル取り付け部分(以下「パネル取付部」という。)を形成している点で共通する。
(共通点3)両意匠は,台座部の形態を,その頂点部分を略円弧状に切り欠いた略三角形板状体の薄い底板の上部に,略変形三角形板状体の分厚い整準台を設け,底板と整準台の各頂点部分の間に,略円板状の整準ねじを設けた軸部を回転可能に軸着したものである点で共通する。
(共通点4)両意匠は,背面側パネル取付部の右側面部上方部分から斜め後方に向かって突設した求心望遠鏡の形態を,略円筒形状の求心望遠鏡本体の先端寄りの部分に,求心望遠鏡本体より大径で,外周面に略細長長円状の小突起部を筋状に形成した模様(以下「凸条筋模様」という。)を施した略短円筒形状の合焦ねじを設け,さらにその先端部分に,求心望遠鏡本体と略同径で外周面に凸条筋模様を施した略短円筒形状の接眼レンズを配設したものである点で共通する。
(共通点5)両意匠は,ハンドル部の基台部分及び支柱部分の形態を,側壁部上面部分とほぼ同じ大きさの略長方形板状体の基台部分の上部に,側面視略等脚台形状の枠体からなる支柱部分を,正面視において内側に向かって斜めに立設した形態としたものであり,側壁部上面部分に略等脚台形状の枠体に挟まれた位置に配した略短円筒形状のボルト頭をもつボルトによって取り付けられている点で共通する。

イ 形態の相違点
(相違点1)本願意匠の右側面カバー部の形態が,略長方形板状体を平面視略ハット状に切り欠いて,その正面側及び背面側の中央部分が盛り上がり,縁部分が略凹状湾曲面となるように形成したものであるのに対し,引用意匠の右側面カバー部の形態は,略長方形板状体の周囲を面取りしたものであり,その下方部分には略長方形状の凹部を形成している点で,両意匠は相違する。
(相違点2)本願意匠の左側面カバー部の形態が,その正面部上方部分及び背面部上方部分を左側壁部の膨出部分の形状に合わせて略凸状湾曲面に形成した板状体を平面視略ハット状に切り欠いて,その正面側及び背面側の中央部分が盛り上がり,縁部分が略凹状湾曲面となるように形成したものであって,上下中央部から下側の部分には,バッテリーケースの蓋部を設け,その蓋部の下端部に左側面視倒コの字状の凸条部とスライド式の留め部からなる蓋固定部を配設しているのに対し,引用意匠の左側面カバー部の形態は,その正面部上方部分及び背面部上方部分を左側壁部の膨出部分の形状に合わせて略凸状湾曲面に形成した板状体の周囲を面取りしたものであって,上下中央部から下側の部分には,バッテリーケースの蓋部を設け,側面カバー部の中央部分から蓋部上方部分にかけて,僅かに盛り上がった略長方形板状体の蓋固定部を設け,蓋固定部の矩形枠で囲まれた中央部分には,スライド式の留め部を配設している点で,両意匠は相違する。
(相違点3)本願意匠の右側壁部の正面部略中央部分から前方に向かって突設した高度クランプの形態が,略円柱形状の高度クランプ本体の先端寄りの部分に,高度クランプ本体より大径で外周面に細かな筋模様を施した略短円筒形状の高度微動ねじを設け,さらにその先端部分に,外周面に細かな筋模様を施した略短円筒形状の高度固定ねじを配設したものであるのに対し,引用意匠の右側壁部の正面部略中央部分から前方に向かって突設した高度クランプの形態は,略中間部分に段のある略円柱形状の高度クランプ本体の先端寄りの部分に,高度クランプ本体より大径で外周面に凸条筋模様を形成した略短円筒形状の高度微動ねじを設け,さらにその先端部分に,側面視が略角丸等脚台形状のバタフライ型の高度固定ねじを配設したものである点で,両意匠は相違する。
(相違点4)本願意匠の正面側パネル取付部の右側面部分から右側に向かって突設した水平クランプの形態が,略中間部分に縮径した部分をもつ略円柱形状の水平クランプ本体の先端寄りの部分に,水平クランプ本体より大径で外周面に細かな筋模様を施した略短円筒形状の高度微動ねじを設け,さらにその先端部分に,外周面に細かな筋模様を施した略短円筒形状の水平固定ねじを配設したものであるのに対し,引用意匠の正面側パネル取付部の右側面部分から右側に向かって突設した水平クランプの形態は,略中間部分に段のある略円柱形状の水平クランプ本体の先端寄りの部分に,水平クランプ本体より大径で外周面に凸条筋模様を形成した略短円筒形状の水平微動ねじを設け,さらにその先端部分に,正面視が略角丸等脚台形状のバタフライ型の水平固定ねじを配設したものである点で,両意匠は相違する。
(相違点5)本願意匠の整準ねじの形態が,外周部分を凹凸状に形成した略歯車状の分厚いねじとし,その凸状部分の外周面にのみ細かな筋模様を形成しているのに対し,引用意匠の整準ねじの形態は,略円板状の薄いねじとし,その外周面に細かな筋模様を形成している点で,両意匠は相違する。
(相違点6)本願意匠のスコープ部には望遠鏡合焦リングを設けていないのに対し,引用意匠のスコープ部本体の接眼レンズ側の外周面には,凸条筋模様を形成した望遠鏡合焦リングを配設している点で,両意匠は相違する。
(相違点7)本願意匠の照準器の形態が,スコープ部の上面部中央部分に略楕円形板状体の基台部を設け,その上面部の正面側及び背面側端部2カ所に突起部を形成した形態のオープンサイトであるのに対し,引用意匠の照準器の形態は,スコープ部の上面部分に沿って配設した略細長円筒状の光学式照準器である点で,両意匠は相違する。
(相違点8)本願意匠のスコープ部を側壁部に回転可能に取り付けているスコープ支持部分の形態が,スコープ部より小径な略円柱形状であるのに対し,引用意匠のスコープ支持部の形態は,側壁側の部分をスコープ部と略同径な略短円筒形状とし,スコープ側の部分をスコープ部に向かって窄まる略円錐状である点で,両意匠は相違する。
(相違点9)本願意匠のハンドル部の水平バーの部分の形態が,ハンドル部の支柱部分と別部材で形成された断面視略長円形状でその正面部及び背面部に略細長長方形状の凹溝部を形成したものであるのに対し,引用意匠のハンドル部の水平バーの部分の形態は,ハンドル部の基台部分及び支柱部分と一体に形成された断面視略長方形状でその上面右端部分に,その内部に略長方形状に表れる部分を配した略長方形状の区画を形成したものである点で,両意匠は相違する。
(相違点10)本願意匠のスコープ部の対物レンズの部分の形態が,対物レンズの周囲に,スコープ部よりやや大径で略短円筒形状のカバーを取り付けたものであるのに対し,引用意匠のスコープ部の対物レンズの部分の形態は,対物レンズの周囲に,スコープ部よりやや小径で略短円筒形状のカバーを取り付けたものである点で,両意匠は相違する。
(相違点11)本願意匠のスコープ部の接眼レンズの部分の形態が,フランジのある略短円筒形状の接眼レンズを配設しているのに対し,引用意匠のスコープ部の接眼レンズの部分の形態は,外周面に凸条筋模様を形成した略短円筒形状の接眼レンズを配設している点で,両意匠は相違する。
(相違点12)本願意匠の操作設定パネルの形態及び配置態様が,正面側のパネル取付部に,表示部の右側に略長円形状のボタンを縦2行,横3列に配設した略長方形板状体の操作設定パネルを取り付け,背面側のパネル取付部に,背面視略エの字状の板状体を,四隅をねじ留めして配設しているのに対し,引用意匠の操作設定パネルの形態及び配置態様は,正面側及び背面側のパネル取付部に,表示部の右側に略長円形状のボタンを縦に4つ配設し,右端部上方部分に略長方形状の区画を形成し,正面側のパネルにのみ区画内にさらに小長方形状の部分が表れた操作設定パネルを取り付けている点で,両意匠は相違する。

2 両意匠の類否判断
(1)意匠に係る物品についての判断
本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は,その用途及び機能が一致するから,同一である。

(2)形態の類否についての判断
本願意匠の意匠に係る物品である一般に電子セオドライトといわれる「測量機」は,その使用方法が確立されたものであって,全体の構成態様や各部位の基本的な形態が従来のものと比べて大きく異なることのないように設計されているものであるから,この物品の購入者である需要者にとってみれば,上記の全体の構成態様や各部位の基本的な形態を特に注目して観察するものではない。
一方,この物品の需要者が,使用時において機器の操作に係る部分である調整用の微動ねじ等の具体的な形態は,需要者が特に注視する部分であるといえるから,本願意匠と引用意匠の類否判断に際しては,需要者は,機器の操作に係る部分の具体的な形態について強い関心を持って観察するとの前提に基づいて,両意匠の共通点及び相違点が類否判断に及ぼす影響について評価することとする。

ア 共通点の評価
(共通点1)は全体の形態に係るものであるが,両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点にすぎないものであるから,この(共通点1)が意匠全体の美感に与える影響は小さい。
(共通点2)の本体部の形態,(共通点3)の台座部の形態,(共通点4)の求心望遠鏡の形態,及び(共通点5)のハンドル部の基台部分及び支柱部分の形態は,この種物品において本願意匠出願前からごく普通にみられる形態であって,両意匠のみに認められる格別の特徴であるとはいえないから,これらの(共通点2)ないし(共通点5)が意匠全体の美感に与える影響は小さい。

イ 相違点の評価
(相違点1)の右側面カバー部の形態,及び(相違点2)の左側面カバーの形態は,使用時に目につく本体部の側面部分の形態に係る相違であって,本願意匠が,正面側及び背面側に凹状湾曲面を形成した薄くてスタイリッシュな形態のものであるとの印象を与えるのに対し,引用意匠は,角部を面取りした略長方形板状体からなる厚みのある無骨な形態のものであるとの印象を与えるから,需要者に別異のものとの印象を与えるこの(相違点1)及び(相違点2)が意匠全体の美感に与える影響は大きい。
(相違点3)の高度クランプの形態,(相違点4)の水平クランプの形態,及び(相違点5)の整準ねじの形態は,使用時において機器の操作に係る部分の形態であって,需要者が特に注視する部分であるといえるから,これらの形態が既に存在しているものであるとしても,これらの(相違点3)ないし(相違点5)が意匠全体の美感に与える影響は一定程度あるといえる。
(相違点6)ないし(相違点12)の各部の形態の相違については,この種物品分野において両意匠の形態ともごく普通に見られるものであるから,これらの(相違点6)ないし(相違点12)が意匠全体の美感に与える影響は小さい。

ウ 形態の類否判断
両意匠の形態における各共通点及び相違点についての個別評価に基づき,意匠全体として共通点及び相違点を総合的に観察した場合,両意匠は,使用時に目につく部分である左右側面カバー部の形態や機器の操作に係る部分である高度クランプ,水平クランプ及び台座部のねじの具体的な形態が異なるものであるから,本願意匠の出願前に公然知られた全体の構成態様や本体部,台座部,求心望遠鏡,及びハンドル部の基台部分及び支柱部分の形態が共通することを考慮しても,意匠全体として観察した際に需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は,その形態が類似しないものである。

3 小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が同一であるが,その形態において類似しないものであるから,本願意匠と引用意匠が類似するということはできない。

第3 むすび

上記のとおりであって,本願意匠は,引用意匠に類似せず,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないものである。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審決日 2021-05-26 
出願番号 意願2020-746(D2020-746) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (J1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石坂 陽子 
特許庁審判長 木村 恭子
特許庁審判官 江塚 尚弘
渡邉 久美
登録日 2021-07-16 
登録番号 意匠登録第1691841号(D1691841) 
代理人 芳野 理之 
代理人 野口 和孝 
代理人 新井 全 

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