• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 B9
管理番号 1387562 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-02-25 
確定日 2022-07-13 
意匠に係る物品 スライドファスナー用スライダー 
事件の表示 意願2021− 8947「スライドファスナー用スライダー」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠
本願は、2021年(令和3年)4月27日に出願された意匠登録出願であり、その意匠(以下、「本願意匠」という。)は、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「スライドファスナー用スライダー」とし、その形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合」を形状等という。)を、願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は、本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)としたものであって、拒絶の理由に引用した意匠(以下、「引用意匠」という。)は、本願出願前、日本国特許庁発行の意匠公報(意匠公報発行日:2017年(平成29年)11月13日)に記載された意匠登録第1590837号(意匠に係る物品、チャック開閉用スライダー)の意匠(以下、「引用意匠」という。)であって、その形状等は、同公報の図面に記載されたとおりのものである。(別紙第2参照)

第3 請求人の主な主張
これに対し、請求人は、審判を請求し、要旨以下のとおり主張した。
1 本願意匠が登録されるべき理由
(1)拒絶査定の理由について
原査定では、意見書で述べた両意匠の具体的構成態様の差異を軽視している一方で、両意匠全体の概括的な形態に係る共通性を重視し、本願意匠は引用意匠に類似するという認定を導き、両意匠は全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるとしている。

(2)本願意匠と引用意匠の対比
本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は、それぞれ「スライドファスナー用スライダー」と「チャック開閉用スライダー」であって、用途及び機能が共通し、両意匠に係る物品は互いに類似する。
(2−1)共通点について
(A)基本的構成態様
両意匠は、平面視が上下対称に湾曲凹陥し、正面視が横長長方形とする左右の側壁と、この側壁同士を上端中程で連結する板状の上壁と、側壁の下端付近から内側に突出する4つの肉厚な爪部とによって、スライダー全体が略角筒状に構成された態様が共通する。
(B)チャック開閉機構を担う凹凸態様
共通点(A)を言い換えると、上方斜視や平面視において両意匠は「略H字状」を呈しており、共通している。

(2−2)差異点について
一方、両意匠は、その具体的態様において以下の点が相違する。
(ア)上壁上面の幾何模様の有無
本願意匠は上壁上面に模様を有さないのに対し、引用意匠は上壁上面に凸条の幾何模様を有している。

(イ)側壁外面の滑り止め用突起の態様
本願意匠は、側壁外面に断面略半円柱状の滑り止め用突起が両面に、側壁外面の高さの7割程度の高さで、2本ずつの束として3セット(6本)設けられているのに対し、引用意匠は、側壁外面に側壁外面の高さと一致した断面略三角柱状の滑り止め用突起が片面9本設けられている。

(ウ)側壁内面の態様及び側壁の厚さ
本願意匠の側壁内面は、側壁外面と平行になるように湾曲し、端から端までを同じ厚さとしているのに対し、引用意匠の側壁内面は湾曲しておらず、側壁の厚みが中央に向かって薄くなり、端の厚みの7割程度となっている。

(エ)上壁下面の案内突起の態様
底面視で、本願意匠は略三角形状の案内突起を有し、平面視でその突起の先端は視認できないが、引用意匠の案内突起は略四角形状で、平面視でその案内突起が視認できる。

(オ)爪部の態様
平面視で本願意匠の爪部はそれぞれ4つとも略正方形状であるのに対し、引用意匠の爪部は4つとも斜め面取り部を有し、略五角形状である。

(3)本願意匠と引用意匠の類否判断
(3−1)共通点の評価
両意匠の共通点は、両意匠の形態を概括的に捉えた基本的構成態様に係るものであり、共通点(A)については、例えば、引用意匠の出願日前に公開された公知意匠1乃至6にも見られる態様である。よって、共通点(A)は、スライダーの意匠の分野においてありふれた態様であり、類否判断に及ぼす影響は小さいと考える。
また、共通点(B)の態様は、底面側に配置され、例えば公知意匠3乃至6に示されるような通常の使用時には視認しにくい部分の特徴であって、共通点(B)が類否判断に及ぼす影響は小さいが、一定程度あると考える。
需要者の注意は、製品の見た目の印象に関わる具体的構成態様にも向けられるものと考えられ、共通点(A)及び共通点(B)のみをもって、本願意匠と引用意匠の類否を決することはできないと考える。

(3−2)差異点の評価
(ア)上壁上面の幾何模様の有無
引用意匠の幾何模様は、見やすい上壁上面に設けられ、その形状も多角形を組み合わせた幾何模様で、手で触った際に該模様の出っ張りを確認できることから、需要者の注意を惹く態様である。この幾何学模様の有無は、本願意匠は需要者に対しシンプルな印象を与えるのに対し、引用意匠は複雑な印象を与え、視覚的印象も全く異なるため、差異点(ア)は類否判断に極めて大きな影響を及ぼす。

(イ)側壁外面の滑り止め用突起の態様
本願意匠の滑り止め用突起が2本ずつ束になり複数セット設けられている態様は、公知意匠には見られず、本願意匠独自の特徴といえる一方で、引用意匠の略三角柱状の突起の態様は、公知意匠7及び公知意匠8にも見られるありふれた態様である。本願意匠は、丸みがあり柔らかく、統一感のある印象を与える一方、引用意匠の突起は角があり硬く、不規則な印象を与えると考えられ、手に取って触れた際の肌触りが異なることから、差異点(イ)は類否判断に大きな影響を及ぼすものである。

(ウ)側壁内面の態様及び側壁の厚さ
側壁内面は、需要者は使用時等に側壁の態様及び側壁の厚さにも注目すると考えられ、本願意匠の側壁内面は、側壁外面と平行になるように湾曲し、端から端まで同じ厚さであって、両端部が徐々に薄くなっているため、統一感がありスマートな印象を与えるといえる。一方、引用意匠の側壁内面は、側壁外面とは平行ではなく側壁の厚さも右端と左端で異なり、側壁の両端の態様も本願意匠と異なっており、不規則で分厚い印象を与えると考える。よって、両意匠の視覚的印象は異なり、差異点(ウ)は類否判断に大きな影響を及ぼすものである。

(エ)上壁下面の案内突起の態様
本願意匠の案内突起は平面視で見えないが、引用意匠の案内突起は平面視において確認でき、平面視及び斜視(特に使用時)において該突起が視認できるか否かの差異により、本願意匠はシンプルな印象を与えるのに対し、引用意匠は複雑な印象を与えるといえ、両意匠の差異点(エ)は一つのアクセントとして、類否判断に一定程度影響を及ぼすものと考える。

(オ)爪部の態様
爪部の斜め面取り部の有無の差異は類否判断に及ぼす影響は小さいと考えられるが、差異点(オ)は、差異点(ア)乃至(エ)と相まって、本願意匠についてはシンプルで統一感のある印象を、引用意匠については複雑で不規則な印象を強調する働きがあり、差異点(オ)は、類否判断に一定程度影響を及ぼすものと考える。

(4)小括
以上の通り、両意匠の意匠に係る物品は類似し、その基本的構成態様において共通するものの、具体的構成態様における種々の差異により、本願意匠からは全体としてシンプル・丸く柔らかい・スマート・統一感のある印象が看取されるのに対し、引用意匠からは全体として複雑・角があり硬い・分厚い・不規則な印象があり、需要者に対し全く異なる視覚的印象を与え、本願意匠は引用意匠とは類似しないものと考える。

2 結び
このように、本願意匠は引用意匠に類似する意匠ではなく、意匠法第3条第1項第3号に該当しない。

第4 当審の判断
1 両意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は、「スライドファスナー用スライダー」であり、引用意匠の意匠に係る物品は、「チャック開閉用スライダー」である。

(2)両意匠の形状等
両意匠の形状等については、主として、以下の通りの共通点及び差異点がある。なお、本願意匠の向きに合わせて、引用意匠の向きを認定する。
ア 共通点
両意匠は、基本的構成態様として、全体を、正面視で横長略長方形の正面側壁と背面視で正面側壁よりやや高さの高い横長略長方形の背面側壁を、平面視で横向きの略横倒H字になるようにつないで胴体を形成し、背面視でスライダー内部側に尖らせた案内突起と面ファスナー閉じるための略半円柱形状の2つの突起を上下の内壁面右側に設けた形状が共通する。
また、具体的構成体用として、
(共通点ア)正面と背面の側壁を胴体内側にそれぞれ湾曲させ、縦に複数の凸条を設けている点
(共通点イ)底面視でスライダー内部にレールファスナーの開閉を案内する略鏃形状の柱状体を有している点
(共通点ウ)側面視でスライダー本体左右それぞれ壁面内側にレールをガイドする爪を4つ配している点
(共通点エ)正面側と背面側の側壁の高さを一方の側壁を高くしている点
において共通する。

イ 差異点
両意匠は、具体的構成態様として、
(差異点ア)本願意匠の正面及び背面の側壁は、いずれも平面視で薄い肉厚で湾曲し、側面視で左右の開口部が同じ幅となるように側壁の厚みを同じにしているのに対し、引用意匠の正面及び背面の側壁は、いずれも平面視で両側面側に向かって徐々に肉厚なものとし、側面視で左右の開口部が異なる幅となるように側壁の厚みを変えている点が異なっている。
(差異点イ)本願意匠は、正面と背面の側壁の表面を右から左になだらかな平面視で円弧の曲面としているのに対し、引用意匠は側壁の左右に平坦部を設けその平坦部をつなぐように側壁中央部分のみを円弧の曲面としている点が異なっている。
(差異点ウ)本願意匠の正面及び背面の側壁には、それぞれ6本の断面略半球状の凸条を縦に2本狭い間隔で3組設け、その凸条は壁面上端と下端の面が平らになるよう壁面縦中央寄りに配置しているのに対し、引用意匠の正面及び背面の側壁には、それぞれ9本の高さの異なる断面略三角形状の凸条を壁面横中央寄りに等間隔で設け、その凸条は壁面上端と下端の全幅に配置している点が異なっている。
(差異点エ)本願意匠のそれぞれの壁面内側下部に設けられた爪部は、いずれも下面が大きく面取りされ、4つの爪部はほぼ同じ大きさで同じ形状としているのに対し、引用意匠の爪部はいずれも下面は小さな面取りであって、左側面側と右側面側で大きさも異なっている点が相違する。
(差異点オ)本願意匠のスライダー本体内部に設けられたレールを開けるための柱状体の形状を略三角柱状とし、平面視では見えない位置に配置しているのに対し、引用意匠の柱状体は、略変形菱形柱状とし、平面視で突起が見えるように配置している点が異なる。
(差異点カ)本願意匠には、胴体上面を平坦としているのに対し、引用意匠の胴体上面には幾何学模様が付されている点が相違する。

2 両意匠の類否判断
以上の共通点及び差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。

(1)意匠に係る物品についての評価
両意匠の意匠に係る物品は、表記は異なるが、共通するものである。しかし、意匠に係る物品が共通する点だけでは、両意匠の類否判断を決定づけるとまではいえない。

(2)両意匠の形状等の共通点の評価
両意匠は、基本的構成態様において、全体を、正面視で横長略長方形の正面側壁と背面視で正面側壁よりやや高さの高い横長略長方形の背面側壁を、平面視で横向きの略横倒H字になるようにつないで胴体を形成し、底面側に2本のレールとテープ溝を設けた形状とする共通点は、この種のファスナー用スライダーの分野において,本願出願前から見受けられるありふれた態様といえるものであり、レールファスナーを製造、販売する者や使用者である需用者にとって、格別目立つ態様とはいえず、この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、一定程度に留まるものである。
また、具体的構成態様において、スライダーの側壁を湾曲させて複数の凸条を設けた共通点ア、スライダーの内部に柱を設けた共通点イ、スライダーに爪を設けた共通点ウ、スライダー左右の側壁の高さを変えている共通点エについても、この種のファスナー用スライダーの分野において、いずれも従来から普通に見られる態様であって、両意匠にのみ見られる特徴とはいえず、意匠全体として観察した場合には、微細な部分の態様といえるものであるから、これら点が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(3)両意匠の形状等の差異点の評価
これに対して、スライダー側壁の肉厚が全て同じか左右で変化させているか、相まって開口部幅が同じか否かの差異点ア及びスライダー側壁の湾曲態様の差異点イ、スライダー側壁の凸条の態様の差異点ウは、需用者が、レールファスナーを開閉させる際のつまみやすさやスライドのスムーズさといった使用時に目につきやすい部分であり、需要者に、両意匠の印象を異なるものとすることから、類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
次に、スライダー内側下部に設けられた爪部の面取りの大きさや大きさの差異点エ及びスライダー内部の柱部の態様の差異点オは、需用者がレールファスナーに用いるスライダーを選ぶに当たり、ファスナー本体への傷つきやすさや開閉のしやすさで着目する部分であり、見る者に異ならしめる印象をもたらし、需要者に与える印象は全く異なるものであるから、類否判断に大きく影響を与えるものである。
また、スライダー本体正面の模様の有無の差異点カは、ファスナー用スライダーに様々な模様を付すことはありふれているものの、需用者が一定程度関心を払う部位であるから,両意匠の類否判断に一定程度評価されるものである。

(4)小括
以上の通り、両意匠は、意匠に係る物品が共通するものであるが、両意匠の形状等において、相違点が共通点を凌駕し、それらが意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから、両意匠は類似しないものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、原査定の拒絶の理由によっては、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するものとはいえないので、本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
別掲



審決日 2022-06-28 
出願番号 2021008947 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (B9)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 正田 毅
山田 繁和
登録日 2022-07-26 
登録番号 1721506 
代理人 安部 聡 
代理人 田▲崎▼ 聡 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ